オーキド博士からアルバ島で開催される大会、レジェンドカップについて説明を受けたサトシは、アルバ島へ向かう船が出るクチバシティへと向かった。
「この船に乗船される方は、チケットをお見せください」
博士から事前に伝えられていた船を見つけたので近付くと、乗船員からチケットを見せるように言われたのだが...。
「はい、えーと...あれ?チケットが無い!?」
「チケットが無ければ、この船の乗船する事は出来ませんよ?」
なんとサトシは、あろう事か船のチケットを家に置いてきてしまったのだ。
これではアルバへ向かう事が出来ない。母に連絡して届けてもらおうにも、今からじゃ出航時刻には間に合わない。
「終わった......俺のレジェンドカップが~」
「ピカ~...」
相棒のピカチュウが、やれやれと言った素振りをする。
ガックリとその場にうなだれるサトシ。船員に少しだけ哀れむような目を向けられるが、それどころではない。
博士に優勝してみせると言ったくせに、そもそも大会に参加出来なませんでしたというのはあまりに恥ずかしすぎる。
「な、なんとかならないんですか!?俺、マサラタウンのサトシって言います!俺宛に手紙も来てたんです!!」
「そう言われましても...ルールですので...」
泣き寝入りを始めたサトシだが、それも虚しく船員に断られてしまう。
ひとまず落ち着こうと、一旦乗船場から離れたサトシは、近くの喫茶店へと入った。
「はぁ、初日からついてない......」
ついてるついてないと言うよりかは、明らかに自業自得である。
どうしたものかとしばらくの間考えていたサトシだったが、昨日興奮して中々寝付けずにいた事と、窓から指してくる日光のせいで、うとうととしてしまう。
眠らないように必死に抵抗していたが、次第に姿勢が崩れていき、ついにはピカチュウ諸共テーブルに伏せてしまった。
「「はっ!寝ちゃったぁ!!」」
「ピカァッ!」
「「......え?」」
つい寝てしまったサトシは、急に意識を覚醒させて飛び起きたのだが、自分と同じタイミングで、同じ境遇と思われる者の声がしたので、ふと声のした方向を見る。
するとそこには見知らぬ女性がいた。白髪の長髪でウェーブがかかっており、全体的にふわふわした印象を受ける人だった。
どうやらその女性も先程まで寝ていたようで、声が被ったのが恥ずかしかったのか、サトシの方を見ると少し顔を赤らめて苦笑いをしている。
見られたサトシの方も恥ずかしく思ってしまい、俯いてしまう。
お互いに微妙な空気になってしまい、中々その場を動けずにいたのだが、不意にその女性が右手首に付けている時計のようなものから電子音が鳴り出した。
その音にびっくりした女性は慌てながらもその機械を操作し、口元まで機械を持っていく。
どうやら先ほどの音は電話の着信音だったらしい。
「あ、もしもし?えーと......あ、うん...ごめん、すぐに行くからもう少しだけ待ってて!」
そう言って腕を下ろして溜息を付く女性。どうやら通話が終わったらしく、店を出る準備をし始めた。
だが、先程の電話ですぐに行くと言っておきながら全く急ぐ素振りを見せずに、手を止め、口を尖らせて不満顔をしつつブツブツと何かを言い始めた。
「折角のお休みなのにぜんっぜんゆっくり出来なかったなー。はぁ~あ、これでカントーともおさらばかぁ~」
どうやら女性は休暇を取ってこのカントーに来たらしい。まだ子供であるサトシに仕事の辛さは分からないが、日々研究熱心なオーキド博士の事を思い出し、その女性が少しばかり不憫に思えてきた。
だが今のサトシには他人を心配している余裕は無く、ふとサトシが時間を確認すると、出航時間は今さっき過ぎたところであった。
それに気づいたサトシは何らかのトラブルで出航が遅れている事を祈りつつ、すぐさま荷物をまとめ、代金を払ってダッシュで乗船場へピカチュウと共に向かおうとしたのだが......。
「はぁ...アルバに戻ったらまた仕事かぁ。やだなぁ~、帰りたくな「あのっ!!」 ひゃいっ!?」
女性が発したアルバという単語に素早く反応したサトシは、帰ろうとしていた体を反転させ、一瞬でその女性との距離を詰めていた。
「え?え!?どうしたの?」
「あ、すみません。アルバに行くと言っていたので...」
「アルバを知ってるって事は...もしかして君がカントーの代表!?」
「はい、そうなんです!マサラタウンのサトシって言います!」
サトシが自分の名前を告げると、女性の方が安堵の表情を浮かべた。
「良かった~、出航時間近くになっても来ないから、もしかしてと思って探してたんだよ~!あ、因みに私はマリーって言うの、よろしくね!」
「よろしくお願いします...あ!でも、もう時間が...」
サトシがポケモン図鑑を開いて時間を確認すると、出航時間から30分が過ぎていた。
チケットが今日しか使えないという事もあり、これでは今日のうちにアルバへ向かう事は出来ない。
「あ、船を心配してるの?それなら大丈夫!私が船に乗らない限り、出航はできないから!」
「え?」
「あ、もしかして今、私が船員だとか思ったでしょ?」
「え...あ、はい」
急なカミングアウトに思考がついていけなくなったサトシだが、何とか持ちこたえた。
マリーはと言うと、何故だかドヤ顔をしている。
「実は私、アルバでは結構お偉いさんだったりするんだよね~。だから私を置いては出航出来ないってこと!」
マリーが言いたい事は分かったが、出航時間が過ぎているのにここまで呑気に会話をしていて良いのだろうか?
