地下研究室の入り口前にてある小さな集団がいた。いや、地下研究室は戦艦棲姫が徹底的に破壊したため、既に廃墟と化している
港湾棲姫はため息をついた。まだ航行は出来ないため、戦艦棲姫と空母棲鬼の救助には行けない。あの2人も浦田結衣という人物には許せないのだろう。しかし、空母棲鬼はロケットのようなものによる攻撃を受けて撃沈してしまい、戦艦棲姫も苦戦中だ
洗脳能力がある以上、下手に下級の深海棲艦を送り込む訳には行かない。とは言え、姫や鬼級も戦闘能力がある者でないとダメだ。幸い、接触しないと出来ないらしいが、それでも能力が発達する可能性だってある。今のうちに叩くべきだ
だが、該当者が居ない。飛行場姫も泊地棲鬼も敵を殲滅したものの、代償として燃料と弾薬を全て使い切ってしまった。特に泊地棲鬼はロケットのようなものを数発受けて損害を食らっている
直ぐにはこちらに行けない。潜水新棲姫が応援に駆け付けたが、途中で正体不明の艦娘と出会って警戒しているらしい
正体不明の艦娘とは勿論、まるゆなのだが、潜水新棲姫はそんな事を知る事はない
(厄介ナモノヲ創ッタナ)
深海棲艦と出会い、そこから生まれた『艦娘計画』。人間はよく分からない。駆逐古鬼と重巡棲姫に何があったのだろうか。特殊な技術によってミイラ状態だった三人は、肉体再生されており、今では生前と変わらない姿となっていた。ただ現在のところ、目を覚まさないだが。あの当時、何があったのか?
「ネェ……チョット見テ」
港湾棲姫と離島棲鬼は北方棲姫の声を掛けられても海の方へ目をやっていた。戦況を見ている最中だ
今は忙しいと小声で言ったが、袖を掴みながら声を掛ける北方棲姫に離島棲鬼は反応した。これでは集中出来ない
叱ろうと振り向いたが、北方棲姫が指す指先の現象に離島棲鬼は愕然とした
「馬鹿ナ……1体居ナイ!」
聞いていた港湾棲姫もすぐさま振り向いた。確かに三体の深海棲艦が肉体再生のためにコンクリート上に横たわっていたはずだ!それが、今では2体になっている
「何処ヘ?」
「分カラナイ……」
港湾棲姫は北方棲姫を見たが、首を横へ振った。北方棲姫は、見張りをやっていたが、飽きて来たため飛行機ごっこで遊んでいたという。だが、その際に風が吹き出し飛行機が飛んでいきそうになった。慌ててキャッチしたが、その際に映った光景は救助し横たわっている3体の身体の内、1つが無くなっていたという
「馬鹿ナ、マダ動ケナイハズダ!」
誘拐にしては可笑しいし、人間が近づいてきたのなら、いくら遊んで油断している北方棲姫でも気付く。よって、予想よりも早く目を覚ましてこっそりと抜け出したとしか思えない
重巡棲姫と戦艦レ級はまだ横たわっている
「駆逐古鬼……何処ヘ?」
一方、提督達はある作戦を実行するために準備をしていた。その準備が終わり、出撃準備が整った
「戦艦大和以下6名、出撃します」
大和が敬礼し、他の艦娘もならって敬礼した
出撃するのは大和、霧島、龍譲、龍田、漣、電、五月雨だ。駆逐艦娘は緊張のあまりに身体が震えている
「ああ、気を付けてかかれ。作戦通りにやるんだ。龍譲は赤城加賀と合流、霧島は単独で支援。他の者は……分かっているな」
提督の言葉に大和は微かに頷いた。これは作戦なのだろうか?確かに龍譲の艦載機に特殊な爆弾と霧島にある仕掛けを仕掛けているが
「よし、出撃しろ」
艦娘達が出撃する中、提督は短い間見送っていたが、すぐに作業にかかった
「大淀、寝ていろ。そんな身体では――」
「断ります!艦隊指揮を……いないと……きゃ!」
大淀は数分前に奇跡的に目を覚ました。喜んだ明石だったが、直ぐに顔色を変えた。何と修理中である艤装を身に着けると立ち上がったのだ。松葉杖を尽きながら歩きだしたため、明石と博士が止めに入った。この状態で行っても殺されるだけである
