時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第25話 アイオワの未来記録5 ~アイオワの最期~

 ある日、提督はサラトガやプリンツなどクロスロード組を呼び、核兵器の開発を許可した。艦娘が少ない今、クロスロード組で何とかするしかない。長門は既に撃沈されたため、旗艦はアイオワがとることにした

 

「鳥取県にある人形峠に行き、原料であるウランを取る。その後、明石達と合流しろ。アイオワの妖精を使えば何とか出来るはずだ。確か名前は……」

 

「W23。ミーの核砲弾を造る」

 

「そうだった。では出発の準備をしろ。火力発電所でまた会おう」

 

プリンツや酒匂などはすぐに部屋から出たが、アイオワは残った

 

「どうした?」

 

「アドミラル……まさかと思うけど……自爆用に使う気?」

 

「核爆弾一発で戦況が覆すと思うか?」

 

倫理を無視したとしても、今の戦況が覆す訳がない。誰が見ても明らかだ

 

「軍人として失格だな」

 

「そんな事はない」

 

 アドミラルの行き立ちは知らない。しかし、艦娘に対しては努力はしていると感じられた。若いのに艦隊の運用には間違った指揮はしていない。軍隊という特殊な仕事をよく理解している

 

「多くの艦娘を沈めてしまった」

 

「enemyが強すぎただけです」

 

「創造主である父を見捨てずに付き合っていれば、こんな事にはならなかった」

 

「誰もこんな事態になることは予想も出来ない。youのせいではない」

 

アイオワは何とかして提督を説得した。艦隊の指揮官である提督がこんなところで自殺させる訳には行かない

 

「youに罪があるというなら、ミーも同じ。深海棲艦が持つ近代兵器は、ミーの未来の国が造ったもの……」

 

浦田重工業にしろ、深海棲艦にしろ、近代兵器のほとんどはアメリカ産だ。敵はその兵器を何らかの方法でコピーし、こちらの世界に牙を向けた

 

「アドミラル、核爆弾で自殺する気?」

 

「……違うと答えれば嘘になるな」

 

提督は笑った。無精髭を生やしやつれた顔にしては似合わない笑い

 

「世界の崩壊は誰にも止められない。国を守れず、避難民を見捨て、敵に敗北し、艦娘の大半を海に沈めた愚かな提督は他にはおらんよ」

 

アイオワはもう説得するのを止めた。これは従来の戦争ではない

 

「ありがとう。祖国でないのに、ここまで戦ってくれて」

 

「アドミラル!頭を上げて!」

 

何と提督は頭を下げたのだ。ミーが感謝される資格はない

 

「アドミラル、バッドニュースもあるの。核砲弾の件だけど、艦娘用ではなくて実物なの……。つまり、撃てる砲がない。いえ、深海棲艦にダメージを与えられない!ミーのトマホークに核弾頭を搭載する方法も考えたけど、これも不可能」

 

核爆弾製造に着手したが、大問題が起こった。アイオワの妖精なら核爆弾は製造可能だが、艦娘用に造る事は不可能だった。対地攻撃用トマホーク巡航ミサイルに核弾頭を搭載する考えも浮かんだが、これも製造不可能だった

 

「でもタイムマシンは破壊出来るのだろ?残骸すら残さない程、破壊しないと行けない」

 

アドミラルは前向きだ。いや、自ら死の方法を選んでいる。戦って死ぬという……

 

「俺は気がつかなかった。人生は何が起こるか分からないって。過去の俺から見れば艦娘を指揮する軍人になるなんて夢にも思わないだろう」

 

人生何が起こるか分からない。提督の過去はあまり良くなかったと聞く。しかし、彼はそれを後悔しているという

 

「アドミラル……」

 

「艦長や提督は船と共に沈むらしいが、それが出来なくて残念だ」

 

「……」

 

アイオワは何も言わない

 

 実はこれはただの美徳に過ぎない。艦だった世界の旧日本海軍でも沈没時に艦長が運命をともにする義務はない。主力艦の艦長は、一緒に沈んだ人は確かに多いが、その一方で生き残る人もいる。不文律かどうかも怪しい。イギリス海軍は度々あったが、そこまで船と共に沈むのは流石にいない。あくまでケースバイケースであり、組織的な傾向は見られない。アイオワは指摘しようとしたが、止めておいた

 

「アドミラル、過去の自分への手紙は書いた?過去へ行く艦娘は?」

 

「ああ、書いたさ。タイムトラベルする艦娘は……時雨だ。あいつなら過去の俺を説得出来る」

 

