時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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遅くなりましたが、明けましておめでとう

年末や正月の間は色々ありました
艦これのアニメ2期が発表されたり、イベントがちょっときつかったり

アニメ二期の主人公が時雨。嬉しいですね


第106話 武蔵改二

「親父!おい!」

 

俺は駆け寄った。この状況は何だ?深海棲艦のボスである駆逐古鬼が兵士に囲まれている。しかし、駆逐古鬼は全く動じないどころか、礼儀正しく正座している。何をしたのか?襲ったのか?

 

それにしては、訳の分からない道具や機械が散らばっているが

 

「何をしたの!アンタ!」

 

川内は武器を構えたが、動じない。龍田も薙刀を突きつけたが、反応は同じだ

 

「死にたいの~?」

 

「ソレハ皮肉カ?死ニカケハオ前ダロ」

 

 駆逐古鬼は呆れながら龍田を見つめた。龍田の腹部は包帯でグルグル巻きに巻いている。刺されたままで帰投したため、提督も明石も仰天した

 

刺された刃物を引き抜き止血しないといけない。そのため、治療に苦労した。艤装があるとはいえ、痛みを和らげるにも限度がある。麻酔もないため、引っこ抜くしかない

 

全員が龍田を取り押さえ、舌を噛まないようにハンカチを口に入れてから明石は薙刀を引き抜き、止血を行った

 

荒治療のため本人は気絶したが、止血を終えた頃には意識を取り戻した

 

「無茶しないで下さい。傷口が広がりますよ」

 

「いいじゃない」

 

龍田は朗らかに言ったが、顔色が悪いのは誰が見ても分かる。一行がいざこざがあったが、陸軍将校とあきつ丸が駆けつけてきた

 

「ああ、いた!やっぱり入れ違いだったか」

 

「何があったのです?」

 

俺はすぐに聞いた。この状況は何なんだ?

 

「ああ、実は私も詳しく知らない。何せ大切な話があると言ってお前のお親父さんと武蔵とそこの深海棲艦がこの施設に入った。何か実験していたが、突然音がしなくなった。部下が入った所、こうなっていた」

 

「何が?」

 

どうも何かを実験していたらしい。駆逐古鬼は正座して何も語らない。ただ、息子を呼ばない限りは何も話さないし、動かないと言ったっきりという

 

「答えろや!爆撃してやるで!」

 

「オ前ノ攻撃デハ私ハ傷付カナイ。駆逐艦デアルオ前ニハ無理ダ」

 

「うちは軽空母や!」

 

「アラ?コレハ失礼。小サイカラ分カラナカッタヨ」

 

駆逐古鬼の挑発に龍譲は切れた。式神を手に持ち発艦するつもりだ

 

「やってええか?こいつにうちの力を見せたる!」

 

「落ちつけ。まだ飛行甲板の巻物は修理していないだろ?」

 

「君もまな板というのか!うちがずっと気にしてる事を!」

 

「一言も言ってないわ!落ち着けと言ったんだ!」

 

龍譲は熱くなりすぎてしまい、攻撃しそうな勢いだ。だが、そんな押し問答を弱々しい声で止める者がいた

 

親父だった

 

「待ってくれ。駆逐古鬼は何もしておらん。ただ、昔話をしていただけじゃ」

 

「『超人計画』って奴か?それと今の状況とどうも関係ある?」

 

「昔モ似タヨウナ事ガ起コッタカラダ」

 

駆逐古鬼の言葉にその場にいた全員は驚いた

 

「似たって……結衣のような化け物に?」

 

「正確ニハアソコマデ強クハ無カッタ。当時ハ文明ガ低ク妖怪ト言ッテ納得サセタ」

 

駆逐古鬼の当時の状況はこういうことらしい

 

提督の……博士の先祖は転移した時に傷付き、流れ着いた深海棲艦を捕らえた。妖怪と恐れられた村人とは違い好奇心で接したのだ

 

彼等は初めは優しかった。疫病や災害に苦しむ人々を助けるために陰陽師をしていると聞かされると、駆逐古鬼は感激したという。そのため、駆逐古鬼は重巡棲姫と共に知識を教えた。科学技術と医療である

 

しかし、彼等はそれを独占するために駆逐古鬼と重巡棲姫を監禁した。しかも、深海棲艦の弱点を知ったらしく、武器を作り弱らせ、生殺しのまま生かされたという

 

「酷い奴等だ」

 

「仕方ノナイ事ダ。我々ハ世間デハ怪人。ソンナ態度サレテ当然ダ」

 

「当然?貴方……弾圧されているのに、当然って?」

 

提督は呟き、周りも同じ事を思っていた。時代は飛鳥時代であるため、人権という概念なんて存在しない。しかし、明石は納得しなかった

 

弾圧されて当然?

