「現在私達が向かっている海域は最近シーサーペントの被害が急増している所です。」
出航後、洋上で私は無線を通じこれからの作戦について説明していた。
『そこは何かあるのか簪艦長?」
ラウラ艦長が聞いてくる。
「流氷がこの時期の為多いと言う意外はこれといって無いのですが。」
だがその海域で襲われる船舶が増えているのは確かなのだ。
「極少ない通信ではどの船も突然襲われた様なのです。」
『・・・妙な話だ、どの船も見張りを怠っていたとは思えんのだが。』
私の説明にテア艦長が疑問を返してくる、彼女の言う通り見張りを怠るとは考えにくい。
だとすればこちらの予想しない方法で襲撃を仕掛けて来ているという事になる。
海域に今多くある流氷、もしかして?
『更識艦長、君は何かあると考えるんだな?』
テア艦長は私が何かに気付いたと思ったらしくそう聞いてくる。
「まだ推測の段階ですけど、可能性はあると思います。」
だとすれば取るべき戦法は・・・
問題の海域にラウラ艦長のレーゲンと私達のまほろばが進入して行く、ちなみにテア艦長のシュペーはこちらとは別の行動を取ってもらっている。
「見張りを厳に・・・私達は既にシーサーペントの狩場に居るのですから。」
「見張り各員監視を厳重にして下さい。」
私の指示通り見張りの娘達は、それぞれ双眼鏡に取り付き監視を始める。
「電探や水測が頼れないのはきついですね。」
相川副長が艦長席に座る私の傍らでぼやいている。
「もし私の推測が当たっていたら両方とも役に立たないかもしれませんから。」
だからこそ見張りの乗員を増やして対応している、レーゲンの方も同じ行動を取っている筈だ。
「艦長を信じない訳ではありませんが、シーサーペントがもしそんな事を仕出かすとしたら驚きですね。」
「シーサーペントが私達より劣っている、そう考えるのは愚かな話しです、連中は狩りに掛けては人間より狡猾だと私は思ってます。」
純粋に狩りに特化した能力、かってシャルが言っていた事だが、私には非常に説得力があった。
『艦長、前方に大きな流氷を確認、右舷30度距離6千です。』
前部見張りの娘からの報告が艦橋内に響く、私は航海長に指示を出す。
「現状の距離を保ちつつ回避します。」
「今度もですね。」
「ええ、今度もです。」
先程からある程度の大きさの流氷を確認するとそうやって回避しつつ進んでいた。
さて今度は・・・また空振りに終わるかもしれない、そう思っていた瞬間だった。
「か、艦長!右舷にシーサーペントが出現、一体何処から?」
右舷見張り員の悲鳴に似た報告がもたらされると艦橋内は騒然となる。
「両舷全速、取り舵一杯、レーゲンに続くよう連絡して下さい。」
流氷の前に出現したシーサーペントから急速に離れるまほろば、レーゲンもまたこちらの指示で後を追ってくる。
「いや・・・本当に出てきましたね。」
後方を見ながら相川副長が言う、驚きと呆れが混ざった表情を浮かべている。
「こう言ってはどうかと思いますが私も同じ気持ちですね。」
予想しておいてだが、連中がやった事に私も苦笑を禁じえない。
シーサーペントは・・・流氷の下に潜んでいたのだ、これなら電探や水測でも捕らえるのは難しい。
やつはそうやって獲物が近づくのを待って襲っていたのだろう、本当に狡猾だ。
『目標、本艦とレーゲンを追って来ます、距離5千。』
後方見張り員の報告が艦橋内に響き渡る。
「シュペーに連絡、『我目標を誘導しつつそちらに向かいつつあり。』。」
「了解です艦長。」
相川副長が復唱し、無線室へ指示を伝えてくれる。
海上にシーサーペントの絶叫が響く、獲物に逃げられ激怒している様だった、狡猾だがその点は単純だった。
「艦長、シュペーより連絡、『迎撃準備完了、信号弾の合図により離脱されたし。』以上です。」
通信室からの返答を相川副長が報告する。
『こちら電探室、シュペーを確認、会合点まであと10分。』
