「最近クリスちゃんに避けられてる気がする」
「は?」
唐突な私の告白に、青髪の彼女―――風鳴翼は素っ頓狂な声を出す。普段のピシッとした雰囲気とは違った彼女の表情に、強張っていた私の表情は、少しだけ柔らかくなった気がした。
「どういう事だ、立花?」
私の表情の変化に気づいたのか、翼さんは頬をほんのり赤く染めて、グラスに残っていたオレンジジュースを一気に飲み干す。そっと辺りを見渡すとまだ沢山の家族連れがいて、皆思い思いに家族団らんを楽しんでいるようだった。………それもそうか。
今日は休日で、時間はちょうど夕食時の七時過ぎ。皆明日の予定でも立てながら、夕飯を楽しんでいるに違いない。かく言う私も例外なく、明日の予定を立てるべく翼さんをこのファミリーレストランに誘ったわけだけど………。
「そういえば翼さん、よく今日ここに来てくれましたね!こういう時って有名人は大変というか……」
「話を逸らすな。……それに、今日ここに呼んだのは、何か私に話があったからじゃないのか?」
――――う。やっぱりこういう時の翼さんは鋭い。
しょうがない、どうせこっちから誘ったわけだし、全て話すことにしよう。……ただ、やっぱり内容が内容なだけに、あまりこの話をする気が進まないのも確かで―――。
「その………実は昨日から、クリスちゃんの様子が変で」
「避けられてる?」
「はい。………昨日はいつも通りクリスちゃんに抱き付いたり、色々スキンシップ取ろうとしてたんですけど………」
「………いつも?」
「はい」
「………。分かった、続けてくれ」
?………何か変なこと言ったかな?
「いつもなら、文句言いながらもまんざらでもないというか、チョロいんですけど………」
「チョロいのか」
「チョロいです」
「………続けて?」
「昨日は違ったんですよ。私が抱きついた瞬間に急にトイレ行っちゃったり」
「うむ……」
「トレーニング前に、体操着に着替えてる私のことじろじろ見ながら前屈みになったり」
「はぁ」
「とにかく、事あるごとに私のこと見て、なのにどこかに行っちゃうんですよ。……やっぱり私、何か悪いことしちゃったんですかね?」
「…………立花、情報を整理しよう」
「はい……」
「雪音はいつも立花のことを見ている……と?」
「はい」
「そして、すぐどこかへ行ってしまうと………」
「はい」
……どうして改まって確認なんかしてるんだろ?
「立花、これは私の推測にすぎないが………雪音は自分の気持ちに気付いてしまったんじゃないのか?」
「自分の気持ち、ですか………?」
気持ちって、好きとか、嫌いとか………だよね。やっぱり私、何かやっちゃったのかなぁ。翼さんもこう言ってるし、嫌われちゃったって事だよね?
「あー……案ずるな、立花。恐らく雪音からの思いは、立花の考えているようなものではない」
「え、それって――――」
「雪音は、恋愛対象として立花を好きになっている。………いや、既になっていたのか。何にしても、その気持ちに気づいたと考えるのが、自然じゃないか?」
***
「恋愛対象として、か………翼さんがあんなこと言うからなんだか緊張してきちゃったよ」
「はぁ?何がだよ?」
「あっ、えーっとね。どわあぁぁっ、クリスちゃん!?」
「あたしが来ちゃ困るのかよ?」
顔をぐっ、と近づけて、クリスちゃんは訝しげな表情で私を見つめる。改めて見ると彼女はとても整った顔立ちをしていて、それで、その………。
「あれ………?」
クリスちゃんのまつ毛が長くて、何だか良い香りがして………あれ?何でこんなにドキドキしてるんだ私?
「なに赤くなってんだよ」
「赤くなんかなってないし………」
「なってるじゃねーか」
「なってないよ……!」
大体、一昨日はクリスちゃんの方が顔真っ赤にしてどっか行ったりしてたのに、何で今日はこんなに強気なの!?
「まぁ、どっちでも良いけどさ。……とりあえず、家上がらせてもらって良いか?今日はそういう予定だっただろ?」
「うん………」
何か調子狂うなぁ。よりにもよって今日は未来は出掛けてるし、二人きりなんて気まずいよ。誘ったの私だけどさ。
**
「お邪魔します」
「うん……」
クリスちゃんがここに来るのって、いつぶりかな?結構久しぶりな気がするけど。
「そういえば、今日あいつはいないんだっけ?」
「あぁ………未来?今日は出掛けてるって」
「ふーん………」
「………」
気まずい………どう話を切り出せば良いのだろう?まさか「私のこと好きなの?」なんて聞くわけにもいかないし。
「あっ……あー、喉渇かない?」
「えっ?あっ、あぁ……」
「お茶持ってくるね」
このまま黙ってるわけにはいかないよね………何とかして聞き出さないと、せっかく来てくれたクリスちゃんに申し訳ないよ………。
「お待たせ」
「あぁ………」
「あの、さ………クリスちゃん、何か一昨日からえっと、そのー……何かあったの?」
「ぶふーッ!?」
「わぁっ!?」
「飲み物飲んでる時にヘンなこと言うなよ!」
「ご、ごめん………」
こんなに派手に飲み物噴き出す人初めて見た……。
「あっ……いや、責めてるワケじゃないんだけどさ………」
「あっ、えっと、タオル持ってくるね!替えの服とかも!………あっ、シャワー浴びた方が良いかな?」
「気ぃ使い過ぎだっての!………タオルだけで良い」
「うん、分かった」
「あぁ、自分で拭くから、大丈夫。………さっきの事だけどさ、」
「うん」
「とりあえず先に謝らせてもらって良いか?」
「えっ?」
「避けてるみたいだっただろ?だから………」
「ううん、気にしてなんか………」
いたけどね。
「それで、その一昨日のアレの原因なんだが………」
いよいよか。翼さんの予想通りなら、ここで愛の告白とかになるのかな?………いやいや、そんなまさか。
「実は………」
そんなまさか、ないよね?
