時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第14話 証拠

 かつて、ここの砂浜は観光客でにぎわっていた。特に夏では海水浴として人気のスポットでもあった。しかし、深海棲艦が出現してから僅か一週間後で誰も近寄らなかった。深海棲艦が出現したのは太平洋のど真ん中だが、既に日本の近海まで近寄ってきたのだ。と言っても、日本本土を侵略されている訳ではない。問題は海にはある深海棲艦が日本近海でうろついていたからだ。その名前は駆逐イ級。見た目はイルカのような姿をしており、特に脅威という風には見えなかった。しかし、この駆逐イ級は人類にとって十分に脅威だった。口から砲塔を出すと、無差別に海を航行する船舶を攻撃したのだ。そのため、行方不明になった船が急増した。沿岸警備隊や海軍が反撃に出たが、こちらの攻撃を全く受け付けなかった。それどころか、それらの船を片っ端から沈められた。しかし、なぜか陸に対しては攻撃を仕掛けて来なかった。この時から、海は事実上奪われたのだが、陸に上がらない、陸に対しては攻撃して来ないという事が知れ渡ると騒ぎは収まってしまった。砂浜は誰もいなく、立ち入り禁止の看板が立っているだけ。フェンスどころか警察官や警備員すら見当たらない。そんな寂れた所に2人の影が現れる

 

「お前のご要望通りの海だ。海は駆逐イ級だらけ。海に入った人は駆逐イ級に攻撃され殺される。人食いサメよりも性質の悪い連中だ」

 

過去の提督……いや、過去であっても時雨の中では提督は提督だった。本来なら本名を口にする所だが、長い付き合いのせいで慣れない。口癖のようなものだ

 

「で、海水浴でもして遊ぶつもりか?」

 

「提督、文句多いよ」

 

「お前が俺をここに連れて来させたんだろうが!」

 

 実はここに来るまで時雨は、悪戦苦闘した。片道30分なのだが、提督は時雨が気づかれないように逃げようとしていたからだ。しかし、時雨もしっかりと対策をしていた。未来の提督からは『過去の俺は、お前が知っている俺ではない』と念を押されたからである。そのため、提督を砂浜に連れて来るのに大変だった

 

 

数分前

 

 海岸に向かう時雨だが、提督が隙を見て逃げたのを確認すると、時雨はとっておきの切り札を出した。それは提督の財布である。初対面で過去の提督がどんな人間か分かった時雨は、部屋から出る直前に提督の財布を素早く盗んだのだ。当の本人は気づきもしなかった

 

「あ!僕の手に財布がある。これで好きな物が買える!」

 

高々と提督の財布を掲げワザとらしく喜んだが、その直後、こちらに全速力で向かって来る人影があった

 

「おい!いつ俺の財布と盗んだ!?返せ、ドロボー!」

 

「え?提督が僕におごっていいって?」

 

「テメー!調子に乗りやがって!」

 

 時雨は財布を奪おうと追って来る提督から逃げていた。島風ほどではないが、時雨もそこそこ速い。時雨は追って来る提督と距離を保ちながら海の方向へ逃げていた。地図は頭の中に叩き込んでいるため迷う事はないだろう。海へたどり着くまで何人かのとすれ違ったが、こちらを奇異の目で見ていた。ギリーケースを軽々持ち、からかいながら逃げる女子を二十歳近い男が追いかけている姿は、あまりに奇妙だった

 

 

 

「時雨と言ったな。俺をここまで連れて来たのだから、何か重要な事だろうな?嘘だったら、お前を警察に連れていくぞ」

 

提督はぶっきらぼうに言ったが、疲労困ぱいで浜辺に座る提督の姿に時雨は笑った

 

「何だ?」

 

「だって……提督は運動が苦手かなって」

 

「悪かったな。マラソンは苦手なんだ」

 

提督は、時雨から奪い返した財布の中身を確認していた。その間、時雨はギリーケースの鍵を開け早速、作業を始める

 

「お金は盗んでなんかいないよ」

 

「何をしている?それは何だ?武器か?」

 

「これは艤装。深海棲艦と戦うための武器だよ」

 

時雨はギリーケースから艤装を取り出すと、装着した。自分がいつも愛用している艤装。丁寧に整備し続けた明石に心から感謝すると海へ向かって歩き出した

 

「おい、何をしている!自殺する気か!?」

 

提督は制止するだろう。こちらに駆け寄ったが、時雨は既に海に入っていた。いや、海の上に立っていた

 

「時雨、行くよ!」

 

