時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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今回は何も語りません
正真正銘のラストバトルです


第108話 任務完了、さらば時雨

「馬鹿な……艦娘になる薬だと!」

 

 浦田結衣は苦しんでいる。自分の力が弱まるのを感じた。巨大で黒い艤装は赤錆によって浸食されるかのように広まっている。不気味な金属音が鳴り響き、機銃や副砲が重さに耐えきれずボロボロと落ちていく

 

 垂直離着陸機であるハリアーもYak-38も影響が及び、次々と海に墜落していく。急な出来事にその場にいた武蔵も大和も唖然としていた

 

「そう。僕は改二に改装されたから分かる。改装だけで飛躍的な力は手に入らない。アイオワさんは『艦だった頃の世界』で改装されたから、現代兵器を持って来れた。だけど、君は違う」

 

「なっ!?」

 

「未来の提督も僕達の生存率を少しでも高めるために改装には怠らなかった。……それでも沈んでいった艦娘もいるけど」

 

 時雨は目を閉じた。未来で幾人の艦娘が行方不明になったり、撃沈したりしたか。目の前で夕立が撃沈された時は、目の前が真っ暗になった。何のために改二になったのか分からない

 

 瑞鶴もそうだった。僕が建造される前に自分の姉を失った。そのため、提督は苦労したと言う。いや、天龍も龍田を失い性格が変わった。龍田が刺された時は、焦った。天龍の落ち込む姿を見たくは無かったからだ

 

 建造ユニットは同じ艦娘を複数も建造したりしない。撃沈した艦娘もである。まだまだ分からないところはあるが、確かなのは建造ユニットはそんな都合がいい代物ではない事だ。何かしらの法則があるのだろう

 

「僕達は創造主が深海棲艦の力を元に創られた生命体。元素の関係かどうか知らないけど、深海棲艦が艦娘になることだってある。その一部を見たんだ、僕は」

 

「化け物め……」

 

「いくらでも言っていいよ。君と君の兄は僕達の事を生贄人形か亡霊としか見なかった。だけど、僕達にも自由意志や感情はあるんだ」

 

 出撃する前に博士が言った言葉を思い出した。博士は変人の所はあったが、決して愚かな人ではない

 

「僕は……僕達は人形でも奴隷でも標的艦でもない。抗議や反発だってするさ」

 

「貴様!」

 

 結衣は立ち上がると浸食されていない砲塔を向けて砲撃しようとした。だが、それを拒む者がいた。いや、もう主砲は撃てないだろう。反動には耐えられないのだから自滅する

 

しかし、自爆で死ぬのを許さない者がいた

 

「テメー!よくも龍田を刺したな!」

 

 天龍は刀を構えると結衣の腹を刺した。刀を一振りしたため、結衣の肉は切れ血が飛び出る

 

「クッ……クッゾー!」

 

「お前のせいで仲間どころか関係ない人まで巻き込まれた!可哀想だとも思わない!このツケは払ってもらうぞ!」

 

武蔵も立ち上がると傷口を押さえ蹲る結衣へパンチを容赦無く叩き付ける。

 

 

 

 最初の一撃で歯と血が舞う。殴られたの顔が拳の形へと変形して飛ばされた。武蔵は追撃すると血まみれで睨む結衣に再びパンチを叩き込む

 

 結衣は赤く錆びた艤装で盾にするが、艤装は煎餅のように簡単に割れ、左手に命中する。右腕は折れ再び結衣は宙を舞う

 

 落下し痛みで転がる結衣に再び攻撃しようと武蔵は駆け寄るが、後ろから誰かが武蔵を止める者がいた

 

 武蔵は強引に行こうとするが、後ろから抑える者も相当パワーがあるらしく、中々前に進めない

 

 イラついて後ろを振り向くが、抑える者が誰か分かると少し驚き、動きをやめた

 

「待ってください!」

 

「大和、止めるな!アイツに同情でもしたのか!」

 

「違います!時雨が!」

 

大和は必死に時雨の方へ指を指した。何があったのか?

 

面倒くさそうに時雨の方へ向けたが、時雨の体の変化に目を見開いた。時雨の身体は何か様子が変だ。所々、光の靄のようなものが巻き付いている

 

 ……いや、違う。何かがおかしい。時雨の左腕が光の靄のようなものに覆われている?

 

しかも胴体も右の頬も妙だ。靄のようなものが纏わりついていて離れない。艤装も所々、靄を包み込み、まるで光っているようだ

 

「まさか……」

 

 武蔵は時雨の砲を見ながらも副砲で結衣の右足を撃った。結衣の悲鳴で右足は吹っ飛んだ。痛みで呻く結衣を無視した。武蔵は愕然とした

 

光の靄が突然現れ、時雨の右足を包み込んだ

 

「なっ!?何だ!」

 

 武蔵は倒れ込んだ結衣と時雨を見比べた。結衣が攻撃を受けると時雨も同じように攻撃を受ける?

