黒兎と灰の鬼神   作:アマシロ

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そういえば元々はアルティナ一人称の小説でした。





その10:鬼と魔人と

 

 

 

 

 

 

―――――リィンさんが睨むと魔獣が逃げ、リィンさんが剣を振るうと衝撃波で人形兵器が真っ二つになり、リィンさんが斬りかかると手配魔獣が絶命する。

 

 

 

(…………出番がありません)

 

 

 

 バリアハートに行ったというⅦ組最後のメンバー、ユーシス・アルバレアさんを追ってレグラムからバリアハートまで、順調過ぎるほど順調に来ていた。ひたすらにリィンさんが障害を薙ぎ払うという形で。楽すぎて正直これでいいのかという思いもあるのですが。

 

 似たようなことを考えたのか、引き攣ったような笑みを浮かべるエマさんと目が合う。そして何やら瞳を輝かせて頷いているラウラさんにはきっと剣士じゃないと分からない何かがあるのでしょう。

 

 

 

『ねえ、もう全部アイツ一人でいいんじゃないかしら』

「駄目ですよ、セリーヌ。リィンさんが引き受けて下さっている間に、私たちはバリアハート潜入の準備をしておかなくては」

 

「リィンさんの強さには同意しますが、結社の<執行者>相手では流石に苦しいかと。……とはいえ、あの様子では一部の執行者を除けば問題ないのかもしれませんが」

 

「うむ。私もあれくらいの境地に至りたいものだ……」

 

 

 

 

 あのリィンさんのパートナーになろうとしたら、わたしも人間を辞めないといけないのでしょうか。元から厳密には違うとはいえ、微妙に厳しいような…?

 

 というか、なんとかクラウ=ソラスを返してもらわないとリィンさんの戦いについていける気がしません。一体どうすれば返してもらえるのでしょうか………。

 

 

 

 

『―――――君自身の“理由”を示して欲しい』

 

 

 

 

 思い出すのは、いつかリィンさんに言われた言葉。

 夏至祭でも『リィンさんと一緒にいたい』ということを伝えて……その後、色々あって叶わなかったものの、いっそ素直に言ってしまった方がいいのかもしれません――――。

 

 

 

 

(………………“前”は、ここまで悩むことも無かったのですが)

 

 

 

 

 なんだかんだと、ずっとリィンさんのパートナーとして行動させていただいて。わたしもパートナーとして自信が持てて、リィンさんに夏至祭に誘ってもらえたから“勇気”が持てた。けれど、“こちら”ではそういうことは一切なく。

 なので、何故そういう風に思うようになったのかと聞かれてしまうと………。

 

 

 

 

(………改めて考えると“以前”もよく分かりませんね)

 

 

 

 

 不埒で、お人好しで。わたしに任務が全てでないことを教えてくれた人。

 リィンさんがわたしのために色々としてくれるから、わたしもリィンさんのためにできることをしたいと思った。……のだろうか? なんとなくそれだけだと“思いたくない”ような微妙な気分になる。

 

 

 

(やはり、“感情”というものはよく分かりません)

 

 

 

 人質?になっているクラウ=ソラスの代わりにできるものでもあれば、とも思うものの残念ながらそもそも所持品が全くない。大切なのはリィンさんと“Ⅶ組”の皆さん……あとはミリアムさんくらいで。

 

 

 

(どうすれば、リィンさんに――――)

 

 

 

 

 

 話せないことがありすぎて、言葉で信じてもらえるとは思えない。

 証明できるものはない。だから、きっと。行動で示すしかなくて。

 

 

 

 

 

(―――――なら、わたしがリィンさんを、守る。守ってみせます。信じてもらえるように。このあたたかな気持ちが、リィンさんに伝わるように――――)

 

 

 

 

 例えそれが、絶対に敵わない相手だとしても。

 もしも、それで命を落とすことになったとしても。

 

 

 

 

――――――今なら、わかる。

 

 

 

 

 どんなに別れが悲しくても、それまでの全てを失っても。

 何度繰り返しても。それでもわたしはきっと、リィンさんを守りたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私たちは、怪しいものではありません――――』

「……何をボーっと突っ立っている。さっさと入るがいい」

「街の中では騒ぎを起こすなよ」

 

