時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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いよいよ陸奥改二実装ですね
資源と設計図は準備万端です
レベルは94あるので問題はないはず


第113話 深海鶴棲姫

某県のある小島

 

「よし、釣れたぞ!……アジか。まあ、こんなものだ」

 

 鎮守府にちょっとしたいざこざがある中、502部隊は旅行へ行っていた。二泊三日のキャンプである。将校達は小さな島へボート向かって釣りをする事が唯一の楽しみである。因みにあきつ丸とまるゆも一緒に同行している

 

海を渡るので護衛が必要だ

 

 ……と言いたい所だが、近海は艦娘の働きのお蔭で深海棲艦はいない。数年前には駆逐イ級がウロウロしていたが、今はいない

 

あきつ丸もまるゆも将校達の誘いで釣りを楽しんでいる。竿も自前で買ったものだ

 

「将校殿よりも大物を釣るのであります!」

 

「そうか。だったら巨大な鮫でも釣ろうか!アイツが驚くぞ!」

 

「張り合いは止めて下さいね。陸奥が怒りますよ?」

 

 軍曹は呆れていたが、将校は勿論、他の隊員も同じだ。浜辺で遊んだり、泳いだりしている。数名の隊員を鎮守府に待機させて、残りは休暇である

 

新隊員との打ち解けにもなるし、何よりも気持ちがいい

 

台風も来ていないのだから、将校は思い切って休暇をする事にした

 

 

今日は異変は無い。深海棲艦も来ないだろう

 

しかし、トラブルとは向こうからやって来る。世の中、そういうものである

 

 

 

「将校殿」

 

 将校は釣り糸を垂らして待っている中、あきつ丸が声を掛けた。何か釣れたのかとあきつ丸の方へ顔を向けたが、将校は驚いた

 

あきつ丸の顔は険しかったからだ

 

「哨戒に出していたカ号観測機が……何かを捕らえたと?」

 

「え?」

 

 将校は唖然とした。あきつ丸は艦載機を出していたらしい。回転翼の艦載対潜哨戒機で魚群を探していたのか?

 

しかし、どうもそんな感じではない

 

「深海棲艦か?」

 

「そうです!しかも、撃墜されました!」

 

「何てこった!……全員、退避!陸地に逃げろ!今すぐだ!」

 

 まさか、ここを襲うとは!?しかし、休暇気分とは言え、やはり元は特殊部隊の隊員

直ぐに島の奥に逃げだした。こんな所をのんびりとする訳にはいかない

 

「クソ、こんな時に!」

 

「威力偵察?それとも、本土侵攻?」

 

「いえ、敵は2体よ!」

 

隊員は隠れながらも観察している。民間人がいたら、パニックになって騒いでいるだろう。しかし、女性も混じってるとは言え、切り替えが早いのは練度が高い証拠である

 

「よし、偵察を出すぞ。誰か俺に付いてくる人は?」

 

 

 

軍曹と隊員3人、そしてあきつ丸は木に隠れながらも様子を伺う

 

 ビーチには隊員が遊んでいた遊具やバーベキューの焚き火が散乱している場所を誰かが歩いている

 

それは……

 

「あれは……扶桑山城ですか?」

 

「そんな訳ないだろ。角が生えているから深海棲艦だ」

 

 隊員は呟いたが、軍曹は否定した。確かに遠くから見たら扶桑型戦艦だ。しかし、双眼鏡で観察すると、艦娘ではない

 

そして、距離があるにも拘わらず、背筋が凍ったかのような錯覚に陥った

 

「新型の奴だろう」

 

「連絡をしなければ」

 

「したいのは山々だが、発信しても探知されてしまうぞ」

 

 軍曹は頭を悩ました。無線通信すれば、間違いなくアイツは警戒する。こちらにはあきつ丸とまるゆしかいない。まさか、ここに姫級の深海棲艦が現れるとは思わなかった

 

「コノ島二艦娘ノ反応ガアッタガ、気ノセイダッタカシラ?」

 

扶桑に似た姫級はビーチに散らばる物を破壊しながら呟いた

 

怨念のような氷のような冷たい呟き。しかし、その声は扶桑の声に似ていた

 

 

鎮守府

 陸軍部隊が危機と直面している一方、鎮守府内は相変わらず平和である。昼食時間も騒がしい。間宮さんや伊良湖さんも腕を振る舞っている

 

変わった事と言えばこんな事くらいだ

 

 

数十分前

 

「お、島風の連装砲じゃねーか」

 

 天龍が外を歩いている中、島風がつれあるいている連装砲ちゃんが3体共、何やら遊んでいた。島風は何処か行っているようだが

 

「アイツ、また競争ごっこしているのか。お前もアイツの相手をして大変だなぁ」

 