 

「不思議カ?私ハ人間トハ違ウノダ。恐レテ当然ダ」

 

「いや、そういう事を聞いてはいなくて――」

 

「高度ナ文明ヲ築イタカラト言ッテ、人間ガオ人好シニナル訳デハナイ」

 

 駆逐古鬼はピシャリと反論した。奇しくも似たような概念を聞いた者がいた。浦田結衣、そしてアカシック・レコードでの記録を見た時雨である。戦艦棲姫が人類を野蛮な集団と見下していた

 

「オ前ハ亜人カ?」

 

「亜人じゃありません!艦娘です!」

 

「……ソウ」

 

駆逐古鬼は明石の反論に興味を示さなかった。

 

「以前あったと言っていたな?『超人計画』のせいで怪物になった悪党がいたのか?」

 

「ソウダ。オ前達ハ、知能ハ有ルヨウダシ、説明シテモ分カリソウダ」

 

 鳥海や川内は噛みつこうとしたが、提督は食い止めた。ここで言い争っても仕方ない。提督と艦娘である鳥海達と陸軍将校、そしてその場にいた軍曹と隊員達は博士と

 

駆逐古鬼の話を聞いていた

 

 

 

 深海棲艦……とある世界で人類とは違って進化を遂げた生命体である。深海棲艦が住んでいる世界は、高次元であるため、この世界の物理法則などは縛られない。それは、異世界に行っても通用する。地球上には無い元素のお陰である。そのため、人類が造り出した武器は通用しない

 

 

 彼等は、いや、この場合は彼女達は別世界……平行世界の様子を観察する装置を発明した

 

 彼女達はテレビをみるかのように彼女達は地球文明を観察していた

 

人類がどのように文明を手に入れ、発展したかを

 

 彼女達は下した結論は人類に拘わらない事。例え、向こうが干渉しても力ずくで追い出そうとのことである

 

 そのため、この世界に流れ着いた時、監禁されても何も思わなかったらしい。内心では、妖怪として恐れていたが、彼女達にとってはどうでも良かった。寿命が短く、いずれは何らかの拍子で解放してくれるだろうと思っていたらしい。重巡棲姫は非道な実験に耐えかねて死んだと思っていたが、実際は付き合いきれないと考え眠りについたという

 

「眠りって……」

 

「睡眠期間という。動物の冬眠と同じじゃ。深海棲艦の場合は、地球上の動物と異なり死んだように見える。ミイラになっても、海水さえ掛ければ肉体は甦り、復活する。時間は掛かるが」

 

「それだけ長寿ということには驚くが、その割には深海棲艦の考えも単純だな。観察した結果が俺達と関わらないということか?」

 

「デメリットノ方ガ大キイカラダ。宗教ヤ人種ヤ民族等デ排除サレルカラダ。艦娘モイズレハ、差別サレ生キル道ヲ失ウ」

 

「人間にも良いところはあるぞ?お前達も神や仏のような存在ではあるまい。俺達に自慢できるような事か?」

 

 噛みつこうとする龍譲を抑えながら提督は、呆れるように言った。駆逐古鬼はピクリと眉を動かした

 

「……ソノ言葉……何処デ聞イタ?」

 

「俺が考えた事だ。どうした?」

 

「……私ニソウ言ッタ者ガイタ」

 

皆が誰だろうと疑問に思っているところを博士は言った

 

「8代目じゃ。深海棲艦の力に魅了する他の者とは違って駆逐古鬼と接したのじゃ。彼はそのまま連れ出し、旅に出た」

 

「何で?」

 

「分カラナイ。言ッタ言葉ガ『可哀想だ』ト」

 

 駆逐古鬼曰く、彼は深海棲艦を実験動物か妖怪のような見る目ではなく、優しく接したのだ。初めは警戒した駆逐古鬼はまともに取り合わなかったが、次第に牽かれたという

 

「では、本当だったんだな?薬を服用して人間になったのも、蒙古襲来の時にお前が撃退したのも?」

 

「人ニ成ッタノカト聞カレルト分カラナイガ、ソウ言ッタ実感ヲ感ジタ」

 

 駆逐古鬼は否定も肯定もしなかった。現状では、浦田重工業が掘り出した文献よりも博士が持っていた資料が正しかったと言う事だ。全てではないが

 

「それで『超人計画』って何だ?」

 

「生命の進化のサイクルを早める方法。深海棲艦の技術を応用したものじゃ。資源は食うが、己が持つ武器や身体能力を意図的に進化させる方法」

 

「それって改装では――」

 

明石が口を挟んだが、博士は弱弱しい手で制した

 

「確かにそうかもしれん。兵器を改造させるという点ならその呼称はおかしくないじゃろう」

 

