黒兎と灰の鬼神   作:アマシロ

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多忙すぎてⅢが起動できなくて『灰色騎士と黒兎』の方が書けませぬ……面目ない。
11月いっぱいはこれくらいのペースが限界っぽいです…。


その8:頼れるということ

 

 

 男爵邸前で、銃声と金属音が鳴り響く。

 ユミルの郷の全員が出揃ったのではというほどの多数の見物客の前で、涼しい顔で構えるリィンと、クレア、フィー、マキアス、エリオットによる模擬戦が行われていた。

 

 クレアから一切の油断なく戦術リンクを介して指示が飛び、いきなりフィーの身体がブレたかと思うと多数の残像が出現する。

 

 

「パーフェクトオーダー!」

「シャドウ――――ブリゲイド!」

 

「伍の型――――残月」

 

 

 

 対するリィンが取った行動は、刀を抜き放っての居合。

 しかし膨大な“気”を込められた抜刀は焔のような衝撃波を放射状に撒き散らし。技を中断することでなんとか避けたものの残像が消滅したフィーは、間一髪で地面を転がる。

 

 

 

「うおおおおっ!」

「響いて―――ノクターンベル!」

 

「螺旋撃」

 

 

 すかさず仕掛けたのはマキアスとエリオット。距離を詰めつつ散弾銃を放つマキアスに合わせて、催眠効果のある音波攻撃を仕掛けるエリオット。

 対するリィンは居合の勢いそのままに回転すると焔の竜巻を巻き起こし。力技で攻撃を吹き飛ばすと、そこを狙って叩き込まれたクレアの銃撃をも軽く躱す。

 

 

 

「……強すぎでしょ」

「うわー、あれじゃレクターでも歯が立たなさそう」

「ふむ……凄まじい風を感じるな」

「うへぇ、アーツまで斬ってるじゃねえか」

 

 

 

 呆然とそれを見ているのは、つい先程リィンに散々に打ち負かされたノルド組とついでにトヴァルであり。

 そうこうしてる間に切り札の<マキシマムショット>を使おうとしたマキアスがフィーの援護も虚しくあっさりとリィンに接近されて倒れ。それを回復しようとしたエリオットもクレアの射撃を冗談のような速度で掻い潜ったリィンに倒された。

 

 

 

「秘技――――裏疾風」

「シャドウ――――ブリゲイド!」

 

 

 

 二度目の正直というべきか。エリオットが倒される隙に、今度こそ切り札を切ったフィーに対してリィンもまた高速の斬撃で応じる。

 が、どういうわけか残像を無視して的確にフィー本人を狙うリィンの一撃目は避けたものの、追撃を躱し損ねたフィーは吹き飛ばされて地面に転がり。

 

 

 

「ミラーデバイス、セットオン。オーバルレーザー、照射!」

「――――無想、覇斬!」

 

 

 

 

 戦いの最中、少しずつミラーを設置していたクレアのオーバルレーザーが巨大な陣を描き――――それをリィンが真正面から叩き切る。普通は斬れるものではないのだが、観戦者たちも「リィンなら仕方ないか」と若干の諦めムードで。そして当然のようにその光に紛れてクレア本人も倒された。

 

 

 

 

 

 圧倒的な戦いぶりにユミルの人たちが拍手する中、アリサを始めとしたⅦ組メンバーは当然ながら浮かない顔で。

 

 

 

「くっ……今ほど戦闘にシャロンがいてほしかった時は無いかもしれないわね」

 

 

 

 何気なくアリサが呟いた一言に、リィンは気づいた。

 

 

 

(あれ…? そういえば“前”のノルドではシャロンさんに助けてもらったような)

 

 

 

 電光石火の攻撃で監視塔を落とした影響で、普通に入れ違いになってしまったらしい。面倒なブルブランを避けたインパクトが大きかったのもあるだろう。人知れずどんな影響があるかと冷たい汗を流すリィンだったが、それはそれとして例え今シャロンが加勢しても負けない自信はあった。

 

 

 

「……まあ、とはいえ約束は約束だ。悪いが皆にはユミルの守りを――――」

 

 

 

