2人は島では有名な仲のいい夫婦だった。
働き者の夫と献身的な妻、子供は居なかったが傍から見ても幸せそうだった。
そんなある日、夫が漁に出たまま帰ってこなかった。
操業中に嵐にあったの原因らしく、捜索も空しく発見されなかった。
妻は毎日港に立ち夫の帰りを待ち続けた。
数年たった頃、ある噂が島にもたらされた。
遭難したあの夫が別の島に流れ着いたと、だが何故戻ってこなかったのか?
夫はその時助けられた女性とその島で暮らし始めたからだという話しだった。
妻はそれでも港に立ち続けた、島の人々は彼女を哀れに思いながら見ていた。
そして・・・嵐が島を襲った時、妻は忽然と消えてしまった。
絶望して身を投げた、高波にさらわれた、様々な噂がたったが本当のところは分からなかった。
そしてその頃からだった、島の漁船に奇妙な遭難が起き始めたのは。
航行中の漁船から漁師だけが消え無人のまま漂流しているのだ。
島の人々は思った、これは消えた妻が、夫の変わりに他の者を海底に引きずり込んでいると。
「なにそれ、その夫って様は奥さんを裏切ったって事でしょう。」
「助けた女が寝取ったか・・・」
「夫は新しい幸せを取ったんじゃないかな?」
「ふう・・・」
私は溜息をついて読んでいた小説を閉じると傍らで話しに盛り上がっている乗員の娘達に話し掛ける。
「皆さんは一体何の話をしているんですか?」
「えっ艦長いらしゃったんですね、すいません騒いでしまって。」
どうやら私が隣のテーブルに居た事に今気付いた様だった。
艦長室で読書をしていた私はお茶を飲みたくなり食堂に来てそのままここで続きを読んでいたところ、後から彼女達が入って来て話し始めたのだった。
最初は何となく聞いていたのだが、途中から話が生々しくなってしまい、私は読書を中断して彼女達に質問してみたのだった。
ちなみにこの娘達はさっきまで上陸していた筈だ、まさか帰って来てそんな話をするとは思わなかった。
その日、私達はJ島付近に出現したシーサーペントの対処を、島の漁師ギルドの支部から依頼さて来ていた。
まあ対処事態は幸いな事に昼前に終了してしまったが。
本当は今日一日掛けるつもりで、明日の朝帰する予定だったのだ。
だから一旦は直ぐに帰る事を考えたが、そうすると到着が真夜中になってしまう。
若い娘達ばかりだからそれは不味いと私は考え、予定通りJ島で夜を明かす事にしたのだ。
とはいえ朝まで艦の中で過ごすだけなのもどうかと思い、私は乗員の娘達に交代で島に上陸する事を許可した。
ここJ島は80人くらいしか島民の居ない所なので、遊ぶ所が有るか疑問だったけど、上陸するだけでも気晴らしにはなる。
そして上陸した娘達が戻って来たらと思ったら、先の様に皆で話が盛り上がっていたという訳だ。
「別に気にしなくても構いませんけど、そんな話しを誰に聞かれたんですか?」
私の問いに乗員の娘達は顔を見合わせると、先程謝ってきた娘が答えてくれる。
「港にいらっしゃた漁師の奥様達にです、島で面白そうな所が有るか話しかけたら、この話をして下さって、帰還時間までずっと話しこんでしまって。」
どうやら島のご婦人方と仲良くなったらしい、まあこの島には若い娘が少なかったから、ご婦人方も嬉しかったなのだろう、話の中身はどうかと思うけど・・・
何と言うか女の子はこういう話が好きなのだと改めて思う、私としては後半の変わりに他の者を海底に引きずり込む、という所が気になってしょうがないにだけど。
「なるほど・・・まあ盛り上がるのは構いませんが交代時間を忘れない様にして下さいね。」
「はい艦長・・・それでその夫はその後どうなったと思う?」
再び話しに夢中になる乗員の娘達、それに苦笑しつつ私は食堂を出る。
どうやら静かに小説を読むのは無理そうだったし、そろそろ相川副長と指揮を交代する時間だ。
だから私は艦長室に小説を置いてから艦橋へ行くつもりだったのだが、そこを乗員の娘に呼び止められる。
