その日の夕方、講堂は騒がしかった。机の上には間宮と伊良湖と鳳翔が作ってくれた食事が並べられ、時雨は皆の前で立っていた
挨拶が終わると、皆は目の前の食事を食べたり飲んだりして楽しんでいた。流石に駆逐艦達にお酒は与えていないが、何人かはこっそりと飲んでいる者がらしい。その度に注意はするが、何故か年齢を持ちだされて正当性を主張する始末である*1
「そう言えば、僕が消えてから世界はどうなったの?海外の艦娘がいるって事は人類同士の戦争は無くなったって事だよね?」
時雨は周りの挨拶が終わると、提督に近寄り質問した。確かに海外の艦娘がこれだけいるのも珍しい。ビスマルクやアイオワもいるし、泥酔しているイタリアの重巡もいる。響はソ連の戦艦娘と一緒に話したりしていた本当に第二次世界大戦は無くなったのだろうか?憑依という形で融合したとは言え、この世界での建造から今までの記憶が曖昧だ。また、旧史の記憶の方が刺激が強かったのだろうか?
念のため、明石さんに検査をしてもらったが、異常はないという。ただ、様子を見るため出撃は当分、見合わせる方針にした
「ああ、そうだな。お前は知らないんだったな?」
提督はビールジョッキを置いて話始めた
あの戦いの後、海軍に保護され大本営に連れていかれたとの事だ。と言っても大本営は爆撃されたため、別の施設に連れていかれた。
博士の先輩である元帥が待っており、中佐と博士は有りのまま報告したが、内容が内容の為に混乱したという
提督と艦娘達は丁重に扱われ、後日にて緊急会議が開かれた。
空爆によって国会議員や軍人、役人など大半は死んでしまったため、後任選定に時間が掛かってしまったが
その代わり組織がすっきりしたため、大本営連絡会議の準備は意外にも終わった
副総理を初めとする国会議員数人。帝国軍からは統合参謀長である元帥と陸軍大将と海軍中将(海軍大将は戦死したため)以下数名。皇族から何人か出席された
その人達の前で502部隊と提督達が今回の事件と今後の事を説明したという。余りの出席者に提督は、緊張して早口で話してしまった
艦娘も大和と長門が代表として証言した。慣れているのか、堂々としている
「今回の事件は前列がありません。いえ、深海棲艦以上の事件であることは確かです。何しろ、世界を手中に治めるため、世界各国を火の海にする予定でした」
「一企業が深海棲艦を使って世界攻撃だと?何てこった……」
副総理は頭を抱えた。まさか、浦田重工業がこんな事をするとは夢にも思わなかったらしい。他の人達も同様である
「浦田重工業……いや浦田社長は、世界大戦……第二次世界大戦を止めるために狂気に入ったと?」
「そういう認識で結構です。浦田社長は、平行世界の日本の未来から歴史を見て実行しました。初めは日本を発展させる事によって世界大恐慌や関東大震災などを防ぐ事で世界大戦に巻き込まれないように動いていたのでしょう。しかし、関東軍が南満州鉄道の線路を爆破しようとする計画を知ると……あちらでは満州事変と呼ばれていますが……浦田社長は強硬策に出ました」
陸軍中佐は淡々と述べた。浦田社長の部屋から書類や物品を押収したが、大半は歴史関連の書類ばかりだ
「満州事変が起きる前に関東軍の幹部は次々と不審な死を遂げました。いえ、何人もの軍関係者が亡くなりました。我々の捜査では、浦田重工業の私設部隊の仕業だと断定しました」
「証拠はあったのですか?」
副総理は質問したが、中佐はかぶりを振った
「いいえ、ありません。ただ、当時の陸軍内部ではそういう噂が広まりました。タカ派の人達は、捜査を待たずに部隊を率いて浦田重工業を先制攻撃しました」
「つまり嵌められた、と?」
