黒兎と灰の鬼神   作:アマシロ

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三人称の試験運用中です
誤字報告、ありがとうございました!
特にナイトハルト中小佐ってなんでしょうね。我ながら意味不明なミスでした。

 



その6:ノルド電撃戦

 

 

 

 雪の積もった山道。まだ日も明けない早朝にそれを登る、一人の黒髪の青年がいた。赤いコートに、黒い刀身を持ったゼムリアストーンの太刀。極限まで気配を消し、巻き込まないために一人で今回の戦いを終えようとしていた青年はしかし、<灰の騎神>にたどり着いたところで溜息を吐いた。

 

 

 

「―――――こんなところで何をしているんだ」

「………明朝出発とお聞きしていましたので。待機していました」

 

 

 

 雪に紛れる白銀の髪に、黒いコート。

 いつから立っていたのか、寒さで頬を赤くした少女は機甲兵の用意をして、どこか眠そうな顔でそこで待っていた。

 

 

 

「別に、今回は付いてくる必要はないぞ」

「クラウ=ソラスを返して頂けたら考えます」

 

 

 

 これで「残らなければ返してやらない」と言ったらどうだろうか、と考える青年だが、流石にそれは怪しすぎるだろう。面倒事に巻き込みたくはないと思いつつも、いつかどこかで自分の無茶を止めたがった少女を思い出すと顔が緩みそうになるのを意識して止めなければならなかった。

 

 

 

 

 

「……はあ。足を引っ張るなよ」

「はい――――…わたしは、リィンさんのパートナーですから

 

 

 

 

 

 小さく、絶対に聞かれないように少女が呟いた言葉は。

 動き出した騎神の音に紛れて消えた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノルド高原――――そこではまさに貴族連合軍と第三機甲師団の戦いが行われていた。

 貴族連合の主力は戦車に対してその自在な機動によって優位に立つ機甲兵部隊。対する第三機甲師団はついにその戦力が払底し始めたのか、打撃力・機動力・装甲の全てで新型に劣る旧式の戦車まで持ち出して抵抗していた。

 

 

 

『――――まったく、信じられんしぶとさだったが底は見えたな』

 

 

 

 隻眼のゼクス――――第三機甲師団を率いる知将は<対機甲兵戦術>とでも言うべき、演習用の自動操縦の戦車を囮にしての砲撃や半包囲からの集中砲撃、足元への集中砲火と言った機甲兵の機動力を潰す数々の方策によってその戦力を削ぎにかかった。

 

 しかしほとんど満足に補給も受けられない第三機甲師団に対して、貴族連合はアイゼンガルド方面の領邦軍との挟み撃ち、ノルティア州ルーレで大量に生産されている機甲兵の十分な補充、挙句の果てには長年の宿敵<カルバード共和国>の支援やどこからかもたらされた“通信妨害装置”もあって総合的には一方的な戦いになっていたと言える。

 

 耐え忍び、少しでも貴族連合の戦力を削ろうとする第三機甲師団の戦力は減っていき、犠牲こそあれど時間とともに戦力が回復する貴族連合は、余裕をもっていた―――つまり油断していたともいえた。

 

 

 

 

 その日、監視塔所属の機甲兵部隊がゼンダー門攻略のために進軍していたところ、旧式戦車部隊による有効射程外からの砲撃を受けた。つまり致命傷にはなり得ない程度ではあったのだが、もし相手が新型戦車であればそれなりに脅威になる距離だった。

 

 そして新型戦車アハツェンの相手に慣れていた貴族連合は、その戦車部隊を脅威と判断。一目散に逃げ出す戦車部隊を追いたて、あと一步のところまで追い詰めていた。

 

 

 

 

『逃がすものか……!』

『第三機甲師団め、今度こそ息の根を止めてくれる!』

 

 

『くっ……<貴族連合>のカラクリどもが!』

『全部隊、弾幕を張れ! 絶対に近づけさせるな!』

 

 

 

 機甲兵の多くはその大きさでも量産が比較的容易かつ機動力を活かせる近接武器をもっており、また機甲兵の背の高さと腕の可動性が良いことによって逆に照準を正確に定めづらい銃を持っている機体は多くない。

