時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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何とか切りのいいところまで話を進めることが出来ました
次話は1月上旬にはあげようと思います
それでは、良いお年を


第30話 偽の盾

 浦田重工業の社長はイージス艦について演説を始めていたが、俺はそれを無視してノートに挟まれていた紙を取り出した。それは、アイオワが残したメッセージだった

 

『Hi,Admiral。この手紙が過去のAdmiral(アドミラル)に届いているのを願っているわ。ミーが伝えたい事。ミーのfuture(未来)Admiral(アドミラル)で色々と話し合った。このWorld(世界)だけど、明らかに異常。特に浦田重工業という企業について

 

 まず、イージス艦についてここに記すわ。イージス艦……この兵器は、元々空母を守るために造られたもの。WWⅡの終戦後、航空機は発達し、遂には音速を超えるジェット機が現れたの。ミサイルという兵器だけでなく、小型の核ミサイルまで実用化された事により空母を守る船、つまり強力な防空艦が必要だった。イージス艦を設計したのは、ウェイン・E・マイヤーというアメリカ海軍の軍人。確か、彼は『米海軍が生んだ最高の戦闘システムエンジニア』と呼ばれたわ。そう………イージス艦は、空母に対するミサイル飽和攻撃への対処のために作られた兵器。イージス艦は、画期的な戦闘艦との圧倒的な防空能力は空母護衛以外にも使えたため、数か国だけ供与された

 

But,この世界にはイージス艦を造るための状況下はない。War(戦争)、特に海戦は防空が最大の課題だけれど、対艦ミサイルやジェット戦闘機がない世界に対しては、持ち過ぎる力。何のために建造されたか、ミーも分からない』

 

 それはイージス艦について開発経緯や現代兵器について時雨など艦娘が艦だった世界が簡潔に書かれていた

 

 太平洋戦争と呼ばれた戦争が終結後、時代は平和ではなく、新たな戦争を迎えた。アメリカはソ連と衝突した。日本やドイツといった枢軸国が、連合国に降伏すると、今度は米ソによるにらみ合いが発生した。いや、両国だけではない。世界の大半の国は、ソ連を盟主とする共産主義陣営、アメリカを盟主とした資本主義陣営と別れていった。ドイツは二分割され、日本はアメリカ側についた。米ソの両国は軍拡競争を行い、核兵器開発にも力を注いでいた。全面核戦争に突入すれば、人類は絶滅していただろうと言われた程の大量の核兵器が開発・配備されたと言われている。既に一発触発が幾度とあったらしい。米ソは軍事衝突しなかったが、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ソ連のアフガン侵攻など局地戦が起こった。キューバ危機という核戦争一歩手前という事件もあっ

たとの事だ。しかし争いの末、ソ連は崩壊し冷戦は幕を閉じた。それと同時に競争相手が居なくなったアメリカは国防予算を縮小させ、これがアイオワ級戦艦が退役させる一因にもなった

 

(国家総力戦といった事はもう無くなった訳か)

 

俺はアイオワが残した手紙を読みながらため息をついた

 

次に書かれていた事は、『艦娘が艦だった世界』の日本についてだ。真珠湾攻撃から始まり、広島、長崎の原爆投下、そして終戦の詔勅……

 

戦後史も書かれていた。GHQによる統治、新憲法の制定、朝鮮戦争、警察予備隊(後の自衛隊)創設、そして目覚ましい経済成長、世界有数の経済大国となっていくプロセス…

 

 

 

 彼は知らないが、実は未来の提督は子供でも分かる要領で書いておけ、とアイオワに命じた。アイオワの他に戦後生き延びビキニ核実験場まで生き延びた長門や酒匂、プリンツオイゲンなどは、これについて了承した。まさに、過去の提督は何も知らない子供のようなものだったからだ

 

 未来の提督の思惑は、成功したといえよう。これは、時雨が判断するものではない。時雨は戦闘要員であるため、下手な情報を与えると任務が失敗してしまう

 

 

 

 失敗は絶対に許されないタイムスリップ作戦。時雨と出会った日、手渡しされたノートに隠された手紙を見た過去の提督は、歯ぎしりした。己が学生身分であるのは理解している。しかし、そんな身分で世界を救え!と言われても無理がある。しかし、このまま放置しても同じ道を歩む事になってしまうだろう。だが、中々いい妙案が浮かばないし、やることは限られている。自分が出来ることと言ったら、左遷された父親に会い艦娘計画を早めるよう頼むだけ

 

(冷戦終わっても戦争は続いているし、未だに核は存在するのか。平和は天国だけかもな)

 