「えっと……ごめん。話がよく分からん」

 

 龍譲は困惑していた。他の艦娘も陸軍将校達も同じである。艦娘が兵器なのか、人間の女の子なのか?なのだろう

 

 しかし、創造主である博士はそういう問題点を焦点に当ててはいない。使い捨てや実験動物として扱うマッドサイエンティストでないのは確かだが、どうもこの提督の父親は違うようだ

 

「話からして兵器の改装と生命の進化は一緒と言う事か?」

 

「そうじゃ」

 

「いくら何でも無頓着過ぎる。兵器は人の手によって改造や整備をするものだ。艦娘を人として接しているが、改装が進化なんて」

 

「……恐らくお前とワシの認識は別次元のものじゃ。いいじゃろう。分かりやすく話そう」

 

博士は話し始めた。提督も周りも静かに効いていた

 

 

 

 ダーウィンが唱えた進化論を知っているだろうか?人は猿から進化したものだと。地球が誕生してから46億年の間、生命は海から生まれ、進化して地上に繁殖したという

 

しかし、誰もが受け入れた訳でもない。当時、人々に衝撃を与えた大胆な仮説であったためである。創造論を唱える宗教家を始め、あらゆる学者はその考えを疑問視し反発したという

 

 それは当然な事で、誰も猿から人に進化した現象を見た者はいないからである。だが、それが人というものである。長年、信じて来たものが真っ向から否定されれば反発するのも当然

 

 しかし、進化の証拠となるものは少なからず存在する。化石を調べれば生命の繁殖や絶滅した事などが大まかに分かるものである。化石の人類は数百万年前に出現している事から人類も特別な存在ではないと言う事に成る

 

 共通祖先からの進化、集団内の変異の変化によって生じる進化、種分化と分岐による生物多様性、適応進化における自然選択という進化理論には議論があるものの揺るがないものだろう

 

 艦娘計画や超人計画の基本技術は、生命誕生と進化を凝縮させたものである。戦場は常に変動する。柔軟な思考を持ち、強力な力を持てば僅かな兵力でも戦況を覆す事が可能である

 

「勿論、数もそれなりに揃えておかなければ意味がない。如何に高性能な兵器でも一度に存在出来るのは一か所だけで戦線に影響を与えない」

 

 博士は付け加えるように忠告した。提督の父親は科学者でありながら軍人である。質だけ拘っている訳でもないようだ

 

 博士が言うには、先祖が残した文献や実験材料を見たからだ。実際に遺産を手に取って実験した所、先祖が遺したものは本物だと受け入れた

 

それと同時に、これはオカルト物では無く、科学的である事も理解したと言う。世間に公表しても異論や反発が起こるのは必須だからだ

 

 

 

「つまり、妖精の存在や艦娘の建造はオカルトではなく、科学的な現象?」

 

「現代科学の分類ではない。ちょっと異端なものだ。無機物に刺激を与え有機物にする事なんてどんな論文を書いても誰も見向きもしないじゃろう。実際にそうじゃったから」

 

「……確かに。俺も親父は何をしているのか分からなかった」

 

提督は狼狽した。提督自身も昔、父親の考えに疑問を持ち出て行ったのだから

 

「えっと……私達の……艦娘の存在は……」

 

「人間とは異なる進化の過程で生まれた生命体とでも言おうか。人類は猿から、君達は兵器から進化した」

 

艦娘達も動揺した。ここまで直球に言って来る人は居なかったのだから

 

「話を続けていいかね?」

 

「は、はい……」

 

 艦娘は戸惑う中、明石は何とか頭に付いていこうとしていた。自分達が何者なのか知りたいようだ

 

博士の話は続く

 

 

 

 しかし、進化と言えども限度はある。進化でも短時間で出来るのだろうか?人類とは違った進化したとはいえ、進化だけで艦娘や深海棲艦が誕生するのだろうか?

 

実は進化論の中にはこう言った疑問が存在する

 

それは「キリンの首はなぜ長いのか?」である。

 

 実は首の短いキリンと首の長いキリンの間の「中間の首の長さのキリン」の化石が発見されていないことである。これでは、なんらかの原因で「キリンの首は急速に伸びた」としか説明しようがなく、今でも謎に包まれている。突然変異といった進化説もあるという

 

 また、進化学にはウイルス進化説というのがある。ウイルスによって運ばれた遺伝子がある生物の遺伝子の中に入り込み、変化させることによって進化が起きるという説である。人間の進化も、急速に、不連続に進化した跡が認められるものの、これはウイルスによる水平遺伝が影響しているのではないかとも言われているという

 

 

「勿論、これも説じゃ。じゃが、深海棲艦はウイルス進化とは別の方法で可能とした。我々とは違う進化過程をな。深海棲艦に取り込まれている元素、その元素を別の物に変換した元素。妖精の間では『開発資材』と呼ばれておる」

