時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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陸奥改二に続いて日向の改二の情報が
伊勢は戦闘空母になったが、師匠はどうなるのか?


第114話 変化する者達

「こちら第二艦隊の天龍!敵襲を受けた!応援は何時になったら来るんだ!?」

 

『こちら第三艦隊……もうすぐ着きます。艦載機による航空支援は5分です』

 

「3分で来てくれ!敵は艦載機を放ちやがった!」

 

 翔鶴の返答に天龍は無線で怒鳴り返した。敵はPT小鬼を引き連れて肉食獣に追いかけてくる

 

 艦種は正規空母のようだが、どういう訳か戦艦の主砲を持っている。しかも、巨大だ。大和型戦艦並の口径はあるに違いない

 

艦載機も白い形をした物が襲ってくる。魚雷を抱えている艦載機も混ざっている

 

「対空戦闘だ!無理に撃ち落とさなくていい!撃退しながら撤退だ!」

 

天龍は対空砲火を撃ち上げながら命令をしていた

 

 秋月のような対空戦闘の能力はないが、それなりにある。しかし、敵の航空機は強力だ。クマバチのように襲い掛かって来た

 

(未来を変えたけど……深海棲艦はここまで強いの?)

 

 時雨は対空兵器を撃ち上げながら心の中で呟いた。浦田重工業の仕業ではない。ハイテク兵器を使っていないし、艦載機も深海棲艦の仕様の物だ

 

しかし、ここまで変わるのだろうか?

 

 

 

「ヘェー。中々ヤルジャナイ」

 

 艦娘の奮闘に深海鶴棲姫は感心した。こちらの演技を見破るだけだなく、航空攻撃に対して防御している

 

 少なくとも素人の集団ではない。下級の深海棲艦との小競り合いはあった。艦娘は船を守るために出撃している。だが、深海棲艦から見れば折角、奪った縄張りを失いたくない

 

 そのため、近づく船や航空機は無差別に攻撃しているが、その度に艦娘と呼ばれる者との戦闘になる。些細な抵抗と思っていたが、どうも違う。戦い慣れているし、組織的だ

 

 仲間の命を大事にしているらしく、損傷が大きいと撤退している。重巡リ級辺りからは腰抜けと嘲笑っていたが、鬼・姫級の意見は違った

 

「中々ヤルワネ。戦闘経験ヲ積ンデ挑ムラシイ」

 

 つまり、学習しているのだ。先日は艦娘をコテンパンにやっつけ追い返したが、数日すると強くなってこちらに挑んで来た

 

 艦娘という存在はよく分からない。外観や能力は人間だ。人間社会に溶け込めるらしい。しかし、姫級は分かるのだ。艦娘は深海棲艦に近い存在でもあるし、遠い存在でもある事を。だから、なぜ彼女達は人類に味方するのかを理解出来なかった。少なくとも、仕方なくやっている風ではないのだ

 

 

 

 浦田重工業を倒しても世界は平和ではない。深海棲艦を駆逐出来ていないどころか、深海棲艦も変わっていた

 

なぜ、このような事が起きているのか?

 

 

 

4年前、時雨達の奮闘により浦田重工業が崩壊した後、世界は変わった

 

 世界は2つに分かれた。浦田重工業の反乱による被害から立ち上がる国とそうでない国と

 

 国力の余力のある国は、海を取り戻すべく対深海兵器の研究を行った。浦田重工業の技術である対深海棲艦の兵器は素晴らしいものだった。浦田重工業は深海棲艦のエネルギーの源である未知の元素を兵器化する事にした。その技術を応用したため、浦田重工業の兵器は深海棲艦を倒せる事が出来たし、戦艦ル級改flagship、H44改である浦田結衣の艤装発展にも繋がった

 

 唯一の弱点と言えば、コストが高いという点である。炸薬や弾丸などに深海棲艦の元素を無理やり混ぜ適合させるため、莫大な労力と金がかかるのである

 

 少なくとも、経済に優しくない。自衛用ならともかく、攻勢に出れば国が破たんする。浦田重工業はあくまで自衛用であったため、経済破綻する事は無かった。浦田結衣が深海棲艦を操る能力があった事もあるのだろう

 

 国防予算は増えざるを得ず、税金も上がるのは目に見えている。博士からの助言の事も合って日本は研究用として留まった。浦田結衣が行ったであろう、『超人計画』も倉庫送りだ。国の機関も残骸から薬品の製造方法を見たが、とてもドーピングや薬品といった代物ではない。高確率で死ぬ薬品だ。ドラッグよりも危険な存在であるのは確かだ

 

 深海棲艦の元素を元に製造した薬品だが、成功するには負の感情や人格が歪んでいなければならない。深海棲艦は元々、そういった知的生命体だ。浦田結衣は虐められた過去があるため、こういった難題は乗り越えた。戦艦棲姫の血を体内に入れられても死なないどころか、適合したのはそのためだ。改二に進化した戦艦武蔵は乗り越えたが、完全に博打である。元々、正規の大改装ではない。失敗すれば死に至る

 

 精神や性格が歪んだ人間なら超人の兵士は生み出せるかも知れない。しかし、軍や政府は畏怖した

 

「国の安全保障を犯罪者や精神異常者に委ねるとか……正気ではないぞ」

 

「流石に……これはダメだな」

 

 浦田結衣のような人が出るかも知れない。国を守るどころか国を滅ぼされるかも知れない。現に浦田結衣は憲兵の数十人や豊吉海軍大将を惨殺し、艦娘である時雨を拷問した

 

 憲兵隊ですら彼女の拷問のやり方に嫌悪したほどだ。逆に言えば、それほど凄まじいものだったと言える(彼等は知らないが、『失われた未来』では浦田結衣は都市部などを無差別攻撃するどころか、多数の艦娘を捕らえて拷問していた)

 

 また、対深海棲艦の兵器開発も見送られた。ただでさえ、国内は復興に励んでいるのだ。開発するにも製造するにも金がいる。しかし、増税すれば反発されるのは必須だ。時間がかかるのも仕方ない

 

だが、秘密と言うのは漏れてしまうものである。日本の場合、防諜は苦手とも言える

 