シュペーは私達が誘導してきたシーサーペントを攻撃する為後方で待機していた。
「艦長!信号弾を確認しました。」
前方見張り員の娘が振り返って報告してくる。
「面舵一杯!」
その報告を聞いた瞬間、私は指示を叫ぶ。
「面舵一杯!」
「レーゲン、こちらと反対方向へ進路変更確認。」
操舵員の復唱に左舷見張り員の声が重なる。
レーゲンとまほろばが左右に別れ、追ってきたシーサーペントがどちらを追うか迷って進行速度を落としたその時、凄まじい轟音ともに高々と水柱が上がった。
『全弾命中を確認、シーサーペントは動けなくなってます。』
「舵戻して下さい、こちらも砲撃します。」
報告を聞いて私はまほろばを断末魔のシーサーペントに向ける。
「第1主砲、射撃準備よし、照準急いで。」
砲術長が私の指示を射撃指揮所に伝える。
『射撃指揮所より照準よし。」
「射撃開始して下さい。」
「射撃開始!」
射撃指揮所の報告に私が指示すると砲術長が叫び、艦橋前にある主砲が射撃を始める。
反対側からはレーゲンもまた射撃を開始している筈だ、そして両艦の砲撃を受けたシーサーペントはどす黒い体液を残し海底へ消えていった。
まほろば以下3隻の艦は海域を離れつつあった。
「取り合えず終わりましたね。」
私が溜息を付きつつ言うと相川副長が微笑みながら答える。
「はい終わりました・・・生きて港へ帰れますね全員で。」
多分私の訓示で言った事を相川副長は言っているのだろう、私は苦笑した。
「艦長、お話があります。」
そんな時、艦橋に機関長が入ってくる、彼女がここに上がってくるのは珍しい。
「何かありましたか?」
「・・・実は機関に先程異常がありました、現状では問題ではありませんが。」
機関長の言葉に私は繭を顰める。
「異常ですか・・・現状では問題無いと言う事ですが?」
「はい、ですが帰港後確認する事を進言します。」
私は暫し考えると頷いて話す。
「分かりましたそうしましょう。」
進言を受け入れる事に私はした、少しでも問題があるのなら見過ごせないからだ。
・・・だけどこれが私に重大な決断を迫る事になるとはこの時は思わなかった。
港に3艦が到着後、各艦の艦長と副長はギルドに集まる。
「皆ご苦労だった・・・クロイツェル艦長は満足したか?」
織斑ギルド長が意味深な笑みでテア艦長を見て聞いてくる。
「もちろん満足ですよギルド長、予想以上でした・・・なあ副長。」
テア艦長はそう言ってミーちゃんを見て問い掛ける。
「か、艦長、自分は・・・」
ミーちゃんは困った表情で答えるとテア艦長は笑始める。
「ずっと気にしていたじゃないか守護天使様の事を、あの堅物のボーデヴィッヒ艦長を変えてしまった彼女をな。」
「な、何でそこで私が出てくる・・・」
ラウラ艦長が思わず狼狽した声を上げる横で、ハルフォーフ副長が必死に笑を堪えている。
「まあ私も、まったく人を評価した事の無いボーデヴィッヒ艦長がそこまで注目する相手に興味が大いに沸いたのだが。」
テア艦長はそう言って私を見てくる、とても良い表情を浮かべながら。
「想像以上だった・・・言い方が悪いが何故彼女程の逸材がこんな所にいるのかと思ったよ。」
何と言うかこう手放しで誉められるのは非常に照れくさくて仕方がない。
「大分更識艦長を気に入った様だなクロイツェル艦長。」
織斑ギルド長が苦笑いを浮かべながらテア艦長に問い掛ける。
「ええ、指揮能力だけでなく人格的にも素晴らしい・・・なるほど副長、いやミーナやボーデヴィッヒ艦長が心酔する訳だ。」
「ク、クロイツェル艦長?貴様何を言って・・・」
「か、艦長、私は別に、いや確かに気になってはいましたが・・・」
ラウラ艦長とミーちゃんが真っ赤になって立ち上がり何故か弁解を始める。
「くくく・・・ははは!」
ハルフォーフ副長がついに何かに耐え切れなくなったのか爆笑する。
「なるほどそういう事か。」
「ええ、そういう事です。」
織斑ギルド長が納得した表情を浮かべて言うと、テア艦長も同じ様な表情で言う。