 

「命を吹き込む事が進化?しかし、兵器は自ら思考を持ったりはしない。生まれがどのようなものは関係ないが、見分け方くらいは俺でも出来る」

 

「いや、お前は兵器が何なのかあまり知らんようじゃな」

 

 

 

 兵器も武器も元々は人類が開発した。人類が誕生し知識を手にした時から始まった。敵を倒したり身を守ったりするために造られたものである。人類がものを書き、記録を残すようになった頃には、既に当たり前のように戦争が起こったと追われている。古代エジプトでも武器は青銅器であれど、戦いはあったと記録が残っているという

 

 人が武器に使われる道具は日々進化していった。石器や青銅器は鉄に変わった。科学や知識が発達するようになると、戦争のやり方は時が経つにつれて変化していく

 

 特に銃が発明されると戦争は劇的に変化していった。人や物を運ぶために発明された航空機や車や船は、戦争に使われるようになった。それも時代とともに変化していくものである。兵器も国や環境によって特徴やドクトリンなどによって違いは生まれる者である

 

 浦田社長が横流しした平行世界でも兵器や軍事学は驚異的なものである。敵を倒して戦力を低下させると同時に味方の損害を如何に無くすかを視野に入れているのが多い。例えばイージス艦は本来、艦隊防空艦であるため積極的に喧嘩を売るものでもない。元々は米軍が開発した物であり、空母を守るために開発されたものである。如何に敵の攻撃を防ぐことが出来るか?米軍はイージス艦という兵器にたどり着いた

 

「人類が地球上に存在する限り、戦争も兵器もこの世から消えない。兵器は人類が生み出した科学の結晶じゃ。ワシや先祖達はそれに習っただけに過ぎん」

 

「では、深海棲艦が存在する限り、艦娘も存在しなければならないという事か?」

 

「他の方法で深海棲艦を倒せるなら退役と言う形で艦娘は戦線から引き下げられる事が出来る。しかし、無理じゃろう。現段階で、深海棲艦を倒す手段は艦娘以外にはおらんのだから」

 

 博士はここまで説明すると一息ついた。その間、誰も発しない。艦娘も陸軍将校達も。ここまで説明してくれる人は居ないのだから

 

だが、やがて鳥海は沈黙を破った

 

「浦田結衣はH44という戦艦に変わったようです。これも『超人計画』に?」

 

「『超人計画』は進化の暴走。生命は進化しているが、短期間で出来るものではない。例外もあるが、頻繁にはしない。だが、『超人計画』は進化のサイクルを早めておる。生命の冒とくにも等しい。自分の意のままに改造する事が出来る。しかも、艦娘とは違い、深海棲艦を基としておる。補給も艦娘ほどではないが、大食ではない。これからも進化してしまうじゃろう」

 

「何も縛られずに進化し続ける戦艦……もう化け物でも何でもないぞ?」

 

 提督は結衣に対して怒りが沸いた。平行世界の日本……いや、世界において戦艦は存在しない。アイオワ級戦艦が生き残ったくらいだ

 

 つまり結衣が今後、どのように進化するか誰も検討も出来ない。しかも、ディープスロートからH級戦艦について電話を通してある程度は知っていた。しかし、帰投して来た鳥海達から情報ではどう見ても設計通りではない

 

 それは想定内ではあったが、まさか軽空母の能力を手にしているとは思わなかった。パソコンデータと照合した結果、VTOLという戦闘機らしい。円盤航空機を進化させたのか?

 

「ワシが先祖からの遺産を手に入れた時、『超人計画』は人類の宝だと思ったことがある。実験を稼働させた。遺産を手にしたワシじゃが、時が来れば解き放つよう秘匿するようにと先祖からの言いつけを無視した。……ワシはお前くらいの歳で既に難病にかかっておった。パーキンソン病という奴に」

 

「パーキンソン病?」

 

「不治の病の1つじゃ」

 

 パーキンソン病とは手足の震えや筋肉のこわばりなど、運動機能に障害が現れる病気である。50から60歳に発症する場合が多いが、稀に若くから発症する事もある。しかも、症状が進行すると日常生活に必要な事が出来なくなり、最悪の場合は寝たきりになるという

 

「ワシは若くして病気になった。治療法なんて存在しない。ワシは生きたかった。それだけじゃ。ワシの父は既に他界したため、妻に内緒で薬を製造した」

 

「治ったの?」

 

古鷹は呟くように言った。まだ毒に犯され出撃はしなかったもののしっかり歩いている

 

「結果から言うと奇跡的に治った。細胞が進化し病を治した。しかし、研究してる内に恐ろしいものも見えてきた。生体兵器のものを」

 

