まだまだこのハーメルンに慣れていませんが、少しづつ慣れていこうと思います
とは言え、ビターな作品になってしまったのが悩みどころ
どうぞ最後までお付きあい頂ければ幸いです
第1話 敗戦
某日
僕は白露型駆逐艦、『時雨』。第二次世界大戦のタイランド湾のマレー半島東岸で潜水艦の雷撃を受けて撃沈された。僕達の間では、『あの戦争』と言う。そう、元いた世界とは異なる異世界、『艦娘』と呼ばれる女の子に転生し、そしてこの世界を危機に陥れている「深海棲艦」の存在と戦う事
でもそれは、初期艦である吹雪達から聞かされた話。今は……違う
僕が聞いた話では、大本営は『艦娘計画』を稼働させて艦娘建造に成功した。建造された艦娘は着任すると早速、深海棲艦と戦う事になった。当時の深海棲艦はまだ『最新鋭兵器』を装備していなかったし、練度が高い艦娘だと負傷もせずに敵艦隊を殲滅する事だって可能だった。とは言え、海域は既に敵の手に渡っているため奪還は容易ではなかった。提督も艦娘達の指揮を取り、装備の開発から出撃まで日々、苦労していたと言う
既に艦娘は増え、戦果も増えた。海域は解放され、深海棲艦の脅威は下がっていった。そのはずだった
僕が建造される前までは……
「私は明石。挨拶はいいわ。早く提督の所へ行って」
僕が建造され工廠から出た時、最初に聞いた言葉。待っていたのは工作艦の明石と軽巡の夕張が、何やら忙しく作業をしていた姿だった
「えっと」
「何かあったっぽい?」
「白露型が来たのに!」
「はいはーい!何があったんですかー?」
その日、白露型の4姉妹が建造されたにもかかわらず、出迎えの明石は表情が暗かった。姉さんや夕立、村雨も呑気だったが、僕は工廠に違和感を覚えた。窓がなく時折、地響きが起こっている。カツカツと机の上で音を鳴らす工具とパラパラと上から落ちて来る埃。そして、何やら慌てている工廠妖精。流石の姉さん達も異変を感じた。地震にしてはおかしい揺れだった。これはまるで……
明石は簡単に「艦娘」の存在と艦娘を指揮する提督を軽く伝えると近くにいた五十鈴に声を掛ける
「五十鈴、この子達を提督の所に連れて行って」
「分かったわ。任せて」
五十鈴は戸惑う白露4姉妹についていくよう促された。白露達は五十鈴の後について言ったが、工廠を出るとすぐさま五十鈴に質問攻めした
「一番に出て来て、あの態度は何?あの人、工作艦よね?」
「村雨のちょっといい所も見てくれないのかしら?」
「早くして。その余裕もなくなるわ。先に提督に会わせるわ」
五十鈴は白露や村雨の質問を無視し、急ぐよう促された。五十鈴の暗い顔に4人は動揺した
「あ、あのー」
「何?」
「こ、ここってヤバイ所っぽい?その提督さんって人、怖いっぽい?」
夕立の質問に五十鈴は急に立ち止まった。姉や妹は眉をひそめ、ひそひそ声で相談していた。ここがやばかったら逃げよう、とか、提督が怖かったらどうしようとか。しかし、時雨はそれはないと思った。本当にここが何かヤバイ所なら、あの態度を取らないはずだ。あれはどう見ても何かから慌てている様子。なぜ五十鈴は暗い顔をしているのか?
「大丈夫よ。提督も親切。仲間もいる」
時雨を除く3人はホッとした。しかし次の瞬間、五十鈴は冷たく言い放った
「でも敵がヤバイ。何人かの艦娘が撃沈されたわ。私の妹、名取も海へ出たっきり連絡が取れない」
4人はゾッとした。敵がヤバイ?敵が強くなったと言う事なのか?何があったのか?