「残念ですが、そうなります。朝鮮半島も手放され、帝国陸軍は日本に押し戻されました。私は元帥の指揮の下で証拠を掴むため502部隊を立ち上げました」
ここまで伝えると全員がため息をついた。浦田社長が持っていた資料を見たが、どれも驚く事ばかりだったからだ
もし、浦田重工業が存在せず、そして深海棲艦が現れなかったら……
日本は満州事変を起こし、支那事変、太平洋戦争、そして終戦を迎えていただろう
会議室には重苦しい空気が漂っていた。余りにも衝撃的な事実だったからである
「それでは、我々はどう転んでも最悪の事態になるという運命ですか?アメリカと戦争をし、B-29の爆撃によって焼け野原になるか、浦田重工業の策略によって国家が壊滅するか。深海棲艦によって資源が断たれ、国民が飢えるか。我が国である日本は、最善の策を講じる事が出来ないと?」
皇族の一人が呟いた。彼らも見たのだ。平行世界の日本の歴史と浦田重工業の反乱を見れば頭を抱えるのも無理もない
「いえ、違います。確かに過ちはしました」
中佐は力強く言った。中佐自身も初めは、浦田重工業への復讐のために部隊編成したのだ。しかし、事実が明らかになるにつれて、彼もまた考えが変わった。
「浦田社長が掲げる考えも分からない訳ではありません。確かに第二次世界大戦……太平洋戦争の歴史を学び止めるという考えはあったかも知れません。何しろ、彼等の父親には日露戦争で嫌な思い出があったのは確かです。しかし深海棲艦を利用し、世界中の都市を無差別に攻撃、政府高官や軍人や科学者を暗殺などの非道な行為が釣り合うかと聞かれると私はそうは思いません。浦田重工業は非道な行為をしました。それだけは間違えないで下さい」
中佐は一瞬の間、考えた。もし、深海棲艦がこの世界に現れなければ……
平行世界で起こった第二次世界大戦は考えは確実に起こるだろう。それを1人の人間が止められるかと聞かれるノーである
ヒトラーやスターリンなどの歴史に記していたであろう独裁者は浦田結衣が放った深海棲艦によってなすすべもなく死んでいった。深海棲艦による徹底的な空爆と艦砲射撃により、ヨーロッパは焼け野原になり、あのアメリカもロサンゼルスやニューヨークも崩壊したことから、どの国も世界大戦を行う国力も無かった。日本も浦田重工業の反乱や深海棲艦の攻撃によって痛めつけられた
死傷者の人数は計り知れない。その代わりに第二次世界大戦は起こらず、その後の冷戦も起こらないだろう。ドイツや朝鮮半島の分断はなくなり、米ソ間での核開発競争なんて当分の間は起こりもしない
だが、それでこの暴挙は釣り合うのか?別の方法があったかと聞かれたら、すぐには答えられないだろう
どちらが正しいのだろうか?
(いや、これは個人で考える事ではないな)
将校は心の中で呟いた。確かに悲劇を止めるためには強硬で非情な事をしないといけないだろう。しかし、それは余りにも危険な事だ。他人の意見すら聞かずに一方的に決めつけ実行すれば、それ以上の悲劇を招く
「戦後でも日本は奇跡的に立ち直りました。平行世界の日本でも出来たのです。我々もやる事をしなければなりません」
中将は博士と共に浦田重工業にあった資料とディープスロートのノートパソコンにあったデータを見せた
映写機とスクリーンを用意し、解説しながら映写し始めた
吉田茂が戦後の首相を荷ない、復興に努力した事、それはアメリカ依存の経済復興であった事
新憲法で軍備を禁じられたが、1950年の朝鮮戦争をきっかけにアメリカはやはり日本に軍事力が必要な事を痛感し、警察予備隊、のちに自衛隊を発足させたこと
しかし、これは専守防衛の『軍隊』であった事。一方で朝鮮戦争によって所謂、戦争特需をもたらし、それが日本の復興にさらに一役買った事
