時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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挨拶はおくれましたが、あけましておめでとうございます



第31話 鬼と姫は何処へ?

「戦艦ル級改flagshipの気配を感じたじゃと?」

 

 翌日、時雨と提督は提督の父親の所に再び向かった。しかし、時雨は別荘に着いた途端、切迫詰まった状態で会社説明会や観艦式をすっ飛ばして、いきなりその話をし始めた

 

「本当なんだ!未来で嫌ほどあいつと戦ったから、確信できる!」

 

「だから言っただろう。気のせいだって」

 

「提督は黙って!」

 

 昨日の晩に2時間も説明したが、提督は理解してもらえなかった。それもそのはずで、深海棲艦が現れたのなら、会場は惨劇になっていただろう。第一、証拠がない。一方、時雨の必死の訴えに提督の父親は顎に手を当てて考え込んでいた。沈黙の数分後、父親は口を開いた

 

「未来で、こいつらを見なかったか?」

 

 手渡されたのは、数枚の写真だった。手渡された写真を見た時雨は、絶句した。そこには、2人の女性の写真だ。いや、人間の女性ではない。なぜなら2人の内、1人の女性は角が生え、両手には大きな鉤爪を持っている。艤装も体の右側に滑走路、左側にはクレーンのついた砲台のようなものがあり、まるで動く基地が擬人化したかのようである。更にもう一1人は、頭の左右に黒い角、白いワンピースにミトン状の手袋をした可愛らしい幼女に見えるが、艤装と姿からして深海棲艦だ。しかし、時雨はこの深海棲艦を一度も見たことがない

 

「これは何?」

 

「ワームホールの出現や深海棲艦が出撃した原因の話を覚えておるか?ワームホールから真っ先に現れ、トラック島とハワイを壊滅させた深海棲艦を指揮したボスだ。こいつらを見た事は?」

 

「こんなのは知らない!これがボス?深海棲艦のボスは戦艦ル級改flagshipと教えられた!」

 

 時雨は思い出したかのように言った。こんな深海棲艦を時雨は、知らない。未来の提督は、交戦した深海棲艦を調べて分析し、僕達艦娘に情報共有していた。しかし、未来の提督はこのような深海棲艦を説明した覚えがない。それどころか、写真に写っている彼女らと遭遇した事は無い。もし、遭遇したら知っているはずだ

 

「本当に見た事がないんじゃな?」

 

「うん。本当だよ。こんな敵と会った事がないし、聞いた事もない」

 

「何なんだ、これは?そう言えば、ノートの最後辺りに鬼・姫クラスが見当たらないと書かれていたが」

 

提督も訝し気に聞いた。提督も知らないようだ

 

「こいつらは姫クラスと呼ばれた。いや、元々こちらが勝手につけた名称だ。写真に写っていないが、もう1つが鬼クラスと呼ばれていた。ワームホールに入った決死隊の生き残りの証言だが、ボスが複数いる。姿が様々だとな」

 

「だけど、鬼・姫クラスなんて知らない!」

 

時雨は叫ばずにはいられなかった。あの戦艦ル級改flagshipこそが深海棲艦のボスだと教えられた

 

「残念ながら、事実だ。この写真に写っている深海棲艦を、我々はこう呼ぶ。『港湾棲姫』と『北方棲姫』。強さや能力は不明だが、ハワイにいる米陸海軍相手をたった一人で壊滅させた。勿論、通常兵器が効かないという事もあるが」

 

 時雨は身震いした。たった1人でハワイ島にいる米軍を壊滅させた?ハワイには確か、強力な艦隊や航空隊などの強力な兵器や人員が配備されたはず。『艦だった頃の世界』でも大本営は、真珠湾攻撃を実行した程だ

 

「どういう事だ?こんな深海棲艦が現れていたなら、なぜ誰も見ていない?未来の俺どころか艦娘達も目撃して交戦してもおかしくないはずだ。ノートには戦艦ル級改flagshipとしか――」

 

「だからおかしいのだ。いくら何でもこれはあり得ん。鬼・姫クラスがいないとなると、その戦艦ル級改flagshipが深海棲艦を掌握しているようにも見える」

 

 博士も提督も困惑している。時雨も同様だ。トラック島とハワイを短期間で壊滅させたのは、姫と呼ばれる深海棲艦がいたからだろう。だが、それなら彼女らは何処へ行ったのだろう?