「おい、幾ら何でも無茶し過ぎだ!」
流石の軍曹も呆れてしまった。艦娘の人外には驚くが、それでも都合のいいものではない。今の大淀は全身に包帯を巻いており、フラフラと歩いている。ミイラが歩いているように見えたため、将校はミイラが現代に蘇ったと思い込み、念仏を唱える始末だ
「私、生きていますから!」
「寝ていろよ。まだ、治っていないだろ?」
提督も呆れていた。まだ、傷口が塞がっていないのに
「……それは何ですか?」
大淀は提督が何かを弄っている。その何かは、トレーラーのような車両だ。トラックの貨物の所に何か筒のようなものが6つ付いている。提督はトラックの横に付いているパネルを操作している
「未来の戦争で反艦娘団体が使っていた兵器、地対艦ミサイルだ。資料を見ると、深海棲艦が出撃した当初、浦田重工業は21世紀の兵器を参考に対深海棲艦用として地対艦ミサイルを造った。ただ、これは独自で製造したらしい。アイオワ曰く、21世紀の兵器に比べたらお粗末ツらしい」
未来の戦争において何者かが地対艦ミサイルを横流しをしていた。当初は深海棲艦だと思っていたが、本当は浦田重工業がやっていた。独自で造り上げたものらしく、名前は不明だ。射撃システムとレーダーを一体化しているものの、射程は短く、性能も『平行世界』の兵器には全く敵わない
しかし、艦娘にとっては脅威に等しかった。アイオワは、鹵獲した地対艦ミサイルに驚きと呆れで見ていた。余談であるが、タイムスリップ作戦において、提督は鹵獲した地対艦ミサイルを使用。空母ヲ級を撃沈させる成果を出したという
「それ、使えるのか?」
軍曹が呆れるように声を掛けたが、提督がボタンを押すとトラックに搭載していたキャニスターが動き出した。軍曹を始め全員が身構えたが、キャニスターが上を向けただけで終わった
「これを……使って攻撃しようと――」
「いや、これを使っても奴は、防ぐ手段を持っているだろう。だから、確かめる必要がある。この作戦が失敗したら……笑ってくれ」
「いえ……流石にそれは……」
大淀は何か言おうとしたが、身体に激痛が走ったため、よろめいた。明石が駆け寄って車いすに座らせる事にした。戦う意志はあるため、強要は出来ない
博士も地対艦ミサイルを眺めていたが、武蔵に声を掛けられた。武蔵はふぐ毒が回っているため、動けない
「どうした?」
「頼む、戦わせてくれ!」
武蔵は周りが聞こえないよう小声で、そして上半身を無理矢理起き上がって耳元で囁いた
「しかし……」
「『超人計画』の本質を隠す気なのか?」
武蔵の指摘に博士はギョッとして武蔵から離れた。そんなはずはない。あれは封印した。息子も知らないはずだ
「惚けるな……奴が現れた時……博士の顔、顔面蒼白だったぞ」
荒い息をしながら、博士を睨んだ
「戦艦ル級が……深海棲艦があんな風になるか?浦田結衣が偶然……『超人計画』を知ったにしてはおかしいと思わないか?」
「……分からん。だが、ワシはワームホール出現から深海棲艦が現れるまでトラック島におった。後で本が数冊無くなっている事に気付いた」
武蔵は眉を吊り上げた。ここまで聞いたら分かるだろう。トラック島に浦田結衣が居た。浦田結衣が落とした本を拾い上げ読んでしまった。深海棲艦の力を人体に取り込む方法が書いてあった
「だが……あり得んのじゃ!どうやって……進化するのか?霊長類でさえ数百万年で進化したのに、数か月という短期間で進化するのは……幾ら何でも!」
「なあ、博士……知っているんだろ。どうやってやったかを」
「……」
「提督だって戦っているんだ……ここで何もせず横になっている……悔しい」
武蔵は再び横になった。もっと力があれば!そのためには!