 技術は外部に少なからず漏れた。しかし、流石に高度な技術を要するため、危険を冒した国は倉庫に眠らせるしかなかった。あまりにも複雑怪奇過ぎるし、実用化するのに何十年かかることか。苦労して入手した『超人計画』も馬鹿馬鹿しくて話にならない。薬物の化学式を見たが、訳が分からなかった。実験動物も片っ端から死ぬ始末である。そんな対深海棲艦兵器の開発に成功した国がいた。

 

アメリカとロシアである。いや、正確にはタカ派と呼ばれる集団だ

 

 アメリカは対深海棲艦の兵器が日本にあると分かるとスパイを派遣して兵器情報を入手した。但し、白人のスパイではない。日系軍人である

 

 1940年代のアメリカは黄禍論を引きずっており、人種差別があったのは仕方なかった。しかし、戦争は別である。米軍は日系人の若者を兵士に徴用したのである。徴用であるが、ほとんどは志願者だったらしい

 

 日本が深海棲艦の対抗手段や浦田重工業の新技術を持っている。その情報を手に入手するために日系兵士を育てていたのだ

 

 日本語とジャパノロイジーを教え込み、日本と戦争した日には戦線を送り込む。その手はずだった

 

 だが、日本は艦娘計画を輸出した。建造は成功し、戦艦アイオワや駆逐艦サミュエル・B・ロバーツが現れるとアメリカ議会や軍人達の態度は一変した

 

 見た目は美少女だし、何よりも軍が手こずっていた敵をあっさりと深海棲艦を倒した。空母サラトガまで建造されると大半は艦娘を味方したのだ

 

 ある議員は艦娘をプッシュし、更には人種問題を解決するとして大統領選に立候補。圧倒的な支持率でその議員は大統領になってしまった

 

「クソ、女性の力を借りて大統領になりやがって!」

 

「日本の技術を受け入れおって!しかも、奴等は神の領域を犯した!」

 

批判はあったが、大統領は聞き流した

 

「どうでもいいと私は思うぞ。人類の敵と戦うのに、人類同士が争っている場合ではないと、なぜ君達は思わないのか?」

 

「生命を生み出す技術だぞ!刃向かうかも――」

 

「私は別次元から来た人間だと思っている。本人はそう言っている。寧ろ、日本はあっさり受け入れているのに、君達は反発する理由はなんだ?」

 

「なっ!」

 

「君達の敵は深海棲艦ではないのか?それに彼女が持ち込んだアニメは面白かったぞ」

 

 実はアイオワがそう言ったのである。別次元から来たというのも間違ってもおらず、アイオワも深海棲艦の脅威を主張したが、受け入れない者もいる

 

 アメリカは元々、マスプロの国。つまり自動車や機械の大量生産になれている。自動車メーカーの工場が、ベルトコンベアの生産プログラムと部品を変えるだけで飛行機や戦車を作り出している

 

船においても、駆逐艦や輸送空母クラスならば、月産は可能な造船所を持っている

 

 つまり、アメリカは巨大な戦争マシンである。『平行世界の日本』はこんな国と戦っていたのだから、身の程知らずである。浦田重工業もアメリカを無差別攻撃のもそれが理由である

 

 今は復興しており、ハワイ奪還やパナマ運河を占拠した深海棲艦を叩き潰すために攻勢をかけているが、兵器が効かない相手ではどうにもならない。爆撃機は片っ端から撃ち落され、軍艦も海の藻屑になる始末だ

 

極秘裏で化学兵器を使用したが、全く効果がない

 

 深海棲艦の爆撃によって怒り狂った市民は、日が増すにつれてモンロー主義のような状況になってしまった

 

そのため、『艦娘計画』が日本から伝えられても、あまり歓迎はされなかった

 

 勿論、アイオワは何もしない訳にはいかない。折角、再びこの世界に来たのだ。異質の戦艦ル級改flagship(当時のアイオワは、まだ提督達と出会っていないため、正体は知らなかった)の脅威に対抗するためにはアメリカの協力が必要だ

 

 初めに彼女がやった事は、艦娘が敵ではないという事を伝えるためにある手段を行った。『平行世界のアメリカ』からの知識でロボットアニメ2作とSFテレビドラマを伝えた

 

 1つは宇宙から来た巨大ロボットものと別惑星で地球とは異なる進化を遂げた生命体、超ロボット生命体のもの。もう1つはSFドラマである

 

 アイオワは『艦だった頃の世界』で兵士達が娯楽で見ていたテレビを見たことがあるので、それをそのまま映画会社に伝えたのだ

 

 会社は革新的な物語だと喜んでいたが、アイオワは複雑な気持ちだ。確かに詐欺の分類にあたるだろう。だが、元々は未来のアメリカが創るアニメや映画だ。浦田重工業によって受けた被害は計り知れない

 

 アメリカも変わらなければならないと思っていたが、やる事は限られている。しかし、アイオワは思った

 

(何も力強くで変える必要はない。ミーも米海軍だから)

 

 アイオワは『艦だった頃の世界』で見た知識を活かして祖国を立て直した。それはテレビ放送の番組と映画である

 

 アメリカのテレビ放送が始まったのは1941年。つまり、太平洋戦争が始まった年に既にアメリカではテレビ放送が始まっていたのである。映画館でディ○ニーの漫画映画を視聴している一般市民はいる。テレビでニュースやドラマを視聴している国民もいる

 

一般市民が騒ぎ立てれば政府も無視は出来ない。如何に超大国でも、独裁国家ではないのだ。味方を付けるためには、何も政治家に限った話ではない

 

 そこでアイオワがやった事はドラマや番組、映画である。今は3作だが、大反響を産んだ。特に宇宙や異星人は受けが良かったらしく、あるキャッチフレーズが有名となった

 

『宇宙。それは最後のフロンティア――』

 

 放送が開始された日から、市民はテレビの番組に釘付けだった。子ども受けを狙ったつもりだが、まさかここまで人気になるとは思っていなかったのだ

 

 勿論、アイオワ自身も自国の事は理解していた。アメリカというのは、戦争中でもアニメや映画を作っていたのだ。スターたちは前線慰問にもつとめ、出征したスター達もいた。大戦後には出世して空軍准将となった者もいる

