時雨は淡々と読んでいた。未来の提督は、艦娘を大切にしていた。ただ人間のように接するだけでなく、戦い方まで熟知しているようだ。己自身、勉強したのだろう。提督の活動に感心はしていたが、ある日付の記録からガラリと変わった記述を見て背筋が寒くなった
○月×日
「私たちの出番ネ!Follow me!皆さん、ついて来て下さいネー!」
佐世保鎮守府から金剛が掛け声を掛け声を上げて出撃し、一航戦である赤城と加賀、阿武隈、愛宕、睦月は追従するように敵の支配下である海域に向かった。事態は一刻も争うため出撃は、昼夜交代で任務を行っている。遠征も大忙しで、資源を調達していく。生活も活動も変わった。俺は海軍に再入隊という形で再び軍人になったが、以前とは違い待遇も変わっていた。基地も佐世保鎮守府を提供してくれたので喜ばしい事だった。今の俺は軍服を着ており、艦娘を指揮する『提督』となった。ただ艦娘の間では『提督』以外に『司令官』、『司令』など呼び名は様々だった。中には『クソ提督』や『ご主人様』と呼ぶ人もいたが、気にしなかった。以前までは、名前で呼ばれていたのだから
○月×日
資源も戦力も余裕が出て来たため、こちらの規模は拡大していった。海戦は善戦し、海域は次々と解放して行った。こちらが要望していた艦娘を嫌う団体や軍人はこちらには来なかったし、抗議の電話すらなかった。圧力もあるのだろう。マスコミは艦娘を持ち上げる内容ばかりだ
「司令官さん、どうしました?」
「いや、今日はいい天気だなぁって」
今日の秘書艦の当番は鳥海だ。暇さえあれば、俺は窓の外から海を眺めていた。気になっていて声を掛けたようだ
「吹雪と五月雨が言っていました。司令官さんは何から恐れていると」
「俺が?まさか!」
俺は笑い飛ばしたが、実は内心はそうではなかった。吹雪も五月雨も初期艦だ。長い付き合いで俺を観察した結果だろう。五月雨は間違っていない。実は気になっている事がある
あまりに……余りに上手く行きすぎている……
敵が手を抜いているのか、と思うほど連戦連勝しているのだ。損害は酷くて中破止まり。敵の主力艦隊が大西洋にいるという事なら納得するが、俺はそうとは思えない。しかし、艦娘を率いている者が不安な顔をしてはいけない。変な噂が流れかねない。青葉が喜ぶのは別の話だ。海域を解放し嬉々して変える金剛達を迎えるために港に行かなければならない
夕食の食堂では、楽しい会話が聞こえて来る。金剛と榛名が戦果を語り、加賀と瑞鶴は相変わらず、いがみ合っている。無断で飲んでいる隼鷹と千歳には後で叱っておこう。でも、暖かい空間だ。これがいつまでも続きますように
○月×日
俺の……俺の嫌な予感は的中した。海軍に編入されてから5ヶ月後に異変が起こった
きっかけは哨戒任務だった伊号潜水艦であるはっちゃん、イク、ゴーヤとあだ名がついていた伊8、伊19、伊58が行方不明になった。しかも、ゴーヤからの通信がこれだ
「イクとはっちゃんが正体不明の回転翼機の攻撃を受けたでち!」
正体不明の回転翼機とは何か全く分からなかった。再び問い合わせたが、音信不通。俺はすぐさま救助を出すよう指示した。しかし、どんなに探しても彼女達は見つからない。ソナーも引っかかりもしなかった。それでも、皆は諦めずにゴーヤ達がいたであろう海域を二日間探したが、彼女達は見つからなかった。代わりに捜索していた二式大艇があるものを拾ったと秋津洲が伝えた
それは……ゴーヤが髪につけていた髪飾りだった。髪飾りを見た潜水母艦である大鯨は気を失い、艦娘からは悲鳴が上がった。仲の良かったイムヤである伊168は顔を覆って泣き出したため、吹雪達が励ましながら艦寮に連れて行かれた。俺は今までにない出来事に呆然としていた。ゴーヤの安否よりも通信内容が酷く気になった。敵の駆逐艦か軽巡かによって攻撃を受けたならともかく、通信で送った内容である『正体不明の回転翼機』だ。敵の新兵器か何かか?しかし、そんな兆候も情報も一切なかった