 

 

 

 そうして考え込んでいる間にエマさんの魔術で、4人という微妙に多い人数でもバリアハートの中に潜入することに成功する。……ユーシスさんを説得するのなら、ミリアムさんを連れてきた方が良かったでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

………

 

 

 

 

 そして、四大名門という立場故に迷うユーシスさんはリィンさんにレースからの決闘を申し込み。

 オーロックス峡谷道へと来たのですが……。バイクと馬。そしてリィンさんと決闘。それは控え目に言っても。

 

 

 

「――――…無謀では?」

「あはは……」

「……私もリィンに手合わせ願うべきであったか」

 

 

 

 知らないということは恐ろしいですね。

 遠い目をするわたしとエマさん、そして残念そうなラウラさん。

 「うわぁ」という視線に微妙に困惑したようなユーシスさんですが、そのバイクは馬より速いので二重の意味で勝ち目はないかと。

 

 とりあえずある程度散らばってレースを観戦することになり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 リィンの一太刀でユーシスの剣が弾かれ、地面に突き刺さる。

 雲をつかもうとするかのような、圧倒的な実力差――――洗練され、強い“意志”を感じさせる剣に、ユーシスは敗北こそしたものの迷いを真っ向から切り裂かれたように晴れ晴れとした顔をしていた。

 

 

 

「―――――勝負あり、だな」

「……流石だな。八葉一刀流、少し見ない間に随分と腕を上げたようだ……まさか、一太刀たりとも届かないとはな」

 

 

「………それは仕方がないかと」

「リィンさんですしね……」

「うむ。リィンだからな」

 

 

「一体何があったというのだ……」

 

 

 

 完全に諦めムードの仲間たちに、見慣れぬ銀髪の少女。

 ユーシスは色々と言いたいことはあったものの、そんな空気を遮るように唐突にリィンが厳しい表情と共に言った。

 

 

 

 

 

「――――これは!? みんな、下がれ!」

 

 

 

 

 不意に、全員に“寒気”が走った。勘が鋭いとか鈍いとか、そういった次元ではなく。

 生存本能が悲鳴を上げるような、まるで溶けるほど熱せられた鉄に触れてしまったかのような嫌な感覚。

 

 “それ”が来ることを予測していたアルティナでさえ、魔導杖を構えることしかできないほどの圧倒的な存在感。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――まさか、良い意味で予想を裏切られるなんてな」

 

 

 

 青と赤、特徴的な髪色に、気怠げな雰囲気。

 それらが特徴的な“筈”の男――――<火焔魔人>マクバーンは、恐らく滅多にないだろう好戦的な笑みを浮かべてやや離れた崖の上に立っていた。

 

 

 

 

 

「<劫炎>…!」

「この距離で、これほどの存在感だと…!?」

『くっ、なんて力…!?』

 

 

 

 ユーシスが唖然とするのも無理はなく。

 ラウラでさえ剣を向けることを躊躇うほどの濃密な殺気。そして<魔女の眷属>であるエマでさえ驚くほどの異能の気配。

 

 

 男は何気ない様子で飛び上がると、軽々とリィンたちの傍に着地し。

 身体から禍々しい焔を噴き上がらせつつも言った。

 

 

 

 

 

「クク、その剣技――――雰囲気は違うがレーヴェの阿呆を思い出すぜ」

 

 

 

 圧倒的な威圧感。それでいて本当に嬉しそうにリィンを見て好戦的な笑みを浮かべる男に、ラウラたちが身構えるもののリィンが手で制する。

 

 

 

 

「俺はマクバーン。執行者NO.Ⅰ、<劫炎>なんて呼ばれているんだが―――――あの阿呆が死んでから随分と退屈してたんだ。ちょいと付き合えよ」

 

 

 

 

 レーヴェ――――剣帝と呼ばれた男。

 色々あって彼の幻影のようなものと戦う機会があったリィンから見ても、純粋な剣技だけで彼に届けたとは言えない。方向性こそ全く違うものの、ユン老師と同じく最高峰の使い手と呼ぶべき剣士。

 

 力を磨き、人外の領域に踏み込んだことで改めて目の前の男の規格外ぶりを思い知らされたリィンは、苦笑のようなものを浮かべつつ言った。

 

