黒兎と灰の鬼神   作:アマシロ

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何も考えずに書いてるから2話連続になるんですよね…。
というわけで申し訳ないので本日二度目の投稿です。ほぼ続きです。でも連続で読むと胃もたれするんじゃないかなーという気もします。


その20:トールズ奪還

 

 

 

 

 

「―――――馬鹿な、一体何が起こっている」

 

 

 

 ゴライアスがいた。ケストレルがいた。

 帝都近郊、ある意味では帝都を阻む最後の壁であるトリスタには正規軍の攻撃があるだろうと防備は整えてあった。

 

 実際に、間違っても街に砲撃するわけにはいかない正規軍にはそれなりの被害を出せるはずだった。それなのに――――。

 

 

 

 ゆっくりと歩いてくる人影。

 あえてトールズの制服を着た彼らは、騎神とやらも、機甲兵すらも使う様子はなかった。

 

 

 

「戦術リンクON――――トールズ士官学院、特科クラスⅦ組。これより士官学院を奪還する!」

 

 

 

 流石に、生身の人間に砲撃する気にはなれずにゴライアスが威嚇射撃をした。

 が、その弾丸は先頭に立つ黒髪の青年が刀を振るうと冗談のように空中で爆発する。

 

 

 

「砲撃は俺が防ぐ――――皆は一気に突破してくれ!」

「ヤー。……ま、戦場よりはマシかな」

「というより、ここ数日の訓練よりは……であろう」

「……何かしら、私たち何か大切なものを見失っていない?」

 

 

 

 どこか煤けた雰囲気のフィーとラウラが先陣を切り、ケストレルの出だしを潰すようにアリサの放った矢が的確に関節に命中する。

 

 

 

「遅れを取るわけにはいかんな」

「全く、まさか散弾銃で機甲兵と戦うことになるとは」

「だがこの風、負ける気はしないな」

 

 

 

 むしろ一周回って余裕そうなユーシス、マキアスが羅刹のような教官に鍛えられた冗談のような連携でゴライアスに取り付き、その隙をガイウスが的確に突いていく。

 

 

 

「支援は任せて下さい!」

「うん……大きいけど、大きいだけだよね……」

「あははは、ひょっとしてボクたち凄いかも?」

 

 

 

 ロゼの特訓でそこそこ免疫があったからか、割と元気なエマと免疫がなくて目が死んでるエリオットのアーツが炸裂し、視界を潰された機甲兵に一斉攻撃が襲いかかる。

 そして、アガートラムの一撃が確実にゴライアスを粉砕していく。

 

 

 

 

 それは、ただの学生たちのはずだった。

 なのに、どこぞの特殊部隊かのような動きと連携で機甲兵が、ゴライアスとケストレルが“食いつぶされる”。

 

 

 実力者たちはそれに手を出すでも、指示を出すでもなくただ見守っている。

 

 

 

 

「ふむ……貴族連合も鍛え直す必要がありそうだな」

「将軍の部下の方たちだったらこうはいかないと思いますが」

 

 

 

 

 いずれにせよ、結果は出た。

 そのままゴライアスとケストレルが行動不能になった時点でトールズにいた貴族連合軍は撤退を決定。後は貴族生徒たちの自治グループに任されることになるのだが――――。

 

 

 

 

 

「よくここまで来たな、シュバルツァー。……って、待て。なにかお前たち目が死んで―――――ぐわぁああああ!?」

 

 

 

 

 小細工など不要とばかりに正門に全戦力を集中させたⅦ組は、一応パトリックが剣を構えるまで待ってからSクラフトの嵐を叩き込み。

 

 気絶したパトリックを助け起こしたところで士官学院の奪還はあっさりと完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやとお祭り騒ぎになった中で、わたしはリィンさんに一つだけ頼み事をしていた。

 

 

 

 

 

 

「―――――そういえば、リィンさんの部屋に興味があるのですが」

 

 

 

 なんとなく、リィンさんの過ごした場所を見てみたかった。

 そして訪れた、第三学生寮。そこはどこか第Ⅱ分校の学生寮と似た雰囲気があり、リィンさんの案内で一部屋ずつ見て回った。……リィンさんの部屋は東方風で、見るとすぐ分かりましたが。