その日の夜は、俺は眠れなかった。一抹の不安が心に張り付いていた
○月×日
翌日、俺は艦隊を再編成して出撃するよう命じた。任務は2つ。ゴーヤ達が行方不明となった海域を再調査する事。そして、もう1つは敵の新兵器について探る事。敵は新型の航空機、最新鋭の対潜能力を持つ回転翼機を導入したらしい。必ず母艦がいるはずであり、捜索するよう命じた。可能であれば鹵獲、不可能なら回転翼機の撃墜か母艦の破壊
編成は霧島、瑞鶴、隼鷹、利根、五十鈴、初霜
全て改二に改装され、瑞鶴は装甲空母になっている。艦載機も烈風や流星改など最新鋭の艦載機を搭載し、霧島には試作35.6cm砲など強力な装備をしている。瑞雲など保有している航空巡洋艦である利根もいる事から、例え急襲されても対応出来るだろうと考えていた。昨日までヤケ酒を呑んでいた隼鷹に活を入れて出撃させた。後は成果を待つまでだ。無事で祈る事しか出来ない
その祈りも無駄だった。救難信号をキャッチし、直ちに金剛達に救援隊を送り出した。皆が帰りを待っている間、金剛達は帰って来た。ボロボロになった霧島達を連れて
「霧島が死んでしまうネー!」
「嘘だろ……おい!明石呼べ!至急、入渠させろ!」
6人全員、大破で瀕死状態だった。弓矢は折れ、巻物は破れ、砲などの艤装は原型を留めていない程、破壊されている。高速修復剤を使ったが、6人が目を覚ます事は無かった。艦娘達の動揺が広がった。どんなことでも好奇心に駆られる青葉もこの時は、顔を青ざめているのを覚えている。俺も彼女の安否と報告が聞きたかった。敵が突然、強くなった訳を……
明石から霧島達6人が意識を取り戻したという連絡を受け、俺は急いで駆けつけた。医務室の前には金剛や翔鶴などの霧島達の姉妹艦がいた。俺の姿を見るなり、一斉に質問攻めを受けた。しかし、聞くことがあると言って半ば強引に医務室に入り、扉を閉めた。
無理に明石に頼み、何とか6人との面談の許可を頂いた。早速、霧島達の事情を聞いたが、とても信じられない内容だった
「軽巡3と駆逐艦3の水雷戦隊にやられただと!」
大艦隊か強力な深海棲艦が現れたと思いきや、予想外の敵の規模に叫ばずにはいられなかった。騒がしかった外では、一瞬の内に静まり返った
「何でやられた?敵の軽巡の砲塔なんてしれているだろ?」
「敵は飛び道具を持っていました。噴進弾…ロケットのようなものです」
霧島は声を震わしながら報告して来た
「ロケットのようなもの?どういう意味だ?」
「瑞鶴の偵察機が敵の艦隊を見つけ、私達はその敵艦隊に攻撃を仕掛けました。瑞鶴と隼鷹、そして利根に攻撃隊を発艦させて航空戦を仕掛けました。しかし、どうやったか知りませんが、瞬く間に全機撃墜されたのです。やむを得ず、砲雷撃戦を行うためこちらが接近すると……敵は……敵はこちらに向けてロケットを発射して来ました。海面スレスレにこちらに向かって来たかと思うと、飛び上がって襲い掛かったのです。全員が大破されるまで一方的にロケット攻撃を受けました。しかし弾薬が尽きたのか、なぜか敵は撤退しました。司令、あのまま攻撃を受けていたら私達全員、撃沈されていたかも知れません」
信じられない報告に俺は頭がついていかなかった。他の五人の様子を見ると、霧島と同様に体を震わせている。たった今、幽霊を見たかのような顔だった。出撃する前まで陽気だった隼鷹も同じだ。怯えている顔を初めて見た
「霧島達を頼む」
俺はそう言い残し医務室を後にした
○月×日
