雨が降り続ける一軒家の庭に一人の少女が座っていた。濡れても気にならないのだろう
「雨はいつか止むさ」
いつも口癖に言っている事だが、今では降り続けようが、止もうがどうでも良かった。未来の提督から託された任務。しかし、その願いも水の泡と化するだろう。過去の提督は無能。その父親である『創造主』も同様。しかも、軍では降格処分されている。とても艦娘を造った人物とは思えなかった。明石や夕張のような機械をいじる人には到底、見えなかった
「僕は何のために建造されたんだろう?」
不意に口走った言葉。自分は普通の人間とは違う。工廠で産まれた
艦だった頃の世界で国のお偉いさんから人や国を守るために存在すると言われたような気がしたが、今ではそれが疑問に思えて来た。深海棲艦に対抗出来ないのであれば、他の手段を考えようとしなかったのか?浦田重工業がいい例だ。詳しい事は知らないが、浦田重工業は深海棲艦を撃破出来る兵器、イージス艦を造った。つまり、深海棲艦を倒せる手段を持っている事になる。また未来では、一部とはいえ何故か艦娘を叩く団体がいた。海軍軍人の中にもいたらしい。時雨を始めとする艦娘達は理解が出来なかった。敵よりも味方を敵視するとはどういう事なのか?そして、深海棲艦からの攻撃を受けると何故か防げなかった艦娘を批判する。意味が分からなかった
僕達は不要なのか?そんな奴らを守る価値があるものなのか?命よりもプライドや差別が大事なのか?艦娘が嫌いなら望み通り消えよう。あの親父に『艦娘計画』を廃止するよう進言し、自分は隠れて生きる。深海棲艦から攻撃を受け、人が大勢死のうが僕には関係ない
「提督は僕達を……艦娘を嫌っていたのかな?」
何気に呟いた言葉。それに応えた者がいた
「それは違う」
時雨は後ろに振り返ると提督がいた。雨にうたれながら。いつからいたのだろう?
「さっきはすまない。俺は……未来の俺と違うかも知れない。まだ軍人にもなっていないから。でも、これだけは言える。俺はお前達である艦娘を嫌ってはいなかった」
「どうして分かるの?」
「お前に渡されたノート。あのノートは助けを求めていたものが書かれていた。その様子だとまだお前は読んでいないようだ。中に入れ」
家の中に入り、濡れた身体を手入れすると提督はノートを持ってきて時雨に渡した
「このノートは戦闘記録じゃない。日記のようなものだ」
時空転移した直前に、ギリーケースに入れた数冊のノート。その一つが時雨の手元に渡された。時雨は一瞬迷ったが、ノートを開いた
○月×日
親父は実家で深海棲艦に殺された。警察の調べだと、戦艦ル級改flagshipがやった事だと。深海棲艦の猛攻により、浦田重工業が壊滅した今では、深海棲艦にとって『艦娘計画』は邪魔な計画らしい。だから、国は親父が提唱した『艦娘計画』を再開させた。但し、形だけ。深海棲艦からの脅威にさらされている人々を安心させるためのデマだった。俺は海軍に入隊したが、士官学校で聞いた時は呆れた。親父が死んだ後もバカにする海軍だ。そんな事をする暇があるなら深海棲艦を倒す手段を見つけろよ、と鼻で笑った
○月×日
実は『艦娘計画』の研究機関は海軍の技術部門の小さな部署だった。そりゃ、そうだろう。艦娘なんて架空の存在だったのだから仕方ない。士官学校を卒業したら、上から問答無用でそこへ放り込まれた。部下も居ず、自分ただ1人。俺の経歴を見たのだろう。これが我が家の伝統らしい。軍に入っても味方もいない。人を寄越すよう頼んだが、検討するという一言だけだった
仕事は……ただ座って何か新兵器のアイデアを閃く事。それしか出来なかった。軍の開発部門なのに機械も工具もない。他の部署から借りようとしたが、あっさりと断られた。元は親父の職場だったらしいが、今では左遷の場所らしい。まあ、期待はしていなかった。暫く様子を見る。何もやる事がないなら辞表を書いて、提出しよう
○月×日
