北方海の守護天使   作:h.hokura

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No.18ーぐうたら医師と簪2ー

その女性には夢があった、それは医者として多くの患者を救う事。

だから必死に勉強し、実習にも励んだ。努力を怠らず精進を続けた。

医学学校を主席で卒業出来た、成績を知り幾つかの有名な病院から声を掛けられたりもした。

大きな所なら、多くの患者を救えると考え、彼女は中央海でも名の知られた病院に就任した

しかし、彼女を待っていたのは、その理想とは相反するものだった。

医師の間にある派閥争い、足の引っ張り合い、実入りの良い患者に群がり、それを多く抱える事に奔走する。

患者の為になど誰も考えていない医師達の姿、彼女は失望した。

それでも最初は頑張った、周りから冷笑されながらも、しかし自分が単なる客寄せだと知るのにそれ程時間は掛からなかった。

見た目麗しい女性医師、病院が求めていたのはそこだった、裕福な患者でも付いてくれればと。

全てに興味を失った、これ以上此処に居る気は起きなかった。

病院を辞め、彼女は目的も無く北方海にやって来た。

何もする気になれなかったが、生活の為に小さな医院を開いた、しかしかつての情熱は無く、ただ日々を無意味に過ごすだけだった。

「・・・という哀れな女の物語さ、面白かったかい?」

それが自分の事であるのは確かだろう、自虐的な笑みを浮かべている彼女を見て私は思う。

「・・・笑う気にはなれませんね、でも逃げ出した事を恥じる事は無いと思います・・・」

私の言葉に彼女は押し黙って私を見つめてくる。

「ただそのまま逃げ続けるのか、それとも何処かで踏み止まってみせるのか、彼女はそのどちらを選択するんでしょうね?」

その問いに彼女は押し黙って私を見つめてくる。

「・・・もし艦長が同じ状況になったらどうする?」

「そうですね・・・多分何処かで踏み止まって同じ事を始めるでしょうね、さっき言った通り、私は諦めが悪いですから。」

「なるほどね・・・艦長らしい、しかし驚いたよ。」

須藤先生はさっきまでの気だるさが嘘の様だ、何が彼女をそうさせたのだろうか?

「天使だと聞いていたから、もっと高尚な話でもされるかと思っていんだけどね。」

楽しそうな表情を浮かべ須藤医師は言う。

「天使と言われてはいますけど、私はそんな大それた存在じゃありません。」

同じ事をあちこちで言っているなと思いつつ答える。

「そうかい・・・でもまあ似合ってはいるんじゃないか?」

立ち上がり伸びをする須藤医師、何だかとても機嫌が良い様に見える。

「艦長と話せて良かったよ。」

そう言って須藤医師は食堂を出て行き、あとに困惑した私が残されたのだった。

 

翌朝、まほろばは退避港を出発しF島へ向かった。

「警戒配置に着いて下さい。」

「総員警戒配置。」

相川副長が私の指示を復唱、艦内にアラーム音が響き乗員の娘達が配置に着いて行く。

「・・・で先生、どうかしましたか?」

そう須藤医師も何故か艦橋に来ていたのだ。

「別に深い意味は無いさ、艦長の指揮ぶりを見たいだけさ。」

前日までの気だるさを何処へ行ったのか嬉々として私の傍に立つ、乗員の娘達も困惑気味だ。

「それは構いませんが・・・」

私の指揮なんか見ていて楽しいのだろうか?

『こちら電探室、前方に反応あり、数は3・・・こちらに向かって来ます。』

「どうやら嗅ぎつけた様ですね。」

電探室の報告に相川副長が言う、私は頷いて答える。

「むこうにとっては獲物が飛び込んで来た様なものでしょうからね、総員戦闘配置。」

「総員戦闘配置、急いで!」

復唱が艦橋内に響き、緊張が高まる。

「全主砲装填、射撃準備よし!」

「第1及び第2魚雷発射管、魚雷発射用意完了。」

砲術長と水雷長が報告してくる。

「全速前進、進路そのまま。」

私の指示に相川副長が笑を浮べながら答える。

「中央を強行突破ですね艦長。」

「はい、その際、主砲で牽制、ある程度距離取ってくれたら魚雷を使います。」

まほろばは速力を上げシーサーペントに突っ込んで行く、後はまさにチキンランだ。

耐え切れなくなり進路を変えた方が負けるだろう、本来はこんな戦闘はしたくないが時間が無い。

「シーサーペント、2匹が左舷、1匹が右舷へ行きます。」

見張り員の娘の叫びが双方の運命が分かれた事を知らしてくれる。

「艦首主砲を右舷へ、艦尾第2及び第3を左舷へ、射撃開始して下さい。」

左右に分かれたシーサーペント達の真ん中に入ったまほろばは砲を両舷に向ける。

「射撃開始!」

砲術長が命じると艦首と艦尾の主砲が射撃を開始、轟音が艦橋内を揺らす。

そんな中、須藤医師は表情を変えることも無く平然としている、いい度胸しているみたいだ。

「両舷のシーサーペント離れて行きます。」

「第1及び第2魚雷発射管、照準よし。まもなく発射可能距離です。」

こちらの思惑通り、シーサーペントは距離をとろうとしている。

「艦長発射可能です。」

「魚雷発射して下さい。」

「全魚雷発射管発射!」

まほろばの両舷に向けられた魚雷発射管から魚雷が発射される。

「3・2・1・今!」

水雷長の言葉に重なる様に響く轟音。

「結果を確認願います。」

私の指示に両舷の見張り員が報告してくれる。

「右舷側魚雷命中、撃破確認。」

「左舷、1匹は命中確認、残り1匹は逃げて行きます。」

結果を聞き、私は相川副長がに指示を出す。

「このままこの海域を突破します。」

「了解です艦長。」

まほろばは全速力で海域を抜けて行く。

「中々スリリングだったな。」

須藤医師の台詞だ、本当にいい度胸をしていると私は思った。

 

その後は襲撃も無く、まほろばはF島に到着出来た。

連絡艇を下ろし須藤医師とワクチン、手伝い役の娘達を島に送り、私達の仕事は終った。

 

帰りはこれといった波乱も無く帰港出来た事を記してこの話は終る・・・

 

15:40

ワクチン緊急輸送完了

 

・・・筈だった。

 

「おお~本音ちゃん、来たよ~」

本音と盛り上がる、一体何でと毎回思うのだけど。

あれ以来、須藤医師は時々商会にやって来る様になった、別にこれといった用事も無いのに。

「うん天使殿はどうしたんだ?」

彼女は悪戯っぽい表情で私を見て言う。

天使と言うのを止めて欲しと言ったのだけど、一向に改まる気配は無かった。

だから苦笑を浮べつつ私は答える。

「何でもありませんよ先生。」

 

この後も私はこの変わり者の先生と付き合って行く事になるのだった。

 

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