まほろばは北方海奥地に入ってゆく、私にとって久々の、この艦で来るのは初めての場所に。
徐々に流氷が多くなり航行には細心の注意が必要となってくる。
『前方流氷群、接近してくる。』
艦首に立つ見張員の報告が入る。
「面舵30。」
「面舵30。」
私の指示に復唱が帰り、まほろばが進路を変えるとその左舷側を流氷群が通り過ぎる。
今私達が向かっているのはシャルが居た施設のある島だ。
シャルの資料を回収すると共に無人潜航艇の試験を行う予定だった。
「艦長、島に到着します。」
航海長の娘が報告してくる、私は立ち上がると窓に寄り双眼鏡を構える。
所々流氷群に囲まれた島が見えてくる、私は双眼鏡を下ろし指示する。
「機関停止、全艦警戒配置・・・シャルロット・デュノアに艦橋へ来る様に伝えて下さい。」
「機関停止。」
「全艦警戒配置、全艦警戒配置。」
乗員の娘達が復唱し、艦内にアラームが鳴り響く。
その中、シャルが艦橋に入って来る。
「シャル、これから連絡艇を下ろしますので向かって下さい。」
「分かったよ簪。」
シャルが頷く、彼女は既に艦内服にジャケットを着込み準備完了の様だ。
「時間は有りますが出来るだけ迅速にお願いします。」
余計な事とは思うがシャルに伝えておく。
「資料を持ち出すだけだからね、そんなには掛からないよ、じゃ行ってきます。」
そう言ってシャルは艦橋を出てゆく、それを見送り私は指示を出す。
「連絡艇を下ろして下さい、あと無人潜航艇の発進準備もお願いします。」
「連絡艇を下ろします、乗員は乗船準備急いで下さい。」
「無人潜航艇の発進準備、要員は配置に付いて下さい。」
私の指示で艦内は慌しくなる。
艦中央に装備されている連絡艇が海面に下ろされて行き、後部甲板に有る無人潜航艇の周りで発進準備の作業が開始される。
やがて連絡艇がシャルを乗せ島に向かい、無人潜航艇もクレーンで海中に下ろされて発進して行く。
「見張り員は警戒を厳重にお願いします、電探及び水測も。」
「各見張り員は警戒を厳にして下さい。」
『こちら電探室了解、現在艦の周りには反応無し。』
『水測了解しました、周囲に感無し。」
帰ってくる報告を聞きながら私は再び双眼鏡を構える。
『艦長!電探に反応あり、状況から見て戦闘中の模様です。』
資料の回収作業と無人潜航艇の試験が開始されてから1時間たった時、突然電探室から報告が入る。
「位置は?あと状況を報告して下さい。」
私は艦内通話器の受話器を取ると電探室を呼び出し尋ねる。
『左舷、距離9千、反応が断続的ですのでシーサーペントと思われる目標と高速な船が、激しい洋上運動を行なっています。』
明らかにその船いや艦だろうが、シーサーペントと戦っているという事になる。
「分かりました引き続き監視をお願いします。」
『了解です艦長。』
私は次に無線室に通話先を切り替えて呼び出す。
「無線室、何か通信が入ってませんか?」
『現在のところありません。』
「念の為緊急周波数で呼び掛けてみて下さい。」
『分かりました。』
受話器を戻すと控えていた相川副長に指示する。
「試験を中断します無人潜航艇の収容を、あと上陸班を呼び戻して下さい。」
「分かりました、試験を中断する様に試験班に指示を、上陸した連中に戻る様に連絡して。」
相川副長が私の指示を受け、各部署に伝えてくれる。
『試験班、無人潜航艇の収容開始します、終了まで20分です。』