ある朝、目を覚ましたら妖精と呼ばれる小人が現れた。信じられるか?妖精が実在しているんだぞ?目を疑ったよ。そいつが言うには、親父の遺言と遺産を受け取って欲しいと言われた。俺は断ったが、妖精は何か魔法か何かをかけけ無理やり外に出かけさせた。俺は仕方なしに妖精の指示通りに進んだ。実家とはかけ離れた場所にある一軒家を見つけた。苗字も違うから引き返そうとしたが、妖精には俺に説明した。あれは偽装だと。中に入ると、俺は驚いた。改装したのだろうか?中は研究施設になっていた。小さな砲か船の形のようなものが沢山転がっており、綺麗にまとめられた論文の用紙がたくさんあった。妖精の言うには、艦娘を建造してくれと。必要な施設は全てそろえてあると
俺は妖精の要望を受け入れた。やっと……やっと人生を変えるチャンスを手に入れた。深海棲艦を倒し英雄になって見返してやれる事が出来る。このチャンスを逃す訳には行かない
○月×日
親父は狡猾だった。初めは艦娘なんてバカげたアイデアだと思っていたが、規模を見る限り本気だったらしい。研究施設を別の場所でやっていたのは確かだ。深海棲艦もここが『艦娘計画』の研究施設とは知らないらしい。それとも本人さえ殺せば、それで終わりと思ったのか?分かっている事は、ここが無事という事は親父を殺した犯人は、此処の事は何も知らない。しかし、これからも全くばれないという保証はない。論文の内容はチンプンカンプンだったが、何とか理解してさせてみる
○月×日
全てを理解するのに一ヶ月くらいかかった。親父は正しかった。憎んだ俺が馬鹿だった。研究は俺が引き継ぐ事にした。理論は別として、残念ながら資金も物資も少ない。少なくとも援助は必要だ。しかも、信頼出来そうな組織か集団で。どうすればいいのか?
○月×日
海軍はダメだったため、陸軍に頼むことにした。当時の陸軍と海軍の関係はあまり良くなかった。なぜなら深海棲艦のお蔭で陸軍は完全に蚊帳の外だったからっだ。ダメ元で頼んだが、何処も断られた。全てを諦めていた時にある所から声を掛けられた。それは……残念だが、本人要望のため記す訳にはいかない
○月×日
親父が残した『艦娘計画』を再稼働を任された俺は、陸軍の援助により建造する事に成功した。工廠から出て来たのは、5人の少女。駆逐艦と呼ばれる艦娘だった。名前は「吹雪」「叢雲」「漣」「電」「五月雨」。初めはマジックか何かかと思ってまじまじと観察していたが、叢雲に叱られた。まあ、そうなるな
○月×日
海軍の上層部に『艦娘計画』が成功し、上層部に伝えた。しかし、返事は相変わらずだった。そこでデモンストレーションを行う事にした。作戦名は『東京湾駆除作戦』。ネーミングセンス無いと吹雪と電に言われたけど無視した。当時、東京湾一帯は駆逐イ級と軽巡ホ級が沢山いたが、吹雪達にとっては練度次第では撃破可能だったため心配は無かった。しかし、数が多すぎたため東京湾にいる深海棲艦を全て駆逐するのは容易ではなかった。24時間交代勤務で10日間連続出撃となってしまった。全て終わった時には、吹雪達も俺も疲労困ぱいになって2日間動けなかった。後で彼女達を慰めるのに苦労した
○月×日
『東京湾の駆除作戦』の成果は絶大だった。マスコミも躍起になって深海棲艦が撃破される光景を報道し始めた。世間は艦娘の話題で持ちきりだった。これまで冷たかった海軍の上層部は、手のひらを返したように優しく接して来た。お偉いさんが来て是非ともお国のために戦ってくれと。ただ……条件が気に喰わなかった。簡単に言えば、俺抜きで艦娘を管理するという内容だった。謝罪も恩恵もなしというおまけ付き。流石に俺も怒った。議論も平行線。上層部の言い分は、指揮系統が乱れるからというものだったが、こっちの知った事ではない。翌日、俺は辞表を出し吹雪達を率いて軍を辞めた
○月×日
軍を辞めたお蔭で住む場所は、父が残した研究施設だった。そりゃ、5人の艦娘の面倒を見る広さの家なんてない。幸いと言うべきか、父親の遺産のお蔭で生活は出来る。しかし何かしらしなければ蓄えは無くなり、いずれかは生活に支障が出る。電や叢雲からは不満が出ているが、こちらも何も考えがある訳ではない。海域を解放して民間船舶を護衛する代わりにお金や資源を貰う。万が一、急襲された場合、補償金を支払う。所謂、民間軍事会社を設立させた。まだ近海海域しか解放出来なかったが、それでも海運会社にとっては嬉しい話だった。艦娘5人の考えは様々だった。しかし、みんな俺についていってくれた。利益は……雀の涙だった
