時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第16話 時雨、創造主に会う

「提督、『創造主』ってどんな人なの?」

 

「会えば分かるさ」

 

 翌朝、朝食を取りながら時雨は聞いたが、提督からは返事はそれだけだった。態度が柔軟になったとはいえ、未だに教えてくれない。時雨の顔色を見て直ぐに付け加えた

 

「心配するな。ただ……いや、未来の俺も『あいつ』が死んでも嫌っているんだなぁ、と」

 

 微笑みながら朝食を取る提督。朝食と言っても、パンと卵とサラダという質素な食事である。しかし未来の世界では、こんなものはご馳走である。時雨は食べ終わるまで感謝した

 

「未来の世界は飢餓状態に等しい状況か。未来の俺も苦労しただろ?」

 

「うん。食事も質素だったから。あ、でも誰も提督に文句言う人はいなかったよ。麦飯、沢庵、と牛缶とお味噌汁で満足していた艦娘もいたぐらいだから」

 

「それ、満足していると言えるのか?」

 

 首を傾げる提督だが、無理もない。秋月姉妹は質素な食事には慣れていたためか、艦娘の中では質素な食事だけで満足していた。彼女達の艦だった頃は、戦況がひっ迫していた状況だったため身に染みていたとの事だ。世界が違うとは言え、皮肉にも似た戦況である

 

「準備出来たら行くぞ」

 

「分かった。ところで何処に行くの?」

 

「『あいつ』は郊外の方にいる。ここから約40kmくらいだ」

 

「え?」

 

 時雨はあんぐりと口を開けた。せいぜい、ご近所近くにあると思っていたが、まさか遠くまで行かないとは思わなかった

 

「どうやって行くの?」

 

「焦るな。ちゃんと足はある」

 

提督はある物を時雨に渡した。それはバイクのヘルメットだった

 

「予備のものだ。ツーリングした経験は?」

 

そう言えば提督はバイクを持っていたんだったっけ。昔はツーリングが趣味だと言っていたような……

 

 

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。初めてだから」

 

時雨は戸惑っていた。バイクでしかも二人乗りなんて経験した事は全くない。そのためまだ動いてすらいないのに、時雨は提督に必死に抱き付く形となった

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

「な、なななな何?」

 

「いや、何でもない。ヘルメットを被れ。警察沙汰は御免だ」

 

提督は何か言いたいようだったが、時雨の緊張している顔を見て止めた。実は彼の背中に当たっていることはあえて言わない。……何が当たっているか?

 

……胸の大きな脂肪と言えば分かるだろう

 

震える手でフルフェイスを被った時雨は、再び提督に抱き付いた

 

「運転する時に暴れるなよ」

 

「も、ももももし転んだら?」

 

「そのための艤装だろ。衝撃を和らげるってお前自身言っただろ?」

 

 バイクというのは、事故に会うとライダーは悲惨な目に会う。衝撃がモロに襲うためである。彼はフルフェイスとプロテクター付きのバイクジャケットと革パンツを着こんでいるが、大事故に会えば間違いなく病院送りだ。しかし、彼はツーリングを趣味として大学生時代によく乗っていた。大学の通学は勿論、休みには遠くまで運転していたらしい。なので、彼にとっては事故の怪我なぞ心配している暇はなかったのである

 

「た、確かに言ったけど(深海棲艦の砲撃食らっても死なないって言わなきゃ良かった)」

 

 艦娘は艤装を纏えば、人が木端微塵になるような爆発が起きても衝撃を和らげてくれる。勿論、このシステムは都合のいいようなものではなく、大破の状態だと艦娘であると無事では済まない。入渠しないと撃沈されるか最悪死ぬ可能性があるが、艤装を纏った艦娘にとって交通事故は運が悪くて中破止まりだろう。ゲリラのロケット砲みたいなものがあれば別だが、この時代はゲリラなんていない。よって時雨は艤装を纏ったままバイクの後ろに乗らされている。勿論、ヘルメットを被っている

 

「では、いくぞ。しっかり掴まってくれよ。暴れて事故起こしたらシャレにならんからな」

 

「ちょっと待って。まだ心のじゅ……うわぁ!」

 

