早速、ワルサメちゃんである駆逐棲姫に会いに行きました
……甲は強いです
いや、マジで。わるさめちゃんがとてもすばしっこいのです。回避高くて全然当たりません。PT子鬼群並の回避力があるのではないかと思った程です
『T字』『疲労度』『装備』『練度』を真剣に考えないと勝てません
とは言っても春雨に特効はあるらしく(?)、春雨とワルサメとの戦いが今も行われています
「む、無茶よ。駆逐艦がアイツに勝てる訳ない」
朝雲は声を震わしながら叫んだ。時雨はやる気だ。だが、とてもではないが勝てるとは思えない
「時雨、逃げましょう!私達だけでは無理よ」
朝雲の言っている事は正しい。駆逐艦が戦艦に勝てる可能性は低い
ダメージを与えられる兵器も魚雷くらいだ。朝雲も怖じけるのも無理はない
しかし、時雨の答えは正気を失うようなものだった
「大丈夫。僕は負けない。皆は逃げて」
「いや、時雨。幾らなんでも――」
「ええ、いいでしょう。但し、時雨だけ戦うのではありません」
朝雲の抗議を遮るように不知火が言った。時雨に近づくと、戦艦水鬼の方へ睨んだ
「どうして?」
「もう、目の前から消えないで下さい。貴方だけ強くても戦況は変わりません」
不知火は微かに微笑んでいた
「いいぜ。戦って死ぬのも悪くない。龍田に怒られるかも知れないけど、英雄さんを死なすわけにはいかないしな」
天龍も刀を手にしながら時雨の横に立つ
天龍も不知火も一緒に戦う気だ
「そんな……僕のために……」
「そんな事はありません。雪風も時雨も沈む訳にはいきません!」
「ゆき……かぜ……?」
いつの間にいたのだろう。雪風も近くにいた
「ダメだよ!雪風は――」
「雪風は沈んだりしません!時雨も最後まで生き残ったのです。雪風もできるはずです!」
雪風の目は真剣だった。『失われた未来』では幸運は発揮したものの、現代兵器に対しては通用しなかった
時雨が建造されたときは既に沈んでいた
「何で?」
時雨は掠れたような声で聞いた。僕が守らないといけないのに
「……時雨は1人ではありません。所詮、1人の艦娘……いえ、1人の軍艦が強かろうと守る範囲は限られています」
不知火は静かに言った
「それに、時雨だけ背負い込んでも私達まで不安にさせないで下さい。私達は仲間です。もう……あのような世界ではないのですから」
時雨は何も言わない。そうだ、今は違う
「分かった」
時雨は強く頷いた。もう、1人ではない
「遠征なのに、敵と戦うなんて……。私がいなきゃ話にならないじゃない!」
「皆と無事で帰れるかどうか心配になって来たわ」
満潮も朝雲も不平不満に呟いていたが、留まる事になった。全速力で逃げても相手は逃がしてくれないだろう
それに、強敵相手は何度かやった事がある。仲間も大丈夫のようだ
「ごめん、僕のために……」
「いいから、さっさと倒して帰るわよ!」
満潮はきっぱり言うと戦艦水鬼に主砲を向けた。戦艦相手に駆逐艦の主砲は豆鉄砲だが、何もしないよりかはマシだ
「提督、聞こえているか。これから戦艦水鬼と戦う」
『気を付けろ』
提督は短い言葉で返信した。満潮は冷たいわね、と鼻で笑ったが
「作戦会議ハ終ワッタカ?」
戦艦水鬼は目を細めた。こちらの押し問答の間、相手は攻撃せずに待っていたのだ。礼儀正しいのか?それとも、戦闘能力に自信があるのか?