そんな疑問がサトシの中に浮かんだと同時に、マリーが我に返ったかのような顔をする。
そしてまだ片付けきれていない荷物を無理やりショルダーバッグに詰め込むと、サトシの方を向き...。
「でもお偉いさんとは言っても一番上ではないから、勿論上司はいるんだけど、さっきその人から電話が来てて、早く来ないと本当に置いてくって言われちゃってね......という事で...」
そう言いながらニッコリと微笑むマリーだったが、サトシにとってその微笑みはあまり良くない事だとすぐに気づいた。
「ダーッシュ!!」
「やっぱり~!!」
運がいいのか悪いのか、何とかアルバ行きの船には乗れそうだが、代わりにかなりの体力を初日から使ってしまうサトシであった。
「チケットを忘れてきてしまったのは災難だったね。でも本人確認はこれで済んだから、船に乗って構わないよ、サトシ君」
「ありがとうございます!」
乗船場までダッシュしたところ、マリーの言う通り船はまだ出ていなかった。
マリーが船員にサトシがチケットを持っていないという事を伝えると、船員が船内に戻り、少しすると別の女性が出てきた。
服装はどう見ても船員の物ではなかったため、この人が先程言われてた上司なのだろうと勝手に考えたサトシだったが、予想は当たっていた。
その女性が船から降りてくるのを見た途端に、マリーの顔が引きつったような顔をしていたからだ。
マリーがサトシに少し待っててと言うと、その女性の方に小走りで寄っていき、数分話をした所で急に女性がマリーの額を軽く小突き、マリーはと言うと落ち込んだ雰囲気を醸し出しながら船の中へと消えていった。
そうしてサトシとその女性が残され、簡単な質問をされた後、船に乗る許可が出たのだった。
「ではサトシ君、君にはまず最初にこの船の事について少し話すんだが、それよりも私の自己紹介からだね。私の名前はシオン。アルバに住む人からは代表と呼ばれているんだ」
「代表...ですか?」
「ああ。言葉の通り、アルバに住む職員達の管理をしていてね。先程君と一緒に船に来たマリー君も、職員の1人だよ」
船に乗ったサトシは、代表と呼ばれ女性、シオンに応接室まで案内されると、そこで今回の招待について説明を受けることになった。
「本題に戻ろう。この船は今、各地方を廻っているんだ。具体的には、シンオウ、ホウエン、カントー、イッシュ、カロスの5つだね。本当ならジョウトも廻る予定だったが、まあ気にすることは無い。この船はさっき言った順に地方を回るから、残りはイッシュとカロスだね」
「カロスにも寄るんですか!?」
「そうだね。その反応からするに、カロスに用事でもあるのかい?」
「はい、そんなところです」
サトシの言葉を聞いたシオンは、少し考える素振りを見せた後、メモ張と思わしき物をペラペラと捲った。
何かを確認したらしいシオンは、メモ張を仕舞うとサトシにある提案をする。
「なら、その用事が終わるまで船を留めておこう。と言っても、長くて2日だがね」
「本当ですか!?やったー!」
「それと、もしもの時のために役員を1人同行させるが、それでもいいかい?」
「はい、大丈夫です!」
「では、次に今回の大会への招待基準について話そう。普通なら......おっと、失礼」
説明をしようとした所で、代表の右手首に付けられている機械が音を発し、それに気付いたシオンがその機械を操作して口元まで近づけて会話を始めた。
それはマリーが付けていたのと同じ形の物であった。
「どうしたんだい?対応をしているから連絡は控えるように言ってある筈だよ?」
『そう怒んないでくださいよ代表。ルザミーネさんから電話です。急ぎらしいのでお願いします。では失礼します』
