時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

112 / 120
無事に銀河を手に入れ、バレンタイン限定任務も終了
陸奥改二もある事から大改修するための資源と必要であろう設計図は既に準備済み

陸奥改二はどんな容姿かと思っていたが、メディアミックス雑誌の広告の表紙に陸奥改二の姿が
容姿はネタバレしても問題なのかな?


第112話 鎮守府の一日

 僕は白露型『時雨』。建造されたのが遥か昔のような気がするけど、鎮守府に着任したのは最近のような感覚がする

 

 建造された時の失われた未来では、鎮守府ではなかったし、タイムスリップ先では艦娘計画を手伝ったり、悪徳企業と戦ったりでマトモな日々では無かった

 

改変された時間で建造されてから憑依するまでの記憶は覚えているけど、どうも欠落している所がある

 

でも、気にする事は無い。僕はまだ存在するから

 

 

 

 平時の鎮守府は平和だった。深海棲艦との戦いもいざこざのようなものなので、失われた未来の戦争より全然忙しくない

 

代わりに別の事で忙しかった

 

 鎮守府の朝は早い。起床時間は朝の六時。夏であるため、既に太陽は昇っている。起床ラッパが艦娘達の寮に響き渡ると、ざわざわと騒ぎだす

 

百を超える艦娘がいるのだから無理もない

 

「ちょっ、まっ……!時雨、早くない?」

 

 時雨はラッパが鳴るのを聞くと、直ぐにベットから飛び出し、身支度をしていつでも出れる。余りの速さに一緒の部屋に居た村雨と白露も驚く。夕立は……まだ寝ている

 

「一番は白露なのに!」

 

「一番よりもまだ寝ている夕立を起こさないと。起きて!」

 

「むにゃむにゃ……ぽい」

 

時雨はまだベットに寝ている夕立を起こそうとするが、本人は起きる気配がない

 

「夕立、起きよう。朝の点呼が始まるよ」

 

「眠いっぽい」

 

「長門さんに怒られるよ?」

 

「それは嫌っぽい!」

 

長門の単語を聞くと、夕立は起き上がった。何か嫌な事でもあったのだろうか?今日の当直は長門と古鷹だが

 

 

 

廊下には既に他の駆逐艦娘達が、バタバタ速足で歩いて行く音と足音がした

 

「あー、めんどくせー。人数確認なんて他のやり方あるだろ?」

 

「本当よねえ。暑さでお肌が汗でべとべとになっちゃう」

 

「もう、他の子も出たよ!急いで!」

 

朝なので不平不満言う子もいる。しかし、やはり早い所は早い

 

 外は戦艦、重巡、軽巡と艦種ごとに定位置に並んでいる。駆逐艦娘が多いため、全員集まるのに他の艦よりも時間がかかった

 

「気をつけ!」

 

赤城が号令をかけると全員が背筋を伸ばして気をつけをする

 

 今日の当直である長門と古鷹が整列する艦娘の前に立ち、点呼の報告を各艦種から受けていた

 

 

 

「潜水艦寮、総員9名、事故無し、現在員9名」

 

潜水艦娘の報告が終わると長門は朝礼台に立った

 

「諸君、お早う!現在において傷病扱いによる欠員はいない!四か月前の海戦以来、大海戦が行われていないが、敵はいつ襲って来るか分からない!常に気を引き締めろ!私から以上だ!これより、朝の体操を行う!」

 

「はい!」

 

艦娘達は一斉に答えると、運動場に広がって朝の体操を行った

 

 

 

 

 

朝礼が終わり、朝食が済んだ後は勤務である

 

 主なことは海域のパトロールとシーレーン防衛である。時折、深海棲艦の小規模艦隊に出くわすが、追い払う

 

 中には、空母戦艦を中核とした艦隊も出てくるが、こちらもそれなりの艦隊を編成して迎え撃った

 

 潜水艦警戒のため、対潜哨戒機である東海はひっきりなしに飛んでおり、届かない海域は、大鷹から放った対潜哨戒機(931空)が飛び、軽巡駆逐及び海防艦がパトロールしている。

 

 こちらも潜水艦娘を出して哨戒に当たっているが、敵も黙ってはいない。小規模ないざこざが起こっている

 

 

 