「僕は君を倒してみんなと帰る!それだけだ!」
雨は降らないだろう。いや、天候に頼らなくても帰って見せる。以前もそうだった
「駆逐艦ニシテハ中々ノ度胸ダ。泣キ叫ブト思ッテイタガ」
「僕は負けない。絶対に!」
「思ッタ通リダ!オ前達ハガラクタデハナイ!全身全霊ヲ持ッテ貴様ヲ沈メル!」
戦艦水鬼はニヤリと笑うと時雨達に指を指した。怪物艤装はそれに応えるかのように叫び時雨達に砲塔を向けた。一斉射撃。戦艦水鬼の主砲は20インチ砲……50.8cm主砲である
巨大な水柱が時雨達に立ち上がったが、時雨達は砲声と共に回避行動を取ったため直撃は免れた。時雨は戦艦水鬼の副砲がこちらを向けても気にはせず、それどころか突進して来た
「酸素魚雷を積んで良かった」
酸素魚雷は威力は高く、雷跡は無いので優れているが、やはり無誘導であるため当てるためには相当の技量が必要だ。
しかし、相手は大型であり、後ろには怪物艤装がある。距離が近い事もあり、あれに当てれば傷つくはずだ
魚雷が直撃、水柱が上がった。時雨を始め、そこにいた艦娘達は歓声を上げたが、水しぶきが収まると驚愕した
「アラ、何カシタノ?」
「嘘?全然効いていない」
いつも言葉使いがキツイ満潮もこればかりは驚いた。一発とは言え、酸素魚雷がほとんど効いていない?
「なら、何回も当てるまでだ!」
「ソレハドウカシラ?」
怪物艤装は咆哮を上げながら20インチ砲がこちらを向き発砲していく。いや、断続的に射撃をし、他の者までも砲撃を行った
艦娘達は回避していたが、やはり全て交わすのは難しい。朝雲に命中して大破。不知火は至近弾を受け小破である
「そんなんで、不知火は沈まない」
「何時マデ持ツカシラ?」
「真っ二つになっても復活します!」
ギロリと睨む不知火。威圧感を放つ眼光は伊達ではなく、近くにいた満潮も後退りしたほどだ
しかし、相手は戦艦水鬼。怯むどころか、歓喜していた
「思ッタ通リヨ。戦艦水鬼二沈メラレル資格ガアル」
戦艦水鬼の砲撃は熾烈になった。巨大な水柱があちこちで立ち上がり、その度に艦娘達は水を被っていった
遠くにいた第三艦隊である翔鶴達も援護に向かおうとするが、深海鶴棲姫が邪魔して救助に行けない
それどころか敵に助っ人が来たのだ
「私ガ……オ相手……シマス」
白と緑色の巨大なモノが浮上すると、五航戦の艦載機を狙い撃ちした。強力な火力と対空射撃で彗星一二甲と流星改を次々と撃ち落としていく
「そんな……直掩隊も援護に――」
「翔鶴姉、ダメ!以前に戦った防空棲姫と同じ防空能力を持っている!艦載機が無くなってしまう!」
瑞鶴は直ちに攻撃中止を命じた。一年前に確認された深海棲艦の姫級の防空駆逐艦。精密な対空射撃と弾幕を張る。そのため、空母組はこの姫級の駆逐艦に散々、手を焼いた
空母は柔軟性や汎用性が高く、制空権を取るのには欠かせないものだ。但し、艦載機があればの話だが
片っ端から撃ち落とされては、空母は攻撃手段を持たない。艦爆や艦攻が全滅したのも珍しくない
ボーキサイトは貴重であるため、艦載機の損失は痛い。今は昔と比べて豊富であるため問題はないが、大量に損失しては被害は無視できない
提督は浦田重工業が別世界から持ち込まれたイージス艦よりかはマシだと言ってはいるが、それでも秋月達よりも強力な防空駆逐艦であるには間違いない
防御力も攻撃力も高く、頭が痛い存在だ
更に深海鶴棲姫は仲間を呼んだらしく、下級の深海棲艦を呼び寄せた。水平線から黒い艦隊がこちらに向かってくる
第三艦隊は時雨達を助けるどころではない
「おい、このままでは私達も全滅する!提督に増援要請を!」
「既にしたわ。しかし、来るかどうか……」
「何でだ!金剛は大破して本来の力を発揮できないんだぜ!?」
摩耶は鳥海の報告を聞いて叫んだが、神通はそれどころではない。随伴していた北上も神通も顔を見合わせた
微かであるが、提督の声に混じって爆発音と砲声が聞こえたからだ
「あの深海鶴棲姫……トロイの木馬である可能性があります。艦娘に似た深海棲艦を見れば興味を引くのではないかと思ったのでしょう」
「鎮守府に奇襲かけるつもりが、時雨と不知火に見破られてしまったから強襲になっちゃった訳ね」
神通の推測に、北上はため息をつきながら反応した。酸素魚雷はまだまだあるため、問題はない。しかし、全員無事に帰れるかどうか……