 

 いや、時雨は出血どころか悲鳴すら上げていない。ただ、呆然と光の靄を眺めているだけだ。あれだけ怒りに燃えていた天龍も摩耶も異変が起こっている時雨を見て右往左往するばかりだ

 

「貴様、何をした!」

 

 武蔵は倒れ込んでいる結衣の胸ぐらを掴むと、持ち上げた。主砲で威嚇しても結衣は笑うだけだ

 

「知らんな……殺すんじゃないのか?殺れよ、ヒーロー気取りが」

 

「コイツ!」

 

武蔵は歯軋りした。提督から聞いてはいたが、敵は命乞いどころか降伏すらしない

 

「痛め付けるだけか?お前も私と同じだな。やられたらやり返すのは私もやった。だから、殺せよ。さっさと殺しなよ、殺人兵器が」

 

「クソ!」

 

武蔵はゴミのように結衣を投げ捨てると、通信を入れた

 

自分達の提督や創造主なら分かるかも知れない

 

 

 

「時雨の身体に異変があったって、どういう意味だ?」

 

『分からない!結衣を攻撃するとその箇所と同じように時雨の身体に光の靄のようなものに包み込んでいるんだ!』

 

 武蔵の荒い息の音と共に報告してくる提督は、混乱した。戦艦H44改を倒し結衣が弱体化している矢先に、問題が出てきた。時雨の身体に光の靄が包み込んだ?

 

「時雨!大丈夫か!」

 

『大丈夫。痛みも感じない。だけど、暖かいんだ』

 

今は冬で空気が冷たい。それなのに、暖かいとはどういうことなのか?

 

『提督、時雨を包んでいる光の靄……浦田重工業にあったワームホールの靄とそっくりだぜ!』

 

 摩耶は興奮じみた声で報告してくる。なんなんだ?浦田結衣のH44を弱体化させたのに、なぜ問題が出て来る?

 

「おい、時雨は大丈夫なのか?」

 

『分からない。しかも……透ける!光の靄に掛かっている艤装や腕が透けて触れられない!』

 

 報告が支離滅裂で提督も頭がついていけない。提督は明石の方へ振り向いたが、明石も分からないらしく、首を振るばかりだ。艦娘も動揺が走り、駆逐古鬼も顔をしかめている

 

「一体、何が……」

 

 提督は何が起こっているか周囲を見渡した。実際には見ていないが、なぜワームホールである光の靄が現れたのか?浦田重工業のワームホールが影響を及ぼしているのか?艦娘や軍曹達が動揺している中、1人だけ違う反応をしている者がいた。座り込み、ただ頭を項垂れている者が

 

それは……

 

「親父、時雨に起こっている現象を知っているのか!?」

 

 提督は自分の父親である博士に詰め寄った。周りも静まり返り、みんなの視線は2人に集まっている

 

「大淀、無線を」

 

 博士は自分の息子を無視して大淀に命じた。大淀は戸惑っていたが、車椅子を動かして艤装に取り付けられていた通信機器のマイクを渡した

 

「時雨……発現したのか?」

 

『うん……多分。これで未来は救われるの?』

 

「ああ。未来は変わった証拠じゃ。君の行動に感謝する」

 

『ありがとう』

 

 博士と時雨のやり取りを聞いても誰も理解出来ない。その場にいた者は不安を抱えていた

 

「何が起きているんだ。『行動』って何だ?」

 

「岐阜基地での宴会の数日前、ワシはタイムスリップ理論の論文を燃やした。未来のお前と明石が造り上げたタイムマシンじゃ。もう悪用されないためにな」

 

「何を言っている?」

 

「未来のお前でも気付いてはいるのだろう。じゃが、方法が少ない。幸い、ワシの研究を見つけた。そのお蔭で皆が助かる」

 

 博士の言葉に誰も理解出来なかった。時雨や博士から未来の戦争に付いて聞かされたが、あまり実感が湧かない

 

 おぞましい敵がいたため、ある程度は認識したようだが、タイムスリップは半信半疑だった

 

「例えの話をしよう。ある者が過去へ旅立って若い頃の自分の父親を出会った。そして、誤って自分の父親を殺してしまった。そうなるとどうなる?」

 

 この例えを聞いた瞬間、誰もが理解をした。この例えが本当ならその者は消滅する!存在しない事になってしまう!

 

「海外の学者ではこういう現象をタイムパラドックスと呼んでおった」

 

「な、何故なんですか!博士の言葉が本当なら、時雨がこの時代に着いた瞬間、歴史は変わっているはずです!」

 

明石は愕然とした。本人も信じたくなかったのだ。時雨が消滅?

 

「それは影響が余りにも小さすぎたからじゃ。たかが駆逐艦娘1人だけでは何の影響にも及ばん。浦田重工業は大企業じゃ。1人の艦娘がどんなに暴れても浦田重工業に捕まるだけで終わる」

 

 博士の説明によると、時雨が過去へ行っただけでは、何の影響にもならないのだと。例え学生時代の提督と創造主が動いても、何も変わらない可能性がある。博士は左遷させたお蔭で広報官、提督も学生身分であるため、浦田重工業からして見れば、石ころ同然であった

 

「浦田重工業を崩壊させても時雨は消滅しなかった。つまり、歴史が変わっていない証拠じゃ。遅かれ早かれ、時雨が経験した破滅の未来が訪れる。時雨は浦田重工業が支配する世界からやって来た」

 

「どうして今、起こっているんです!?時雨がこの時代に来たら直ぐに消め――」

 

明石は言葉を切った。何か思い付いたのか?口を魚のようにパクパク開けている

 

「どうした?」

 

 明石は何か思い付いたらしい。急いで振り返り、提督の肩を掴むと揺らしながら一気に話始めた

 