遠征組と出撃組が出発すると、他の艦娘は待機である

 

 勿論、何時でも出撃出来るよう準備を整えているが、何時までも緊張し続けると疲れる

 

 大抵は暇潰しで本を読んだり、小さなゲームをしたり、お菓子を食べたりしている。待機室には、ソファやテレビがあり、キッチンまである。飲み物も海外の艦娘が来てから品が沢山ある。日本茶から紅茶、コーヒーまで。流石に飲酒は禁物だ

 

「隼鷹、イヨ、ポーラ。隠し扉に隠していたお酒は、没収した。……土下座しても返さんぞ。飲んでいい時間は、勤務が終わってからだ。飛鷹、手を貸してくれ」

 

 提督の前に土下座をする2人だが、提督は飛鷹と共に隼鷹を引きずって行った。伊14は部屋の片隅に伊13に絞られている

 

 

 

 そんな感じの鎮守府だ。数ヶ月前までは大規模な作戦を行った事もあって今は落ち着いている

 

「……」

 

「時雨、落ち着きがないっぽい」

 

 今週の時雨は待機に割り当てられ待機室にいたが、落ち着かない。皆は落ちついているのに

 

 金剛型姉妹は長女である金剛がいなくてもティータイムで姉妹と共に紅茶を優雅に飲んでいるのに、時雨はお茶を僅かに飲んだだけだ

 

いや、他の艦娘もまったりしている

 

(平和過ぎる……)

 

 勿論、平和が第一なのはいい。常に敵の強さにびくつく必要はないし、空襲もない。異様な戦艦ル級改flagshipに誘拐される心配もない

 

だが、どうも落ち着かない

 

「本当に大丈夫?」

 

「カルチャーショックという奴っぽい」

 

 姉妹も心配している。時雨は曖昧な返事をしていたが、やはり誤魔化せない。彼女は数日前までは戦争の世界と強敵との戦いを経験したからだ

 

いきなり、平和の世界に放り投げられたのも同然で落ち着きがない

 

「大丈夫だよ。直ぐに慣れるって」

 

「う……うん」

 

時雨は無理に笑った

 

「五月雨と涼風と江風、そして海風は出撃したんだね。大丈夫かな?」

 

「心配しなくていいわよ。練度も高いし」

 

 村雨はなだめる様に言ったが、やはり時雨は心が晴れない。妹たちが心配だからではない。白露型の姉妹達も練度は高い。夕立や村雨だけでなく、江風も改二である。最近では、白露姉さんも改二の改装も上がって来ていると言う。仲間の実力も知っている。しかし、どうもこの世界には馴染めないのだ

 

 皮肉にも絶えず襲って来る強敵の世界に居たことに慣れてしまった時雨にとっては、とても平和過ぎた。喜ぶべきだが、何故か喜べない

 

(悩んでも仕方ないね……)

 

時雨はお茶をお代わりしに行った

 

 

 

 港では出撃組がイラついていた。遠征組はとっくに出港しているのに、出撃組はまだ海に出ていない。それもそのはずで1人足りなかったからである。制空権を取るために欠かせない軽空母である隼鷹が来ていなかったからである

 

「ゴメン。待たせちゃった」

 

「遅いデース」

 

 金剛は呆れたように非難したが、本気で怒らない。というのも、隼鷹の性格は皆が知っているからである。なぜ、反省をさせないかというと隼鷹は実力があるからである。改二である事もあり、艦載機の保有数も多い

 

唯一の難点は低速だが、余程の事がない限り支障はない

 

「出撃時間はとっくに過ぎているのになにやっているんだ?」

 

 遠征組の見送りに来ていた天龍は呆れていた。出撃組もいたので見送るために待っていたが、待ちくたびれていた。実はこれは初めてではない。大抵、起こっている事だからだ

 

『破滅した未来の世界』だったら、そんな悠長な事はしないだろう。しかし、『改変された世界』ではそんな事は起こらない

 

 深海棲艦は確かに厄介だが、浦田重工業のような邪悪な事はしていない。少なくとも無差別攻撃や艦娘拷問などはしていない

 

 陸地に興味がないどころか世界征服なぞ興味は無い。博士の言う通り、ただこの世界に住み着くために侵略しているらしい

 