 島風の連装砲は他の駆逐艦娘と違って自立稼働している。どう動いているのか、不明である。秋月達や天津風も似たようなものを保有している

 

「ま、俺も着任した時は、遠征失敗して提督に迷惑かけちゃってさ。出撃した初日は連続して大破だったし。でもな、ここの奴等はみんないい奴だし、提督だってああ見えて……ってお前に行っても仕方ないか」

 

 天龍はつい熱くなって連装砲ちゃんに話していた。今までの事を話すのも悪くないと。どうせ、こいつらは喋らないのだと。連装砲ちゃん達は熱心に聞いていたが

 

 つい天龍は連装砲ちゃんに愚痴を言ってしまった。それが災いを引き起こす事も知らずに

 

 

 

現在

 

「……って天龍が言っていたって」

 

「そうか」

 

 提督は島風の報告を楽しげに聞いていた。人語を話さない小動物がどうやったのか、島風の連装砲ちゃんが天龍の言葉をそのまま伝えたのだ

 

当然、それに過剰に反応する人もいる。勿論、喋った本人である

 

「あの野郎!何で人語を話せるんだ!真っ二つにして……龍田、離せ!」

 

「いい話じゃない~」

 

「龍田も笑うんじゃねー!」

 

恥ずかしさで顔を真っ赤にし、刀を握る天龍を笑いながら龍田は抑えていた。他の人も反応は様々だ。呆れる人もいれば、クスクスと笑う人もいる

 

「おい、あんまり連装砲ちゃんを苛めようとすると、痛い目に遭うぞ」

 

「はっ!俺がこんな奴にビビるかよ!」

 

 暴れるのをやめ得意そうにする天龍。提督に言われるまでもない。たかが連装砲ちゃんに怖じける天龍ではない

 

しかし、提督は指摘する

 

「いや、他の連装砲から怒りを買ってもいいなら仕方ないが」

 

提督は笑いながら違う方へ視線を送っていた

 

 天龍は何なのか、初めは分からなかったが、何やら視線を感じる。しかも、複数。天龍は恐る恐る向きを変えると片隅に何かがいた。その何かが天龍を睨んでいる

 

「いや、ちょっと待て!冗談だって!そう睨む必要ないだろ!ちょっと!!」

 

 天龍は慌てて言ったが、それ……いや、彼等は睨むのを止めない。天龍を睨んでいるのは連装砲達だ

 

 天津風の連装砲くんと秋月姉妹が保有する長10cm砲ちゃん達が天龍を睨んでいる。あまりの凄みに天龍は後ずさりしていていた

 

 この光景に周りは集まっていた。駆逐艦娘の連装砲達に怖気づく軽巡は中々、見れない。天津風と秋月達はなだめていたが

 

「それはそうと加賀。この組で遠征させる」

 

「分かりま……!?」

 

 近くでいざこざが起こっても、提督は関与しない。まあ、これくらいなら天龍も対処できるだろう。そう判断した

 

 提督は今週の秘書艦である加賀に遠征組の編成を書かれた紙を渡したが、内容をみた加賀は驚いた

 

「いいのですか?」

 

「軍医は大丈夫だろうってさ」

 

 提督は答えたが、加賀はあまり賛同出来なかった。艦隊の編成は問題ない。問題なのは……その編成の艦娘の名前に時雨が入っていたからである

 

 加賀は食堂を見渡して時雨を探したが、時雨はいなかった。時雨は食堂にはいない。医務室にいたのである

 

 

 

医務室

 

「そのキャンディ、食べていいかな?」

 

「自己責任ならいい。……賞味期限ギリギリのものだ」

 

 時雨は机の上に置かれていたキャンディの入ったガラス皿に手を伸ばそうとしたが、軍医の忠告に手の動きを止めた

 

 軍医は看護師から受け取った診断書を読んでいる中、時雨は落ち着かない。時雨は怪我をしてはいない。メンタルケアでここにいる

 

 時雨は時空を超えてこの世界へ来た。何とか馴染めようとしたが、やはり難しい。悪夢を見たのも一度や二度ではない。本も雑誌も興味を示さず、この間に開かれたバーベキューでもあまり楽しめなかった

 

 夢に出て来るのは決まっていた。拷問部屋、破滅した未来、そして浦田結衣との戦闘。仲間の笑い声が、浦田結衣の高笑いに聞こえたのが何度かあった。時雨の様子を心配した提督は軍医に通うよう言った

 

 時雨の相手をしている軍医は元502部隊の軍医だった。精神科医もやった事があるらしく、時雨を診てくれた

 

「症状は改善している?」

 

「うん、改善している。最近はよく眠れている。悪夢も見なくなった」

 

時雨は正直に答えた。実際に軍医が出してくれた精神安定剤は効いた

 