「持ちこたえるしかありません。提督は15分待ってくれと」
鳥海は第三艦隊全員に伝えたが、皆は絶望なんてしていない。提督は切り捨てるような人ではないからだ
ただ、ちょっと時間がかかると
「日頃無理しているため問題はないデース!」
大破しながらも金剛は立ち上がると攻撃態勢に入る
時雨達が戦艦水鬼と深海鶴棲姫が率いる深海棲艦の艦隊と交戦している中、鎮守府は襲撃を受けていた
初め深海鶴棲姫の亡命の知らせを聞いたときは不審に思った。深海棲艦の亡命なんて聞いた事がない。いや、そういう類いは聞いた事がある
実はある日の事、過激な環境団体が深海棲艦を保護するようキャンペーンを上げた事があった。初めは小さな市民団体だったが、時が立つに連れて規模は大きくなり、マスコミも政治家も彼らを援助するようになった
浦田重工業が深海棲艦を手懐けたのなら、自分達も出来る
勝手な思い込みが、社会問題となってしまった。市民団体は軍だけでなく、艦娘にも敵視し出したため、提督はやむを得ず艦娘の外出を一定期間、中止したほどだ
しかし、それは意外にも早く瓦解する事となった。
まず、深海棲艦はイルカやクジラのような大人しい野性動物ではない
次に深海棲艦はシャチやサメよりも危険な集団である
更には深海棲艦は知能もあり、組織的である
友人を訪れるような感覚で接触しようとした市民団体もマスコミも政治家も例外なく攻撃を受けた。特に戦艦レ級が可愛らしい仕草で近づいて来たときは、活動家達は喜び、友達になったと無線で盛んに発信していた
その後の彼らの行方は分からない。後日、漂流している活動家を海軍が発見したが、彼は何かに怯えて話そうとしなかった
また、北九州にある大学の海洋研究所は深海棲艦の危険性をマスコミを通じて必死に伝えた。自分達の都合のいいように勝手に解釈しているだけだと市民団体達に警告を行った
このため、深海棲艦の保護団体を名乗る人達は減っていった
九州は四年前に佐世保を初め深海棲艦の攻撃を受けたのもあるだろう。復興のためにと会社を興したらしい。深海棲艦の目撃情報を寄越してくれる
提督は浦田重工業を倒すためにワームホールを開放し深海棲艦を呼び寄せた事があるため、複雑な気持ちだった。もし、やらなかったら浦田重工業は暴走していただろう
実は提督も知らないが、佐世保を壊滅させられた泊地棲鬼を見た市民達である。旧史においては佐世保を拠点にしていた時には、反艦娘団体になっていた。但し、余りにも幼稚な考えであったため浦田結衣に殺されてしまったが
佐世保の市民達は、浦田重工業の反乱が起こった日から、深海棲艦を独自で研究していた。初めはボランティアのようなものだったが、今は私立大学を作り、海洋研究所として構えている
『失われた世界観』では艦娘を嫌っていた彼等は、『改変された未来』では海軍、特に艦娘に協力的であった。特に深海棲艦の目撃情報は大変役に立っていた
特に新型の深海棲艦の情報については役に立った
尤も、敵は通常の攻撃では沈まないのが難点だが
よって、鎮守府や関東地方にとっては突然の事だった
「空襲ゥッ!!」
横浜に空襲警報が鳴り響いた。対空電探が数十機の深海棲艦の爆撃機が飛行していたのを探知していたためである
「艦娘は何をしているんだッ!!」
市民の避難活動をしていた一等兵はそう叫んだ。深海棲艦の爆撃機が来たら、死傷者や損害が出るだろう
横須賀鎮守府にも敵機襲来を確認していた。先程の新型の深海棲艦もあって待機していた艦娘もいたこともあり、迅速に動けたのだ
生憎、二航戦を中核とする第一艦隊は出撃しており、伊勢日向と雲龍姉妹の数人は博士の依頼に行ったため、通常よりかは少ない。提督と数人の艦娘は地下に籠っている。万が一、指揮官が死んでしまっては作戦は困難になる
しかし、負ける要素はない
既に対空電探が南方から飛来する敵攻撃隊を探知したため、迎撃機を上げていた
艦娘の艦載機ではない。基地航空隊の局地戦闘機と陸軍機である
一式戦闘機『隼』、三式戦闘機『飛燕』、四式戦闘機『疾風』、雷電や紫電改などが舞い上がり、深海棲艦の航空機を次々と撃墜させていた
しかし、数は圧倒的に多い。200機以上はいるだろう
「やむを得ない。龍譲、千歳、千代田、瑞鳳!艦載機を上げて迎撃させろ!」
「「「「はい!」」」」