 それでもこの世界、特に人間の交渉は全く譲らない。浦田重工業でなくても敵は敵である

 

「では、出発デース!」

 

 金剛は手を伸ばすと出撃した。さっさと任務を終わらせて無事に帰ってくること

 

それだけだ

 

 

 

「ナイス、五月雨!調子いいじゃん!」

 

 敵艦との交戦が終えた後、涼風は五月雨に声を掛けた。今回は五月雨が大いに活躍していた

 

 海域をパトロールし敵と遭遇したら攻撃。連続連勝で陣取っていたボスまで撃破した。敵はボスがやられると逃走した。敵に大ダメージを与えたのに対して、こちらは金剛中破、隼鷹大破。海風は小破。江風はダメージをわずかに受けただけだ

 

後は撤退するだけだが、敵の追撃もないため慌てる必要もなかった

 

「良かったら食べてよ。せっかく持って来た戦闘糧食。隼鷹スペシャルだよー」

 

隼鷹は口にしなかった戦闘糧食を五月雨に渡した。士気を高めるために戦闘糧食であるおにぎりも振る舞っていたが、口にする必要は無かったようだ

 

「え?いいのですか?」

 

「いいって」

 

 隼鷹はそう言うと金剛と一緒に鎮守府に戻る。彼女達は入渠が必要だ。護衛として海風と江風は付き添っていた

 

 海域に残っていたのは、涼風と五月雨だったが、涼風はおにぎりを食べるよう薦めた

 

「私達は報告書を書かないと」

 

「五月雨、久しぶりの出撃じゃんか。時雨姉もあんな感じだし」

 

 『破滅した未来』から来た艦娘のお蔭で世界が救われた。その艦娘は時雨らしい。建造された時からそんな噂が広まっていた

 

 青葉新聞が掲載された時は呆れていたが、どうも本当らしい。そして、噂は本当だった

 

 宴会した日、時雨の様子は違った。いや、振る舞いや性格は時雨だ。ずっと一緒に過ごして来たのだから分かる

 

 しかし、明らかに違う所があった。時雨から発する威圧や覇気は、以前と違って比べものにならない。また、戦い方に無駄が無かった

 

 時雨が参加した演習を見たが、駆逐艦娘達は驚嘆した。彼女が撃つ砲弾や魚雷は的確に当てて来る。攻撃を受けても全く怯まず、まるで後ろにも目があるのかと思うほど避けるのだ

 

 一緒に参加していた戦艦扶桑山城も時雨の戦闘能力に驚き、相手をしていた練習巡洋艦である鹿島もオロオロする始末だ

 

しかし、演習が終わって周りが駆けつけて褒められても時雨はニコリともしない

 

 

 

「多分、後遺症だろう。今まで恐ろしい世界に居たんだ。いきなり平和な世界に放り込まれたのだから無理もない」

 

 時雨を除く白露型と西村艦隊の艦娘を集めた提督は、時雨の様子を説明した。やはり、時雨の様子に心配したのだ

 

「時雨は毎晩、うなされているっぽい」

 

「私なんかは、病人を見るような眼を向けて来るのよ。……気遣ってくれるのは嬉しいけど」

 

 夕立は心配そうに言い、山城はため息をつきながら答えた。……しかし、山城は過剰に心配してくれる時雨にどうも不快ではないらしい。他の艦娘も似たような報告をしてくる

 

(……無理にして戦ったんだ。戻って来た事でぶり返したのだろう)

 

提督も時雨の症状は何なのかは分かる。戦争後遺症である*1

 

 艦娘は軍艦の魂が宿った生命体。そのため戦闘能力は高く、精神ダメージによる耐性は高い。実際に海防艦は見た目は幼女だ。そんな彼女でも敵潜水艦相手に戦っているのだから大したものである

 

 勿論、精神ダメージによる耐性は高いだけであって、完全にダメージを受けないとは限らない。浦田結衣からひどい目に合わされた大淀はしばらくの間は、戦う事が出来なかった

 

 ふぐ毒を受けた龍譲と古鷹はふぐを食べる事が出来ず、霧島と鳥海は精神トラウマを受けていた

 

 幸い、症状は軽かったため一ヶ月すれば治った。症状が重かった大淀は、戦闘任務から解いた。彼女は専ら、通信要員として働いていた

 