 時雨が答えるよりも早く、提督はバイクを急発進させた。彼が持っているバイクはスーパースポーツで排気量は400cc。パワーが強く、スピードも出せる。高速道路にも走れるためツーリングには持って来いの乗り物である。初めて経験するバイクという乗り物に時雨は悲鳴を上げた

 

「止めて!止めて!大破する!」

 

「聞こえないな~」

 

「聞こえているよね!?怖いからスピードを落として!」

 

時雨の必死の叫びを無視してバイクを運転する。一般道路に出て走っても時雨は、しばらくの間、悲鳴を上げ続けた。追い越し可能な車道には自動車を追い越しながら進み、曲がり道はしっかりと車体を倒して曲がる。勿論、道路交通法はしっかりと守っているから問題ない

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 赤信号で停車し、時雨を心配する提督。フルフェイスしているため、時雨の表情は分からないが、必死に何度も頷いている

 

「だ、だだだだだ大丈夫」

 

「深海棲艦を倒す力を持つ少女がバイクで悲鳴か。こりゃ、面白い」

 

「楽しんでいたの!酷いよ!」

 

 抗議しようにも、声が上ずってしまう。艦娘は海の上に走れるが、艦をモデルにしているため艦娘の駆逐艦クラスだと約30ノット。つまり約55.6km/hの速さが出せる。しかし、海とは違う感覚であるスピードにやはり戸惑いを感じてしまう

 

「頼むからゆっくり行って!」

 

「おっと、青信号だ」

 

急発進するバイクに時雨は、再び悲鳴を上げた

 

(この道路、制限速度が60kmなんだけどな~)

 

艦娘が海上で走る速度と同等のはずだが、バイクに乗るのが初めてなのか、時雨は悲鳴を上げている。ジェットコースターに乗らしたらどう反応するか気になるが、とにかく『あいつ』の所まで行かないと。ギアチェンジしエンジンを吹かしながら、目的地までバイクを走らせた。悲鳴を上げ続ける時雨を乗せて

 

 

 

 街の郊外は、人気がない。商店街もデパートも指折りほどしかなく、住宅街が少ないため平凡な場所である。周りは畑ばかりで道路には車一台も通っていない。いや、その道路に一台のバイクが猛スピードで走っている。それは二人乗りしているバイクであった

 

 

 

「着いたぞ」

 

 バイクを止めた提督は時雨に声を掛けたが、時雨から返事はない。腕は胴体を掴んだまま離さなかったので、ヘルメットを軽くたたいた

 

「頼むから離してくれ。降りられん」

 

 しかし、時雨からは何も反応が無かったため離そうとしたが、力が入っているせいか中々、離してくれない。何とか腕を無理やり離し、時雨を降ろさせた。フルフェイスを外すと時雨はやつれていた

 

「おい、生きてるか?」

 

「うん。大丈夫。大丈夫」

 

 ブツブツ呟く時雨だが、大丈夫だろう。ちゃんと立って歩いているのだから。流石に可哀想な気がしたが、今は置いておこう

 

「ここは?」

 

「『あいつ』の家」

 

 時雨は目を上げたが、視界に映ったのは極普通の一軒家だけ。辺りを見渡したが、広大な畑と一軒家が数件あるだけだ

 

「期待外れだったか?」

 

「そんな事はないよ」

 

 時雨はそう言ったが、内心では落胆した。時雨の想像では、軍の研究員か政府関係者だと思っていた。しかし、住んでいる場所から見て『艦娘計画』を立ち上げた人が住んでいるようには見えなかった

 

「とにかく、入るぞ」

 

 提督は目の前の敷地に入り、ドアの横に設置してあるチャイムを2、3回鳴らした。しかし反応はない

 

「当然の反応か」

 

 提督はポケットに手を突っ込み鍵を取り出すと、なんとドアの鍵穴を差し込んだ。そしてカチャリと音がすると、提督はドアを開けて入ったのだ

 

「え?ちょっと待ってよ」

 

 時雨は唖然した。まさかこの家の鍵を持っているとは夢にも思わなかったのだ。急いで提督の後を追った。そのため時雨は、ドアプレートをよく見なかった。彼女が気付いていたら、驚愕していただろう

 

 

 

「おい、いるか!……全く掃除も禄に出来んのか?」

 

 提督の後を追い家の中に入ったが……部屋は広いものの、中は汚かった。ゴミ、服、日用品などは床に散乱し、食卓には新聞と食べ残しの食器が散らばっている。『創造主』にしては余りにもお粗末だ。時雨は呆れてため息をついたが、提督の怒鳴り声で驚愕した