 

 だが、これは予想外であった。サラトガも呆れていたが、ある意味、仕方のない事だった*1

 

 大衆には娯楽は必要であるため、映画館やテレビが出現したのもそのためだ。また、軍隊という集団生活の中で中々娯楽が無いので受けた事もある。頭が固い士官もいたが実はこっそり買っていたり見ていたりしていた

 

 そして、アイオワは米艦娘を引き連れてパナマ運河に居座っていた深海棲艦の軍団を駆逐。解放に成功した。運河棲姫と交戦、撃破した映像は全米に流れ、熱狂させたのだ

 

急速にアメリカが艦娘を受けれられたのも艦娘の努力でもあった

 

 運要素もあるだろうが、成功したのは間違いない。ヒーロー物の作品の資料を伝えた後は、深海棲艦との戦いである。米海軍もバックアップしたお蔭で、深海棲艦と戦う事が出来る。出来れば、日本にいる提督と創造主に会いたい。何やら日本で、内戦が勃発したというが何があったのだろうか?

 

 

 

 ようやく地盤を固めたアメリカの艦娘達だが、ここに来て問題が起こった

 

 どんな国でも過激な連中はいる。極右や極左などといった存在はやはりいる。それがある政府役人に雇われたとなると面倒である

 

 崩壊した浦田重工業から盗んだ対深海棲艦の兵器が流出。早速、実装されたらしい。既に深海棲艦のある拠点を目指しているという

 

 アイオワは彼等の阻止に向かった。確かに深海棲艦を倒す力を持ったのならいいのだろう。だが、どうも良くない事が起こりそうな気がする。また、過激派はロシアと通じていたらしい。所謂、情報漏洩である

 

 犯罪行為であるし、黙認する訳にもいかない。ロシアにはガングート達がいたが、残念ながら手を貸して貰えなかった。ロシアも徹底的にやられたお蔭で本人はともかく、部隊を送るなんて出来ない

 

 

 

米艦娘達が行くしかなかった。しかし、流石に全員を連れて行くしかない。駆逐艦数隻を同行してもらった。艦娘は戦艦アイオワと空母サラトガに決まった。別に出撃ではないからだ

 

「それでユーは何が狙いなの?」

 

 ある島を向かう最中、アイオワは日系兵士であるジャック・ホリグチ軍曹に問いただした。彼はある軍のチームに参加していたらしく、日本の浦田重工業の兵器情報を盗んだというスパイである

 

 勿論、咎める気はない。国家間においてはスパイ工作はよくある事だ。だが、彼はチームのやり方に疑問を持ち、逃亡。こちらに接触したのだ

 

「我々、日系連隊はある准将とOSS*2から声をかけられました。日本で何があったのか調べろと。そして、私は潜入しましたが――」

 

日本人の顔立ちだが、声を震わしながら英語で話した

 

 

 

 浦田重工業の反乱と新型の深海棲艦の存在の調査だった。だが、調べていく内に全くよく分からない情報が出て来たのだ。浦田社長の野望ともいえる論文と深海棲艦化した人間。しかも、『超人計画』の概要を沿ったものだ

 

 浦田重工業の野望を阻止するために戦った勇敢な部隊や艦娘も、まるで浦田重工業のやり方を知っているかのような戦い方だ。なぜ、左遷され諦めた技官が艦娘計画を再興したのか分からない

 

 特に分からないのが初期の艦娘だった。まだ完成すらしていないのに、まるで初めから存在していたかのようだ

 

「で、それはOSSに伝えた?」

 

「いいえ。伝えたのは兵器情報と浦田重工業の野望だけです。時雨という艦娘は、極秘で作ったのだろうと片付けられました」

 

 アイオワは時雨が何をしたのか分かった。タイムスリップに成功したのだ。尤も、タイムスリップなんて誰も信じないだろう。科学者ならともかく、頭の固い軍人は信じないし、仮にそうだとしても重要な事ではないと切り捨てる

 

一刻も会いたいのだが、それは後だ

 

「それで、ユーは何を見たの」

 

「分からないのです。OSSの副局長も極秘だと言っていましたが、ある地下の実権を見たのです。『超人計画』を。医官は青い液体を注入するだけだと言っていましたが、注入された被験者は絶叫し死んでしまいました」

 

「『超人計画』?」

 

サラトガは頭を傾げた。初めて聞く単語だ

 

「知らないのですか?深海棲艦の力を身体に取り入れて能力を持つことです。科学的な解釈は私も分かりません。しかし、副局長は造ろうとしているのです。第二の『浦田結衣』……いいえ、神を」

 

「え?」

 

アイオワは唖然とした。どういう事なのだろうか?

 

 ホリグチ軍曹の話はこういう事だ。浦田重工業は深海棲艦を操る事に成功した。それは戦艦ル級改flagshipに変身した浦田結衣のお蔭だと。『超人計画』は『艦娘計画』の亜種である事

 

浦田結衣の能力は高く、艦娘を圧倒していた。あのモンスターと言われる大和や武蔵とやり合えるらしい

 

 深海棲艦を操る事が出来れば、世界を支配できる。浦田重工業の浦田社長の考えはともかく、浦田社長と同じ事を実施しているという

 

あまりの狂った計画を見たホリグチ軍曹は脱走した。そう言うことである

 

「仲間は?」

 

「……分かりません」

 

ホリグチ軍曹は言った。どうやら本能で脱走したらしい

 

(ミーが知っている太平洋戦争史では、確か日系連隊の合言葉は『ゴー・フォー・ブローク(当たって砕けろ!)』。日系二世達がアメリカ人としてアイディンティティを証明するために、損害を恐れず戦っていたと聞いた。つまり、ホリグチ軍曹の戦意を挫く程の非道だったってこと?*3)

 

 

 

 アイオワ震える彼を見て思った。時雨のお陰で世界の崩壊は免れた。しかし、問題は次から次へと出てくる。

 

「馬鹿げた実験と野望は辞めさせないと」

 

アイオワは独断専行するOSSの副局長に怒った。時雨の任務は無駄にしたくはない。特に異質の戦艦ル級改flagshipの非道なやり方を見たのだ

 

「失われた未来」にて降伏勧告ともいえる送られたビデオ。しかし、それは拷問だった

 

捕まった艦娘達が血と涙と汗でボロボロにされた姿は衝撃的だった

 

強制収容所かと錯覚したほどだ

 

(絶対に無駄にはしない!)