……中には全く精神ダメージを受けなかった者もいた。龍田と天龍は砲雷撃戦だけでなく剣術にも励み、川内は神通が呆れるくらい夜戦に執拗し、武蔵は筋トレに励むために筋トレマシーンの購入をせがまれた

 

当然、筋トレマシーン購入は却下したが(それでも諦めずに自費で買ったという)

 

 しかし、時雨の症状は大淀よりも重い。あのような過酷な任務を受けたのだから無理もない。しかも、自力で抑えているのだ

 

「恐らくですが、他の艦娘達の前には弱音を吐かないというプレッシャーがあるのではないでしょうか?」

 

「……症状があるのに、自ら抑えているなんて」

 

 明石の指摘に提督は困惑した。普通の人間なら精神病院に送るレベルだと言う。しかし、時雨は上手い事隠しているのだ。明石が言うには、例えフラッシュバックが突然起こっても彼女は平気なのだと。それも普通に振る舞っている。こんな芸当が出来るのは並大抵の人では無理だ。艦娘でもいないだろう

 

「『艦だった頃の世界』のように荒っぽい手段をやる訳にはいかない」

 

 提督は呟いた。実は提督が言う荒っぽい手段と言うのはドラッグ、つまり薬物治療の事である。『平行世界の歴史』においても第二次世界大戦やベトナム戦争では実際に行われた

 

 旧日本軍は、特攻兵士に猫目錠と呼ばれる高揚剤を支給した。これを飲むと恐怖心が消えて、夜目が効くようになる事から呼ばれた。猫目錠と如何にも魔法薬のように聞こえるが、その正体は覚醒剤である

 

 連合軍もコマンド兵士にはベンゼドリンという精神高揚剤を支給した。聞こえはいいが、これも覚醒剤の一種である

 

 ベトナム戦争では、ヘロインやマリファナが米軍の間で蔓延した。これは軍が支給した訳ではないが、戦意の失せた兵士を戦わせるために黙認した

 

 このため、復員した兵士達は後に深刻な後遺症……ドラッグ依存症に悩まされる事に成る*2

 

 しかし、まさか艦娘相手にこういったドラッグを使う訳にも行かない。人道的にも反するし、組織は機能しない

 

「メンタルケアさせるしかないな。こちらも時雨に任務を与えないようにする。お前達も気遣ってくれ」

 

 本来なら入院は必要だろう。他の艦娘に影響が出るからである。しかし、当の本人は弱音を誰であろうと全く見せない。無理強いすれば、逆効果だ

 

 

 

五月雨は先日の話を思い出していた

 

(時雨姉さんの分まで頑張らないと)

 

 あの日、時雨は消滅した。彼女は一晩中泣いていた事は覚えている。そして、奇跡的に戻って来た

 

だが、彼女の心は壊れそうだ。下手をすると戻って来ない可能性がある

 

「そんなに考えても時雨姉は大丈夫だって。明石も提督も気遣っているんだから。悩み事はせずにあの岩場でゆっくり食べてなよ。あたいはその辺をチャチャと哨戒してくっからさ」

 

 涼風は岩場を見つけると、座って待っているように言う。五月雨は一緒に行こうとしたが、涼風は既に哨戒に行ってしまった

 

(はあ……)

 

 帰り分の燃料もある。弾薬もあるため、奇襲があっても反撃は出来るし逃げる事も出来る。仕方なしに岩場に座ると竹皮の包みを解いた

 

「おいしい♪」

 

 五月雨は戦闘糧食であるおにぎりを食べていた。戦闘糧食を作っているのは長波と阿賀野だ。提督か鳳翔のどちらかが提案したらしいが

 

「あれ?1つ多い?」

 

 五月雨は首を傾げた。鎮守府の戦闘糧食であるおにぎりは、竹皮の包みの中には三つ入っている。しかし、隼鷹から渡されたおにぎりの数は四つあるのだ

 

「食べていいのかな?」

 

五月雨は最後の1つのおにぎりを口にした

 

 

 

「ただいまーと……え?」

 

 数十分後、哨戒を終えた涼風は岩場に戻った。五月雨はもうおにぎりを食べ終えた事だろう。あまり長く留まると怒られてしまう

 

涼風は五月雨を迎えに来たが、何かおかしい。岩場に誰かが倒れている

 