『上陸班より返答、これよりまほろばへ帰艦するとの事です。』
各部署から返答が帰ってくる。
「収容と帰艦が完了次第、まほろばは現場に向かいます、全艦戦闘配置に付いて下さい。」
私の指示で乗員の娘達が動き始める。
やがて連絡艇と無人潜航艇の収容を終えたまほろばは、戦闘の行なわれている海域へ向かう。
「艦長、右舷前方6千に発砲炎を確認。」
前方見張り員の娘が報告してくる。
「戦闘中の艦艇は確認出来ますか?」
私の問いに間をいれず返答が帰ってくる。
「確認しました、見慣れない艦ですね・・・ってこれって?」
「どうかしましたか?」
見張り員の戸惑った声に私が聞きき返す。
「どうやらシュヴァルツェア・レーゲンみたいです。」
シュヴァルツェア・レーゲン?、ラウラ・ボーデヴィッヒ艦長指揮の駆逐艦だ。
「シュヴァルツェア・レーゲンがこんな所で戦闘中ですか?」
相川副長が驚いた表情を浮かべ聞いてくるが、私にも分からない。
これはギルド長から聞いた話だけど、ラウラ・ボーデヴィッヒ艦長は南方海のギルドから、こちらのギルドとの対シーサーペント戦の戦術情報交換で来たらしい。
まあ、こちらを腑抜け呼ばわりしてたくらいだから、ボーデヴィッヒ艦長は不満だった様だけど。
それでも来た理由はやはり織斑 千冬ギルド長が居たからだと思うけど。
「理由は今は後回しにして置きましょう、シュヴァルツェア・レーゲンの戦闘状況はどうですか?」
下手に戦闘に介入したら双方危険に晒される可能性がある。
「速度が出てません、あんなに遅い訳無いと思いますが・・・進路も不安定です。」
前方見張り員の娘が、私の問いに返答する。
艦長席を立った私は艦橋の窓により、双眼鏡を構えて前方の戦闘状況を確認する。
確かに速度が遅いし、艦の進路もふらついている様に見える。
そして私はシュヴァルツェア・レーゲンの艦尾付近に損傷らしきものを見つける。
「艦尾に損傷を受けている様ですね、それで速度が出ず、舵の利きが悪いのかもしれません。」
状況としては最悪と言える、私は艦内通話器の受話器を取り無線室を呼び出す。
「シュヴァルツェア・レーゲンに緊急周波数で、沈みたくなければボーデヴィッヒ艦長を通信に出すように言って下さい。」
『・・・了解しました艦長。』
普段と違う私の強い言葉に無線員の娘は一瞬戸惑った様だったが指示に従ってくれた。
「ボーデヴィッヒ艦長、通信に出てきますかね?」
相川副長が気掛かりそうに聞いてくる。
「それは分かりませんね、もしボーデヴィッヒ艦長がプライドを優先するなら・・・」
そうなれば私に出来る事は無いだろう、と思っていると艦内通話器が呼び出し音を鳴らす。
『艦長、ボーデヴィッヒ艦長から通信です。』
受話器に耳を当てた私に無線員の娘から連絡がくる。
「繋いで下さい。」
『了解です。』
雑音が一瞬入った後、受話器からボーデヴィッヒ艦長の声が聞こえてくる。
『何の用だ更識艦長、今貴様と話している暇は無い。』
「では手短に言います、これからシーサーペントに砲撃します、奴の注意が逸れたら距離を取り、こちらとタイミングを合わせて魚雷攻撃をして下さい。」
『・・・それは命令か?』
「違います、実行するかはそちら次第です、ただ貴女には艦長として乗員と艦に対する責任がある筈です。」
『・・・・・・』
沈黙するボーデヴィッヒ艦長の背後からは切羽詰った乗員達の声が聞こえてくる。
あとは彼女次第だ、プライドか艦長としての責務か、どちらを取るか?