 

「親父!さっさと出て来い!」

 

「え?えー!!」

 

時雨は思いきり声を張り上げた。予想外の人物に時雨は思考が停止状態に陥った

 

「お、親父って……提督の……お父さん!?」

 

「ああ。扉のプレート見なかったか?苗字は俺と同じだ」

 

時雨はブツブツと呟く

 

「えっと……『創造主』って提督のお父さん?では、僕は提督の……何だろう。兄妹みたいなものかな?でも艦娘と人は……」

 

「そこ、独り言うるさい」

 

 時雨の悩みを他所に提督は別の部屋に続く扉を開けようとしたが、ドアのノブを手にかける直前、ドアが物凄い勢いで開いた

 

「何しに来た、このバカ息子が!今は世界の危機を救っている最中だ!」

 

 白髪交じりで眼鏡をかけた中年の男性が現れ、提督の胸倉を掴んだ。顔は提督と似ているが、体系は肥満ではないものの、腹は出ていた。提督は掴まれた手を振りほどいたが、父親は喚いている。酒でも飲んでいたのだろうか。アルコールの匂いが鼻を刺激した

 

「こっちは研究の真っ最中だ!軍の研究を邪魔する気か!?海軍中将に向かって失礼な態度を取るとはどういう事だ!」

 

「何処が研究だ。仕事を放って置いて、昼間から酒を飲むな。少しは片付けしろ」

 

怒る父親に提督は冷たい態度をとっていた。時雨も戸惑いながらも、提督に質問をした

 

「て、提督。この人が僕達を?」

 

「ああ、そうだ。こいつは『艦娘計画』を大本営に説明したため、左遷されたイカれた親父だよ。降格処分を食らって今は『大佐』。職場も海軍工廠の責任者から海兵募集の事務所に異動させられた哀れな海軍上級士官だよ。その時のあだ名が『狂人』」

 

「黙れ!わしは志願兵を集めるよりも重要な研究をしているのだ!」

 

 提督の説明に怒りが増し、提督に詰め寄る。そして時雨の方を見たが、直ぐに視線を提督へ向けた

 

「ところでその子は誰だ!?まさか……付き合っているのか?なんてことだ!父さん悲しいぞ!わしは一生懸命研究している最中に、お前は女の子と楽しくいちゃつくとは!」

 

「誤解するな。こいつは……っておい、時雨!戻って来い!」

 

 提督は時雨を見るが、彼女はなぜか顔を真っ赤にして何かまた意味のわからない言葉をブツブツと呟いてトリップしていた

 

「提督といちゃつく……うん、別にいいよ。僕は提督なら……」

 

「いいか!未来の俺とどういう関係か知らないが、親父にさっさと説明しろ!」

 

 提督はボーとしている時雨の肩を揺さぶり叫んだが、父親は時雨が纏っている艤装を見るなり血相を変えて時雨に近づいた

 

「どけ!……ば、馬鹿な……いや、な…なぜ……!?これは夢か!!」

 

 親父は時雨の艤装を何度も触り、眼鏡を掛け直し、時雨を観察していた。時雨は観察する提督の父親に特に反応はしなかったが、時雨も提督の親父を観察していた。しばらくすると父親は聞いた

 

「お前は誰だ?」

 

「僕は白露型駆逐艦、時雨。『創造主』さん、よろしくね」

 

時雨の丁寧な返事に提督の父は額に手を当て、歓喜を上げた

 

「信じられん!艦娘が実在している!どうやって?まさかそんな……。遂にやったぞー!」

 

 提督の父親はガッツポーズして叫んだ。ここは田舎なので騒音迷惑はないが、彼の喜びはもはやガキみたいであった。余りの反応に時雨は笑ったが、息子である提督はめんどくさそうな顔をしていた。父親は呆れる息子を無視して時雨に聞いていた

 

「調べさせて貰っていいかな?」

 

「ええっと……」

 

「おい、その言い方は卑猥だ。とりあえず、話を聞け」

 

 時雨が困っているため提督は助け舟を出した。なぜ、父親は時雨を艦娘であると分かったのか理解出来なかった。まだ建造もした事もないはずだ。成功しているなら、左遷される訳がない