所謂、保守の55年体制が始まった事。この体制下で経済はじわじわと成長し、60年年代には高度経済を迎える事
90年代のバブルで頂点を迎え失速するまで、日本経済は右肩上がりの成長をつづけた事
まだまだ資料はあるが、この辺りで映像を止めた。これ以上は説明しなくてもいいだろう
「まだ、他に資料もありますが、全て説明すると時間がかかります。歴史資料を全て提出するので研究して下さい」
映像が終わるまで出席者からは夢が覚めたかのように目をしばたたいた
「しかし、この映像は本物であると理解していただきたい。我々の協力者であるディープスロートはある理由があって浦田重工業側につきました。彼は賭けである機械に細工をして我々に浦田重工業の弱点を教えてくれました。彼も平行世界の日本の軍人であり、浦田の暴走を阻止するために戦いました。危機は取り除きました。これからもです。幸いな事に我々は、違う世界の歴史とは言え、未来予測は可能です。浦田重工業の遺産を有効に使い、復興に励むことです。日本が満洲建国せず、中国国民党軍と戦わない。またアメリカと戦争をしないという選択肢も出来る訳です」
「つまり、この膨大な資料は我々の利益となる事とはこの事かな?今後の日本にとっては?」
副総理は尋ねる
「そうです。深海棲艦が出現している中、他国と戦争している場合ではありません。深海棲艦がこの世界からいなくなった後もです。あなた方も中国や東南アジアなどに兵を送り込み、アメリカと戦争し、膨大な死傷者や経済損失を出して国民からの信頼を失いたくないでしょう。違いますか?」
「うーむ」
副総理は唸ってしまった。普段なら弱腰やら売国奴などとレッテルを貼られるだろうが、生憎そんな気持ちにはなれないだろう。浦田重工業の反乱と平行世界の日本の歴史を見せれば、感情的になって批判するのは得策ではない。尤も、東京大空襲や広島長崎の原爆投下の映像を見せられ、ショックを受けたが
「確かに一理あるな」
「戦わねばならぬ戦争ならば、我々は戦う」
陸軍大将はきっぱりと言った
「世界には武力でしか解決出来ない事柄もあるのだ」
「何も日本国憲法のように紛争解決のために軍隊を解体しろ、とは言いません。しかし、中国戦線で日本軍支那派遣軍が中国国民党軍と赤軍相手に10年以上も泥沼の戦いなぞしたくはないでしょう。違いますか?」
「うーむ」
中佐の指摘に大将も唸った。陸軍大将も中国戦線で泥沼化になるなんて思いもしなかったらしい。これでは、無意味な戦争だ。戦後に国民が進駐した米軍よりも軍部を批判するのも無理もないだろう。国民に嘘をついてまで戦争する事は、後で酷い目に合う。資料にははっきりと書いてあるし、浦田社長が大日本帝国軍を嫌うのも分からない訳では無い*2
「それで君達の対価は……」
副総理は出席している大和と長門に目をやりながら言った
ここから先は言わなくてもいいだろう。復興のためには資源が必要だ。日本は国内資源が少ないために、海外から物資を輸入し、製品を輸出しなければ生きてけない国家である。海上交通網であるシーレーンを防衛しないといけない
現在で深海棲艦に有効な攻撃力を持っているのは艦娘である。彼女の力が必要だ
勿論、彼女達を運用には支援やバックアップが必要だ。どんな強力な兵器でも補給が無いと戦えない。軍隊では当たり前の事である
「……分かった」
副総理は答えた。どうやら、この人は頭の回転が早いらしい
「議論は必要だ。と言っても前向きに議論していく。数日すれば返答はする」
会議は終わり、後は待つだけである。大本営と政府がやってくれるだろう
「しかし、大丈夫なのか?」
「心配するな。……多分な」
長門の疑問に提督は答えたが、いささか不安があった。突拍子のない話を政府と大本営が受け入れるか?