その日からは悪夢の始まりだった。偵察に出したイムヤ(伊168)が帰って来ず、出撃した艦隊は戦艦から駆逐艦まで全員大破という大敗北をした。例外はなし。一航戦である赤城も加賀も入渠した後も呆然自失だった。あの2人がショックを受けるのも初めて見た。鎮守府では野戦病院と化した。大破する艦娘が余りに多く、艦の時に工作艦を経験した事がある秋津洲も駆り出した。秋津洲も初めは難色を示していたが、次から次へと大破される艦娘を見て手伝い始めた
「何が……一体、何が起こっているんだ!?」
事態について行けず半ばヤケクソ気味に叫ぶ長門。だが、それを咎めるものはいない。誰もが同じ心境であった
「分からない」
俺はそう答えるしかない。敵の兵器が異様過ぎた。自分は何と戦っているのか分からなかった
状況を調べたが、どれも信じられない兵器であった
初めに、命からがら逃げた伊26であるニムは魚雷攻撃を受けたと言う。何処へ逃げても、まるで肉食獣のように追尾して来たとの事だ。岩礁を盾にして魚雷を誤爆させ、損傷を受けながらも何とか逃げ切ったとの事だ
次にこちらの水雷戦隊が潜水艦による魚雷攻撃を受けた。直ちに潜水艦狩りを行ったが……こちらも驚愕するような内容だった。五十鈴や朝潮、そして海防艦である択捉達によると三式水中音波探信儀(アクティブソナー)で敵の潜水艦を捕らえたが、何と水深を約500メートル潜航しているというのだ。ゴーヤなど伊号潜水艦でもこんなには潜れない。せいぜい100メートル前後だ。しかも、この潜水艦を沈める手段が皆無だった。爆雷は水深300メートルで水圧で圧壊自爆するためだ。爆雷をばら撒いても効果がない。それどころか、雷撃を食らって大破する羽目となった
一番悲惨だったのは、機動部隊だった。一航戦と五航戦を中核とした機動部隊を繰り出して鎮守府に迫る敵艦隊を迎撃に向かわせた。支援艦隊も出撃させた。資源の出し惜しみもせず全力で挑んだ。しかし、そんな猛攻を敵は嘲笑うかのようにこちらを徹底的に叩いた。敵は機動部隊を戦闘不能にした後、支援艦隊も襲い掛かった。支援艦隊である空母の飛龍蒼龍や戦艦である伊勢日向は必死に抵抗したが、それすら無駄だった。帰投した艦娘全員がダメージが大きかった。海に浮かぶのが奇跡と思われる艦娘もいる
「赤城、何があった?」
作戦に参加した機動部隊の艦娘全員に入渠させた後、部屋に集め事情聴取を行った。傷が癒えたとは言え、艦娘全員顔を引きつられている
「責めるつもりはない。しかし、確認したい事がある。俺は敵艦隊を叩くために機動部隊である連合艦隊を編成した。空母4、高速戦艦に重巡、軽巡、駆逐艦を12隻編成させた。雷巡もだ。支援艦隊も長距離砲撃に特化した編成した艦隊だ。帰投した時の会話を聞く限り、全員返り討ちにあい、敵にダメージを与える事が出来ず、全員大破で帰投した。俺から言わせれば、信じられない敗北だ。聞かせてくれ。何があった?」
「それが……私も分かりません」
赤城が周りを見渡しながら、ためらいがちに口を切った
「彩雲が艦隊を発見して、手始めに航空戦を仕掛けました。第一次攻撃隊は敵に向けて飛び立ちましたが……敵影を確認した辺りで想像を絶する対空砲火を受けました。妖精の話では……敵は高射砲を全く使っておらず、もっぱら噴進弾。ロケットとの事でした。しかも……自分でコースを修正しながら飛んで来たのです。そのロケットで艦爆隊や艦攻隊は瞬く間に撃ち落されました」
赤城の口調はどこか熱に冒されたようだった。うわ言めいていた
「あのロケットはまるで意志があるかのように私達の攻撃隊を狙いました。運よく逃れた攻撃隊も敵の主砲と機関砲の猛攻を受けました。その主砲も機関砲も命中率が異常で、こちらの艦載機をバタバタと撃ち落されました。敵に近づけた艦載機はありませんでした」