たちまち海の沖合に出ると辺りを見渡す。空にはカモメが鳴きながら飛び回っており、波は比較的穏やかだ。海面をのぞき込むと海は澄んでおり、魚が泳いでいるのを確認出来る。陸軍将校がいれば、趣味である釣りには持って来いの海だ

 

「いい天気だね」

 

あの最新鋭兵器を装備した深海棲艦やミサイルから怯えずに航行出来る事に時雨は嬉しかった。雨は降っていないが、今の時雨は気にしない。あまりにも嬉しさに本来の目的を忘れていたが、直ぐに思い出すと浜辺の方へ振り向いた

 

提督は呆然と時雨を見ていた。まるで店に陳列しているマネキンのように動いていなかった

 

「提督!どう!?」

 

時雨は大声で呼んだが、提督からは一切返事はない。目は皿のように見開き、口は動いている。恐らく独り言だろう

 

(提督もこんな顔するんだ)

 

 驚愕し身動き一つもしない提督の姿を見て必死に笑いをこらえていたが、突然鋭い声が聞こえた

 

「危ない!後ろだ!」

 

 次の瞬間、時雨の背後から凄まじい水しぶきが上がる。それも三つ。現れたのは駆逐イ級である。駆逐イ級はサイズが他の深海棲艦と比べて弱いが、それでも人類にとっては十分に脅威だった。それが三体。その三体とも、時雨に向けて口を空き、砲や魚雷を向けていた。提督は大声で時雨に向かって叫ぶ

 

「逃げろ!そいつは駆逐イ級だ!!」

 

 

 

 常識とは時代とともに変わるものである。この時代の常識は、深海棲艦を倒す有効な手段がないと言う事だ。艦娘もまだこの世界に現れていない。全て未来の提督が教えてくれた。時雨がとった行動は…

 

「とっくに気付いていたよ」

 

逃げるという選択はない。後ろから近づいている事にはとっくに分かっていた。背中の砲塔を素早く動かして展開させ、手に持ってくると砲を駆逐イ級に向けた

 

「残念だったね」

 

駆逐イ級よりも早く時雨は引き金を引いた。砲から火を吹き、砲声が鳴り響いた。駆逐イ級と時雨の距離は近いため、外しようがない。時雨は改二であるため、火力も強力だ。砲弾は駆逐イ級を直撃し、あっという間に撃沈した。仲間がやられるのを見た駆逐イ級は熾烈な攻撃を仕掛けた。魚雷と砲撃で時雨を狙ったが、時雨は何なく躱す。駆逐イ級は逃げる時雨を追跡したが、速さと機動力は時雨の方が上だった。改装され改二になった時雨にとって、駆逐イ級の敵ではない。機動力を活かして砲弾と魚雷を躱すと、狙いを定めて2発砲撃した。二発とも駆逐イ級に命中。駆逐イ級はおぞましい叫び声を上げながら海に沈んでいった

 

(そろそろ不味い)

 

幸い被弾はしなかったものの、戦闘したお蔭で貴重な燃料と弾薬を消費していまった。今回はあくまで自分が艦娘の存在をアピールするための戦いだ。この世界で補給できるかどうか時雨にも分からない。『創造主』に会わないとどうしようもないが、今は仕方ない。撃沈する駆逐イ級を他所に浜辺に向かった。時雨が浜辺に上がるまで提督は身動き取らずに呆然と時雨を見ていた

 

「この勝利、僕の力なんて些細な物さ」

 

「何処が些細な物だよ……」

 

 提督は未だに目の前に起こった事が信じられないようだ。よっぽどショックが大きかったようだが、これで提督は信じるだろう。そうであって欲しかった。もしこれでダメなら……

 

 しかし、その心配はする必要はない、と時雨は思った。独り言を呟いていたが、口にした言葉は「理解できない」「あり得ない」を何回も繰り返している

 

「提督、大丈夫?」

 

「……」

 

無反応。しかし、こちらを宇宙人か何か見るような目で見ており、掛けられた声に反応して2、3歩後ずさりをしていた。その姿は余りにも滑稽で時雨は、再び笑ってしまう。未来の提督が、この姿を見たらどう反応するのだろう?青葉がいれば、間違いなく写真を撮って新聞に載せているに違いない。そして、夢遊病のようによろよろとアパートに向けて歩く提督を時雨は、鼻歌を歌いながらついていった

 




カイル・リース「1作目の時はサラ・コナーを説得するのは大変だった…」


アーケード版の時雨改二は、背中の砲塔を動かして撃っていますが、その砲塔の動き方が面白いです。変形するとは思わなかった
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