INFINITE・STRATOS NEXT ~戦いの果ての答え~ 作:タナト
今や地表のほとんどを覆っている砂漠地帯。そんなどこにでもあるような光景の中に異様な建造物が一つ。空高くそびえたつ白い塔は、先端に光を蓄えている。その光は人類の未来を拓く希望であり、まさに今失われている幾億もの命の光でもある。
それを遠くから眺める巨大な人影があった。世界最強の兵器アーマード・コアの次の次元ネクストそしてその中にはそれに乗るパイロット、リンクスがいた。名はレイレール・ライミス。現時点で最高のリンクスといえる彼は、この光景をつくりだした最後のORCAであった。
「テルミドール、メルツェル、真改兄さん、ORCAのみんな、つかんだよ『未来』」
AMSを経由して流れてくる映像をみながら彼が呟いた次の瞬間、塔の光が空高くへと放たれた。その光は人類の宇宙への進出を妨げる旧時代の遺物をことごとく焼き払い、人類の新たなるフロンティアを開いていく。
(こんなことに付き合うなど私も物好きだな)
レイの無線から聞きなれた声が響く、
無線越しの女性、セレン・ヘイズは言った。
(お前にはいい夢を見させてもらった)
いつものきつめの声とは違い、優しいトーンでセレンは答えた。
「………」
(………)
しばしの沈黙。
「セレ…」
レイが口を開きかけたその時、
(…っ!ネクストの接近を確認…!)
「………!」
レーダーには確かに1機のネクストの機影が映っていた。そして、彼から少し距離がとった場所で停止する。
そしてそのネクストとは…
(ジョシュア・オブライエンのホワイト・グリントなのか…?)
セレンは驚きの声を上げる。
そう、そのネクストは確かにホワイト・グリントだった。だがラインアークのそれではない、リンクスなら知らぬ者はいないアナトリアの傭兵と並び語られるリンクス戦争の英雄、ジョシュア・オブライエン。そんな彼が駆っていた、最初の『白い閃光』ホワイト・グリント。目の前の機体はそれに酷似していた。
(ジョシュアが生きているわけがない…とするとやはり…)
ラインアークのリンクスが生きていたのだろう。そしてそれはすなわち…
(お久しぶりです。レイレール・ライミス、霞スミカ)
セレンとは正反対の柔らかな声が無線から聞こえた。
(フィオナ・イェルネフェルト、やはりお前たちか…何の用だ?)
セレンも落ち着いた声で返す。
(すべての決着を付けに来ました)
(…っ⁉)
帰ってきた言葉にセレンは息をのむ。
決着を付けるとは、今ここで戦う、ということだ。
(貴方達のやったことは、許されない)
リンクス戦争時では考えられないような冷たい声で、彼女はそう言い切る。
レイはその言葉を真っ直ぐ受け止める。確かにこれはこれまで誰も犯したことのないような重い罪だろう。だが、間違っているとは思っていない、後悔もしていない。だからレイは何も言い訳しない。
「それは、貴方も同じはずだ…ホワイト・グリント…いや、アナトリアの傭兵」
レイは、感情を込めず言った。
(確かに、そうだな。結局アナトリアを守れず、世界をかき乱すだけだった俺も貴様の同類かもしれんな)
返ってきたのは、フィオナのものではない、低く深い声だった。
ホワイト・グリントのリンクスは、アナトリアの傭兵である。それはリンクス達とって公然の秘密であった。だからこそ全リンクスの中で最強と言われ、畏怖されてきた。
レイはその言葉を聞き覚悟を決めた。
「始める前に言っておく、俺はレイレナードのアンジェの息子だ」
アンジェ、最強のレーザーブレード、『
(………)
無線からは何も聞こえてこない。
「恨んではいない。俺も傭兵、戦いの中にあって死ぬのは当たり前だと理解している。むしろ強さを重んじていた母にとって貴方と戦って死ねたことは本望だったと思う。そしてだからこそ、俺は貴方を討つ。強くあることにすべてを賭けた母の息子として、レイレナードの遺志を継ぐ者として、そしてこの『月光』を継ぐ者として…!」
レイは感情を込め言い切る。
たとえ自分自身が断罪されるべき罪人だとしても、今自分の中にある確かな答えは、その罪よりも重い。だから引かない、絶対に。
(もう、言葉は不要か…)
アナトリアの傭兵はそれだけを言った。
しばしの、沈黙が流れる。
ドゥ!
2機のネクストはQBで距離を広げる。そして…
戦いが始まった。レイのネクスト、アンサーのアセンは、ローゼンタールのTYPE-LANCELをベースに積載限界を増やすため脚部をGAN02のものに替えて、内装を機動性とEN特化に替えた機体。武装は左腕には実弾のライフル。背中にはレーザーキャノン、展開型ミサイル。両肩にはフレア用のミサイル。そして右腕にアンジェから真改を介して受け継がれた『月光』。
一方ホワイト・グリントは、フレーム自体はリンクス戦争当時のもので、武装もレーザーブレード、突撃型ライフル、レーザーキャノンというシンプルなものであったしかし…
2機は円を描くように機動しながら牽制のライフルを撃ち、相手の出方をうかがっていた。
(おい、あれはガワは似ていても、中身は別物だぞ!)