 

 

 

「期待は重いが、ここは切り抜けさせてもらう!」

「言ってくれるじゃねぇか――――」

 

「―――ちょ、ちょっと待ってください! 何を勝手に始めようとしているんですの!?」

 

 

 

 と、その真剣な空気を引き裂くような叫び声。

 

 

 

「………なんだ、何か用か?」

 

 

 

 空気を読めよ、とでも言いたげにマクバーンに冷たい視線を向けられるのは、普通に仲間であるはずの<神速>のデュバリィ。サラッとリィンにも忘れられかけていたデュバリィは、慌ててて崖から飛び移って来つつ言った。

 

 

 

「“何か用か”、じゃありませんわよっ! 何を普通に任務を忘れてるんですか!」

「はあ? ……ああ、何か回収がどうとか……俺はコイツとやりあってるから勝手にしてくれ。ガキ共相手なら余裕だろ」

 

 

「――――あなたが本気で戦ったらそれどころじゃないのが問題なんですわ!」

 

 

 

 

 デュバリィの必死過ぎる叫びに、流石に面倒になったのか肩を竦めて一步下がったマクバーンと交換で、心なしか顔色が悪いデュバリィがリィン達に一步近づく。

 

 

 

「――――さて、要件というのは他でもありません。<黒兎(ブラックラビット)>、要件は知らないですが、参謀殿から『早く帰るように』との命令です」

 

 

 

 

 その言葉に、リィンがアルティナに視線を向け。釣られて仲間たちがアルティナを見たところで、アルティナは僅かに困惑したように言った。

 

 

 

 

「……はあ。すみませんが、任務で忙しいのでまたの機会ということで」

「ええい、だから帰るのが任務になったと言っているんですわ!」

 

 

 

 と、言ったところでリィンから殺気を向けられて半歩下がるデュバリィだが、仮にも<鉄機隊>の筆頭として踏みとどまる。

 アルティナはわずかに考えるような素振りを見せつつ、純粋に疑問に思ったことを言った。

 

 

 

「……“本体”であるクラウ=ソラスが無いですし、わたしを回収する意味はないのでは?」

「詳しくは知りませんが、予備がどうとか……とにかく戻ってこいだそうです!」

 

 

 

 

 

 この瞬間、リィンは例えマクバーンを“その気”にさせるとしても<鬼の力>を使うことを決めた。これ以上余計な話をされて、アルティナに帰る気になられるとロクなことにならないと直感したためである。

 

 息を吸い、吐き出す。

 呼吸法によって精神を統一し、そこから一気に“力”を引き出す。“神気合一”――――精神と内なる鬼の“気”を合わせて一つとするそれは、言うなれば身体を別のものと混ぜ合わせるに等しい。

 

 本来の身体と合わない“鬼の力”は徐々に染み込み、戻れない領域に引きずり込もうとするだろう。リスクを払わない力など無く――――しかし、これはリスクに見合うだけの力だった。

 

 

 

 

 

「――――“神気、合一”」

 

 

 

 マクバーンに負けず劣らずの禍々しいオーラがリィンの身体から噴き出すと黒髪は白く変色し、瞳は燃え上がるような真紅へ。

 

 

 一步、前に出る。爆発的な“気”の奔流にアルティナが、マクバーンが、デュバリィが反応するよりも疾く一步踏み出す。

 風よりも疾く、音よりも疾く。

 

 一切の無駄を削ぎ落とし、辿るべき道筋を無意識に選択する。

 それを繰り返せば“疾い”剣となる。無駄の無い剣技こそ全ての基礎であり。それを極限まで突き詰めた剣技は神速に至る――――。

 

 

 

 

『二の型、<疾風>!』

「―――――ぐっ!?」

 

 

 

 

 故に、それを防げたのは<神速>の異名を持つデュバリィだからこそ。

 まだ油断のあったマクバーンになら一太刀入ったかもしれないその一撃を――――そんなものが入った暁には一面が焦土になるだろうが――――デュバリィはほとんど身体に染み付いた反射で剣を振り上げて防いでみせた。

 