時雨……確かレイテの……

 

「火力発電所でまた会おう」

 

 別れの挨拶をし、部屋から出たアイオワ。しかし、それが最期の別れになるとは思いもしなかった

 

 

 

 

 

「こちらビッグスティック、イエローケーキを手にいれた。これより、電気ネズミの所へ向かう」

 

『了解した。気を付けて電気ネズミに向かえ』

 

 

 

 妖精と酒匂、プリンツのお陰で人形峠から天然ウランを何とか手にいれたアイオワ達は、提督と連絡をすると明石達と合流することになっていた。

 

 

 

 因みにアイオワが言った言葉は暗号だ。イエローケーキは『天然ウラン』。ビッグスティックはアイオワの愛称である。電気ネズミは火力発電所の事を指すが、これは艦だった頃の世界で日本に流行ったアニメキャラクターをアイオワが例えたものだ。提督はなぜ発電所が電気ネズミなんだ?と聞かれても、漫画アニメが日本で発達したら、もしかして会えるかもよ。と言って誤魔化した

 

 

 

「シスターサラ、敵を見つけた?」

 

「その呼び方止めて」

 

「OK。ではサラ丸。enemyを見つけた?」

 

 シスターサラもサラ丸もサラトガの愛称である。いや、艦だった世界の国々では、兵器に愛称をつけるのはよくあることである。特にアメリカでは敵の兵器までつけるケースがある

 

 

 

「今のところは気づかれていない。プリンツのお陰ね。ラッキーだわ」

 

「私がラッキーガールですって?全然そんな事ないよ!」

 

 プリンツは慌てて否定したが、今では有難い存在だった。ステルス性もない艦娘が発見されていないのは奇跡に等しかった

 

 

 

「でも、enemyも不思議ね」

 

 提督から教えて貰った火力発電所に向かう途中、サラトガは何気なく言った

 

「深海棲艦は世界を破壊している割には、核兵器を使わないなんて優しいわね。赤い水を流す手段や絨毯爆撃とか気が遠くなる事をしなくていいのに」

 

「クロスロード作戦みたいに核実験はしなかったのかな?」

 

サラトガと酒匂の疑問にアイオワはハッとした

 

(……enemyは核兵器は使っていない?)

 

 

 

 今思えば不思議だった。深海棲艦は米海軍を模している割には、核攻撃を一切しなかった。深海棲艦の攻撃手段は多様であるが、分類は通常兵器のみ。人類を滅ぼす気でいるなら、核爆弾落とした方が手っ取り早い。冷戦ですら核戦争が起きれば人類は絶滅するかもしれないと言われたくらいだ。ハイテク兵器を造れるなら核兵器も造れるはずだ。いや、核兵器どころか生物兵器や化学兵器は一切使われていない。ベトナム戦争で使われた枯葉剤や人体に被害を与える恐れがあるとされる劣化ウラン弾すら使われていないのだ。深海棲艦が保有しているとされるA-10AサンダーボルトⅡの航空隊がこちらの基地航空隊を壊滅させたが、調べる限り劣化ウラン弾の使用を認められていない。出て来たのはタングステン弾などの通常弾のみ。確かA-10Aが使われる対装甲用焼夷徹甲弾であるPGU-14/Bの弾頭は、劣化ウラン合金製だったはず……

 

(Why?)

 

アイオワは首を傾げた時、見張り員の妖精から悲鳴じみた報告が来た

 

Vampire(バンパイア)Vampire(バンパイア)Vampire(バンパイア)!!3発の対艦ミサイル接近!」

 

「チャフ、CIWS発射!」

 

 ECMは間に合わない!素早くデコイとCIWSを起動させ、ミサイル迎撃に向かった。3発の対艦ミサイルは、アルミ箔の雲には目をくれずにサラトガに目掛けて突進していった。アイオワがサラトガの前に躍り出る。ミサイル迎撃は失敗した。アイオワは3発ともハープーンをマトモに食らってしまった

 

「Ouch! 」

 

「Iowa!」

 

まるでヤマト型戦艦の斉射を食らったような威力だった。一気に中破までもっていかれた。2番砲塔は破壊され、発射不可能に陥った

 

「皆は逃げて!enemyの狙いはミー!」

 

 サラトガもプリンツも酒匂も驚き、一緒に逃げるよう進言したが、アイオワは手紙と自身の妖精達半分をサラトガに渡すと再び言った

 

「手紙とイエローケーキを届けて!ミーが時間を稼ぐ!」

 

サラトガは説得するのを止めた。アイオワは既に覚悟している……

 

