時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第27話 艦娘の正体

「艦娘の正体は、沈んだ艦の魂に肉体を持たせた有機生命体。いわゆる人造人間だ。その造り方……建造技術は、深海棲艦を参考にしたものだ」

 

 時雨の頭の中でずっと響いて来る提督の父親の言葉。提督の父親の口から告げられた内容に、時雨は言葉を失った。

 

「じ、人造人間……?僕達……艦娘は……。僕は……」

 

 時雨は震える唇を動かしたが、事態を呑みこめなかった。僕達は……誰?通常の人間ではない事は、明石や未来の提督から聞いていた。しかし、艦娘の建造が深海棲艦の技術を参考にしたという事に、時雨は衝撃を受けていた

 

「僕達は……深海棲艦?嘘……嘘だよね……」

 

「それは……」

 

親父が口を開く直前、提督が割り込んだ

 

「艦娘は深海棲艦ではない。別物だ。明石も知っている。ノートに書かれていた。『艦娘計画』の理論を簡単にまとめた項目があった。すまん、言い方が不味かった」

 

 時雨はほっとしたが、未だに信じられなかった。未来で『兵器』と罵りながら攻撃してくるゲリラや反艦娘団体とは比べものにならない衝撃を受けた

 

「どういう事……?僕は白露型駆逐艦、2番艦『時雨』。だから僕は、深海棲艦じゃない。僕は敵じゃない。僕は――」

 

「落ち着け。いいか。お前が深海棲艦だったら、未来の俺はお前らを指揮していないぞ。いいから落ち着いて聞くんだ」

 

提督は落ち着かせよういい聞かした。提督の父親も時雨に近寄り、肩を優しくつかんだ

 

「時雨、話を聞くんだ。ワシは人種差別主義者でもなければ、心の狭い人間でもマッドサイエンティストでもない。ワシは、ワシ自身の欲望のためにお前達を造ったのではない。今から簡単に説明する。君達、艦娘の正体を」

 

 時雨は考えるのを止めた。これ以上、考えても無意味だった。確かに提督や提督の父親の言う通りだ。未来の提督もここにいる提督も優しく接してくれている。提督の父親もだ。深海棲艦だったら、こんなに接する訳がないのだから

 

「先程、話した深海棲艦の出撃した原因を覚えておるな。実は、大本営はこの事態に楽観視していた。敵に有効な攻撃が得られない。なら、ワームホールを破壊すればいいと。だが、あれは人が造ったものではない。幾つかの作戦を実行したが、いずれも失敗に終わった。そうしている間に深海棲艦の勢力は拡大し、遂にはハワイまで奪われた」

 

 時雨は父親から渡された資料を見たが、どれも無謀な作戦だった。日本海軍どころか米海軍も敵を舐めている節がある。兎に角、大兵力を投入さえすれば、数の力で圧倒出来ると考えて作戦を強行している。そして、遂には国連の指揮下の元、多国籍軍がハワイ、トラック島に拠点を置いている深海棲艦に挑んだ結果、無残な敗北となっている。ようやく、目を覚ましたのか各国とも深海棲艦に対して挑まなくなった

 

「どうして直ぐに国際問題にならなかったの?これほど重大な事態なのに。海外から援軍を要請すればいいのに」

 

「深海棲艦は未知の生命体だ。上手く行けば、深海棲艦の技術を独占する事が出来る。大本営はそう考えた。だから当初は、国連とアメリカの介入を拒否した。事実、深海棲艦の幾つかを捕まえる事に成功した」

 

父親は写真を渡された。駆逐イ級に鎖をグルグル巻きで縛り上げ持ち帰ろうとする海軍の姿があった

 

「失望したね」

 

「それで、親父が捕まえた深海棲艦を研究したと。解剖して何か分かった事は?」

 

 時雨は呆れ、提督は苦笑いしながら父親に質問した。ノートのお蔭だろう。提督は柔軟だった。いや、元々そうだったかも知れない。彼の父親はさぞかし大変だっただろう。正体不明の敵を調べるのは、難しいからだ。苦労話をするかと思いきや、意外な答えが帰って来た

 

「解剖?いや、解剖はしていないぞ?」

 

予想外の父親の答えに時雨と俺は顔を見合わせた。非人道的な実験どころか、解剖すらしていないのだ

 

「え?どういう事?大抵、こんなものは実験体になるんじゃ」

 