『分かった、タイミングはそちらに任せるぞ更識艦長。』
思った通りボーデヴィッヒ艦長は賢明な様だった、私は内心安堵の溜息を付く。
「では1分後に射撃を開始します。」
『了解した。』
ボーデヴィッヒ艦長の返事を聞き受話器を戻し周りを見る。
「全主砲射撃準備完了です艦長。」
「進路面舵20、射撃位置に付きます。」
「信号弾準備よし。」
砲術長と航海長、相川副長が報告してくる、私達の会話を聞いて準備を整えてくれる。
本当に皆頼りなる、頼もしい乗員を得られて私は幸せなのだと思う。
「艦長、射撃位置に付きました。」
「あと30秒。」
航海長の声に相川副長がカウントダウンが重なる。
「10秒前・・・5、4、3、2,1、今!」
「砲撃始め!」
まほろばの全主砲射が撃準を開始、シーサーペントの周りに着弾する。
「シーサーペント、こちらに進路を変えます。」
見張り員の報告通り、咆哮を上げシーサーペントがこちらに向かってこようとする。
「シュヴァルツェア・レーゲン、離れて行きます。」
「魚雷攻撃可能距離まで離れたら教えて下さい。」
「了解です艦長。」
さあこれからが本番になる、とはいえ不安は無い、こちらもボーデヴィッヒ艦長の方にも。
「シュヴァルツェア・レーゲン魚雷攻撃可能距離に到達。」
「第一魚雷発射管、発射準備よし、距離及び方位角問題無し。」
見張り員と水雷長の報告に私は頷き指示を発する。
「信号弾を上げて下さい、魚雷発射用意!」
「信号弾を上げて!」
相川副長が指示すると信号弾が打ち上げれれて艦上空で発光する。
「魚雷発射して下さい。」
「魚雷発射!」
私の指示に水雷長が復唱すると、魚雷が発射される。
「シュヴァルツェア・レーゲン魚雷を発射。」
見張り員の声に私は速やかに離れる様に指示をする。
「取り舵一杯、全速前進。」
「取り舵一杯。」
「全速前進。」
操舵員と機関員の復唱が重なるとまほろばは急速に進路を変える。
「魚雷到達今!」
水雷長がストップウオッチを見ながら報告すると同時に激しい爆発音が2回続き、咆哮が響く。
「状況を報告して下さい。」
爆発音と咆哮を聞きながら私は報告を求める。
「こちらとシュヴァルツェア・レーゲン双方の魚雷命中を確認、シーサーペント沈んでいきます。」
艦橋内に安堵が広がる。
「旨くいきましたね艦長。」
相川副長が微笑みながら声を掛けてくると私も笑って答える。
「ええ皆さんご苦労様、シュヴァルツェア・レーゲンの方はどうですか?」
「あちらも無事に航行中です艦長。」
問いに見張り員の娘が、こちらも微笑みながら答える。
「それでは帰港しましょう、監視と試験は一旦中断します。」
私達はシュヴァルツェア・レーゲンと共に港への進路を取った。
数時間後、まほろばとシュヴァルツェア・レーゲンは帰港し、それぞれの桟橋に接舷する。
帰港後の手続きを指示していた時、呼び出し音の鳴った艦内通話器の受話器を取った相川副長が、私を見て報告してくる。
「艦長、下にその・・・ボーデヴィッヒ艦長が部下の人間と来ているそうですが?」
「ボーデヴィッヒ艦長が?」
後で様子を見に行こうと思っていたのだが、向こうから来たらしい。
「分かりました、副長後の指示をお願いします。」
「了解です艦長。」
相川副長が頷いて返答するのを見て私は艦橋を出てボーデヴィッヒ艦長の元に向かう。
そして艦に掛けられたタラップを降りて行くと、先に対応していてくれた乗員の娘が手を振っている。
「艦長、こちらです。」
呼んでいる乗員の前に立つ2人、ボーデヴィッヒ艦長ともう1人はもしかして?