「ディープスロートと会った後は、全然落ち着かなかった。全て終わったのに。演習場から聞こえて来る発砲音を聞くと、過剰に反応した」

 

 田村一尉と出会い、別れてから翌日、演習場から聞こえる発砲音と艦娘達の声で過剰に反応してしまい、乱入するといった事案があった

 

 また、出撃も時雨がほとんど倒した。奮闘したと聞こえがいいかも知れないが、周りからは、まるで他の艦娘が戦わせないように素早く倒したようだとの事だ。提督も時雨の様子がおかしい事に気づき、当面の間は遠征も含めて出撃はなしになった

 

「でも、今は大丈夫。改善しているって分かるんだ」

 

「ふむ」

 

軍医は時雨の受け答えを聞きながら書いている

 

「それで……何時なの?」

 

「何時とは?」

 

「何時、出撃出来るの?」

 

軍医の動く手が止まった。時雨は出撃と言ったのか?まだ、戦う気なのか?

 

「……お前の上司である中佐に説明しておく。判断するのは彼自身だ」

 

(提督次第か)

 

時雨は内心では少しガッカリした。自分は大丈夫なのに、なぜなのだろう

 

「帰っていいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 時雨は医務室から出る前にキャンディを何個か手に取った。腐っていなければ大丈夫だろう

 

「……よろしいのですか?」

 

「難しいな」

 

 ナースの疑問に軍医は首を振った。改善しているのは確かだ。しかし、危なっかしい所はある。白露達が懸命に支えてくれた事も合って助かっている

 

だが、本当に出撃のゴーサインを出していいのだろうか?

 

「精神科医は魔法使いではないからな。やる事は限られる」

 

 医者は外傷を治せるが、心の傷は治せない。精神安定剤はあくまで異常な精神興奮をしずめるための薬剤だ。風邪のように治る薬ではない

 

環境やバックアップも大事だが、やはり当の本人自身次第である

 

(だが、時雨は強い。普通の人なら除隊されている)

 

 軍医は時雨の心の強さに驚いている。艦娘だからという事で片づけられるものではない。危なっかしいが、挫けるような娘ではないだろう

 

改善しているのは確かだが、果たして?

 

 

 

「今日の遠征組が発表されました。指名された者は港に集まって下さい」

 

 午後、秘書艦の加賀からの発表で皆は驚いた。遠征は特に驚く事ではない。資源確保や輸送船護衛はよくやっている

 

では、なぜ皆は驚くのか?それは編成された艦娘の名前の中に時雨があったからである

 

「遠征……か。悪くないかな?」

 

「何、言ってるのよ!何で白露の名前はないのは!?」

 

 白露は不満そうだ。時雨が精神不安定の時から、白露はいつもそばにいてくれた。夕立や村雨なども時間があれば一緒にお供していた。提督も時雨を心配してくれた

 

時雨は立ち直っているのは確かだが、何時治るのか分からない

 

しかし、時雨は出撃したがっている。中々、難しい問題だ

 

「遠征なら問題ないだろう」

 

「うん。そうだよね」

 

提督はああは言ったが、時雨は何処か納得しない。やはり、心の病はそう簡単には治らないか

 

「天龍、頼んだぞ」

 

「分かったから、早くコイツらを下がらしてくれ!」

 

遠征の旗艦は天龍だが、本人は連装砲達にまとわりついついていた

 

 秋月達と天津風はオロオロしているが、島風はほったらかしである。面白半分で放っているのだろう

 

「専門外だ。原因はお前だろ」

 

「薄情者!」

 

「そうよ。天龍ちゃんが悪い」

 

「龍田、絶対楽しんでいるだろ!」

 

龍田は島風と一緒に天龍の連装砲達のいざこざを楽しんでいる

 

 天龍は何とか引き離すと(お菓子を遠くへ投げて連装砲達がそっちの方へ言った隙に逃げた)、港へ向かった

 

 

 

「よし、集まっているか!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 何とか連装砲達から巻いた天龍は、声を荒げた。不満だからではない。遠征は地味な任務だが、重要な仕事である。簡単ではあるが、ミスをすれば失敗する事には変わりはない。天龍の叫びに周りの駆逐艦娘は答えた。近くに居た龍田と見送りに来た提督はニコニコしていたが

 

「龍田は第六駆逐隊を率いて北方海域への遠征。俺達は南西諸島海域へ遠征だ!」

 

集まった駆逐艦からはオー!という叫び声が上がる。その中には時雨もいた

 

「時雨、辞退するなら今のうちだぜ?」

 

「そんな事を考えた事はないよ」

 

 天龍の問いに時雨は答える。仲間と一緒に出撃……。遠征や出撃の記憶もあるが、それは憑依する以前の記憶だ

 

事実上、初めての出撃だ

 

天龍が率いる駆逐艦は五隻

 