四人の声が唱和した。龍譲は式神で、瑞鳳は弓矢を放ちながら艦載機をあげる。千歳と千代田は棺桶のような艤装を使う。それが、複雑に変形して、蓋が開くのだ
二人は両手の操り棒を操作して艦載機を発艦させた
零式艦戦52型、烈風、紫電改二、紫電改四が舞い飛び上がり、敵機の迎撃に向かった。上空では空中戦が熾烈に行われており、善戦はしていた
しかし、敵機は損害をものとせずに本土まで飛来し、爆撃を行ったため被害は少なからず出てしまった。秋月達は必死に対空射撃を行っていたが、全て防ぐ事は出来ない。数が多過ぎるのだ
完璧な防御は存在しない。現代兵器ですら無敵ではないのだ。でなければ、自分達は浦田重工業を倒す事なぞ出来なかっただろう
「提督、第二派が来ます!」
「待機させた赤城加賀とサラトガを向かわせろ!……全く徹底的に叩く気だな!」
第一波は撤退したが、直ぐに第二波がやって来た。明らかにこの鎮守府を叩き潰すために攻撃している。市街地も攻撃目標だが、鎮守府が優先らしい。第二派は別動隊だと考えて良いかも知れない。提督は待機させた一航戦とサラトガに出撃を命じた。軽空母の艦娘は補給が必要なため、引き下がらせた。基地航空隊も補給のために撤退した。艦載機の消耗も大きかった
唸るエンジン音に機銃の音が響く。次々と敵機を撃墜していった
「恐らくあの敵機は、陸上型深海棲艦のものだろう」
「ええ……あの姫はよく飛ばしてきますから」
鳳翔は呟いたが、思い当たる事があったからだ。大規模作戦が行われた際に高確率で出会う航空攻撃。臨時に作られた基地航空隊にも爆撃する始末である
偵察機でははるか遠くの海域から飛行場姫やリコリス棲姫が艦載機を飛ばしているという。秋月達や摩耶は奮闘したが、やはりこの攻撃は痛い
「奇妙な光景です。米軍機と日本機が並んで敵と戦うなんて」
「そんなに珍しいか?」
提督は笑ったが、近くに居た大淀はそうでは無かった。艦娘の記憶にある『艦だった頃の世界』の戦争。常に米軍機と戦っていた彼女達にとっては不思議な光景だと言う
しかし、太平洋戦争を経験した事はない提督はそんな実感は沸かない。いや、艦娘達も同じである。確かに米軍の猛攻で日本海軍の軍艦は沈んだが、艦娘となった彼女はあまり気にはしていない
龍譲曰く、人間との価値観の違いという事であるらしい。龍譲はサラトガに沈められたが、彼女はサラトガと仲良く話していると言う。アイオワも日本の艦娘と打ち解けている。ドイツやロシアの艦娘も同じである……尤も、龍譲は別の事を気にはしていたらしいが
大日本帝国を恨む余りに世界を攻撃した浦田社長は、こういった事を知らないようである
「今の所は何とか行っているな」
「日頃の訓練の成果ですね。仮想敵機部隊と一航戦のお蔭……ッ!提督、深海棲艦の艦隊が接近中!駆逐ハ級、軽巡ツ級、重巡ネ級、戦艦ル級……いえ、これは戦艦ル級改flagship!」
鳳翔が放った偵察機が見つけたのだろう。浦賀水道から接近する艦隊を見つけたと言う
戦艦ル級改flagshipの報告を聞いて緊張が走ったが、皆は落ち着いていた。異質なものではないのは確認済みだ。浦田結衣に化けていれば直ぐに分かる
「どうやら敵は戦艦ル級改flagshipを出せば艦娘は逃げるだろうと思っているらしい」
「舐められたものだな」
長門は苦々しく言った。無理もない。敵は浦田重工業が生み出した怪物となった元を送り出した。どういう意図があるか知らないが、舐められているのは確かだった
「長門、霧島!古鷹と川内を率いて迎撃に向かえ!利根と筑摩も連れて行け!」
「いいだろう。改装されたビッグ7の力、侮るなよ」
長門は改二になっており、以前よりも強力な力を持っていた。あっという間に沈めるだろう。少なくとも、負ける要素はない
霧島と長門を率いる艦隊は直ちに出撃し接近する敵艦隊と交戦した。砲撃戦が発生したが、勝負は数分で決した
長門と霧島は戦艦ル級改flagshipを優先的に攻撃。敵は恐ろしい悲鳴を上げながら沈んでいった
かつて苦戦を強いられた異様な戦艦ル級改flagship。違う存在とは言え、やはり倒した時は皆は喜んだ
「フッ!私を沈めるのならH44改でも呼んで来い!」
長門は叫ぶのも無理もない。駆逐ハ級などは旗艦がやられたため、一目散に逃げたのだ。あの時の敵と比べて弱く感じてしまった程だ
皆が喜んでいる中、突然、辺りに巨大な水柱が立ち並んだ。砲撃か?