「未来を変える手段が異質の戦艦ル級改flagship……いえ、H44である浦田結衣が鍵なんです!つまり、元凶を全て倒さないと変わらないという事です!浦田重工業は崩壊し浦田社長も死にました!しかし、時雨が消えない理由は、浦田結衣がいるから!アイツがいるから滅びた未来の世界が存在する!時雨は未来で建造した艦娘です!だから――」

 

「世界を滅ぼす元凶が生きている限り、未来から来た時雨は存在するだと!?ふざけるな!」

 

提督はようやく、気づいた

 

 タイムパラドックス……過去改変による現象である。過去に干渉すれば、未来も変化する。しかし、時雨は過去に干渉しているにもかかわらず、本人は消えない。つまり、影響が小さすぎたのだ

 

「何故なんですか?浦田重工業は崩壊してしまって、世界を支配する力はないはずです!浦田結衣1人がそこまで影響力を……」

 

赤城は抗議しようとしたが、明石と同様に何かを思い出したのか、言葉が続かない

 

皆は知っているのだ。敵の力を

 

『私は下級の深海棲艦を操る事が出来る!』

 

 独自で能力を開花させ、テレパシーを使い、深海棲艦を意のままに操る。敵は複数だ

 

「歴史の修正力……いや、敵も黙っていない。浦田社長が逮捕されれば、不味かったかも知れない。何者の手引きによって釈放させられるかも知れないと。どんなに痛めつけようが、生きている限り、浦田重工業は別の形で復活する。お前は浦田社長を殺せないかと思っておった。502部隊も浦田社長をいきなりは殺さんじゃろう。逮捕するのが第一だったはずじゃ」

 

提督と陸軍将校は青ざめた。博士は自分の息子は、人を殺す事が出来ないと踏んでいた。学生であるため、仕方ないとも言える。衝動的に引き金を引いて射殺することもあるが、低確率だろうと。502部隊も手柄として逮捕していたかも知れない。後は司法による裁きがやると。研究室で殺すよう言ったが、あくまで言葉の綾であった

 

しかし、博士の予想は違っていた。浦田社長は日本に影響を与えた人だ。いくら悪事が暴露しようが、崇拝する者は必ずいる

 

 いかなる形であれ、彼が生きていること自体が不味いのだ。その名を担ぐ者が干渉するに決まっている

 

よって、博士は浦田社長が逮捕された場合、確実に殺す方法を考えていた。最悪の場合は強力な爆弾で爆死させればいい

 

 しかし、何故か浦田社長は逃げるのを止め、息子と時雨の方へ向かった。感情的になって判断が鈍ったのか?誰かに挑発されたのか?いずれにしろ、提督と時雨は直接手を下さずに深海棲艦のボスで殺させた。不本意ではあるが、目的は達成したのだろう

 

浦田重工業の私設軍隊も統制が乱れ、降伏する者も現れた

 

 恐らく、指揮官が戦死したのではないかと博士は睨んだ。軍隊において、大切なのは装備品もあるが、やはり有能な指揮官である

 

指揮する者がいないと組織は動かない。それは艦娘もであるが、敵も同じである。実際に警備隊長が乗ったアパッチは、南方棲戦鬼の艦載機によって落とされたが

 

 そして最大の問題は、ガンである浦田結衣の存在だった。未来の記録によると、異質の戦艦ル級改flagshipは予想していた通り人だった

 

 しかし、まさか先祖が行っていた『超人計画』を実行しているとは思わなかった。艦娘を誕生させたのは博士だが、同時に滅ぼす力を浦田兄妹に与えてしまった

 

このままだと埒が明かない

 

 未来の記録を参考に武蔵を『超人計画』である進化薬を与え改ニにさせたのはそのためだ。まさか、難病を治すために命を懸けて打った薬が役に立つとは……

 

代償として大量の血を抜く羽目となったが

 

 しかし、時雨が戻ってきた際に深海棲艦を人間に戻す方法はないかと聞いてきた。思い付かなかったが、確かに可能だ。原料である深海棲艦の血液は、近くにある。製造も可能だ。代々、受け継がれてきたのだから

 

 そして、予想通り拒絶反応を起こした。進化のサイクルを早める薬品と遺伝子を組み換えて艦娘になる薬品が混ざり合ったお陰だ

 

しかし……彼女を殺せば……

 

殺さなければ……世界は……

 

 

 

博士は一瞬の間、今までの出来事を思い返した

 

艦娘が叫び、悲鳴を上げてる中、博士は目を閉じた

 

(さらばしゃ。勇敢な駆逐艦娘よ)

 

 

 

「何とか出来ないのか!?」

 

「無理じゃ。ワシは科学者であるが、神様ではない。……すまない、ワシにはどうする事も出来ない」

 

 提督は詰め寄ったが、首を振るばかりだ。提督は迷った。問い詰めたところでどうとなるわけでもない

 

502部隊である陸軍将校も軍曹も青ざめた

 

時雨は消える?

 

「将校殿、出撃します!」

 

「バカ言うな!」

 

「では、どうしろと!見捨てるのですか!」

 

「そうは言っていない!」

 

あきつ丸と将校は口論し、艦娘も助けに行くか行かないか、揉めていた

 

 加賀は天山を発艦させて現場に向かわせた。何か解決する手がかりが見つかるかも知れないと。それは願わぬ想いだとしても

 

 

 

 武蔵は無線連絡したが、何も返事は無い。いや、時雨と博士との無線は聞いたが、何を言っているのか分からない

 

何を意味するのだろうか?『未来は変わった証拠』って何だ?