満潮、雪風、朝雲、そして不知火である。雪風と朝雲は改、満潮と不知火は改二である

 

「時雨と一緒に出撃出来て嬉しいです!」

 

「別に司令官からお願いされたから来たわけじゃないからね!」

 

「朝雲、準備万端よ!……時雨も準備は万全よね?」

 

一同は時雨を気遣っていた。提督だけでなく、皆も心配しているらしい

 

そして……

 

「不知火です。また、一緒に戦えますね」

 

「あの日以来だね」

 

忘れもしない。不知火は建造してから時雨と共に奮闘している。四年前に戦艦棲姫と戦った事が昨日のように感じる

 

「おい、俺もいたぞ……まあ、いい。遠征だからって気を抜くんじゃねーぞ!」

 

 

 

遠征出発直前に提督は時雨に話しかけた

 

「大丈夫か?」

 

「提督……僕のために……ありがとう」

 

「お前のお陰だ。それはそうと……お前に言うことはないが、これだけは覚えて置いてくれ。先日に座学を覚えているか?」

 

「うん」

 

 時雨はこの世界に来てから深海棲艦について学んだ。艦娘は海域を開放しているが、深海棲艦も何も手を招いているだけでない

 

新型の深海棲艦も出現しているとの事だ。それも艦娘の姿と酷似しているという

 

そして、深海棲艦も学習しているのか、対艦娘の戦術まで生み出している

 

 

 

「これだけは忘れるな。大航海時代の宣教師、H44改との教訓、そして力の意味」

 

「うん……分かった」

 

 時雨は強く頷いた。提督は深海棲艦と戦う能力なんてない。しかし、指揮能力は高い。これだけでも有難い。やはり、才能なのだろうか

 

「行って来る」

 

 

 

「時雨、どうだ?」

 

「懐かしいよ」

 

 天龍の質問に時雨は素直に答えた。『破滅した未来』では遠征は命懸けだった。潜水艦によるハンターや航空機の脅威があったからだ

 

 しかし、ここではそんな事は起きていない。いや、別の脅威はあるのは間違いないだろうが

 

 

 

遠征は特に問題はなかった。資源を積み込んだ後は帰るだけ

 

 遠征した海域は、制海権と制空権を既に把握しているため、奇襲される可能性はない

 

 しかし、だからといって深海棲艦は諦めるような事はしない。裏をかくのも新型の深海棲艦の姫級が出現するのもある意味、進歩と言えるだろう

 

 

 

「どうしたのよ、時雨?落ち着きがないじゃない」

 

「何でもないよ。久しぶりの遠征なのか、誰かに見られているような気がして」

 

満潮は時雨が後ろを気にしているため、声をかけた

 

 視界には敵の姿はない。上空もクリアだ。電探があればいいのだが、遠征なので重武装はしていない。万が一の事があれば、救助信号を出せばいい

 

しかし、どうも誰かに見られている

 

「雪風も頑張るので心配しないで下さい」

 

「……ありがとう」

 

時雨はにこりとした。雪風の笑顔を見て時雨は元気になったらしい

 

 時雨と雪風は『艦だった頃の世界』において激戦を生き延びてきた武勲艦だ。雪風は幼い艦娘だが、戦闘になると驚異的な戦闘力を発揮する

 

夜戦では、探照灯だけで三機もの敵機を落とした。幸運はこの世界でも発揮しているらしい

 

「そうだね。僕と雪風がいれば大丈夫だね」

 

「……二人揃ったら周りの運を吸い取りそうなイメージがあるわね」

 

満潮は呆れるように言ったが、不満ではない

 

 満潮は時雨のタイムスリップ作戦の記録を見たが、余りにも想像を絶するような記述なので初めは信じなかったという

 

しかし、時雨の様子や共闘した艦娘を見れば、信じざるを得なかった

 

「出撃するのはいいけど、撃沈なんてしないでよね」

 

「分かったよ。満潮も改二に改装出来たんだね」

 

 満潮はツンツンしているが、時雨を心配してくれている。提督からのお願いもあるのだろう

 

「さっさと帰るわよ。道草くってテレビドラマを見逃すのは嫌よ」

 

満潮の言葉を皮切りに皆は速度を上げて帰路に着いた

 

仕事は終わったようなものだ。満潮の言うとおりさっさと帰りたいのだろう

 

 

 

 

 

「なんなのよもう!後ろをチラチラ見て!」

 

朝雲は苛立っていた。もうすぐ鎮守府なのに、朝雲は気になって仕方なかった

 

原因は時雨である。後ろを頻繁に振り返りながら航行しているからである

 

「ゴメン……でも、どうしても気になるんだ」

 

時雨は謝ったが、やはり気になるのだ。背中がムズムズする。精神不安定ではない。『破滅した未来』でも敵に襲われる直前の感覚

 

「気のせいよ!敵の姿はない!しかも、昼間よ。そんな状況でどうやって襲うのよ!」

 

朝雲が苛立つのも無理はない。朝雲も何度か出撃しているため、実戦経験はある。そのため、朝雲は時雨が過剰に反応してると思っているのだ

 

時雨は反論しない。実際に自分は精神不安定であることは把握している

 

やっぱり気のせいだろうか?