武蔵の威圧に博士は観念した。しかし、そのためには犠牲は出る
「……『超人計画』はあくまで先祖の野望。だが、阻止する者もおった。禍々しいものだとな」
「それで?」
「深海棲艦は特殊な生命体じゃ。物理法則を無視してな……深海棲艦の元素を加工し――」
「奴は深海棲艦だ。自分の過去を……私が綺麗さっぱりにするんだ……戸惑う必要なんてあると思うのか?」
武蔵は博士を睨んだ。博士が怯えているが、武蔵は無視した
「提督の作戦……上手く行くと……思っているのか?」
博士は拳を握りしめた。もう、逃げるのはよそう。浦田結衣が『あのページ』を読んでいる可能性もある。武蔵を何とかしなければ
そのためには
「戦争には犠牲が付き物じゃ」
ある条件下による薬は造れるだろう。問題は副作用だが、武蔵は戦艦であるため心配する必要はない。心配するのはもう1つ問題……
東京湾沖合
浦田結衣は時雨に砲撃しようとする。だが、それを邪魔する者がいた
浦田結衣に向けて砲撃を行った者がいた。威力は金剛よりも高い。たが、仰け反ったくらいで終わった
「今度、ミサイルとかいう兵器を使ったらタダでは済まさないぞ!」
攻撃したのは長門だった。まだ、戦える艦娘はいた。既にほとんどの艦娘は大破して戦闘不能である。深海棲艦も同様だ
怒り狂う長門に対して浦田結衣はため息をついた
「長門……そんなに艦隊決戦が好きなのか?」
「なぜ艦の名前を知っている?」
「よく知っている。特にお前はな。兄は第二次世界大戦の軍艦を調べていた。クロスロード作戦にて嘆いているのはお前だけではない」
長門は耳を疑った。提督や時雨から聞かされていたが、この人達は自分達が受けた経緯を知っている!
「で、どうだったんだ?」
「何を言ってる?」
「核爆発を受けた感想は?」
長門は腸が煮えくり返っていた。核兵器を食らった経験を楽しく聞いているのだ
しかし、長門はふとある疑問があった
「何故、お前達は核兵器を使わない?いや、核兵器を開発しない?」
浦田重工業はなぜ核兵器を開発しなかったのだろうか?奇しくも、これは未来の戦争にてアイオワも同じ疑問を抱えていた。無差別攻撃や艦娘の拷問など非道な事を行った彼らが、なぜ核兵器を手にしなかったのだろう、と
「ああ。その事か?フフフ……」
「何がおかしい?」
「その疑問、私も兄に聞いた。しかし、兄は『悪魔の兵器は葬らなければならない』と思ったらしい。兄は原爆ドームを、そして核兵器の問題を調べていた」
浦田結衣はニヤリと笑った
「核兵器は強力だ。私も欲しかった。だが、兄は『あんなものは私の理想には邪魔な存在だ』と言っただけで終わった。放射能汚染で支障がきたすこともあるだろう。尤も、核廃絶をバカみたいに叫ぶ平行世界の日本人の真を受けたかもな。叫ぶだけで何も出来ない集団に同情したのか?」
「お前は欲していたのか?」
核廃絶云々はともかく、どうやら兄妹でも互いの意見は完全一致ではないようだ
「ああ、欲しかったさ。戦わずにして他国を屈するためには、強大な抑止力である核兵器が必要だ。しかし、兄はただの悪魔の兵器としか見なかった。それどころか、この世界の原爆開発者に関わった人物を全て抹消した」
「……!」
長門は目を見開いた。半信半疑であるが、浦田重工業のやり方や規模を見れば本当らしい
……本当に核兵器を廃絶したのか?