 

 

 

 

「それでは、当日はクロウ・アームブラストの保護を優先するということでいいのでしょうか」

「まあ、そうだな。俺がクロウを倒して、かつカイエン公をなんとかして<終焉の魔王>の復活を阻止する。……でも、相手は<黒の工房>だ。頼むから無理はしないでくれよ」

 

 

 

 あの場所には<翡翠の城将>も、<鉄血宰相>も含んだ<鉄血の子供達>が勢揃いする。とはいえ、パートナーとして重要な戦いに置いていかれるのは我慢ならない。

 

 

 

「問題ありません。クロウ・アームブラストの確保はリィンさんの目的の一つでしょうし、パートナーとして――――…リィンさん?」

 

「ん、ああ。目的の一つ……だな」

 

 

 

 

 まるでさっぱり意識していなかったかのような、微妙に喉に詰まったような言い方にそういえば、と重要なことを思い出した。

 

 

 

 

 

「……そういえば、リィンさんが過去に戻った理由を教えて頂いていないのですが。パートナーとして、わたしにも聞く権利があるのでは?」

 

 

 

 

 よくよく考えなくとも、過去に戻るというのは大事で。

 わたしの場合は自分が死んでいたのでそれほど気にする余裕がなかったり、あとリィンさんのことなのでどうせ人助けだろうとあまり勝手に理解していたのもありますが。

 

 けれど、リィンさんはどこか困ったように自分の頬を掻いた。

 

 

 

「――――…なんというか、改めて聞かれると困るというか」

「……? 不埒な目的ですか」

 

 

「違います」

「ですが、リィンさんが話せない時は凡そ不埒な話では? ラクウェルもそうですが」

 

 

 

 

 夜の街に一人で情報収集に出ようとしたり、その他の任務でも女性と会ったりしていたリィンさんなので、そういう意味での信用はまったくない。

 ので、冷たい視線を送っていると、リィンさんは誤魔化すようにわたしの頭を撫でつつ言った。

 

 

 

 

「―――――アルティナ」

「はい」

 

 

 

 

「君を助けに来た」

「ぇ……」

 

 

 

 

 

 

 それは、きっとずっと前から。それこそこちらで目覚めてから諦めていたことで。

 “根源たる虚無の剣”が必要である限り覆らない、運命への挑戦だった。

 それは意外ではあったのだけれど。きっと、嬉しいことだった。

 なのに、こんなにも胸が苦しい。

 

 それが、どれほどの選択だったのか――――ユウナさんを、クルトさんを、ミュゼさん、アッシュさん、第Ⅱ分校の皆さんとの“時間”を失ったからこそ、理解できる。

 

 

 

 

 

「虚無の剣は、必要なのでは?」

「そうだな。持ち込もうと思っていたんだが、駄目だった」

 

 

 

 虚無の剣がなければ、聖獣とは戦えない。

 そうでなくとも、ゼムリアストーンの太刀では呪いを、鋼の至宝を断ち切るには弱いのではないかと思える。

 

 

 

「………リィンさんの剣になるのは、わたしの役目です」

「ミリアムに頼むつもりは無い。けど、アルティナを犠牲にするつもりもない」

 

 

 

 

 それはきっと、茨の道だ。

 いつもと同じように、リィンさんが傷つく道だ。

 

 

 

 

「―――――リィンさんが危険なら、わたしは自分で“剣”になります」

「駄目だ。最後まで俺を信じてくれ」

 

 

 

 

 リィンさんは強い。強くなった。

 それが、本当にわたしのためだというのなら――――わたしが貴方に返せるものは、この(イノチ)くらいしか無いのではないだろうか。

 

 

 

「でも、わたしは……元々、そのために造られたもので」

「アルティナ―――――」

 

 

 

 

 不意に、そっと柔らかく抱きしめられた。

 

 

 

 

 

「俺もそうだった。何のために生きるのか、自分の“道”が見つけられなくて悩んでいたんだ」

 