 

「ボス争いで戦艦ル級改flagshipが勝って深海棲艦の軍団を手中に収めた可能性は?」

 

提督は質問したが、時雨は唖然とした。いくら何でも酷い冗談だ

 

「それは無いだろう。奴らはチンパンジーではない。人と同じく組織的な軍団だ。気になるのがお前の日記。ワシが殺されてから深海棲艦が大きく変わっておる」

 

 流石の博士も提督の冗談を否定したが、深海棲艦が未来と過去に違いがあるとは思っていないらしい。それも常識が異なる

 

「ノートの記述によると、確かワシが殺されてから7か月後、未来のお前が軍を辞め、艦娘を率いて民間軍事会社を設立してから少しの間の事だ。その頃の深海棲艦は、アメリカとイギリスを攻撃した。だが、今いる深海棲艦は陸地を攻撃しない。これは推測だが、奴らはここを移住するために、ワームホールをくぐりこの海に住んだ。しかし、海が無い陸地には興味が無い。実際に、島でもある一定の広さがある島では占拠しないのが定説じゃよ」

 

「なぜだ?」

 

「まだ分からん。ただ、そんなに深い意味はないと思う」

 

提督の質問に博士は、肩をすくめた。これは、深海棲艦に聞かないと分からない

 

「それなら、深海棲艦は何で急に陸地を攻撃したの?」

 

 時雨も疑問が湧き出て来た。確かに深海棲艦は謎に包まれている。だが、生態や行動まではある程度は分かる。実際に未来の提督はそうした。けれども、ここまで敵が変わる事があろうか?

 

「それが分かれば苦労せん。未来のノートでは悲惨さが伝わるが、同時に疑問点が出ておる。しかも軍事技術だけでなく、戦術が画期的だ。こんなのはワシも初めてだ」

 

博士は未来の提督が書き残したノートをめくっては、眼鏡を掛け直し、幾度も読み返した

 

「特にアメリカとイギリスを攻撃したのが興味深い。特にアメリカは、国力、軍事力共に世界最大の国家だ。それも首都や都市部を破壊だけでなく、軍の機能麻痺や軍事基地を狙った兵力の一網打尽にするやり方は、非常に合理的だ。深海棲艦がそこまで知識があるとすれば……大発見だ。しかし、釈然としない」

 

 確かに強力な軍事力を持った国家を破壊するなら合理的なやり方だ。だが、それを実行したのは未来である。今の深海棲艦は、それすらやっていない。規模は拡大しているが、近海をうろついている駆逐イ級は陸に砲を向けない

 

「浦田重工業がやらかしたと思う。俺は敵が人間に紛れて偵察した結果、実験された仲間を見て怒りと同時に途方もない軍事技術を見て喜んだ。ついでに、軍事作戦もな。非正規労働者かアルバイトに紛れて潜り込んで、注意深く偵察すれば容易いもんだろ?その後、襲って奪い、軍事技術と戦術を取り込んだ」

 

「でも、会社はそんな事も見落としたのかな?」

 

時雨の疑問はご尤もだ。仲間が非人道的な実験をされたのを見た深海棲艦が、怒り狂って復讐される事を考えていなかったのか?

 

「そんな事を考えても仕方あるまい。ここは政府でも軍司令官でもないのじゃから」

 

博士はノートを閉じると時雨に向き合った

 

「それは、後回しにしよう。ワシに出来る事はない。ところで艦娘を建造するユニットを完成させるには、データがいる。再び、海へ出向き駆逐イ級を倒してくれないか?」

 

博士の言葉に時雨は喜んだ。久しぶりの出撃だが、問題があった

 

「博士、分かったけど補給が……」

 

「ああ、そうじゃった。まだ試作段階だが、艦娘用に加工した資源がある。未来のノートのお蔭で出来たよ」

 

 艤装を扱うには、纏うだけでは戦えない。弾薬や燃料がないと動かない。それは通常の軍隊でもそう。持ってきてのは見慣れた燃料を満載にしたドラム缶と弾薬がたくさん詰まった弾薬と鋼材だ。弾薬を渡された時雨はそのまま口に入れ、補給を開始した

 

「何だこれ?補給って何だ?……って食べた?」

 

「当然だ。腹が減っては戦は出来ぬというじゃろう?」

 

 未来の提督ならこういうのは当たり前だが、ここにいる提督は過去の人間。よって、弾薬を駄菓子のように食べる時雨を見て驚愕した

 

「おい、艦娘の体の造りはどうなっているんだ?サイボーグかロボットか何かか?」

 

「人間と変わらんよ。我々と同じ炭素系生命体だ。ただ体の造りが僅かに違う。別に不思議がる事はないだろう」

 

「艤装に弾込めるんじゃないのか?燃料があるけど、まさかこれを時雨が飲む訳ないよな?」

 

提督は笑いながら言ったが、時雨が燃料を飲むのを見て、頭を抱えて座り込んだ

 