○月×日
色々と問題が抱えていた。建造で多くの艦娘が着任して来た。既に20人もの艦娘が俺の周りにいた。頭が痛いのは戦艦と空母だった。特に空母は使いまわしが良い代わりに補給が大変だった。しかし、運用次第で何とかなるだろう。海運会社の連中と上手く行っているが、何を思っているのかは知らない。海域の解放はこちらの事情もあり、本土から近い海域しか出来ない。海運会社は遠くの海域の解放を望んだが、俺は拒否した。予算も資源も満足出来ない今では、無理な話だった
○月×日
建造は暫く中止した。これ以上、増やしても負担が増えるだけだった。赤城と加賀は軍と関係改善を望んだが、俺は頑なに拒否した。長門も素直になればいいのにな、と言う始末だ。俺がなぜこんなにもなってしまったかと言うと、やはり条件が気に喰わないからだ。また、精神論やプライドで頭が固い連中に引き渡しても無駄だと感じた。艦娘の運営を知らないからだ。従来のやり方と違うと数時間説得しても無駄だろう。確かに艦娘は深海棲艦を打ち負かす力を持つ。しかし艦娘は無敵ではなく、そんな都合の良いものでもない。親父の『艦娘計画』を理解出来ない組織が、艦娘を理解出来る訳がない。無駄に命を散らすだけだ
○月×日
ある日、研究施設の警備に当たっていた川内から連絡があった。海軍軍人らしき人が来ていると。俺はいつでも攻撃出来るよう指示した。と言っても無力化だ。殺人は考えていない。玄関に現れたのは士官学校時代の教官だった
「どうぞ、お上がり下さい」
「今日は話し合いしに来たんじゃない。頼む。艦娘を海軍に編成させろ」
教官は俺を無視して話を薦めた。大淀の薦めにも断った
「お断ります」
「お前は事態を理解しているのか?」
「理解しています。遠くの海で海軍が深海棲艦を撃破したというニュースが沢山入って来ています。朗報の話ばかりです」
「いい加減にしろ!嘘情報を真に受けるのか!」
教官は怒り任せに怒鳴ったが、とっさに口をつぐんだ。近くにいた艦娘も聞いていたからだ。その場にいた吹雪と叢雲は頭を振り、加賀も長門もやっぱりな、という顔をして部屋の奥に引っ込んでいった
「本音が出ましたね。あんな連中に命を懸けてまで守る必要はない。別に国や軍が嫌いだからではない。気に喰わないだけです」
「だとしてもやるべきことは分かっているはずだ」
教官は鋭い声で俺に指摘する。虚仮にさえたと感じているらしい
「分かっています。海域を解放し、民間船の往来を可能にしています」
「お前のやっている事は、深海棲艦を撃破出来る力を商売道具に使っているだけだ!」
「そうです!それの何が悪いんです!?」
俺も叫ばずにはいられなかった。確かにやっている事は誇れるものでもない。しかし、今の状況では国のエゴのために艦娘をタダで与えているようなものだ
「大本営も国内世論も艦娘は、国が管理すべきだと。万が一、街が攻撃を受けたらどうする?国民の命を何だと思っている?」
「事情も知らない人達がいくら喚いても無駄です!特殊な仕事を理解出来ない人が上手く運営出来る訳がない!国民の命?私や艦娘を非難した人々に命を捨ててまで守る価値なんてあるのですか?それに深海棲艦は陸地に攻撃して来ない。なら、そこまで過剰に守る必要はない。大規模攻撃を受けたなら別ですが」
実は『東京湾の駆除作戦』にはとんでもないオチがついた。ある日、ある新聞社がとんでもない記事を発表した。『艦娘の正体は魔女か?』。内容は俺が黒魔術で悪魔を契約を交わし、異世界から誕生させた悪魔の子だと。勿論、根も葉もないデマだ。しかし、世論はそれを鵜呑みにした。特に街に外出した艦娘が石を投げつけられるなど酷い目に合わされた。人種差別に似た行為に俺は怒り、活動を一切停止した。流石に海運会社は真っ青になって頭を下げてくれたが、マスコミを始め何も手を討たない大本営から謝罪の言葉は全くなかった
教官は苦虫を噛み砕いたような顔をしていた
「お前のバックに陸軍がいるようだが、その陸軍もお前を裏切る可能性だってある。国の敵になりたくないならーー」