 防ぎきれずに地面を転がりこそしたものの、<鋼>や<剣帝>に打ちのめされ続けてなお鍛錬を続けた経験から素早く起き上がって叫ぶ。

 

 

 

「い、いきなり斬りかかるなんて卑怯ですわよ!」

『――――疾いな。んで小僧、そこの兎を返すつもりはないってことでいいんだよな?』

 

 

 

『ああ、渡すつもりはない。――――例えそれが参謀だろうと、宰相だろうとだ。連れ帰るというのなら、俺を倒してからにしてもらうぞ』

 

 

 

 視界の端で、帰りたくないのか何故か嬉しそうに見えるアルティナはとりあえず逃げそうにないので放置することに決め、マクバーンに向き直り。

 

 

 

 

 

 それを見たマクバーンは焔の“質”を変える。

 ただの禍々しい焔から、全てを焼き尽くす<劫炎>へ。その焔は離れていても肌を焦がし、景色を歪ませ、それを見たデュバリィは焦って叫んだ。

 

 

 

「ちょっ―――!? 話を聞いてくださいというか、わたくしまで巻き込む気ですの!?」

『テメェの足の速さなら問題ねェだろ。さァて、小手調べだ。簡単に燃え尽きてくれるなよ…!』

 

 

 

 

 マクバーンが腕を振う。

 火柱というのも生ぬるい、焔の渦が生きているかのようにリィンに向かう。普段と比較して油断のないその焔は並のアーツを上回るだろう速度で飛来し。

 

 躱しても熱に焦がされ、防ごうとすれば溶かされる。

 全力で逃げるくらいしかできることはないだろうその一撃に、リィンは真正面から刀を振るうことで応じる。

 

 

 

『八葉一刀流、一の型―――――<滅・螺旋撃>!』

 

 

 

 

 焔を纏った太刀が描くは“螺旋”――――マクバーンの劫炎と比較すれば流石に劣っているとしか言えない焔が、渦となってそれを呑み込み、一切の被害を生じさせずに霧散させる。

 

 

 

 

『―――――来い、ヴァリマール! 皆下がってくれ、隙を作ってここを離脱する!』

 

『ハッ、そう簡単に逃がすと思うなよ!』

 

 

 

 

 言いながら放たれるのは、多数の炎弾。囲い込むように放たれたそれらは螺旋撃で防ぐには範囲が広く。リィンは即座に納刀すると、太刀に風をまとわせて抜刀する。

 

 

 

 

 

『伍の型―――――<風月>! ォォォオオオッ! <滅・緋焔烈空>!』

 

 

 

 切り裂かれた風が防壁となって焔を遮り、返す刀で防いだ焔をも巻き込んで衝撃波を飛ばす。それは一直線にマクバーンに向かい――――。

 

 

 

『利用するのは悪くはないが――――その程度で俺は止まらねェぞ!』

 

 

 

 マクバーンの焔が一層強まり、それだけで衝撃波が掻き消される。

 が、当然近くにいるデュバリィも吹き飛ばされるわけで。

 

 

 

「ちょっ!? ああもう! こんなところにいられるわけないですわっ!?」

 

 

 

 ほうほうの体で崖から飛び降りて焔から逃れたデュバリィを視界に入れつつも、マクバーンは更に焔を強め――――。

 

 

 

『刹ッ―――――!』

 

 

 

 右手から放たれるのは、更にこれまでを上回る焔。

 もはや太陽を思わせる強烈な熱気に、近づいただけでタダでは済まないと感じさせられる禍々しさ。しかし最も恐ろしいのは、“これでもまだ本気ではない”と感じさせられることか。

 

 

 

 このままでは防ぎきるのは難しい――――マクバーンを納得させるには一撃加えるしかないと直感したリィンは、喰らえば死は免れないだろう一撃に対して前に出た。

 

 

 

 

『蒼き焔よ、我が剣に集え――――――斬ッ!』

 

 

 

 蒼炎の太刀―――――蒼い焔が劫炎を切り伏せ、道を拓く。

 それを見て笑みを深めたマクバーンが左手に用意していた焔を解き放ち。

 

 

 

 

『劫ッ―――――!』

『秘技――――裏疾風!』

 

 

 