「あ、艦長こちらにいらしたのですね、今島のギルドの支部長が会いたいと来られているんですが。」
「ギルドの支部長が、ですか?」
今回の依頼は島にあるギルドの支部からのものだった、だから終了の報告はしておいた筈だけど。
「分かりました・・・艦長室に案内しておいて下さい、私は艦橋に行って副長に事情を説明してから行きます。」
「了解です艦長。」
案内する為向かった娘と別れ、私は艦橋に行くと相川副長にもうしばらく指揮を頼み、艦長室に向かう。
「支部長をご案内しておきました艦長、後でお茶を持って行きますね。」
艦長室の前まで行くと、案内をしてくれた娘が待っていた。
「お願いしますね。」
「はい。」
頷くと乗員の娘は歩いていった、それを見送り私は艦長室に入る。
「お待たせしました。」
艦長室といってもあまり広くは無い、それでも小さいながらも執務用の机やな応接セットを備えている。
その艦長室の小さなソファに大男の支部長は律儀に座って待っていてくれた様だった。
「いえ突然押しかけてきて申し訳ありません艦長。」
ソファから立ち上がり支部長は頭を下げる。
「どうぞお座り下さい、それでご用件は?」
座った支部長は一瞬俯くと、静かに話し始める。
事の発端は近くの無人島でギルドの漁船が正体不明の船を目撃したという話しからだった。
自分達の船よりも早いスピード、船名どころか識別番号も無い、あまりにも怪しい船。
「どうも最近現れる様になったみたいで、我々としても憂慮していたのです、それでちょうど島に来られた皆さんに調べてもらえないかと思いまして。」
私は支部長の話しに考え込む、これは状況から考えても・・・
「それは密漁船、ということですね。」
支部長は頷くと深い溜息をついて見せる、まあ気持ちは理解出来る。
普通漁師達は漁師ギルドに所属し、漁の期間や漁獲量を守る事を義務付けられる、水産資源の保護と公平に漁をする為だ。
しかし中にはギルドに所属しないで勝手な漁をする連中も居る。
大概は何かやらかしてギルドを追放された漁師達だ、当然彼らはギルドの規則など気にも掛けない。
それどころか、ギルド所属の漁師達の邪魔をしたり、漁場を荒らしたりする困った連中だ。
もちろんは漁師ギルドも対策を講じてはいる、監視船を配置するなどしているのだが、困った事にこういった密漁船は機関を改造し速度を高めており補足するのも難しい、武装している事もあり監視船が銃撃を受けるのも珍しくない。
シーサーペントほど厄介ではないが、だからと言って無視出来ない存在だ。
「分かりましたお引き受けします。」
ギルド支部長はほっとした表情を浮かべお礼を言ってくる。
「お願いいたします天使殿。」
・・・それは言わないでほしかったですギルド支部長。
1時間後、まほろばは照明はもとより航行灯さえも消し問題の無人島の沖合いにいた。
辺りは真っ暗闇で艦はそれに紛れるよう隠れている。
本当ならもう少し接近したいが、それでは気付かれてしまう可能性が高い。
まあこちらの電探は連中のより性能が高いからある程度の距離が離れていても大丈夫だから安心だけど。
「しかし密漁船ですか?シーサーペントに続いてそんなものがでてくるとは。」
相川副長が肩を竦めてぼやく。
「すいませんね、ただほっとくわけにはいかないと思ったのものですから。」
私は相川副長や乗員の娘達に謝る、せっかくのんびりしているところを駆り出してしまったからだ。
「いえ大丈夫ですよ艦長、それに私達だってほっとく気にはなりませんし。」
そんな私の言葉を聞き相川副長が笑って答える、他の娘達も気にしてはいない様で安心する。
まあ密漁船など海のルールを守らない輩は真っ当な船乗りからすれば許せない存在だ。
「艦長、島影から船が出てきました。」
見張り員の娘が報告してくる、どうやらのこのこと出てきた様でこちらとして好都合な展開だ。
「密漁船で間違いありませんか?」