 

不意に時雨を庇う者がいた

 

それは……

 

「朝雲、そこまでにして下さい。時雨に非はありません」

 

「不知火……まあ、貴方がそう言うなら――」

 

「不知火も感じます。誰かに見られているような気がしてならないのです」

 

この爆弾発言に皆は凍り付いた。時雨の精神不安定ではなかった?

 

「ああ。俺もさっきから感じていたんだ。どうやら、気のせいで片づけられそうにもない。電探があればいいんだが、仕方ない。警戒を怠るな」

 

 天龍の命令に皆は密集隊形を組んで対空・対潜警戒を行った。姿が見えないと言う事は、敵は潜水艦か艦載機かのどちらかだ

 

 しかし、ソナーには音はなく、空には航空機はない。いや、雲はあるためクリアとは言えないが

 

「東の方から敵影多数です!」

 

 皆は警戒する中、双眼鏡越しで監視していた雪風は、叫び声を上げた。何かを見つけたらしい

 

「敵は何だ?数は?」

 

「数は12……あれは……PT小鬼群です!」

 

「何!?」

 

 天龍は驚愕した。PT小鬼群……魚雷艇を模しているとも言われる。最近になって頻繁に出現している深海棲艦だ

 

こいつの防御力は紙装甲なので、駆逐艦の主砲でも沈められる

 

 しかし、回避能力は人類の魚雷艇よりも高く、中々当たらない。航空攻撃も雷撃もこちらを嘲笑うかのように避けるのだ

 

「何でこいつらがここに……砲雷撃戦用意、近づけさせるな!」

 

 天龍の掛け声で駆逐艦娘は素早く動く。縦列陣から縦列陣に組み直すと主砲を撃ちまくった。互いに支援は無い。いや、天龍は既に無線封鎖を解除して通信を行った。応援は来るだろう

 

「ああ、もううざいのよ!なんで簡単に避けるのよ!」

 

「第九駆逐隊を、なめないでよ!」

 

 満潮と朝雲はイラついていた。敵は攻撃して来ない。その代わり、物凄いスピードと回避能力で艦娘の砲弾を回避しながら、こちらに突進して来る。魚雷戦を展開する気だ

 

「沈め……沈め!」

 

 不知火は12.7cm連装砲C型改二を撃ちながら、過激な言葉を吐く。PT子鬼群も無傷では無く、6つは沈めた。誰が当てたのかは不明だが、PT子鬼群の回避能力は完璧ではない

 

 だが、PT子鬼群は怯みもせず、突進を続けている。近代国家の軍隊ならとうに引き上げている

 

「天龍さん、応援は!」

 

「五航戦を率いる艦隊が向かっているが、間に合わねえ。こちらも突撃する!主砲だけでなく、対空機銃で蜂の巣にしてやれ!俺は刀で真っ二つにしてやるからよ」

 

 天龍は突撃命令を下す。魚雷戦をしないのは、余りに目標が小さすぎるからである。しかし、敵は魚雷艇だ。魚雷に当たれば、損害は出て来る。遠征で手に入れた資源を気にするが、今はそんな事を言ってはいられない

 

皆は砲撃を止め接近準備に入る

 

(妙だ。何で広い海に魚雷艇が?)

 

 PT子鬼群は『艦だった頃の世界』である米海軍が使ったいたPT魚雷艇を模していると言われている。こいつは魚雷二本を積んだスピードボートで速度は40ノット。しかし、装甲はゼロどころか、ベニア板なのだ。だから、対空機銃でも倒せる

 

 猛速を利して敵に突っ込み、魚雷をぶっ放した後は、一目散で逃げる。これが魚雷艇の使い方だ。戦法というよりヤクザの殴り込みに等しい。深海棲艦の場合だと普通に戦っているのだから分からない

 

 しかし、如何に深海棲艦だからと言って無謀に突撃するようなものだろうか?遠征を狙ったものなら分かるが、それにしてはおかしい*1

 

だが、悩んでも仕方ない。突撃命令を下す直前に何者から無線連絡して来た

 

『皆、下ガッテ!私ガ取リ除ク!』

 

「な!?誰だテメー!」

 

『後ニシテ!助ケルカラ!』

 

相手は一方的に無線で喋ると、聞く間もなく無線を切ったのだ。今のは誰だ?

