時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第2話 世界は全てを失った

端的に言おう

 

 世界の成り立ちは通常と変わらず。深海棲艦が現れた事により各国は鎖国状態になった。大本営はその侵略者に対して艦娘という戦力で奪われた海を奪還している

 

これは本来の世界。しかし、これから語る世界は異質である

 

 今から4年半前に深海棲艦が出現した。彼女達は人類に対して対話も交渉もなく、民間人も平気で攻撃する血も涙もない侵略者だった。侵略者に対して、国連はアメリカ軍を主力とした多国籍軍を編成、侵略者を撃退するために深海棲艦に挑んだ。結果は語るまでもなく、惨敗。多くの船と人員の命が失われた。日に日に海と空を奪う者に対し人々が絶望する中、ある希望が芽生えた。日本の大企業である浦田重工業が、最新技術を駆使してある兵器を開発したのだ。一見、妙にのっぺりとした大きな方形のブリッジを持ち、砲が一門と貧弱な武装を積んだ駆逐艦のようである。しかし、火力は従来の軍艦とは桁違いの能力を持つ最新鋭フリゲート艦。現実世界の人が見ればイージス艦と言うに違いない。浦田重工業の新兵器に対して、大本営は以前から熱心に推し進めていたある人物が提唱する『艦娘計画』を蹴り、浦田重工業と契約を結んだ。帝国海軍はイージス艦を大量に購入し配備させ、深海棲艦を打ち破った。他国も同様、浦田重工業からフリゲート艦を購入。深海棲艦に挑み、見事打ち破った

 

 人類は勝った。生け捕りにした深海棲艦は、浦田重工業が研究するために捕虜として連れて行かれたと言う。しかし、それが間違いだった。そう……人類は侵略者に対して勝利したのは一時だった

 

 

 

 深海棲艦の捕虜を研究と称し非人道的な扱いを知った深海棲艦は、大艦隊を率いて浦田重工業の本社を急襲。浦田重工業は壊滅した。深海棲艦は占領はしなかったもののイージス艦の弱点と最先端の科学技術を略奪。戦況は大逆転した。各国の海軍は再び大敗走し、イージス艦は海の藻屑となって消えた。切り札が無くなった事に慌てた大本営は『艦娘計画』を再稼働させたが…………全て手遅れだった

 

4年半前……深海棲艦出現。出現してから僅か2週間でトラック島とハワイを攻撃、占拠。奪還するために出動した帝国海軍とアメリカ海軍の1個艦隊が全滅。この非常事態に対して国連は多国籍軍を編成したが、僅か3日で壊滅

 

4年前……人類の抵抗をものともせず、深海棲艦は勢力を拡大。一方、浦田重工業は最先端の軍事技術を駆使してイージス艦を開発。深海棲艦を追い詰める事に成功

 

3年前……深海棲艦、浦田重工業を攻撃し、根絶やしにする。イージス艦を持った国は真っ先に攻撃を受け、全てのイージス艦は撃沈された

 

2年半前……深海棲艦、太平洋の航路と空路を完全制圧。この事により各国間の連携が取りづらくなる

 

2年前……深海棲艦、スエズ運河を掌握。これにより、深海棲艦は大西洋に侵攻。日本、苦肉の策として艦娘を誕生させる事に成功。しかし、艦娘が本格的に戦うまで7カ月の時間を要した。その後、艦娘建造技術の輸出を実施。欧米では艦娘建造が開始される

 

1年半前……深海棲艦、各国の大都市と軍事施設に大規模な攻撃を開始。この攻撃でパニックが発生。暴動とデモが各地で起こる。提督は艦娘に対して全火力を持って攻撃を仕掛けたが、もはや手遅れだった

 

1年3ヶ月前……艦娘の働きも虚しく、深海棲艦は全海域を制圧。この事により各国は鎖国状態に陥る。物流が途絶えたため、人類は侵略者を他所に食料と資源のために争う事になる。アメリカでは第二次南北戦争が勃発。ソ連、中国は音信不通。欧州・中東では内紛とテロが発生。海外の艦娘状況は不明。一方、日本は艦娘達のお蔭で深海棲艦の侵攻を食い止めていたが、深海棲艦は最新鋭の軍事兵器を装備させて攻撃。艦娘に大打撃を与える。また、沖縄と九州と四国は深海棲艦に占領された

 