 故に弾幕で機甲兵を近づけさせまいとする旧式戦車部隊だが、所詮は旧式。既にその戦術も見慣れた機甲兵たちはいつものようにそれを片付けようと巧みに回避しつつ接近し。

 

 

 

 

―――――不意に、飛空艇のような音に空を見上げた。

 

 

 

『なんだ? 第三機甲師団に飛空艇を出す余力など―――――は?』

 

 

 

 それは飛空艇ではほとんどやらないだろう、低空での飛行をしていた。

 

 それはそこそこの飛空艇を上回る速さでこちらに真っ直ぐ向かってきており。

 

 

 

 

 

――――――そしてどういうわけか、飛空艇にしてはやけに小さく。

 

 

 

 なぜか、その灰色に輝くモノは同じく灰色の塗装された“機甲兵を抱えて”飛んでいた。

 

 

 

 

『な、何者だ!? これ以上近づくのであれば戦闘行為と判断―――』

『――――悪いが通信機器が不調でね。攻撃してくるなら反撃させてもらう』

 

 

 

 通信に応じたのは、若い男の声だった。

 どう考えても通信が不調とは思えない明瞭な音声に、皮肉げな感情が込められているのは明らかで。機甲兵を連れた敵など旧式戦車が比較にならないほど厄介だと即座に理解してしまった男は、隊長として即座に指示を下した。下してしまった。

 

 

 

『くっ――――ええぃ! 撃ち落とせ!』

 

 

 

 数少ない遠距離武器が火を吹き、不慣れながらも対空砲火が飛ぶ。

 

 しかし砲弾のように機甲兵部隊目掛けて突っ込んでくる灰色の機体は何事もなかったかのように機甲兵からの射撃を躱すと、抱えていた同じく灰色に塗装された機甲兵を地面に軟着陸させると、速度を緩めずに滑るよう地面を滑走し――――。

 

 

 

 

 

『これより反撃に移らせてもらう。二の型――――<疾風>』

 

 

 

 地上でスラスターを閃かせ、灰色の風が機甲兵の間を駆け巡る。

 そこまで近づかれれば友軍誤射を防ぐためにも射撃はできない。またたく間に四機の機甲兵を沈黙させた灰色の騎士人形は、そのまま銃を装備した機甲兵へ向かい。

 

 それをなんとか阻止しようとした機甲兵が、後ろから機甲兵用ハンマーとでもいうべき鈍器で頭から叩き潰された。

 

 

 

『―――――…これで加減するのは少々手間ですね』

 

 

 

 が、機甲兵は頭を潰された程度では致命傷にならない。

 その黒いハンマーを装備した灰色塗装の機甲兵は、二撃目でコクピットを強打。パイロットが気絶したことを確認すると、持っていた盾を奪って救援にきた機甲兵に投げつけた。

 

 

 

『うおっ!? くっ、貴様―――がッ!?』

『失礼、手が滑りました』

 

 

 

 盾を回避した機甲兵のパイロットに見えたのは、盾に隠れて飛来したハンマー。

 凄まじい衝撃を受け、もんどり打って倒れた機甲兵からハンマーを回収しつつ、その灰色の機甲兵のパイロット――――アルティナは次の目標を探す。が、

 

 

 

『――――秘技、<裏疾風>!』

 

 

 

 騎神の独特なスラスター音を轟かせ、地上を自在に駆け回るヴァリマールに、機甲兵部隊がただの兵士のようにバタバタと倒れていく。

 まさに地上を飛び回る、としか言えない戦いぶりに機甲兵部隊は戦列を大きく抉じ開けられ。それどころか部隊長の機体がボールのように吹き飛ばされて地面を転がって通信が途絶した。

 

 

 

 

『くっ、一体なんなんだあの化け物は――――副隊長、これからどうすれば!?』

『ええい、指揮は私が引き継ぐ! 撤退だ! 監視塔まで退くぞ!』

 

 

 

