北方海の守護天使   作:h.hokura

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久々のはいふりとのお話です。



No.08ーそうりゅう中央海へ1-

中央海と北方海との接続海域。

そこに今、ブルーマーメイド商会所属の晴風が居た。

通常船団の護衛を行なう晴風が単艦で行動をするのは珍しい事だった。

そう今回の任務は船団護衛では無く、ある船との邂逅だったのだ。

「・・・それにしても肝心の相手が誰か分からないのではな。」

晴風の副長、宗谷 ましろは溜息を付きながら前方の海を見る。

「納沙さんは何か聞いているか?」

ましろは傍らに居る納沙 幸子に聞く。

「いえ私も何も聞いてませんね。」

愛用のタブレットを操作させながら幸子は答える。

様々な情報に精通している彼女させ分からない事がましろを不安にさせていた。

もちろん商会が無意味な事をさせるとは思っていないが、情報を遮断されているのは良い気分ではない。

それは艦橋に居る者・・・艦長である岬 明乃を除いた者全員が思っていた。

そう岬艦長を除いてだ・・・

「・・・艦長は何か知っているのですか?」

「うん?知らないよ、でも悪い事じゃないと思うな、むしろ良い事だと。」

ましろの問い掛けに明乃は楽しそうに答える。

「何をのんきな事を・・・」

頭を抱えたくなるましろ、まあ明乃のこういったところは今に始まった事ではないのだが。

 

次の船団護衛準備中だった明乃とましろは商会の作戦部長、言わば艦隊司令官から急な呼び出しを受けた。

「晴風艦長岬 明乃参りました。」

「同じく副長宗谷 ましろ参りました。」

作戦部長室に入った2人はそう言って姿勢を正す。

「急に呼び出して悪かったわね・・・実は晴風の任務を変更します。」

2人の前に座る女性、ブルーマーメイド商会作戦部長宗谷 真雪は言う。

その名から分かるが宗谷 ましろの母親でもあった。

「任務の変更ですか?」

明乃とましろは顔を見合わせる。

「ええ、晴風は明日0900出航、接続海域に単艦で向かって下さい、目的は北方海から来る艦の出向かえです。」

益々混乱する明乃とましろ、何しろ今までこんな任務など無かったからだ。

「その・・・北方海からどんな艦が来るんですか?」

明乃としてはそれがとても気になったのだが。

「艦名はそうりゅう、後は・・・出会えれば分かるでしょう。」

宗谷作戦部長はそう言って意味深に笑う。

「それだけですか?艦種とかせめて艦長の名前くらい知りたいのですが。」

控えめに抗議するましろ、自分の母親だが今はもちろん仕事中なので上司として対応する。

「今の所それだけです宗谷副長・・・まあ貴女、いえ貴女達にとっては良い話だと思いますよ。」

含んだ言い方にましろは困惑する、一方明乃の方は・・・

「分かりました宗谷作戦部長・・・楽しみしてます。」

「はあ・・・」

何時もと変わらない明乃に深い溜息を付きつつ、ましろは作戦部長室を出て行くのだった。

 

『艦長!推進音を探知いたしましたわ・・・右舷50度、距離9千ですわ。』

突然艦橋のスピーカーから水測担当の万里小路 楓、通称まりこうじさんの声が響く。

「な、シーサーペントか!?」

すぐさまましろが艦内電話を取ると水測室に確認する。

『シーサーペントでは無いですわ、2軸推進・・・艦船だと思うのですが今まで聞いた事の無い音ですわ。」

「分かった・・・電探室反応はあるか?」

通話先を電探室に切り替えましろは再び確認する。

『今のところ反応無しです副長。』

電測員の宇田 慧(めぐちゃん)が即座に報告して来る。

水測で探知出来るのに電探に反応が無い・・・つまりその艦船は。

「潜水艦か?」

そうとしかましろには思えなかった。

「艦長!」

「警戒態勢へ・・・まあ大丈夫だと思うけどね。」

呼び掛けられたましろの声にそう指示を出しつつも明乃は、緊張してはいるが慌ててはいなかった。

(ほんとこう言う時は艦長の顔になるな。)

ましろはそう思って内心苦笑する、何時もこうあってくれれば良いのにと思いながら。

『潜望鏡を確認!距離3千、方位右舷50度、接近中。』

マスト上の見張り台から野間 マチコ、通称マッチの報告が艦橋へされる。

思ったより接近の速度が速い、「本当に潜水艦か?」ましろは右舷の露天艦橋へ走り出る。

既に右舷で見張りに付いていた内田 まゆみ(まゆちゃん)は双眼鏡をそちらに向けている。

「副長、一体何が出てくるって言うんですか?」

走りこんで来たましろにまゆみが聞いてくる。

「私にも分からない、兎に角こっちに接近してくる、警戒を・・・」

ましろがそう答えた瞬間、晴風の右舷前方に巨大な物が海から浮かび上がって来た。

「え・・・潜水艦?」

「・・・・」

ましろとまゆみはそれを見て絶句する、何故なら彼女達が今まで見た事も無い巨大潜水艦だったからだ。

 