「深海棲艦のようなもの?」

 

明石は恐る恐る聞いたが、博士は首を振った

 

「深海棲艦よりももっと悪い。感情もなく、人間性もない。ただただ敵を倒すだけの存在。殺人機械……いや、機械はまだマシかも知れん。メンテナンスは必要じゃからな。しかし、生体兵器は違う。補給はあれど自己修復、自己進化する。こうなると、最悪じゃ。気分次第で国をも崩壊させる事も可能じゃ」

 

博士の告白に誰も口を挟まなかった。静かだった。ここまでおぞましいものだとは思わなかったからだ

 

「だから、ワシは超人計画を封印した。いや、捨てたのじゃ。代わりに違う道を選んだ。だが……ワシがトラック島に行かなければ……深海棲艦の襲撃で急いで脱出したが、持ち歩いていた本が二冊無くなっていたのじゃ」

 

「あの女は偶然手にしたのか?……クソ、なんて事だ」

 

将校は嫌悪感を顕にした。超人計画の一環とは言え、あんな化け物を浦田重工業は作ったのだ

 

政治家はどう思おうが知れないが、あんな兵器は不愉快極まりないものだ

 

「話は分かった。……本題に入る。対策は?当時も似たような事が起こったのなら、どうやって倒した?」

 

「成ル前ニ阻止シタカラダ。ダケド、アソコマデ成長シタラ止メヨウガナイ」

 

駆逐古鬼は冷たく言った。察するに止めようとする行為は昔の方がやり易かったのだろう

 

「それで武蔵は?」

 

「出撃させた」

 

「出撃させたって?まだ完治してないだろ?」

 

武蔵は浦田結衣の毒攻撃を食らったのだ。フグ毒なので解毒剤なんてないはずだ

 

「そうじゃ。だから大改装させたのじゃ。より強力な艦に仕立てた」

 

何が言いたいのだろう?提督も艦娘も首を傾げたが、明石は何かを思い出したかのようにハッとした

 

「え?……まさか……いや、そんな事……」

 

「おい、明石。何だ?」

 

提督が訝しげに聞いたが、二人は熱が入ったのか提督を無視して話している

 

「まさか……『あれ』を武蔵にしたのですか?でも、資源もなくて」

 

「ワシの血から薬を作った。艦娘計画は超人計画の亜種のようなものじゃからな」

 

「血を抜いたって……どれ程抜いたんですか?献血ではないんですよ!」

 

「構わん。命懸けじゃ。寧ろ、副作用で浦田結衣のように成るんではないかと危惧していた」

 

「いい加減にしろ!何の話をしてるんだ!」

 

明石と博士の話が長いため、提督は堪忍袋の緒が切れた。どうやら、技術者同士しか話が分からないものらしい

 

他の艦娘も陸軍将校も同じであった。このままでは埒が開かない

 

「つまり提督の父親には、『超人計画』で完成した薬が今も流れているんです。血液と共に。この薬は、普通の薬品と違って体外から排出されないから今もあるのです」

 

「正確には治癒能力だけを持った薬品だ」

 

明石は周りの苛立ちをなだめる様に説明し、博士も付け加える様に言った

 

「だから、血を抜いた。500mLも抜いて製薬するのはこの歳ではキツイ」

 

「つまり、『超人計画』の薬品を作って武蔵に使ったのか?」

 

提督は呆れていた。ここまでやるとは思わなかった

 

「武蔵さんに打ったって……それって!」

 

「大丈夫じゃ。多少の危険性はあった。拒絶反応し死に至る可能性もあったが、武蔵はそれも承知で薬を打った。奴は進化……いや、大改装した。艦娘の先を行った」

 

 親父の説明に皆は顔を見合わせた。今の説明だと、武蔵は超人計画の薬品を打った。劇薬らしいが、武蔵は深海棲艦にはなっていないようだ

 

「武蔵は何処へ?」

 

「こう言っておった。『奴をぶちのめしてくる』と」

 

皆が混乱し、提督は大淀の艤装に付属している無線を使って通信を試みている中、博士は壁に背をもたれた

 

説明するのに疲れたのだ

 

「無理シ過ギダ。私ヲ解放シタ者モソウダガ、トンデモ無イ事ヲスル。ドンナ敵デモ知恵ト力ヲ使ッテ己ヨリモ強イ敵ヲ倒スノダカラナ」

 

「ははは……それがワシの考えよ。時代は変化しておる。柔軟な対応をしないとはな」

 

博士は武蔵の身を案じた。まだ、ペーパープランとは言え、あんなことを言うとは……

 

 

 

 

 

 艦娘と深海棲艦の連合軍がH級戦艦であるH44に挑んでいるが、互角で戦っている。いや、あれだけの数を慌てず丁寧に葬っているのだ

 

