時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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皆さん、お待たせしました
新年度の事もあってバタバタしています
五月か令和に変わるとの事。そして、春イベントが開催されるとの事
ゴールデンウイークってこんなに忙しかったかな?


第118話 証人喚問と始まりの地

 鎮守府の復旧は意外にも早く終わった。重機と工廠妖精のお陰もあるが、やはり艦娘達のお陰でもある

 

 損害は軽微である。但し、死傷者は出てしまったのが痛かった。避難していた町の人は、空襲警報が解除された後は、それぞれの家に戻った。破壊された公共機関や家は、復興が行われた

 

 四年前の反乱でも自動的に復興が行われた。あの日に比べればマシだと言える。502部隊の隊員達も無事に帰って来てくれたのでホッとした。怪我人はいるものの死者はいない。まるゆは大破したが

 

 艦娘も全員、入渠が終わった。大和武蔵などの主力艦娘は1日近く入ることになった。何時、敵が来てもおかしくはないため備えるのが普通だが、既に哨戒線を張っているため、奇襲はないだろう。例え、哨戒網をすり抜けても、高速修復材を使えばいい。資源は備蓄の半分は使ったとは言え、まだ十分にある

 

 遠征は欠かさずやっているため、備蓄は問題ないだろう。遠征の艦隊が襲われる事も考え、迅速に動ける軽空母組が待機しているが、危惧していた事は起こらなかった

 

数日後、提督はある方へ出張する事に成った

 

「出張?」

 

「正確には証人喚問だ」

 

今週の秘書艦の当番は時雨だったが、提督の言葉に驚いた

 

「何かやらかしたのか、提督?」

 

「……理由はこれだ」

 

 長門は困惑したが、提督は片隅にあるテレビを付けた。丁度、ニュース番組をやっており、先日の空襲についてだった。しかし、評論家を始めとするテレビに出ている人は、どれも防げなかった鎮守府を批判していた

 

内容も容赦ない。艦娘は税金泥棒とまで言われる始末である

 

「深海棲艦の空襲をなぜ予測できなかったのかって酷い言いがかりだ」

 

「提督は逮捕されるの?」

 

「いや、流石にそれはない。……だが、世の中は馬鹿もいるって事だ」

 

 世間からは今回の事件について、旭新聞を筆頭にマスコミは挙って艦娘だけでなく軍を非難した

 

 それに応えるようにマスコミの報道を信じた大半の国民も特定の政治家も陸海軍を非難したのだ

 

 マスコミの思わぬ反撃に博士の先輩である統合参謀長である元帥は頭を悩ませる事になった。

 

 しかしマスコミは空襲を行った深海棲艦の艦隊殲滅を陸海軍に無理矢理約束させた。更に何処から入手したのかは分からないが、軍の作戦内容を発表して早期攻略を約束させる始末である。実はまだ案なのだが、マスコミは寄ってたかって攻略するよう差し迫った

 

「マスコミは自分勝手だ」

 

 提督はため息をつくのも無理はない。非難されるのは仕方ないが、それでも自重すべきである

 

「まあ、仕方ない。これから出かけるが、誰か一緒に行く者はいるか?」

 

「何処へ行くの?大本営?」

 

「違う。国会議事堂だ」

 

 予想外の事にその場にいた艦娘は驚愕した。まさか、ここまでになるとは思わなかったからだ

 

「これは軍の問題じゃないの?」

 

「そうなんだが……日本の悪い所は変わっていないな」

 

 提督は困ったような顔をした。確かに深海棲艦を守るために艦娘は配備された。しかし、殲滅する事は出来ない。海は広いし、深海棲艦は潜水艦よりも深い海底に潜る事も出来る

 

「悪い所って?軍の問題を政治家達が首を突っ込む訳?」

 

「そうだな。知らないのも無理はない」

 

提督は提督の説明を聞いていた

 

 簡単に説明すると、四年前……浦田重工業を崩壊させ政府に今回の事件を説明した。そして、浦田重工業が保有していた資料(それに加えて田村一尉の資料)を見せた。つまり、提督と502部隊達は『未来における利益』となる資料を提供するとともにこちらの存在を認めさせることにしたのだ

 

 結果から言うと、政府内は大きく変わった。行政改革が行われ、組織も改組された。特別警察、いわゆる特高は解体され、公安というセクションも誕生した

 

 本来ならこういった大きな改革はないだろう。しかし、浦田重工業の反乱と未来の……正確には平行世界の日本の歴史だが……記録を見せれば誰だって変えざるを得ない。何しろ、自分達や国が悲惨な戦争に巻き込まれたとなれば誰だって嫌だからである

 

未来の資料は最重要機密として扱われ、法整備や憲法改正まで行われた

 

 なぜ、改正したかと言うと明治憲法にあた天皇大権、つまり統帥権を外す必要があったからである

 

統帥権というのは、『軍隊を統率し指揮する権利』である。当時は天皇が最高司令官であり、軍隊を統率する権能を持っている事である

 

 ここまで来れば問題ではないように見えるが、実はこれが大きな問題を引き起こす原因にもなる

 

 当時の軍人達はよく『統帥権干犯』を掲げた。簡単に表すと「神聖なる天皇のみが持つ統帥権を侵害するのか!」と言う事である

 

 軍部に批判的な文官や政治家が、軍部の意思決定を覆そうとしたり、非難したりすると、「それは統帥権干犯だ」と言って、封じ込めて来たのである

 

