時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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皆さん、こんにちは
感想でちょっと指摘されましたけど、ここの時雨は改二です
まあ、補給や入渠は過去の提督が何とかしてくれるでしょう。多分……


第13話 再会

 時雨は見知らぬ土地に立っていた。辺りを見渡すと赤レンガ造りの建物が目に入る。しかし、こんな建物は実際に見たことがなかった。何故なら、時雨が着任した時には、鎮守府なんて無かったのだから。提督が軍に入った時の写真でしか見た事がない。既に深海棲艦からの爆撃で艦娘の運営は地下だったのだから。だから、鎮守府は写真でしか見ていない。にも拘わらず、時雨はその赤レンガ造りの建物の敷地の中に立っている。周りには草木が生え、遠くには青い海が見える

 

「……?」

 

 誰かに呼ばれたような気がして、ふと時雨は後ろを振り返る。そして、その顔をパッと綻ばせた。少し離れたところに、白い軍服を纏った提督を見つけたからだ。そこに立っていたのは、提督と自分がよく知る艦娘たち。西村艦隊だった頃の扶桑山城、最上達や白露達の姉妹もいる。いや、他の艦娘達もいる。皆が顔に笑みを浮かべ、しきりに手を振ったり手招きしたりして時雨を呼んでいた

 

「みんな!」

 

 時雨も大きく手を振り返すと、提督達に向かって一目散に駆け出す。一歩、また一歩と提督と仲間たちの距離は縮まっていく

 

 みんなが待っている……。それが嬉しくて、幸せで、時雨は提督の胸に思い切り飛び込んだ。そして――

 

――次の瞬間、銃声が聞こえたと同時に提督の胸から血が噴き出した

 

「……え?」

 

 何が起きたのか理解できず、時雨が思わず足を止める。

 

次の瞬間、提督の体は拍子抜けするほど呆気なく、力なく崩れ落ちる。提督の体が地面にぶつかって立てた音は、妙に乾いた、それでいて生々しい音だった。

 

「提督!」

 

 時雨が悲鳴を上げて、倒れた提督へと駆け寄った。銃弾が貫通したであろう所から、まるで飲料が入ったペットボトルを倒したかのように鮮血が流れ出て、地面を赤く染め上げていく。誰の眼にも、彼が死んでいるのは明らかだった

 

「嫌だ!提督!起きてよぉ!」

 

 悲痛な声で叫びながら、時雨は提督の体を揺する。しかし、返事はない

 

呼吸が浅くなっていくのがわかる。以前にもあった感覚……。いつだろう?他の艦娘達に助けを求めるため、時雨は泣きながら顔を上げる

 

「み、皆! 提督が――」

 

 時雨はそれ以上の言葉が続かなかった。目に映ったのは、更なる絶望の淵に叩き落される光景だった

 

「あ……う、嘘だ……」

 

 周りにいた艦娘達も皆、地面に倒れ伏していたのだ。彼女達が装着していた艤装は原型を留めていないほど破壊され、体もボロボロだった。敗れた服から見える肌は生傷が見え痛々しかった。各々が恐怖と苦悶に顔を歪めながら、息絶えていた。健全だった赤レンガの建物も今や炎を上げながら崩壊し、どす黒い煙は空を覆っていた

 

 その様子は、まさしく地獄絵図。惨劇以外の何者でもない。

 

「う、あ……」

 

悲しみが時雨を襲い、時雨はただ崩壊した鎮守府を見守っていた。もうどうしたらいいのか分からなかった

 

時雨はふと、自分に誰かの影がかかっていることに気付く。もしかしたら、誰かが生き残っていたのかもしれない。助けを求めるために、時雨は再び顔を上げた

 

 

 

 だが、そこにいたのは艦娘などではなかった。更に言えば、人間ですらなかった。深海棲艦である戦艦ル級改flagshipだった

 

「お前は?」

 

時雨は知っていた。あの忌まわしき深海棲艦の指揮官。最新鋭兵器を手に入れ、仲間を沈め、人語を話すあの戦艦ル級改flagship……

 

「がっ!?」

 

 次の瞬間、時雨の体は空中に浮いていた。いつの間にか喉を鷲掴みにされて、高々と持ち上げられていた。その握力は強く、とてもではないが振りほどくことはできない

 

「く、あっ……!」

 

 呼吸ができず、苦しそうにもがく時雨を戦艦ル級改flagshipは楽しむように観察していた

 

「ムダナ足掻キダ」

 

 戦艦ル級改flagshipの周りには何処から現れたのか、他の深海棲艦が集まって来る。空母ヲ級、イージスシステムを持つ軽巡ツ級、重巡ネ級、駆逐ニ級……。空にはあのジェット機の轟音が聞こえ、海は血のように赤く染まっていた

 

時雨は呻き声すら漏らせずに、声なき悲鳴を上げた。戦艦ル級改flagshipは時雨に砲門を向けていたのだ。このままではやられる!しかし、首を掴まれた状態では逃げる事も出来ない