長門達もその辺りが不安だった。艦娘の扱いについては、人として扱って欲しいという要望が通って欲しいのもあるが、それ以上に深海棲艦と戦うための条件が通るかが重要である
しかし、その点は国や軍の善意を信じるしかない。尤も、そんな善意を全てにおいてやっている国や組織は世界中を見渡してもいない
艦娘もその点は分かっている。何しろ『艦だった頃の世界』での日本のやり方は知っているからである。連合艦隊の旗艦をしていた艦娘もいたので、その辺りも大丈夫である。但し、そのうちの一人は入院しているが
「俺達は正義感の強いバカではない。しかし、向こうも分かってるはずだ」
流石に政府の役人も今の日本が、どのような状況か分かっている。浦田重工業が崩壊したため、シーレーンは再び失われ、浦田重工業の反乱と深海棲艦の攻撃によって、被害は大きい
こうしている間も、民間人は苦しむばかりだ
その間、提督と艦娘達は艤装の整備保全や運動などを行っていた。資源はないため、最低限のことしか出来ない。皆は不安だったが、提督は楽観的な考えだった
深海棲艦のボスである戦艦棲姫などの姫級は恐ろしいが、決してバカにではない。縄張りの海域に立ち入った者は攻撃するが、陸地には攻撃しない
浦田重工業に懲りたのか、こちらを警戒している。太平洋戦争の米軍では、そうはいかない。徹底的に叩く軍隊だ。皮肉にも敵は人間でないため助かった
一週間もしないうちに元帥を通じて大本営から回答が来た
内容は
『艦娘を海軍の別動隊という形で受け入れる事に同意する。そちらの要望である艦娘を日本人として扱われる事も了承する。他の機関や皇族には、こちらが擦り合わせもあるので、もう少し時間が欲しい』
これが回答であった。時間がかかるのは、役人の悪い癖だが、提督や艦娘にとっては、それで十分だ。とにかく、深海棲艦を倒すため、政府が認めたという事実があればいい
政府か軍か世論が艦娘の存在を認められなければ、艦娘が建造された意味がない。深海棲艦を倒すための戦力である艦娘の意義も失われる
生きるだけなら誰でも出来る。最悪の場合は、日本から離れる事も出来る
「最悪の場合の対処は、どういう根拠で小笠原諸島に逃げるという考えが浮かぶんだ?」
「誰も簡単に来れないからな。そうでもしないと、相手はつけあがるぞ?」
要はアメとムチである。簡単に例えると『国防には手を貸すが、裏切ったら指揮下から離れるからな?』である。軍隊はボランティアでやってる訳ではない。艦娘も同様である
提供された土地は横須賀にある海軍基地である。横須賀鎮守府である。と言っても、浦田重工業の空爆のせいで、廃墟と成り果てていた
施設も半壊であり、地面もクレーターの跡があちこちある
「予想はしていましたが……」
「何処も同じだからな」
浦田重工業は軍施設を徹底的に叩いたため、何処も似たり寄ったりだ
「まずは再建からだな」
その日から全員、土木作業員となった。流石に人手だけでは時間がかかるため、明石は建設機械を数台作った
妖精が運転してくれたため、その辺りは大丈夫だ
次に食料だが、仕入れる業者がほとんど無かった。反乱と爆撃のせいで何処も立ち直っていない
問題はないのだが、このままだと心細い。農作業しようと提案があったが、提督はそんな経験はない。艦娘もである
……いや、一人いた
「耕したぞ?何を植えればいいのだ?」
「……やった事あるのか?」
「『艦だった頃の世界』でな*3」
提督もその場にいた艦娘も呆れていた。艤装を外して麦わら帽子を被って耕す武蔵の姿に、誰もが思った
全然、違和感がない
敷地の一部は広大な畑を持ち、野菜と米を植えた。収穫は先だが、食料不足にはならないだろう
数日後、施設を建て直しは終わった。遠征に行く事にしたが、その前に海域を奪還しないといけない
弾薬も燃料も限られているため演習も満足出来ない。軽巡と駆逐艦だけの艦隊で近海の海域を奪取するしかない。そのため、天龍と龍田は駆逐艦娘と一緒に出撃する日々が続いた。重巡と戦艦、空母は待機続きである
ただ、彼女達も何も暇でやっている訳では無い。大和は皆を集めて砲術や海戦の講義*4を行ったり、龍譲は赤城加賀と共に艦載機の飛行訓練を行った
大淀は元帥と連絡を取りながらリアルタイムで情報交換をし、摩耶は対空射撃を訓練したり、鳥海と古鷹は『艦だった頃の世界』で戦った経験を活かして戦術面を提督に教えていた
一方、提督はというと忙しい毎日だった。装備の開発も、艦娘を召喚する『建造』もしないといけない。女の子である艦娘との共同生活も負担の1つだった