「ははは・・・流石ですね艦長。」
相川副長も納得した様に苦笑して言う、しかし私はまったく訳が分からなかった。
「あのお2人ともクロイツェル艦長が今おっしゃった事・・・」
「「忘れてくれ(下さい)。」」
聞こうとした私に2人は必死の形相で遮ってくる。
「は、はい。」
その迫力に私は言葉を飲み込むしかなかった、一方テア艦長達はそれを意味深に見ているのだった。
数日後、ギルド専用埠頭。
「世話になった更識艦長、非常に有意義な戦術情報の交換が出来た。」
テア艦長は手を差し出してくる、私はそんな彼女の手を握り答える。
「ええこちらもですクロイツェル艦長。」
あの後何度か実戦による戦術情報の相互の確認を終え、シュペーとレーゲンは今帰還の途に着こうとしていた。
私の事を手放しで誉めていたテア艦長だが、彼女の戦術も大いに参考になるものであった。
「しかし本当に残念だ、更識艦長が我が商会に来て貰えるなら大いに戦力の強化に繋がったのだが。」
何度かテア艦長から私は自分の商会に来ないかと誘われたのだ。
「お気持ちは嬉しいですが、私はここが気に入ってますので。」
それに姉さんが絶対許さないだろうから・・・
「更識艦長、その・・・感謝します。」
ミーちゃんことフリーデブルク副長が何故か顔を赤らめて言ってくる。
「はいフリーデブルク副長、こちらこそ感謝します。」
微笑みながらそう返答すると、ミーちゃんは更に顔を赤らめて硬直する。
「フリーデブルク副長?」
「気にしなくても、いや更識艦長は自分に対する認識を気にした方が良いかもしれんな。」
硬直したミーちゃんに困惑している私に、テア艦長が苦笑いを浮かべながら言ってくる。
「はあ、それは・・・」
「簪艦長、私も世話になった・・・流石は我が戦友だ。」
テア艦長の言葉に聞き返そうとした私の前に、ミーちゃんを押しのける様にしてラウラ艦長が立つ。
「は、はいラウラ艦長、私も貴女にお世話になりました。」
そんなラウラ艦長に先程と同じ様に微笑んで答えると、ミーちゃん同様に顔を赤らめて硬直した。
「あ、あのラウラ艦長?」
心配になりラウラ艦長に近付こうとした所をハルフォーフ副長に止められる。
「更識艦長、それ以上艦長を刺激されると後々困りますので。」
「・・・?」
結局ラウラ艦長とミーちゃんはそのままの状態で自分の艦にその艦の乗員達によって戻っていった。
「ではまた会おう更識艦長。」
「次にまた出会える事を楽しみにしています。」
「いや・・・分かりましたまたお会いしましょう。」
テア艦長とハルフォーフ副長は何でも無い様に挨拶してきた、あの2人の事など無かった様に。
まあこれ以上追求するのは気が進まなかったので私は挨拶を返す。
こうして南の海から来た彼女達は帰っていった、まあ戦術情報の交換は成功だったが、ラウラ艦長とミーちゃんは一体?
「・・・クロイツェル艦長の言われた通り、艦長は周りの人達の認識に気付く様にした方が良いですね。」
半ば感心した表情で言っていた相川副長の言葉が非常に気に掛かったのだった。
14:30
南方海ギルド派遣艦との戦術情報の交換終了
私は報告書の最後に記入し、ほっと一息を付ていると商会事務室の電話が鳴る。
「は~い、更識~商会~です~」
本音が電話に何時もの様に間延びした声で電話に出る。
「・・・うん~居ますよ~ちょっと~待ってね~」
そう言って受話器を置いた本音が私を呼ぶ。
「かんちゃん~束さんから電話だよ~」
束さんから?彼女からの電話なんて非常に珍しい。
「はい、簪ですが。」
「・・・簪ちゃん、今すぐ来れるかな?」
電話に出た私は何時もと違う束さんの様子に私は困惑するのだった。
ISにしろはいふりにしろドイツ娘が活躍していますね。
まあ書いていて面白かったですが。
次回は新しい設定を始めるにあたっての回にする予定です。
潜水艦を復活させたいと思っているのですが。
それでは。