 

 

 

「……恐ろしい未来だ……」

 

 時雨の説明を聞いた父親は、今や恐怖に打ちひしがれていた。初めは嬉々として聞いたが、自分の息子が艦娘の司令官になる事。深海棲艦が最新鋭兵器を入手し世界を滅ぼす事、過去へ行き歴史を改変させる事を聞かされた父親は、しばらくの間、呆然としていた

 

「提督が……その貴方の息子さんが、『タイムマシン』の研究をしていたから、この時代に来れたんだ」

 

「確かにわしは研究をしていた。だが、その研究は副産物のようなものだ。しかし……本当に造れたのか?エネルギーはどうやって確保出来た?」

 

「それは――」

 

「その話は後にしてくれ。親父、何で時雨の言葉を疑いもせずに信じる?」

 

頷きながら納得する父親。時雨はホッとしていたが、彼の言葉を遮るように提督が声を上げた。彼の疑問はご尤もだ。普通なら信じる方がどうかしている

 

「そりゃ、目の前に現れたら信じるしかないだろう」

 

 未来の提督は過去の自分は信じないだろうと警告した。しかし、『創造主』である父親には何も触れていなかった。提督の父親は柔軟だ。いや、余りにも柔軟過ぎた

 

「艦娘は信じて俺へは不信とは。家族って何だろう?」

 

「おい、それはないだろ!この家から出て行ったのはお前だ!」

 

「原因はアンタだ!経緯はどうあれ、親父の失態のせいで、俺にまで『狂人』というレッテルを貼られる始末だ!」

 

 提督の言葉を発端に二人の間で口論が発生した。双方が蓄積された不満が爆発したらしい。父親は顔を真っ赤にして叫び、提督も負けじと吠えながら罵った。時雨は2人の口喧嘩に戸惑いながらも何とか抑えようとしたが、熱くなった議論を抑える手段など知らない

 

 

 

止まない口げんかに遂に……遂に時雨も怒った

 

「いい加減にして!」

 

 時雨は叫んだ。この時代に来てこれと言った目ぼしい事はしていない。時雨が出会った人は皆、自分勝手だ。迫る危機をどんなに説明しても事態は、一向に改善されない

 

「僕は……僕はただこの時代に来て遊びに来たんじゃない!建造された日からいきなり仲間を失って、負け続けて、最悪な事が起ころうとしている時に、どうして仲間割れするんだ!僕達でもそんな仲違いするような事は無かった!」

 

 艦娘達は一人一人個性があり、着ている服から喋り方まで十人十色だが、流石に大喧嘩する程、仲が悪かった事は一度もなかった。同じグループにいる艦娘は助け合い、話し合い、信頼しる仲間・・・・・・家族に近い存在であり、どんな理不尽な命令でも実行して来た。艦の記憶で軍隊というものを知っている事もあり、団結心はあった。未来の提督も深海棲艦が最新鋭兵器を持っていなければ有能だったであろう。でなければ、逃げ出す事はしなかったはずだ

 

 しかし、それは未来の提督だ。目の前にいる男性は、姿は似ても提督ではなかった。『創造主』である彼の父親も失望していた。『創造主』も結局は力もない、ただのイカれた中年男性だった

 

「もういいよ!勝手に喧嘩して世界が滅ぶのを眺めたらいいさ!」

 

 呆気に捉える2人を置いて時雨は外に出た。外はいつの間にか雨が降っており、時雨の心を現しているようだった

 

「雨は……止まなくていいよ」

 

まるでシャワーにでも浴びるかのように雨に濡れながら時雨は暫く外に立っていた

 




・オマケ
提督「バイクで『あいつ』の所まで行くぞ」
時雨「提督、頼むから安全運転でね!」
提督「何言ってるんだ。結構、乗り回しているから心配するな」
時雨「警察に捕まったり、事故を起こしたりしないで!」
提督「分かってる。お前こそ手を放すな」
時雨「絶対、人格や顔つきが豹変したり、デュエルを始めたり、特撮ヒーローに変身したりしないで!それと道間違えて丘乃上女子高校へ行ったりしないで!」
提督「一体、何の話をしているんだ?」


私の友人に400ccのスーパースポーツのバイクを持っている人がいます。昔誘われ、二人乗りで友人のバイクに乗った事がありましたが、楽しかったです
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