 

 アイオワは心の中で呟いた。時雨まで受けた聞かされたら平常心を失っていたかもしれないが、幸か不幸か知る由はなかった

 

 

 

 一部の組織は暴走する思惑も分からないわけではない。アメリカのためと思っているのだろう。だが、彼らは知らない。アイオワ達も知らない

 

 深海棲艦は『平行世界』のテロリストのような存在ではないと。少なくとも胡坐をかいてはいない。彼女もまた進歩していた

 

 

 

マーシャル諸島の某島

 

「副局長、上陸の準備が出来ました」

 

下士官の報告を受けて副局長はうなずいた。今のところは作戦は順調である。対深海棲艦の砲弾の威力は絶大だった。戦艦『ノースカロライナ』と空母『ミッドウェー』を中核とする一個艦隊に試験運行として海軍から借りたのだ。艦長以下の海兵も何も知らされていない。対深海棲艦を倒すための兵器試験だと思ったからだ

 

軍の極秘についても了承した。こういうことには慣れている

 

しかし、マーシャル諸島まで航行せよ、という命令には流石に目を疑った

 

「私の部下を危険にさらす気か!?ハワイ奪還ならともかく、太平洋ど真ん中の島を占拠するだって!」

 

「艦長、これはアメリカのためだ。あまり騒ぐと命令違反として逮捕する」

 

副局長は冷たく言った。立場は副局長が上だ。しかも、艦隊の指揮官まで同調しているのだ

 

「船を進めろ。私は忙しいのだ」

 

艦長は素直に返事するしかなかった。救難信号を出そうにも無線室は押さえられている

 

一個艦隊はある野望のためにマーシャル諸島へ向かった

 

 

 

「ここ一帯は確保しました。後、艦長から伝言です。『指定時間まで戻らなければ問答無用で引き返すと』」

 

「そうか。……腰抜けめ」

 

尤も、ブリッジには副局長が率いる部隊が見張っている。反乱が起きても問題ない。水兵の中にこちらに同調したり、金で雇ったりする者がいるため問題ない

 

「鬼・姫級の血を入手するぞ!遺体を手に入れば、ボーナスをやる!」

 

この言葉に部隊の士気は上がった。これで、問題はないだろう。脱走兵が出た日系連隊は全員、左遷させた。実験しただけで逃げやがって

 

 

 

 OSSの副局長がなぜこの島を選び上陸作戦を立案したか?それは深海棲艦の通信から得たものだった。深海棲艦の言語は独特だ。しかし、人類の言語を理解しているらしく、違和感なく話せるらしい。現在のところ、7カ国語話せるとの事だ

 

暗号も手を焼いたが、何とか解読に成功。深海棲艦の思惑が分かったからだ

 

 マーシャル諸島の岩礁で何かをするらしい。しかも、ボスまでいると。何かの実験施設らしく、戦力を増強させるためらしい

 

 副局長はさっそく手配した。ロシアにも協力してもらったが、深海棲艦を倒した後はアメリカが天下を取る。ロシアは陽動として北太平洋で暴れてもらう。北方棲姫とやらに攻撃すれば反応する者はいるだろう

 

 予定通り、目的地に進行中。襲ってくる下級の深海棲艦がいたが、全て撃破。小銃で駆逐イ級を倒したときは歓声を上げた。こんな事はいままでなかった

 

 だが、目的についた時、彼らが目にしたものはそんな喜びも吹き飛ばすようなものだった

 

「な、何だこれは!?」

 

「そんなバカな。こんな……こんな事って!」

 

 米兵士達は困惑した。一個連隊の中隊長は一括したが、彼も動揺している

 

 昼間なのに、辺りは暗い。まるで日食が起こったかのような暗さだった。いや、太陽は出ており、明るいはずだ。だが、どういう訳か辺りが暗くなっている

 

そして、陸地にあったのは建物だ。軍港があり、短い滑走路があり、更には軍の建造物らしきものもある

 

 しかし、人はいない。無血占拠となるが、どうも喜ぶ気にもなれない。ホラー映画の撮影に最適な場所だ

 

いや、なにかが居た。ドックらしき建物の近くに何かがいた

 

銅像なのだろうか?変な台座の上に奇妙な金属製の銅像がいくつかある。しかし、何なのか分からない

 

「落ち着け!こちらには深海棲艦に通じる兵器はある。慎重に調べるんだ!」

 

「「「はっ!」」」

 

米兵達は早速、調べる事にした。周囲を警戒しながら前進し、鉄の塊に近寄った

 

「これは……」

 

中隊長は息を呑んだ。金属製の銅像ではない。深海棲艦で姿形からして鬼・姫級だ!台座の上にうずくまっているように見える。まるで胎児の中にいるようだ!

 

「何だ、これは?初めて見る。……台座に何か書いてある!翻訳しろ!」

 

すでに大学の言語学に依頼して深海棲艦の言語は読めるようになった。下士官が翻訳した所、次の名前が出て来た

 

「水母棲姫、海峡夜棲姫、護衛棲水姫、防空棲姫、駆逐棲姫、深海双子棲姫、そして深海鶴棲姫」

 

次々と翻訳している中、機械を持った技官から悲鳴じみた声を上げながら報告した

 

「副局長、こいつら……生きています!」

 

「何!?」

 

「確かです!生命反応があります!……銅像ではありません!信じられませんが……これは深海棲艦の誕生装置です!」

 

技官が叫ぶのも無理はない。誰も深海棲艦が生まれる所を見たことがないのだ。副局長は台座をよく見た。台座と思われた物は、見たことのない機械だ

 

(建造……いや、生命の誕生?ああ……神様)

 

副局長もこの時は神を拝んだ。こんな事があっていいのだろうか?