「どうした、喜ばないのか?かつては核兵器の実験艦にされた軍艦として」
「……お前……艦娘でも深海棲艦でもないのに、なぜ力を求めている?」
「ん?お前達、艦娘は兵器ではないのか?兵器は相手を倒すために人間が造った道具だ。守るだとかカッコイイだとかタダの道具だとか、そんなのを言うのは現実逃避とバカだけだ。敵を殺すため、倒すため、相手を威嚇し従わせるために存在する。お前も『艦だった頃の世界』において、コレクションのために建造されたのか?」
「もういい!いいだろう!艦娘は兵器だと言ってやろう!だが、我々は殺人機械ではない!」
遂に長門は堪忍袋の緒が切れた。目の前の戦艦はタダの戦艦ではない。そして、艦娘を差別するための人間ではない。力を求めるために深海棲艦になったのだ
41cm主砲が火を吹き、長門が突撃する。しかし、長門は25ノット。30ノットを悠々と高速で出せる戦艦と距離が縮まらない。砲撃も当たらず、逆に余裕で当てて来る。至近弾を食らったが、威力が高い。だが、長門は熱くなっていた。自分達は艦娘だ。人間が『兵器だ』と言って差別されるのだったらまだいい。相手は艦娘を知らないだけだ
だが、目の前の戦艦は違う。ただ、力を求めるために戦艦ル級改flagshipになったのだ。しかも浦田結衣の言い方は、まるで殺すために力を手に入れたのだ
「随分とムキになってるな。安心しろ、ビキニ環礁に連れてってやる」
「うおぉぉ!」
長門が吠えた直後、無線が入った。提督からだ
『時間稼ぎよくやった!反撃するから巻き込まれるな!』
この無線を聞いた長門は勿論、時雨も唖然とした。勿論、打ち合わせどころか、作戦を聞いていない。しかも、普通に無線を入れて来たのだ
当然、相手も聞こえているだろう。浦田結衣もニヤリとした
「何を言っているんだ?」
だが、それも一瞬。浦田結衣は動きを止めギョッとして陸の、提督達がいる方向へ体を向けた。沖合とは言え、岸からは近い。そこから何かがやって来た
「あ、あれは?」
「知っている。あれは……ミサイルだ」
間違い。ミサイルだ。散々、見て来たのだ。四発の地対艦ミサイルが目にも留まらぬ速さで進んでいる。しかも……
「チッ!奪われたのか!」
狙われたのは浦田結衣だった。提督達が奪った地対艦ミサイル。本来は対深海棲艦用に造られるはずだった。まだ、艦隊を持たない浦田重工業は、せめて地上による撃破を目的に作られたものだった
そこへ浦田結衣が深海棲艦の力を手にしたばかりか、深海棲艦の艦隊をコントロールが可能になったため、早速使い道が無かった。対深海棲艦用の兵器は貴重だが、艦娘にも狙えたため未来の戦争において反艦娘ゲリラに横流しをした
しかし、今では浦田結衣が狙われているのだ。数は4発
「ミサイルで狙おうというのか?だが、それは骨董品だ。ECCM能力なんて無いわ!」
浦田結衣は電子戦装置を作動させた。電波妨害でミサイルのレーダー誘導を妨害するためである
ミサイルを躱す方法は主に2つある
1つは対空ミサイルやCIWSなどで撃墜するハードキル。そしてもう1つは妨害電波やチャフなどを使ってミサイル誘導を妨害するソフトキルである
防御手段は臨機応変だが、相手の技術レベルが低ければ、ソフトキルのほうが有効である。第3次中東戦争で駆逐艦エイラートを沈められた後のイスラエル海軍は、第4次中東戦争でチャフとECMを使ってこれに対抗。エジプト海軍のP-15艦対艦ミサイルを全て躱したという
妨害電波によってレーダーの目を奪われた対艦ミサイルは、戦艦ル級改flagshipを捕らえることなく、素通りし海に着水した
「何を考えているんだ?あの地対艦ミサイルはローコストで作り上げたものだぞ?ECM対策なんかほとんどしていない」
深海棲艦とは言え、第二次世界大戦の軍艦並のレベル。そんな相手にECCM能力なんてほとんど必要ない。仮に妨害電波を出しても第二次世界大戦時代の妨害電波くらいは凌げる
「それを……は?大型爆撃機に……多数の航空機?何を考え入るんだ?」
浦田結衣はレーダーの反応に困惑した。コイツら、どこから現れた?