 

「沈メ」

 

砲声が聞こえると同時に時雨の意識は、闇の中に飲まれていった

 

 

 

 

 

「うわぁっ!」

 

 自分の悲鳴で、時雨の意識は一気に覚醒した。上半身を思い切り起こしたせいで、体に掛けてあったタオルケットが体から滑り落ちる

 

「ここは?」

 

時雨がいる所はアパートの廊下ではなく、とある狭い部屋だった。誰かが介抱したのだろう、時雨は布団で寝ていたのだ

 

「夢……?」

 

 先ほどまでの光景が夢であったことを悟り、時雨は安堵の息をついた。しかし、時雨の心臓は早鐘のように胸を叩いていた

 

(ここは何処だ?確か僕は……)

 

「ようやく目を覚ましたか」

 

 背後から聞こえた低い声に、時雨は振り向いた。いや、聞き覚えのある声だった

 

「提督!」

 

「提督って何だ?俺は海軍のお偉いさんではないぞ?」

 

 そこには提督がいた。いや、提督と言うべきか?時雨が寝ていた場所から少し離れた所であぐらをかいていた。服装もTシャツと短パンで姿は若く見える。ただ、言葉はいつも気遣ってくれるものではなく、やや乱暴な言葉。時雨自身も知らない提督の昔の姿だった

 

「てい……僕は一体……?」

 

「お前は半日眠っていたんだ」

 

「え!?」

 

時雨は素っ頓狂な声を上げた。緊張の糸が切れたからとはいえ、随分と長い間眠っていたようだ

 

「ああ、爆睡だ。随分うなされてたようだが、大丈夫か?」

 

「そ、そうなんだ……ありがとう」

 

昔の提督も優しかった。しかし、提督の目はこちらを警戒している。気遣っているが、あくまで親切に対応しただけ。それだけだ

 

「提督、あの……」

 

「だから、提督って何だ?俺はちゃんと名前がある。ところで、ギリーケースはお前のか?」

 

「うん……」

 

本当は沢山話したい。いつもなら、戦果報告や雑談などしている所だが、目の前にいる提督はまるで別人だ。提督であって、提督ではない。いつも優しく、時には笑顔を浮かべていた頃の提督とは違い、まるで犯罪者を見るような眼でこちらを見ている

 

(何があったんだろう?扉に貼っていた『狂人』の張り紙は……?)

 

過去の提督に何があったかは時雨も知らない。しかし、提督は提督だ。話す直前、時雨はあることを思い出した

 

(昔の俺はお前が知っている俺ではない)

 

未来の提督が何度も警告した言葉。初めは何とかなると思っていたが、いざ対面すると警告は重要な事だと改めて認識した。確かに馴れ馴れしい態度を取ると追い出されてしまう。満潮や曙など口が悪い駆逐艦が来たら、間違いなく喧嘩になる。逆に吹雪や睦月など提督に慕っている駆逐艦だと、どう対応するか迷うだろう。下手に話しかければ、追い出されるような気がする

 

「扉の前の張り紙を全部剥がしてくれてありがとう。ついでにわけのわからん連中を追い出した事も。大家から全て聞いた。大家も警察に連絡しようかどうか迷っていたらしい。小さな女の子が大の大人を退けるのだから、始めは不審者と思ったほどだ。しかし……全く、あの大家も甘いんだよ。『あんな可愛い娘が犯罪者には見えん!』とか『あんたが知らない親戚ではないのかい?』とか。はあ……で、お前は誰なんだ?俺に何の用だ?何しに来た?言っておくが、金は無いぞ?」

 

 時雨が知っている提督ではない。自分が知らない提督。下手すれば、全てが水の泡となってしまう。しかし、やらないといけない。では、どうするか?

 

(考えるんだ)

 

 ギリーケースはダイヤル式の鍵がかかっているため、提督は開ける事が出来なかったはずだ。あの中には、未来から持ってきた書類や写真などがあるが、厄介な事に時雨自身の艤装まで入っている。未来の提督曰く、この時代は艦娘は架空の存在である。つまり目の前にいる提督が見れば、改二であろうが、変わった武器しか見えない。いや、下手すれば時雨を危険人物と見るに違いない

 

(よし、まずは話そう)

 

 時雨は自分が艦娘を名乗らずに一から話し始める。深海棲艦が浦田重工業の軍事技術を盗み、世界を滅ぼすことを。自分も深海棲艦と戦ったが、敵が強大過ぎて歯が立たなくなったという事。味方部隊が全滅する手前に過去へ行くよう任務を与えられた事。勿論、艦娘という言葉は避けてあくまで海軍の陸戦隊として戦ったという風に話した。時雨は丸々一時間、未来の出来事を丁寧に説明した。提督は時雨の話に口を挟まずただひたすら話を聞いていた

 

「こんな感じだよ」

 

「つまり俺は近い将来、海軍の司令官になってお前達を率いて深海棲艦と戦うって事か?お前は未来の俺の部下なのか?すると、お前は女性兵士か何かなのか?」

 