「その時は彼女達と一緒に小笠原諸島に逃げます。深海棲艦を撃破出来る力を既に持っているなら簡単に追いつけるでしょうね」
あっさりと返された反論に教官は、狼狽した。実はこの時、俺が反逆罪か何か指名手配されたら、艦娘全員引き連れて小笠原諸島の何処かの島に逃げる事になっていた。小笠原諸島の島民は、既に避難しているため無人である。深海棲艦を撃破する力を手に入れるには、通常兵器が一切効かない深海棲艦を何とかして海を渡らなくてはならない。本当にこんな事になったら、大本営にとっては皮肉だっただろう
「親父の件以来、あの日からずっと孤独だった。逃げずに地道な人生をした。離婚し別居している母が買ってくれたバイクでツーリングする事だけが唯一の楽しみだった。だが、俺は間違っていた。罪滅ぼしのために計画を成功させた。しかし、親父が世界の悪夢を終わらせようとした計画をあんたらは今も笑った。守るための戦力を拒否したのはあんた達だ。謝罪もこちらの要望もなしに艦娘を無条件で寄越せ、という考えは同意できない。自業自得だ」
「歩く兵器を野放しには出来ないんだ!それを……」
教官はそれ以上、言う事は無かった。突然、糸が切れたかのように教官が倒れ込んだ。神通が後ろから気絶させたのだ
「何をしているんだ?」
「もう十分でしょう。貴方の気持ちが少し分かったような気がしました」
「教官を放り出してくれ。話し合う事はない」
○月×日
今いる艦娘全員を集め、議論をした。と言っても、今後どうするかである。教官が口を滑らした事で艦娘も海軍の傘下に入らないという意見が多かった。と言うのは、艦娘は艦だった頃の世界について話していた事から大まかな歴史は理解出来た
大東亜戦争と呼ばれる戦争で思う事は特にない。当時の人間でなければ分からない事があるのだろう。しかし、この世界で日本と戦っている相手は深海棲艦だ。一丸となって戦う体制すら出来ていない
「でも、薄々気付いていたわよ。お姉さん、これでも大本営の考えなんて手に取るように分かるわよ」
「なら、今の現状は分かるはずだ。お前達が艦だった頃の世界は、アメリカと戦争していたようだな。こっちは深海棲艦が現れたせいか知らないが、大東亜戦争は起きていない。でも似たような状況だ。少数精鋭であるお前達、艦娘を大量喪失するような真似をされたら、それこそ勝てない」
陸奥の口ぶりに俺は、ため息をつきながら答えた。国のエゴに利用されるのは別にいい。問題は戦いのやり方は、艦娘が艦だった頃の日本の考えと酷似している事だ。精神論で戦争に勝てるのであれば、誰も苦労しない。一般人に銃を供給して引き金の位置を教えて前線に送ればいいというものではない。人命を度外視した人海戦術なら別だが、これを実効する者は相当イカれているだろう
「『艦娘計画』で説明したのか?」
「何回もだ。だが、上は一向に理解しようとしない。プライドが高いんだろう。柔軟な対応が出来る軍人や政治家は、この国にはいないようだ」
長門も呆れていた。ここまで酷いと、どうする事も出来ない。大本営、いや、人は痛い目や現実を見ないと考えを改める事が出来ない。それが大きな組織となると手が付けられない。これは散々な人生を経験した自分でもよく分かる。特に変化を望まない者にとっては
「でも深海棲艦が本土を攻撃されたら、こちらのせいにされてしまいます」
「大淀、その時はこう言うぞ。『だから言ったのに』」
全員が噴き出した。冗談はさておき、本当に深海棲艦が本土を攻撃して来たら、大淀の指摘された事にだろう。しかし、深海棲艦はなぜか陸を攻撃しない。近海にいる駆逐イ級ですら、船は攻撃しても陸に向かって砲を一発も放たない。これがこの世界の常識だ
○月×日
大本営の対応が急激に変わったのは『艦娘計画』が成功してから七か月後。またしても軍の使いが来たが、今度は様子がおかしかった。元帥、大将クラスの海軍の総司令官クラスと政府高官が数人。そして……外国人だろうか?軍服を着た白人の男性が数人いる
「今度は何ですか?」
「お願いだ。力を貸してくれ。お前の要求を受け入れる」
元帥の予想外の口ぶりに俺は、内心驚いた。組織はこうも変わるものだろうか?