 一撃、二撃、蒼炎を纏ったままの太刀で放たれた焔を三つに分断して消滅させ。それらを纏わせた焔でマクバーンに斬りかかる。

 

 

 

 

『―――――ォオオオオオッ! 滅・緋空斬!』

『ぐうっ……!』

 

 

 

 風と焔を纏わせた太刀がマクバーンの焔に激突し、その焔を斬り裂く――――その寸前で、マクバーンが後ろに跳ぶ。それによって均衡が崩れ、弾き飛ばされて岩壁にぶつかったマクバーンは膝を突く。

 

 

 

「す、凄い……」

「くっ、割り込める隙がないとは……」

 

「――――あれは…!」

『嘘でしょ―――あの剣は…?!』

 

 

 

 セリーヌが驚くのも無理はなく、立ち上がったマクバーンがどこからともなく抜き放ったのは“この次元には存在しないはず”の剣で。

 その剣を握ると同時に、赤黒い剣が不気味な漆黒に変わり―――――その纏う焔すらも、不吉な黒焔に変化する。

 

 

 

 

『<魔剣アングバール>――――俺との相性が“良すぎる”せいでこうなっちまうが――――その剣じゃあ俺は倒せないぜ』

 

 

 

 言いながら振るわれた衝撃波を、再びリィンが切り払い――――そして、その瞬間に顔を顰めた。

 

 

 

 

『これは――――っ!?』

 

 

 

 ゼムリアストーンの亜種から造られた、およそ最高峰と言っていい太刀。元々の耐久性に合わせ“気”と纏わせた風によって保護していた刀身。それが赤熱してしまっている。

 この状態で魔剣と打ち合ったが最後、耐えきれずに刀身を斬られるだろうと直感する。咄嗟に振るうことで熱を追い払うが、マトモに打ち合うには太刀は繊細すぎた。

 

 

 

 

『お前さんが<ケルンバイター>でも持っていればいい相手になったのかもしれないが――――コイツで終わりか』

 

 

 

 どこか残念そうにつぶやいたマクバーンが、普段のやる気の無さからは考えられないほどの速度で斬りかかる。対するリィンは後ろに下がりつつも受け流すように太刀を構え―――。

 

 

 

 

 

 

 

 一撃、二撃、三撃。

 どちらかといえば力任せなマクバーンの剣だが、その纏った高密度の焔は鎧となって攻撃を阻み、アングバールの焔は相手の防具など意にも介さない。

 

 

 

 極力刀身で受けずに躱し、接触を最小限にすることでなんとかマクバーンの連撃を防いだリィンだが、ついにゼムリアストーンの太刀の赤熱が限界に達し――――これ以上はもたないと見たリィンは、その太刀を投げ捨てる。

 

 

 

 そして、そのまま鞘を手に取り――――。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――リィンさんっ!」

 

 

 

『――――なっ!?』

『チィ―――ッ!』

 

 

 

 黒ゼムリアストーンを収めるために十分な硬度を持った太刀の鞘と、アングバールが激突するまさにその瞬間。アルティナが間に飛び込み――――リィンが“変わった”。

 

 

 

 

 焔はマクバーンと同じく禍々しい黒へ。瞳も同じく赤黒く変色し、右手でアルティナの襟元を掴んで地面に引き倒し、左手一本で振るった鞘で、若干剣の勢いを緩めていたマクバーンを弾き返す。

 

 

 

 

「……り、リィンさん――――」

『邪魔だ、下がっていろ!』

 

 

 

 アルティナをラウラに向かって放り投げ、危なげなくキャッチされるのを確認しつつ投げ捨てていた太刀を拾う。

 その様子を見て、マクバーンは弾き飛ばされたのを気にする様子もなく、ただただ嬉しそうに言った。

 

 

 

『―――――まさか、ほとんど“全部”だったとはな』

『………アンタほどじゃないさ。邪魔を入らせて悪かったな』

 

 

 

『ハッ、そんなことより隠し通すつもりでいやがったな。礼としてさっきの小兎は放っておいてやるが―――――もうちょい付き合ってもらうぞッ!』

『やむを得ないか―――』

 

 

 