AV8ⅡハリアーとYak-38は赤城加賀の艦載機を片っ端から落としていき、空母に向けて対艦ミサイルどころかロケット弾と機銃掃射してくる始末である

 

 摩耶も天龍も対空砲火を撃ち上げているが、こちらをからかうように的確に攻撃してくる

 

「クソ、五月蝿いハエだ!」

 

 轟音と共に攻撃してくるYak-38を摩耶は苛立ちを隠せなかった。天龍は刀で叩き落とそうと振り回している始末である。当然、こんな攻撃は当たりもしない。それでも2機は落したが、天文学的な確率による命中で撃墜したに過ぎない。赤城も加賀も中破してるどころか、艦載機を半数も失った。これ以上の消耗は不味いと悟り後退する羽目となった

 

 しかし、空母棲姫は違った。直掩機もせずに全ての艦載機を結衣に向けて放った。膨大な数の深海棲艦の艦載機にハリアーもYak-38も防ぐ事は出来ない。合わせて30機しかいない

 

 対空ミサイルもバルカン砲も尽きているため収納したのだ。その間も仕掛けてくるが、結衣は盛んに対空砲火を撃ち上げている

 

 近接信管に40mm機関砲でズタズタになる。また、スタンダード対空ミサイルを数基持ってるのか、ミサイルを発射して撃墜している

 

しかし、百も近い艦載機を防ぐ事は不可能だ。限度がある

 

 少なからず損害はでた。だが、相手は巨大な戦艦。人型とは言え、艤装が巨大であるために爆弾投下で当てるのは簡単だが、致命的なダメージにもならない。お返しに対艦ミサイルによる攻撃を食らってしまい、空母機能が喪失する始末だ

 

一方、大和と長門、そして戦艦棲姫と南方棲戦姫は盛んに砲撃を開始したが、中々ダメージを与える事が出来ない。装甲が固く、長門の41cm主砲弾が弾かれているのだ

 

(一体、どうやったらこんな戦艦が!?伊勢達も出来なかったのに!)

 

 大和は砲撃しながら、内心では驚きを隠せない。戦艦に空母機能を付けるなんて何処の海軍でもやったことはない

 

 いや、確かに伊勢型戦艦は改装はされたが、あれは何も航空戦艦として造ったのではない。間に合わなかっただけである

 

 

 

 そもそも戦艦と空母を合わせてもアンバランスとなるのは必須である。対空面積は大きくなり、攻撃を受けやすい。飛行甲板が至近弾でも破壊されないことから装甲してると考えられる

 

 しかし、これだとトップヘビーとなり浮いていられない。提督が言っていた浦田重工業の技術なのか?

 

 

 

 実は浦田重工業でもこんな戦艦は実現出来ない。可能にしたのは、雷撃も艦載機搭載も可能な戦艦レ級の力を結衣は吸いとったのだ。深海棲艦にはとんでもない技術を持っており、浦田重工業はそれを悪用したに過ぎない

 

 

 

しかし、そんなことを大和は知らない

 

 

 

 だが、大和もこんな怪物戦艦の存在を信じざるを得なかった。奮闘していた南方棲戦姫と空母棲姫は大破してしまった。抵抗していた長門も50.8cm主砲弾を数発受けて大破した。長門の装甲ではあのバカデカイ砲弾を防ぐ装甲なんてない。金剛も霧島も悲惨だった。たった一発で戦闘能力を奪ったのだ。二人とも意識を失って海面に倒れている。一航戦の赤城も加賀も戦闘不能であり、摩耶と天龍は結衣の艦載機による航空攻撃だけで大破してしまった

 

 戦艦棲姫は損害を無視してまで突っ込み、白兵戦まで持ち込んだが、相手の力は上だった

 

50.8cm主砲を近距離で何発とも当てたのだ

 

 気がつけば戦闘可能な艦は大和と奇跡的に攻撃を免れた時雨だけである。いや、意図して攻撃対象にしてないだけだろう

 

 

 

「サア、残りはお前達ダ」

 

 結衣が倒れ込む戦艦棲姫を一瞥すると、大和と時雨を睨んだ。結衣の回りに垂直離着可能な三機のジェット機がホバリングしている

 

敵はいつでも攻撃出来る

 

(ダメだ……惜しい所まで追い詰めたのに……)

 

 時雨は震えた。自分が無事なのは運ではない。後で拷問する気だ。事実、結衣の目は大和ではなく、しっかりと時雨を睨んでいた。当然だ。浦田重工業を崩壊させ、結衣を追い詰めたのは時雨である

 

 

 