加賀も話に加わり状況を説明したが、同じ内容だった。霧島達の時と……
「ちょっと待て。自分でコースを修正するロケットだと?そんな兵器、聞いた事がないぞ!」
俺は顔をしかめた。いくら何でも酷い冗談だ
「しかし、紛れもない事実なんです。そうでなければ、100機以上の攻撃隊が全滅する訳がありません」
必死に訴える赤城に俺はたじろいだ。加賀も顔に出ていないものの、歯を食いしばっている
「すまない。続けてくれ。その後、どうなった?」
「航空攻撃が通用しないと分かると、砲雷撃戦を仕掛けるため私達は、接近しました。ところが、今度は見た事もない戦闘機が襲い掛かって来たのです。『それ』は以前の機体とは違う形をした、恐ろしく速いものです。烈風改も震電改も全く追いつけず、三式弾も摩耶や秋月達による防空艦の対空砲火も役に立ちませんでした。『それ』は私達に向かって空中からロケットを発射し、狙い撃ちされました。威力も高く、命中率もいいんです。4、5発で戦艦である伊勢日向や榛名は大破されました」
俺は絶句した。こんなバカげた事があるか
「速いって……震電改もか?」
「とても速かったです。あんなもの見たことがありません」
赤城は声を震わせた。俺は周りを見た。二航戦も五航戦も伊勢も榛名も摩耶も同じ顔をしていた。挫折感と怒りに満ちた表情だ。俺は休むよう言い、皆を帰らせた
不思議な事に、なぜか敵は止めを刺さなかった。敵が何か考えているか不明だが、ほとんどの者は生きている。帰って来なかったのは……潜水艦である4人だった。4人とも生存は絶望的とし『作戦行動中行方不明』として処理した
○月×日
俺は先日出撃した青葉に写真を提出させ、秋雲に絵を描かせた。2人は先の機動部隊に編成し出撃させた。あの日、青葉にはカメラを持っていくのを許可した。幸い、カメラもフィルムも無事であったため現像出来た。映っていたのは従来とは違う、見た事もない艦載機。強いていうなら、矢じりのような航空機だ。もう1つは敵の姿だ
軽巡ツ級だが、形や武装が大幅違っていた。従来ある砲が全くなく、12.7cm砲らしき主砲が一門だけ。しかし、艤装にロケット発射装置みたいなものが取り付けてある。アンテナらしきものが多数取り付けてあり、八角形の形をしたものが体の周りに飾られている。駆逐ニ級や駆逐ナ級にはロケット発射機のようなものを装備してある。確かに敵は変わった……
「2人はどう思う?」
工廠で明石と夕張に写真と絵を見せた
「どう思うって……何なんですか、これは?」
「俺が聞きたいのは、似たような兵器が造れるのか、という事だ。艦だった頃の世界にこんな兵器は存在したか?」
2人は顔を見合わせた。艦だった頃の戦争の世界を思い出さすのは酷だが、そうも言ってられない
「分かりません」
明石は静かに言った
「あり得ないです。こんな兵器は見たことも聞いた事もないです。ロケットに高性能の誘導装置か何か仕組まれているとしか……本当に造れたとしたらとんでもない科学技術ですよ」
「何処なら造り出せる?アメリカかドイツ……もしくはイギリスの技術とは考えられないか?」
明石はかぶりを振った
「本当に実用化しているなら、私の耳に届くはずです。だって……そんな代物が造れるなら数年前に多国籍軍は、深海棲艦を撃破出来ているはずです」
深海棲艦が現れた時に、国連はアメリカ軍を中心とした多国籍軍を編成した。その時の船は標準レベルだ。誘導するロケットで深海棲艦を攻撃したという話は聞いた事がない
「何でもいい。奴らは沈んだ船の怨念のようなものだ。『あいつ』の論文が正しければ、何かしらモデルとなった船があるはずだ。こいつらの弱点とモデルの艦を探せ。こっちでも調べる」