 

 不意に砲撃を食らった。いや、副砲だろう。砲弾は装甲を弾いただけで痛くも痒くもない

 

 浦田結衣は立ち上がった。副砲で撃ちぬき足を吹き飛ばしたはずだ。なのに、足が生えている?

 

いや、不思議ではない。結衣は注射器を持っている!また、注入したのか!

 

「そうか……何が起きているか知らんが、私を殺せば時雨に不味い事が起こるらしいな。あの光の靄……兄が持っていたワームホールの現象に似ている」

 

 武蔵は戸惑った。結衣の言葉を信用出来ない。しかし、結衣の脚が再生されると時雨に起こっている現象は変わっている

 

 時雨の脚に纏っていた光の靄が消えたのだ。どうやら、連動している。何が起こっている?無線で問いただしても誰も応答しない

 

 そうこうしている内に、結衣は無事である艤装を刀に変形させると武蔵に飛びかかった

 

「コイツ、まだ戦う力があるとは!」

 

 さっき打った薬のお蔭でもあるのだろう。錆の浸食が止まっている。それどころか、変形しているように見える

 

 武蔵は刀を両手で受け止めた。真剣白刃止めである。武蔵は装填済みである51cm主砲を向けようとした。だが、引き金が引けない

 

「どうした?撃ってみろ!私を殺したいのではないのか?」

 

(コイツ、調子に乗っている!)

 

 無線も傍受されたのだろう。だから、強気でいられる。おまけに予備の薬品まで隠し持っている。博士の話だと通常の人間には耐えられない劇薬である。しかし、相手はそれをクリアしている。武蔵本人でも全身に激痛が走ったのに

 

「舐めるな!」

 

 武蔵は蹴りを入れて引き離そうとする。しかし、相手にそれよりも早く刀を離し、副砲で武蔵を叩き込んだ

 

 武蔵が怯んだ隙に結衣は外洋へ逃げようとしたが、天龍と摩耶と不知火、そして鳥海が取り囲んでいる。大破しているが、長門と大和も踏ん張っている

 

「さっさと降伏しやがれ!」

 

 天龍は威嚇したが、結衣は怯む様子はない。左腕はなく、傷も沢山あるのに降伏すらしない

 

「いつになったら学習するんだ?」

 

 結衣はゾッとするような笑みを浮かべると天龍に近づく。天龍は焦った。敵は弱音すら吐かない。それどころか、艤装が回復している?

 

攻撃するなら今の内だ。だが、攻撃すれば時雨が……

 

 それは他の艦娘も同じだ。理由は分からない。敵の新兵器なのか?このままだと、犠牲が出る!

 

「さあ、殺すなら――がぁ!」

 

 何者かが目にも止まらない速さで結衣に接近して砲撃した者がいた。2、3発撃たれた結衣は怯み、爆発の反動で後ずさりする

 

誰が攻撃しているのか?包囲していた艦娘は、後退し誰が攻撃しているのか見た

 

それは――

 

「時雨!おい!」

 

 それは時雨だった。時雨は砲撃し怯んだと同時に結衣に接近。予備を持っていたのだろう。注射器を結衣に刺したのだ

 

「貴様、私を殺すと――」

 

「消滅する。それくらい分かっている!」

 

 時雨が結衣を追い詰めていたのだ。状況とは言え、駆逐艦が異質の戦艦を追い詰めている。この光景を見た者は唖然としていた

 

「コイツ、また薬品を!離れろ!!」

 

結衣は時雨を投げ飛ばした。吹っ飛ばされた時雨は天龍の近くに着水し転んだ

 

「おい、止めろ!解決する方法は他にも――」

 

天龍が駆け寄ったが、時雨は直ぐに立ち上がると、天龍が手に取っていた刀を素早く奪った。そして、天龍の制止を振り切り結衣に立ち向かう

 

 時雨は刀の振り方なんて知らない。しかし、これは凶器なのだから突き刺せばいい。相手は艦娘を何とも思っていない

 

 時雨が持っている刀は、態勢を立て直そうとする結衣の身体を貫通した。血は流れていない。いや、傷口からは赤い血は流れていない

 

博士が言ったように拒絶反応しているのだ。進化サイクルを早めているため、人間にも戻れない身体になるらしい

 

結衣は悲鳴を上げ抵抗するが、時雨は難なく躱して仕切りに砲撃する。

 

 これでいい。もう後悔はない。時雨の身体に光の靄が再び纏っていく。このままいけば、全身を纏うだろう。その後、どうなるかは知らない。だが、撃沈ではないはずだ

 

「司令!時雨が暴走を!指示を!」

 

『……』

 

「司令!」

 

 不知火はしきりに無線で怒鳴っていたが、提督どころか岸に居る艦娘からの応答がない。何をやっているんだ?