そうりゅうの発令所。

「晴風を確認・・・皆さん驚いているみたいですね。」

センサー担当の娘が報告した後、そんな感想を漏らす。

共用ディスプレイに写しだされる、右舷の露天艦橋からこちらを呆然と見つめる乗員の姿。

簪にとっては懐かしい顔見知りの娘達だ。

「その様ですね・・・なるほどこう言う事ですか。」

こちらに来る様に要請してきた女性が言っていた意味を理解し苦笑する簪。

「サプライズのつもりなんでしょうけど・・・」

あの人らしいなと簪は何となく理解してしまうのだった。

「晴風に通信を。」

「了解です艦長。」

 

晴風の艦橋に艦内電話の呼び出し音が響く。

「はい艦橋・・・しばらく待って下さい、艦長、そうりゅうから通信だそうです。」

電話機を取った幸子が明乃に通信が入った事を知らせる。

「ありがとうココちゃん。」

幸子から明乃は電話機を受け取る。

「艦長です・・・はい繋いで下さい。」

艦橋に居る者達は明乃の事をじっと見つめる、艦橋に戻って来たましろを含めて。

「・・・うん久しぶりだね・・・かんちゃん。」

「か、かんちゃんって・・・まさか?」

明乃の言葉にましろは絶句する、何故なら彼女が知る限り、明乃がそう呼ぶ相手は1人しかいないからだ。

「そうだよ・・・対シーサーペント対処部隊、通称セキュリテイーブルー所属の潜水艦そうりゅう・・・艦長は更識 簪、かんちゃんだよ。」

悪戯っぽい笑みを浮べて明乃が言うとましろを始めとした者達は絶句するのだった。

 

「お久しぶりですセキュリテイーブルー所属、そうりゅう艦長更識 簪です、岬艦長。」

『・・・うん久しぶりだね・・・かんちゃん。』

久々にそのあだ名を本音以外の相手に呼ばれ簪はくすぐったい気分にされる。

そう海洋学校時代を思い出して。

「ところで私が来る事は事前に知らされていなかったんですね。」

明乃の背後で『艦長、かんちゃんって更識さんですか?』とか『簪があの潜水艦の艦長?』と大騒ぎになっているのが無線越しに聞こえてくる。

『うん全然知らなかったよ・・・まあ北方海と聞いて私はぴんと来たけどね。』

相変わらず感は鋭い様だった、まあ海洋学校時代もそうだったので簪は大して驚かなかったが。

『それじゃ港に案内するね。』

「はい、お願いします。」

そこで無線を切り簪は命じる。

「浮上したまま晴風に続きます。」

「「「了解です艦長。」」」

乗員達がそう答える、それに頷く簪の両肩に手が置かれる。

「皆様に会うのが楽しみです簪様。」

「僕もだよ簪。」

一見普通そうな言葉なのに簪は背筋が寒くなってしょうがなかった。

 