○月×日
暫く出撃を見合わせた。敵が突然、強くなったからだ。しかし、資源の確保は重要であるため遠征を送ったが……帰投の予定時間を過ぎても帰って来なかった。無線の呼びかけにも応答なし。艦載機による索敵を送ったが、その艦載機も帰って来なかった。陽炎型である4人と睦月型4人、軽巡の球磨と多摩が海に消えた
○月×日
ある大都市が攻撃を受けた。深海棲艦である戦艦と重巡による艦砲射撃による砲撃で火の海にあったとの事だ。急遽、艦娘に出撃させたが……結果から言うとほとんどの者は帰って来なかった
撃沈された。今までは恐らく兵器の性能テスト。それが成功すると、もう手加減する必要はない。敵は艦娘を認めると躍起になって例のロケット攻撃を行った。近づく前に多数のロケットが襲い掛かり……扶桑姉妹と軽空母である瑞鳳と飛鷹。鈴谷、熊野、龍田そして綾波型駆逐艦数人が猛攻撃にあった。無線でリアルタイムに戦況を伝えていたが、例のロケット、矢じりのような戦闘機、そして新型の敵潜からの猛攻に会い、連絡が途絶えた。……無線から悲痛な叫びが頭から離れられなかった。陸奥は泣き崩れ、天龍を含む数人の艦娘は怒り狂い出撃しようとしていた。他の艦娘が抑え、混乱が生じている中……俺は……俺は立ち尽くしていた
遠くで大淀が俺に増援を送るよう進言したが、俺は拒否した。もう……これ以上、犠牲を出したくなかった……
帰って来たのは扶桑と山城だけ。扶桑姉妹にとっては幸運とも言えるべきか。撃沈されなかったものの、瀕死状態だった
○月×日
敵は数日かけて大都市を廃墟にし、死傷者を多数出した。マスコミは防げなかった俺と艦娘を批判した。海を捜索したが、帰投した扶桑姉妹以外、生存者なし。見つかったのは、龍田が使っていた薙刀だけ。……もうのんびりとした甘い声の持ち主は……いない。もうあいつに会えない……。許してくれ
○月×日
鎮守府は異様の空気に包まれた。犠牲が大きすぎた。たった数回の戦闘で十数人が帰らぬ人となった。明日は海軍大将が来る。なぜ来るのかは検討がつく。大淀は「提督の責任ではありません」と言われたが、慰めにもならなかった。『あいつ』……親父がいてくれたら……何で俺はあいつを嫌ったんだ?何か手がかりがないか探すために、研究施設から持ち出した論文を取り出した。詳しく読むことはないと思っていたが、この状況だ。何か秘策を考えていないか……。数ページ読んでいたが、ふとあるタイトルに目が入った
『深海棲艦による世界の崩壊の危険性について』
その論文には恐ろしい事が書かれていた。そして……
「提督、モデルの船が見つかりました!」
明石がノックもせずに勢いよく入って来た。それは……
「何処でこれを見つけた?」
「軍事機密の保管庫にありました。私がこじ開けましたが……映像がこれです」
「嘘だろ……」
「知らなかったんですか?」
「最新鋭兵器としか聞かされていない。マスコミは超兵器としか案内されていない。最高軍事機密と言ってな!この俺が知る訳がない!あのクソったれどもが!」
○月×日
提督室に海軍大将と護衛が荒々しく入って来た。大淀が不在と言って誤魔化したらしいが、俺は招き入れた。不安げに見つめる艦娘を他所に扉を閉めるといきなり罵声を浴びせられた
「貴様、深海棲艦による艦砲射撃を阻止出来なかったようだな!街は破壊され、死傷者が多数。責任は取ってもらうぞ!艦娘は役立たずだった!失望したぞ!」
「ええ。責任は全て私にあります。ですが、いくつかお聞きしたい」
「ほう」
不愉快な感情を露わにしながら、煙草を取り出し火をつけた。ここは禁煙だというのに……