 と、リィンは何気なく自分の斜め後ろに立っているアルティナを見た。我関せず、という顔をしていたアルティナは、リィンと目が合うと言った。

 

 

 

 

「……? 捕虜ですし、わたしはリィンさんと――――」

「いや、今度はアルティナもユミルに残れ」

 

 

 

 僅かに間があった。

 何故か嫌がられるような気はしていたものの、リィンとしてはせっかくミリアムがいるのだからまた二人が仲良くなれる機会をできれば与えたかった。まさか特別演習の時と同じか、もしかするとそれ以上にショックを受けられるとは思っていなかったが。

 

 

 

「………え。………でも、わたしはリィンさんの捕虜で……」

「いや、捕虜だからだ。人数も増えたし、ミリアムに面倒を見てもらえばいいだろう」

 

「え、ホント!? アーちゃんと遊んでていいの!?」

「いや遊び……まあいいか」

 

 

 

 今度は厄介なマクバーンもいるので、アルティナは連れて行かない方が安全だろう。

 そう結論づけたリィンは――――おもむろに魔導杖を取り出したアルティナに、わずかに困惑した。

 

 

 

「……アルティナ?」

「……………わたしも、リィンさんから一本を取ることができれば連れて行って頂く権利があるかと」

 

 

 

 

 

 正直、これを却下するのは簡単だった。

 しかしリィンは一時期はアルティナの教官であり、その仕事にやりがいも見出していた。よって、やる気を見せたアルティナを無下にする気にもなれず。

 

 

 

「――――いいだろう」

「……では、失礼します」

 

 

 

「………なに?」

 

 

 

 リィンが頷くと、アルティナは小走りで走り去り――――。

 数十秒後。聞き慣れた音と共にユミルの裏手に運んで整備していた機甲兵ドラッケンがユミルに現れた。

 

 

 

「………いや、あのなアルティナ」

『―――――クラウ=ソラスがありませんので、これもわたしの戦力です』

 

 

 

 実は連れて行かないと言ったせいで拗ねてるのではないか、と思わせる若干不機嫌そうな声でアルティナは言った。

 

 

 

「だが、正直機甲兵で俺から一本取るのは無理だと思うぞ。……ヴァリマールを呼んだらどうするつもりなんだ?」

 

『リィンさんが搭乗する前に組み付きます』

 

 

 

 つまりいつか神機にやられたように搭乗させないということだろうか。

 若干、ここでヴァリマールを転移されて驚かせてみようかという気持ちも湧いたものの、リィンは脅すように冷たい視線で言った。

 

 

 

 

「――――つまり、それを壊しておけばマトモな戦力は無いと認めるわけだな?」

 

『……………機甲兵は役立てられると思うのですが』

 

 

 

 機甲兵の腕の一本や二本、簡単に斬れる。降りないなら斬る。せっかくクレイグ中将の好意で譲ってもらったものでも斬る。

 刀を構えたリィンに本気だと悟ったのだろう。諦めてドラッケンに膝をつかせたアルティナは、コクピットから降り。その一瞬の弛緩した空気に“起動済み”のARCUSを構えて言った。

 

 

 

 

「――――クロノドライブ」

 

 

 

 次の瞬間、これまでにない速さでアルティナが動いた。

 接近しての魔導杖の振り下ろしは、それこそリィンの<疾風>に匹敵するほどの速さで。激しい金属音と共にリィンとアルティナが刀と魔導杖を交錯させ、しかしはっきりとリィンが油断した状態でも、まだそれでもリィンの太刀の方が速い。

 

 それでも二発、三発と速度で劣るアルティナは何度か掠りながらも攻撃を捌き。腹部を狙った神速の峰打ちをもなんとか受け止めてみせた。

 

 

 

「――――まさか受け止められるとはな」

「………少しだけ、リィンさんの太刀筋は覚えました」

 

 

 

 アーツで加速しても追いつける気配のないリィンの素の速さがおかしいのだが、二人ともそこに頓着するつもりはなかった。

 

 杖ごと真っ二つにする気で斬りかかられるならともかく、峰打ちくらいであれば防ぐのは不可能ではないとアルティナは思う。

 普通はそれも至難の業なのだが、仮にも“前”も内戦ではⅦ組相手に大立ち回りをし、新Ⅶ組として多くの強敵と戦ったアルティナは手抜きと手加減をしたリィンと打ち合える程度には腕を磨いていた。

