雷児と、平塚先生が喋ってるだけになってしまった……。
小話だと思って読んで下さい。
突然だが、もう一度言おう。
「……どうしてこうなった」
「それはこっちのセリフだ、問題児」
ゴツン!
「痛っ!」
奉仕部に比企谷八幡という新入部員が入部し、部員数が二人から三人になった次の日の放課後。俺は職員室でお説教と言う名の鉄拳制裁を受けていた。
お相手はもちろん、平塚先生である。ついでに周りに人影はいない。
「私が真面目に話をしているんだ。しっかり聞きたまえ」
「そんなこと言われても、反応するたびに叩かれてちゃ、聞く気も失せますよ…」
そりゃそうである。ただでさえ大きくない身長が縮んだらどうしてくれる!
だが、目の前の平塚先生は、こめかみに青筋を立てていたのでそんなことは言えない。
「……君がそんなこと言える立場かね? 私の貴重な時間と楽しみを奪っておきながら」
「で、でもですね!先生から説教を受けるのは、やっぱり納得いかないです!」
どことなく独身の気配を漂わせる言葉を吐く平塚先生。やっぱ、この世界線でも独身だったか……。先生は結婚できない運命にでもなっているのだろうか?
そんなこと、今は関係ない。俺が言いたいのは、説教を受ける相手が違うということだ。
「君の叔母さんが、私に全部丸投げしてきたんだ……」
「そうだったんですか……。なんかすいません」
すごくやつれた顔で溜め息をついている平塚先生を見ていると、何も言えなくなってきてしまった。
ちなみに俺の叔母さんは、この学校の家庭科の先生である。今、この職員室にはいない。
少しの沈黙のあと、愚痴をこぼしていた平塚先生は、足を組み直して俺に目を向ける。
「とにかく、今回の問題の件だ」
「うぐっ……。情状酌量の余地は無いですか?」
「無い」
「部活に行くというのは……」
「この問題が解決してからだ。もう覚悟を決めろ、鶴見」
バッサバッサと退路を絶たれてしまった。もう今日は先生の魔の手から逃れられないようだ。
平塚先生は、手元の紙に見て盛大に溜め息をついていた。あ、また婚期が一個逃げた。
「……君は何か、失礼なことを考えていただろう?」
「め、滅相もございませんっ!」
なんで考えてることが分かるんだよ!雪ノ下も含めて、この学校にエスパー多すぎでしょう……。
「はぁ……。そんな余計なことばかり考えているから、君はガスコンロを壊したんだ」
「し、仕方が無いじゃないですか!あれは事故ですよ、事故!」
必死に言い訳を試みるが、平塚先生の目が鈍く光ったことで、背筋に寒気が走る。
「ほう? 君は調理実習中に、『ゴルディオン・クラッシャーッ!発動っ!!』と言いながら、ガスコンロを勢いよく点火させ、ぼや騒ぎにしたことを、事故だというのかね?」
「えぇっと、それは……」
おい、叔母さん。この人物に俺のNEW黒歴史を教えないで下さい。せめて詳しい所は、ぼかして欲しかったです。あとそれは、材…何とか君を思い出していたからです。
話を戻すが、簡単に言えば、問題とはこのことである。
この時期、二年生は、家庭科の時間に調理実習がある。それは俺の所属するE組も例外ではなく、今日の午後に調理実習があった。ちなみにF組は明日行われる予定である。
まあ、そこで俺は、ガスコンロを一個壊してしまったのである。
原因は、昨日の件においての対策をしており、ほぼ徹夜をしてしまった故のハイテンションである。
それにより平塚先生に連行されたため、悩んだ時間は水の泡になってしまったのだ。
なんとも皮肉な話である。
「まあいい。とにかくいつものやつを書け。それと、書き終わったら予備のガスコンロを家庭科室に持っていけ。これが倉庫の鍵だ」
すごくぶっきらぼうに言い放って、“いつものやつ”こと反省文の紙と倉庫の鍵を俺に渡してくる平塚先生。……何回目でしょうね。反省文、あなたを見るのは…。出来れば会いたくなかった。
