黒兎と灰の鬼神   作:アマシロ

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仕様上仕方ないのですが、見かけ上の胸糞注意。
仕方なかった……ファル○ムがヤツをあんなに追い込むから!
俺はやりたくなんてなかったんだ許してくれ!








その1:交渉失敗

 

 

 

「リィン、いくらなんでも婦女子に対してそんな行動は……」

「……すみません、父さん。けど妙な行動を取られても困るので。それより父さんは母さんをお願いします」

 

 

「………むぅ」

「り、リィンさん! その方をどうするおつもりですか!?」

 

「どうって……いえ、アルフィン殿下。そんな悲壮な顔をなさらなくとも」

 

 

 

 目隠しをされて目が見えない、ということは相当なストレスだ。とよく言われる。

 しかしアルティナに言わせれば「クラウ=ソラスとのリンクが切られるよりマシかと」というところだった。

 

 常に自分と共にあった半身――――というか、“マシン-マンインターフェス”と言ったこともあるように極論すれば本来の役目からすれば本体はクラウ=ソラスの方と言ってもいい。

 もう一個あった自分より強くて丈夫で色々できて頼りになる身体が無くなった、と言っても全く共感はしてもらえなさそうではあったが。

 

 

 なんてことをつらつらと現実逃避気味に考えていると、

 

 

 

(―――――――そういえば、この抱えられ方はいつか皇女殿下がされていた『お姫様抱っこ』と俗称されるものでは?)

 

 

 

 

 

 いや、あれはパンタグリュエル艦内だったのでまだしていないのか。

 どきり、と心臓が跳ね、いつだか……遠い昔のように感じる、リィンさんに「タックル」した時のことを思い出す。

 

 

 

(……あれも相当な『勇気』が必要でしたが………否応なしに、というのは)

 

 

 

 あのタックル……ミリアムさんがするような抱きつき行為も、とても心臓に悪かった覚えがある。いや、やはりこちらの方が心臓に悪いかもしれない。

 見えない喋れない動けない。リィンさんの腕で体重を支えられて、好き勝手に運ばれるのをただ享受することしかできない。

 

 

 

(―――――不埒、ですね……)

 

 

 

 まあリィンさんだから仕方ないですが、とこの人が全くリィンさんらしくないことには目を背けておく。……いや、わたし以外には案外普通のような?

 

 

 

「ですから殿下、きちんと話が終わるまでは下手に暴れたりされないようにするだけですから」

「でしたらリィンさん、わたくしも横で見ていても構わないですよね?」

 

 

「それだと尋問にならないんですが……」

「じゃあエリゼに見ていてもらいます」

 

 

「いえ、本当に信じて下さい。乱暴なことは一切ないです」

「むむむむむぅ。………後でエリゼに言いつけちゃいますから」

 

 

 

 どうやら皇女殿下もリィンさんを止められないらしい。

 リィンさんなら確かに乱暴はしそうにないですが、そもそも縛り上げられてる時点でおかしいですよね。目隠しと猿ぐつわは明らかに異常なのでは。

 

 いや、ジュノー海上要塞では縛る程度は北の猟兵にしていたような。

 …………わたし、あれより上のレベルなのでしょうか。

 

 

 

 胸がもやもやどころかどんよりしそうな事実だった。

 そのまま大人しく男爵邸の中に運ばれ、階段を昇り、何かの部屋の中に入り。なにか柔らかいもの――――ベッドか何かの上に降ろされ。

 

 ここまでは良かった。けれど、ひょっとして元のリィンさんに戻ってくれたのでは、などと甘い夢を抱いていたことをすぐに思い知らされる。

 

 

 

 

 

「さて、嘘を吐いたり下手な真似をしたらあの<戦術殻>を破壊する」

「―――――え?」

 

 

 

 今、なにを言われたのだろう。

 頭が認識することを拒否するが、二度、三度と思い返しても内容は変わらない。聞き返そうとすると、引き攣ったような音が喉から絞り出される。

 

 

 

「………なん、で」

「なんでも何も、大事なものなんだろ? 一番大事なもので交渉するのは基本だ」

 

 

「だ、だって。クラウ=ソラスは――――クラウ=ソラスがいないと、わたしは…っ!」

 

 

 

 

 わたしは――――どうなってしまうんだろう。

 

 造られた役目も果たせなくなる。リィンさんを支えることもできなくなる。Ⅶ組に入ることも、任務で各地を巡ることも、何も。何も。何も! 何もできない、何の意味もない、何にも必要としてもらえない!