 サラトガ達が撤退するのを確認すると、アイオワは戦闘準備に入った。SH-60シーホークを発艦させ、対潜哨戒にあたらせた。AN/SPS-49 (対空捜索用レーダー)などレーダーを展開させて警戒したが、敵は見つけられない

 

「サブマリン……ロサンゼルス級原潜……」

 

SH-60は磁気捜索装置、ソノブイなど展開させた所、微弱な音であるが潜水艦を探知出来た。アイオワは直ちに攻撃を許可した。SH-60は短魚雷Mk46を発射し、ロサンゼルス級をモデルとした潜水ソ級の撃沈を確認した

 

「日向はSH-60を愛着していました…」

 

 日向と伊勢に哨戒ヘリコプターを与えた所、2人共すぐにSH-60を使いこなせた。日向に至っては、瑞雲に継ぐ素晴らしい艦載機だと絶賛するほどだ。何か縁でもあるのだろうか?しかし、与えたSH-60も先の救助作戦で失ってしまった。よって、今ある対潜ヘリはアイオワが持っている1機のみだ。着艦するようSH-60に命令した時、爆発した。爆発した原因が分かった。爆発直前、SH-60に乗っている妖精が、『ミサイル接近!』と叫んだからだ。レーダーフル稼働した所、AN/SPS-49 (対空捜索用レーダー)には10機の機影を捕らえた。超音速で飛ぶ戦闘攻撃機、F/A18E『スーパーホーネット』がこちらに向けて接近しているのを確認できた

 

(スーパーホーネット……)

 

 アイオワは忌々しそうに機体を睨んだ。米海軍の戦艦であるアイオワに牙を向こうとしている兵器は、未来のアメリカが開発したものである。アイオワにとって大いなる皮肉だった

 

 艦対空ミサイルであるシースパローを発射しようとしたが、発射する直前、全てのレーダーが使用不能になった。こちらの電子機器が壊れたのではない。敵の電子戦機による妨害電波でこちらの電子の目は無力化された

 

「What?F/A18の電子戦機バージョン?」

 

 アイオワが知らないのは無理もない。アイオワの電子の目を奪ったのは、編隊に異なる機体が紛れていた。それはスーパーホーネットを電子戦機に改良された機体、EA-18G『グラウラー』である。この機体は敵防空網を不能にさせるだけでなく、ターゲットにレーダー誘導ミサイルを叩き込む事も可能である。数発のハープーンが発射されてから着弾までアイオワは、絶望に歪んだ顔でミサイルを睨んでいた

 

 

 

 もう手は無い。携帯地対空ミサイルであるスティンガーで撃ち落せる機体ではない。着弾と同時に衝撃と爆風が襲い、アイオワは海面に叩きつけられた。立ち上がろうとしたが、F/A-18Eの航空隊による第二波のミサイル攻撃を受け、再び海面に倒れてしまった。怪我が酷く、艤装も大破している。VLSやハープーン・トマホーク発射装置は愚か、通信機器も兵装もほとんど破壊された

 

 ミサイル攻撃によりアイオワは満身創痍でありながらも、何とか体を起こしたが、視界に映ったのはこちらに迫ってくる敵の艦隊だった

 

「まだ……まだまだ……Battleshipの時代は終わらないわ。見てなさい…… Fire!」

 

まだ健全な16インチ砲を敵に向かって撃ったが、射撃システムがやられているためほとんど勘で撃っていた。それでも、奇跡的に駆逐二級に命中したが、焼け石に水だ

 

「オヤオヤ?コンナ所ニ、アメリカ艦ガイルゾ?禄ニ針路モ取レナイノカ?」

 

ぞっとするような声がアイオワの耳に届いた。顔を向けるより早く、首を掴まれ、アイオワは宙を浮いた。戦艦ル級改flagshipが片手でアイオワの首を掴みニヤニヤと笑っている。アイオワは振りほどこうともがいたが、拘束を解く事は出来なかった。生き残っている16インチ砲で狙おうとしたが、動くより早く相手の主砲が対応し生き残った主砲のみを破壊した

 

「ドウダッタ?戦艦大和ヤ武蔵ミタイニ、一方的ニ航空攻撃ヲ受ケタ感想ハ?」

 

戦艦ル級改flagshipは嘲り笑っていたが、アイオワは怒りよりも疑問が沸いた

 

(Why……史実を知っているの?)

 

 艦娘が艦であった世界の記憶に持っている理由については、提督から聞いて納得した。創造主である父親も中々の人物だったが、深海棲艦は別だ。知らないはずなのに、なぜ知っているのか?