 

「た、助けるって」

 

「しかも相手は深海棲艦だよ!」

 

天龍は戸惑い、時雨も驚愕した。何だ、今のは?

 

「ちょっと待って……今の無線通信の相手……瑞鶴さんの声に似てなかった?」

 

 満潮は戸惑っていた。いや、満潮だけでなく、皆も同じだ。確かに無線相手は深海棲艦だ。だが、なぜ瑞鶴の声が混じっているのか?

 

冗談かサプライズかだろうか?しかし、戦闘中にふざける艦娘ではないはずだ

 

 皆が困惑する中、雲から何かが出現した。航空機だ。しかし、味方のものでは無い。深海棲艦の艦載機だ

 

「敵機襲来!」

 

「くそ、五航戦は何をやっている!」

 

 天龍は絶望に歪んだ顔で空を眺めていた。秋月達がいれば良かったが、生憎いない。深海棲艦の艦載機はこちらに

 

 

 

向かって来ず、PT子鬼群の方へ飛んでいった。そして、PT子鬼群に対して爆撃を行ったのだ

 

「馬鹿な、深海棲艦の航空機が深海棲艦を攻撃した!?」

 

天龍は、何がどうなっているのか分からず狼狽えていた。時雨もその場にいた他の艦娘も同じだ

 

仲間割れか、それとも何かの罠か?

 

深海棲艦の艦載機は艦娘を見向きもせずに明後日の方向へ飛んでいった

 

深海棲艦が飛んでいく方角にある人影があった

 

艦娘ではない。姿や艤装から見て明らかに深海棲艦だ。だが、様子がおかしい

 

「ずい……かく……さん?」

 

瑞鶴に似た深海棲艦。そのように見えた。白い髪にこめかみ当たりから二本の短い角が生えている

 

しかし、身体はボロボロだ。切り傷や打撲傷があり、血も流している。艤装も破壊され、煙を上げている

 

「怪我……している?」

 

「仲間割れ?何なの?」

 

「静かにしろ!おい、それ以上、近寄るな!」

 

 天龍は騒めく駆逐艦娘達に一喝すると、近づく謎の深海棲艦に向かって威嚇する。負傷の規模からしてかなり痛めつけられたらしい

 

「降伏スル。ダカラ、攻撃シナイデ」

 

瑞鶴の声に似た深海棲艦は両手を上げた。本当に降伏しているらしい

 

「提督、謎の深海棲艦がこちらに対して降伏して来た。姿形から見て姫級。だけど、怪我をしている。仲間割れのようだ」

 

『警戒しながら近づけ。……しかし、仲間割れか。そんな兆候は無かったが』

 

「見て見ないと分からねーだろ」

 

周りは警戒しながら、近づいてて来る。時雨は改めて敵の姿を観察した。瑞鶴に似ているようで似ていない。破壊はされているが、戦艦の主砲らしきものが確認出来、艤装はまるで鯨のようだ

 

「今の攻撃はお前がやったのか?PT子鬼を撃退したのは?」

 

「エエ。私ガヤッタ。襲ワレテイタカラ助ケタノ」

 

瑞鶴に近い姫級から出る言葉は覇気がなかった。痛めつけられたように見える

 

「亡命ヲ希望スル。頼メルカ?」

 

「なッ?亡命!?」

 

相手はとんでもない事を口走ったのだ。周りは騒めいた。今までこんな事はなかったのだ

 

「1つ、質問していいかしら?……何で深海棲艦である貴方が私達を助けたの?」

 

満潮は睨みながら質問した。普通ならあり得ない。深海棲艦が亡命するなどと

 

相手は黙っている。答えに窮しているのだろう

 

「聞こえなかったの?艦娘と深海棲艦は敵対関係。普通だったら深海棲艦は私を速攻で沈めてくるのが当たり前。なのに貴方は私を攻撃どころか、敵意も向けてこない。しかも、助けてくれた。どういう事?」

 

満潮は再び質問したが、相手は沈黙するだけだ。やがて、相手は降参したのか、白状した様に口を開いた

 

「貴方達ハ深海棲艦ニ穏健派ト過激派ガ存在シテイル事ヲ知ッテイル?」

 

「穏健派?過激派?何だそりゃ?」

 

天龍達は首を傾げた。他の者も知らない。時雨もである

 

相手は細かく説明し始めた。

 

「深海棲艦ハ二つノ派閥ニ別レテイル。穏健派ハ人類ニ対シテ敵意ヲ持ッテイナイ集団。平和的解決ヲ望ム者達ナノ。逆ニ過激派ハ人類ヤ艦娘ニ敵意ヲ持ッテイル連中ノ集マリ。戦イコソ全テト思ッテイル者達」

 

「つまり、タカ派とハト派の集団と言う事か?」

 