 しかし、深海棲艦を無事に倒せたとしても真の平和は訪れないだろう。この世界も人類共通の敵が現れ、海上封鎖しているからこそ大規模な戦争はしていない。もし深海棲艦がこの世から消えたら、社会情勢は逆戻りだろう。艦だった世界とは違う世界からと言って、同じ道を歩まないと限らない。ノートでは米国軍人が対国家用の戦闘艦娘を開発するよう頼まれた事が書かれていた

 

(時代に合わない兵器……)

 

 最後の紙は、鉛筆のみ描かれた絵と近代兵器の説明であった。それは、妙にのっぺりとした大きな方形のブリッジを持ち、砲が一門と貧弱な武装を積んだ戦闘艦であるイージス艦。しかし、ここに描かれているものは、浦田重工業が製造したイージス艦ではなく、アイオワの記憶を元に描かれた異なる3つのイージス艦の絵だった

 

(右からタイコンデロガ級、アーレイバーク級、そして日本の海上自衛隊が持っている『こんごう』型)

 

 四方から書かれた図面の艦と性能諸元である。タイコンデロガ級は『あの世界』において世界初のイージス艦であり、巡洋艦だ。アーレイバーク級とこんごう型は似ているが、タイコンデロガ級と比べて小型であるものの、駆逐艦とは思えない大きさだ。イージス艦はあくまで画期的な戦闘艦であって特殊艦ではない。限られているとは言え、他国へ輸出している。もしかしたらアイオワが博物館に眠った後も売ったいるかも知れない。だが、アイオワは他国でもアーレイバーク級を参考に建造するはずだと書かれている

 

 兵器システムは簡潔に書かれていたが、内容は目を見張るものばかりだ。書かれているのは、あくまで標準装備の艦艇だ。これは、未来の提督の判断である。イージス艦に関する兵装だけでも、過去の提督にとって驚愕するものばかりだ

 

 ハープーンをはじめ、各種ミサイルについて説明されており、対空兵器や対潜兵器など索敵システムも説明されていた

 

 これは未来の提督だけでなく、過去の提督も驚いた。これほどハイテクなものになっているとは思いもしないだろう

 

(イージス艦の歴史や性能は分かった。だが、目の前にあるイージス艦は……)

 

 アイオワが残した手紙に書かれている3種類のイージス艦のデータと異なる。パッと見ただけでは、イージス艦だろう。しかし、違和感がある。アンテナの形状が違い、また煙突の形もおかしい。しかも、本来は艦尾にヘリ発着艦の甲板がある所には、VLSと呼ばれるミサイル発射装置がびっしりと埋まっている。イージス艦だけでなく大抵の駆逐艦は、ヘリ発着するための飛行甲板があるはずだが、目の前にあるイージス艦はそれがない。対潜哨戒ヘリコプターであるSH-60 『シーホーク』が、なぜ開発されていないのかが謎だ。未来では深海棲艦も保有しており、ゴーヤなどの伊号潜水艦を撃沈させている。対潜や哨戒を軽視しているのか?またアーレイバーク級に似ているのにも拘わらず、艦橋構造物がやたらと大きい。米海軍イージス艦どころか日本の海上自衛隊であるこんごう型のイージス艦よりも酷いかも知れない。未来でアイオワが、浦田重工業が造ったイージス艦を見て首を傾げるのも無理は無かった

 

「確かに3種類のイージス艦に似ていない。タイコンデロガ級、アーレイバーク級どころかこんごう型に比べたら酷い。何なんだ、これは?」

 

ため息をつきながら、さりげなく呟いた

 

 

 

 その時だ。時雨が突然、立ち上がり辺りを見渡した。いや、まるで警戒しているかのようだ。しかも、息が荒い。まるで幽霊を見たかのような顔をしている

 

「どうした?」

 

 

 

 時雨は浦田重工業の社長の演説を聞いていた。提督は何か手紙を見ていたが、提督も何か考えているのだろう。でも、なぜ手紙とイージス艦を見比べているのか分からなかった。だが、今の時雨はそんな疑問よりも浦田社長の演説の方が興味あった。兵器システムは、なぜか説明されていなかったが、近代化な軍艦であることには大いに興味を持った。あの大きさで駆逐艦と呼ぶには、おかしいのは気になる以外を除いて。提督が何か呟いていたが、その直後、冷水に浴びせられたかのような寒気が時雨を襲った。それが殺気だと直感的に分かったが、その殺気に覚えがある。未来で艦娘の仲間を撃沈させ、未来の提督を敗北に追いやった深海棲艦の司令官、戦艦ル級改flagship……。反射的に立ち上がり、辺りを見渡す

 

「邪魔だ!座れ!」

 

「見えない!どいて!」

 

 後ろの観客から批判されたが、今はどうでもいい。艤装もない今、攻撃されたら皆、死んでしまう

 

「おい、どうした?」

 

 提督から声を掛けられたが、無視して深海棲艦である戦艦ル級改flagshipを探す。どこだ?何処にいる!?まさか、未来からの追跡者?そんなはずはない!そこまで未来の提督は、敵にタイムマシンが奪われるような事をしていないはずだ!