「浦田重工業を覚えていますか?軍事機密の金庫の書類の中にこれが入っていました。その艦の名前はイージス艦。高性能な誘導装置を組み込んだロケット攻撃を得意とする軍艦のようですね。どうやってこんな化け物の兵器を造ったかは知りませんが、この軍艦は深海棲艦を撃破し追い詰めました。世界はこの軍艦を買い、各国の海軍の主力艦になった訳です。最も深海棲艦は浦田重工業を襲い、無力化する方法を見つけ海に沈めましたが」
「だからどうしたと言うのだ?そんなのは誰でも知っている歴史ではないか」
「敵はどうやったか知りませんが、イージス艦をモデルとした艦種があります。技術を自分の体に組み込んだようです」
報告を受けても大将は鼻を鳴らす。なるほど。どうやら一杯食わされたようだ。敵が浦田重工業の技術を盗んだ事は知っているようだ
まあ、いい。これは予想通りだ。政治家などの組織のトップが民衆の前に立つ時に見せる顔は、本来のものと全く別のものだと考えていいと聞かされたが、本当のようだ。特に何の苦労もない、あるいは自分の事を棚に上げライバルをどんな手を使ってでも陥れる者ほど、立場が弱い者に対して横暴で傲慢である
煙草を口にくわえライターに火をつける大将の前に例の写真と絵を見せた
「これは何だ?」
「他にも新型兵器が確認されています。敵は新型の艦載機を持っています。矢じりのような艦載機は、目にも留まらぬ速さで艦娘を襲いました。弾丸よりも速く、百発百中のロケットの攻撃を仕掛け、一方的にやられました。街の空爆も新型の爆弾が使われているのか、地下施設を破壊する専用の爆弾が確認されています。陸軍の地下施設から地下鉄まで徹底的に破壊され、地下に避難した民間人や軍人は生き埋めになりました」
「なに?」
煙草を口に運ぼうとした大将の手が止まった
「ロケットも種類があるらしく、それらは駆逐艦軽巡どころか潜水艦まで組み込まれています。潜水艦は魚雷どころかロケット攻撃も可能で、街にロケットの雨を降らせました。しかも奴らの潜る水深は400から500メートルです。こちらは手も足も出せず、潜水艦狩りに出た水雷戦隊は役に立ちません」
「ちょ、ちょっと待て!何なんだ、そのバカげた兵器は!?」
大将の顔は驚愕した。護衛もポカンとしており、事態についていけない
「浦田重工業はイージス艦だけでなく、他の兵器も開発していたかも知れません。極秘に造られたのを深海棲艦は手に入れた可能性があります。あの攻撃は、一種のデモンストレーションかも知れません」
「あり得ない!浦田重工業が開発したのは、イージス艦とやらだけだ!当時の社長が公開し、私も見た!」
「工作艦である明石や軍事産業の技術部門、そして来日した米国軍人に尋ねた所、そんな兵器は造れないとの事です。お願いです。浦田重工業が開発した兵器のデータをこちらに寄こしてください」
「それは無理だ!国家機密の代物だ!開発出来ない?実際に浦田重工業はイージス艦を造った!いや、兵器だけでない!あの企業のお蔭で我が国の工業力は、欧米に追いつくどころか追い越す事が出来たのだ!もう米国に怯えずに済む!我々も国民も喜んだ!経済は発展し、インフラ整備をやってくれた!国家が出来なかったことを浦田重工業は遣って退けた!浦田重工業は、我が国にとって未来だ!深海棲艦に襲われ壊滅さえしなければ、お前のようなクズを軍に招き入れるは無かった!」
浦田重工業を称賛する大将だが、今はどうでもいい。
「大将の考えや浦田重工業との癒着はどうでもいいです。所詮は企業。当時の社長は大天才だったかも知れませんが、深海棲艦を侮った。父が書いた論文を読みました。事態は深刻です。奴らは海を赤く染め上げています。変色海域も拡大しているどころか、雨まで降らしています。赤い液体は動植物だけでなく、人体にとって有害です。奴らは、この世界の住民を抹殺しようとしています」
