INFINITE・STRATOS NEXT ~戦いの果ての答え~   作:タナト

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 大変遅くなりました。
 不死人始めました。
すみませんだから遅くなりました。


Chapter 3 面影

「それでは、1年1組のクラス代表は織斑君に決定しました」

クラス代表決定戦の翌日、麻耶がSHRでそう告げると、クラスから歓声が上がった。

しかし、レイの心に周りほどの熱はなかった。その賛美をどんな風に受け止めればいいか分からなかったからだ。自分が力を示していくこと、そのことが世界にどのように受け取られるか分からなかったのだ。

そして、この世界は一人の力で変えられるほど単純ではないと思い直し、リンクス特有の傲慢さが抜けていない自分を少し恥じた。

 そしてその日は校庭で演習があった。

「今日はお前たちにISでの基本的な飛行演習を行う。織斑、オルコットやってみろ」

 1年1組の生徒はISスーツを着て校庭に整列していた。

ISスーツはハイレグ水着のような露出度をしていた。それなりに稼いでいたリンクスであったレイに女性経験がないわけはなく(ほとんどはセレンだが)目の保養になるな、ぐらいにしか思わなかったが、バリアがあるとはいえ戦闘を行うときにあんなに肌をさらして怖くないのだろうかと疑問に思っていた。ISが読み取る運動神経の電気信号を増幅させるというISスーツは脊髄まわりだけで十分なのは分かるが怖すぎる。少なくともレイには無理だった。そこでレイ要望でスーツは完全にオーダーメイドで全身に生地があり、随所にアーマーがついていて簡易パワードスーツと言えるまでになっている。色はアーライエンと同じで紺に赤いラインが入っている。これらのデザインは全て彼の提案だった。見栄えにはそこそこ気を使うのがレイである。

その中から二人は前に出た。

「来なさい、ブルー・ティアーズ!」

その声と共にセリシアはブルー・ティアーズを纏う、その横でレイは紺色に赤いラインが一本入ったアーライエンの待機形態である金属の首輪に指で触れ、呟くように名前を呼んだ。データは舐めるように隅々まで見させてもらった。イメージには問題がなくアーライエンはすぐにそれに応え、彼の体を鋼の装甲が包んだ。

 二人はふわり飛び上がった。

「よし、二人ともまずグラウンド上空を10周しろ」

千冬からの指示で2人は飛行を始める。

2機の速度はだいたい同程度であった。

スラスター出力はアーライエンと同等、射撃型とはいえ第三世代機か…しかしまずいな、ブルー・ティアーズは特化型で付け入る隙があったけど第三世代機の汎用型なんかに出てこられたら絶対じり貧になるぞ。早く追加パーツ届かないかな…

などとまだまだ伸びしろのある、言い換えれば未熟な愛機についてレイは不安と期待の両方を膨らませていた。するとプライベートチャンネルが開き、

(初心者とは思えない、安定した制御ですわね)

とセシリアが話しかけてきた。

レイはどう返そうかと一瞬困惑したが、

「アーライエンは安定性に重点が置かれてるからね、素人でもまともに運用できるレベルで。それと、俺は初心者じゃない、今は詳しく言えないけど」

(…え?どういうことなのですか?)

きょとんとしているような声が返ってくる。

「まあ、もう少しすれば情報も解禁されるから待っててよ。あ、でもそれまでは口外しないでね」

(そ、そうなのですか。分かりました)

彼女は困惑しながらもレイの言葉を受け入れた。

(よし、織斑、オルコット、そのままみんなの前まで急降下し地表から10cmで急停止だ。誤差は1㎝にとどめろよ)

グラウンド周回を終え、千冬から指示が入る。

「了解」 「了解ですわ」

2人は指示どおり急降下急停止を行う。

セシリアはほぼ感覚的に停止できていたようだが、レイは自分とアーライエンのシンクロの度合いが完全には掴んでいなかったのでバイザー越しにモニターに映る速度と高度を見ながら降下した。

生徒たちから歓声が上がる。

「とりあえず、及第点だな…これからお前たちには…」

そこから今後の指導方針の説明などがあり授業は終了した。

 その後レイが制服に着替え教室に帰っていると、後ろから追いかけてきたセシリアが話しかけてきた。

「あ、あの、織斑さん。少しよろしいですか?」

戸惑いがちに言う、彼女に対しレイは立ち止まって答えた。

「いいけど、何?」

「そ、そのこの前はいろいろと失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」

彼女は本当に申し訳なさそうに言った。

「いいよ、気にしてないから。でも、一つ忠告するなら何事も対策を怠らないことだ。簡単な事でも物事が自分の望む方向に進むよう準備を怠らなければだいたいのことはうまくいくよ」

「はい、今回のことで骨身にしみましたわ。でも後学のためにあなたがどうやってそこまでの技術を得たのか気になりますわ」

 無邪気に聞いてくるセシリアにレイは困惑してしまう。

「う~ん、この前君に勝てたのは技術というより、プロファイリングのおかげかな」

レイは少し笑みをこぼしながら続けた。

「この一週間、ネット(とアーライエンに成果を上げてほしいイギリスの技術者)から君についての情報を漁らせてもらった。君の経歴から得意な戦法や射角、苦手な場面もね」

「え?あ、あの…」

調べられたという事実にセシリアは顔を赤くしてしまう。

「それで君の切り札のミサイルもだいたい予測できた。事前に対策を練ってなかったら君には勝てなかったよ」

「そ、そんな謙遜されて…」

慰められたと感じたセシリアは反論を始めようとするが、レイは首を振っていた。

「ううん、君の射撃技術は一級品だ。君以上の人はなかなかいないよ。あ、もう時間だ。あの人に怒られるといけない。教室に急ごうか?」

さらりと言ったレイは彼女の表情を見ず振り返って歩き出した。

 ここまで彼がセシリアに対して優しいのには理由があった。それは彼女の戦う理由にある。彼女は親が築いた遺産を守るための社会的立場を得るために代表候補生になったという境遇、それは両親の遺志を果たすためORCAとして戦ったレイにとって、共感できるものだった。