 マクバーンの手に集まるのは、黒き太陽とも言うべき“異能”の一つの極地。マトモに喰らえば<光の剣匠>であってもタダでは済まないだろう一撃。

 対抗するように蒼い焔を噴き上がらせ、身に纏わせるリィンは、加速しつつ飛び立つ。

 

 

 

 

 

『此処に八葉の銘を示す――――無念無想、我が太刀は<無>!』

 

 

 

 

 “気”を流し込まれ、光を放つゼムリアストーンの太刀とアングバールが激突し、その余波で山が吹き飛び、崩れ、溶け落ちる。一撃、二撃、三撃。互いに”本気”になったことで互角にまで持ち込まれた戦いは一撃重ねるごとに激しさを増し、オーロックス峡谷道が崩れた山と溶岩で埋まっていく。

 いつの間にやらオーロックス砦にいたのだろう機甲兵が駆けつけて巻き込まれかけていたが、それに構わず激突する<魔人>と<鬼>は、ただ互いを確かめるかのように剣を振るう。

 

 

 

 

『―――――ク、ハハハハハッ! いいじゃねぇか灰の小僧…ッ!』

 

 

 

 

 嗤うマクバーンに対して、冷静にヴァリマールが来たことを感じ取ったリィンは大きく後ろに下がると、より一層強い“気”を練り上げつつ言った。

 

 

 

 

『悪いが、これ以上アンタと遊んでいる暇はない―――速攻でカタを付けさせてもらう!』

『いいぜ、やってみろよ。――――テメェが燃え尽きる前にできたらなァ!』

 

 

 

 太刀を振るう。

 風が巻き起こり、纏っていた蒼い焔が細波となって黒い太陽で塗りつぶされた峡谷に僅かに広がる。

 

 

 

 

『――――八葉が太刀は“無”にして“螺旋”――――オオオオォォ…ッ』

『オラ、オラオラオラオラ! さァて、こいつで仕上げだ!』

 

 

 

 闘気が渦巻き、蒼い球体へ。そのままリィンは加速しながら一直線に黒焔の奔流に向けて駆け出し。闘気を激しく渦巻かせながら、今にも黒い太陽を放とうとする焔の魔人に向けて飛び立つ。

 

 

 

 

『一の太刀――――鳳凰裂波ッ!』

『ジリオン――――ハザード!』

 

 

 暗雲を吹き散らすが如く、黒い焔を吹き散らして蒼い焔の鳳凰が羽撃く。

 迎え撃つのは黒き太陽。膨大な熱量によって視界が歪み、焔に触れていない場所さえも圧倒的な熱量に晒されて灰になる。

 

 蒼い焔と黒い焔は拮抗し、それを見た魔人は嗤いながら次の太陽を生み出す。

 その程度が全力ではないと示すように、それで全力なのかと試すように。

 

 

 

 

 

『そら、もう一丁追加だ! ジリオン、ハザードォォッ!』

 

 

 

 

 鳳凰に食らいついた黒い太陽を更に飲み込むように、一回り大きな太陽が現れる。そのあまりの熱量と輝きに周囲の地面は溶岩となり、空の太陽すらも霞む。

 

 

 

 

 それを見たリィンは、強引に一個目の太陽を斬り払うと反動で鳳凰から離れ、そのまま岩壁の上に立って剣を掲げた。

 

 

 

 

『風巻く光よ、我が剣に集え―――――二の太刀、風神裂波!』

 

 

 

 

 鳳凰が太陽に飲み込まれたその瞬間、岩壁から飛んだリィンは一陣の風となってその全てを斬り裂く。多少の焔に焼かれつつもマクバーンにそれらの風と焔を全て叩きつけると、流石の魔人も吹き飛ばされ。

 

 

 

 

『グッ―――――やるじゃねえか』

『……っ、無茶苦茶な。だが―――』

 

 

 

 

 

 とりあえず一撃与えたリィンだったが、近づいただけで既に腕が火傷のような状態になったため深追いを避けてヴァリマールの元に戻ると、既に起動していた“精霊の道”によりその場を離脱するのだった。

 

 

 

 

 

 

『まあ、いいか。―――またすぐに会うことになるんだ。せいぜい楽しみにさせてもらうぜ』

 

 

 

 

 

 

 そんな、魔人の不吉なつぶやきを残して。

 

 

 

 

 

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