「低空飛行か?」
浦田結衣はF5UフライングパンケーキとF6Aフライングフラップジャックを全て発艦させた。執拗に攻撃する長門を相手する暇はない。しかし、ここは東京湾。動きが制限されている
陸にも上がれるが、上がった所でどうにかなれるわけでもない。浦田重工業を失った以上、行動も制限される
「敵機が来ます!」
「予想通りか!」
深山に乗っていた機長は、機銃担当員からの報告に頷いた。命令を受けて離陸後に低空飛行で侵入したが、やはり見つかった
だが、レーダーに発見されても機長は怯まない。別に構わない。既に範囲内だから
「起爆させろ!」
機長の命令に担当員は待ってましたとばかりに、爆弾倉に直行。明石達が造り上げたEMP兵器を起爆させる。勿論、爆発はしない
電磁パルスだけが一定範囲だけ発生するだけだ。ボタンを押し電磁パルスの発生を確認した機長は、旋回して上空へ逃げた。何回もの電磁パルスを発生出来る。流石に沢山は出せないが、1、2回は発生出来るはずだ
浦田結衣は舌打ちした。レーダーが全てダウンした。OPS-14だけでなく、火器管制レーダーまで破壊されたのだ
「これは……電磁パルス?まだ、残っていたのか?」
電磁パルス兵器……電子機器だけを破壊するだけに開発された兵器。
電子機器も古いばかりで、効果があってもレーダーか無線が一時的に誤作動するくらいだ
「だが、未来技術のレーダーもマイクロチップも私の艤装に馴染んだ。修復できる。それを――」
しかし、浦田結衣は言葉を切った。目視で再び確認したのだ。第二波のミサイルを
(クソ、電磁パルスのせいで電子戦装置が使えん……止むを得ん!)
浦田結衣は高速で移動。中破し倒れている軽巡棲姫を掴むとミサイルの前に掲げた。提督が放った4発のミサイルは、軽巡棲姫に全て当たった
時雨の攻撃によって大破し意識が朦朧としていた軽巡棲姫は、何が起こったか分からないだろう。誰かに拾い上げられたと思ったら見慣れない四つのロケットがこちらに突進してきたのだから
「な、味方を盾に!」
長門は浦田結衣のやり方に怒りを顕わにした。洗脳したとは言え、仲間を使って盾としたのは見過ごせない。まるで消耗品扱いだ
長門はそのまま攻撃しようとしたが、時雨は鋭い声を出した
「待って!長門さん、これは提督の作戦だ!」
「え?」
「間違いない。浦田結衣が持つ電子の目を奪ったんだ!」
長門は戸惑った。なぜ、これが提督の作戦なのか?
「しかし、どうしてレーダーを奪ったと言いきれる!」
「勘だよ!」
「戦場に勘?それはあり得ない!」
「長門さん、説明する暇はない。だけど、浦田結衣はミサイルの回避のやり方が違うのに気がつかない?」
長門は浦田結衣に目を向けた。戦艦ル級改flagshipは東京湾に沈む軽巡棲姫を目にも暮れず提督達がいる方向へ睨んだ
顔は僅かに見たが、今の彼女は嘲笑っていない。焦っている
「時雨……お前を信じよう」
「あの狂人野郎!まさか、EMP兵器を使うとは!」
浦田結衣は初めて動揺した。EMP兵器ではないく、彼の作戦に
「コイツ……私の修復に要する時間を調べていた。ダメージを追い過ぎるを、それを修復するために使うエネルギーは膨大だ」
EMP兵器を使うなら初めから使えばいい。なのに、対艦ミサイルを撃ってからEMP兵器を使った。これはどういう意味なのか?
提督の狙いはレーダーだけではない。浦田結衣が搭載する対空兵器と射撃能力を奪うためである。電子戦装置もだが、射撃管制にはコンピュータが使われており、正確な射撃するためには欠かせない存在だ
コンピュータの無力化を確かめたのだ。地対艦ミサイルが当たる当たらない関係ないだろう。要は効果があるかどうかだ
恐らく、龍田の時の戦況を分析したのか?強力なダメージを負えば、修復に時間がかかるのを。あの自爆攻撃で思いついたのか?
しかし、それは後回しだ。目視で遠くから多数の航空機がこちらに向かってきているのを確認した。数機ほどだが、彩雲も見える
「よし、提督の読み通りや!アイツ、深海棲艦を盾にしおったで!」
彩雲から電磁パルスによる攻撃をしっかりと確認した
前と後では対応がまるで違った。妨害電波でリアルタイムの通信は出来なかったが、EMP効果直後は通信は回復した
当然、無線機も電磁パルスに対応している。真空管も無事だ
『よし、攻撃しろ!』
提督の合図に赤城、加賀、そして龍讓から艦載機が多数放たれた
但し、龍讓は遅れて出撃したため離れているが。艦載機である烈風に艦爆の彗星である。艦攻の天山は入れていない
その烈風の中に微妙に姿が違うものまで混ざっている
「よし、各機突撃!」
烈風の一番機である飛行隊長の妖精搭乗員は無線で指示した
本来なら機内電話は『艦だった頃の世界』ではあまり評判は良くなかった。しかし、この世界ではしっかりと聞こえる
烈風隊はF5Uフライングパンケーキと交戦を開始した
「何?押されている?」
浦田結衣は怪訝な顔をして空を見上げた。迎撃に向かわせたF5Uの艦戦は烈風に押されているのだ。しかも、数で押されているという数の暴力ではない。こちらの動きを把握して攻撃している
(まさか……短期間で対策したというのか!)
