ここまで書く事が出来て嬉しく思います。
見てくれた方々にも深い感謝を。
まだこの物語は続きます。
「まほろばが・・・」
ドックに呼び出された私に束さんが話してくれた事は余りにも衝撃的だった。
「うん・・・まほろばはもう長期の航海や戦闘には耐えられないの。」
私は呆然とドック内にあるまほろばを見上げるしか出来なかった。
前回の航海中にまほろばに起こった不調、それがきっかけだった。
機関長の進言で私は束さんにまほろばの検査を依頼したのだが、まさかこんな結果になるとは思わなかった。
「検査で艦の各部分に多くの不具合が見つかったから・・・考えてみればこの娘とは、結構長い付き合いよね。」
そう私がこの世界に来る前、ゲームプレイ時に選んだ艦であり、こちらに来てからは本当に乗艦して過ごしてきた。
「気持ちは分かるよ簪ちゃん、私にとってもこの娘は色々手を掛けてきた艦だったからね。」
私と同じ様にまほろばを見上げながら束さんは悲しそうに話す。
「本当によく働いてくれた娘だよね。」
「はい、本当に・・・」
私達はそう言って口を閉ざす、正直何を言えば良いのか・・・
ただいえる事は私はもう二度とまほろばとは航海出来ないのだ。
もちろん私はそうはしたくはない、しかし乗員の娘達を危険に晒せない。
それにまほろばもそんな事を望んではいないだろう、私に出来るのはもうこの娘を眠らせてあげる事だけだ。
「ありがとうまほろば・・・貴女と航海出来て私は幸せでした。」
ふと私は涙を流している事に気付く、でも止められなかった、そして束さんはそんな私を優しく抱いてくれた、自分も涙を流しながら。
「簪ちゃんに今話す事ではないと思うけど・・・次の艦の事だけど・・・」
暫しまほろばの前で抱き合い泣いた、今その事に気付き悶えそうになったが、私達はその後ドックの事務室にいた。
そして申し訳ない表情を浮かべつつ束さんはそう話を切り出してくる。
本当はそんな事考える気持ちにはならないのだが、商会としての仕事はこれからも続くのだからそうも言ってられない。
「そうですね・・・でも私の一存では決められません。」
先ずは商会会長の姉さんと相談しなければならないだろう、正直言って気が滅入る話だけど。
「・・・それなんだけど簪ちゃん、良ければそうりゅうを使わない?」
「そうりゅう?でもあの艦は確か・・・」
束さんの提案に私は驚いた声を上げてしまう、だってあの艦はもう駄目になったと思っていたからだ。
前にシーサーペントとの戦闘でダメージを受け、修理するより新造した方がましと判断された筈だ。
「うん、修理費用が高すぎて一旦は廃艦にするつもりだったんだけど・・・状況が変わって来てね。」
「状況が?」
私は束さんの言葉に戸惑う、そんな時・・・
「それについては私達の方から話そう更識艦長。」
「!?}
部屋に織斑ギルド長と私の姉、更識商会会長が入って来たのだった。
「理由の第一は時間の問題だな、束の話しだと新しい艦を用意するのに結構時間が掛かるらしい。」
織斑ギルド長がそう言って束さんを見る。
「まあ正確に言うなら簪ちゃん達の実力を完全に発揮させられる艦を直ぐには用意出来ないと言う事かな。」
「どういう意味ですか?」
束さんの言葉に私は首を捻って聞き返す、姉さん「可愛いわ簪ちゃん。」って喜ばないで下さい。
「簡単な事だよ、簪ちゃんと乗員の娘達は生半可な艦ではその力を発揮出来ない、それに相応しい物を用意するには時間が掛かりすぎるのさ。」
私達ってそんなに凄かったのだろうかと思ってしまった。
「そうりゅうであれば可能だと束から報告が来たのでな、それならばと考えた訳だ。」
「それで第一と言うからには第二のがある訳ですか?」
私は織斑ギルド長に先を促す、第一の理由は確かに乗員が優秀だからと言う事にしておく。
「第二の理由だが、実は私は前々からある計画を進めていた、なあ更識会長。」
「各方面の説得や利害調整には手間取ったけどそれも終わりましたしね。」
織斑ギルド長の言葉を受け姉の更識会長が説明してくれる・・・いかにも会長といった感じで何時もそうあってくれればと思うのだけど。
「我がハンターギルドを中心に対シーサーペント艦隊を組織する事になった。」
「その名もセキュリテイーブルーよ。」
織斑ギルド長と我が姉の2人がそう言って微笑む、いや姉さんはどや顔になっているけど。
「セキュリテイーブルーですか?」
私の問いに織斑ギルド長は頷いて答えてくれる。
「ああ、更識商会だけど対応するのはそろそろ限界だったしな、だからそうりゅう以外にハンターの武装船も集め、支援艦として束の持つ工作艦を付けた艦隊だ。」
「それ以外にも戦車隊ギルドも戦車や戦車揚陸艦を参加させる予定よ、他にも船員ギルドを始めとした多くのギルドも人員や機材、資金を出してくれるわ。」
姉さんが嬉そうに説明しているが、私は思ったより大規模なその艦隊に驚きを隠せない。
「えっと織斑ギルド長・・・本気ですか?」
「ああ本気だ、既に参加する艦船や人員は集まりつつある。」
私の問いに織斑ギルド長が答えてくれる、どうやら話しはかなり具体的に動き出しているらしい。
「資金の方もね、お蔭でそうりゅうの修理代金も出るんだけど。」