「そんな所だよ。だから君に会いに来たんだ」

 

「ははは」

 

提督は笑った。しかし、時雨は見逃さなかった。よく見る提督の笑顔ではなかった。提督の目は笑っておらず、馬鹿にした笑いだった。それどころか警戒が増すばかりである

 

「では、お前を送り込んだ張本人へ伝えてくれないか?勧誘はお断りだと」

 

「僕を送り込んだのは君だよ」

 

笑いながら首を左右に振る提督。完全に信じていない。それもそうだ。未来から来ました、と言われてすぐに信じる人はまずいない。普通なら精神病院送りだろう

 

「では、未来へ送り返してやる。さっさとここから出て行け!」

 

扉に指を指し、出て行くよう促された

 

「出て行け!嫌な連中を追っ払った事には感謝する。だが、こんなバカげた話をしに来たのは『あいつ』以来だ!深海棲艦は知っているが、それは海軍の仕事だ!俺は海軍に入ろうと思った事がない!」

 

(嘘だ……)

 

直感的に時雨は思った。そうでなければ、提督は海軍に入っていないし、時雨も会っていないはずだ。そして、提督自身の言葉に気づいたことがあった

 

(『あいつ』……未来の提督が話していた僕達の『創造主』の事かな?)

 

 質問しようとしたが、提督……いや、目の前にいる若者に聞いても無駄だろう。何かしら嫌っているらしい。しかし、事態は悪化するだけだ。話し合いも成立していない。時雨は悟った

 

もう最終手段を使うしかないと

 

ギリーケースを持ち扉に向かう提督に時雨は大声で怒鳴った

 

「提督!僕は……本当は女性兵士なんかじゃない!僕は『艦娘』なんだ!」

 

提督は動きを止め、その場から動かなかった。空気が重々しく感じ、緊張が高まる。提督はゆっくりと振り向いた。提督の顔を見て、時雨はこの任務は他の艦娘に任せてはいけないと強く認識した

 

 時雨は見たことなかった。まるで汚い汚物を見るような目で、見たことないほど怒りのこもった表情で、他の誰でもない、自分のことを見つめてくる。どんな苦難でも皆に見せなかった表情。時雨は僅かに後ずさりしたが、提督は速足で時雨に近づくと、いきなり胸倉を掴まれた

 

「いくら貰った?」

 

聞いたことのない怒りがこもった言葉が時雨の耳に響いた

 

「いくら金を貰ったかって聞いてるんだ!それとも、『あいつ』は再婚したのか!いや、そんなはずはないよな!まさか隠し子とか言うんじゃないだろうな!正直に答えろ!それとも『あいつ』はついに人体実験に手を染めたのか!くそ!『あいつ』をぶん殴りにいってやる!刑務所に入る覚悟はある!もう限界だ!!」

 

 時雨がどう答えたらいいか迷っていたが、過去の提督は怒りを爆発した。どうやら、『艦娘』のキーワードが提督の逆鱗に触れてしまったらしい。何か手を打たなければ、事態を更に悪化させただけである。このまま放って置けば、提督は犯罪に手を染めかねない。やるべきことは提督の暴走を止める必要だ

 

「提督、ごめん」

 

一言謝ると、提督を投げ飛ばした。と言っても大分、加減してある。投げ飛ばされた提督は畳の上に叩きつけられ、苦痛で呻いている。しかし、こちらを向ける目は全く変わらない

 

「提督がどんな目にあったかなんて僕は知らない。でもこれだけは言うよ。僕は『艦娘』だ。その証拠をみせてやるよ」

 

「そうかい!元は艦だったとか海の上を歩くとか言うんじゃないだろうな!」

 

ゆっくりと立ち上がりながら提督は吠えた。提督の言葉を察するに艦娘の仕組みはある程度、知っているらしい

 

「艦娘を知ってるの?」

 

「知らないね!」

 

「嘘はいいよ。海へ行こう。話はそれから」

 

 時雨の提案に提督は呆れたが、提督は一緒に海へ行く事に渋々と同意した。廊下で待たされている間、時雨は海岸の場所を地図で確認していた。幸いな事に約30分歩けば海岸に着くとの事だ。何とか提督を外に連れ出した時雨は、海岸に向けて歩きだした




ところで艦これSSを読み漁ってますが、ブラック鎮守府立て直しって意外と多いですね
特にブラック鎮守府の前任だった人は深海棲艦の工作員かと思うほど、艦娘に非人道的な扱いをしています。そして艦娘が新人提督に襲って来る間は襲撃ほとんどなし。現れたとしてもザコとも言える程、とても弱い

深海棲艦って実は策士だったのでしょうか?確かに工作員による工作も戦いの1つですから。元ブラック鎮守府の弱っている艦娘を敵とすら見ていないのでしょう

鷹の目のミホーク「うさぎを狩るのに全力を出すケモノとは違う」

ブラック鎮守府は深海棲艦に舐められてまくりですね
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