試行錯誤を繰り返し、鎮守府はようやくまともに動き出した。艦娘も増え、戦果も上がった
国内情勢も復興が進みようやく一段落した所で、大本営は艦娘の存在を明らかにした。但し、明らかにしただけであり、艦娘達はマスコミの前には出なかった
民衆が受け入れない事もあるかも知れないという恐れがある事もあるが、彼女は映画のロックスターや有名人ではないのが本音だからである
「アイドル活動してはダメなんですか!?」
那珂だけは不満だったが。艦娘の理論は博士が論文を纏めて公開していたため、学会も認めざるを得なかった。しかし、予想していたよりも反感はなかった
『朗報だ。意外ではあるが、世論は君達の味方をしている』
「本当なのですか?」
『マスコミを上手く使ってリークしたため、大体の事は国民は知っている。中将の論文の件もあるが、浦田重工業が生み出した新型深海棲艦H44改との戦闘を見て感情移入している。露骨に不平不満を言う輩もいるが、少数なので無視していい』
ある日、元帥が電話で朗報を知らせてくれた。長門は驚いたが、元帥は楽しそうに言って来る。その場にいた加賀も大淀もホッとした
「ちょっと待って下さい。中将って……」
『お前の親父さんだ。大本営に報告する将官がいないとダメだろう?左遷も浦田重工業の差し金だから元に戻っただけだ』
提督は愕然としたが、元帥は呆れながら言った
「あの親父……自分も栄転しやがって」
『おい、上官に向かって何を言っとる!?褒めないとはどういう神経しておる!?』
「冗談だよ……良かったな」
浦田重工業の存在が消えた為、こちらのバッシングは無くなったらしい
博士によると日本は元々、神は自然界の様々な物を「
古代日本では『神は姿をもたない』と考えられていた事から、古い神社では山が御神体だったり、岩が御神体という事もあったという。鏡や剣、勾玉など人が作ったものにも神は宿ると考えられ、御神鏡もその一つだという。人にも神は宿ると考えられており、神を宿すことのできる人は『巫女』と呼ばれていたという
付喪神の話も有名でこれは人間が作った道具であっても、愛着を持って長年使っていると魂が宿るという考えだという
普段使っている道具でも長く使っていれば魂は宿る。日本人は物に対する愛着が特に強い民族だからこそ艦娘の存在には抵抗感がないという
『未来の記録での反艦娘団体の存在も恐らくは、浦田重工業が手を加えた組織じゃろう。取引や使役した事もあるじゃろうが、原因を辿っていけば浦田重工業がスポンサーだからじゃ』
「確かに艦娘を攻撃する兵器、地対艦ミサイルもゲリラに渡すために造っていたから間違いないだろう」
未来の記録では、地対艦ミサイルを使った攻撃で艦娘に被害が出ただけでなく、民間人に不信を抱いて関係が悪化したと記してあった。しかし、改変された時間軸ではそんな事は起こっていない。外出した艦娘もいるが、特に何もされてもなく、問題も起こっていない
「しかし、科学者である親父が何でそんな事を知っているんだ?」
『ワシの祖父……いや、代々と言い伝えられた考え方じゃ。深海棲艦と出会ってから科学だけでなく、多神教も僅かながら力を入れていた。古来の人は、分かっていたのだろうかと』
「宗教は切っても切れない存在です。軍艦には艦内神社というのがありますから」
加賀はフォローしたが、提督は首を傾げた。どうも、自分の父親に対する認識が違っていたらしい。確かに事故物件で安く買った別荘を研究所に改装するのもどうかと思うが、完全に無神論ではないらしい
「ともあれ、心配事が減って良かった」
提督は安堵した。どうやら、権力を持つ人が偏見を持つと民衆まで伝染のように染まるらしい。右へ倣えという奴だろう。その病原体がいないため、国民は反感も湧かないのだろう。浦田重工業のシンパも時が経つ事に減っていった事もある
海域を攻略するには戦力が居る。そのためには、新装備と資源の確保が重要である。明石と話し合い新装備の数も充実した。新しい艦娘が現れる度に歓迎会を開いたりして士気を高めた。那珂がステージに立って歌いたいとせがんだのであるテレビ番組の年末の歌合戦に匿名で参加した。一応、人気はあったらしく、広告塔にはなったらしい。本人は一番を狙ったらしいが
地元との交流も特に問題は無かった。周辺住民もそれなりに良好である
やがて、艦娘と提督を護衛する憲兵隊が来ると通達があったので、どんな人達だろうと待ち構えていたら、まさかの502部隊の連中だった
「浦田シンパによるテロがあってはいけないから派遣された」