 

暫くして無線が入って来た。提督からだ

 

『時雨……俺が過酷な任務を与えた俺のせいだ。未来の俺だろうが、俺は俺だ。すまない』

 

涙声が混じった声に時雨は、砲撃を止め距離を置いた

 

「泣かないで、提督!僕は……僕の考えでこの時代に来たんだ!未来の提督だって分かっていたんだ!」

 

 だってそうだ。未来の提督は、タイムトラベルの危険性を説明した。どうなるか分からないと言っていたが、内心は分かっていたはずだ。彼は片道切符と言った

 

つまり、歴史改変したらどうなるか、想像がついているはずだ

 

 時雨は周囲を見渡した。損傷を負った艦娘がいる。攻撃するか否か迷っているらしい。不知火や摩耶がこちらに向かっている。何が何でも時雨を止める気だ

 

 

 

 時雨は思った。『艦だった頃の世界』とは逆の事が起こっている。レイテ沖海戦の時、西村艦隊でも時雨だけが生き残った。山城、扶桑、最上、山雲、満潮、朝雲は沈んだ

 

 山城達はいないが、今のところは沈んだ艦娘はいない。いや、潜水艦娘は攻撃を受けたが、撃沈ではないはずだ。大破して漂流している。そう思いたい

 

「他の艦娘を頼むよ。……ありがとう、提督」

 

『分かった』

 

時雨は無線を切ると天龍達が制止する手を振り切って結衣に立ち向かった

 

「私が死ねば、貴様にとって不味い事が起こるのだろ!」

 

「もう、慣れたよ。僕は君を倒す!」

 

時雨は結衣に接近する。あと少しで倒せる!

 

 

 

(こ、虚仮にしやがって……)

 

 結衣は全身の痛みに耐えながら歯ぎしりした。自分の身体から力が抜けているのを感じた。何とか劇薬を使って持ち堪えたが、もう無理だ

 

 回復するには大量の時間と資源が必要だ。だが、どういう訳か時雨にも影響を及ぼす

 

チャンスだと思ったが、時雨は自分の命を投げ出している

 

 このままでは不味い。だが、他の艦娘は違う。仲間を大事にするあまり、攻撃しない。それどころか、捕まえようとしている

 

(臆病風にでも吹かれたのか?それとも、拷問するつもりか?同じ目に合わせて私に恐怖を味合わせてから処刑するのか?……私にそんなのは無駄だ!学生時代にて既に倫理観は捨てた!拷問どころか死ぬのも怖くない!あるのは単純な思想だけだ!)

 

結衣は呻きながら近づく時雨を睨んだ

 

(強力な力で敵を徹底的に倒し、全てを奪い、完全に支配する!それだけだ!どんな手段を使っても!)

 

結衣は艤装を構えると時雨に向かって叫んだ

 

「良いだろう!貴様の言う通りだ!私が創り出す世界にお前は邪魔な存在だ!」

 

結衣は海面に手を突っ込むと海水を時雨にかけた。突然の出来事で時雨は目を覆った

 

「どうだ!この目潰しは!」

 

 結衣は吠えると副砲を構えた。主砲は使いものにならない。しかし、副砲は生きている

 

「勝った!死ね!」

 

「死ぬのは君だよ!」

 

 時雨は反射的に目を閉じたため、海水にかからなかった。そして、感覚だけで主砲を構えた

 

狙いは朽ちたH級戦艦であるH44改

 

 相手よりも先に主砲を放つ。その砲弾は偶然にも敵の巨大な砲の中に入った。主砲には、朽ちたとは言え、弾薬がたっぷりと入っている

 

そこに12.7cm主砲弾が入り込んだのだから堪らない。50.8cm砲塔は大爆発を起こした

 

「ぎゃああぁぁぁ!!」

 

結衣は深海棲艦と人の混じったような悲鳴を上げた。既にボロボロだ

 

時雨は近寄ると主砲を撃ち続け、隙を見て予備の薬品を注入した

 

 耐性が出てるかも知れないと博士から忠告が入った。だとしたら、やるべきことは一つ。薬品を過剰に投与をすればいいだけだ

 

 普通の薬でも過剰な投与は危険とされている。しかも、劇薬であるため流石の結衣も耐えられない

 

結衣も抵抗するが、全てかわされた

 

 

 

 激戦を見ていた艦娘達は唖然としていた。時雨の強さには目を見張ったが、誰も歓声を上げない

 

 光の靄は、段々と拡大しながら時雨を包み込んでいる。このままだと博士が言うように消滅してしまう

 

既に明石は無線を使って単刀直入に話している

 

「時雨、止めろ!このままだと消える!」

 

天龍と不知火は駆け寄ろうとするが、何者かに止められた

 

「止めておけ。手出ししてはいけない」

 

「何故です!?」

 

「アイツの覚悟に水を差すつもりか!……時雨もわかっているはずだ」

 

天龍も不知火も抗議しようとした。しかし、武蔵の顔を見て思い止まった

 

……武蔵が泣いている?