「はぁ……。分かりましたよ。いつもどおり書きますよ、書けばいいんでしょう?」
「あ、おい。目上の者に対する言葉がなっていないぞ。鶴見」
もう半ばやけくそ気味になって、それらをひったくり、ガリガリと反省文を書き始める。
通算で十回近く書いているため、癖のある字がスラスラと出てくる。こういう嘘八百ほどではないが、口からでまかせを言うのは得意なのである。良くないスキルだが。
十分ほど、とにかく反省している姿勢が伝わる文章を書きまくり、三分の二に近づいたあたりで、唐突に平塚先生が話しかけてきた。
「そうだ。君にも聞いておきたいことがある。比企谷にも聞いたことだが……」
「な、なんですか?」
「君はアニメやマンガは好きかね?」
「好きですね。超好きです」
超素直に答えた。こういうときの俺の潔さは誇れる。誰に? とか聞いてはいけない。
だが、俺の答えは平塚先生のお気に召さなかったようで、首を傾げていた。
「うむ?君なら、比企谷のように捻くれた回答をすると思っていたんだが…」
「俺はこういう方面は真っ直ぐですよ。隠していた所で、グッズとか持ってきたら即バレるんで」
「確かに、それは一理あるな……」
先生も経験あるのか。確かにこの人なら、家にコスプレとか持ってそうだ。しかも何故か特撮物。
まあ、アニメ好きであるのを隠しながら学校にアニメグッズを持ってくる一種の優越感?は確かにあるんだが、その代わり、それがバレてしまった時の周りの反応はマジで冷たい。だから、先に公言しておいてダメージを抑えるのだ。この効果の発動条件として、未来モテ率を大幅に犠牲にすることになるが。
ふと気が付くと、平塚先生は俺の正面に立っていた。いつの間に移動したんだ?
これから本格的に話すつもりだろうか。あとはまとめ書いて出すだけなんだけどなぁ……。
「アニメでは何のジャンルが好きかね?」
「やっぱ、ロボットアニメです。でもバトルアニメも好きですけど」
「さっきの話でもあったが、ガ○ガイガーは好きなのか?」
「主題歌は好きですね。特にファイナルが。まあ、本編あんまり見てないんですけど」
ピキッ
平塚先生のこめかみ付近から不穏な音がした。
え?怒らせること何も言ってないよね?気のせいだよね?
「ま、まあ、ホントに熱くなれますよね!あのアニメ!」
ビキッ!
さらにヤバイ音がした。よく見てみると、先生の肩がワナワナ震えている。
何故!?俺がいったい何をしたというのだろうか。生命の危機かもしれないので、様子を伺う。
「あの、平塚先生?な、なんで、怒ってらっしゃるんですか?」
その答えは、数秒の沈黙の後に訪れた。
平塚先生はゆっくりと立ち上がり、そして……天井に向かって吼えた。
「その程度で、ロボットアニメ好きを語るなぁぁぁぁッ!!」
「ひゃあッ!?」
あまりの剣幕と迫力で、情けない悲鳴が出てしまった。この人、こんなに威圧感あるなら教官にでもなったほうがいいんじゃないだろうか?というか、なった方が良い。ここが学校内であることを忘れていないだろうか?
そんな俺の微かな希望はお構いなしに、鬼のような形相で、俺を睨む平塚先生。
「おい、鶴見。土日、空いてるよなぁ?」
「は、はいっ……」
何なんだ、この状況。第三者から見たら、明らかに俺が脅されてるようにしか見えないと思うんだが。目の前にいるのは、一昔前のスケ番なんだろうか?いや、実際、世代的にストライクだから、スケ番やっててもおかしくないけど。
「明日、DVDを持ってくるから、絶対に全部見ろ。いいな?」
「え、でもそれってマズイんじゃ……」
「い・い・な?」
「さ、サーイェッサー!」
「なんなら、私の家で見せてもいいんだが……」
なんと、ここでお泊りフラグが立ちました。ただ、全然嬉しくないよ!