「本当は?」
「お前達に会いたかった」
陸軍将校はニヤリと笑った。どうやら、これが本当らしい。あの事件の後、人事異動が起きた。浦田部隊との戦いで戦死者が多かったのだから仕方ない
502部隊はしばらくの間、浦田重工業の残存部隊の掃討の任務を受けていたが、暫くしてその任務が解かれた
「浦田重工業は壊滅した。お手柄だった。だが、仕方ないとはいえ、命令違反と破壊活動をした事実は消えない。勲章を受賞した者でもな」
陸軍大将は済まなそうに伝えた。流石に放送局を占拠して映像を流すのは不味かったらしい
「502部隊は別の部署に移される。もう、君達は特殊部隊ではない」
「構いません。罰は受けます。ですが、異動先を選ぶことは可能でしょうか?」
陸軍大将は眉を吊り上げた。此奴は何を言っているのだろうか、と
「何処だ?言って見ろ」
「ある鎮守府の護衛です。海の上の戦いは得意でも地上戦闘は不得意のはずです。深海棲艦と戦える人達がテロによって被害を受けたとなれば、軍の笑い者です」
「幸い、二名ほど艦娘はいます。陸軍も深海棲艦と戦えると証明できます」
陸軍大将は502部隊の将校と軍曹に呆れていた。どうやら、腹は括っていたらしい。陸軍大将はフッと笑った
「……そうだな。確かにあの鎮守府を失ったら痛い。いいだろう」
陸軍大将は言ったが、実は初めからそうするつもりだったらしい。確かに目に余る行為をしたが、彼等は任務を遂行したのだ。処分は、あくまで表向きである
こうして、502部隊は憲兵隊となった。以前とは違って、女性兵士も数人はいるから交流も深まるだろう
海域の確保やシーレーン防衛により、経済の停滞や資源の枯渇は免れた。海外との接触により何とか交渉が出来た。ヨーロッパもドイツを始め艦娘計画は順調に広まっていた。アメリカとイギリスとフランス、そしてイタリアも艦娘建造に成功し早速、出撃しているらしい。近年ではつい最近ソビエト政権が崩壊したロシアでも艦娘建造に成功した。海外も艦娘の抵抗感に対しては特に無かった。尤も、都市部や軍事基地に大打撃を与えられ、深海棲艦がウヨウヨして航路空路が活用できない現状では、受け入れないと言う選択肢は贅沢かも知れない。感情的になっても碌な事にはならないと言う事だろう
アメリカも深海棲艦が攻撃した事により南北戦争勃発の危機があった。何とか回避する事は出来たが、火がついた暴動が収まる気配がない。大統領も『平行世界のアメリカの歴史』と違って別の人が大統領になったらしい。人種問題も取り組むべきだという声もあり、前向きに検討しているとの事だ
寧ろ、深海棲艦を倒してくれたのだから喜んでいるらしい。島国であるイギリスも航路が開けたため喜んでいると言う
しかし、深海棲艦も手強くなり強力な新型の姫級の深海棲艦も確認されている。戦艦棲姫も進化しているとの情報まであった。戦艦水鬼となってコテンパンにやられたらしい。相手も手を招いているだけではない。強くなっていると考えた方がいい
「各個で深海棲艦を撃破しても意味は無い。太平洋にある本拠地とワームホールを何とかしないと」
提督は呟いた。どうやら、浦田重工業を倒したら世界は平和になるという考えは幻想らしい。コンクリート詰めから助けた戦艦棲姫を始め深海棲艦の鬼・姫級は、相変わらず人類に対して冷たかった。艦娘もである
「日本の艦娘だけ戦うのは危険だ」
大作戦の後の宴会で騒ぐ艦娘を眺めながら提督は呟いた。このままだと、敵の思い通りだ
『私達ハ、違ウ種族ヨ?肌ノ色ヤ民族ヤ宗教ダケデ、イガミ合ウ人間ガ、私達デアル深海棲艦ト仲良ク成レル訳ナイジャナイ』
ある日、話し合いが出来ないかとあらゆる手段でコンタクトを取ったが、馬鹿馬鹿しい結果は出なかった。奇跡的に深海棲艦のトップと話す事が出来たが、平行線だった
深海棲艦はこの世界から出て行かないらしい。元々、海水に棲む生命体であるため、この世界が気に入っているのだ。人類と交流したくない
「しかし、浦田重工業のような考えでなくて良かったですね」
「……戦争が泥沼化になりそうだ」
大和は慰めるように言ったが、提督は首を振った。平行世界で起こったベトナム戦争になりかねないと危惧はした。尤も、深海棲艦は人類と講和を結ぶ意志なんてないのだから。人間のように反戦意識というのは無いらしい
「どうしたものかな?」
提督は呟いた。日本だけでは負担が大きすぎる。敵陣を叩く方が有効かも……
「それで海外の艦娘を受け入れたんだ」
宴会の席で時雨は言った。浦田重工業がいないとここまで変わるものなのか?