それは……

 

「五月雨ー!大丈夫か!?」

 

 涼風は驚愕した。五月雨がぐったりと倒れていた。慌てて近寄って声を掛けたが、返事は無い

 

「息はしているから生きているけど」

 

 しかし、五月雨の顔は赤い。息も荒く、まるで病気にかかったようだ。何だ?深海棲艦の攻撃か?そんな兆候は無かったが

 

 

 

「どうした?何があった?」

 

「分かんないよ。休憩中に周囲を警戒して戻って来たら五月雨が倒れていたんだ!」

 

 五月雨を曳航し、鎮守府に戻って来た涼風は助けを呼んだ。直ちに長門達は駆け寄り状況を聞いたが、分からないと言う

 

「戦闘終了後に起こったよね?不調は艤装と身体……どちらなの?」

 

「それも分かんない!隼鷹さんに貰ったおにぎりを食べてただけだもん!」

 

 涼風はオロオロした。五月雨の様子が明らかにおかしい。白露達も駆けつけたが、やはりどうする事も出来ず涼風と同じく混乱していた

 

「何があったんだよ?」

 

白露はぐったりする五月雨を見て唖然とした

 

「もしかして……毒攻撃?」

 

「浦田結衣が生きていたのか!?」

 

「おい、落ち着け。ふぐ毒の症状とは違う。それに勝手に決めつけるな」

 

 霧島の疑問に長門が反応するが、提督は制した。軍医に頼むべきだが、生憎502部隊の連中は旅行に行っていた。少数の警備要員しかいない

 

 提督は軍医ではないが、龍譲などふぐ毒を受けた艦娘を目の当たりにしたことからふぐ毒攻撃は否定した。違いが大きすぎる。また、浦田結衣が生きていた説は避けたかった。噂にすると問題が起こるからだ

 

「待って、時雨。出撃しなくていいから!」

 

「扶桑、どいてよ!僕の妹がやられたんだ!」

 

 過剰に反応する艦娘がいた。言うまでもなく、時雨だ。体調不良を攻撃を受けたと思ったのだろう。艤装を取りに行こうとする時雨とそれを止めようとする扶桑との間でいざこざが発生した

 

「何で、浦田結衣が生きていると思った?」

 

「……ゴメン。てっきりアイツの仕業かと」

 

 天龍は時雨を見て提督に謝った。鎮守府内では冗談で浦田重工業の噂を流したりしていない。ふざけている青葉もである。時雨に配慮しているためだ

 

 だが、目を離したすきに五月雨が倒れたと聞かされては、真っ先に思い浮かぶのは敵の攻撃。天竜はそれしか考えられなかったのだ

 

一方、出撃から帰って来た海風達は泣いていた

 

「五月雨は大丈夫なのか?」

 

「姉貴は死んじまうのかい?」

 

「ヤダー!ヤです!」

 

「落ち着け。心配するのもいいが、お前らも煽るな」

 

 提督は落ち着かせようとしたが、騒ぎが収まる気配がない。討伐しようと提案する艦娘まで現れる始末だ

 

(落ち着け。あの時とは違う。パニックになってはならない。まずは五月雨に何があったのか突き止めないと)

 

 提督は医務室に五月雨を運ぼうとした時、彼の鼻にある匂いがした。しかし、それは五月雨から出る匂いにしてはおかしい。あってはならない匂いだ

 

(え?もしかして……涼風は確か隼鷹からおにぎりを貰ったって言ってたな)

 

 提督の疑念は確信へと変わった。そうとしか考えられない。と言うより、隼鷹は何をしている!

 

「おい、心配するな。五月雨は大丈夫だ。病気にも毒にもかかっていない。酔っただけだ!」

 

「「「「え?」」」」

 

 あれだけ騒がしかった港は提督の怒鳴り声で一瞬にして静まり返った。予想外だったのだろう

 

「酔った?船酔い?」

 

「涼風、五月雨は隼鷹からおにぎりを貰ったって言っていたよな?」

 

「う……うん」

 

涼風はゆっくりと頷いたが、提督は呆れたままだ

 

「隼鷹は酒を隠し持って出撃していた事があって厳しく取り締まったんだ。だが、あいつはずる賢くてな。酒粕を大量に漬けた奈良漬けを作って戦闘糧食と一緒に詰めて持って行った事があった。後でしっかりと叱っておいたが、あいつ懲りずに*3