 後にこれが軍部の暴走と繋がり、満州事変からシナ事変にいたる戦乱を引き起こしたのである。ディープスロートである田村一尉がいた世界の歴史はそうなっている

 

 改正の時には主に軍部から批判はあった。だが、天皇もこの点は了承していたため、この問題は直ぐに終息する事になる。流石に天皇に言われてしまえば、軍部も何も言えない。天皇も太平洋戦争の記録を見た時は絶句したと言う

 

 また、改正の際も他の条文も変える事にした。皇室はイギリスの立憲君主制を参考にし、議員制民主主義を徹底する形にした。皇室は一切政治にも軍事にも係わらず、国家としての象徴的行事に従事する

 

 この辺りはイギリス王室と変わらない。次に国民主権を尊重して国民の権利は拡大され、思想や言論、信仰などの自由も取り入れた

 

 軍事の方も艦娘が表したこともあって改組になった。アメリカのようにシビリアン・コントロールのもとにある軍隊にしたのだ

 

 健軍精神もあくまで国防。つまり、侵略は考えずに国防のみを考える軍隊にした

 

 これは『平行世界の日本』である自衛隊をある程度、参考にした。士官学校も兵学校も改組、教育方針を変えた。元帥の指揮の元、大日本帝国軍は大幅に変わった。また、空軍の創設も検討中との事である

 

田村一尉がみたらどう思うのだろうか?

 

 

 

「国防省が置かれ、その長は文官になったが……議論はやっぱり起こるんだよ。自由を何でもしていいと解釈してな」

 

「敵は撃退したのに」

 

提督の説明を聞いた時雨は不満そうだったが、他の艦娘も同じだ

 

「……まあ、狂気に走って日本破滅は免れたが……何か釈然としない」

 

長門も頭をかきながら愚痴を漏らしたが、こればかりは仕方ない

 

 この世界は深海棲艦や浦田重工業などの関与もあって、田村一尉が居る『平行世界』の道と離れつつある

 

浦田重工業が亡き今、日本が自力で発展をしなくてはいけない

 

 『平行世界の日本』は戦後、アメリカの軍事の傘に入り、産業国として発展した。この世界では違うため独自路線にはなる。浦田重工業が遺した技術も他の企業が取り入れており、問題は無いだろう

 

 しかし、一番の問題は日本は島国という点である。貿易は勿論、シーレーンである海上交通路を確保しないといけない

 

艦娘のお蔭で深海棲艦からの脅威は取り除かれた。しかし、今回の事件で艦娘に対する懐疑的な意見が出て来たのだ

 

「人の不幸は蜜の味というだろ?」

 

「……そういうものかな?」

 

 時雨は納得は出来ない。シーレーンが破壊されれば、日本を攻めなくても勝手に枯れる

 

「イギリスでも補給路は最大限に気遣ったわ。Uボートからの通商破壊を防いだのに」

 

「日本は目先の勝利しか見ていないからな」

 

 イギリスから派遣されたウォースパイトの指摘に提督は呆れながら答えた。横で聞いていたビスマルクは微妙な顔をされたが

 

 『艦だった頃の世界』ではイギリスは第一次、第二次大戦の二つの大きな戦争を通じて海外から補給線を頼った。これを守るために最大の努力を払った

 

それでもドイツのUボートのために多数の輸送船を失い、息の根を止められそうになる

 

日本の場合だと、太平洋戦争において二年で決着をつけていたらしい。しかし、四年も続いたのである*1

 

 東南アジアを抑えれば、油も手に入り更に余裕は生じると思った節がある。しかし、補給路を断たれるということを計算しなかったのである。護衛艦隊も少なく、輸送船団の損害が急増すると慌てて本腰を入れた。駆逐艦や海防艦をつけることでお茶を濁した

 

日本の欠点はいつでも泥縄式である。先見の明や予知能力が欠けていた。『失われた未来』においても浦田重工業が自作自演で滅んだことを目の当たりにした大本営は慌てて提督と艦娘達に声を掛けたのだ

 

 今回でも罠は見破ったものの、被害に対して防衛が甘いのではないか?と指摘された

 

「で、わざわざ国会議事堂で証人喚問?酷いよ?」

 

「今に始まった事はない。批判はある程度は仕方ないが……度が過ぎるのは良くない。何としても『ユダヤ人』のような事は避けなくてはな」

 

 ビスマルクとプリンツ・オイゲンは居心地が悪そうにしていたが、提督は気にはしていない。ヒトラーは死んだのだから、ドイツは今のところは平穏だ。他国に過剰に肩入れすると内政干渉となる

 

 時雨は提督に何か考えがあるのか聞こうとした丁度その時、大淀が電話をもって来てくれた

 

「提督、神威からです」

 

「そうか」

 

提督は受話器を取ると、ある任務に就いている神威の声に耳を傾けていた

 

「ああ……本当か。ようやく説得に応じたか。……よく頑張ってくれた。後で合流しよう」

 

提督はそう言うと受話器を置いた。微かだが、提督は頷いている

 

「よし、準備は万端だ。では、国会議事堂へ行こう。……誰か一緒に行動する者は?」

 

 艦娘達は困惑した。何を話しているのだろう?補給艦である神威は、数日前から姿を消している。極秘扱いしているため、何をしているのかほとんどの者は知らない。502部隊とよく行動しているらしいが

 

 

 

「本当に来たんだ……」

 

 時雨は未だに信じられなかった。実感が湧かないのも無理はない。自分は国会議事堂の前に居る。四年前の爆撃で崩壊した国会議事堂も、再建された。いや、正確にはまだ未完成ではあるが、外見だけだ