「生えてたんだ」
「はっ?」
そうそう。生えて―――何と?
「え、何だって?」
「だから、生えてたんだって。何回も言わせんなよ……」
えっえっ。生えて………ん?どういうこと?話に脈絡なさすぎ………。
いや、待て待て立花響。これまで何度も理解し難い出来事に遭ってきたけど、一応頭が置いてきぼりになる事なんてなかったじゃないか。そう、大丈夫。私はやれば出来る子なんだ。………今回も、どうにかして情報を引き出し、結論を出してみせる……!
「えっと………いつ?」
「一昨日だな」
「つまり三日前まではなかったと」
「当たり前だ。そんな簡単に生えてて良いワケないしな」
「うーん」
三日前まではなくて、簡単に生えてちゃ駄目で…………ん?これってつまり、元々あるべきものが返ってきたってこと?
これってまさか………クリスちゃんが助けた男の子の事なんじゃ………。………多分、そうだよね。あの時、どうしても足を撃たなきゃいけなくて、それであの子は足を失ったわけだから。どういう技術なのかは分からないけど、奏者っていう不思議パワーがまかり通ってるくらいだし、それくらいの奇跡は起きてもおかしくないのかも。
「そっか………良かったね、クリスちゃん!」
「良くねぇよ!」
「ええ!?」
あれ、何で?自分の罪は自分の罪として背負いたいから治って欲しくない的な!?………いやいやいやでもクリスちゃんってそういう子じゃないよね!?
「んー、いや、でも待てよ……。お前は………生えたら嬉しいのか?」
………なる程、一人で喜んでたら自分のした行動を否定することになりかねないから、私の意見を欲してるんだね!やっぱりクリスちゃんは良い子だ!
「勿論!………やっぱりあるべきものがあるって良い事だよ」
「え、あるべきなのか………!?」
「ええええ!?普通あるんじゃないの!?」
「え、お前生えてるのか!?」
「生えてるに決まってるじゃん!」
「ええええ!?」
「ええええ!?」
何でそんなにびっくりしてるの?目の前にあるじゃん。私座ってるじゃん。………ね、あるでしょ?足。あるよね?
「そ、そうか………あたしの認識が間違ってたのかもしれないな。それで、その他の……」
「他の?」
「先輩とかは?」
「ああ、翼さん?生えてるよ」
「マジか」
「見れば分かるでしょ」
「え、そうなのか?」
「逆に何で分かんないのクリスちゃん……」
「何かごめん……」
「ちなみに、マリアさんも切歌ちゃんも調ちゃんもエルフナインちゃんも生えてるよ」
「うっそだろお前」
こっちの台詞だよ………いつも遠距離砲撃してるクセにまさかここまで盲目だとは思わなかったよ。
「あと、更に言うと奏さんも生えてたよ」
「頭が痛い……」
「最後はバラバラになって散っちゃったけど」
「怖っ!?」
「絶唱しちゃってたからね……」
「えっ、絶唱ってそんなピンポイントでダメージ入るのか!?」
「さっきから何なのクリスちゃん。………奏さんの事を怖いとか何とか」
「あっ、えっ………っと」
「奏さんはあの時あの場所にいた人を助けるために必死に戦ってたんだよ!それをそんな………酷いよ」
「……ごめん、軽率だった。確かに予想外のダメージの受け方だったけど、皆のために戦って散ったのは確かだもんな」
「うん………」
「その………独り言だと思って聞いててくれるか?」
「………」
「確かに急に生えたのはびっくりしたよ。………だけど、やっぱりソイツはしっかり人に見せた方が良いのかな?」
………それを決めるのはクリスちゃんじゃなくて例の男の子なんじゃ………まぁ良いか。
「うん、恥ずかしがる事じゃないしね」
「そっか………何かすっきりしたよ。ありがとな」
「ううん、少しでも力になれたなら、嬉しい」
「それじゃあ早速なんだが、見て貰って良いか?」
「え?うん、良いけど?」
写真か何かに収めてるのかな?
「あれあれ?なんでクリスちゃんスカート脱いでるの?」
「はぁ?こうしないと見せれないだろ?」
「そうなの?」
「そうだろ」
「そっかぁ………クリスちゃんがそう思うんならそっか」
もう何かどうでも良いや。
「ったく………ほら、これ」
「あぁ、終わった?………って、ぎゃあああああ!!」
………な、何だこれ!
「酷くないか?恥ずかしがる事ないってお前が言ったんじゃねぇか」
…………な、何だこの………こ、この!
「おーい、何とか言ったら」
………こいつ!このデカいの!多分これ、アレだ!本来なら女性に付いてないやつ!
「お、お、お………おちん…………」
えっと、本来なくて………
「おーい、」
ニ日前に急に生えてきて………
「大丈夫か?」
ああ、そっか………生えてたのって、おち●ぽのことだったのかぁ………。
「そ、そんな馬鹿な………」
あっ、結局翼さんはこの事勘違いしっぱなしだったんじゃないかなー。そんな事を思いながら、処理落ちしたパソコンの如く、私の意識は薄れていくのであった………。
こんな内容で本当に申し訳ない。