「はい、船名も識別番号も確認出来ません。」
間違い無い様だ、普通の船は船名も識別番号を隠さない、何しろそれだけでルール違反になるのだから。
「機関始動、前進半速。」
「機関始動、前進半速。」
機関員の復唱と共にまほろばは動き始める。
「総員戦闘配置に就いて下さい。」
「総員戦闘配置!」
相川副長が復唱し艦内にアラーム音が鳴り響く。
「目標はまだこちらに気付いていない様です。」
「分かりました、面舵30、密漁船に接近して下さい。」
暗闇の中、見張り員の娘は的確に密漁船を追跡してくれる。
「了解、面舵30、密漁船に接近します。」
操舵員の娘が舵輪を回しつつ復唱する。
「副長、探照灯の用意をお願いします。」
「探照灯照射準備。」
まほろばは密漁船の後方に着き追跡を開始する。
「艦長、予定の海域に到達しました。」
航海長の報告に私は頷くと、双眼鏡を持って窓に向かいながら相川副長に指示する。
「副長、探照灯照射して下さい。」
「はい艦長、探照灯照射始め!」
探照灯がまほろばから照射され、暗闇の中浮かび上がる密漁船。
私が双眼鏡を目に当てて見てみると、突然の事に慌てる乗員達の様子が見える。
「密漁船、進路を変更し速度を上げて逃げて行きます。」
見張り員の娘が報告してくる、だが逃がすつもりは無い。
「こちらも速力を上げて下さい、機関砲射撃準備願います。」
「速力上げます。」
機関員の娘が復唱しするとまほろばは更に加速する。
向こうはかなり改造して速度を高めている様だけど、まほろばよりは出ないみたいだ。
これなら相手が小回りを利かして逃げようとしても余裕を持って追跡出来る。
しかも小型の漁船では高速力で航行すればやがて燃料が尽きてしまうだろう、つまり私達はそれまで待っていればいいだけだ。
まあだからこそ密漁船が島から離れるのをじっと待っていたのだ。
「機関砲射撃準備完了です艦長。」
砲術長が報告してくる。
「機関砲には曳光弾を装填してますね?」
「はいそれは大丈夫です艦長。」
私の問いに砲術長が答える、密漁船とはいえ沈めるつもりは無い、だから機関砲の曳光弾で威嚇し停船させるつもりだった。
『目標左舷に視認!威嚇射撃開始します。』
機関砲を操作している砲術員の声が艦橋に伝わってくる。
私は左舷の見張り員の傍に行き、双眼鏡でその様子を見る。
夜目にも鮮やかな光の弾丸が艦の舷側から放たれて、密漁船の操舵室付近を掠める。
その射撃に密漁船は舵を急速に切り逃れようとするが、見張り員からの的確な指示で操船する操舵員からは逃れられない。
探照灯の操作員の娘も艦や相手の動きに合わせて的確に照射してくれている。
こういう事は何度も経験しているだけに皆の連携は完璧で、私は安心して見てられる。
「結構粘りますねあいつら。」
一緒に双眼鏡で密漁船を追っている相川副長が呟く。
密漁船はコースや速度を頻繁に変えて追跡を逃れようとしている。
「そうですね・・・出来れば危険は冒したくは無いですが。」
曳光弾で止まらないのであれば、場合によってはまほろばを密漁船に接触させてでも止めるつもりだ。
双方に怪我人を出したくはないが、それも仕方が無いだろう。
「密漁船の左舷後方から・・・」
『こちら電探室、右舷後方から急速に接近する目標あり、反応から・・・シーサーペントと思われます!』
私が指示を出そうと思ったとたん、電探室から緊急の報告が入る。
「!?面舵一杯、右舷砲雷撃戦用意して下さい。」
その報告を聞いた私は咄嗟に進路変更、迎撃を指示する。
「艦長!?・・・右舷砲雷撃戦用意急いで。」
一瞬戸惑ったが直ぐに私の意図を汲んで相川副長が復唱する。
まほろばは密漁船から離れ、新たな目標であるシーサーペントを目指す。
「目標への全主砲射撃用意よし。」
「第1及び第2魚雷発射管準備完了です艦長。」
砲術長と水雷長の声が重なって聞こえてくると私は頷いて指示する。
「射撃開始して下さい、雷撃は十分引き付けてから、タイミングは水雷長に任せます。」