 混乱しきった機甲兵部隊がバラバラに撤退を始め、第三機甲師団の旧式戦車部隊が勢いに乗って前進しつつ砲撃を加える。

 なんとか回避と反撃を試みようとする機甲兵だが、恐ろしい速度で暴れまわる灰色の騎士人形の射程から逃れようとしたために各機が孤立しており。その灰色の騎士人形、灰の騎神が広げた傷跡を的確に抉ってくる灰色の機甲兵もあって組織的な反撃は不可能であり。執拗に足の関節を狙ってくる戦車の砲撃に、旧式の攻撃力といえども数機の機甲兵が機動力を奪われて打倒されていく。

 

 

 

 それどころか、横合いから殴りつけてきたアハツェン擁する第三機甲師団の精鋭部隊によって最終的には半数近くの機甲兵が脱落。数機が決死の足止めとして残り、壊滅状態と言っていい被害になりつつもなんとか監視塔付近まで撤退したその時。

 

 

 

 

 不意に、機甲兵部隊の統率が乱れた。

 あと少しで監視塔だというのに、何度通信で呼びかけても味方からの反応がないのである。混乱した機甲兵たちに、なんとか落ち着かせようと指揮を引き継いでいた副隊長機が外部スピーカーで声をかける。

 

 

 

『ええい、落ち着け! 通信が不調になったというだけだ! ――いや、まさか…!?』

 

 

 

 

 その瞬間、回り込んでいた第三機甲師団の別働隊の<アハツェン>の砲撃が立ち止まった副隊長機に直撃。爆散させる。

 

 

 

『副隊長!?』

 

 

 

 

 指揮系統が完全に崩壊した機甲兵たちは、戦車部隊に挟み撃ちにされ、更には灰の騎神に太刀を突きつけられて降伏し。その結果をもって第三機甲師団は一度ゼンダー門に撤退。監視塔の攻略の準備を行うこととなった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「――――まさか、あの通信妨害を逆に利用するとはな」

「いえ、失礼ながら自分たちは“仲間”を探す妨害を排除し、自衛したに過ぎません。……ただ、少々通信装置をお借りできませんか?」

 

 

 

 ゼンダー門の司令室に案内されたリィンとアルティナは、感嘆というよりはどこか呆れた様子のゼクス中将に出迎えられていた。

 ゼクス中将からすれば一応知った顔とはいえ、いきなりどこかと通信が繋がったかと思えば『突破するので攻撃しないで頂けると』という内容なのだから呆れる他なかったのだが。……やはりこの強引さと有能さは“彼”の息子ということなのだろうか。

 

 

 

「それは構わないが。まさか妨害装置を見つけて設定を変更するとはな…」

「どうも。恐らく情報局所属の、アルティナ・オライオンです」

 

 

 

 恐らく、あたりに鉄血宰相の暗殺の影響を匂わされて複雑そうな事情を察したゼクス中将は特にそれに言及することはなく、あの<かかし男>もいる情報局に、それもこんな年齢で所属しているのならば何かしらの特技があるのだろうと解釈する。

 

 実際、高空からヴァリマールでこっそりと監視塔の上空に行き、パラシュート無しで降下。アルティナを抱えて無事に着地するという人間離れしたところまではリィンの手柄だったものの、実際に使ったことのある導力波妨害装置を操作して出力を監視塔の周辺に絞りつつ妨害装置の周波数を変更。貴族連合の通信も阻害するよう変更した後それをロックしたのはアルティナの手柄だった。とはいえ、妨害もあったのだが。

 

 

 

『――さて。頼んだぞ、アルティナ』

『了解です。これより妨害装置の設定を変更します』

 

『――――残念がら、それは敵わぬ相談だろう』

 

 

 

 どこかで聞いたような、というか大陸各地を騒がせている、二人にも馴染み深い怪盗紳士の声。すぐに二人が嫌そうな顔をしたのは彼の日頃の行い故だろう。

 

 

 

『……面倒ですね』

『フフフフ……ハーッハッハッハ!』

 

 

『はぁ。アルティナ、作業を始めてくれ』

『了解です』

 

 

 

 とりあえず、変態の相手をしてはいけない。

 無視して妨害装置に駆け寄った二人に向けて、大仰な仕草で<怪盗B>は言った。

 

 

 

『よく来たな、七組――――リィン・シュバルツァー君。先の邂逅から二月余り、再会できる日を待ちわびていた。』

 

 

『リィンさん、ロックが……』

『よし、斬って開けよう』

 

 

 