「敵艦見ゆ!……あれは?」
霧島は辺りを見渡し敵影を見て驚愕した。以前、会った事がある姫級……
浦田社長や警備隊長を殺害した深海棲艦のボス。結衣に沈められたが、進化して復活した姫級
「貴様達カ。マタ、再ビ会エルトハナ」
南方棲戦姫が戦艦レ級や他の深海棲艦を引き連れてやって来たのだ。忘れもしない。あの艤装、あの威圧感。南方に拠点を置いている深海棲艦がなぜ、ここに?
古鷹や川内が戸惑う中、長門は不敵の笑みを浮かべた
「なるほどな。戦艦ル級改flagshipを送り出せば、私達が泣き喚くと思っていたのか?」
「当テガ外レタ。シカシ、楽シメソウダ。退屈シノギニハナリソウダ」
南方棲戦姫は悲鳴のような声を発すると戦艦レ級も他の深海棲艦も呼応するかのように叫んだ。それは怨念のような声で辺りを響かせたのだ
余りの音響に動揺したが、彼女達は撤退する気はない
「水底ニ落チテイクガイイ!」
「全主砲、斉射!て――ッ!!」
長門の掛け声と南方棲戦姫の雄叫びが重なり、更には幾多の砲声が鳴り響いた。かつては強敵である浦田結衣と共に一時的に手を結んだ二つの軍団は、今や対立していた
深海棲艦は所詮、敵である。どのような生命体なのかは不明だが、人類とは相いれない存在であるのは確かだ。如何に市民団体が唱えようが、現実は変わらない
「敵は攻勢に出たのは珍しい。叩くのは良いが、今はあの深海棲艦の艦隊を相手している場合ではない」
提督は地下の作戦会議で皆と一緒に机の上に広げられた海図を睨みながら言った
「ああ、第二艦隊と第三艦隊を助けないとな」
「それもあるが、502部隊がキャンプしている島に深海棲艦が現れたとの事だ。こちらも助けたいが、相手は戦艦だ」
しかし、南方棲戦姫を率いる艦隊が邪魔している。通り道が浦賀水道しかないのだ
敵はこのタイミングを期に攻めて来たらしい。深海棲艦の天敵は、艦娘。なら、拠点を潰せばそれでいい
「深海鶴棲姫が現れる直前にビスマルク達に向かわせたお蔭で押し返す力が足りない」
長門から連絡があったが、やはり分は悪い。戦艦レ級もいるお蔭で被害が甚大だという。更には第四派の敵機が飛来して来た。空母組は応戦したが、空母ヲ級や軽空母ヌ級が複数いるお蔭で空も突破口が見つからない。敵は輪形陣を組んでいるため、容易ではない
つまり、第二艦隊と第三艦隊を助ける事が出来ない。陸攻を送り込む事が出来ない
「提督、提案が」
「何だ?」
大和は意見具申を述べたが、彼女の口からとんでもない事を言った
「戦艦大和が出撃します。他の艦娘と共に艦隊を突撃するのです」
大和の提案にその場にいた艦娘達は顔が引きずった。提督は大和が何をするのか、分かった
「水上特攻を命じろと?」
「希望者もいます。命令があればすぐにでも――」
「ダメだ。そんな命令は下せない」
提督は大和の提案を却下した
「確かに無理に突撃すれば突破できる可能性はあるだろう。犠牲を出してでも勝てと?」
「しかし、このままでは全滅してしまいます!」
大和も必死になるのも無理はない。何か手を討たなければ誰かが戦死するだろう
「博士がいれば私達は建造出来ます。同じ艦娘は存在しない。そう仰っていました。建造ユニットさえあれば、艦娘も建造出来ます。この国さえ守れば――」
「確かにそれを実行すれば、成功するかも知れないし、俺も生きられる。だがな、それをやったらこの国を守る価値は無くなる。そうは思わないか?」
「え?」
「俺達は何のために生き残るんだ?ただのうのうと生きるためか?折角、浦田重工業という魔の手を払いのけたのに、艦娘に死ねと命じるなんて」
提督は声を荒げた。確かに戦争は犠牲が付き物だ。しかし、今の考えは浦田社長が喜びそうな作戦だ。戦艦H44改との戦いで何も学んではいないのではないか?
