いよいよ2人が接触します。
こばやし丸の元に戻ったまほろばは傍らで護衛をしつつ待機していた。
1時間前にこばやし丸から移動させる為のタグボートが、護衛のハンターの武装船と共に向かっていると連絡を受けていたからだ。
そして救援隊が到着するまであと30分になった所で、私達は意外な依頼を受ける事になる。
『艦長、こばやし丸の船長より、依頼したい事があるとの事ですが?』
通信室から掛かってきた内容に、私は繭を顰める。
あとは救援隊が到着するのを待つだけの今、何を依頼しようと言うのだろうか、正直厄介事の匂いがしてしょうがなかったが、向こうの船長自ら連絡してきたのでは無視出来ない。
「分かりました、繋いで下さい。」
『はい艦長。』
回線が切り替えられるノイズがあり、暫しの間が空いた後、男性の声が聞こえて来る。
『こばやし丸船長の池谷です。』
「まほろば艦長の更識です、何か依頼が有るとの事ですが?」
挨拶を簡単に終わらせ、直ぐに依頼の話しに入る、厄介事は早めに済ませたいからと思ったからだ。
『はい、実はある乗客の方々をまほろばで港まで運んで頂きたいのです。』
「・・・・・」
船長の言葉に私はかなり困惑させられていた、何しろそんな依頼今まで聞いた事が無かったからだ。
「まほろばは旅客船ではありませんよ、その辺は船長にはお分かりだと思いますが。」
まほろばは駆逐艦、つまり戦闘を目的とした船なのだ、お客を乗せるこばやし丸とは訳が違う。
『ごもっとです更識艦長、ですが今回はそうは言ってられない理由が依頼主にありましてね。』
「その依頼主と言うのは一体誰なんですか?」
暫しの沈黙後、船長が答えてくれるが、正直言って聞かなかった方が良かったかもしれない。
『歌姫の神代レイですよ更識艦長。』
こばやし丸は損傷が酷く、予定通りの港への到着は望み薄になっている。
そうすると北方海でのコンサートの開催までに神代レイの到着が間に合わない可能性が高い。
既に会場の設置も終わり、ファンの人々も、危険な海を越えて、集まっている。
中止する事は絶対出来ない、特に神代レイは今回のコンサートに並々ならぬ思いを抱いている事もあり、こばやし丸の船長に頼み込んで来たらしい。
そこで白羽の矢が立ったのがまほろばと言う訳だ、それなら予定より少々の遅れで到達出来る。
ただし危険も伴う、高速で移動する船はシーサーペントのいい標的だからだ。
『危険については神代レイ側も承知しているそうです。』
そこまで決意していると言う事らしい、私は溜息を付いて相川副長を見ると、彼女は頷いて見せる。
それは艦長の判断に従いますと、他の乗員の娘達も同様の様だった。
「分かりました、その依頼をお引き受けいたします。」
護衛の契約については簡単な物を作って置く事にした、正式な契約は後日と言う訳だ。
一応姉さん、更識商会・会長には連絡してある、流石に驚いた様だったが、私の判断を信じてくれた。
「まほろばをこばやし丸に接近させて下さい、連絡艇の用意を。」
神代レイ一行を受け入れる為の準備が進む、人数は20人程、全員女性との事だった。
まあそれだったから皆納得したのだろう、まほろばも私を含め女性しか居ないと言う事で。
ちょっと複雑な気分だった、そりゃ私は外見はそうかもしれないけど。
「艦長、連絡艇の用意完了です。」
「では収容に向かって下さい、全艦警戒態勢を維持。」
私は双眼鏡で周囲を監視つつ指示をする。
一方こばやし丸では多くの乗船客が鈴なりになって見ている、今更ながら神代レイの人気が分かる様だ。
『こちら電探室、接近中の船団を確認しました。』
どうやら救援の船団が到着した、あとは神代レイ一行の収容を終えれば出発出来る。
「出発準備を航海長お願いします。」
「了解です艦長。」
艦橋内を乗員の娘達が動き始める。
神代レイ一行全員の乗艦が完了するとまほろばは一路港を目指して出発した。
「前進半速、さあ帰りましょうか。」
「はい、艦長。」
相川副長が私の指示に微笑んで答える。
「前進半速。」
「帰港進路良し。」
航海長と機関員の娘達の復唱が続く。
「それでは・・・相川副長、暫らく指揮をお願いします。」
まほろばが帰港進路に乗った事を確認すると艦長席から立ち私は相川副長に指揮を委ねる。
「了解です艦長。」