 

「え?では、五月雨は?」

 

時雨は五月雨を見ながら聞いた。まさか五月雨は……

 

「ただの酔っ払いだ」

 

「酔ってないよ~。ていとく~、らいじょーぶ」

 

 五月雨は目を覚まし立ち上がったが、何と笑っていたのだ。しかも、呂律が回らないため何を言っているのか分からない。フラフラと今にも転びそうだ

 

「「「「えー!」」」」

 

 皆は驚いた。奈良漬けを食べて酔っぱらった事もあるが、五月雨の姿にも驚いた。ここまで陽気な五月雨はお目にかかれないからだ

 

「あれ~?提督が3人いる~?」

 

「いや、居ないから!」

 

 駆逐艦達は慌てて五月雨を快方しようとするが、本人は酔いつぶれている。正常な判断は出来ない

 

「ど、どうすればいい?」

 

「江風、落ち着け。誰か飲み水を持って来させろ。後、隼鷹を風呂から引きづり出して来い。高速修復剤の使用も許可する」

 

「そちらは大丈夫です。既に夕張と飛鷹が浴場へ向かいましたから」

 

「そうか」

 

数分後、夕張と飛鷹は隼鷹を連れて来た。隼鷹は訳が分からず引き連られていたが

 

 

 

「報告書きっちり書けって言われちゃった」

 

 涼風は出撃の報告書に唖然としていた。何しろ、通常の書類と違って詳細項目が多い。被弾箇所、被弾数、敵の艦種などを記載しなければならない

 

「ここまでやる?」

 

 しかも、午後の秘書艦業務の作業まで分担するよう言われたのだ。書類の量が多く、とても半日でやる作業には見えない。村雨も呆れるしかなかった

 

「皆、力を合わせれば出来るから」

 

 時雨は早速、書類に手を付けたが、他の白露型は困惑した。白露型全員でやってもいいと言われたが、やはりデスクワークの仕事は疲れる。出撃や遠征とは違うエネルギーが必要だからだ

 

「それにしても五月雨は凄いね。こういう書類も一杯書いているんだ」

 

五月雨は初期艦の事もあり、秘書艦に就いた事は何度もあるらしい。ドジっ子だが、仕事はしっかりやっているという

 

「あれ?時雨姉さん、さみたれの事、ほめた?ほめたー?照れちゃう~」

 

「う、うん……」

 

 五月雨も一緒に椅子に座っているが、やはり酔いは覚めないらしい。寝るよう言ったが、本人は寝ないどころかはしゃいでいる

 

どうも、五月雨は酔うとこうなるらしい

 

「だって~、時雨姉さん。大変たったんれしょ~。五月雨も負けないように頑張ってましたから~」

 

 後で聞いたところによると五月雨はあの日、時雨が消滅した日、隠れて泣いていたと言う。しかし、次の日からは鎮守府を立ち上げるために働いたと言う

 

「ごめんね。心配かけちゃって」

 

 時雨は呟いたが、五月雨は酔っているため聞こえないだろう。白露達はどう反応した

 

らいいか分からず、重い空気が漂っていた

 

「五月雨を一人にしたのはあたいのミスだ。だから、気にする事は無いって」

 

「実は金剛さんから間宮券を貰ったの。終わったら全員で行きましょう」

 

涼風が責任は自分にあると言っている中、海風は間宮券を見せびらかせた。いつまでも雰囲気を暗くするわけには行かない

 

「本当に!?」

 

「よっしゃ!いっちょ頑張るか!」

 

その場にいた白露達は目を輝かせた。間宮券はこういった時に使えるらしい

 

「時雨姉さんも一緒にな」

 

「いいの?僕は……」

 

「いいって。姉妹だろ」

 

 涼風は気前よく言ったが、やはり時雨には気を遣っていた。提督の言う通り、時雨はちょっと危ない。『破滅した未来』を経験したからだろう

 

 だったら、自分達が出来る事は一つだ。ここでは、これが鎮守府のやり方だと。時雨に必要なのは、時雨を安静にさせる事。それが必要だ

 

「ありがとう」

 