「俺は、戦力を維持したいだけではない。『誰も失いたくない』からだ。絶対に倒せないと思っていたH44改だって倒した。どんな要素があろうが、実際に勝った。田村一尉が言っていた通り『無敵はいない』という事が証明されたんだ」
「提督……」
「だが、あの時……時雨は消滅した。心に穴がぽっかりと開いた。それと同時に恐れた。今まで親しかった艦娘が居なくなるという事も。……親父もそうだった。顔を見合わせていた友人や威勢のいい先輩が戦場で散った。だから、散って行った戦友の悲しみは分かる。本当は1人だって戦場なんかに送りたくはない」
地下室は静まり返った。皆の目が提督に集まる
「誤解はしないで欲しい。君達の勇気と戦意を侮辱するつもりはない。しかし、俺は毎日艦娘達を見ている。友人と笑い、間宮の甘味を喜び、将来を語ったりしている。……本来なら国が守るべき存在だ」
無論、女性の兵士や軍人はいる。だが、幼い子供が戦場へ行くとなればどう思うのだろう。いくら誤魔化しても何も知らない人達からは『少年兵』に見える。子供や婦女子を無理やり戦闘員にする国は末期に近いと言っていい
「……提督、ごめんなさい。大和はただ……」
「気にするな。時雨を助けたい気持ちは分かる」
大和も思う気持ちもあるだろう
「だが、どうやって突破する?この武蔵でも多数相手には骨が折れる」
南方に拠点を構える艦隊の戦力は相当なものだ。特に戦艦レ級の姿は確認されており、その強さは強力だ
「……少なくとも、翔鶴と瑞鶴に艦載機を送ろう。それだけでも時間稼ぎにはなる」
「しかし、制空権を取らなければ……。一式陸攻が撃ち落されるだけです」
「誰が一式陸攻を使えと?明石、新型機を使え。もうテストは済んだだろう」
皆は何を言っているか分からなかったが、明石は分かっていたらしく唖然としていた
「確かに完成はしていますが、無茶です。まだ、装甲空母の発着艦もやっていないのですよ!」
「テストはやっただろ。それにあの速さでは追いつけまい。基地航空隊に連絡するんだ。滑走路が使えなくなる前に」
「もうどうなっても知りませんよ!」
明石は不平不満を言いながらも無線で通信を行った。まさか、あの機体を使うとは……
基地航空隊では騒然としていた。搭乗員の妖精は、格納庫にある機体を引っ張り出した
新型機ではあるが、実戦に使えるかどうかと聞かれると微妙だ。爆装は出来たが、戦艦相手に通用するかどうか
しかし、何もしないわけには行かない
ある一航空隊が滑走路を走り、物凄いスピードで上昇したのだ。赤城加賀達は手を振り、龍譲達は歓声を挙げていた。全くとんでもない事を考えている
空母ヲ級は目を見張った。何かが空を飛んでいる。物凄いスピードだ。浦田重工業が保有していた航空機よりも遅いが、深海棲艦の艦載機では追えない
60機近くの航空機は、敵機を簡単に振り切ると全速力で時雨達にいる海域へ向かった
「ドウシタ?コノ程度ノモノ?」
深海鶴棲姫は嘲笑っていた。瑞鶴も翔鶴も多数の艦載機を失ったのだ。時雨を助けに行くどころか、敵を倒せない。それどころか、鎮守府も攻撃を受けていると言う
(艦載機があれば……)
瑞鶴は歯ぎしりした。翔鶴は中破したが、装甲空母なので発着艦は問題ないだろう。問題は攻撃隊が新型の防空駆逐艦によって全滅に近い損害が出た事である。艦戦だけ持っても話にならない。遠くでは時雨達が戦艦水鬼相手に戦っている。奮闘しているため、誰も被弾していない。いや、朝雲が大破している。大破している状態で戦っているのだ。もし、これ以上のダメージを受けたら撃沈してしまう。一刻も助けなければ!