「日本だけ真面目に戦っても意味がない。派遣としてここに来ている。ヨーロッパは数人の艦娘を寄こしたし、アメリカも日米交流という名の下で派遣した」
提督はビールを飲みながら説明した。扶桑山城から聞いたが、働き過ぎて体調を崩した事は何度かあるらしい
「深海棲艦は不定期だが、大艦隊を編成してこちらに挑む事が何度かあった。新型の深海棲艦の目撃情報もある。深海棲艦も変わっている」
「まだ平和ではないんだね」
時雨は残念そうに言った。浦田重工業を倒すために塞いでいたワームホールを開く。元は提督の案だったが、あの時は提督や博士だけの戦力で浦田重工業に挑むのは困難過ぎた
「浦田重工業を倒すのに深海棲艦のボスを利用したなんて大本営はよく納得したね」
「まあ、あんな兵器を保有している相手に対してそんな悠長な事をする訳には行かないからな。……正直言って、浦田結衣がマトモでなくて良かった事にホッとしている」
提督は無表情になった。あの戦いの後、残骸を探すため東京湾海底の調査を実施。浦田結衣の遺品であるF5UフライングパンケーキとF6Aフライング・フラップジャックの残骸の回収に成功。架空兵器とは言え、レシプロ機であるため復元をして徹底的に調べた。操る人がいないため性能は落ちているものの、それでも烈風と互角に戦える艦戦である事には間違いないと結論付けた。アイオワもサラトガもF5Uを見て驚いていた。敵がF5Uを製造するとは思わなかったらしい
鹵獲した円盤航空機は、半分は記念用として保管し、残りは演習用の汎用機として専ら使っていたが、やはり最終決戦を忘れられないものらしい。空母組は円盤航空機との演習で負けは許されないという謎の掟が出来たお蔭で五航戦も雲龍型も軽空母組も振り回された。敗北すると加賀にしっかりと絞られた
伊勢日向も航空戦艦の艦載機がこんな高性能である事に対抗意識を燃やしてしまい、瑞雲を改修できるよう明石や夕張に無理を言ったらしい。改修というのは聞こえがいいが、実際は魔改造に等しい
とりあえず、水上戦闘機である二式水戦改と強風改、六三四空仕様の瑞雲を提供する事で納得してもらえた。扶桑山城も瑞雲12型が支給された事により喜んだという
50.8cm主砲もレーダーも対艦ミサイルも見つかったが、薬の作用のせいか、完全に錆びて劣化していたため使い物にならず、地下に保管された。AV-8ⅡハリアーとYakー38も見つけたが屑鉄と化してしまったため、復元される事無く地下に治められた
ただ、何もしなかった訳でもなく電探の改修や噴式の開発につながったため無駄ではなかった。摩耶と秋月達も対空兵器の改修には喜び、防空艦として活躍した
「敵は恐ろしく強かった。歪んた精神の持ち主だったが、馬鹿では無かった。もし、空母やイージス艦などになったしたら……いや、あのまま進化すればどうなっていたか検討もつかない」
「勝てたのはまぐれだったのかな?」
時雨は自信なさそうにいった。結局は運が良かっただけなのか?