 

半分が工事中であるため、シートに覆われている

 

「緊張するな。俺も行くのは初めてだ」

 

「もう高官の前に立つのは慣れちゃいましたけどね」

 

 大和は苦笑した。結局、一緒に同行出来たのは、大和と矢矧と時雨である。鎮守府を空にする訳に行かない。鎮守府では、臨時で長門が指揮を取っている。本人もやる気満々であったため、特に問題は無いだろう。今の大和は紅白のセーラー服ではなく、女性用スーツを身に纏っていた。矢矧もである

 

 時雨が普段来ている服は特に問題ないため、そのまま連れてきている。勿論、艤装は無い。不要だからだ

 

「すまんな。こんなことに付き合わされて」

 

「いいんです。いい経験だと思うわ」

 

 矢矧も問題ないようだ。マスコミを避けて裏口から入った。流石に門前で質問攻めに合わせるのは不味い

 

 

 

今回の空襲において、こういった事は珍しい

 

 確かに日本は太平洋戦争を経験せず、復興も自力で何とかした。まだ、爪痕はあるが

 

『平行世界の日本』では、終戦と同時に一大勢力となった共産党は、こちらの世界ではまだ公党になっておらず地下に潜ったままだ。ソ連が浦田重工業と浦田結衣によって崩壊してしまったためだ。

 

問題はマスコミと野党の出方である

 

 艦娘の存在をあまり快く思っていない人もいるらしく、中には過激な発言をする者までいる。当然、こういった声は少ない。源を辿ると浦田重工業の考えを鵜呑みにしている者達である

 

 浦田重工業が消えても排他的な思想が完全に消えた訳ではない。要は置き土産である。非力な集団ではあるが、毎回こういった事は目に余る行為である

 

 よって、今回の空襲による被害を食い止めなかったのには、軍の不備があったのではないか?そのため、任期満了に近い首相はマスコミと野党の質問攻めにあった

 

「報告が軍の発表だけでそれを鵜呑みにしろと言われても、我々としても躊躇わざるを得ません。そこで、指揮官である海軍少佐と艦娘の方を参考人として招致したいと考えているのですが」

 

 前線にいる軍人と艦娘の話を聞きたい。鎮守府からあまり外に出ない艦娘は一体、どういう存在なのか知りたいのだろう

 

これなら、拒否する理由もないはずだ。今は戦時下ではない。浦田重工業の事もあって軍部も政府も威厳は『平行世界の戦前の日本』にはなっていない

 

野党やマスコミの追及に与党も官邸も、真実が伝わり攻撃を躱す事が出来るのであれば……という理由で呼んだのだ

 

 

 

 浦田重工業がテレビ(ブラウン管仕様)を持ち込んだお蔭で、マスメディアが発達。当然、国会中継も全国放送で流れた。視聴率はお察しではあるが

 

しかし、今回の事件の事やマスコミが騒ぎ立てた事から、視聴率は瞬く間に急上昇したのである

 

 議場では大和、矢矧、時雨が現れると一斉にどよめいた。提督もいるが、海軍軍人であるためインパクトに欠けており、無視している傾向である

 

本人は特に気にはしていないが

 

 議員達や中継カメラの目線も合って時雨は落ち着きが無かった。ここまで注目されるものなのか?中継カメラがある事は鎮守府にいる艦娘達も見ている事である

 

実際に見ていたらしいが

 

最初の質問に立ったのは少数の野党である党首である

 

「指揮官である参考人に聞きます。今回の事件によって復興した都市が再び爆撃されました。死傷者も少なからずいます。何故、こうなったのでしょうか?」

 

党首の質問に答えるために前に出る提督

 

「えー。それは深海棲艦が強かったからです」

 

 この回答に野党党首は絶句した。『自分や艦娘に力が足りなかったからです』と日本人がよくする真面目で自己批判的な答えを期待していたからである

 

四年前に浦田重工業の蛮行を止めた1人と言う事は認識されていたが、どうやら新聞に書かれていた程でも無かったようだ。いや、新聞の方が独り歩きしていたらしい

 

「つ、つまり力量不足を転嫁しているだけではないですか!?民間人にまで被害があったのですよ!それについては責任は無かったのですか!?」

 

党首の批判に提督は顔色一つ変えずに聞いている委員長に名前を呼ばれ再び前に出た提督だが、答えは相変わらずだ

 

「力量不足って何の事ですか?それと戦艦レ級や南方棲戦姫が日本近海に現れた責任が自分にあると?」

 

「私が言っているのは貴方の指揮官としての能力だとか、艦娘の運営方針だとか、軍や政府の対応に問題はないのかと聞いているんです!それと深海棲艦の出現が貴方の責任とは言っていません!ただ、現場で関わった者として犠牲者が出たらどう受け止めているのか、聞いているのです!」

 

 息を荒くし顔を真っ赤にしている野党党首に提督はため息をついていた。時雨は唖然とした。国会議員に対してなぜ、提督はこのような態度を取っているのだろう?

 

大和と矢矧に目を向けたが、2人は微塵たりとも顔色を変えていない。それどころか、提督に耳打ちして注意する事もしない

 

時雨は気付いた

 

提督?もしかして、演技?