 

「もう一体います!……これは一体!?」

 

副局長は、報告してきた兵士の方へ目を向けた。黒いワンピースを着た角のある女性が金属の塊に埋め込まれるように眠っている。しかも、黒い管のようなものに繋がれている。その隣には魔物のような黒い怪物が眠っているように見える。札にはこう書いてあった

 

『戦艦棲姫の大改装実施中。予定、戦艦水鬼』

 

実験か何かか?しかし、ここで考える時間なんてない

 

「よし、運び込むぞ。この金属の人形を本国の地下シェルターに移さないとな」

 

 副局長は、自分の将来について考えていた。深海棲艦をコントロールすれば、アメリカは強力な力を手に入れる

 

ハワイ奪還が可能どころか、太平洋の主導権を握る事が出来る

 

 ソ連が崩壊したとは言え、ロシアに牽制は出来るし、日本にも睨みをきかせる事が出来る。オレンジ計画も再構築しなくてはならないかも知れない

 

そうなると日本と戦争になるかも知れないが、仕方ない。アメリカのためだ

 

彼は内心で細く微笑んでいた。しかし、兵士の絶叫に我に帰った

 

恐怖でイカれたのか?ため息をつこうとした時、絶叫の内容を聞いて愕然とした

 

「戦艦水鬼が動いている!」

 

「魔物が目覚めた!」

 

怪物は唸り声を上げ、大木のような腕で兵士を殴り殺した。兵士は肉片となり、一部始終を見ていた他の兵士は悲鳴を上げ銃を乱射している

 

「まさか、目覚めている!……怪電波の出力を上げろ!奴はこの電波に苦手だ!」

 

副局長はパニックにならず、冷静に命令を下した

 

 技師はすぐさま、電波発信器を弄った。この電波は深海棲艦に不快な電磁波を発する。浦田重工業はそれを使いワームホールの防ぐ手立てとしていた

 

 発信力は入手した兵器情報の三倍。これなら鬼・姫級も悲鳴を上げて正常な判断が出来ないはずだと

 

 しかし、魔物は全く怯まない。それどころか、金属に埋め込まれていた女性までも起きた。繋がれていた管を強引に抜くと、金属の塊から抜け出し着地した

 

 左額に角一本生えた女性は、関節を鳴らしながら目の前にいる米兵達を見つめていた

 

「……私ガ進化ノ為ニ眠ッテイル間ニ人間ガドノヨウニ変ワッタカ、貧弱ナ発明ト罠ニ掛カッタ武装集団ヲ見レバ、想像ガ出来ルナ。強クナッテ攻メテ来タト思ッタガ、失望シタ」

 

「しゃ、喋った!」

 

「英語だと!なぜ、人間の言語を話せるんだ!?」

 

米兵達は口々に言ったが、副局長はそれどころではない。罠?罠と言ったのか!?

 

「ソンナ頭痛ガスル電波二対シテ私達ガ何モ対策ヲシテイナイト思ッタカ!」

 

 米兵達は何が起こったか分からなかった。戦艦水鬼の合図で怪物艤装から無数の機銃が出現。米兵達に銃弾の雨を降らせたのだ

 

副局長以下、全員は反撃する間もなく戦死した

 

 米兵達の死体を見向きもせずに歩きだす戦艦水鬼と怪物艤装。新たな仲間の建造を目覚めさせるために近づけさせた

 

 全ては予定通り。浦田重工業の件で戦艦棲姫は仲間に対して警戒を強めた。そして、戦力も増強した。最適と思われる場所に基地を作り、仲間を増やす

 

「時ハ来タ。目覚メタマエ。戦友達ヨ」

 

 数体の銅像が合図とともに動き出した。黒色の金属肌が見る見るうちに白くなり、光沢と血色がついていく。手足も動き出し、彼女達は誕生した

 

まだ数体は動いていないが、もうすぐ誕生するだろう

 

『新タナ誕生、オメデトウゴザイマス。妹デアル戦艦棲姫モ喜ンデオラレマス』

 

「久シブリダ、空母棲姫。近クニ人間ノ艦隊ガ要ルハズダ。探シ出シテ追イ出セ」

 

『モウ全テ沈メテシマイマシタ。火ノ塊トナッテ』

 

 空母棲姫の連絡に戦艦棲姫……いや、今は戦艦水鬼はニヤリとした。空母棲姫が言う戦艦棲姫とは、二番艦に当たる。数年前、あの浦田結衣という女に負けた事実を彼女は、素直に受け入れた

 

そのため、彼女はパワーアップしたのだ。仲間を増やすとともに

 

 

 

「本当にこの海域?」

 

「はい……」

 

船を進めるアイオワ一行。ここまでの航行は問題ない。深海棲艦による襲撃も簡単なものだ

 

だが、マーシャル諸島に近づくにつれて辺りは暗くなる。太陽は昇っているのに、まるで皆既日食のような暗さだ

 

「サラ、偵察は?」

 

「ダメ。何も引っかからない……待って。海面に何かが燃えている?」

 

 索敵に放ったTBDから何か発見したらしい。燃えている?確認した所、搭乗妖精から悲鳴じみた報告をしてきた

 

 空母『ミッドウェー』と戦艦『ノースカロライナ』が燃えていると。周りは戦艦ル級や重巡リ級などが囲まれていると

 

「まさか……そんな……全滅している!」

 

 サラトガは驚くのも無理はない。対深海棲艦を搭載した兵器は全く役に立たなかった事に成る!どういう事だ!?

 

「shit!撤退するわよ!」

 

「なぜです!?」

 

「艦隊が全滅したなら、上陸したOSSの役人も死んでいる!それにここにいても死ぬだけ!」

 

 ホリグチ軍曹は抗議したが、アイオワは否定した。既に生存は絶望的だろう。救助するにしても限られている。それに、敵の拠点に近づいているのだ。敵は見逃す事は無いだろう

 

「う……うう……」

 

「サラ?どうしたの?」

 

「sorry……何だが気分が悪い。ここに来てから悪寒がするの……」

 

サラトガの顔色は悪い。気分が優れないのだろうか?