1年前…深海棲艦、日本に大攻撃を仕掛ける。提督が率いる艦娘達は大阪を拠点に迎撃を行ったが、惨敗。この大規模な攻撃で大本営・帝国軍崩壊。政府は札幌に臨時首都とし、北海道へ逃げ込む。軍が事実上機能停止した事により、艦娘を率いていた提督は軍の指揮下から離脱。レジスタンスで深海棲艦に戦いを挑む

 

 

 

6ヶ月前……各国の連絡が完全に途絶したため、世界情勢不明。日本、北海道以外は崩壊

 

 

 

現在

 

「提督、巡回終わったよ。海はとても静かだ。これより帰投する」

 

『了解。そして提督はよせ。俺はもう海軍軍人ではない』

 

「ごめん。でも、提督は提督だよ。今でも軍服を着てるじゃないか?僕達の司令官には変わりない」

 

『はあ~。好きにしろ。さっさと帰って来い。深海棲艦に見つからないようにな。今の編成だと海の藻屑だぞ』

 

通信を終えた駆逐艦である艦娘、時雨は皆に向かって静かに言った

 

「帰ろう」

 

5人の艦娘は緊張の糸が緩み、何人かが大きく息を吐いた。無理もない。真夜中に隠れ家の警備に当たっていたのだ。旗艦は時雨。随伴艦は霧島、鳥海、神通、川内、綾波である。この編成はどれも改二になっており、戦力としては十分な火力を持つが、それでも深海棲艦に通用するか。いや、こちらの攻撃が当たれば深海棲艦は撃沈する。しかし、代償は大きいだろう。こちらが全滅するかもしれない。そのため、敵との交戦は極力避けている

 

彼女達は帰路に着く。通常なら帰るまでの間はお喋りをしたりしていただろう。しかし、彼女達は口を開こうとしない。川内は夜戦の歌を歌いながら、顔に笑顔を張り付けているものの、心から笑っていなかった

 

「姉さん、無理しなくていいのよ」

 

「大丈夫だって!あ、夜偵が帰って来た!」

 

川内が持つ九八式水上偵察機、通称夜偵がこちらに向かって来ている。夜偵は本来なら夜戦時に敵艦隊の触接行動をし、味方艦隊の夜戦行動をサポートするのだが、今では艦隊の哨戒に当たっていた。川内の夜偵が高度を下げ、川内がキャッチする直前、夜偵は爆発四散した

 

「攻撃よ!」

 

「さっきロケットのようなものが見えました!」

 

霧島と綾波は攻撃態勢をし、辺りを見渡したが何処にもいない。綾波は聞こえたのだ。夜偵のエンジン音に紛れて空を切り裂くような音が。艦娘達は必死に辺りを見渡したが、依然として敵の姿は見えない。夜と言っても今日は晴れである。晴れの日は月や星の灯りで意外と見えるのだ。しかし、それでも見えない

 

「電探に感あり!方位1-3-5!」

 

「いきなり出現!?なんで探知出来なかったの!」

 

鳥海は敵を見つけたらしく敵発見を知らせたが、神通は驚愕していた。鳥海は32号対水上電探改を装備してレーダーの目を光らせていたが、なぜか突然反応があった。レーダーに発見されないように待ち伏せされたのか、あるいは……

 

「提督、敵艦隊発見!敵編成は……飛翔兵器が近づいて来る!」

 

『すぐそこから撤退しろ!欺瞞紙と例の物を使いながら敵を撒け!』

 

提督の怒鳴り声に反応して艦娘達は蛇行しながら撤退する。しかし、撤退する間にも飛翔兵器は彼女達に向かって追跡していた。その兵器は海面すれすれに飛び、マッハ0.85という速さで飛ぶ4発のロケットが艦娘達に目がけて突進していく。一年前に受けた右足が疼いた。あの時は運よく不発だった。ダメだ。あの飛翔兵器から逃れられない。あの兵器を食らったら、戦艦だろうが戦闘能力を奪う

 

「間に合わない」

 

「隠れて!」

 

時雨が弱音を吐く直前、霧島が時雨の前に躍り出る。霧島の兵装には試作35.6cm砲や探照灯を装備していたが、他にも装備してあった。対空機銃の分類であったが、従来と違ってかなり異質な兵器である。現実世界の軍事マニアや兵器をよく知る者がいるならこう答えるだろう。CIWSと

 

20mm6銃身ガトリング砲が唸り声を上げながら火を吹いた。2発はCIWSの弾幕に阻まれ空中爆発したが、残りの2発は迎撃出来なかった。2発の飛翔兵器は時雨達の手前でいきなり急上昇したかと思うと、逆落しに襲い掛かった。一発は霧島に、もう一発は鳥海に命中した

 

グワン!