「では、中へどうぞ」
俺は研究施設へ招き入れた。椅子に座らせ、話を聞く事にした。天龍と龍田を後ろに付かせたが、護衛みたいなものだ。ここにいる人達なら、彼女2人で取り押さえられるだろう
「君達、刀と槍をしまってくれないかな?」
「心配しなくても天龍と龍田の2人は私が命令をしない限り、貴方達を切りつけたりはしません。それで何の話です?」
海軍大将は時間の無駄だと感じたらしく、彼女二人の凶器を指摘するのはやめ、話始めた
「状況は深刻だ。深海棲艦の数は増え、地球の裏側まで進撃した。スエズ運河は敵の手に落ち、既に大西洋まで進出している。報道されていないが、欧州とアメリカの東海岸が攻撃を受けている」
俺は耳を疑い、目を光らせていた天龍も龍田も顔を見合わせた
「深海棲艦は陸地を攻撃しません」
「深海棲艦の戦艦タ級とル級がロンドンとニューヨークに砲撃の雨を降らせ、死傷者を多数出した。浦田重工業が壊滅した現状では、あいつらを撃破する力はない」
海軍大将は米国軍人である事を紹介し、その米国軍人は懐から数枚の写真を取り出した。海にずらりと並ぶ深海棲艦に、ニューヨークを攻撃する様子、テムズ川をさか上り、ロンドンを攻撃する深海棲艦。攻撃を受け、自由の女神やビックベンが倒壊する写真……
「今から2週間前に深海棲艦は、アメリカやイギリスに大規模な攻撃を仕掛けて来た。工場、高速道路などの交通機関、軍港や飛行場などの軍事施設。ニューヨークやロンドンの住宅街を大規模な破壊をもたらした、という情報が来た」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
俺は戸惑いを覚え、海軍大将の言葉を遮った。今の話だと、深海棲艦はアメリカとイギリスを徹底的に叩いている事になる
「更に攻撃を受ける以前に、米英の政府高官や軍のトップが暗殺されるケースも多発している。米大統領も殺されそうになった。深海棲艦の艦載機から執拗に狙われた。軍のトップを失った事で現場や兵士達に動揺が広がっている」
「ただ海上封鎖しているだけの敵が、突然戦い方を変えたとお考えなのですか?」
「そうとしか考えられない。今までにない現象だ」
海軍大将は大淀が出してくれたお茶を飲み干した
「今では、ヨーロッパの沿岸と北米の東海岸が火の海だ。昼夜に続く深海棲艦の空襲と艦砲射撃で各国は混乱している。民間人は逃げ惑い、各国の政府は対応に追いつけない。一部の地域では暴動や略奪が発生している」
「お言葉ですが、こちらからは何も出来ません」
「いや、あるんだ。『艦娘計画』のノウハウを提供して欲しい。そのノウハウを欧州とアメリカに輸出する。もうこれは国の問題ではない。人類の危機なのだ」
海軍大将は必死に訴えていた。話し合いを見ていた艦娘達も唖然としていた。ここまで酷いとは思わなかっただろう
「私に何をしろと?世間からは『狂人』と罵られ、軍からは厄介者扱い、『艦娘計画』を嘲笑った人達が、今さら助けを求めても私は何も出来ません。そこのアメリカ軍人は、私に頼まずスーパーマンでも来てもらうよう願った方が早い」
日本語が分かるのか、米国軍人はむっとした。海軍大将は冷や汗をかきながら急かすように頼んだ
「君の怒りは十分に分かる。経歴を見た。ただ、それでも力を貸してくれ。もう……我々もお手上げ状態だ」
海軍大将は暗い表情になっていた。演技ではない。やつれている姿は、本当に追い詰められた状態だろう
「君を艦娘の指揮官として任命したい。所謂、提督だ。階級、基地、戦うための必要な物資は提供する。指揮系統はこちらが何とかするし、過度な干渉もしない。その代わり――」
「艦娘を建造するノウハウを輸出したい……ですか。いいでしょう。しかし、どうやって輸出する気です?」
「ヨーロッパへは大陸経由で運ぶしかない。アメリカへは無理だが、ここで建造してアメリカへ送り出すしかない。ここにいる米国軍人は限られた安全空路を命懸けでアメリカから日本に来た。だが、その空路も今はもう敵の支配下だ」
予想外の口ぶりに俺は、唖然とした。そこまで追い詰められているのに、報道では楽観しているどころか、危機感すら伝えられていない。国民に真実を伝えないのはどういう事か?しかし、ここでこれを批判しても、俺にはどうする事も出来ないし、向こうの問題だ
「いいでしょう。では、私からもう一つ条件です。『艦娘計画』に反発する団体や政治家やマスコミなどあらゆる組織は、排除して下さい。軍人もです。それができなければ協力は無理です」
結局、この要望は全て通った。海軍の傘下に入った事に艦娘達は喜んだが、俺は違った。要望がすんなりと通ったという事は、事態がそれほど悪化していると言う事だ
これで深海棲艦を倒す事が出来る。そう思っていたが、何故か俺は素直に喜べなかった。深海棲艦の戦い方の変化に一抹の不安を感じた
嫌な予感がする
俺の考えすぎだといいが……
艦娘計画を成功し、ようやく軍に迎え入れた提督だが……