 

「ええ。力量不足であるのは確かです。はっきり言って重巡以下の主砲は豆鉄砲でした。空襲も強力で、制空権を取る事が難しかったです。戦艦レ級と呼ばれる深海棲艦も異質でした。何しろ、51cm主砲を耐えましたから。それに私達は浦田重工業のようなハイテク兵器はありません。誤解がないよう言っておきますが、無敵は存在しません。絶対無敗という事もありません。戦争はスポーツではないのですから。勿論、犠牲者が出た事には残念に思います」

 

 愚痴交じりの回答に野党からは不謹慎だとヤジが飛んだが、与党は苦笑していた。鎮守府もそれなりに公開はしており、戦果も隠さずに報告している

 

 誇張はあるものの、それなりに結果は出しているのだ。嘘情報もあるが、放っている。……最近ではF5Uフライングパンケーキの存在のお蔭でUFOブームが出てきている。アイオワもノリノリで第二のエリア51と喜ぶ始末である

 

「それに姫級や戦艦レ級の強さは、あなた方でも知っているはずです。既に公開はしています」

 

「あんな情報を信じろと?」

 

「隠す必要性はあるのですか?」

 

戦艦レ級や鬼・姫級の強さについては概ね公開している。しかし関係者はともかく、他の人達……特に政治家は信じられなかった

 

 たかが子供のような姿をした者が戦艦並みの主砲に加えて空母の能力を持っている。そして、雷撃までするというのだから、誰も信じられなったからだ。要は過小評価しているのだ

 

尤も、深海棲艦自体がオカルトに近いのでそこを追及されると答えに窮するのだが

 

「それでは質問を続けます」

 

今 回の事件で防衛に関わった艦娘に質問された。大和も矢矧も当然、参加したので包み隠さず答えた

 

勿論、46cm主砲を砲台にして沿岸から撃った事には呆れられたが

 

「では、次の参考人」

 

今度は時雨である。時雨が立った時、皆はどよめいた

 

何故なら、四年前の少女に似ていたからだ

 

「僕は時雨。誤解がないように言うと、四年前の彼女とは違う存在。だから、当時の事は分からない」

 

 タイムトラベルの事を話すと精神異常とみなされるため、今の時雨は赤の他人としている

 

「貴方は、どういう根拠で深海鶴棲姫と呼ばれる姫級の演技を見破ったと?」

 

「殺気までは隠していなかったから」

 

時雨は淡々と答えた。他の議員からの質問はあったが、深海棲艦は話し合えるのか?不自由はあるか?といった質問だった

 

時雨は答えたが、どうでもいいような質問内容だったため、適当に答えた。提督が真面目に答えなくていいと言われたのも分かる気がする

 

 

 

次に別の議員が出てきた。質問するかと思えば予想外の事を話したのだ

 

「……人類は今、未曾有の危機に直面しています。深海棲艦の侵攻、奪われた海域……亡くなった人々がいます」

 

悲痛な面持ちをしたと思えば今度は艦娘を睨むような目で見てきたのだ

 

「そんな悲劇的戦争を終結に導くのは、ご存じ『艦娘』という存在です。少女の姿をした、軍艦の化身……『非人間』」

 

 時雨は目を見開いた。こんな議員がいるのか?大和に目を向けたが、大和もムッとした表情になっている

 

「『車』に人権を与える人がこの世にいますか?『船』を憐れむ人がこの世にいますか?……残念ながら、いるのですよ。そんなどうしようもない阿呆が」

 

どうも提督を名指しているようだ。野次と怒号が飛ぶが、男の演説は続く。

 

「『艦娘だって人間だ!大切にしよう!』だなんて馬鹿げた事を言う連中がいます。きっと彼らはこの国を滅ぼしたいのでしょう」

 

いつの間にか議員は熱く語る

 

「そういう連中は、艦娘の見た目が可愛い少女だからそんな事を言ってるのですよ」

 

 議員の白熱した論弁は止まらない。まるで、艦娘は人ではないという風に言っているのだ

 

時雨は抗議しようと立ち上がったが、誰かによって止められた

 

提督だ

 

「提督、何で!?」

 

「落ち着け」

 

「でも!」

 

 時雨は噛みついたが、提督は首を微かに横に振った。議員の発言は過激であったが、賛同するものは僅かだった

 

何を言っているのか、よく分からないからである

 

「あー、議員。何時まで話しているのですか?」

 

「……え?」

 

委員長は呼び止めたが、彼も呆れていた

 

「ちょっと、今良いところなんですよ!」

 

 議員と委員長が揉めている中、提督は腕時計を見た。そして、ニヤリとすると立ち上がる

 

「提督、どうするの?」

 

 時雨は不安そうに聞いた。議員の発言はとても過激だ。自分達は人ではないというレッテルを貼ろうとしている

 

浦田重工業ほどではないが、この考えが世間に広まっては艦娘は肩身が狭いだけだ

 

「心配するな。まあ、レイシストの類いだな。安心しろ。今から引っ掻き回すから」

 

 提督は悪戯好きの笑顔をしながら答えた。提督は何を考えて居るのだろう?大和も矢矧も不安そうにしたが、提督は安心するように手で制した

 

「委員長、少し宜しいですか?」

 

手を上げ前に進み出る。どうやら、答弁するらしい。中継カメラや議員の目線が提督に集まっている

 

「あー、先程の発言は中々興味深いです。『艦娘に人権などいらない!』という所は。……まあ、議員が艦娘は人間ではないとお考えならその通りでしょう」

 

 辺りは騒然とした。てっきり怒ると思いきや発言を肯定しているのだ。時雨は唖然とした。提督は何を考えているのだろう?

 

策でもあるのか?