「ソンナ感ジダ。ダガ、穏健派ハ数ガ少ナク、周リカラ蔑マレテイル。コノ傷モ仲間カラ『弱腰』ト罵ラレテ痛メツケラレタ」

 

相手の説明に天龍は訝し気に聞いた。そんな情報はまだない。敵も変化しているのか?だが、敵意はないようだ

 

「証明できるのか?俺達を攻撃して来ないという保証は?」

 

「敵ノ情報ヲ渡ス。ダカラ――」

 

「分かった。提督へ連絡して保護するよう言ってやるからよ。待ってくれ」

 

天龍は無線通信を行った。提督も驚いているだろう。まさか、深海棲艦の姫級が亡命するとは考えられない

 

「敵ではないのですか?」

 

「エエ。ソウヨ」

 

雪風は近づいて来て話しかける。まるで親友のようだ

 

相手は深海鶴棲姫と言う名らしい

 

「瑞鶴に似ているわね」

 

「ズイカク?」

 

「ああ。瑞鶴と瓜二つだ」

 

他の駆逐艦娘も興味を持った。艦娘に似た深海棲艦はこれが初めてではない。だが、近くで見たのはこれが初めてだ

 

深海鶴棲姫と天龍達は打ち解け合っているが、馴染めない者がいた

 

時雨だ

 

(本当に敵じゃないの?深海棲艦が変化している事は聞いたけど……)

 

浦田重工業は滅んだお蔭で、深海棲艦は人の手から完全に離れた。進化する事も確認されているが、本当に穏健派が誕生するようなものだろうか?

 

(戦艦棲姫は浦田結衣をスパイとして送り込んだけど、結衣はパワーアップして深海棲艦を掌握した。四年も経つと深海棲艦は丸くなるの?)

 

確かに人類にも平和主義者はいる。深海棲艦にも誕生したのか?

 

「時雨、貴方の意見は?」

 

「……え?」

 

「呆れた。考え事していたの?提督からは自己判断で任すって言って来たのよ」

 

提督の返事は、深海鶴棲姫を鎮守府まで連れて帰れ、但し不測事態が生じた場合は現場で判断する、との事だ

 

「それで、時雨はどうするのですか?」

 

雪風は時雨に駆け寄って来た。雪風は可哀想だから連れて帰ろうとの事だ。満潮も朝雲も同意見だ

 

「僕は――」

 

深海鶴棲姫から目を離し雪風と対面した時、不意に強烈な視線を感じた。だが、時雨は反応せずに無理に笑顔を作って答えた

 

「――連れて帰る事に賛成だよ」

 

周りは連れて帰ろうという声で一杯だ。提督も了承している。だが、提督の声は暗かった

 

『分かった。連れて帰ってくれ。時雨、警戒を怠るなよ』

 

(まさか……)

 

提督は気付いている?いや、まさか……

 

でも、なぜ?浦田重工業は倒した。浦田結衣は死亡している。だが、なぜ自分は納得できないのだろうか?

 

敵だから?それとも……

 

「時雨、落ち着いて下さい」

 

不知火は時雨の様子に気付いたのか、近寄り時雨の手を握った

 

「貴方の事を四年前から知ってます。帰って来て嬉しかったです。そして、我々も……学ばなければなりません」

 

不知火は時雨の手を握りながらも人差し指を動かしていた。それがモールス信号だと言う事に時雨は気付いた

 

不知火……君は……

 

「では、貴方を連れて行きます。しかし、提督の話では鎮守府は大混乱になっていると。一部では解剖しろ、との事です」

 

「ソウ。ヤハリ、話シ合エナイノネ」

 

深海鶴棲姫は悲しそうに答えた。当然だ。敵である姫級が投降するとなれば警戒するのも当然だ

 

「ええ。しかし、心配しないで下さい。そんな事はさせません」

 

不知火はきっぱりと言った

 

「ソウ。良カッタ。安心シテ――」

 

深海鶴棲姫がホッと胸を撫で下ろした時だった。不知火の眼光が鋭く光った。不知火と時雨の行動は素早かった

 

「「沈め!」」

 

不知火と時雨は掛け声とともに主砲を深海鶴棲姫に向けると発砲した。砲弾は深海鶴棲姫に着弾し爆発。辺りは爆炎と煙が立ち込め、視界が悪くなった

 

「な、何を――」

 

あまりの出来事に満潮達は呆気に取られていた。2人共、何をやっているのだろうか?

 

だが、天龍は刀を振り上げると煙の中に突進した

 

ガキン!