 

 

 

 意味の無い音が喉を揺らし、身体が勝手に震え始める。

 目の前にいる、リィンさんの姿をして、リィンさんの声をして、リィンさんの名前をしている“誰か”に初めて恐怖を抱いた。

 

 

 

「………やめ、て。やめてください…っ、それだけは………!」

 

 

 

 震える声で、みっともなく懇願する。

 だから、その声は甘い毒のようにわたしの思考を鈍らせた。

 

 

 

「――――なら、分かるだろ? 素直に従ってくれればいいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

「所属と名前は?」

「……<黒の工房>から貴族連合に貸与された身分になります。アルティナ=オライオンです」

 

 

「誰の指示でユミルに来た」

「……ルーファス・アルバレア卿です」

 

 

「任務の目的は?」

「………皇女殿下の“保護”です」

 

 

 

 一瞬、迷う。

 しかしアッシュさん達がエリゼ・シュバルツァー嬢に関してはリィンさんに冗談とは思えない圧力を掛けられていたことを思い出し、言わないほうがいいだろうと―――。

 

 刀を抜くを音と共に―――――キン、と金属を切り裂いたような音が聞こえた。

 

 何が、斬られたの?

 クラウ=ソラスはここにはないはず、なんていうことはどこかに吹き飛んで、頭の中が真っ白になる。

 

 

 

 

「―――――嘘を吐いたな」

「まっ―――――待ってください! い、今のは……っ」

 

 

「イエスかノーか、答えは二つだけだ。さあ、嘘を吐いたな」

「…………は、い」

 

 

 

 

 なんでわかったのか、なんて考える余裕はない。

 何かしらの手段でこちらの嘘を見破っている? けれどそんなことよりも、嘘を吐いたらクラウ=ソラスを破壊すると言われたのが脳裏を埋め尽くす。

 

 

 

「大人しく従っていれば返してやったのにな――――残念だ」

「………ぁっ」

 

 

 

 

 間違えた。わたしはどうしようもなく間違えた――――。

 涙は出ない。ただ、何も考えられない。「どうして」が「どうしよう」に変わり、呆然としている間に再び猿ぐつわを噛まされる。

 

 

 

「んぅぅっ!?」

「さて、後片付けをしないとな。せいぜい大人しくしていれるんだな」

 

 

 

 

(待って……っ! 嫌、いやです…ッ! やめて…っ!)

 

 

 

 もう声は出ない。意味不明な叫びなんて意にも介さず、無情にも扉は閉まり。

 わたしはそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 眼が覚めたのに、何も見えない。

 クラウ=ソラスの気配も感じられない。

 

 いつの間にか手足の拘束はなくなっていたけれど、目隠しを外す気にはなれなくて。

 ただ人形のように横たわる。だから、その言葉を聞いた時にはもう何も考えてなんていなかった。

 

 

 

「―――――もう一度だけチャンスをやろう」

「…………ぇ」

 

 

 

 音が聞こえた方に、ゆっくりと顔を向ける。

 都合のいい幻覚だったのではと思ったのだ。けれど聞こえたのは間違いなくリィンさんの声で。震える手で目隠しを取ると、見えるのはいつかの日と同じリィンさんの姿。

 

 

 

 

「少しは反省したみたいだしな。――――これから俺が言うことを守れるのなら、クラウ=ソラスは返してやる。守れなかった時は……」

 

「…………なん、でも―――――なんでもします…! だから……っ」

 

 

 

 

 

「なら、<黒の工房>も帝国政府も―――――お前の意思も関係ない。俺が目的を達するまで―――――俺のモノになってもらうぞ、アルティナ・オライオン」

 

「………は、い」

 

 

 

 

 

 僅かに、違和感を覚えた。

 けれどそれが何なのか考える余裕もないままに私は頷く。

 

 ただ、頭にあるのは藁にも縋るような必死さと―――――例えようもない悲しみだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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