時雨はニコリと笑った。時雨は思った。この日常は夢ではないと

 

 

 

「もう!何であたしはこんな事を!」

 

「なぜって原因は貴方でしょ!」

 

嘆いている隼鷹を見て、飛鷹は叱り飛ばした

 

 2人がいる所は、演習場。隼鷹が酒入りの奈良漬けを五月雨に食べさせた罰である。罰は練度向上。どんな手段を使っていいから演習に勝つことである

 

その方法とは……

 

「あ、パンケーキが飛んでいる!」

 

「だから、敵機ですって!さっさと飛ばす!」

 

 それは艦戦であるF5Uフライングパンケーキと艦爆であるF6Aフライング・フラップジャックの編隊を8割以上倒す事である

 

 要は空襲の被害を抑える事が彼女達に与えられた任務である。演習と聞こえはいいが、実際は反省任務である

 

「あ!烈風と零戦21型を間違えて持って来てしまった!」

 

「ちょっと!なにやっているの!?」

 

 隼鷹の悲鳴に飛鷹は愕然とした。飛鷹は元々、無関係なのだが、連帯責任として参加させられたのだ。だから、艦戦しか積んでいなかったが、艦戦を間違えたらしい

 

「形どころか色すら違うのにどうしたら間違えるのよ!」

 

「お説教はいいから、敵機が!もう近くに!」

 

 F5Uは隼鷹の零戦を蹴散らし、F6Aはその隙に急降下爆撃を開始する。慌てて回避しようとするが、間に合う訳がない

 

 

 

「では、もう一度。艦載機の交換を認めますから、あの編隊を倒しなさい」

 

監督は提督ではなく、加賀である。あまりの呆気ない敗れ方に加賀は内心怒っているようだ

 

「8割叩き落せって40機中32機も撃ち落すのは難しいぞ」

 

提督も呆れたように言う。空戦において、味方の損失を抑えて敵をなるべく多く叩き落とす。敵も当然、対策されているため、敵の損害は5割与えれば十分と見ている。勿論、敵の練度が低かったり、装備が劣悪だったりすれば8割以上の損害を与える事も可能だ

 

 しかし、隼鷹と飛鷹が相手している円盤航空機は、かつては浦田結衣が保有していた艦載機。復元し性能が落ちたとはいえ、それなりの強さは持っている

 

 練度が高い搭乗員や高性能な艦載機があれば倒せるが、こちらが弱いと爆弾の雨が降る

 

厄介な演習相手である事には変わりはない

 

「良いんです。私達、空母組はそれくらいの力が無ければなりません」

 

「提督さん、何とかして下さい。あれを倒すのに大変だったんだからね!」

 

小声で瑞鶴が不満を言ったが、加賀は瑞鶴を睨んだ。瑞鶴は無視したが

 

「スマンな。F5Uの運用をお前に任して」

 

「いいんです。サラも珍しいものがあるとは思わなかったので」

 

 F5UとF6Aを運用しているのはサラトガの搭乗員達だった。サラトガも浦田重工業には興味を示してたが、浦田結衣の艦載機を見て驚いたと言う

 

幸い操縦には難が無く、性能もまずまずだったのでサラが受け持つ事に成った。元々は米軍機である。本人も興味津々である

 

 F5UもF6Aも塗装はF4FやF6Fのネイビーブルーのカラーリングをしている。その代わり、マーキングは米海軍のものではなく、日の丸にしている

 

「準備出来たら発艦させろ。隼鷹と飛鷹が戻って来たぞ」

 

「はい」

 

サラトガがF5UとF6Aを次々と発艦させていく。サラトガも手を抜く気は無いらしい

 

鹵獲した円盤航空機は飛ばす事が可能と分かると、提督は円盤航空機を演習で使えないかと考えた。仲間同士の演習も大事だが、何時までも同じ相手をしていても練度は上がらない

 

 そこでF5UとF6Aをの円盤航空機のみで編成した飛行隊を仮想敵機部隊*4として編み出した。幸い、F5Uの飛行能力は申し分ない。これで空母組も練度が上がりやすくなるだろう

 

……が、どうやら空母組には教導隊には負けてはならないという謎の掟が出来てしまった。瑞鶴も翔鶴も必死の形相で教導隊と戦ったものだから、後が怖いものなのだろう。掟を作ったのは加賀らしい