確かに、旧式のブースターを使っているとは思えない速度だ。他の内装も付け替えているに違いない。セレンの忠告を聞き、レイはそこまで予測した。
2機は拮抗していたが、徐々にレイが押され始める。QBの性能が違うのだ。ホワイト・グリントのQBは白い閃光の名の通り強力なQBが可能だ。だがアンサーは比較的堅実な動きを好むレイに合わせて、平均速度に重点を置いてアセンしてあった、なのでQBの加速はそこまで圧倒的ではない。近距離の戦いは不利とレイは判断し、ミサイルで牽制、距離を取る。そして後退しながら、ライフルとレーザーキャノンでQB後の隙を狙う。
しばらくそれで張りやっていたがまたもレイが押され始める。やはりQBのメリットは遠距離にもあるのだ。
「くっ、これが伝説の力…」
レイは苦々しく呟く…
あの戦いが出来レースだったことはのちにテルミドールから聞いた。フィオナもレイヴンの引き際を探していたらしい。あれで本気ではなかったということだ。レイの実力もあの時よりはるかに向上しているがついていくのがやっとだった。
(まったく、ばかげた技量だ。適性が低いという話ではなかったのか…?)
セレンはあきれたように言う。レイは高い適正を持つので問題はないが、AMS適正が低いというのはリンクスにとって相当に不利なことである。無論かつてのアマジーグのように戦うこともできるが、それには耐え難い精神負荷を受け入れなければならない。それをレイヴンは20年近く続けているのだ。
「人間じゃない」レイは素直に思った。適性の高い自分でも少なからず負荷はあるのだ。NSSを使うわけでもなく、なおかつ負荷の大きい高速戦主体の戦闘を続けているのだ。
そんなの、正気じゃない。なぜそこまでして戦う?守るべきものも無いというのに、果たすべき理想も無いはずなのに、なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
弾丸は途切れることなく迫ってくる。戦う以外にないのだと教えるように。
「なぜだ?なぜ貴方は戦う⁉どうしてそうまでして戦うことをやめない⁉」
レイは混乱の中で、無線に叫んでいた。
なぜそうも強く在れる?
(決まっている…俺たちは…)
(AP40%減少!)
落ち着いた声を、セレンの声がかき消す。
そうだ決まっている。
レイヴンの声にレイはひどく納得してしまった。
貴方は鴉で、戦場という空しか飛べない。
俺は猫で、戦場という大地しか走れない。
俺と貴方は傭兵で、戦いを糧とする。
俺たちは結局、戦うことしか、殺しあうことでしか生きられない、『ドミナント』。
AMSを付けた時から、ネクストで戦場を支配した時から、俺たちは呪われている。
―死ぬまで戦え―と。
その呪いのおぞましさに一瞬怯んでしまった。
ザシュッ!
急接近したホワイト・グリントのレーザーブレードが直撃した。
(AP60%減少っ!もう持たんぞ!)
セレンの焦った声が聞こえる。
このままじゃ負ける、そう分かる。逆転の手段は一つしかない右腕の『月光』。しかし反動が大きく、外せば終わりだ。それに俺は真改兄さんほど『月光』を振りこなせているわけじゃない。
一か八かの賭け、できるだろうか?自分に…
レイは初めて自分に自信が持てなかった。自分よりはるかに戦いに執着している敵を前にして初めておじけづいた。
QBでなるべく被弾を避けようとするがAPは刻一刻と削られていく。レイは死に飲み込まれそうになる。
(馬鹿者!何を迷っている⁉お前はいつもこうしてきただろう?何度だって死線をくぐってきたはずだろう?その時お前はどうしてきた?)
セレンの声でレイは我に返った。
消えかかった炎が再び燃え上がった気がした。
(…できるな?…できなければ死ぬだけだ…)
ああ、できる。そうだ、俺はいつだって超えてきたんだ。
BFFの老兵も、地上最強も、企業連の答えも、ブラス・メイデンも、全て、全て…
今更何を恐れる?
アンサーは、『月光』を構える。ミサイルで牽制し、その隙に二段QBで距離を取る。
そして、OBで一気に距離を詰めた。
―見てみたかったですね、宇宙を…―
―すまんなみんな。もはや、ともに成就はかなわん…―
―人類に…黄金の時代を…―
―この剣をお前に…―
―人類の未来と、ともに戦ったORCAの戦士たちのために…―
散って逝った仲間たちの声が背中を押す。
そして、右腕から光がはじけ、巨大な剣を生み出す。
―成就しろよ。お前の答えを…―
アンサーは、『答え』は剣を振り上げる。
全ては、答えのために…
光の激流が白い閃光を飲み下した。
それからの一瞬が何倍にもレイには感じられた。
はぁ、はぁ
(ホワイト・グリント沈黙…終わりか…)
終わり?俺が終わらせた?レイには実感がわかなかった。栄光の場所から地の底に落とされてなお立ち上がり、3度の伝説を築いた彼を自分が終わらせたなどと…
(なぁ、これからどうする?)
セレンが心配そうに聞いてくる。
「まだだよ。セレン」
レーダーには、まだ多数の敵影の反応があった。AFとノーマルの大部隊が。
APも残弾も少ない。生きては帰れない。
(企業連の奴ら、どうあってもORCAを滅ぼすつもりか…おい、もう戦う必要はないだろう!撤退しろ!命令だ!)
セレンはこれまでに聞いたことのないような声で懇願する。
「ごめんセレン。俺、あの人と同じなんだ。戦いからは逃れられない」
無線の向こうでセレンが息をのむ音がレイには聞こえた。申し訳ないと思いながらも、アンサーを敵陣へと進める。
(頼むレイ!戻ってこい…私には、お前が…必要なんだ…!)
アンサーは、レイは何も言わずに進む。
(レイ…)
ついにセレンもあきらめてしまったようだった。
そして、AFの射程に入る直前、呟くように言った。
「…ねぇ、セレン。聞こえる?…ありがとう…」
(…馬鹿野郎が…)
レイは安心したように微笑み、OBで敵陣に飛び込んでいった。
そして、少年は目を覚ます…
どうでしたか?楽しんでいけるならうれしいです。
評価・感想をもらえると作者は光が逆流します。