 

「私達は……救われたんだ……」

 

 涙は滴り落ちていく。博士や提督から時雨のいきさつを聞いたのだろう。ようやく、実感したのだ。時雨は救うためにタイムスリップしたのだと

 

 誰も手出ししない。赤城加賀が放った攻撃隊も上空を旋回するだけだ。皆は二人の激戦から目を離さなかった

 

 

 

「クソ!この私が駆逐艦風情に負ケルとは!オノレ!」

 

 主砲副砲が使えず対空機銃で時雨を攻撃する。40mm機関砲なので、無傷という訳には行かない

 

しかし、時雨は強引に接近すると、薬品を再び打ち込んだ。これで最後だ

 

「お前なんかに………亡霊ごときが……兵器ごときにヤラれるなんて!」

 

「そうだよ。君は死ぬんだ」

 

時雨は冷たく言い放った

 

「皮肉だよね。兵器から進化した艦娘は人間性や理性を持っているのに、君達のような人は野蛮な心しか持っていないなんて」

 

「ッ!」

 

「僕達は……艦娘はまだ産まれたばかりだ。学ぶ必要があるんだ。僕達は自由意思を持っている!国を守るために手を貸すけど、奴隷になれと命令されるなら手を切る!僕達は自由なんだ!」

 

 時雨は攻撃しながら、力強く言った。攻撃を受けながらも結衣は隙を見て時雨を掴むと思いっきり投げた。しかし、時雨は投げられても笑っていた

 

海面に叩きつけられても倒れたまま空を眺めている

 

太陽の日は傾きつつある

 

今日は快晴だ。曇り空一つもない。青い空は徐々に赤くなっていく。あの時のように雨なんて降っていない

 

「貴様ごときにー!」

 

結衣は時雨を殺すべく砲を向けたが、火を吹く事は無かった。彼女の艤装全て赤い錆に覆われている。彼女も大理石の石像のように固まる。拒絶反応を引き起こし、肉体が変形し硬直したのだ

 

 そんな石像を打ち砕く者がいた。武蔵が主砲を発砲。石像は粉々になった。骨も肉も飛び散らずに白い粉だけが爆発と共に飛ばされた

 

 

 

 過剰攻撃だが、武蔵はそれくらいしないと気が済まないのだろう。自分自身に毒を受けたのだから

 

しかし、結衣を殺した事で時雨の身体に変化が訪れた

 

光の靄は時雨を包み込んだ。僕の存在が消える……

 

 何故、分かるのか自分自身でも分からない。感じるのだ。タイムスリップしたからかも知れない

 

もう、時雨の存在が消えそうになっていることにも気付いていた

 

 仲間達は時雨に駆け寄って口々に言った。よくやったとか、博士が何とかするからとか言っている

 

 しかし、1人だけ違った。武蔵は涙を流してはいるものの、目はしっかりと時雨を見据えていた。本人は分かっているのだろう

 

(成すべき事をやり遂げたな)

 

時雨は幸せそうな笑みを浮かべて、無線を開くと言った

 

「提督……みんな……さよなら……僕はやり遂げたよ……」

 

「おい、待て!時雨!」

 

 天龍が駆け寄ったが、時雨に触れる事は無かった。元凶の最期である浦田結衣は死んだ。そのため、自分の存在を繋ぎとめていた見えない力が断たれたのを感じ取っていた

 

光の靄は時雨を覆いかぶさると一層、輝きを増し……消えた

 

「っっっっっ!!」

 

大和を始め、その場にいた艦娘は声にならない叫びが響き、涙を流した。撃沈でも戦死でもない。存在が消えたのだ。こんな理不尽な事があってたまるか

 

 

 

「悲しむのはまだだ!来るぞ!」

 

 皆が泣いている中、武蔵は声を張り上げた。ハッとして顔を上げると目を見開いた。何時からいたのだろうか?深海棲艦の艦隊が近くに居たのだ

 

回復したのか、戦艦棲姫を始め、全員は回復している。入渠しないと回復出来ない艦娘とは違う能力が備わっているのか?

 

 戦艦棲姫の怪物艤装が吠え声を上げ砲塔が、艦娘に向けられる。南方棲戦姫も空母棲姫も身構える

 

コイツら、やる気だ!

 

「やる気か!なら、遠慮はなしだ!」

 

 武蔵の号令に素早く戦闘態勢を整える艦娘一行。しばらくの間、にらみ合いが続いたが、戦艦棲姫はため息をつくと手で合図する

 

「なっ!?」

 

全員が驚いた、南方棲戦姫も空母棲姫も戦闘態勢を解いたのだ。何なんだ?

 

「オ前達ヲコノ場デ倒シテモ、私ノ心ニ後味ガ良クナイ物ヲ残ス。私達ダケデハ、アンナ化ケ物ヲ倒セナカッタ。厄介ナ能力ノオ蔭デ」

 

 戦艦棲姫を始め深海棲艦にとっては、浦田結衣との戦いは不利だった。洗脳はされる、深海棲艦の能力を超えている、部下は操られる……

 

 深海棲艦だけでは、解決は出来なかっただろう。つい先ほどまで、姫や鬼級を洗脳する能力まで身に着けた

 

「ダカラト言ッテ、貴様ラニ対スル態度ハ変ワラナイ。如何ナル形デアレ私達ヲ倒ス力ハアル。今日ハ見逃ス。疲レタノダカラナ」

 

 どうやら、戦う気はないらしい。武蔵は三人の後ろに見慣れない深海棲艦の姿があった

 

 武蔵は知らないが、浦田重工業に捕らえらたり、結衣と交戦しやられたりした深海棲艦の姫級達である。北方棲姫と離島棲鬼と港湾棲姫である。港湾棲姫は弱弱しく北方棲姫が心配していたが。潜水新棲姫も洗脳されそうになった事もあり、ぐったりしている。当分の間、潜水は出来ないようだ

 

 戦艦レ級も重巡棲姫もどこかげっそりとしている。身体回復は楽な物では無い。駆逐古鬼もため息をついていた。本当は分かっている。捕らえられた三人は無事ということに。代わりに軽巡棲姫と軽巡棲鬼と駆逐棲姫は見つからなかった。