 

 

 エリゼには避けられている気がしていたし、両親にも迷惑をかけていると一步引いていたとリィンさんはどこか寂しげに微笑んだ。

 

 

 

 

「俺は、“生きてくれ”とあの人に言われた。結局、あの後あの人は救えなかった。今だって、何のために生きているのか時々見失いそうになる」

 

 

 

 学院生活が楽しかった。だから、学院を取り戻すために戦った。

 トールズの魂を残したかったから、第Ⅱ分校の教官になった。

 

 

 

「アルティナが、ユウナが、クルトが、ミュゼにアッシュが、皆のいるⅦ組が楽しかったから、教官でいたいと思った」

 

 

 

 

 生きる理由は、“道”は、その時々によって変わっていた。

 

 

 

 

「いつだって迷って、苦しんで。独りだと思ったこともあった」

 

 

 

 

 それでも、目の前のことに精一杯取り組んでいたから。

 出会った仲間に支えられて、支えて。迷子のように思えても、きっと傍に誰かがいるから。

 

 

 

 

「ただひたすらに、真っ直ぐに前へ――――それが、いつの間にか今の”リィン・シュバルツァー“になったんだ」

 

 

 

 

 

 

「だから生きる理由なんて、探さなくていい。君が歩きたいように歩いた軌跡が、きっとアルティナだけの“道”になっている。俺だって<灰色の騎士>でも、Ⅶ組の教官になれた」

 

 

 

 

 

 

 

「それに―――――もう、“剣”になるために生まれただけじゃない。アルティナは、俺にとってかけがえのない“相棒(パートナー)”だろう」

 

 

 

 

 それが掴んだもので、手に入れたものなのだと。

 やりたいことを真っ直ぐにするだけで、十分なのだと。

 

 

 

 

「それでも駄目なら、一緒に探しに行こう。迷えば迷っただけ、何時の間にか仲間が増えているさ」

 

「―――――……リィンさん」

 

 

 

 

 言い出したら聞かないのは、よく知っていた。

 それに、リィンさんに求められるのは嬉しかった。この人は、いつだって自分だけで背負おうとするから。どんなに傷ついても、それでも誰かのために動けてしまう人だから。

 

 

 

 

「―――――やはり、パートナーとしてリィンさんのためにできることが必要ですね」

「いや、けっこう助けられてると思うんだが……」

 

 

 

 

 そんなことを言いつつも、“生徒“としても――――つまり、守るべき相手としても見られているのは分かっているから。やっぱりリィンさんは不埒な人だと思う。

 

 

 

 

「何か希望はないでしょうか。リィンさんのためなら不埒な行為も吝かではありません」

「って、何を言っているんだ!?」

 

 

 

「? わたしはリィンさんが“すき”なので、構わないのでは?」

「俺が構うからな!? というかせめて成人してから――――あー、卒業してから言ってくれ」

 

 

 

 肉体年齢なら14歳(たぶん成長するはず)で、実年齢なら……0歳? 

 流石に気を遣ったのか(どちらにしても入学まで1年半、卒業まで4年近いと思うのだけれど)言い直したリィンさんに、ジト目を向ける。

 

 

 

「……リィンさんはいつも不埒ですし、合意の上ならいいのでは?」

「意味が分かって言ってるんだろうな…?」

 

 

 

 

 リィンさんに物凄い訝しげな目を向けられる。

 とはいえわたしも最近は不埒なことをよくしているので自信を持って応えた。

 

 

 

 

「――――不埒な気分になるのが不埒なことでは?」

「……………なんだろう、正直安心した」

 

 

 

 

 微笑ましいものを見る目で頭を撫でられたので、なんとなくリィンさんにミリアムさんばりのタックルを決めた。

 

 

 

 

「(どすっ)」

「うぐっ」

 

 

 

 

 

 勢いを受け流されて、やんわりと受け止められたのが、なんとなく悔しかったけれど。リィンさんに抱きついたわたしは、笑えているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 




次回から12月31日、終章の予定です。
Ⅳ発売前には終わりそうなので安心しました…。
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