 

「座れ!……どうしたんだ?まるで幽霊を見たかのような顔をして?」

 

提督に腕を掴まれ強引に席に座らされた時雨。しかし、今の時雨は見えない殺気に恐怖した。そして、時雨は自分の呼吸が乱れ冷や汗を掻き始めたことを自覚した事で、これは気のせいではないと思った

 

「提督、深海棲艦が近くにいる!戦艦ル級改flagshipだ!」

 

時雨は提督に警告を発したが、提督は信じられない顔をしていた

 

「まさか?本当にそうなら、既にここ一帯は死体の山だぞ?」

 

確かに深海棲艦が本当に現れたのであれば、既に砲弾の雨が降っているはずだ。しかし、時雨は忘れもしなかった。あの殺気に……

 

 

 

 式典が終わり、帰るまで時雨は警戒をしながら提督と帰路についた。提督は落ち着けと言われたが、時雨は無視した。しかし攻撃されるどころか、接触すらなかった。

 

 

 

 あれは、気のせいなのか?しかし、人間の殺気ではないのは確かだった。その証拠に観客は何も感じていないのか、時雨と同じように感じ取っていない。近くにいた提督ですら感じ取れなかった

 

 だが、本当に深海棲艦が近くにいたなら、なぜ攻撃して来ないのだろう?未来でも、食料と水をぶら下げて従えたゲリラ以外は、徹底的に倒している。過去でも多国籍軍の艦隊は倒している。未来ですら艦娘の仲間を捕虜とし、拷問までし、海の底に沈めた相手だ。そんな相手が殺気を当てただけで済むのだろうか?

 

 

 

 式典を終え、誰もいないはずの会場の隅に誰かがいた。その者は、ある2人組を敷地内でずっと監視していた。思い過ごしだろうと思ったが、とてつもない成果だった。携帯のテープレコーダーで何回も聞いていた。どんなに小さな声でも拾え、処理された「あの声」を

 

『……3種類のイージス艦に似ていない。タイコンデロガ級、アーレイバーク級どころか『こんごう』型に比べたら酷い。何なんだ、これは?』

 

その者の顔の口元が…ぞっとするほどに歪んだ笑みを浮かべていた

 

 




おまけ
提督「イージス艦は凄いな。これほどの軍艦なら実戦では、さぞかし大活躍したんだろう?」
アイオワ「ええっと……Yes……そうよ……」
提督「どうした?なぜ目を背ける?」
アイオワ(米空母の艦載機が強すぎて、相手はミサイル撃つ前に一方的にやられる始末……なんて言えない。トマホークという巡航ミサイルもあるし……)

世界の艦船2006年12月号によると、イージス艦の初実戦は、1984年のレバノン沖
記事によると、タイコンデロガ装備のSPY-1レーダーの信頼性の高い目標探知・識別能力が注目の的となった。 他のレーダーでは探知困難な、砂嵐によるクラッターや東地中海特有のダストによる 異常な電波伝搬の中で、航空目標の90パーセント、海上・陸上目標の50パーセントを確実に補足・追尾したとの事
ただ、イージス艦を評価をしたのは、何と空母航空団のパイロットたち。空母打撃部隊周辺の目標識別確度が上がったことで、 それまでの識別・確認のための飛行回数が減少し、空母航空団の運用効率が格段に改善されたという

コール襲撃事件や衝突事故などやらかした艦でもあるが、それでもイージス艦は評判高いです。能力限界を試されるような実戦はまだないですが、高くないことを示す証拠もない。また索敵など情報収集能力は、非常に有効だという評価を得ています

因みに現時点では、イージス艦が実戦で軍用機を撃墜した『実例』は無い。それ以外だったらある(イラン航空旅客機撃墜事件)。となると、ジパングでイージス艦『みらい』がワスプの艦載機を撃ち落としたのが初実戦という皮肉も生まれます。海自もやるではないか

余談ですが「イージスの父」と呼ばれた彼の名は、後に米海軍の通算100隻目のイージス艦に命名されます。アメリカ海軍のミサイル駆逐艦(DDG-108)『ウェイン・E・マイヤー』です
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