 

 横目で戦艦ル級改flagishipの主砲を見たが、余りの大きさに絶句した。どう見ても主砲がバカデカい。砲の大きさは50cm砲よりも軽々超えている

 

(まさか……)

 

 アイオワはある推測を立てた。しかし、これを提督に伝える手段はない。無線通信は破壊されたので無理だ。しかし、アドミラルもバカではないはずだ

 

「ふふふ……HaHaHa!」

 

アイオワは声を上げて笑う。それは危機的状況に似合わない哄笑であった。予想もしなかったのだろう。戦艦ル級改flagshipは怪訝な顔をした

 

「何ガオカシイ?」

 

It is too funny!(おかし過ぎるわ)ユーの軍団はU.S.NAVYに比べて余りにも温いわ!ミーが知っているU.S.NAVYは徹底的に叩く!But、ユーの艦隊は手緩いわ!真似しただけ!まるで準備万端ではないみたい!それに人類滅ぼす癖に、核も使わないなんてお利口さんね。空母ヲ級改は……キティホーク級空母をモデルにしているみたいだけど……艦載機の数が足りないわ!金が無かったかしら?」

 

 戦艦ル級改Flagshipからは笑いは消え、怒りを露わにしアイオワの喉を掴んでいる力が一層強くなった。アイオワは苦痛で顔を歪ませたが、アイオワは構わず相手を挑発した

 

「その反応だと図星かしら?B-52のMk82通常爆弾も確かにExpensive(高価)よ。金や資源が豊富なのにサポート面を軽視するどころか、核兵器造らないなんてバカね!」

 

 今考えれば……余りにもおかしな軍団だった。近代兵器を持っている割には、まるで兵器しか持って来ていないかのような軍団だった。近代兵器を製造する能力はあるのに、電子戦や中継機などバックアップ機器や装置を軽視したり、捕まえた艦娘を非人道的な拷問をしている割には、NBC兵器である核・生物・化学兵器を全く使用していない

 

「質だけ高い中途半端な軍団に未来はないわ!そんな中途半端な軍団だとアドミラルに勝てないわ!ユーは何者か知らないけど、これだけは言える!ユーは――」

 

 それ以上の言葉は、アイオワから出ることはなかった。戦艦ル級改flagshipは怒り任せでアイオワを投げ飛ばしたからだ。アイオワは倒れ込み、敵の砲声が聞こえる直前、ある声を確かに聞いた

 

深海棲艦としてはあり得ない声が……

 

「貴様はここで沈め!」

 

 

 

気付けばアイオワは海の中にいた。潜水しているのではない。海面や日の差す光が遠のいていく

 

「Oh my god…。ミーが……撃沈 …?」

 

 戦艦アイオワは艦だった世界では建造してから博物館に運ばれるまで一度も撃沈されなかった。沈んで初めて敗北というのを味わった。この世界は理不尽だが、変える事は可能だ。余り話はしなかったが、日本の艦娘ともっと交流を深めるべきだったと少し後悔した。しかし、タイムスリップする駆逐艦の時雨は上手くやれるだろう。アドミラルの艦娘の中で唯一、生き残った幸運艦の1つだから

 

「意識が…… Admiral…先に行くわ……」

 

時間は十分稼いだ。意識が無くなるまでタイムスリップ作戦の成功する事を祈って……

 

 

 

 

 

 未来のノートにアイオワが書かれた手紙が入っていた。敵の近代兵器の正体。艦娘が艦だった頃の世界の未来について。そして、必死になって深海棲艦の魔の手から味方の艦娘を陰で守っていた事も

 

(アイオワ……確かに受け取ったぞ)

 

今の俺は、まだ学生の身だ。時空を超えて来たのは、時雨という戦力のみ。しかし、何か行動を起こさなければ同じ過ちを繰り返すだけだ。全ての犠牲が無駄になる

 

(これはただの歴史改変じゃない。未来からの警鐘だ)

 

父親と再び口喧嘩してしまったが、今はそうも言ってられない。時雨の怒鳴り声で再度、危機的状況を認識した。しかし、父親と仲良くやっていけるのだろうか?未来のノートを再び読んでいる時雨を見て、俺は不安しか感じなかった

 

  




おまけ
アイオワ「I'll be back」
軽巡ツ級「戦艦アイオワ……親指ヲ立テテ沈ミマシタヨ?」
戦艦ル級改flagship「ネタデ沈ムトハ……オノレ!」


これで回想編は終わりです。思っていたよりも長くなりました
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