「更識艦長、わざわざ来て貰って、その申し訳ない・・・」
言いたい事がある様だが旨く話せないみたいだ、最初に会った時とはまるで違う感じだ。
「艦長・・・仕方ありませんね、ああ、私は副艦長をしていますクラリッサ・ハルフォーフと申します、以後よろしくお願いします更識艦長。」
やはりそうだった、アニメでラウラ・ボーデヴィッヒの所属する部隊の副隊長を勤めていた娘だ。
ちなみにラウラ・ボーデヴィッヒはIS学園の制服でなく、シュヴァルツェ・ハーゼの制服姿だ、もちろんクラリッサ・ハルフォーフもだけど。
「うちの艦長は恥かしがっていますが、更識艦長に礼を言いたくて参ったのです、1人では行きずらいと言うので私が同伴して。」
「ク、クラリッサお前!?」
真っ赤になりハルフォーフ副艦長を睨みつけるボーデヴィッヒ艦長、もっとも副長の方は何処吹く風といった感じだけど。
「と、兎に角だ、私は貴様に恩を受けた、その礼はさせてもらうぞ更識艦長。」
礼を言うわりには少々偉そうだが、そこは彼女らしい、結構こちらのラウラ・ボーデヴィッヒは義理堅い性格みたいだ。
「いえ礼には及びませんよ、ボーデヴィッヒ艦長も私も自分のすべきことをしただけじゃないですか。」
「それでもだ更識艦長、私はもう少しで乗員と艦を失うところだった。」
私の言葉に唇を噛み俯くボーデヴィッヒ艦長。
「貴様が思い出させてくれたんだからな。」
「しかしそれはボーデヴィッヒ艦長が・・・」
会話がループになりそうなところにハルフォーフ副艦長が言葉を挟む。
「更識艦長、うちの艦長の礼を受け入れて上げて下さい、でないと引っ込みが付かないですから。」
「クラリッサ、お前はいちいち余計な事を・・・」
ボーデヴィッヒ艦長の苦味切った表情を意に返さずにハルフォーフ副艦長が言ってくる。
「分かりましたボーデヴィッヒ艦長、礼は確かに受け取りました。」
私の言葉にようやく安堵の表情を浮かべるが、次の瞬間顔を赤くし俯きながら言葉を続ける。
「それでだ更識艦長、貴様にもう一つ言いたい事がある。」
それってまさか嫁宣言?いやあれはアニメでの織斑 一夏に対してだからありえないだろうけど。
「き、貴様は今から私の戦友だ、異論は認めん。」
そっちだったらしい、友人と言わず戦友とは彼女らしい、横でハルフォーフ副艦長も苦笑いを浮べている。
「ええ構わないですよボーデヴィッヒ艦長。」
「ラウラでいい、艦内では乗員の皆もそう呼ばせているからな。」
ハルフォーフ副艦長を見ると頷いて肯定してくれる。
「それではラウラ艦長と、あと私の事も簪と呼んでも構いませんから。」
「簪艦長だな、分かった・・・それでは失礼する。」
自分の今の顔を見られたくないのか、足早に帰っていくラウラ艦長。
「まったくうちの艦長殿は・・・それでは私も失礼します。」
先に行ってしまった自分の艦長を微笑ましく見つめながらハルフォーフ副艦長も帰って行く。
そんな2人を見送りながら私は微笑むのだった、一緒にいたこちらの乗員の娘も。
16:45
試験航海中断
その後、戦術情報交換を終えたラウラ艦長は南方海へ帰っていった。
「世話になった。」と言うそっけないメッセージを残して。
「結局最後まで腑抜け呼ばわりは変えなかったボーデヴィッヒ艦長だが、天使の事は誉めていたぞ。」
織斑ギルド長が苦笑いを浮かべながら、後日教えてくれた。
彼女とはまた何時か一緒に戦えるだろうか、戦友として共に・・・
我ながらそんな期待を抱く事に内心苦笑しながら、私はそんな事を考えていた。
ラウラ・ボーデヴィッヒの乗艦する艦が、ドイツの駆逐艦(しかも2次大戦)だったのは
完全に私の趣味です。
艦これの影響はありますが(Z1とZ3両方持ってます)。
それでは。