浦田結衣は驚いたが、赤城と加賀にとっては、珍しくもない。一航戦のパイロットはベテラン揃いである
実は先の空戦で生き残りの搭乗員は、直ぐに円盤翼の独特の機動を分析。しっかりと対策を練っていた
「ミッドウェーとは違います!」
「少し驚きましたが、負ける要素はありません」
「面白い動きやけど、敗けへんで!」
赤城も加賀も龍讓も円盤翼機の襲来に善戦していた
烈風の隊長妖精搭乗員は迫り来るF5Uに向けて13mm機銃を放つ。F5Uは、円形の機体を翻して、13mmの射線をかわした
だが、烈風の搭乗員は、F5Uのトリッキーな機動は織り込み済みだった。烈風はインメルマンターンを決めると素早くF5Uの後方についた
烈風の搭乗員は容赦なく20mm機関砲を放つ。F5Uはまるで砕けたクラッカーのように爆ぜ飛んだ
艦爆のF6Aも同様だ。円盤翼機の独特の機動に対策はしているらしく、次々と火を吹いて次々と撃ち落とされていく
また、龍譲の航空隊の中に烈風の改修版である烈風改を乗せていた。明石が何とか開発する事に成功した。但し、資源は消費してしまったが。烈風改も少数だが、混ざっていた。速度も旋回能力も烈風よりも上であるため、流石のF5UやF6Aも烈風改には敵わなかった
所詮は航空戦艦の艦載機として採用した円盤翼機だ。より強い敵が現れれば不利になってしまう。搭載する機体の数もも空母と比べて劣るのは必須である
(一航戦……いや、日本の航空兵力はここまで高いのか?)
浦田結衣は疑問に思った。舐めていた訳でもなく、対策はしているはずだ。
だが、浦田結衣は知りもしない。WWⅡ当時の日本の航空機は、意外と性能は良かった。但し、きちんとした整備とガソリンの良さなどの環境があればの話である
戦後、零戦52型や疾風を本国へ持って帰ってハイオク燃料を入れて飛ばした所、驚異的な性能を出したという実話がある。それに加えて、赤城と加賀、そして龍譲の空母の艦載機の妖精搭乗員は、この世界による実戦経験はほとんどないものの、『艦だった頃の世界』の記憶は覚えている
トリッキーな動きで攻撃する円盤翼に翻弄された妖精達は、報復も込めて対策を検討。そして、補充する機体や新たな戦術の規格を短時間でやり遂げた
普通の人なら気が遠くなりそうだが、艦娘である空母組と妖精にとっては、朝飯前である。強さは強力であるが、F4FやF6Fを凌駕する訳でもなく、敏捷性さえ対策出来れば容易だった
戦いは兵器の性能差だけで決まるものでは無い。数、兵士の士気、戦術、バックアップシステムなど組み合わせて初めて本領を発揮する。一方だけ重視してもあまり意味を持たない。提督はそこを配慮していたため、勝てているのだ
そのため、今では円盤翼機は押されている。航空戦艦の艦載機の搭載は知れている
「敵は艦爆しかいない?何を考えている?」
浦田結衣は眉をつり上げた。艦攻である天山が見当たらないのだ
しかし、この数なら問題ない
「対空砲射撃開始!」
戦艦ル級改flagshipから近接信管付きの対空砲弾が発射され始めた。対空砲火が開くなか、龍讓が放った機機の彩雲が上空へ侵入してきた。
「投下よし!」
「やったれ!電探欺瞞紙投下ッ!!」
彩雲の両翼に付けられていた燃料タンクが落とされた。燃料タンクは落下してから途中でパカリと二つに割れて中から大量のアルミ箔が散布された
長門はあの彩雲が何をしているのか、わからなかったが、浦田結衣は直ぐに気付いた
「コイツら!近接信管の弱点を使ったか!!」