 結衣がこちらに向けて突進した時、時雨は悲鳴にも成らない声を上げて逃げた。結衣の拷問は一度受けている。あれ以上の事をするだろう。しかし、結衣は30ノット以上の速度を出せるためたちまち追い付く

 

「砲雷撃戦!一斉射撃!」

 

 逃げる時雨を助けるため、大和は結衣の前に踊り出て砲撃を開始した。だが、結衣は大和の攻撃を受けても強引に突進。そのまま殴り飛ばした

 

 予想外の敵の行動に防ぐ事ができず、吹っ飛ばされてしまう。立ち上がろうとするが、結衣は蹲る大和に向けて50.8cm主砲を叩き込んだ。46cm主砲も耐える装甲も50.8cm主砲弾には耐えられなかったが、あまりにも固いため中破に留まった。

 

 大和がダウンした結衣は再び逃げる時雨に目を向けた。高速で移動し追い付くと再び金属の巨大な手を生やして捕まえたのだ

 

「放して!」

 

「お前は私に勝てん!いくら仲間を呼び数で立ち向かおうが、それを打ち破る力も手に入れた!」

 

 暴れる時雨を押さえるために金属の手は容赦しない。このままでは握り潰されてしまう

 

苦しむ時雨を他所に結衣は艤装の一部を斧に変形させた

 

「首を跳ねてやる!お前の幸運も尽きたな!」

 

海面に叩きつけ強制的に時雨を仰向けにする。斧が高々と掲げられ今にも振り下ろされそうだ

 

「止めて!」

 

 大和は立ち上がって助けに行こうにも被害を受けているため、艤装と体が言うことを聞かない

 

 

 

 皆の視線が結衣と時雨に集まった。助けようにもほとんどの者は大破している。救助にいけない。精々、出来る事は罵倒と涙を流す事しか出来ない

 

 

 

だが、結衣も含めて誰も気がつかない。一人の艦娘が高速で接近していることに。結衣も時雨を執着するあまりレーダー確認を怠った。普段だったら驚いており、退避しているだろう

 

 

 

「サヨナラだ!狂人の息子にお前の首を見せてやる!初めから殺しておけば良かったな!」

 

 泣く泣く時雨に向けて斧が振り下ろされた。時雨は恐怖のあまり泣きながらも目を閉じた。自分は斬殺されてしまう!

 

 そして待った。自分の死を。撃沈よりも恐ろしい死が来るのを。しかし、いくら待てど変化は来ない。意識もあるし、荒い息をしている

 

それどころか拘束していた金属の手の力が弱まっている

 

(な……何が……起こったの?)

 

恐る恐る目を開ける。涙で視界は歪んでいたが、すぐに回復した

 

 斧が時雨の首の直前まで来ていた。いや、それどころか震えながら上がっている。誰かが止めているのだ

 

(え?誰?)

 

次に時雨は結衣の方へ目を向けた。さっきまで残忍な笑いをしていた結衣の表情は、驚愕に変わっている。しかも、目線は時雨ではなく、押さえている者へと向けていた

 

結衣を押さえている者は誰か?時雨はその者を見たが、時雨は目頭が熱くなるのを感じた

 

 

 

 奇跡が起こった。実際は博士か明石がやったのだろう。一人の艦娘が結衣を押さえ時雨を助けている!

 

それは……

 

「てめえ!よくも時雨を泣かしたな!」

 

 武蔵は強烈なパンチを浴びせた。たった一発で結衣はよろめいたのだ。戦艦大和でさえダメージが今一つだった艤装が攻撃を受けている!

 

その隙に武蔵は時雨を拘束している金属の手を拳一つで粉々にした

 

「時雨!大丈夫だ!戻ってきた!」

 

「むざじさん!」

 

時雨は泣きながらも、武蔵の格好に驚いていた

 

 

 

 建造された武蔵の姿が違っていた。マントとさらしの姿が今では儀礼用の軍服のようなものを着ている。艤装も変化している。時雨は武蔵に装備されている主砲に凝視していた

 

大和型戦艦の主砲、46cm主砲よりも大きい!一体、どういう事なのか?

 

「お前!毒を受けたはず!」

 

 結衣は立ち上がるが、その顔を驚愕していた。武蔵は砲撃で結衣に叩き込んだ。近距離なので外しようがない。砲弾は艤装をえぐり、飛行甲板も破壊した。攻撃を受けた結衣はのけ反った

 

小破しても尚、結衣の表情から驚きは消えない

 

「な、なにぃー!バカな!今のは20インチ砲!」

 

 結衣は武蔵を凝視していた。大日本帝国海軍の艦艇を全て暗記して来た。いや、第二次世界大戦の参戦国の兵器は覚えたつもりだ。20インチ砲を持った艦艇はいなかった!アメリカどころか日本ですら取りやめたほどだ

 

 20インチ砲である50.8m主砲は浦田重工業の科学技術と深海棲艦の力を合わせようやく実現出来たほどだ。それなのに、艦娘である武蔵は青天の霹靂のように装備している!