姉さんがそういってウィンクして見せる、何だか私の知らない所でしかも早いスピードで事態は進んでいる様だ。
「・・・分かりましたギルド長、ただもう少し時間を下さい。」
私は少し考えるとそう答えた、正直言って直ぐにそうりゅうに乗り換えるという事にまだ躊躇する自分が居たからだ。
「まあそうしたいのなら構わん。」
その織斑ギルド長の言葉でその場は解散となった。
解散後私は1人で商会に帰った、姉さんは織斑ギルド長や束さんと話がまだある為だ。
商会に付くと私は部屋に入り上着を脱いで机に置くと、ベットに仰向けに寝て天井を見つめる。
「・・・・」
様々な思いが頭の中を駆け巡るが、結局私はこう結論を出すしか無かった。
最早私はこの世界の更識 簪なのだと、だって全て物をゲーム上の物と見れなくなっているのだから。
今やまほろばも姉さんや周りの人達も私は失う事が余りにも恐ろしくて仕方が無い。
想像しただけで激しい痛みと悲しみを感じる、ゲームをプレーしていても感じた事の無いものだ。
「ふう・・・」
立ち上がり私は艦内服を脱ぎ私服に着替えからて、壁に有る鏡を見る。
そこに写る更識 簪、今の自分自身の姿・・・私は首を振ると部屋を出て行くのだった。
私は商会の近くにある港を見渡せる展望台に来ていた。
簪の記憶によればここは彼女が気に入っていた所であり、私もまた好きな場所でもある。
港に出入りする大小の船舶、港内を走る艀やボート・・・何時までも飽きない光景だった。
それは多くの人々が働いて、多くの人生が交差して、多くの出会いと別れがあって。
そして自分もその中の居るのだと感じる事が出来るから。
「そうね私はもう・・・」
後悔しないとは言えない、けど私は自分の決断を信じる事にする。
「私は今日から本当に更識 簪です。」
さようなら・・・元の世界、私はこれからもこの世界で生きていくから。
展望台を出て私は商会に戻った、これからすべき事を始める為に。
「ただいま戻り・・・」
「簪ちゃんああん!!」
ドアを開けて事務所に入った途端私は抱きつかれた、涙で顔をぐしゃぐしゃにした姉さんに。
「な、何ですか姉さん?」
突然の事に私は驚いてしまう、というか姉さん、服が汚れますから止めて下さい。
「何も言わないで家を出て・・・どっかへ行ったんじゃなかと・・・」
どうやらまほろばの事でショックを受けた私が何処かへ行ってしまうんじゃないかと姉さんは心配したらしい。
「・・・姉さん、確かにまほろばの事は辛いですが、私は姉さんを1人にして何処かへ行くつもりはありませんよ。」
だって私達はこの世界でたった2人の姉妹なんですから。
「う、嬉しいわ簪ちゃん・・・早速けっこ・・・」
「うっとしいから離れて下さい姉さん。」
「うううう・・・」
感動したと思ったのに、この有様に私は冷たく言って姉さんを引っぺがす。
「どうやら決断出来たようだな更識艦長。」
姉さんの姿に苦笑しつつ織斑ギルド長が問い掛けてくる。
「はい、先程の話しお受けします、束さんお願いします。」
織斑ギルド長と並んで私を見ていた束さんにそう伝える。
「OKだよ簪ちゃん、私にまっかせなさい。」
束さんは嬉しそうに答えてくれる、一方織斑ギルド長は繭を顰めて言う。
「張り切るのは構わんがやりすぎるなよ束。」
「分かってるってちーちゃん、私を信じなさい。」
「お前の日頃の言動を考えるとな、あとちーちゃんと呼ぶな。」
得意げな束さんに織斑ギルド長はそう言った後、皆を見渡して宣言する。
「それではセキュリテイーブルーを正式に立ち上げる・・・更識会長、何時までもいじけていて妹を失望させるつもりか?」
「ギルド長お任せ下さい、不肖更識 楯無全力でご協力いたします。」
織斑ギルド長に言われた途端にきりっとなる姉さんに私は呆れるが、まあらしくて良いだろうと思う事にする。
「ああそうだ簪ちゃん、まほろばなんだけど、更識商会からギルドが買い上げて、ハンター養成校で練習艦にする事になったから。」
束さんが嬉しそうに話すの聞いて私は驚いて織斑ギルド長を見る。
「束の言った通りだ、長期の航海や戦闘には耐えられないが海上実習で使う分には問題ないらしいからな、これからは次代の船乗りを育てる役を担う訳だまほろばな。」
そうか、まほろばは私達に続く者達を育てる事になるんだ、私は胸が熱くなる。
「ありがとうございます織斑ギルド長、束さん・・・本当に。」
また涙が溢れてくる、そんな私を姉さんが優しく抱きしめてくれる。
「よかったわね簪ちゃん、私もまほろばがそんな役を担うなんて嬉しいわ。」
そうだまほろばは姉さんにとっても大切な艦だった、今は亡き私達両親が商会と共に残してくれた。
「はい姉さん、私もです。」
そんな私達を織斑ギルド長達は優しい表情で見守ってくれたのでした。
15:40
まほろばはハンター養成校へ移籍決定、そしてセキュリテイーブルー計画の開始宣言。
ここまでで北方海の守護天使の物語は一旦区切りを向かえます。
この後は物語中の新しい設定のもと物語を開始します。
またそれに合わせて書き方も変更する予定です。
まだまだ書きたい話もありますので。
それでは。