聞こえてきたのは男の声だったが、随分と軽い雰囲気を感じさせた。
電話が終わると、やれやれと言った表情をするシオン。
サトシに「すまないね」と一言言い、サトシの部屋の鍵を渡してから応接室を出ていった。
特にやる事が無くなったサトシは、割り当てられた客室に荷物を置くと、相棒のピカチュウと共に船内の探索を始めた。
中の作りや装飾は珍しいものがある訳では無いが、今まで乗ってきた船とはある所が違っていた。
それは船に乗っている人数である。船の大きさは豪華客船ほどあるにもかかわらず、廊下やデッキ等少なくとも誰かしら居そうな場所に全く人が居ないのだ。
まあそれも、各地方の代表とアルバ島の役員しか乗っていないのであれば納得できる。
一旦部屋に戻ろうと廊下を歩いていたサトシだが、角を曲がったところで反対側から誰かが歩いてくるのが見えた。
背丈は智よりも高く、下は青いジーンズに、上は黒いTシャツに赤い上着を着ていた。
また、赤い帽子も被っており、目元まで深く被っているせいかどんな顔なのかは伺えない。
おそらく男性だが、サトシとピカチュウは彼を見てからその場を動けずにいた。
サトシの部屋はこの廊下の中央にある。ここから部屋までの距離は短く、歩き出せばあっと言う間に着いてしまうだろう。
だが、その為の第一歩が踏み出せずにいた。
彼がサトシの方に歩いてくる。
距離が縮まる度にサトシの呼吸が荒くなっていく。
サトシの肩に乗っていたはずのピカチュウも、身を縮こませていた。
一歩一歩と彼とサトシの距離が縮まっていく。
その度にサトシは自分の鼓動が速くなっていくのを感じ、胸が苦しくなっていく。
これは恋愛や緊張といった生易しいものではない。
それは恐怖だった。
もし彼がトレーナーで、サトシがいつもの様に勝負を仕掛けていたら......。
そんな想像をしたサトシの顔は、どんどん青くなっていく。
もしこれ以上近づかれれば、おそらくサトシは気を失って倒れていただろう。
すると、サトシの精神状態がギリギリの所で、その男性は急に足を止めた。
彼は右手首に付けられている機械を口元まで持っていくと、一言二言交わした後に、来た道を引き返して行った。
「っ! ハァ...ハァ...今のは、いったい...」
「ピカ~...」
先程の彼が視界から消えた途端に、鼓動が元に戻り、胸が締め付けられるような感覚も無くなっていく。
その後すぐに部屋に戻ったサトシは、水を一杯飲むと倒れ込むようにベッドで寝てしまった。
シオン「やあ諸君。アルバ島の代表、シオン...」
マリー「と!その部下のマリーでーす!」
シオン「マリー君、君は謹慎処分中だった筈だよ」
マリー「うっ...!」
シオン「まあいいさ。ここでは本編では触れられない豆知識のようなものを紹介していこう」
マリー「先生みたいですね」
シオン「今回は各地方の代表選出のついてだ。まず役員達が各地方のリーグ戦のビデオを見て、気になったトレーナーについて調査を行うんだ」
マリー「ビデオ見るの大変だったなー」
シオン「さらにそのトレーナーの対戦相手についても調査を行う」
マリー「初戦敗退でも、実は優勝者と同じくらいの実力だった事なんてザラだからねー」
シオン「最後に私が資料に目を通し、招待するトレーナーを決めるのさ」
マリー「代表の独断が入る辺り、ちょっと虚しいですけどねー」
シオン「今日はここまで。ではマリー君、謹慎処分中の無断活動により、謹慎期間をもう少し伸ばすとしよう」
マリー「そんな~...」
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