 キン、という澄んだ音と共にロックはあっさりと物理的に突破され。

 一応特殊合金製のはずなんだが、と若干引いた怪盗Bだったが無視されるのは沽券に関わる。派手に花吹雪を吹きちらし、謎の爆発まで起こして叫んだ。

 

 

 

『……よく来たな――――リィン・シュバルツァー君! 先の邂逅から二月余り、再会できる日を待ちわびていた!』

 

『設定の変更、完了しました。撤退しましょう』

『――――来い、ヴァリマール!』

 

 

 

 予想外だったのは、アルティナが“これを使ったことがあり、最初からこれを使うつもりで準備していた”ことだろう。パスワードを入れられ、用意してあったデータを入力された妨害装置は素直に設定を変更。ブルブランが名乗り終える前にそれは終わっていた。

 

 

 

『くっ、逃げられるとでも――――なにっ!?』

 

 

 

 アルティナを抱えて逃走するリィン、といういつかどこかのパンタグリュエルで別の組み合わせであったような逃走法により、屋上から飛び降りてそのままヴァリマールに搭乗。あっけなく逃げたリィンたちは、次は通用しないにせよ一度は面倒な変態から逃れることに成功した。

 

 

 そしてそのまま石柱郡に戻って、誤射されないようカラーリングを変更した灰色の機甲兵を回収。ゼンダー門に一報入れつつ、監視塔からの通信が妨害されたことにより『異常を知らせる通信を受信できない』機甲兵部隊を強襲したのであった。

 

 

 これを『仲間を探すのに邪魔だったので通信妨害を排除した』という言い分で押し通すことにしたリィンの狙いを察してくれたのだろう。もちろん、リィンがフィーたちを巻き込まないように早朝こっそり抜け出すくらいには無茶な言い分なのだが。

 快く通信機器を貸し出してくれたゼクス中将により、ノルドの民の避難を受け入れていたグエン老に連絡を取ることに成功したのだった――――。

 

 

 

 

『……いや、だから通信は妨害されておるんじゃぞ?』

『えー、でも今来てたよ? もしもーし。こちら情報局――――じゃなかった。ラクリマ湖畔避難場所、とかでいい?』

 

 

「――――ミリアム、無事だったか」

『ほらー、やっぱり来てるじゃん! ―――――って、えぇっ!? リィン!?』

 

 

 

 うわー、すごーい、ほんとにリィンだ! いつこっちに来たの!? などと大興奮なミリアムの声の後ろでバタバタと音が聞こえたかと思うと、今度はドアが勢い良く開け放たれた音がした。

 

 

 

『――――な、なんだかリィンって聞こえたんだけど!?』

『……よく気づくのぅ』

『あっ、アリサだ! アリサ、リィンから通信だよ!』

「久しぶりだな、アリサ」

 

 

 

『い、いつこっちに――――って、何で通信が使えてるの!? というより、無事なのよね!?』

「ああ。今はゼンダー門にいる。ユミルで待機しているけどエリオットやマキアス、フィーも無事だ」

 

 

『――――すぐにゼンダー門に行くわよ!』

『うん! って、でも猟兵は気をつけないと――――』

 

「あー、ミリアム。悪いがグエンさんはそこにいるか?」

『うむ、最初からおるぞ。いやはやまさか通信を使えるようにするとは驚いたわい』

 

 

 

 そのままリィンがゼクス中将に交代すると、トントン拍子で軍の再編成が完了し次第すぐさま監視塔を制圧し、そのまま高原を制圧しようとしている猟兵の排除が行われることが決定され。それまではノルドの民はラクリマ湖畔で防備を固め、そこにリィンとアルティナは先行して向かうことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




そのころのユミル



フィー  「リィンがいないんだけど」
アルフィン「アルティナちゃんもいませんわね……まさか」
エリゼ  「うふふふ……兄様……」

クレア大尉「というより、騎神と機甲兵も無くなっているのですが」
トヴァル 「うへぇ……勝手に行っちまいやがったか」


マキアス 「なあ、エリオット。……女子たちが怖いんだが」
エリオット「………まあ、今回はリィンが悪いよね」


マキアス 「(エリオットもだった…!?)………リィン、死ぬなよ」


 
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