 

 いずれにしても、もう手遅れだ。艦隊に撤退を命じさせ、アイオワもサラトガを抱えた。何があったのだろう?額に手を当てたが、熱は無いようだが

 

しかし、既に手遅れだ

 

木枯らしがしたと同時に横を航行していた駆逐艦は爆発炎上した

 

「そんな!」

 

 アイオワは愕然とした。ホリグチ軍曹以下数名の船員は何が起こったのか分からずに戦死したのだろう。アイオワは周囲を警戒し、近づく艦隊を発見。だが、姿形を診て彼女は愕然とした。深海棲艦のボスとも言える鬼・姫級が接近しているのだ。しかも、多数の下級の深海棲艦を引き連れて

 

「サラ!エネミーよ!」

 

「うう……」

 

「いいわ。サラ、休んでいて」

 

 航空支援が無いのは痛いが、サラトガに強要させるわけには行かない。何とか敵の追撃を巻かなければ

 

鬼・姫級は何も発砲もせずに艦載機も飛ばしたりもせずに近づいて来る。そして、約50メートル辺りまで近づくと停止した

 

「な、何?」

 

 アイオワは警戒した。特に戦艦ル級改flagshipには警戒した。相手はなぜこちらを睨んでいるのか、首を傾げたが

 

深海棲艦の群れから一人の姫級と魔物が前に出た。ボスなのだろう

 

「オ前ノ仕業カ?我々ノ巣ニ人間ノ兵士ヲ送リ込ンダ馬鹿ハ?」

 

「what?」

 

「……ソノ反応ダト知ラナイヨウダナ。目ハ嘘ヲツイテイナイ」

 

 相手はやれやれと首を軽く振ったが、アイオワはそれどころではなかった。彼女の姿を見て感じた!それは高い知能が成せる技ではない……本能的に……『勝てない』とッ!

 

「……ン?ドウシタ?」

 

「友人が殺されたのよ。だから片を付ける!……私の火力、見せてあげるわ…… Open fire!」

 

 アイオワは問答無用で砲撃する。例え、多数の深海棲艦がいようと何もせずに降伏する訳にはいかない。16inch三連装砲 Mk.7から放たれた主砲弾は全て命中。大爆発が起こり、爆炎と爆風がアイオワを襲う

 

「Yes!命中よ!」

 

 アイオワは喜んだが、直ぐに違和感を覚えた。周りは全く反応していないのだ。それどころか余裕を感じさせる

 

 嫌な予感がした。そして、その予感は的中した。爆炎と煙が収まり、相手は姿を現す。全く効いていない!目の前の鬼も怪物艤装もかすり傷1つすらつけていない!16インチ主砲弾は弾かれたのだ

 

(全然効いていない!……助けてモンタナ)

 

モンタナ級戦艦がいればどんなに良かったか。だが、計画のみの戦艦が艦娘として召喚する事はないだろう

 

「相当、訓練サレタ強力ナ艦娘カト思ッタガ、期待外レダッタカ」

 

「貴方は誰?」

 

「我ガ名ハ戦艦水鬼。忌々シイ人ノ魔ノ手ヲ振リ払ウ為ニ進化シタ者ダ」

 

 戦艦水鬼は冷たい視線をアイオワに送った。アイオワは戸惑った。自慢の主砲が通用しない。それどころか、相手の艤装の主砲は自分が持っている主砲よりも巨大だ。異質の戦艦ル級改flagshipとは違う強さ。そのプレッシャーにアイオワは、心が折れそうだった

 

ここは引くべきだ。サラトガに先に逃げるようにしなければ

 

「仲間ノ心配ヲシテイルノカ?ダガ、オ前ノ仲間ハイナイ。既ニ我々ノ仲間ニナッテイルノダカラ」

 

「何を?」

 

「アイオワ……サラは……サラは……炎ガ…熱イ、熱イ!」

 

 アイオワは戸惑ったが、後ろから聞こえるアイオワのうめき声が、段々と怨念染みて来ている。しかも、殺気まで感じる

 

 ハッとして後ろを向けたが、アイオワは驚愕した。うずくまっているサラトガの身体に異変が起こっていた。赤毛である紙も皮膚も大理石のように白くなり、艤装も変化していく。深海棲艦になっている!?

 

「ユーは何をしたの?」

 

「何モシテイナイ。勝手ニ暴走シタノダロウ。ビキニ岩礁ト呼バレル地デ何カ嫌ナ思イ出ガアッタノカ?」

 

 戦艦水鬼は呆れたように指摘したが、アイオワは直ぐに理解した。ビキニ岩礁!『艦だった頃の世界』では米軍が水爆実験した場所だ!

 

サラトガは確か……

 

「くっ!」

 

 もう八方ふさがりだ。アイオワは怒りのあまり戦艦水鬼に砲を向けたが、相手の方が早かった。たった一発。たった一発でアイオワは大破したのだ

 

凄まじい衝撃にアイオワは吹っ飛ばされてしまった。水面に叩きつけられ、身動き1つ取れない

 

覚悟を決め、目をきつく閉じたが、何時まで経ってもトドメを指してこない

 

「何時マデ寝テイル。艦娘ハ海ノ上デモ寝ルノカ?」

 

ハッと起き上がろうしたが、身体に激痛が走って起き上がれない

 

「Why?」

 

「何故カ?1ツ聞ク。貴様ハ時雨ヲ知ッテイルノカ?」

 

「時雨……」

 

アイオワは表情には出さなかったものの、内心では驚いていた。なぜ、知っている?

 

「アイツト同ジ目ヲシテイル。強敵相手ニ挑ム目。普段ハ優シイガ、戦イノ時ニナルト険シクナル。オ前モ仲間ナノカ?」

 

「……ええ」

 

戦艦水鬼は暫く黙っていたが、やがて向きを変え立ち去ろうとする

 

「何故、沈メナイ!?」

 

「何ヲ言ッテイル。死ニ急グ必要モナカロウ。オ前ノ仲間ハ預カル。捕虜トシテ」

 

アイオワは戦艦水鬼の言っている事が理解出来なかった。情けを掛けられたのか?