論文を手渡された大将は、めんどくさそうに読み始めたが、論文の中盤辺りになると顔が見る見る青ざめた
「アメリカは内戦が起きそうですね。東海岸は被害を受け、米大統領は暗殺されたようです。ヨーロッパは壊滅したでしょう。最後に聞いた通信では、『赤い雨が降っている』と」
「ど、どうしてそれを……」
大将は強烈な電流に撃たれたかのように硬直した。その眼には恐怖の色に満ち、小刻みに震え始めた
「米国軍人が親切に教えて頂きました。いえ、ちょっとしたお話をしたまでです。それに欧州の艦娘は建造に成功したものの、戦艦ル級改flagshipを率いる艦隊によって、大半は撃沈されたと」
「国家機密をペラペラと」
大将は苦々しく吐いたが、俺はすかさず言った。もう何を言っても無駄だろう
「世界の危機まで国家機密ですか。マスコミが国有化された理由が分かりました。それでは話は終わりです。では私を逮捕するなり、その場で射殺にするなりして下さい。艦娘を解体したいならお好きに。どうせ、遅かれ早かれ皆死しますから」
「待て、どういう意味だ?」
予想外の答えだったのだろう。大将は信じられない目でこちらを見た
「そのままの意味です。深海棲艦はこちらの生物圏を破壊するための赤い水をこの世界に流しています。先程言った通り、敵は赤い水を陸地に降り注ぎ、動植物を死に至らしめています。欧州がその証拠です。いずれ世界各地に降るでしょう。おまけに強力な兵器を持っている。5年後、世界はどうなっているか分からない」
「ふざけるな!何のためにお前や訳の分からない兵器を持った女を軍に編入させたと思っている!?食い止める方法を――」
「食い止められません!もう無理です!」
俺の叫び声に大将も護衛も茫然とした。楽観していたのだろう。責任転嫁さえあればいいと思っていた節があるが、現実は甘くない
敵は人間ではないのだから
「私は、父のような博士でも専門家でもないのです!出来る事は、世界の崩壊の時間を遅らせる事か安全な所に隠れるくらいしかありません!」
「どうすれば奴らの目から隠れる事が出来る?」
衝撃の事実を聞かされ、大将は何とか気を保つと俺に聞いた。相変わらず、考えが極端だ。国民が聞いたら怒り狂うだろう。俺は一通り教えると、大将は俺に命じた
「今回の件は報告させてもらう。処罰はなしだ。少佐、艦娘という少女達を使って時間を稼ぐんだな」
荒々しく部屋から出て行く海軍大将と慌てて追いつこうとする護衛。爪が食い込むほど拳を握りしめしばらく考えていたが、解決策が思いつかない。急にどん底に突き落とされたようだ。外の空気を吸おうと部屋から出て廊下に出ると、扉の近くに大淀と一航戦の赤城加賀がいた。3人とも顔が真っ青であるのを見ると、さっきのやり取りを聞いたのだろう
「海軍大将が帰られたので声を――」
「嘘はいい。話を聞いたのなら、偽りはない。今後、どうするか会議をするぞ。口が固い艦娘を選ぶ必要がある。真相を聞いたお前達は、強制参加だ」
呆然としている3人を他所に、再び提督室に入り扉を閉めると同時に、俺は叫んだ
「クソったれ!」
自分達の常識を逸脱した、未知の攻撃を受けた時の衝撃は大きいものです
今まで私が見てきた艦これSSにおいて、演習でオリ艦(現代兵器仕様など)がミサイルなどの攻撃を受けても、動じないどころか驚きと感心ばかりする艦娘達の反応に困惑させます
ジパングのようにイージス艦「みらい」相手に戦ったワスプの攻撃隊などから見たら、化け物でありますが、私達から見ればただの科学技術を駆使した兵器に過ぎない事が分かります
ギャップは恐ろしいです
因みに祖母の家にホコリを被った黒電話を見つけましたが、私は数年前まではオモチャだと思っていました。日常生活も同じですね