「ここは基地の地下施設。大阪の港を臨時基地にしたの。状況は最悪」
五十鈴が説明している間も、地響きが続いている。白露は不安げに上を見上げた。段々と見えて来る現実に村雨も夕立も不安になった
「とにかく、急ぎましょう」
廊下を走る五十鈴に4人は慌てて後を追った。まるで見えない恐怖から逃げるかのかように
一団は地下施設の廊下を走ったが、誰一人とすれ違わなかった。走っている間にも地震とは違う地響き。その地響きのお蔭で廊下を照らす電灯が不安定に点滅する。何が起こっているのか。自分がなぜ艦から女の子になったという疑問よりも、外の世界は何が起こっているのか知りたくなった。不意に広い部屋に出た。この基地の司令部だろうか?多くの艦娘が辺りを右往左往している。艦娘だけではない。陸軍の兵士らしき人達もおり、通信機器を手に取り指示をしていた。どの顔も余裕のない、焦った顔であり通信越しに色んな声が聞こえて来る。その中で白い軍服を着た海軍士官が、無線のマイクを持ちながら叫んでいた
「金剛!街に砲弾の雨を降らす艦隊を撃破したか!?」
『無理デース!守りが固いネ!』
「航空支援はどうした!?赤城と加賀は何をしている!」
『赤城です!こちらの攻撃隊は全滅しました!敵は追尾する能力を持ったロケットを使っています!』
「全てか!あの艦隊は空母どころか戦艦もないだろ!また対空砲火だけで180機も撃ち落されたのか!」
『提督!こっちに墳進弾のようなものが……ダメ!避けられない!』
「おい!翔鶴!聞こえたら応答しろ!翔鶴!!」
翔鶴と呼ばれた艦娘から応答しない事にイラついた海軍士官は机を拳で叩く。やがて五十鈴の存在に気がついた海軍士官は、五十鈴と時雨達に面と向かい合った。五十鈴が提督に白露姉妹を簡単に紹介した
「君達が白露型か。俺はお前たち艦娘を指揮する提督だ。階級は少佐」
「提督、何があったの?」
「世界の終焉だ」
時雨が質問しても提督は短く答えるだけだった。海図を一瞬だけ見た後、提督は聞いてきた
「出来ればゆっくり状況を話したい所だが、今は無理だ。単刀直入に聞こう。戦えるか?」
「い、今からっぽい?」
素っ頓狂な声を出す夕立。いや、時雨も白露も村雨も驚いた。まだ実戦経験もないのに、今から戦いに行くのか?いくら何でも早過ぎないか?
「分かったよ。敵は強いの?」
「外に出れば分かる」
時雨の返事に相変わらず素っ気ない返事しかしない提督。その時、突然スピーカーから怒鳴り声が司令部全体に鳴り響いた
『空襲警報!奴ら爆弾を落とした!丁度、地下司令部の真上!』
「出ろ!みんな、出るんだ!!五十鈴、直ぐに4人を率いて出撃しろ!」
サイレンと提督の怒号に艦娘達は悲鳴を上げながら司令部から出る。白露姉妹も状況が分からないが、艦娘どころか陸軍兵士まで慌てて逃げている所からして不味い状況なのは確かだ
白露姉妹が司令部から出て廊下に出る瞬間、物凄い轟音と共に司令部の天井から黒い何かが落ちて来た。床に落ちた瞬間、司令部は大爆発を起こした。爆風で五十鈴と白露姉妹も床に叩きつけられた。幸い、全員無事に司令部から逃げれたものの司令部はもはや瓦礫の山と化した。一秒でも遅れたら瓦礫の下敷きになっていたに違いない
「な、何なの!今の!?」
「深海棲艦が持っている『最新鋭兵器』。海空どころか地面の下まで安全ではなくなった。海に出るわ。ついて来て」
五十鈴は悪態を尽く4人を促すと地上を目指した。何人か艦娘や兵士達とすれ違ったが、誰も4人を見向きもせずに慌ただしく行き交っている
「艤装を扱える?無線をオンにして。敵は電波妨害していないし、地下でも無線は使える。周波数は――」
廊下を走りながら五十鈴は白露姉妹に説明をしていたが、時雨は不安が増すばかりだ。いや、姉や妹達もそうだろう。無線の内容が尋常ではなかった
『提督だ!誰でもいい!現状を教えてくれ!』
『こちら摩耶!提督、生きていたのか!高角砲が的をかすりもしねぇ!秋月達も同様だ!』
『対空砲火が通用しないなら、もう空に弾を打ち上げるな!秋月達を率いて最上の艦隊と合流しろ!』
『こちら長門!大問題発生だ!古鷹と加古が雷撃を受けた!潜水艦がいる!至急、対潜装備をした海防艦か駆逐艦を寄越してくれ!』
『それは無理だ、長門。潜水艦狩りに出かけた海防艦と潮達から連絡が全くない。残念だが、応援は来ない。そこの守りを放棄しろ』
『う……うう……うあああ~~!』
『誰だ!無線で泣き喚くバカは!』
『榛名は大丈夫じゃない!大丈夫じゃないです!勝てない!もうみんな死ぬんです!あの戦争なんて比じゃない……。もうダメ!』
『誰か榛名を曳航させて退避させてやれ!錯乱して敵陣に突っ込みかねんぞ!』
『了解!たった今、妙高と足柄が暴走する榛名を取り押さえに行った!』
「何……これ……?」
内容からして味方は苦戦している。いや、敗北している。外の様子は知らなくても、状況が酷い事がよく分かる。何かとんでもない事が起こったのだ。どえらい事が……。『あの戦争』を経験したせいか、勘でそう悟った。だとすると、一刻も早く外に出ないといけない