「艦首1番主砲及び艦尾3番主砲射撃開始!」
砲術長の指示で艦首と艦尾の主砲が射撃を始め、シーサーペントの進行方向上に着弾する。
「距離3千、1番魚雷発射管発射!」
着弾により進行方向を変えたシーサーペントの横腹に水雷長の指示で発射される魚雷。
「取舵一杯。」
「取舵一杯。」
魚雷が発射されたの確認した私はシーサーペントから離れるコースを指示する。
まほろばは操舵員の復唱とともに急速に進路を変える。
やがて鈍い爆発音とシーサーペントの絶叫が聞こえてくる。
「確認を急いで下さい。」
「見張り確認を急いで。」
相川副長が私の指示を復唱する。
『こちら艦尾見張り、シーサーペント沈んでいきます。』
艦尾に居る見張り員からの報告が艦橋もたらされる。
「監視を続行して下さい。」
その報告を聞いて私は指示すると共に艦内通話機を取り上げて電探室を呼び出す。
「電探、密漁船を確認出来ますか?」
『申し訳ありません艦長、見失ってしまいました。』
電探員が悔しそうな声で報告してくる。
「・・・仕方ないでしょう、貴女が責任を感じる必要はありませんよ。」
『はい艦長。』
艦内通話機を戻し溜息を付く、どうやら密漁船はこの戦闘の間に逃げた様だった。
まあ、まほろば1艦で両方相手は出来ないから仕方が無いのだけど。
「それにしても一体どこから来たんでしょうね?」
傍らに立つ相川副長が首を捻って聞いてくる。
「何処かに隠れていたのか、他の海域から潜り込んできたのか・・・まあ対処出来て良かったですが。」
私達の追跡劇に刺激されて出てきたのだろう、ついでに駆除出来て幸いだった。
「密漁船も拠点を見つけられた以上舞い戻って来る可能性は低いでしょう。」
私はそう言って肩を竦めると相川副長も頷いて答える。
「そうですね・・・まあこれで依頼終了ですね。」
「はい、それでは港に戻りましょう。」
まほろばは進路をJ島の港に取った。
港に到着後、私はギルドの支部で待っていた支部長に報告しにいった。
ただ喜んでくれたのは良かったがやたら「流石は天使様!」と言うのは勘弁して欲しかったけど。
そして翌日、まほろばは商会のある港へ盛大な見送りを受けて出発したのだった。
09:00
シーサーペントの駆除及び追加の密漁船対応を終了
・・・じつはこの話には後日譚がある、正直言って思い出したくも無い話しなのだけど。
商会に戻って1週間たったある日、J島のギルド支部長から手紙が届いた。
内容は今回の依頼に対するお礼だったのだが、最後の方に書いてあった内容が問題だったのだ。
私達が帰って数日後、漁をしていた漁船が漂流している船を見つけた。
どうもそれが例の密漁船だったらしいのだが、人が乗っている気配がまったく無かった。
意を決して猟師たちが乗り込んだのだが、船内には誰も居なかった。
どうやら船を放棄したらしいが、それにしては私物などがそのままにされていた事に乗り込んだ漁師達は首を捻った。
確かに彼らはまほろばの追跡を完全に逃れられたのだから放棄するにしても、そんなに慌てる必要などなかった筈だ。
結局何があったか、支部長も漁師達も分からなかったと記して手紙は終っていた。
だが私は手紙の中に記載されていたある漁師の言葉に気分が悪くなり倒れ込んでしまった。
それはこう書かれていた、船内は何故かびしょびしょに濡れていた、まるで濡れ鼠になった者が歩き回った様に・・・
「簪ちゃんどうしたの!?本音ちゃん医者、医者を早く呼んで!」
「かんちゃん死んじゃ駄目だよ。」
姉さんと本音の声を聞きながら私の意識は遠くなっていく、そしてその時脳裏に浮かんできた光景は。
海底で引きずりこんだ漁師を抱き空ろな笑みを浮べる女性の姿だった。
そう乗員の娘達が聞いたと言う、島の伝説の様に・・・
そこで私の意識は途切れた。
次回は番外編で書いた話の続きでも書こうと思ってます。
・・・女子高生艦隊の(笑)
それでは。