「先程、言った通り深海棲艦は通常兵器が効かないと。物理攻撃が効かなければ、刃物もものともしない。残念ながら、腹を切り裂いて調べる事は不可能じゃった。物理的な力だけでなく、薬品も高圧電流も登戸研究所から持ち出した高出力レーザーと呼ばれる膨大な熱量もダメだった。……レーザー装置は壊れて陸軍士官から怒られたが。兎に角、我々が出来る事といったら、暴れる駆逐イ級を何重もの頑丈な鎖を巻いて遠くから観察するだけしか出来なかった。それが、我々の限界じゃった」

 

 その後、父親は続けて言う。深海棲艦はこの世界、つまり地球上に存在しない何かが物理攻撃を防いでいるのではないか?と睨んだ。きっかけは観察した結果、深海棲艦は全ての攻撃に対して物理的にダメージを防いでいるのではないと推測した。駆逐イ級である外皮と呼ばれるものは柔らかいにも拘わらず、銃弾すら弾いたのだ

 

 確かに筋は通る。異形をなしているとはいえども、あんな身体で水圧が高い海深くに住める訳がない。水圧をものともせず、短時間で浮いたり潜水したりすることは可能だろうか?深海魚でも無理だろう。深海棲艦は、地球上の生物に該当しないと見ていった方がいい

 

 父親の言い分によると、調査の結果、海軍は深海棲艦の住処に建造するための施設らしきものを見つけた。膨大な犠牲を払って調べた結果、父親は地球上には存在しない未知の元素を見つけたとの事だ。父親曰く、これが深海棲艦の力の源ではないかと睨んでいる

 

「それじゃあ、その元素を火薬と一緒に砲弾に詰め込めば」

 

提督は提案したが、父親は首を振った

 

「無理だ。それは加工すら不可能だった。未知の元素は、頑なに他の元素と結びつくことを嫌う。同じ極は、反発しあう磁石のようにな。無理やり積んでも効果はない。未知の元素単体だけでは何の効果もない」

 

しかし、敵はそれを可能としているらしい。生命体が人間と異なるから出来る事だろう。それを武器に、この世界を侵略しているのだと

 

「ワシは考えた。もしかすると、あれは幽霊のような存在かと。だが、それは人間が長い間、想像していたのと違う形だけなのだと。研究している内に確信した事は、奴らは我々よりも違う次元の生命体だと言う事だ。これは推測だが、恐らく奴らは高次元に住み四次元空間を行き来するような生命体であろう。しかし、ワシらが住むような三次元の世界には、出現する事は無い。窓を覗くようにこちらの世界を見ているのだと。科学者として認めたくはないが、人が死ぬと魂は別次元に行くらしい。だが、その先は誰も知らん。しかし、奴らの世界に行くのならある程度、筋は通る。死んだ人の魂を糧にしているため、高次元の世界から三次元の世界に戻る事は出来ない。あの世があるのすれば、深海棲艦の世界の故郷かも知れんな」

 

 父親は説明していたが、途中からはよく分からないため時雨は一応頷いた。ただ、確かなのは別世界に住む生き物であるという事だ。本来なら交わらないものが、ワームホールが開いた事により戦争が始まった

 

「そこで考え出された対抗策は、深海棲艦と同様な兵器をぶつければいいと。深海棲艦という強力な戦力を人工的に造り出せればいいと考えた。深海棲艦の生態系を調べた結果、彼等は特殊な方法で仲間を増やしている事に気がついた。無機物を有機物にする方法だ。ワシは研究を重ね、遂にやり遂げた。未知の元素に特殊な方法を行い崩壊させ、別の元素に作り変える。性能は遥かに劣る。しかし限定的だが、加工は可能だ。我々に親しみを持つ生命体を造り出す事も可能だと思った」

 

「その……別な元素ってまさか……」

 

 時雨は気がついた。建造には必ずあるものが必要であるのを。いや、艦娘では当たり前のように使用しているものが、まさか大発明である事を指しているとは夢にも思わなかった

 

「お前達の間では、それを『開発資材』という。資材は媒介だ。無機物に命を吹き込むために必要な物だ。但し深海棲艦とは違い、正義に溢れた生命体だ。人類を守る守護者。それがお前達だ。艦娘の傷を瞬時に早める『高速修復剤』も艤装も妖精もそこから生まれた。時雨……お前は生まれる前の事を覚えているか?」