 

 <暗黒竜>が殺しに来るのに比べれば、怪我をさせないように無力化しようとするリィンの攻撃くらいはなんとか凌いで見せる、というのがアルティナの考えで。……それだと一本取るのは難しいので、機甲兵を使いたかったのだが。

 

 

 

 振り下ろし、逆袈裟、なぎ払い。

 太刀と魔導杖が激しく火花を散らし、クラウ=ソラスがある時よりもむしろ身軽な動きを見せるアルティナは、攻撃を受けつつ魔導杖で攻撃するという自爆寸前の攻撃も仕掛けるもののあっさりと躱される。

 

 とはいえ微妙な均衡は徐々に力を込めるリィン相手では長くは続かず。大きく一步踏み込んだリィンの振り上げで、甲高い音と共に魔導杖はくるくると回りながら宙に舞い―――――そして、その一瞬でアルティナはリィンの間合いに飛び込んだ。

 

 

 

 当然のように無手――――まさかの無謀かつ無防備な突進に、リィンが蹴り飛ばそうか逡巡する刹那にアルティナはそのままリィンの腰にタックルを仕掛けた――――!

 

 

 

 

 

 

「……………っ」

「………………いや、アルティナ?」

 

 

 

 

 

 ぽすん、と音を立ててぶつかり。

 ぐいぐい押してみる。ズリズリとアルティナの足が虚しく地面を削った。

 

 ならば足払いを、とそのまま足を絡めてみるが根を張った大樹のようにリィンはビクともせず。悲しいほどの非力さだった。

 

 

 

「……せぃっ!」

 

 

 

 とすん、と遠慮気味にリィンの腹部に打ち込まれた掌底のような何かは、内気功と単純な腹筋でノーダメージ。生暖かい目で見下ろすリィンと、若干涙目に見えなくもないアルティナの目が合い。こほん、と咳払いを一つ。

 

 

 

「――――――これで一本ですね」

「……いや、ないからな」

 

 

 

 ストン、と首筋にチョップを受けたアルティナはあっさり意識を失い。

 結局この日、リィンから一本を取れる仲間は一人もいなかった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

…………

 

 

 

 

 

(―――――どうすれば)

 

 

 

 アルティナは焦っていた。

 あの後、なんとかリィンを一人にしないために一番戦えそうな選抜メンバーとしてアルティナ、クレア、トヴァル、フィーの四人でリィンに戦いを挑んだのだが。結果はいきなりの<刻葉>で全員ノックアウトという散々なもので。それってリィン教官が鋼の聖女に挑んだ後に使い始めた技では、と思いはしたもののあのリィンさんならやりかねない。

 

 

 

(……いえ、それよりも問題は“火焔魔人”ですね)

 

 

 

 

 正直、むしろノルドなら<怪盗紳士>くらいしか強敵がいないこともあって心配はなかった。しかし火焔魔人ははっきりとレベルが違う。リィン教官と腕を上げた旧Ⅶ組が、魔女の技で黒い焔を押さえ込んでようやく戦うことができるのだ。

 

 

 

(―――――ただ、正直リィンさんが教官の時より強いような…?)

 

 

 

 少なくともリィン教官はリンク切断なんていう意味不明なことをしていた覚えはない。何があったのかはとても気になるものの、もしかすると噂に聞くリィンさんの師匠と修行していた期間が長かったとかなのかもしれない。アルゼイドの方も僅かな期間で凄まじい変わり様でしたし、と自分を納得させたアルティナが考えるのは、やはり火焔魔人とリィンが戦ったらどうなるかで。

 

 

 

 

(……やはり、リィンさんが強くとも相手をやる気にさせてしまうだけですね)

 

 

 

 人の身で勝つにはあの焔は強すぎる。

 どうにかして封じなければそれこそ身が持たないだろう。

 

 残っているメンバーから合流するのはアルバレアの御曹司と魔女の眷属、そしてアルゼイドの継承者。相手は確か記憶から<神速の>と<火焔魔人>の二人のはずである。メンバーは悪くないものの、現段階でのⅦ組の戦力を考えるとリィンさんの負担が重すぎる。