「そうではない。これは偶然ではない。『運が良かった』と片付けるような事象ではない」
提督は時雨の肩を優しく叩いた。悩む必要はないのだから
「それはそうと、戻って来て早々だが、ある作戦を行う予定だ」
「作戦?」
何か大海戦が起こるのだろうか?深海棲艦との戦いはまだ続いている。戦艦棲姫が新型のボスと共に身構えている事だろう
「そんなに身構えなくていい。海戦ではない。ある人物と出会うための任務だ」
「ある人物?」
「元帥が逮捕した浦田重工業の人が多過ぎて対処に困っているらしくな。その解決策として親父はあるものを造っていた。数日前に完成したと言って来たから任務は近いうちに発令される。丁度、戻って来たんだ。ある人物に会いに行ってもらいたい」
提督はニヤリとした。ある人物とは誰だろう。しかし、提督はお楽しみだ、と言って席を立ち足柄達の方へ向かった。時雨は追いかけようかと迷ったが、今はそんな事は後からでも出来る。時雨も駆逐艦娘が集まっている所へ向かった。何故か長門も混じっているが気にはしない
笑い声と歓声が響く宴会場。戦争中だが、破滅した未来よりかはマシだ。時雨はこの世界が好きになった。皆と一緒にいられるのだから
おまけ
長門「私、なにもしていないが!大和も武蔵も戦闘以外でしっかりと働いているのに!」
提督「秘書艦にしたのだからいいだろう」
長門「アニメの設定を持って来ただけじゃないか!」
長門は絶叫したという。明石と夕張に遠征出来るよう大改装してくれないかと話をもちかけられたという
夕張「改二は駆逐艦の主砲や大発が積めます」
長門「おお、そうか!楽しみだな!」
明石(燃費の関係で提督は遠征なんてさせない……なんて口が裂けても言えない)
世界情勢
ヨーロッパ……浦田重工業による深海棲艦の攻撃により焼け野原。独裁者も死んだため第二次世界大戦は行われなくなった
チャーチル「ワシの出番は!ワシは!?ヒトラーがいないからワシは全く活躍出来ないのではないか!?」
チャーチル……暗殺はされなかったものの、普通に生きて普通に暮らしたという。首相にもなれず。本人曰く、深海棲艦は専門外との事
東南アジア・アフリカ……浦田重工業が崩壊したものの、独立運動は続いた。深海棲艦がいるお蔭でヨーロッパは植民地を手放す事に成った
中国……群雄割拠しており、内戦は続いている
中国「蒋介石も毛沢東もいない。日本も攻めて来てくれないし……どうしよう」
ロシア……浦田結衣が軍部や政治家を一掃したため、政権は維持できずソ連は崩壊。後に建造して召喚されたガングートとタシュケントはバーに行ってお互い泣いたと言う
アメリカ
米帝は伊達でなく、時間があれば都市も軍も再建は可能だが、米政府は保たなかった
トルーマン大統領「深海棲艦によって軍も都市も工場も壊滅だと……。黒人もインディアンも反乱は起こるし、主要政治家も軍人も殺されまくるし」
海軍元帥「もはや日本と戦争を行うのは不可能です」
陸軍参謀総長「もはやこれまでです。オレンジ計画は夢物語です」
トルーマン「アメリカは太平洋戦争に勝利するハズだった……。それなのに、あの車椅子の大統領は死に逃げおって!」
秘書官「大統領閣下、1935年からやり直すしかないありません……」
国防長官「はいはい、トルーマン大統領……戦後処理です」
トルーマン「畜生めー!!」
半壊したホワイトハウスからは悲鳴が鳴り響いたと言う……
浦田重工業との戦いから4年間をまとめた歴史です
簡略ですが、世界はある意味、平和だった。しかし、傷口は大きく未だに立ち直る国も少なくないというのが本音です
艦娘については浦田重工業の資料と引き換えに人権獲得したという事です
まあ、これは私の考えもありますが、異世界召喚された主人公が突然「貴方は勇者です。魔王を倒して」と言われて、どうして主人公は「わかりました、任せてください」とそれに従うのかに疑問を持ったからです
作品によっては違いはあるものの、「困ってる人を助けようぜ!」と言い出してなし崩し的ってのが多いような気がします
……ちょっと、ありえませんよね?
見知らぬ異国に誘拐されて「はい助けます」って主人公さん、実は召喚先の王国のエージェントかなにかですかね?
エージェントならそうやって思考誘導する展開は納得できますが、違うなら誘拐されて誘拐犯に協力する理由が無いと思います
よく艦これ二次の(特にブラック鎮守府SS)は提督がブラックにも拘わらず、操り人形のように素直に従い、反発しないのかに疑問を持ったりします
なので、人外にしろ何にしろ、何かしら取引あったから日本に暮らせるのではないか、と思ったりします。まあ、日本も魂が宿るという考えはあるため抵抗感はないかと。ドラえもんだってロボットなのに作品内外では誰も機械呼ばりはしません。露骨に嫌う人はいないでしょう。そんな感じです
海外?大丈夫なのではないでしょうか?『トランスフォーマー』や『アイアンジャイアント』のような感覚で接しているかも知れません
次回は『あの人』が出ます