 

この世の終わりを思わせる凄まじい轟音に爆風が吹きつけ、時雨は吹っ飛ばされ海面に叩きつけられた

 

「霧島さん!鳥海さん!」

 

綾波は絶叫した。あの飛翔兵器は射程が長いゆえに命中率は異常に高く、威力も戦艦の砲弾並の威力。対抗手段は欺瞞紙とアイオワが提供してくれたCIWSと呼ばれる対空兵器のみ。撃沈されたと思われたが、煙が晴れると2人はまだ海に沈んでいなかった。しかし、被害は甚大であり2人共大破していた

 

「何をしているのです!私の戦況分析では第二波の攻撃が来ます!」

 

「三式弾乙を撃ちます!他の艦はスモーク弾を!」

 

 鳥海は、大破し苦痛で顔を歪ませながらも20.3cm(3号)砲に三式弾乙を込めると空中に発射した。霧島も三式弾乙を発射させた。三式弾は対空兵装の一種であり、陸上型深海棲艦に対しての切り札となる砲弾であるが、霧島と鳥海が撃っている三式弾は別の砲弾である

 

 三式弾乙とは、明石と海外の艦娘であるアイオワの発案の基に開発された苦肉の策である。飛翔兵器は電探(レーダー)を頼りに攻撃を行う。つまり、そのレーダーの目を攪乱すればいいだけの話である。本来なら内蔵された焼夷弾子を大量のアルミ箔を詰め込んで電波妨害用の砲弾にしたのだ。この三式弾乙とCIWSのお蔭で艦娘達の生存率は上がった。……尤もこれは、苦肉の策であるため期待出来ない代物だが

 

三式弾乙は上空に炸裂し、艦娘の上空一帯にアルミ箔と煙の雲が立ち込めた。電探も正常に作動していない事から、敵も攻撃出来ないだろう。だが、アルミ箔の効果時間は限られている。艦娘達はその隙に秘密基地に向けて退却した

 

 

 

「マタ逃ゲラレタ。モット楽シメルト思ッタノニ」

 

 逃げる艦娘を見た戦艦ル級改flagshipは笑っていた。空母ヲ級や重巡ネ級など強力な艦隊がいるにも拘わらず、追跡はしなかった。レーダーが効かないという簡単な理由だが、本当は違う。ただ遊んでいるだけである。もはや、「艦娘は我の敵に非ず」であった。こんな芸当が出来るのは浦田重工業から奪った最新鋭の軍事技術のお蔭である。そのうちの1つであるRGM-84ハープーン・ミサイルは正にそれである。製造が難しく数は限られているが、それでも十分な攻撃能力はある。レジスタンスの牙を抜くのが彼女達の役目である

 

 

 

横須賀

 

 かつて横須賀鎮守府には帝国海軍の重要拠点基地だった。昔は多くの軍艦が停泊しており、基地の周りには街が沢山あった。国を守る軍人は、時には息抜きや休息が必要だ。彼等も人間だ。そのため、基地の周りには居酒屋や商店街などが栄えていた。しかし、今では瓦礫の山である。動く物も人影もいない。それもそのはず、深海棲艦の猛攻で首都は崩壊。横須賀鎮守府も例外ではない。鎮守府も深海棲艦による大規模な攻撃を受け壊滅したためである。民間人も軍人も全員逃げたため、今では基地の墓場である。そんな場所でも六つの人影がそこに向かおうとしている。時雨を率いる艦娘は上陸した後、廃墟の所を歩き続ける。マンホールにたどり着くと彼女たちは下に降りていく。降りた場所は地下室だった。降りると他の艦娘達から砲を向けられていた

 

「艦隊帰投したよ」

 

「よく帰ってきた。損傷した霧島と鳥海は直ぐに入渠しろ」

 

提督と他の艦娘は味方と分かると安堵し構えていた武器を降ろした

 

 ここは捨てられた横須賀鎮守府を提督が地下室を有効に使っていた。生活や艦隊運用が不自由であるものの、敵から隠れるのには最適だ。だが、いづれ見つかるだろう。いや、既に見つかっているかも知れない。その時は基地を放棄する必要性はあるだろう

 

 

 

「敵はこちらを殲滅しなかった?しかも追跡もせずに?」

 

「うん。敵は空母も戦艦もいた。なのに飛翔兵器を撃っただけ。アルミ箔と煙で追跡出来ない奴らとは思えない」

 