これから乗艦した神代レイ一行と色々話をしなければならないからだ。
相川副長達に見送られながら私は艦橋を出てゆくのだった。
食堂に入ると数十人の女性達が、席に座っていたり、立っていたりとするのが見える。
そしてその中でも他に無いオラーを出している少女、銀の髪を腰まで伸ばした、青い水晶の様な瞳を持つ彼女こそ神代レイだろう。
こうして見ると本当に神々しい美少女だ、地味な自分とは大違いと言ったらISの更識 簪に失礼かもしれないけど。
「艦長。」
神々しい彼女に見惚れそうになっていた私に、案内役の乗員の娘が話し掛けてくる。
後ろにはスーツを見事に着こなした、やり手のキャリアウーマンと言った感じの女性が居る。
「初めまして、神代レイのマネージャーを務めます戸倉 涼子と思うします、今回はご迷惑をお掛けする事になり申し訳ありません。」
どうやら神代レイのマネージャーさんらしいその女性が丁寧な言葉と仕草で挨拶してくる。
「更識商会所属まほろばの艦長更識 簪です。」
私達は握手すると近くにテーブルに座る、ふと私は視線を感じ、そちらに目を向ける。
「・・・・・」
スタッフの人達が興味深そうに見てるのだが、その中でも一際強い視線を向けてきているのは神代レイだった。
『かんざしちゃん、また会えるよね?』
『うん、・・ちゃん、きっと会えるよ。』
「・・・・!?」
「更識艦長、どうかなされましたか?」
マネジャーさんの声に私は我に帰る。
「いえ、何でもありません。」
テレビで彼女を見た時浮かんだ光景が何故か、彼女を見た途端、また浮かんできたのだ。
これって一体?私は混乱しそうになりそうな思考を何とか押し戻す。
「失礼しました戸倉さん・・・こばやし丸の船長さんから聞いているとは思いますが、まほろばはれっきとした戦闘艦です。」
目と思考を目の前のマネジャーさんに向け私は伝えるべき事はを話し始める。
「乗員達も航海中は各々に仕事を持ってます、ですから旅客船の様には出来ません。」
「はい。」
マネジャーさんが理解してくれた様なので私は続ける。
「後で滞在中の船室にご案内しますが、港に到着するまで出来るだけ部屋から出ないで下さい。」
傍で聞いているスタッフの人達の緊張が伝わってくる、神代レイを除いてだけど。
「何か必用な事があれば担当の乗員に言って下さい、極力対応させますので、ご協力をお願いします。」
「分かりました更識艦長、こちらとしても無理を聞いて頂いたのですからご安心を。」
「ご理解して頂き感謝します。」
マネジャーさんの返事を聞き、私は頷くと立ち上がり、先程から指示を待っている乗員の娘を見る。
「それでは後の事をお願いします、何かあれば私か相川副長まで言って下さい。」
「了解です艦長。」
私は頷き食堂を出てゆくのだけど、神代レイの視線はそれまで決して私から外れる事はなかった。
艦内時間21:00
私は艦尾側にある医務室での打ち合わせを終え、艦首側にある艦長室に戻ろうとしていた。
まあ打ち合わせの内容は今度行なわれる健康診断と身体測定についてだった。
・・・正直言って健康診断は別にして身体測定はちょっと鬱だった。
身長と体重、そして身体各部のサイズ、俗に言うスリーサイズを測定するのだけど。
私の場合特に胸の方が・・・毎回測定する医務員の娘が目を逸らし「艦長、これからですよ。」と言ってくれるのが物凄く悲しいかったりするのだ、でもそれって男として終わっているのかもしれないけど。
そんな事を考えながら歩いていた私は、通り過ぎようとしたタラップ横で、流れて来た潮風に立ち止まる。
誰かが後部甲板に出ている様だが、こんな時間に?北方海の夜風に当たりたいなんて考える物好きなんて乗員の娘達には居ない筈だ、だとすれば神代レイ一行の誰かだろうか?
私は注意しておいた方がいいと思いタラップを上り、後部甲板出る。
後部第三砲塔の先、無人潜航艇が固定されているあたりに人影を見つける。
「こんな時間に甲板に出ている危険ですよ。」
私はそう言って人影に話し掛けると相手は振向いてこちらに顔を向けてくる。
銀の髪と青い瞳を持つ顔を・・・私は一瞬この世のものでない人を見た気分にされてしまった。
そこに居たのは神代レイ、その人だった。
神代レイにこれといったモデルはないのですが、強いて言えば某アニメの皇国出身ですか。
それでは。