 

「あり得ない!大和型戦艦である武蔵が20インチ砲を装備しているだと!?……まさか、まさか!」

 

 浦田結衣はある艦艇の資料の中に大和型戦艦についてある事が書いているのを思い出した

 

(大日本帝国海軍は大和型戦艦の強化版……超大和型戦艦を建造しようとした計画があった!まさか、それを実現したのか?)

 

 しかし、そんなバカげたものを一朝一夕に造れるものではない。自分自身が体験した超人計画のような個体に進化をさせない限り

 

……進化?

 

「そうか。ことにあろう事か。お前も『超人計画』の劇薬を打つとは!よくも死なずに、済んだものだ」

 

「お陰様でな。この武蔵、貴様を倒すために改二となった!」

 

武蔵と結衣がにらみ合っている中、時雨は2人を交互に見た

 

武蔵が僕と同じ改二?武蔵は大和型戦艦ではない?

 

 いや、聞いた事がある。アメリカが46cm砲搭載の新型戦艦を建造することへの懸念から、更に大口径の51cm砲を搭載することが計画されたのを。大和型をベースに51cm砲登載可能にするという超大和型戦艦というのを。都市伝説かと思っていたが

 

改二は戦闘能力を上げるだけでなく、『艦だった頃の世界』において計画のみで実現出来なかった改装が実現可能出来る力だ

 

 未来においても瑞鶴は最終的に装甲空母になっていた。翔鶴型空母は装甲化やカタパルト装備なんて『艦だった頃の世界』では実現出来なかった事だ*1

 

 改二になるには戦闘能力が向上する反面、艦娘の心身により強い負担がかかるため、ある程度の経験と時間が必要だが。博士はそれをクリアしたのか?

 

だが、今はそうも言ってられない。結衣を倒すチャンスが再び出て来た

 

「いいだろう。どちらが上か……ケリを付けてやる!」

 

互いの巨大な砲が紅蓮の炎をあげた。巨艦同士の戦いが始まったのだ

 

 

*1
装甲甲板にするとトップヘビーとなり、艦載機搭載も減少してしまうという欠点がある。装甲空母である大鳳の建造も苦労したと言う。また日本は空母用のカタパルトを開発することが出来なかった




オマケ
提督「つまり、『超人計画』は進化と言う事か?」
博士「そうじゃ。ウイルス進化と同じ原理でやっておる」
提督「人間にやるとどうなる?」
博士「身体能力は向上する一方、命の危険になるし、精神も破壊される。結衣のように狂っているなら兎も角、普通の人がやると廃人になってしまう」
提督「いや、何か能力が身に付かないのか?」
博士「何を言っておる?」
提督「スタンドが発現するとか?未知のウイルスよって能力が出ると」
博士「確かにその作品ではそういう設定かも知れないが、出る作品間違っておるぞ?」
時雨「では、僕もスタンドが……」
博士「だから無いから!」


武蔵が進化(大改装)して武蔵改二に

ゲームにおいても(試作)51cm連装砲を搭載可能どころか持ってくる事から武蔵改二は大和型戦艦ではなく、ペーパープランだった超大和型戦艦であると思われる
また、大和も51cm連装砲が搭載出来る事から改二は超大和型戦艦に近い事も

あるサイトでは武蔵改二は798号艦型を意識しているとの事から『超大和型戦艦』に近い存在なのかな?

よって、武蔵改二はゲームと同様、51cm連装砲や10cm連装高角砲改+増設機銃などを詰め込んで敵に挑みます。遅ければ時雨が危なかった


余談
実は物語においても『超大和型戦艦』を出そうと思ったりしました
但し、こちらはオリジナル艦娘ではなく、大和を(無理矢理)改二にしてオリ敵と戦うと言ったストーリーを考えていました
浦田結衣が架空戦艦であるH級戦艦を改装させているのだから、大和武蔵を超大和型戦艦に改装させようというシナリオです
超大和型戦艦は大和型戦艦の強化発展型です。翔鶴瑞鶴の改二甲のように史実において翔鶴型は装甲空母された事もありませんし、カタパルトも装備された事もありません。よって、大和改二(IFバージョン)として登場させる予定でした

……が、物語を書いている途中で武蔵が改二実装したため、ストーリーを変更。武蔵のみですが
予定されていた事が先にゲームで反映されるとは思いもしませんでした
深海棲艦や艦娘などの考察であるように大改装も改二もある意味、進化かも知れません

武蔵(改二)「よし、レクイエム化だ!」
博士「だから、そんな能力は無いから!」
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