 

鉄と鉄がぶつかり合う音。だが、その後の音は聞こえない。視界が晴れ、時雨達の目に映ったのは、深海鶴棲姫と天龍が睨みあっていた

 

深海鶴棲姫は自分自身の艤装を盾にして天龍の刀を防いでいたのだ

 

「傷が……ない!艤装も健全!どういう事!?」

 

「不思議でもないさ。どうやってこんな芸当が出来たのか分からないけど、味方のフリをして近づき、油断している所を襲うつもりだったんだ。怪我も派閥も嘘だ」

 

「つまり、全て演技!?」

 

 満潮は驚いていたが、時雨は違った。一瞬だけ感じたのだ。彼女が放つ殺気を。時雨は提督の忠告を思い出した。

 

 大航海時代の宣教師。大航海時代、ポルトガルとスペインは新世界・アメリカ大陸を探検と征服を行った。アステカ帝国、インカ帝国など現地勢力を支配下に置いて植民地化し、現地民を奴隷として連れ帰った

 しかし、派遣された宣教師たちはそういった粗暴な連中とは違って紳士的だった。親しく接して来るため、現地民は警戒を解く

 だが、実はこれらの宣教師達も尖兵に過ぎなかった。貿易の利を吹聴しつつ、本音は植民地化をやりやすくするためである。武力制圧だけでは反発するだけであるからだ

 

甘い蜜を与えて相手の警戒を解き、一気に洗脳させていく

 

侵略者がよくやる手段である

 

「教エテ頂戴……何時、気ガ付イタ?」

 

「途中からだ。俺達には優秀な駆逐艦娘がいるからな」

 

「ソウカ。艦娘ハ人間ト同ジヨウニ愚カダト思ッテイタガ、違ッタヨウダ」

 

深海鶴棲姫の目は冷たかった。巨大な砲塔が天龍に向けられる。至近距離で撃つ気だ

 

「フッ!俺がそんなものでビビると思っているのか?」

 

天龍は相手より早く14cm主砲を相手に向けて砲撃した。砲弾は命中したが、爆発は起こらない。代わりに煙が立ち込み上がる

 

煙幕を展開したのだ

 

「全速力で逃げるぞ!救難信号を出せ!敵は頭も使うようになったってな!」

 

天龍は撤退指示に周りも撤退する。長居は無用だ

 

煙の中から砲声が雷鳴のように鳴り響いているが、無闇に撃っているため回避は余裕だ

 

後は救助が来るのを待つしかない

 

 

 

「戦艦水鬼サン、作戦ハ失敗シマシタ」

 

『馬鹿ナ。奴等ハ見抜ク力マデ持ッテイルノカ?』

 

「見破ッタノハ時雨トイウ艦娘デス。アノ小娘、コチラノ監視ヲ真ッ先ニ気付イテイマシタ」

 

 深海鶴棲姫は深海棲艦の上官である戦艦水鬼に連絡をしていた。作戦は失敗。よってこのまま、艦娘の基地である鎮守府に攻撃を仕掛けると

 

「コレヨリ追撃シマス。増援モ寄コシテ下サイ」

 

深海鶴棲姫は演技で沈めたPT子鬼を水中から呼び寄せると引き連れて追跡していく

 

そう……深海鶴棲姫がPT子鬼を沈めたのは演技。ただ水の中に隠れていただけである

 

 

 

???

 

「時雨……ソウカ、退屈シノギニナリソウダ」

 

深海鶴棲姫からの報告を聞いた戦艦水鬼は口角を吊り上げた。四年前に出会った小娘に間違いない。作戦が見破られた事も納得がいく

 

「イイダロウ。コチラカラモ出向ク事ニシヨウ」

 

 

*1
夜間、狭い海域で島陰や陸地の陰に隠れて奇襲攻撃をかける、という使い方しないと魚雷艇で戦艦や重巡などと戦うなんてのは無謀である。深海棲艦だからこそ無謀な事が出来るのであろう




穏健派の深海棲艦「私達は平和を愛する集団です」
普通のオリ主(オリ艦)「そうなんだ!一緒に暮らそう!」
穏健派(?)の深海棲艦「ありがとう!何て優しい人間なんだ(フフフ……)」

穏健派の深海棲艦「私達は平和を愛する集団です」
時雨「罠だ!攻撃しないと!」
深海棲艦「おやおや、意外と頭が回る艦娘がいるのね」

たまに見るのですが、艦これSSの深海棲艦の中には、穏健派と過激派に分かれていて穏健派は紳士的で真の平和を愛する集団となっていますが……何故か主人公は手を差し伸べ上手くいく
でも、そうなると疑問があるんですよね。人間に近い艦娘を兵器だ何だと差別や問題があるのに、人間ですらない深海棲艦は大人しければ何の抵抗感もなく仲良くなれる


ギャグや四コマ漫画ならいいですが、シリアスの話になると……

善良なオリ主=深海棲艦を味方(嫁)にする
ならば、シリアスで戦争物を題材とするこの作品は……、と思った結果がこの戦いです

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