廊下を抜け、階段を上がり外の光景を見た時、時雨はその場に凍り付いた。外は地獄と化していた。空には数え切れない程の航空機が空を覆い尽くしている。見た事がない大型爆撃機が編隊を組んで街に爆弾を沢山落としており、異形の戦闘機が空を自由に飛び回っている。当然、飛んでいる航空機は全て味方ではない。街は火の海と化し、街との距離があるにもかかわらず、人々の悲鳴がここまで聞こえて来る。湾内の海は黒く覆われていたが、よく見ると人型と巨大な鯨のようなものが多数、埋め尽くされていた。巨大な砲を持った人型の女性は、街に向けて無差別に砲撃している
「なんて事だ……」
時雨は雷を受けたような衝撃を受けた。ここは地獄なのか?何者かの侵略者によって街が蹂躙されている……
「突っ立ってないで行くわよ!湾内にいるザコを片付けるわ!」
「「「「はい!」」」」
五十鈴の一喝で時雨達は現実に引き戻された。海へ向かい出撃する。この体で戦うとなると緊張してしまう。鯨か鮫みたいな黒い魚の群れとそれを率いるリーダーらしき姿が航行している。あれが深海棲艦……
「あいつら、まだ『最新鋭兵器』を装備していない。目の前の敵を一掃するわ!いい!?」
時雨達は頷き、深海棲艦の一団と戦う事となった。正直言って、これだけの量の敵を撃退するのは不可能だが、やるしかなかった
「目標!軽巡ホ級1、駆逐ロ級3。五十鈴、突撃します!」
高々と声を上げた五十鈴は砲撃を開始。白露姉妹も慌てて砲撃を開始した。敵は
油断していたのか、成すがまま攻撃を受けた。反撃してくる艦もいたが、照準がとれていないせいなのか、砲弾は明後日の方向へ行ったりしていた。僅か1分で4隻を撃沈した
「あれ、何か弱いっぽい?」
呆気ない敵の弱さに夕立は拍子抜けた。他の3人の姉妹も同じだ。敵が油断していたとは言え、余りにも弱すぎる。喜ぶこともなく首を傾げる白露姉妹
――その時だった
「逃げて!早く!」
五十鈴の鋭い声と同時に突然、激痛が走った。続いて鼓膜が破れるほどの爆発音と爆風を時雨が襲った
「痛いいいい!!」
余りの痛さに時雨は叫んだ。何が起こったか分からなかった。海面に倒れ込み、苦痛の余り悶える時雨。痛みは右足からだった。涙目で右足を見ると魚雷発射管に何か槍のようなものが突き刺さっていた。いや、槍ではなかった。魚雷かと思ったが、魚雷にしては可笑しな形だ
(これは……?ロケット?)
ロケットのようなものが魚雷発射管を突き刺さり時雨の右足を貫通していた。五十鈴や白露達に助けを求めるため辺りを見渡したが……
「う……そ……?」
五十鈴も白露も村雨も夕立も大破していた。幸い撃沈されていないものの、艤装は破壊され、海に倒れ込み気絶している。あのロケットの仕業なのか?自分の右足に刺さっているロケットは不発だったのか?しかし、そんな疑問は後回しだ。このままだと敵の良い的だ。時雨は起き上がると、無線で助けを求めた
「誰か……誰か助けて……やられた……」
無線から応答がない。意識がもうろうとする中、無線の周波数をいじくり回し助けを求めた。確か緊急周波数があったはず。五十鈴さんが教えてくれた。良かった。無線は生きていた
「こちら……時雨。五十鈴さんと白露型全員やられた……」
『おい、しっかりしろ!救援を寄越す!くそ!全艦に告ぐ!全ての艦隊は撤退しろ!繰り返す!全艦隊撤退!集合場所を伝える!』
助かったと安堵し、再び倒れ込む時雨。海の上でこの行為は危険だが、航行不能であるためどうする事も出来ない。この世界の状況を知るため再び周波数をいじった。ラジオの周波数を拾ったのか、1人の男の声を拾った
『……暗黒の日が今も続いています。まるで地獄の門が開き、我々の前に悪魔が現れたかのようです。深海棲艦の姿形そして大きさは様々ですが、大半は成人女性の姿のようです。深海棲艦からは何の要求もなく、交渉可能なリーダーもいません。深海棲艦の目的はどうやら人間社会を滅ぼすだけのようです。沖縄、九州、四国は既に奴らに占領され、東京横浜などの都市では大規模な空爆と海からの艦砲射撃により死傷者が多数出ています。深海棲艦は逃げ惑う民間人を攻撃し、何百人もの男女、子どもの命まで奪いました。軍隊が出動し、最前線基地である大阪にいる艦娘達も深海棲艦に攻撃を仕掛けていますが、防戦一方です。日本だけではありません。各国の大都市も攻撃を受けています。中には既に陥落したとの情報が入って来ています』
意識が薄れる中、時雨は悟った。ここは異世界なのではなく、正真正銘の地獄だと。僕達は兵器。兵器は人の命を奪う物。なら、第2の人生の行く場所は決まっている
『しかし、戦いはまだ始まったばかりです。敵に屈する事無く次の言葉を覚えておいてください。明けない夜は決してない。止まない雨は決して無い。皆さん、どうかご無事で』
この後、僕達は陸奥が指揮する艦隊に拾われた。足に刺さっていた不発ロケットは無事に取り除かれ、傷も癒えた。しかし、大阪の戦いで艦娘の大半は海に沈んだ。僕たち艦娘には持っていない兵器によって……
これが僕が建造された時の記憶。そして、地獄の始まりだった