「進路を港へ、そうりゅうを誘導します、リンちゃんよろしく。」

晴風の航海長知床 鈴、通称リンちゃんに指示を出す明乃。

「あ、はい艦長・・・そうか簪さんが来たんだ。」

海洋学校時代は簪と特に仲が良かった鈴は嬉しそうに微笑む。

「それにしても更識さんはまほろばでは無かったんですね。」

ましろはそうりゅうを見ながら呟くと、情報担当の幸子に聞く。

「納沙さん、あの型の潜水艦って分かるか?」

タブレットを操作し検索を始める幸子。

「いえ既存の艦の中には・・・まあ似た様なものは無い事はありませんが、そうだとしても原型を留めていませんね。」

情報を見ながら幸子は溜息を付く、情報収集と分析に掛けては第一人者である彼女としては不本意らしい。

「あと、セキュリテイーブルーと言うのは北方海で最近結成された、各ギルドの統合艦隊ですね、副長も聞かれた事あるでしょう。」

「まあな・・・利害の異なる各ギルド纏め上げた手腕は流石に世界最強なだけあると思うよ。」

中央海でもかなり話題になったものだとましろは思い出す。

「ふうん潜水艦の艦長やってんだ簪って・・・会うのが楽しみだなタマ。」

「うぃ。」

感心した様に言うのは水雷長のメイちゃんこと西崎 芽依、隣のタマちゃんこと立石 志摩にそう言って笑い掛ける。

明乃達艦橋要員にとっては簪と再会は感慨深いものがある様だった、それが二度目でもだ。

何しろ晴風が北方海に船団護衛で行った時に一度再会したが、互いに時間が無かった為、旧交を温める時間など無かったからだ。

「そうそう、かんちゃんの作戦部長への挨拶が終わったら、そうりゅう乗員の娘達の歓迎会を開くからよろしくね。」

明乃が皆にウィンクして言うと、艦橋要員の娘達は皆顔を見合わせ、声を上げる。

「そいつは良いじゃん、なあタマ」

「うぃ。」

「また一杯話せるんだ・・・うれしい。」

「これはそうりゅうやセキュリテイーブルーの情報を得る良い機会です。」

騒がしい皆を見ながらましろは苦笑する。

「艦長、一体何時の間にそんな計画を?」

「作戦部長から今回の話を聞いた直後に主計科の娘達に頼んで置いたの。」

どや顔言う明乃にましろは深い溜息をつくも、彼女も嬉しさを隠せない。

「まあ今回は大目に見ますよ艦長、更識さんの顔を立ててね。」

 

晴風に先導されそうりゅうは中央海の港に向かう。

ちなみにそうりゅうが浮上航行しているのは、余計な混乱を防ぐ為だったりする。

これ程巨大な潜水艦が港の前で急に浮上して現れたら皆を驚かしてしまうと簪は判断したのだ。

と言ってもやはり目立つ事には変わらず、すれ違う船舶の乗員達は皆目を見開き、口を大きく開け見送る姿が見れた。

もちろんこれは港に入ってからも当然で、民間船の乗員やハンター達、港湾で働く人々は入港して来たそうりゅうを見て動きが止まってしまっていた。

皆それが潜水艦だと分かっても、その巨大さに理解が追いつかないのだ。

何しろ中央海で潜水艦と言えば港や島々の沿岸防御用が主力で、それは小型艦が多い。

先導する晴風より大きなそうりゅうを見て驚かない方が不思議なのだ。

「目だってますね・・・」

機関・ダメコンの担当の呟きに簪は苦笑するしかなかった。

 

専用の場所に晴風が接岸し、そうりゅうも臨時に指定された場所に接岸する。

巨大な故晴風クラスが接岸する場所ではかなりはみ出してしまうそうりゅうだった。

「それじゃかんちゃんを迎えに行ましょうシロちゃん。」

「だから副長か宗谷と呼んで下さい・・・って艦長まって下さい。」

ましろの言葉を気にせず明乃は艦橋を出てゆく。

「はあ・・・納沙さん後を頼む。」

晴風の指揮を幸子に託しましろは明乃を追って艦橋を出てゆこうとする。

「はい副長・・・それにしても簪さんとまたお話が出来るのは楽しみですね。」

タブレットを抱きしめながら幸子は何時もの1人芝居を始めてしまう。

「幸子さんお久しぶりね。」

「ああ簪さん、貴方は罪深いですわ、私をこんなに焦らして。」

「ふふふ・・・今夜は夜通し語り合いましょう、2人の未来を。」

2人は何時の間にそんな関係になったんだとましろを始めとした者達は突込みを入れたい衝動に駆られる。

こう言う所は海洋学校時代から変わっていない幸子だった、お陰でメンバーの中では浮きがちだった。

そんな幸子に簪は引く事も無くよく付き合っていた事をましろは思い出す。

「そ、それなら私も一杯お話したい事がありますって伝えて下さい副長。」

幸子の1人芝居に引きつつも鈴が言って来る。

何事にも後ろ向きだった鈴、そんな彼女を前向きにさせたのは、信頼してくれた艦長の明乃と何も言わず傍にいた簪の存在だった。

だから鈴にとっては明乃は尊敬出来る艦長、簪は常に傍に居て欲しい親友だった。

「おっと私達を忘れないで欲しいな、なあタマ。」

「うぃ。」

そして芽依と志摩。

無口で人と話すことが苦手な志摩のつたない会話にも簪は芽依と共に嫌な表情一つせず普通に会話していた。

芽依にしても自分のノリに苦笑しつつ乗ってくれた簪は得がたい友人の1人だった。

その辺のところをましろは卒業後知る事になるのだが、その時ふと思ったのは・・・

これ程個性的なメンバーがばらばらにならずに済んだのは簪が居たからではなかったのかと。

それは自分と艦長の明乃の間についても言える気がましろはするのだった。

「シロちゃん早くこないと先にかんちゃんの所いっちょうよ。」

「だから・・・今行きます。」

明乃の声にましろは慌てて艦橋を飛び出して行く。

 