このセリフが、昨日の乙女モード(勝手に命名)で言われたなら、一瞬でOKを出していたのに……。今の平塚先生からは禁断の匂いなど微塵もしない。
「いえ、自分の家で見るんで結構です!」
「そうか? もし来るのなら、バトルアニメとしてスク○イドも全話見せようとしたんだが……」
「いえっ!そんなに一気に見れないんで、またの機会にしてください!」
「そうか……残念だな」
そう。ここにいるのは、俺の何倍もこよなくアニメを愛する一人の人間なのだ。お泊りだろうが、なんだろうが甘い雰囲気になるわけがない。なったら、それこそデンジャラスである。
というか、普通に4クール+2クールを勧めてくるとか鬼だろ。どうやってそれだけの時間を確保しろと言うのだ。
大声をあげてすっきりしたのか、平塚先生が、さっきとは打って変わって笑顔で話しかけてきた。
「で? 反省文はもう書けたのか?」
「大丈夫っす。じゃあ、約束どおり、部室行きますね。シャーペンと消しゴムはここに置いときます」
何とか見せれるくらいになった反省文を提出し、職員室を立ち去ろうとする。これ以上ここにいたら、またどんな地雷を踏むか分からない。
「そうだ、鶴見」
「何ですか?用事は手っ取り早く済ませたいんですが」
また何かアニメに関して言われるかと思ったがそうではない。振り返ると真剣な目で、こっちを見ていた。仕事モードの目だ。
「君は雪ノ下雪乃をどう思う?」
「……それも、比企谷に聞いたことでしょう?」
俺がそう問いかけると、平塚先生は少し驚いた顔をして、苦笑いを浮かべる。
「そうだ。比企谷は、あの子のことを嫌な奴だと答えたが、参考としてお前にも聞いてみたいと思ってな」
俺にまでその質問が来るとは思っていなかった。
そう言われてみれば、あまり具体的には考えてなかった気がする。
ちょっと考え込んで、あまり納得はいかないが、ある程度的を得た表現を言う。
「ライバル、かもしれません。好敵手と書いて」
「ふむ。だが、相手の方は君の事など、眼中にないようだが」
「ぐっ……。確かにそうかもしれませんけど」
結構痛いとこ付いてくるな、この人。狙ってやってるのだろうか?
あのハイスペック人間に体力以外で勝ったことがないから、反論できないけど。
「少なくとも俺は思ってます。あいつも、思ってくれてると期待しますが」
「君から噛ませ犬キャラのオーラが出ているような気がするな……」
「何故、そうなるんですか!」
なんと失礼な。俺はむしろ、中盤から急成長して主人公に追いつくタイプだぞ。
そして、途中で主人公助けて死んじゃうことがおまけでついてくる。
この世界では絶対有り得ないことだけど。そんな事態が起きたら怖いわ。
平塚先生はコホンと咳払いをし、椅子に座った。そろそろ会話終了の合図らしい。
顔だけはこちらを向いて、優しげな表情をする。
「あの子は優しいからな。君も力になってやってくれ」
「……出来る限りですけど、やってみます」
ちょっとドキッとしたので、目線をそらして誤魔化す。そんな目で見られたら、断れる依頼も断れなくなってしまう。
ただ、100%出来るとは、勘違いされたくないので、一言付け加えておくが。
「ただ、協力は出来ないかもしれません。それには自信が無いんで……」
「それでも十分だ。ほら、そんな暗い顔しないで、早く用事を終わらせに行け」
そう言われて、少し焦る。どうやら、昔のことを思い出して、また気分がブルーになってしまったようだ。こういうときの平塚先生の気遣いは助かる。命令どおり、早く用事を済ませるとしよう。
俺は背中を向けて、ドアへと歩き出した。
「じゃあ、失礼します」
「鶴見。先に部室に行って、今日は出れません、と部長に伝えておけ。それから、約束の件は覚えておけよ、いいな?」
しっかり釘を刺すことも忘れないことに、思わず苦笑いをしてしまう。
前言撤回だ。やっぱり、平塚先生の気遣いは、全体的に重たい。
更新遅れました。
誤字脱字があったら、知らせてくれると嬉しいです。