 

時雨は頷いた。覚えている。己が艦だった時に撃沈した世界の事を

 

「僕は白露型二番艦、時雨。第二次世界大戦のタイランド湾のマレー半島東岸で潜水艦の雷撃を受けて撃沈された」

 

「この世界では第二次世界大戦なぞ起こっていない。あるアメリカの科学者が言っていた。世界は一つではない。歴史が違う様々な世界があると。多次元宇宙の概念、つまりパラレルワールドというものだ。そうだ。ワシは国を守る軍艦を探していた。この世界の軍艦ではアテに出来んと。数が余りに少なかったから。ワームホールの原理を調べ、奴らに対抗できる軍艦を探していた」

 

 父親は資料を見せた。ワームホールの解析の論文が書かれた。内容はさっぱりだが、父親はある装置を使って限定的が別世界を観察出来る装置があったという

 

「今ではもう動かない。ワームホールを人工的に造り出すのは無理だ。仮にできたとしても、人が異動出来る代物ではないし、機械がオーバーヒートする。限られた時間の中で第二次世界大戦が行われた世界を見つける事に成功した。その沈んだ船から人工生命体を造ろうと考えた。深海棲艦は沈んだ船や人の怨念が生まれたものだ。なら、我々が手を加えればどうか?艦娘も当時の船の魂を持っている。怨念の塊を善良な魂にしてやる事が出来るとな。しかし、実験はまだやっておらん。現段階では、妖精を誕生させる事しか出来ない。艦娘の建造に必要な開発資材がまだ完成しておらんからな。理論が正しくても、成功するとは限らん。しかし、ワシの研究に間違ってはいなかった。未来から来たとは言え、目の前におる」

 

 時雨は唖然とした。創造主は何も悪戯に研究をしたわけではない。それと同時に心のどこかで誇りを感じた。艦娘はやはり国を守るために造られた

 

「未来の俺が、タイムマシンを作り出せたのは――」

 

「その副産物らしい。あれは興味本位で研究していた。だが、それを実現するためには、とてもじゃないが、ワシには出来なかった。だが、艦娘である明石と夕張がやってくれた。間違っていなかった。ただ、改善点は必要だろう」

 

父親は満足そうにうなずいた。もし、ワームホールを研究していなければ、タイムマシンなんて出来なかっただろう。そうなれば、過去に送り出せず世界は崩壊したままだ。今は危機を回避できるチャンスがある

 

「『艦娘計画』は奴らの技術を参考にし、奴らを対抗するための『戦力』だ。だが、大本営は納得しなかった。軍が欲しているのは、そんな代物ではない。軍人が扱う兵器だと」

 

「どうして兵器にこだわるの?」

 

 提督の父親の説明に、時雨は理解出来なかった。国や国民を守るのに、なぜ否定するかが分からなかった

 

「時雨、戦争と言うのは何も凶悪な敵をやっつけ、国民を守るヒーローの存在というものではない。ノートを見ただろう。大本営は頑なに艦娘計画を認めなかったのかを。それを認めてしまえばどうなる?」

 

父親はそこまで言うと自らお茶をくんで呑んだ

 

「今まで軍艦に乗り、国を守ってきた艦長や水兵などの軍艦乗りの人達はどうなる?軍相手に武器を製造している企業は?海軍軍人の大半は職を失うだろう。兵器工場は潰れ、そこに働いていた人は路頭に迷う。尤も、通常兵器も効かない化け物相手に誰が進んで兵士になる者は居るか?応えは否だ。死にに行くようなものだ。……そうだ。ワシは夢を見過ぎた。人間なのに、人間を過大評価し過ぎた」

 

 時雨は何も言わなかった。確かにそうだ。人類同士の戦争は、結局は国益の争いに過ぎない。あの第二次世界大戦も思想や因縁などを全て取り除けば、金と資源目当てである。正義と掲げる国ほど怪しいのだ。博愛主義なんて幻だ

 

「だからワシは元帥に言ってやった。これは人類同士の醜い争いではないと!そのためには日本が先に手本を示すべきだと!しかし、軍の上層部は人類の敵に対処する方法よりも金と権力に溺れる方を選んだ!『艦娘計画』なんぞ、ワシの妄想だとな!軍内部どころかマスコミに手を回してワシは狂人扱いだ!」

 