 

「では、貴方にお聞きします。艦娘と仲良くできないと?」

 

「その通りだ!」

 

議員は相手が敗けを認めたと思ったのか、喜びながら答えていた

 

「では、議員は相手が正真正銘の人間なら仲良く出来ますよね?」

 

「その通り!人間ではない物に人権なんてとんでもない!」

 

「そうですか……」

 

提督はニヤニヤしながら答える。議員も提督の反応に眉をつり上げた

 

この者は何を考えているんだ?

 

「委員長、参考人をもう2人を連れて来てもよろしいですか?……いいぞ!入って来ても!」

 

 提督は委員長の許可を待たずに扉に向かって怒鳴った。扉が開き、入って来たのは2人の男女である

 

 1人は知っている顔だ。補給艦である神威だ。マタンプシと呼ばれる鉢巻きを巻いている以外を除けばスーツ姿である。神威は中年男性を連れて来たのだ

 

 しかし、場内ではどよめきが起こった。先ほどまで熱弁を語っていた野党議員も唖然としている。委員長は連れて来るのを知っていたらしいが、入って来た人物にポカンとしている

 

「おい、何を連れて来たんだ!」

 

さっきの野党議員は怒鳴った。時雨は野党議員の怒鳴り声に違和感を覚えた

 

 『誰』ではなく『何』である。神威の事かと思ったが違う。議員は連れて来た男性に指を指しているのだ

 

「相手に対してそれは失礼ですよ。れっきとした『人間』を連れて来ました」

 

「なぜ、この場にアイヌを連れて来た!?」

 

「去年、北方水姫と呼ばれる『水姫級』の新型深海棲艦を中核とした艦隊が北方からの侵攻にて北海道を拠点にした際に知り合った友人です。貴方とは真逆な対応をしてくれました」

 

 議員は顔を真っ赤にして抗議したが、提督はさらりと言った。どうやら、議員は男性の事を知っているらしい

 

「失礼な人だ。私の名前は菅野です。彼は北方から攻めて来る深海棲艦を追い出してくれると約束しました。海上は激戦となりましたが、彼と艦娘達は北方の防衛戦に成功しました。そこの議員と違って彼女達に感謝をしています」

 

 菅野はてきぱきと証言している。辺りは騒めいたが、菅野は無視している。一方的に話すと神威と共に矢矧の隣の椅子に座ったのだ

 

「どういうつもりだ!」

 

「可笑しいですね。貴方は『人間』となら仲良くなれるのではないのですか?『人間』に人権を与えて何か悪いのですか?別に彼は、犯罪行為を犯してはいません」

 

委員長の制止を無視して罵倒する議員に対して提督は朗らかに言った

 

「質問なら何だって受けます。しかし、議員。貴方の言動には驚きました。同じ人間に対しても差別発言をするとは」

 

提督は嘲笑うような声で言う

 

「少佐は何を考えている?」

 

「深海棲艦を倒すのは急務です。だが、深海棲艦を倒すための国内情勢を安定させなければなりません。ある意味、千載一遇です。アメリカの新大統領の演説を知らないのではないでしょうね。米国は深海棲艦を一致団結して立ち向かうために人種差別を撤廃しています。国内紛争を避けるためです。日本でもこういった事をしないといけません」

 

 提督の演説に時雨はまさかと思った。どうやら、今回の事件で世論を引っ掻き回す気だ。一方、艦娘を批判していた議員は顔面蒼白だ。予想外だったのだろう

 

……いや、数人の議員は無反応だ。恐らく、提督が話を持ち掛けたのだろうか?

 

「私は野党議員の意見はどうでもいいと思っています。艦娘は貴方にとっては人間ではなく人形に見えるのでしょう。しかし、貴方の発言がまるで浦田社長のようにも聞こえるんです。己の欲望のために列強国を無差別に攻撃し支配しようとしていた。……もっと分かりやすく言いましょう。スペインは欲望のためにインカ帝国を滅ぼしました。民族虐殺を日本国内で起こして欲しくはないのです」

 

「な、何!?」

 

議員は逆上して立ち上がったが、提督は手で制した

 

「落ち着いて、まずは意見を聞かせて下さい。高学歴を持つ議員が艦娘を差別する理由を聞かせていただきたい。勿論、それ相当の言い訳はあるのでしょうね?浦田社長は深海棲艦を使って世界征服をするため、深海棲艦を倒す力を持つ艦娘の存在が邪魔だったらしいです。貴方はそんな野蛮な人ではないはずです。さぞかし、素晴らしい考えがあるのでしょうね?」

 

 提督は挑発するように聞く。尤も、浦田社長は『艦だった頃の世界』である軍国主義や大日本帝国を嫌ったために艦娘も嫌ったが、ここで言っても分からないのだから敢えて言わなかった。知ったとしても分からないだろうが

 

 一方、議員は動揺を隠しきれずにいたが、それでも何とか息を整えて自らの理論を述べた

 

「艦娘は人間ではない!艦娘は兵器であり、人外な存在は――」

 

「貴方は生物学者か何かですか?貴方の知識で恣意的に相手を断定するのは感心しないものです。それに人間は猿から進化し、艦娘は兵器から進化した。私の父も生物学者も艦娘は人とは変わらない知的生命体であると結論づけています。まあ、文系出身の人間は、こういった事には興味ないらしいですが」

 

 議員の噛みつきに提督は平然と答えを返した。既に博士は艦娘の科学的根拠について公開しているため、誰もが反論出来なかった。学会も概ね認めている。異論を唱える者はいるが、あくまで否定的な意見であるため博士は放っておいている。他の意見も参考にするらしいとの事である

