時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第3話 散って行った者

 時雨は地下廊下を歩いた。艦娘達の部屋は昔みたいに艦寮で分かれていない。百名近くいた艦娘も今は半分以下の人数となっていた。資源も資材も満足に行き届かず、中破したままの艦娘もちらほらいた。流石に出撃禁止はしてるが、出撃禁止を受けた艦娘は喜んでもいなかった。中破大破した原因は、あのミサイルと呼ばれる新兵器だ。戦いを挑んでも一方的にやられるだけ。長距離かつ威力が高いミサイル相手に、どんなに装甲を纏ってもたった一発で戦闘能力を奪われてしまう

 

「大丈夫だった?」

 

時雨が廊下を歩いている時に吹雪が声を掛けてくれた。心配してくれたのだろう

 

「僕は大丈夫。皆、無事に帰って来た。これから夕立と会いに行くんだ」

 

時雨は笑顔で答えたが、吹雪は顔を曇らせていた。時雨は時間の無駄という風に吹雪に別れたが、吹雪は時雨が見えなくなるまで見送っていた

 

 

 

時雨はある場所へ行きそれに対面すると話しかけた

 

「夕立、今日も生き延びたよ。新兵器の完成まで一週間。もう少しの辛抱だね」

 

「…………」

 

「今日は久しぶりに晴れた。でもどうしてだろう?晴れても嬉しくない」

 

「………」

 

「ねえ………何で……ごうなっだのがな?こだえでよ」

 

 時雨は泣き崩れた。話し相手は夕立ではなく、夕立の墓石だった。夕立は数カ月前に潜水ソ級によって撃沈された。こちらが油断した訳ではないが、相手の魚雷は何と誘導式だった。潜水能力も今までの潜水ソ級に比べて桁違いと言っていいほど性能が良く、こっちのソナーや爆雷は効果なし。恐らく、浦田重工業から奪った軍事技術なのだろう。結果、海防艦、駆逐艦と軽巡は潜水艦狩りするどころか逆に追い詰められ海に沈められた。海外の艦娘であるアイオワが対抗手段としてスクリュー音等の誘導源を探知することを妨害するマスカーと呼ばれる泡発生装置を提供してくれたが、残念ながら量産は難しく、明石も工廠の妖精もお手上げ状態だった。尤もその頃には日本にある全ての軍関連施設は燃えている状況であったため当てに出来なかった。先程の哨戒も気が気でなかった。今でも覚えている。あの惨劇の海戦を。深海棲艦が浦田重工業から奪った軍事技術を駆使し、多くの艦娘を沈んだ日を

 

 対艦ミサイル数発で撃沈した金剛と榛名、見たこともない戦闘機がこっちの艦載機を瞬く間に撃ち落とし、僅か数分の攻撃で轟沈した赤城と翔鶴。対潜哨戒機と呼ばれる航空機や見たこともない航空機(情報では対潜ヘリコプターと呼ばれている)が潜水している潜水艦を探知し海の底に沈められてしまった伊58や伊19……。この部屋は艦娘の墓場である。もう墓石が五十ほど建てられた事だろうか?

 

(素敵なパーティーしましょう♪)

 

「夕立……」

 

(はぁ。……空はあんなに青いのに)

 

「扶桑さん…」

 

(不幸だわ)

 

「山城さん…」

 

(衝突禁止!)

 

「もがみざん……」

 

 今は聞けなくなった声の主。目から涙が流れ、呼吸が荒くなる。艦だった頃の記憶と同じ……いや、それよりも最悪な状況だった。時雨を除く白露型の姉妹艦も扶桑姉妹ももういない。この部屋は以前は倉庫だったらしいが、今は艦娘の墓場になっていた。遺骨も艤装もない。墓石には名前しか刻めない。声がこみ上げて嗚咽を漏らす。不意に誰かが時雨の肩を叩いた

 

「大丈夫か?」

 

「でいどぐ」

 

 時雨は恥も外見も捨てて泣き顔を提督に向けた。艦娘の大半が撃沈されてしまった。この状況で悲しむなというのは無理である

 

「済まない……。俺のせいだ」

 

「提督は悪ぐない!あいづらのぜいだ!」

 

時雨は提督にしがみつくと泣きだし、提督は泣く時雨を慰めていた。もう限界だった

 

「今日は部屋に戻って休め。俺は他の艦娘も見ていかないと」

 

 

 

 

 

 提督は泣いている時雨から離れると、墓場の周りを歩いた。時雨はまだ、夕立の墓から動かなかったが。墓石は工廠妖精が造ってくれた。石屋でもないのに、造りは見事だった。提督は妖精に感謝した。尤も、遺骨がない。破壊された艤装を納める事しか出来ない。墓場にはちらほら人影がいた。瑞鶴が、千歳が、比叡が、北上が、足柄が、筑摩が、暁が……