 

 そんな危険な場所に、何も知らないリィンさんを送り出すことを考えると耐えられそうになく。悩んだ末に、アルティナは話せる限りのことを話すことに決めた。

 

 

 

 

 もう夜も更けて、お風呂にも入って後は寝るだけ。

 ちょうどリィンが布団を敷いた、そんな他に誰もいないタイミングで話を切り出した。

 

 

 

「――――…リィンさん、その。バリアハート付近、というよりアルバレア公爵の近くに結社の執行者NO.Ⅰがいる可能性があります」

「……それで?」

 

 

 

 帰ってきたのは冷たい、興味の無さそうな声。

 若干気圧されたが、なんとかその危険性を説明しようと試みて。

 

 

 

 

「……あれは、人の身で敵う相手ではないかと。リィンさんが強くともきっと、接近することすら困難で――――」

「はあ。それで、だから誰か連れていけと? 俺から一本も取れないのにか?」

 

 

 

 

「………わたしなら、補助アーツでリィンさんの手助けが――――」

「必要はない。そんなに心配なら俺が死んだらクラウ=ソラスは返すように手配しておく」

 

 

 

 

 バッサリと切り捨てられ、愕然とした。

 わたしはクラウ=ソラスのためにリィンさんを心配していると思われていたのだ、と気付かされたから。

 

 

 

 突き刺されたように胸が痛い。

 そうじゃないのだと、リィンさんのために何かしたいと、言いたかった。

 

 

 

(……でも、何と説明すれば…? 『未来でリィンさんのパートナーでした』なんて説明しても)

 

 

 

 信じてもらえない。

 

 説得しようにも理由がない。

 仮にもアルティナはクラウ=ソラスを人質に脅されている立場で。そんなところに「リィンさんが心配なんです」と言ったところで誰が信じてくれるというのか。

 

 

 

(……リィン教官、なら……)

 

 

 

 リィン教官なら、わたしを知っているリィンさんなら。

 それなら信じてくれただろう。

 

 

――――そう。いつかリィンさんが認めてくれた“パートナー”としての立場も。仲間として、教官と生徒として向けてくれた優しさも、もう此処には無い。

 

 

 

 

 

 気づいていなかった。気づかないようにしていた。

 死んでしまってから、もうずっとわたしは『独り』だったのだ。

 

 

 

 ユウナさんも、クルトさんもいない。

 ミリアムさんも、アッシュさんも、ミュゼさんも。レオノーラさんたち、分校の皆さんも。わたしの知っている“リィンさん”も、もういない――――。

 

 

 

 

「…………アルティナ?」

 

 

 

 不意に、どこか心配そうなリィンさんがこちらを見ているような気がした。

 でも、違う―――そうして初めて、死んでしまったことを後悔した。

 

 視界が滲んで、勝手に嗚咽が漏れる。

 

 

 

 

「アルティナ……なんで、泣いて――――」

 

 

 

 

 泣いている? ……泣いているのだろうか。

 わけも分からず、溢れる涙に呆然としていると、慌てて立ち上がったリィンさんに抱き寄せられて。勝手に溢れ出した言葉が、嗚咽と一緒になって口に出た。

 

 

 

 

 

「………だ、って………わたし、リィンさんしか…っ」

 

 

 

 

 

 リィンさんしか、いないから。

 

 ………結局、“前”もそうだった。

 ミリアムさんにクレアさん、<鉄血の子供達>は鉄血宰相に従って。<黒の工房>にとっても、わたしは“剣”にするための素材でしかなかった。

 

 

 生まれた場所も、上司も、仲間も頼れない。

 だから、頼りにできるのは、リィンさんしかいなかった。だから、支えたかった。リィンさんのためにできることをしたかった。

 

 

 

 だから。だからもう失いたくない。

 

 

 

 

「……………おいて、いかないで……ください…っ」

 

 

 

 

 

 わたしを、ひとりにしないで。

 

 

 

 

 

 

 衝動に突き動かされるままに、リィンさんに抱きついて。

 そのまま声を押し殺して泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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