 

 しかし、怒り狂う議員は、進化論やミッシングリンクなどの話なんて絶対に分からないだろう

 

「少佐がどう言おうが、艦娘は意志を持った兵器です!人類に反逆するかも知れません!」

 

「貴方はその理由としてエスノサイドを肯定するおつもりですか?それに浦田結衣は、深海棲艦になった途端、世界征服を企んでいたらしいですよ?あんな存在でも、元は人間です。まあ、そんなに危険なら護衛でもつけておけばいいのではないですか?」

 

畳み掛けるように答える提督に、他の議員は笑っていた

 

艦娘は危険だから、という考えは通用しないことははっきりと分かっている

 

 車は危険だからといって自動車廃止を唱える者はいない。それと同じである。流石の艦娘も艤装で町を彷徨く者なんていない。と言うより邪魔である

 

「では、話を終えます。まあ、人間がそんなに大事というのなら、古くから居るアイヌ人とも仲良くなれるでょう。という訳で私達はこれで帰ります。友達作り頑張って下さい」

 

「おい、冗談ではないぞ!」

 

「何時からアンタは艦娘差別主義から民族差別主義に入ったんだ?私達は移民ではないのですよ?」

 

菅野は呆れて指摘したが、相手は聞こうとしない

 

 議員は何やら喚いていたが、提督は艦娘達に合図するとさっさと帰っていった。菅野はまだ言う事があるといい、時雨達に帰るよう促された

 

何を考えているのだろう?

 

「提督、何をしたの?」

 

待機室に着いて早速、時雨は提督に聞いた

 

「簡単なことだ。浦田結衣のような人が現れないようしてるだけだ」

 

提督は答えたが、時雨には分からない。提督は時雨の困惑していたため、付け加えた

 

「言い方が悪かったな。簡単に言うと、『些細な事で騒ぐ人に対して相手するつもりはない』ということだ。それに差別はどう頑張っても無くならない。しかし、行き過ぎた行為は止めさせるべきだな」

 

「大変だね、人間も」

 

「おいおい、人間だって格差社会はある。それに、過大評価は身を滅ぼす事もある。少しは気を付けろ」

 

提督は呆れながらも説明はする

 

 要は社会が艦娘は日本の敵と認識させない事である。正確には、艦娘という存在を認めさせることである。差別云々はいいとして、先ほどのような過激な議員がいれば、最悪の場合、迫害されてしまう。迫害……それは、強者が弱者に対して行ってきた行為である

 

 ユダヤ人や黒人などの歴史を見れば、人間ですら皮膚の色が違う、国の出身や民族が違うというだけでいがみ合いはあるのだ。全ての人間が善人とは限らない。もし、そうなら犯罪や戦争なんて起こらないし、警察や軍隊という組織はとっくに無くなっているはずである

 

 老若男女関係なく大虐殺した独裁者は歴史を見れば必ずいる*2。『平行世界』でもいたのだ。『失われた未来』でさえ、人類同士で争う日々だ。本能だけで赴くままに行く人間は、必ずいる

 

「あの議員だって艦娘嫌う理由は、あまり大した理由はないかも知れないぞ」

 

「……誰を信じればいいのかな?」

 

「もう分かっているんじゃないか?経験すれば、自然と身に着く」

 

 時雨は疑問をぶつけた。時雨は思い出した。提督は人間だ。では、なぜ自分は従っているのだろうか?それは信頼出来る人物だからである

 

 提督は僕達を裏切った事は一度もない。浦田社長のように騙したり、浦田結衣のように拷問や殺害なんてしていない

 

 先ほどの過激な発言も昔だったら、提督の制止を振り切って殴り飛ばしていただろう

 

「うん……そうだね」

 

強敵がいたお蔭で無差別に人間を嫌わなくて済むだろう。『失われた未来』では、国を守る大義名分すら失われていたからだ

 

「提督と私は一般市民との交流を推し進めています。特に派遣先の場所では、地元の住民との交流は盛んです。去年では、鎮守府祭を開きました。……記憶にあるかどうか分かりませんが、貴方も頑張っていました」

 

去年、提督は鎮守府祭を開いた事がある。学校の文化祭のようなものを鎮守府でも出来ないかと大和を始め、数人の艦娘が提案した

 

初め提督は渋ったが、結局はゴーサインを出した。艦娘が一般人との触れあいをするにはうってつけである。雑誌や漫画などの情報だけでは物足りない

 

結果は大成功であり、ほとんどの者は満足した。特に大きなニュースにはならなかったが、地元紙では見出し一面に飾った

 

時雨は参加していない。しかし、記憶にはある

 

、艦観式のように一般客も呼び寄せている。海軍は何も極秘部隊でも何でもない。一般人にも海軍を理解してもらうためでもある。

 

 鎮守府祭では、いつもと違って、親子連れや子ども達のグループなど一般客の人で賑わっていた。艦娘達は出店や展示で一般客と接していた。艤装も一部ではあるが艦娘の装備である連装砲が公開されており、一般客は写真を撮ったり、歓声を上げたりしていた。特に島風の連装砲ちゃんや秋月達の長10cm砲ちゃんは人気だった。天津風の連装砲くんでは、目からビーム出るのか?と男子に聞かれたりした

 

 そして、艦観式では皆で演習をやったりした。空母組や航巡組が放つ艦載機の航空ショーや戦艦の空砲射撃などが行われた。司会は青葉が行った。霧島はやりたがっていたが、本人は実演組だったため、仕方なかった