 

撃沈されたのだろう。外洋で装甲空母鬼が撃沈されたのは聞いているらしい

 

 

 

「……分かった。それでいい」

 

「感謝スル」

 

 深海棲艦の鬼・姫級は外洋を目指して航行する。武蔵を始め、他の艦娘もただ眺めるだけだ。両者とも戦う気力もなかった

 

しかし……戦艦棲姫は立ち止まると振り向き、武蔵を見つめていた

 

「フフフ……貴方ノ力……面白イワネ。楽シミガ増エタ」

 

そう言い残すと戦艦棲姫は東京湾外を目指した。人と関わりたくないと言う風に

 

「……嫌な奴だったな」

 

 武蔵は呟いた。いずれ、自分達が戦う事に成るだろう。それでも、H44改である浦田結衣に比べればマシかも知れない

 

 

 

「艦隊……帰投しました」

 

 提督達がいる岸に大和達は帰って来た。全員、ボロボロである。金剛も霧島も浮いているのが奇跡とも言える状況だった。既に重い空気が漂っていた。勝ったはずだ。世界の危機から救ったし、喜んでもいいはずだ

 

しかし、誰も歓声を上げなかった。時雨が消滅したからだ。撃沈が生易しく見える

 

「そうか」

 

 提督の目は充血していた。彼も泣いていたのようだ。半年前からずっと居た艦娘が消えた

 

「ごめんなさい!私達が――」

 

「止めろ!お前達のせいではない!」

 

 大和が反射的に謝罪した。世界最強であったはずなのに、仲間を守れなかったのだろう。しかし、提督は制止した

 

「今の俺達は悲しみで泣いている暇はない」

 

 理不尽な事だろう。しかし、歴史改変しなかったら、それ以上の理不尽な事態が起こっていたに違いない

 

時雨は最後までやり遂げたのだ。仲間も世界も救ったのだ

 

 提督は海に向かって敬礼した。挙手の敬礼である。帽子はかぶっていないが、彼はまだ軍人ではないのだから仕方ないだろう

 

 掛け声と共に1人、また1人と彼に倣って敬礼する。遂に艦娘と502部隊全員が日が沈む海に向かって敬礼していた

 

 

 

崩壊した未来の世界

 

 そこは、辺りは瓦礫の山である。車や列車は鉄の塊と化し、あちこちに白骨化した遺体が所々、散らばっていた。かつては東京と呼ばれた場所であったが、今は見る影もない

 

 誰もいない場所に一人の男が座っていた。白い軍服を着こんでいる海軍士官がいた。いや、影は無い事から彼はゴーストのような存在だろう

 

(そろそろ辛い決断を下す時だ)

 

 未来の提督は心の中で呟いた。アカシックレコードは全てを見せてくれない。ただ、タイムトラベルの理論の中にタイムパラドックスの記載もあった。この事から、全ての元凶が死んだら時雨は間違いなく消滅するだろう

 

 浦田社長を挑発し自分の過去と時雨に誘導したのも彼の仕業だ。アカシックレコードを見て、どうすれば南方棲戦鬼の近くへ誘導出来るか、その映像を見せてくれたのだ。偶然にも浦田社長を殺さなければならないと思ったのは父親だけでは無かった

 

 最後の浦田結衣はどうなるか?残念ながら、先祖の『超人計画』を我が物としているため、どうする事も出来ない

 

 時雨に別れを告げたのは、干渉を止めたからである。これはその場にいる者と過去の自分が決める事だ。自分は既に肉体はないのだから

 

「っ?」

 

 ふと見ると誰かがやって来る。1人の男性だ。通勤なのだろうか?スーツ姿だ。崩壊した世界に会社なんてないはずだ

 

 また、誰かが彼の前を通り過ぎる者がいた。今度は女性である。買い物だろうか?そして、子どもいる。母親の手を繋ぎながら

 

「これは?」

 

 未来の提督は辺りを見渡した。瓦礫だらけだった町は、いつの間にか沢山の建物が並んでいた

 

車の往来もあるし、電車も通っている。自分が知っている東京の姿だ

 

……まさか、時雨が決断を?

 

 彼は浦田結衣を殺せないと思っていた。時雨の身体の変化を見て父親は分かるはずだ。いや、その危険性も以前から分かっていたはず

 

 にも拘らず、実行した。恐らく、時雨自身がやったのだろう。不安要因は取り除くために。仲間と未来のために。でなければ、生半可な覚悟なんてないはずだ。彼女の決断だった

 

「そうか……ありがとう、時雨」

 

 彼の呟きは誰も聞こえない。誰も彼の姿を見える者はいない。しかし、確かに彼女は大勢の命を救った

 

 タイムパラドックスで消えるのは時雨だけではない。幽霊が浄化するように彼も消えていった。この奇妙な現象を見た者は誰もいない。人混みの中にも拘わらず……

 

 

 

現在の浦田重工業跡地

 

「どうだ?見つかったか?」

 

「いいえ。妖精からは何も」

 

 皆が手当てしている中、加賀は艦載機を飛ばしていた。出撃した潜水艦娘達を探すためである。東京湾で戦闘があった事から、その海域にいるに違いない

 

しかし、潜って確認する手段はない

 

「彩雲の燃料が無くなります。残念ですが」

 

「いい。帰投するよう命じろ」

 