 

「勘違イスルナ。先ホド仲間カラ連絡ガアッテナ。南方棲戦姫ガ退屈シテイル。好敵手ガ居ナイトナ。沈ムニハ惜シイ。今度会ウ時ハモット強クナッテカラ、コノ戦艦水鬼ニ向カッテ来イ」

 

 戦艦水鬼はそう言うと、今度こそ立ち去った。どうも、情けではないようだ。しかし、アメリカに帰る手段は無い。艦娘であるため、餓死は無いだろうが、航行は出来ない。漂流になるのは必至だ

 

「サラトガ……必ず連れて帰る」

 

 周りからは何を言われようが……生き恥を晒してもサラトガを助け出す。幸い、日本には艦娘の創造主である博士がいる。彼なら何とか出来るはずだ

 

アイオワは海流に流されながらもそんな事を考えていた

 

 

 

現在・鎮守府

 

アイオワは手を握りしめていた。過去に起こった事を

 

結果から言うと、アイオワは日本の艦娘達に助けられた。提督にサラトガの行方を捜索するよう進言した所、彼も了承を得た

 

しかし、アイオワは分かっていた。サラトガが何処へ行ったのかを

 

ビキニ岩礁には新型の深海棲艦の姫級が居座っていた。その深海棲艦は付近を通過する航空機や船舶を無差別に攻撃していた

 

 縄張りのために居座っているらしい。通信内容からして『深海海月姫』と呼ばれているとの事だ。他の艦娘が深海海月姫の姿と彼女から放つ威圧感で圧倒されていたが、長門や酒匂、そして海外留学しているプリンツオイゲンも深海海月姫の正体が分かっていた

 

戦闘に勝利し、傷ついた深海海月姫は見る見るうちに変化していった

 

「サラトガ……Sorry……会いたかった」

 

 横たわるサラトガにアイオワは涙を流して謝罪した。もう、二度と手放すつもりはなかった

 

 一連の事件において本国には報告したが、アメリカも困惑する始末だ。国内事情もややこしくなってしまったため、アイオワとサラトガはしばらくの間、留学という名目で日本の鎮守府に滞在するよう命令された

 

 アイオワもサラトガもアメリカの命令には素直に従うしかなかった。サラトガは提督の父親である博士の検査を受けた。今のところは問題はないという。ただ、なぜ艦娘が深海棲艦に変貌したのか、分からないと言う

 

アイオワは気分が落ち込んでいる最中、驚くべき事態が起こった

 

あの時雨が戻って来たのだ。アイオワは嬉しかった。深い中ではなかったが、提督から話を聞いていた。アイオワも提督に『失われた未来』の世界について話したため彼も喜んでいた

 

これで、皆は救われた。そう思っていた。だが、今度は時雨に危機が迫って来ているという

 

「ミーが行きます!」

 

「いや、待て。君が話していた戦艦水鬼が気になる」

 

提督はアイオワが出現しようとするが、提督は止めた

 

確かに助けたい気持ちは分かる。だが、今は待機だ

 

「Why?」

 

「奴は罠を仕掛けて来た。たった一人の深海棲艦の姫級が来るにはおかしい」

 

確かに深海棲艦は変化している。『失われた未来』の浦田重工業とは違う戦略

 

深海棲艦もやられっぱなしではない

 

「第二艦隊次第だ。……心配するな。金剛もいるし、神通も摩耶もいる」

 

五航戦は仮想敵機部隊の存在のお陰で強くなっている

 

あれだけ自分の不幸を嘆いていた翔鶴も瑞鶴と共に装甲空母であり、強力だ

 

 

 

『旗艦、翔鶴!敵と遭遇!第三艦隊を援護します!』

 

 

 

 

 

「チッ!忌々シイ!」

 

深海鶴棲姫は苛ついていた。目の前の艦娘を航空攻撃していたが、邪魔が入った

 

艦娘の艦載機だ。しかも、とても強い。艦戦も強力でたちまち制空権は失われた

 

急降下爆撃も雷撃も無駄がなく、随伴していたPT小鬼は全滅した 。深海鶴棲姫

 

も爆撃は食らったが、小破であり問題はない。しかし、戦力が足りない。随伴を引き連れて来るべきだったか

 

深海鶴棲姫は接近する艦隊を見た。自分と同じ顔した者が混じっている

 

『どうして私に似ているか知らないけど、仲間に手出しはさせない!』

 

相手は練度が高い。相当の訓練や実戦を潜り抜けて来たのだろう

 

こちらに向けて艦載機が飛来してくる。まだ艦載機は残っているが、このまま出しても全滅してしまうだけだ

 

しかも、偵察機まで混ざっている。弾着観測射撃するためだろう。事実、戦艦娘もいる

 

「コレデ……勝ッタ……ツモリ……?

 

ハッ!冗談……ジャナイ!帰レル……ト思ウナヨ!」

 

深海鶴棲姫は叫んだ。戦う力は無くても降伏する気はない。しかし、それに答えるようにテレパシーで伝えてきた

 

『苦戦シテイルヨウダナ。手伝ッテヤロウカ?』

 

 

 

 

 

時雨は第三艦隊が深海鶴棲姫を攻撃しているのを眺めていた。敵の空襲で悩ましていたが、翔鶴と瑞鶴の艦載機によって助けられた

 

五航戦の強さは強力で、たちまち形成が逆転した

 

『私に任せるデース!』

 

金剛は張り切っていた。何しろ、姫級がいるのだ。何度も大海戦に出ていたため、金剛はこのような事は慣れている

 

35.6cm主砲が仰角を上げている。戦艦の主砲を食らえば相手も只では済まない

 

『バーニング、Lo――』

 

その時だった?金剛が主砲を発射する直前に爆発が起きた。事故か?

 

いや、第三艦隊は一斉に金剛から離れた。摩耶は大破し倒れている金剛を無理矢理引っ張りながら無線で叫んだ

 

『砲撃だ!しかも……この威力は、戦艦だ!』

 

『気を付けろ!敵は何処かにいます!』

 

神通の警告に周りは警戒する。ここで反転して逃げ出すのは不味い。追撃される危険性がある

 

深海鶴棲姫も動きを止めた。攻撃もして来ない。だが、五航戦を睨んでいる

 

一瞬の静寂

 

 

 

「敵弾来ます!回避!」

 

雪風が静けさを破った。根拠はない。直感である。しかし、第二艦隊である天龍達は一斉に回避行動に移った。幸運艦は伊達ではない

 

回避行動している中、木枯らしのような飛翔音が聞こえ、巨大な水柱が複数立ち上がった。あのまま、移動していなければ確実に大破してただろう

 

下手すれば撃沈していたかも知れない

 

「雪風、よくやった!しかし……何で俺達しか狙わねーんだ!」

 

天龍は悪態をついた。それもそのはずで、第三艦隊には攻撃していない。こちらを狙っている

 

「一体、何処から?」

 

「天龍さん、分かったよ。海中から撃ってきている。一瞬だけど、海面から深海棲艦の砲塔が見えた」

 

天龍の疑問に時雨は答えた。周りは唖然とした。あんな状況で見つけたのか?