 

 

 

「心配するな。また、鎮守府祭はあるさ」

 

 時雨は奥底に眠る記憶を掘り起こした。この世界に戻って来た時に白露姉さんに写真を見せてくれた。体験した事のない思い出。しかし、確かに思い出は残っていた

 

「うん……楽しみにしている」

 

自然と笑顔が出て来た。自分は笑う事が出来た

 

「ちょっといいですか?」

 

 声を掛けられ時雨を始め、皆が振り向いた。いつの間に居たのか、神威が連れて来た菅野さんがいた

 

「こんにちは。私は菅野と言います。少佐、ありがとうございます。このような場を設けてくれまして」

 

「いえ、私は貴方に背中を押しただけです。父のお蔭です」

 

 提督は菅野から差し伸べられた手を握手しながら答えた。確かに連れて来る自体、凄いのだろう。後で聞いたところによると、博士の知り合いに政治家がいたらしい。何でも四年前の浦田重工業の反乱の件で研究会を開いているという

 

 浦田重工業が保管していた『平行世界の世界の情勢』や田村一尉の置き土産であるパソコンデータを参考に研究を行っていたとの事である

 

「私達はそれで十分です。以前まではそんな声すらかけられなかった。神威という艦娘がいるとは思いもしなかった」

 

 尤も、神威は『艦だった頃の世界』ではアメリカで建造されたのだが、どういう訳かアイヌの民族衣装を身に纏っている。金剛とは違う性格の持ち主である

 

「誤解しないで欲しいのは、この場にアイヌ問題を持ち掛けたのは、何もあなたを利用しようという訳ではありません。嘘や無価値な主張を平然と続ける輩を黙らせる必要性があったからです。研究会では民主主義に加え、国民主権、福祉、生活向上にも力を注いでいます。しかし、『差別』『人権』『平等』という言葉が安易に使われて、不用意に政策に取り組まれる事だけは避けなくてはなりません。近い内に新憲法が制定されますが、まずは国内の問題を片付けないといけなかったからです。人類のためと称して迫害するのは、あってはならない事です。……尤も、満州事変が起こらなかった事にホッとしていますが」

 

 最後の言葉は何を言っているのか、誰も理解出来なかった。もし、あきつ丸や502部隊の人がいたら微妙な顔をしていただろう

 

 満州国をデザインしたのは、陸軍の統制派と呼ばれる者達であった。満州事変を起こし、軍事力によって支配地を拡大していったが、関東軍参謀本部にも統制派の人達がいた。石原莞爾や板垣征四郎などである

 

 しかし、満州国の設立そのものは日本の国策となった。日本の国力を強化するために、満洲の資源は欠かせないものだったからである。だから、大本営は関東軍の『暴走』を許した

 

 だが、関東軍は何も植民地経営しようという訳では無い。清朝一二代の最期の皇帝、宣統帝溥儀を担ぎ、共和国として発足させた。所謂、五族協和(漢民族、満州族、朝鮮族、蒙古族、日本人)、王道楽土形式が謳い文句である。白系ロシア人も居住していたが

 

 溥儀の身分は共和国執政。しかし、溥儀は不満に思ったらしく二年後には皇帝に即位した

 

もっとも、理想主義者の石原は青写真を描いていたとも言われている

 

 日本はアジアとの連携を取り、白人と対決するだろう。無論、そのためにはまだまだ日本の国力は足りない。満州五年計画によって国力を養い、アメリカと雌雄を決する。その戦いは十年後になるだろうと予測していたという

 

 だが、その観点で言えば、国力を無駄に使いアジア人との連携を乱す日中戦争はやっていはいけないものである

 

 結局、中国戦線では日本軍支那派遣軍と中国国民党軍、赤軍が三つ巴になってしまった。アメリカは中国国民党軍を助けている事もあって泥沼化になってしまった

 

ロシアに攻め込んだナポレオンのような戦いをするべきではない

 

 話は逸れてしまったが、もし艦娘に対して何らかの迫害が起きれば、反乱が起こるのは当たり前である。何処の世界もそうした事は起こっており、アイヌ人ですら反乱は起こった*3。寧ろ、起こらない方がおかしい。内戦が勃発するのは目に見えている

 

 こうなると深海棲艦が喜ぶだけである。天敵を消し去ってくれたのだから、喜ぶのは当たり前だ。何時まで経っても問題は解決しない

 

(戦艦水鬼がこちらの出方を楽しんでいるような雰囲気だったな)

 

 提督は内心ため息をついたが、こればかりはどうしようもない。人類の問題であるのは確かである。特に組織というのは、必ず腐敗するものである。権力と利権を持っている程、腐敗するものである。それは鎮守府も同じである。一歩踏み外せばどうなるのだろうか?

 

「ともあれ、今後とも応援していきます」

 

両者は共に固い握手を結んだ

 

 

 

 国会の乱入によってニュースである艦娘問題は人権問題にすり替わってしまった。新憲法には既に盛り込まれていた事も合って話題になっていた。艦娘に人権などを付与する事に反対だった者達は、中継で流れた場面に思考停止状態に陥った。まさか、こんな事になるとは思っていなかった

 

 あれほど艦娘は人間でないと喚き散らした議員も今は黙ってしまった。自分達が唱えている『人類』とは何なのか?