僅かな望みがあったかも知れない。本当は大破して漂流しているのだと

 

しかし、海面には潜水艦娘はいない

 

「俺のせいだ。俺が投げ飛ばしてなきゃ」

 

「軍曹の責任ではないですよ」

 

軍曹も後悔しているという。やはり、無理だったか

 

「ゴーヤもイムヤもまるゆも戦ったんだ」

 

皆の気持ちは同じだ。立派に戦ったのだ。今日は大勢の犠牲者が出た

 

「ゴーヤさん」

 

「大丈夫なのです。敵が強過ぎただけなのです」

 

「そうよ。彼女の分まで生きないと」

 

 吹雪も電も叢雲も励ます。何か言わないと彼は立ち直れなくなる。時雨を失ったのに、潜水艦娘までも失ったのだ。建造して直ぐにである。父親である博士も謝ってはいるが、彼には謝罪ではないだろう

 

他の艦娘も次々と言った

 

「心配するな。あいつなら生きているさ。他の者が生き残っただけでも奇跡だ」

 

「漂流しているかも知れません。明日にでも」

 

「いや、本当に大変だったでち」

 

「ロケットで攻撃なんて何なの、あれ?」

 

「まるゆ、怖かったです」

 

「そうです!時雨姉さんのためにも探さないと……って?」

 

 武蔵、赤城、五月雨の他に聞き慣れない声が三人分、聞こえる。全員が振り向くと三人の影が居た

 

「やっと戻って来たでち。海底を歩くなんて思ってもみなか――」

 

「いや、何でお前達は生きているんだ!」

 

「酷いでちー!」

 

2人の叫びが辺りに響いた

 

 

 

「浮上できなかったから東京湾海底歩いて戻って来た!?よく汚い所を歩いたな?」

 

「撃沈しても生きれるものなの?」

 

 ゴーヤ達は必死になって今までのいきさつを話したが、提督も明石も信じられなかった。浅瀬とは言え、撃沈されても死なない?

 

「まあ、潜水艦娘だからじゃないかの?外洋だったら、こんな事は出来んわい」

 

 博士も苦笑いした。まさか、生きているとは思わなかったからだ。いや、生きていると願ってはいたが、望みは薄いと思っていたらしい

 

「提督、偵察機から沖合に四体の人影が漂流しているとの事です。意識はないようですが、姿形からして深海棲艦ではないようです」

 

 話している最中、加賀は報告して来た。どうやら、東京湾の沖合に何かがいるらしい

 

「川内、五月雨、漣。漂流者がいるらしい。民間人が流されたのだろう。頼めるか?」

 

 川内達は了承すると、すぐに出撃した。艤装はつけているものの、最低限の燃料弾薬しか積んでいない。敵がいないのだからこそ、出来る業である

 

「提督よ。これからどうする?」

 

沈む太陽に目をやりながら、武蔵は質問をした。武蔵も思う所はあるだろう

 

「そうだな。戦後処置は大変になるな。艦娘をどうするかも」

 

 瞑目しながら、提督は言った。浦田重工業との戦後処置は大変な事に成るのは明白だ。忙しくなるだろう

 

「資源は底をついた。まずはそこからだな」

 

「大和型戦艦である私達の出番は当分、ないわね」

 

 大和は悲しそうに言った。『艦だった頃の世界』でも大和型戦艦は扱いは温存の対象だったのだ*1

 

「何を言ってる?強敵と存分に戦えたのに、それでも不満だったのか?」

 

「……もう二度とあんな敵と戦いたくありません」

 

 大和はため息をつきながら答えた。あんな敵がいたら、逆にこちらの命が危ない。それでも、役に立ったのだから彼女の心境は複雑な気持ちだ

 

 しかし、戦いが終わった後も安心できないらしい。提督を初め、父親である博士も艦娘達も502部隊も同じ考えだった

 

 

 

 一方、彩雲の知らせを受けて出撃した川内達は、漂流者を見て愕然とした。自分達と同じ艤装をしている事から艦娘だ

 

しかも、どういう訳かこの漂流者を知っている。何処から流れて来たのだろう?

 

「提督、艦娘が……艦娘が漂流している!」

 

『何だって?誰なんだ?』

 

 驚くのも無理はない。提督もである。その場に五月雨も漣も信じられなかった。こんな事があり得るのか?

 

「分かるよ。だって……神通と那珂だから!」

 

川内はへなへなと座り込んだ。もうすぐ夜になるのに、なぜか喜ぶ気にもなれない

 

 何処から現れたのだろう?建造ユニット以外にも艦娘が現れるのだろうか?五月雨は顔を覆いながら泣き、漣も呆然として海面を見つめていた

 

川内達の近くに眠ったように横たわる艦娘達がいた

 

 

 それは神通、那珂、阿賀野、そして春雨だった。彼女達は、軽巡棲姫達が大破し漂流していた地点と同じところに居た。軽巡棲姫達は何処へ行ったのか、誰にも分らない

 

*1
大和型戦艦は作戦自体は参加したのであって、全く稼働していなかった訳では無い。1944年の「マリアナ沖海戦」で初実戦である。武蔵の初任務も、連合艦隊司令長官である山本五十六の遺骨を母国へ送り届けるというものだった




神通「私は誰?ここは何処?」


次回は最終章です

尚、まだお話は続きますからね。
これで終わりじゃないですよ!
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