 

「敵は何なんだ?」

 

「分からない。だけど……いる」

 

時雨は落ち着かせるために深呼吸をした。このままでは敵の思うつぼだ

 

天龍は翔鶴に現状を伝えたが、相手は混乱していた。摩耶は電探を装備しているが、深海鶴棲姫以外の反応は無いと言う

 

皆は警戒する中、時雨は見つけた。離れた所に海面から僅かに砲塔と電探のアンテナらしきものが出ているのを!形から見て深海棲艦のものに間違いない!

 

敵は潜望鏡のように覗いていたのだ!

 

素早く主砲を放つ時雨。天龍達もそちらの方向へ射撃を行う。金属のようなものが水しぶきと共に飛ばされたのを見ると少なくとも、ダメージを与えたようだ

 

「よっしゃ!これで――」

 

天龍がガッツポーズする中、攻撃した所から何かが浮上して来た。それと同時に威圧感と殺気が増し、時雨を含めその場にいた艦娘達全員が顔を引き締めた

 

「あ、ああ……」

 

満潮は巨大な怪物艤装を見て戦意が失せた。それもそのはず、筋骨隆々の四肢をもつ双頭の魔獣が現れたのだから無理もない。そんな怪物艤装を従える黒いドレスの妖しい女性も現れる

 

『あれは……度々目撃されていた……戦艦水鬼!戦艦棲姫の上位個体よ!』

 

瑞鶴が震えながら無線で伝えた。こいつは深海棲艦の中で屈指の攻撃力と防御力を持つ。噂では、20インチ連装砲を保有していると言う

 

皆が固まっている中、戦艦水鬼は第三艦隊を睨んだ

 

「チッ!全員逃げろ!天龍様が相手になってやる!」

 

天龍は刀を構えると同時に駆逐艦娘に逃げるよう命じた。とてもではないが、駆逐艦娘には敵わない

 

だが、戦艦水鬼は鼻で笑うとある艦娘に目をやると、ニヤリと笑った

 

「時雨……マタ会エタナ。記憶ノ片隅ニトドメテオイテ正解ダッタ」

 

「し、知り合いなの?」

 

満潮は戦艦水鬼にめをやりながら時雨に聞いた。なぜ、敵は時雨を知っている?だが、時雨は返事はなかった

 

忘れもしない。この殺気と威圧感。話し方も遠い過去のように聞いた事がある

 

「まさか……あの時の戦艦棲姫?」

 

 

 

浦田結衣に敗れコンクリート詰めにされた戦艦棲姫。提督達がある作戦のために掘り起こして自由にした。武蔵からは仲間を連れて何処かへ行ったと聞かされたが

 

「ドウヤッテ戻ッタカ知ラナイガ、コノ戦艦水鬼ト戦ッテ貰ウゾ」

 

怪物艤装に装備されている巨大な砲塔がこちらに向けて来る。本来なら怖気づいてしまうだろう。明らかに大和型戦艦に装備されている46cm主砲よりも大きい

 

武蔵の51cm主砲と同等だ

 

だが、時雨は逃げようとはせず、それどころか前に歩きだした

 

「まさか、君ともう一度戦う事になるとはね」

 

あの巨大な主砲の威力と攻撃力は身に染みている。浦田結衣がH44改並の強さを持っているのは確かだ

 

しかし、戦艦水鬼と浦田結衣の違いはある。戦艦水鬼は純粋な戦艦である。そして、戦いに誇りを重んじている深海棲艦だ

 

『アカシックレコード』で見た時の戦艦棲姫は、ハワイで沈めた軍艦の数を数えていた。敵には心を許さない一方、仲間想いがある。実際に浦田結衣の反乱の時には、彼女は激昂していた

 

 アイオワの話も戦艦水鬼は、大破したアイオワを放っておいた。戦意喪失した者には手を出していない。そういう性格らしい

 

そして、目を付けられたのも身に覚えがある

 

 コンクリート詰めから掘り起こした日、暴れる戦艦棲姫と戦ったのだ。魚雷と12.7cm主砲を巧みに使ってやり合ったのだ

 

戦艦棲姫にダメージを与えたのだから、嫌でも相手は覚えている。しかし……まさか武蔵のように進化したのか?

 

だが、今はそんな疑問はどうでもいい

 

目の前の敵を撃退しなくては

 

「君のような姫級と戦えて僕は嬉しいよ。だけど……また勝たせてもらうよ」

 

 

*1
当時のディ○ニーアニメでは対日プロパガンダなど流していたという。日本兵の姿も眼鏡を掛け出っ歯の格好をしている

*2
戦略事務局の事。CIAの前身

*3
史実において当時の米軍はハワイとアメリカ本土の日系人(二世)から編成した部隊を作っていた。特に第442連隊は勇猛で死傷率は全米軍の中で高かったと言う




時雨、嘗て出会った戦艦棲姫と会う
しかし、相手も進化していた

アイオワ視点となりましたが、浦田騒動から四年間、何が起きたか簡易的に記しました。太平洋戦争時の史実ネタも多少ながら入れています

戦艦水鬼は20インチ砲……つまり、50.8cm主砲を積んでいます(公式設定)
何の軍艦をモデルにしているのでしょうか?

時雨を好敵手と見て挑みますが、時雨も引き下がる訳には行きません
まあ、浦田結衣(戦艦H44改)と戦った経験がありますから問題はないでしょう


余談ですが、来月(3月)あたりで本編は終わる予定ですと前話あたりで言っていましたが、後から考えて終わるのはまだ先になりそうです
ラストですから手抜きする訳にも行きません
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