 

「議員が言う『人類』とは日本人だけの事を指しているのですか?」

 

「人間の危機というのは、当然世界各国の人間も含むんですよね?あらゆる人種や民族にも適応されるのですよね?なぜ、あのような発言をなさったのですか?」 

 

 議員は記者からの質問攻めを回避していた。都合の悪い事は忘れる。よくある常套手段である

 

 

 

「提督、何処へ行くの?」

 

 国会議事堂を離れ、神威と菅野を送った一行は、別の場所へ向かっていた。時雨達は提督の車に乗っている。普通車であるが

 

「寄り道だ。ちょっとな」

 

 提督はそう答えるだけで目的地を言わない。時雨は窓の外の景色を眺めていたが、証人喚問の事もあって疲れが出て眠ってしまった

 

「着いたぞ」

 

 提督に起こされた時は、車は止まっていた。既に日は沈んでおり、暗くなりつつある。街の明かりもポツポツと灯っている

 

「ここって……」

 

 時雨は辺りを見渡す。ある海岸沿いにある墓地の入り口である。しかし、時雨はこの場所を知っているような気がする。まだ、この場所が何処か分からないのにも拘わらず

 

ふと、時雨が居る所から僅かに離れた所に火力発電所があった

 

……あの火力発電所……まさか

 

「未来の俺のノートに座標が書いてあった。どうやら、お前がタイムスリップした場所はここらしい」

 

 時雨の反応を見て提督は頷いた。あの日、タイムマシンを動かすために廃墟とした火力発電所を生き返らせた。僕を過去へ送るために多くの艦娘が命を散った

 

確か旗艦は陸奥だった。今は長門と共に健全だ

 

 提督は付いて来るよう言われ、墓地の中を歩いた。そして、大きな墓石の前に止まった

 

「お前が四年前に消えた日、墓を立てた。いや、お前の墓ではない。『失われた未来』で犠牲になった艦娘の墓だ」

 

 墓石に名前は彫られていない。代わりに駆逐艦の艤装に付いている主砲らしきものがおいてあった

 

「提督も大変だったわね。石屋から何の墓なのか?って首を捻っていたから」

 

矢矧はクスクスと笑っていた

 

「ありがとう……僕は立ち直れたみたいだ」

 

 時雨は答えた。皆を救おうと思って旅立ったが、皆に救われたような気がする。あの議員の罵倒も狂気染みた世界や浦田結衣に比べれば大した事では無かった

 

言い換えれば、それだけ平和と言う事である。しかし、その平和は脆い事も認識させられた

 

「提督……僕の行動は無駄ではなかったんだよね」

 

「ああ。お前のお蔭だ」

 

 時雨は、タイムマシンを守るために出撃した艦娘の姿を思い出しながら言った。尊い犠牲によって今の世界がある事に

 

「提督、深海棲艦との戦いはどうなるの?」

 

「そこが気になるか。少なくとも当面は大丈夫だろう」

 

あっさりとした提督の言葉に時雨はポカンとした

 

「巨大ワームホールを破壊する手段は幾つかあるものの、その海域にたどり着く事は難しい。幾多の深海棲艦が待ち構えている」

 

「無暗に戦っても、ワームホールにたどり着く前に弾薬燃料は尽きて撃沈してしまいます。残念ですが、それが現実です」

 

 大和は現在の状況を教えてくれた。深海棲艦は増強はしているものの、無限に仲間を増殖はしていないらしい。また、赤い海も最近では見ないらしい

 

 どうやら、移り住むのに自分達の世界の水を流すのは得策ではないと判断したのだと言う

 

「そこからどうなるかは、私達次第です。既に、旧史の出来事も浦田重工業が隠し持っていた『平行世界』の情報も役に立たなくなっています」

 

「大和さん」

 

大和も思う所はあるのだろう

 

「深海棲艦とのコミュニケーションも不可能ではない。だが、講和は難しいな。少なくとも、今の現状においては」

 

 提督は残念そうに答えた。人類が艦娘との関係が築けないのなら、深海棲艦との対話も不可能である

 

 あの議員が、人間ですらない深海棲艦と対話なんて出来る訳がない。例え出来たとしても戦艦水鬼は嘲笑うだけである

 

「分かったよ。提督、僕はまだ戦うよ。ここにいる皆のために。平和の海を取り戻すために。そして、平和の海を駆け巡りたい。艤装も付けずに」

 

時雨の表情は笑顔になっていた。もう、泣くことは無いだろう

 

世の中の矛盾を知って尚、それでも彼女は夢の果てを目指す

 

例え、それが困難な道のりであろうとも

 

 奇妙な運命に巻き込まれ、捻じ曲げられ、磨耗し、戦いの果てに時雨は一つの答えを掴み取る。

 

 それは世界の平和という漠然とした考えでもなく、己の名誉でもなく、希望へ繋がる明日である

 

 今後は今よりも激しい戦いになるだろう。終戦まで全員生き残る事を願うばかりである

 

彼等は帰路につく。自分達の未来のために

 

 

*1
実はこの二年は、当時の日本の備蓄量から計算したものである。山本五十六大将が、近衛首相から戦争遂行の見通しを聞かれ一年や一年半は存分に暴れて見せると答えたのはこの事から来ている

*2
史実において大量虐殺を行った歴史上の支配者で一位が毛沢東 犠牲者、約7,800万人。二位がヨシフ・スターリン 犠牲者、約2,300万人。3位がアドルフ・ヒトラー 犠牲者 約1,700万人である

*3
これはシャクシャインの乱を指す。




予定では完結は後もう少しですかね

プロット通りにはうまくいかないものです
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