VT信管である近接信管は電波方式を使っており、電波を発して敵機を撃墜する。要はアルミ箔の欺瞞紙を投下すればVT信管は誤作動を起こしてアルミ箔に爆発するのであった
チャフの効果は一定時間しかないが、それでも対空砲火の穴は僅かに開けることができる
そもそも、チャフなんて気休め程度しかない。本当の狙いはレーダー射撃管制。これを叩けば正確な射撃が出来なくなる
「ようし、今が好機だッ!! ト連送を打てッ!! 全機突入せよッ!!」
彗星に乗っていた艦爆である搭乗員は、真っ先に急降下する。日本軍の急降下爆撃の命中率は高く、時には80%にもなる
一方、慌てた浦田結衣は直ぐに40mm機関砲や20mm機関砲を繰り出した。次々と火を吹く彗星だが、数が多すぎて全てを防ぎ切らない。お蔭で数発の爆撃を食らってしまった。しかも、レーダーアンテナもやられ、レーダー射撃が使えない
一見、無意味な攻撃だろう。しかし、浦田結衣は余裕なんてない。驚いていた
(あの狂人……自己修復に時間がかかるのを利用してるだと!?)
戦艦レ級の力を取り入れ、兄の技術によって近代化改装した戦艦ル級改flagship。それが浦田結衣の力
一見、無敵に見えるが、所詮は戦艦である。空母の航空攻撃には分が悪い
更に『超人計画』を参考に自己修復する能力を身につけたが、残念ながら無限ではない
複雑な機器類や兵器であるほど修復時間はかかる。戦艦の主砲や装甲、機銃程度ならそこまでかからない
問題はハイテク機器である。複雑な造りであるため流石にこれは時間がかかる。また、ダメージも限度があり、巨大なダメージを追うと一朝一夕に治らない
場合によっては、艦娘と同じように補給が必要になる。深海棲艦なら元素で十分だが、残念ながら浦田結衣は違う
これをチャンスと見た長門も時雨も反撃を開始した。戦艦棲姫も大破でありながらも砲を放っている。元々、タフであるため、無茶も出来る
「チッ、一旦距離を離れ……」
これでは形勢が不利だ。航空戦艦の計画は間違ったかも知れない。円盤翼機も半数近くがやられている
「……ん?」
回避行動している余り、海面に何かを見つけた。音をよく聞くとスクリュー音だ。しかも、速い
「ぎょ、魚雷だと!一体、誰だ!?」
発射した地点には、艦娘どころか深海棲艦もいない。急に現れたのだ。だが、敵は魔法使いではない
と言う事は……
おまけ
長門「なぜ、核兵器を開発しなかった?」
結衣「それはだな……」
回想初め
浦田社長「核開発研究所だな?私だ!私の声がわからないのか!原爆はまだ出来んのか!!」(CV徳○完)
責任者「世界各国の原爆投下は時期尚早です」
浦田社長「黙れ!私が投入といえば投入だ!」
所長「しかし、不安定な新兵器投入は運用が難しいです」
浦田社長「黙れ!このまま合衆国に敗北しろというのか!」
所長「貴方、社長ですよね?」
回想終了
結衣「という訳だ。コントロールが難しいとばかり言っておいて何を――」
時雨「核開発しなかった理由ってそっち?」
おまけ2
大和「戦艦大和、出撃します!」
提督「ああ、気を付けろ。死ぬなよ」
大和「はい、もう『艦だった頃の世界』のような事にはなりません!」
提督「例え死んでもお前を忘れない」
大和「そんな不吉な……」
提督「沈んだとしても絶望するな。将来、お前が再び活躍するかも知れない」
大和「え?」
提督「異星人からによる侵略攻撃を受けた時、お前は宇宙へ羽ばたくだろう。強力な波動砲を装備して侵略者を蹴散らす無敵の戦艦に――」
大和「あの、完全に別作品ですよね?」
叢雲「……本当に改造出来たらチートよ」
魚雷は一体、誰が発射したのか?