父親は拳で机を叩いた。余程、思い出したくないものだっただろう。せっかく、深海棲艦を打ち倒すための手段を研究しているのに、国から否定されては怒るな、という方が無理だった

 

「どうだ!ワシの考えを信じるか!」

 

「うん。信じるよ」

 

「ある程度は信じる」

 

時雨と提督は父親の話を聞いて納得していた。提督の父親は狂人ではなかった。ただ斬新過ぎて誰も話を聞かなかったのだと。しかし、提督はある疑問を口にした

 

「深海棲艦が突然現れ、なぜ通常兵器が通用しないのか、艦娘を建造した理由は分かった。でも通常兵器が通用するのはある。親父、浦田重工業を知っているか?」

 

突かれた事が痛かったのか、父親は苦々しい顔になった

 

「ああ……そうだ。この国が栄えた大きな理由は、浦田重工業のお蔭だ」

 

「知っているの?」

 

父親は頭を掻きながらため息をついた。時雨は待ったが、父親は部屋をウロウロと歩くだけで答えようとしない

 

「親父、どうした?」

 

「ああ、すまん。嫌な事を思い出してな。浦田重工業は知っている。そうだ、知っている。一番よく知っている」

 

親父は迷っていたが、思い切って言った

 

「大本営や世間が嘲笑う中、ワシに唯一、支援してくれた会社だった。だが、ある日を境に打ち切られた」

 

父親の言葉に提督はピクリと動いた。勿論、時雨は気付くことは無かった

 

(浦田重工業……親父と拘わっていたのか?……未来兵器であるイージス艦を造った企業……)

 

彼の中では、アイオワから書かれた手紙を思い出した

 

(WAR(戦争)は奇跡など起こらない。冷徹な物理学と数学、そして経済学の産物。説明のつかない事象が起こったとしか思えない)

 

深海棲艦を打ち倒すために大企業が発明した新兵器……。昔は親父の考えよりも画期的な考えであり立派な軍艦だと思っていたが、今の彼の心の中は違っていた

 

 




おまけ1
時雨「僕達、艦娘に対して余り快く思わない人が居たんだ」
提督「何で?」
時雨「何でって……普通の人間ではないから。反艦娘団体から『兵器』だって」
提督「え?何処が?人外だから?」
時雨「それもあるけど――」
提督「それじゃあ、電撃使いだったり、空間移動したり、ベクトル操作出来たりするのか?」
父親「それは超能力者!いつからここが、学園都市になった!(とある魔術の禁書目録等)」
提督「T-ウィルスを使った生体兵器とか?」
父親「それはB.O.W.(バイオハザード)!」
提督「ラグナイト製の槍と盾を持って戦う人達?」
父親「それはヴァルキュリア人(戦場のヴァルキュリア)」
提督「バッタのような格好に変身し超人的な力を発揮できた改造人間?」
父親「それは仮面ライダー(昭和仮面ライダー)」
提督「普通の人間が巨人化したりとかは?実はエルディア人だったり?」
父親「それは九つの巨人(進撃の巨人)」
提督「突然変異によって超人的能力を持って生まれた人間集団」
父親「それはミュータント(XMEN)」
提督「……」
時雨「……」
提督「あれ?あんまり大した事ないような……」
父親「悲しい事言うな!超人的な奴らと比べちゃ駄目だ!」
時雨(大した事ないのに差別されるって一体……)

おまけ2
提督「そう言えば艦娘って男いないのか?」
時雨「そう言えばいない」
提督「何故だ?居てもおかしくないと思うけど」
父親「ああ、それは理由がある。あるコート来た金髪の女性が『人類が艦船関係の公的表記を残す場合、全て女性形の定冠詞を用いる。だから艦の擬人化は女性だ』と言ってたからじゃ」
提督「ああ、なるほど」
時雨「それ、別の世界の人(?)が言った言葉なんじゃ…(蒼き鋼のアルペジオ)」


今回は艦娘の解説と言いますか、この作品の艦娘の秘密ですね
まあ、艦娘の設定は公式にはないため、独自路線で行きました。と言っても艦これのラノベ『鶴翼の絆』を参考にしたのが本音ですが
因みに艦これSSの中には何故か過剰に差別される艦娘……。多分、その世界の住民には艦娘がB.O.W.のネメシスに見えたのでしょう
艦娘は女性しかいないのはなぜか?理由はハルナが既に言っているので、問題なしです
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