 その日の放課後、寮の大部屋でレイの代表決定記念パーティーなるものが開かれていた。

そこにはなんとクラスメイト全員が参加していて彼はその全員からねぎらいの言葉を言われ、40近い名前を覚えることとなった。

 だがなかなかにこういう場面がレイは好きだったりする。

リンクス時代は仕事をこなすたびにセレンやメカニックのみんなと飲んだものだ。その後酔いつぶれたセレンを部屋に連れ帰って、酔った勢いで押し倒されたり…

「女子に囲まれて鼻の下を伸ばすなど、情けないぞ一夏」

隣の箒が小言を言ってくる。

「そんな事ない、俺はこの雰囲気が好きなだけだ」

適当に返すと彼女はフンとそっぽを向いた。

それから新聞部からの取材があったり、写真撮影などでてんやわんやしているうちに鬼寮監が急襲し、お開きとなった。

騒ぎの後、レイは一人でハンガールーム向かっていた。アーライエンの調整のためだ。もともと自分の技量というより、相手の情報を先に得て相手に合った武装を選び、そのデバイスの特徴を隅々まで把握して、戦術を組み立てることで勝利してきたレイ、実は戦闘技量よりエンジニアとしての才能の方があったりする。

 そういう背景があって彼は待ち気味の戦い方をするのだ。

ハンガールームに着くと明かりがついていた。誰かいるのだろうかと疑問に思っていると、

「まって、おりむー!今は入っちゃダメ~」

間延びした声とともに、一人の生徒が道を塞いできた。

「君は…布仏さん、どうかしたんですか?」

同じクラスの布仏本音だった。のほほんとした雰囲気であるが少し慌てているようだった。

使用許可も取ったし、問題はないはずだが…

「どうしたというかなんというか~」

歯切れの悪い言い方だった。

できれば早くアーライエンに触りたい。

「できれば、通してくれるかな?」

「え、え~とその~…」

無理に押し通ることもできずにいると、

「誰か来たの…?」

後ろから控えめな声が聞こえた。

レイが本音の後ろをのぞき込むと小柄な少女がいた。

「君は…」

その顔は見覚えがあった。

「そう、よりにもよってあなたなのね。なんの用?」

いきなりその顔に睨まれるそれもかなり鋭く、

「…?…いや、ハンガー使いに来たんだけど…」

「…あなたのISに使うの?」

少女はすさまじい拒否感を感じさせる顔で聞いてくる。

「そ、そうだけど…君は…更識簪…だよね?」

日本の代表候補生、更識簪。データで見たことはあるが面識はないはずだ。

そんな彼女にこんな顔をされる理由が分からず、恐る恐る聞いてみる。

「私が誰かなんてあなたには関係ない。………まぁ、いいわ。ただ、私の方を絶対見ないで、絶対」

「かんちゃん…」

絶対の部分をすごく強調していた。隣の本音が何やら心配そうな声を上げる。

「…う、うん。とりあえず分かった」

釈然としないがアーライエンの方が大事だった。

簪が作業場に戻るのを見てレイもそそくさと作業の準備を始める。空いているハンガーの照明を付け、アーライエンを展開し、固定する。

 彼は、アーライエンの肢体をうっとりと眺め胸部装甲を優しく撫でた。

…我ながら変態的な機械好きだな。とレイは自らを嗤う。そういうところは父に似たのだろう。

父は幼い自分に複雑な設計図を見せ、目を輝かせてその素晴らしさを熱弁していた。母は自分にはまだ早いとあきれていたが自分には関係のないことだった。彼はそんな父が好きだった。意味は分からなくても以前聞いた単語に反応すると、父はとても喜んでくれた。

『レイはいい技術者になれる』そんな風に言って。

レイには分かっていた、理解できなくても理解していた。その価値を、そこに書かれた不可思議な模様や言葉が母の強さになることを知っていたから。

ふと我に返った彼はデスクに座り、アーライエンの調整を始めた。

さなか後ろからちらちらと躊躇いがちに向けられる視線にレイは気づいていなかった。

 

 翌日

 

「———っああ…」

レイは、教室の机で大きくあくびをする

「一夏!昨日夜更かしなどするからだ。私が呼びに行かなければ、夜通しやっていただろう。そんなことでは代表戦を勝ち抜けんぞ」

箒はレイの隣まで来て説教を始める。

「大丈夫だよ、ちょっとぐらい居眠りしても。それに昨日だって勝つためにやってたんだから」

昨日は夜中まで作業して、箒がやって切って無理やり部屋に戻らされた。

「あ、代表戦と言えば2組の代表が変更になったらしいの。織斑君知ってた?」

地下悪の生徒が話題を振ってくる。

「そうなの?聞いてなかった」

レイはおもむろに机に備え付けられたディスプレイを開いて確認する。

そこには驚きの名前が載っていた。

ダンッ!

勢いよく教室の後ろのドアが開く。

 振り向くとその名前の持ち主が立っていた。

「一夏、やっと会えたわね!」

その笑顔はとても快活だった。

 




 ダクソ楽しいな~。
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