「コレデモ……クラエ……!」
だが、現実は非情だ。敵は多数の艦載機を飛ばして来た。まだ余裕はあるが、このままでは消耗するだけだ
瑞鶴は発艦するために弓を引いたが、矢を放つ直前に無線が入って来た
『翔鶴、瑞鶴!聞こえるか!?』
「提督さん!?鎮守府はどうなっているの?」
『こちらの事はいい!いいか、増援を寄越した。艦載機を受け入れる準備をしろ!絶対に壊すなよ!』
「提督さん、どういう意味!?」
瑞鶴は困惑した。艦載機を受け入れる準備をしろとはどういう事か?土壇場で艦載機を開発したのか?しかし、新型の防空駆逐艦が居る限り、落とされるだけだ。瑞鶴が今度こそ矢を放とうとした時、翔鶴が鋭い声を上げた
「瑞鶴、あれ!」
「ッ!あれは……提督さん、あんなものを開発していたの!?」
翔鶴と瑞鶴が驚くのも無理はない。新型艦載機は幾度も装備された事もあって珍しくは無くなった。だが、飛来して来た航空機は五航戦も驚いた
「何ダ……アレハ?」
「ッ!速イ!」
防空埋護姫も深海鶴棲姫も驚愕した。こんな速さで飛ぶ航空機は見た事が無い。強力な機銃掃射で深海棲艦の艦載機を撃墜すると、防空埋護姫にロケット弾を受けた。対空射撃を行ったが、速すぎて追えない
『荷物は届いたか?』
「提督さん、無理し過ぎ」
翔鶴も瑞鶴も話は聞いていた。新型機による発着艦のテストも。シミュレーションを行っていたため、新型艦載機の着艦は難なく終えたのだ
「噴式戦闘爆撃機を送るなんて。燃料切れ起こしたらどうするの!」
『航続距離ギリギリにお前達がいるから問題はない』
「滅茶苦茶よ。……でも、サーンキュ!」
瑞鶴は飛行甲板に乗っている噴式である橘花改を眺めながら答えた
提督が送り込んだ艦載機は艦偵型である試製景雲を改装した噴式景雲改。もう1つは橘花改である
浦田重工業のようなジェット機でなくても、自前のジェット機生産は可能だ。但し、取り扱いは悪い
「イイワ。海ニ沈メテ上ゲル!」
深海鶴棲姫は笑った。まさか、こんな機体を寄越すとは
戦艦水鬼が言った通りだ。好敵手だと
五航戦と深海鶴棲姫との間で空戦がまた繰り広げられたのである
おまけ
明石「基地航空隊の飛行隊に名前を入れては?」
提督「良い考えだ。……これでどうだ」
基地航空隊
1,コトブキ飛行隊 使用機体 一式戦闘機『隼』
2,カナリア自警団 使用機体 紫電一一型
3,ハルカゼ飛行隊 使用機体 三式戦闘機『飛燕』(九七式戦闘機は古すぎたため……)
明石「……提督も、少し修理したほうが良いみたいですね(荒野のコトブキ飛行隊を見たのね…)」
提督「そうか。なら、X-02S『ストライクワイバーン』を」
明石「もっとダメです(チートですよ、それ)!」
艦これが二期になってから噴式はあまり使わなくなった……
苦労して改修と開発したのに
もう少し強くしてもいいのに……と思ったりします
噴式の説明は次話になります