晴風を降りた明乃とましろは係留されているそうりゅうの前に到着する。

「それにしても本当に大きな艦ですね。」

今更だがその大きさに圧倒されるましろだった。

「そうだね・・・これをかんちゃんが指揮を取ってるんだ。」

感慨深く見上げながら明乃を呟くと隣に立つましろに笑いながら問い掛ける。

「シロちゃん・・・かんちゃんまた再会出来てうれしい?」

「いやそんな事は・・・いや無い訳は・・・無いと・・・」

その問いにましろは動揺してどもってしまう。

「相変わらず素直じゃないなシロちゃんは。」

「か、艦長!からかわないで下さい。」

睨みつけてくるましろを見ながら明乃は笑みを強くする。

出会った頃は艦長としての在り方の相違からぎくしゃくした関係だったましろと明乃。

その為機関科の黒木 洋美(クロちゃん)との関係を含め、乗員達はばらばらになる寸前だった。

そんなましろと明乃の関係を変えてくれたのが他ならぬ簪だった、と言っても特別な事をした訳ではなかった。

ただ2人の間に入り、互いの認識が間違っている訳ではなく、どちらも大切だと気付かせてのだ。

ましろと明乃はその事でぎくしゃくした関係を脱し信頼感を築く事が出来たのだ。

それによって乗員達の相互不信は取り除かれ、卒業間際には優れたチームワークを発揮するまでになった。

明乃は思う、もし簪が居なければ私達は早々にばらばらになって、今の様に晴風で一緒に航海など出来なかっただろうと。

その点、明乃はましろと同様の認識を持っていたのだ。

だから卒業後、簪が北方海へ戻らなければならないと聞いた時、強い不安にましろと明乃は襲われた。

彼女が居なくなったら私達はまたばらばらになるのではないのかと・・・

まあそれがあって卒業式後のパーティ、簪の送別会も兼ねていたでは祝う気分など微塵も沸かなかったものだ。

そんな皆に簪は涙を堪えながらもこう言ったのだ。

「私達の絆はそんな簡単に消えません、皆さんはこれからも大丈夫です、そして分かれても私は皆さんの仲間ですから。」

その言葉で全員が大泣きしてしまったのは、今から考えると恥かしいが、良い思い出だった。

「艦長。」

そんな思い出に浸っていた明乃はましろの言葉に意識を引き戻しそうりゅうの方を見る。

甲板上に簪の姿が現れ、ましろと明乃手を振っている。

ちなみに服装は何時もの潜水艦専用のものではなく、IS学園の方だった。

流石に身体のラインがまともに出てしまう方を着て、同性で友人であっても前に出る度胸は簪には無かった。

「わざわざりがとうございます、岬艦長、宗谷副長お久しぶりです。」

「気にしなくても良いよかんちゃん。」

「ああ久しぶりだな更識艦長。」

簪の挨拶に対照的な返答をする2人。

「それじゃブルーマーメイド商会へ案内するね。」

ましろと明乃が先導して商会へ向かう3人、簪は今更ながらIS学園制服とブルーマーメイド制服の組み合わせに違和感が拭えない。

このゲーム世界では当たり前の事でも、ここへ来る前に両方のアニメを知っている身としては・・・

ブルーマーメイド商会は港の近くにありそれほど歩かずに到着できた。

受付で作戦部長とのアポを確認し、部屋へ向かうましろと明乃、簪。

「宗谷作戦部長、セキュリテイーブルーのかんちゃ・・・更識艦長をお連れしました。」

ドアをノックし明乃は危うくかんちゃんと呼びそうになるが何とか回避する。

流石に上司の前でそんな事は出来ないのは明乃にだって分かっているからだ。

「どうぞ入って下さい。」

その声にドアを開け3人は入室する。

「ようこそブルーマーメイド商会へ更識艦長、作戦部長を勤めます宗谷 真雪です。」

座席から立ち上がり机の前に出て来た宗谷作戦部長は微笑みながら簪を迎える。

「ありがとうございます、セキュリテイーブルー所属、そうりゅう艦長更識 簪です・・・ご無沙汰しておりました宗谷校長先生。」

そう宗谷 真雪は簪達が居た海洋学校の校長だったのだ。

校長先生との呼び掛けに真雪は更に笑みを深くして答える。

「ええ元気そうで何よりです更識さん・・・活躍の程はここ中央海でも聞いています、教え子のそんな姿は元校長としては鼻が高いですね。」

「きょ、恐縮です宗谷校長先生・・・いえ宗谷作戦部長。」

真雪の言葉に簪が顔を赤くしつつ答える。

相変わらずこの娘はこう言った賞賛の言葉に弱いのだなと真雪は微笑ましく思った。

「それでは改めて更識艦長・・・今回の戦術データ交換及び合同演習への参加を感謝します。」

 

そう簪が中央海を訪れた理由、それが対シーサーペントの戦術データ交換と幾つかの商会が合同で行なう演習への参加だった。

 

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