 提督室で時雨の報告を受けた提督は考える。最新軍事技術を防ぐ手段がこちらにあるとは言え、戦力は圧倒的に敵が上だ。なのに、ハープーンと呼ばれる兵器を撃っただけだ

 

「そうか。ははは……もう俺達は遊ばれているのか」

 

 提督は笑ったが、それは乾いた笑いだった。時雨は何も言わない。なぜなら、提督は疲弊していたからだ。浦田重工業が崩壊した事により、提督は艦娘を率いて深海棲艦に立ち向かった。初めは善戦していたが、敵は浦田重工業から奪った最新鋭軍事技術を駆使して反撃。こちらを徹底的に叩いた。沈んだ艦娘は数え切れない。深海棲艦の猛攻を食い止める事も出来ず、結局は大都市も軍隊も国も崩壊した。日本だけではない。世界中そうなのだ。政府高官達は北海道に逃げた。現在はどうなっているのか知らないが、風の噂では押し寄せる難民を追い返していると聞く。そのため、本土と北海道の間で戦闘が発生しているとの事だ。本土では生き残った人々が、食料や水を目当てに争っていた。浦田重工業がよく分からない新兵器を世界に売り込まずに『艦娘計画』が早く実現出来ていたら、こんな事にならなかっただろう。

 

 世界は滅んだ。人類は団結して侵略者に立ち向かうどころか人類同士醜い争いをしている。艦娘と提督は地下に籠って戦っているが、押し返す力はほとんど残っていない。提督室と言っても、今では段ボール箱と机しかないのだ。いや、艦娘達の生活も同じようなものだ

 

「提督。『新型兵器』が出来るまで辛抱だよ」

 

 無論、提督も何もしていない訳ではない。1年ほど前、提督は崩壊した浦田重工業からある兵器の設計図を見つけたというのだ。提督曰く、この『新型兵器』が完成すれば深海棲艦を一掃する事が出来ると言う。現在、明石と夕張が不眠不休で『新型兵器』の製造を行っている。場所も新型兵器の詳細も極秘で提督と明石しか知らない。それどころか、提督は大本営や政府に報告もせず独断でやっていた。この事に艦娘達から反発はあったが、提督は強引に推し進めた

 

 提督が言うには、理由が2つある。1つは、この『新型兵器』の正体が明るみに出た瞬間に深海棲艦が総攻撃されてしまうという事。そしてもう1つは、政府や軍の中には深海棲艦のスパイが紛れている可能性があると言う事。人間の中には、深海棲艦と取引をしているとの事だ。食料と生存権を与えられた人間は、深海棲艦の下に働きスパイ活動を熱心に行っていた。艦娘の情報も流しているらしく、こちらの被害も甚大だ。そのため提督は生き残った軍の指揮下から離脱したのだ。スパイがいる以上、誰も信用出来ない。反発していた艦娘も結局は提督のやり方に賛成した

 

「『新型兵器』……。そうだな。もう少しの辛抱だ」

 

完成予定日時は後1週間後。それまでは生き残った艦娘達は時間稼ぎをする事である

 

時雨が退出するのを見届けた提督は、拳を握り机を叩くと苦し紛れに呻いた

 

「すまない、みんな……。しかし、やるしかないんだ」

 

 切り札となる新兵器。しかし、この『新型兵器』は兵器と言えるかどうかと言われると微妙である。それはある意味半分正しく、半分間違いである代物である。時間稼ぎでどれだけの艦娘が失われていたのか。提督は撃沈した艦娘を全て把握していたが、どれだけ悲しもうが沈んでしまった彼女達は帰って来ない

 

 

世界が完全に崩壊するまで残り僅か……。提督と彼女達に勝利の道はあるのか……?

 

 




三式弾乙……この作品のオリジナル兵器。三式弾を改造し、焼夷弾子の代わりにアルミ箔を散布するようにした砲弾。言い換えればチャフ。本編にも語られているように苦肉の策であるため、効果は期待出来ない

CIWS……艦艇用近接防御火器システム。6砲身ガトリング砲とあるので米海軍や海自などが持っているファランクス。なぜ艦娘側が持っているのかは現時点では不明


よく現代兵器が出て来たら一方的な殲滅戦になりそうな展開になるという「深海棲艦終了のお知らせ」。この作品では逆にした結果、「艦娘終了のお知らせ」どころか「世界終了のお知らせ」に。まあ、策があるのか、提督が何とかするでしょう(多分)
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