 

 

 

「ここ、いいか?」

 

「……」

 

 提督は地面に座り墓石を見続けている天龍の横に座った。返事が来ない事は知っていた。なぜなら、墓石の隣には薙刀が地面に刺さっていたから。誰の物かは語るまでもないだろう

 

「済まない。敵が最新鋭の技術を盗んで我が物として扱っているとは」

 

「言い訳なんかするんじゃねー!あいつは……何であいつらは持っていて、こっちには同類の兵器がないんだよ!あの力があれば、龍田は……龍田は撃沈しなくて済んだんじゃねぇのか!」

 

天龍が提督に掴みかかり、提督を罵倒した。顔は憎しみが込められており、今にも手に持っている刀で提督を斬ろうとしていた。だが、提督は抵抗もしない。それどころか、提督は天龍が持っている刀を自分の首に持って行った

 

「全ての責任は俺だ。軍法会議なんてないのだから安心しろ。お前の罪は問わない。お前の好きにしたらいい」

 

「くそ!」

 

提督を離すと再び座り込む。いつでも殺せるはずだ。だが、殺したところで何も意味はない。龍田が帰って来る訳がない

 

「もうほっといてくれ……」

 

「食事は置いておく。邪魔したな」

 

提督は天龍を置いて動く。時雨はまだ動けるし、戦う事も出来る。しかし、心の傷を負って姉妹の墓石の前に座る艦娘は少なくない。戦える艦娘は僅かだ

 

「提督さん、何?作戦?それともお触り?……もう爆撃する機体もないから好きにして」

 

「いつから水商売を始めた?悪いが、お前を餓死させる訳にはいかない」

 

天龍の次に瑞鶴を見たが、彼女ももう以前の彼女では無くなった。大阪の戦いで翔鶴が沈んでから、瑞鶴は性格が変わった。建造された始めは、押しの強い性格だったのに……

 

 あの日、敵艦隊の対空砲火だけで百十機もの艦載機が全滅させられるなんて誰が想像出来ようか。軽巡駆逐だけの艦隊に負けるなんて誰が予想していたか

 

 

 艦載機がない空母は、格好の的になるだけ。そのため、瑞鶴を含め他の空母達もほとんど出撃していない。艦載機の運用に必要なボーキサイトも節約のために補給は延期された。事実上、制空権を取り返す事を放棄しているようなものだ

 

「そう言えば、加賀さんは元気なの?」

 

「ああ、そうだ。しっかりしているぞ(本当は違う…)」

 

「流石、一航戦ね。あの頃が懐かしい」

 

瑞鶴はうっすらと涙を流した。確か瑞鶴は、いつも加賀といがみ合っていたっけ?しかし、今ではそんな事は絶対に起こらないだろう。瑞鶴だけでない。他の艦娘も似たようなものだ。加賀は人前では沈着冷静で凛としているが、提督は知っている。彼女は隠れて泣いているのを見た事がある

 

(ここは地獄だ)

 

艦娘達をここまで率いたのはいいが、不安が増すばかりだった

 

 逃げる?何処へ逃げればいい?安全な場所はない。海も空も制圧され、陸ももう安全とは言えない。避難民と思ったら、武器を持ち人の物を略奪しようとする者までいる。残念ながら、避難民を受け入れる余裕なんてない。提督の味方は、艦娘の護衛を受けいれてくれた陸軍の一小隊だけ

 

 

 

提督は瑞鶴から離れると、時雨を呼んで墓地の部屋から出た。これ以上、居ても仕方なかった。カウンセリングする時間も無かった

 

 

 

「提督、外の状況はどうなの?」

 

「最悪だ」

 

「本当は知っているんでしょ?」

 

 時雨の質問に提督は被りを振った。本当に知らない。ただ確かなのは、他との連絡がないと言う事だった。以前から、定期的に北海道から臨時政府のラジオの電波を受信したが、ある日を境に受信が出来なくなった。ラジオの故障かと思ったが違う。これが何を意味するか、考えるまでもなかった。しかし、提督は恐ろしい推測とある事実を心の中にしまって、時雨に嘘を言った

 

「北海道から連絡が来た。ラジオ塔が故障したとさ」

 

「そうなんだ。良かったよ」

 

……いつまで誤魔化せるか検討もつかない

 

 

 

 

 

 

 

明石や夕張達が『新型兵器』の開発に成功する事を祈るしかない

 

もう打つ手がない。敵がここを攻撃してこないのは幸運なのだろうか?




大本営や国が崩壊した今、提督と艦娘達は完全に孤立無援
ブラック鎮守府にある引き継ぎ提督に怒りをぶつけるような仕様は存在しません
判断ミスで最悪な事態が起こってしまいます
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