 

後から来たアイオワとサラトガは、F5Uと烈風の空戦を見て宇宙戦争かと思ったらしい

 

初めは基地航空隊が運営していたが、後にサラトガも円盤航空機の運用を受け持った

 

「せいぜいお前の機体を有効に使ってやるよ、浦田結衣」

 

何時までも過去に引きづるわけにはいかない。乗り越える必要もある

 

上空で円盤航空機と軽空母の艦載機が上空で空戦しているのを眺めながら

 

 

 

しかし、提督も他の艦娘も予想はしていなかった

 

翌日も別の騒動が起こる事に

*1
正しくは戦闘ストレス反応ともいう。昔は砲弾神経症(シェルショック)とも言われていた

*2
中には電気ショックを与えて立ち直らすという治療法もあったという

*3
酒粕には8~10%のアルコールが含まれているが、熱を通せばアルコールは飛ばせるためよっぽどでないと作中のようには酔わない

*4
現実世界だと航空自衛隊の飛行教導群(米軍でいうアグレッサー部隊)の事を指す。軍の演習・訓練において敵部隊をシミュレートする役割を持つため腕のいいパイロットが操縦しているという




おまけ
隼鷹「酒を寄越すのです」
伊14「禁酒反対なのです」
ポーラ「美味しいお酒を飲んでこその人生なのです」
提督「おい、お前らそんな性格していないだろ?口調まで変えてせがんでも変わらんぞ」
アイオワ「まあまあ、アドミラル、こういう時はお酒を嫌いにすればいいのよ」
提督「いや、どうやって……」
アイオワ「はい、プレゼント」禁酒法時代の密造酒(工業用アルコール)を渡しながら
榛名「榛名からもプレゼントです」戦後動乱期に出回ったバクダン(燃料用アルコール)を渡しながら
ガングート「これもやろう」ソ連食糧危機当時に売られていたウォッカ(工業用アルコール)

提督「おい、どこでこんなものを!」
榛名「しー!(あんな人でも危険な酒という事くらい分かります。流石に三人共……)」
隼鷹「いや、あたしらを殺す気か!」
隼鷹と伊14は抗議を上げようとしたが、ポーラがとんでもないことを言った
ポーラ「心配する事はありません。工業用アルコールだからって何です?燃料の代用品として考えれば」
隼鷹「そうか!思いつかなかった!」
伊14「うっふふふ!じゃあ、艦娘なら飲めるね~♪」
ポーラ「提督、みんな~。ありがとね」
提督「おい、ちょっと待て!逃げるな!メチルアルコールは失明する危険性だってあるんだぞ!工業用アルコールを貰って喜ぶバカはいないわ!」
隼鷹「大丈夫だって。あたしたちは兵器だから」
提督「そういう問題じゃねー!」

ガングート「なあ、艦娘ってメチルアルコール飲めるっけ?」
某店主「メチルアルコールを飲める人が居るとは!サービスしてやるよ!」
提督「やめんか!飲めない設定だ!艦娘は生命体だから無理だ、いいな!」

※メチルアルコールは人体に有害です。北斗の拳に登場した店主のように販売してはいけません


軍艦や潜水艦といった航海で、長期間特定の場所に拘束されるところでは乗組員のストレスは貯まる所
そのため、各国では様々なストレス解消を用意していたが、やはり酒は切っても切れないものらしい
イギリスには伝統的にラム酒の配給があったという。『パイレーツ・オブ・カリビアン』で海賊たちが好んで飲んでいたお酒ですね
伊14の乗組員全員がネジが外れたレベルの酒豪の集まりのようなエピソードがある。ポーラも海に飛び込むにあたって体を温めるためにワインを飲み始めたというが

勿論、危険な行為であるため絶対にしないように

他にも海自の護衛艦では身体鍛える人が多いらしく、空いたスペースにトレーニングマシンをおいて それを使ったり、甲板をジョギングしたりしているらしい。他にもDVDで映画を見たり、ゲームをしたり……

ロシア(ソ連)の大型原潜の中にはペット(小鳥とか観賞魚)を飼ったり植木を置いていたらしく、米海軍の原子力空母ではスター○ックスや美容室などがあるという

来月あたりで本編は終わる予定です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。