「どうだ?」

 

「ちょっと苦いかな?でも悪くなかったよ」

 

「俺がおかしいのか?ノートに書かれていたけど、冗談かと思ったが」

 

 時雨は父親と話している最中、提督はため息をついていた。当時の提督は艦娘を全部、把握していなかった。いや、補給方法が信じられなかったらしい

 

「てっきり時雨を解剖して調べるんだと思った」

 

「ワシはマッドサイエンティストじゃない。貴重な戦力を自らの手で潰すバカはいない。出撃して観察し、データを取って研究期間を短くさせるしかあるまい」

 

確かにこれが現実的な方法かも知れない。浦田重工業や大本営に警告を送っても、無視されるか精神異常者として処理されるだろう。それに任務の内容は艦娘計画を急がせる事だ。時雨1人だけでは、どうする事も出来ない

 

「分かったよ」

 

今、やれる事は少ない。あれは気のせいだったかも知れない。そこまで考えると時雨は頷き、3人は海岸へ向かいだした

 

 

 

 立ち入り禁止の看板を無視して海岸で入った一同は、直ぐに準備した。時雨が海に出たと同時に、近海の海中にいた駆逐イ級の集団が姿を現し、エサを求める肉食獣のように時雨に集まった。普通なら海に出た船は破壊され、船乗りは殺されるのがこの世界の常識だが、それは艦娘が現れていないだけの話。時雨は執拗に攻撃して来る駆逐イ級の砲弾を軽々と避けると、12.7cm連装砲B型改二を構えて駆逐イ級に向けて砲撃を開始する。時雨の砲撃を受けた駆逐イ級は断末魔を上げながら海に沈められた

 

「相変わらず凄いな」

 

「そう?結構、簡単な任務だけど?」

 

 弾薬を撃ち尽くすまで駆逐イ級をなぶり殺しし、浜辺に上がって来た時雨を見て提督はため息をついた。確かに時雨にとっては楽勝だ。未来から来たとは言え、練度は高く改二であり、しかも敵である深海棲艦は最新鋭兵器を持っていない

 

だが、敵である深海棲艦にとっては災難だ。既に20体の駆逐イ級が沈められたのだ

 

「こんなんだと、敵が可哀想に思える」

 

「息子よ。これが戦争だ」

 

世の中は弱肉強食である。戦争も例外ではない。より強力な側が必ず勝つ

 

「まあ、確かに。未来では、この光景が逆転されるのか」

 

 提督の呟きに時雨も博士も黙ってしまう。未来では兵装の差で負けたとも言える。博士も時雨も知らないが、敵は半世紀以上の兵器を手に入れ、艦娘達を徹底的に叩いた。兵器の性能差は恐ろしい。プロボクサーとアマチュアボクサーが戦うようなものだ。アマチュアのパンチはかすりもしない。しかし、プロが放つ強力なパンチはことごとく命中する。皮肉にも時雨が過去に来た時点で、敵なしだった

 

「博士、どう?」

 

「ああ。ありがとう。文句1つもない。何か不具合でもあるかな?」

 

「うん。12.7cm連装砲B型改二にちょっと違和感があるんだ。照準が合っていないような気がする。今は大した事はないけど、故障かな?」

 

 

 

 研究施設に戻った3人は早速、12.7cm連装砲B型改二を提督の父親が見たが、予想外の知らせを聞かされてしまう

 

「時雨、残念な知らせだ。あの艦砲だが、確実に修理する事が出来ない」

 

「ど、どうして?」

 

時雨はかすれた声を上げた。あの艦砲は……

 

「簡単な話だ。お前の艦砲の寿命だ。同じものを造ろうにも、ここには、それを造る技術が圧倒的に足りない。整備しようにも、今いる工廠妖精は、まだ練度が低い」

 

「修理は無理なのか?」

 

提督が信じられないと言う風に父親に聞いた

 

「ああ。お前にも分かるように言おう。車は知っているな。お前の大好きなバイクでもいいぞ。乗り物を乗り回していくと、機械部品やタイヤは時間が経つ事に劣化する。清掃や整備はしなければならないが、劣化は避けられん。こういう時の対処法は、朽ちた部品を交換するしかない。しかし、問題の主砲はそれがない。大砲の場合だと、『砲身命数』という」

 

「だったら、妖精を何とかして……」

 

「いや、ここで出来るのは応急修理だけだ」

 

 博士はきっぱりと言った為、時雨は床に座り込んでしまった。顔は項垂れており、目線は目の前にある12.7cm連装砲B型改二をずっと見ていた

 

「おい、大丈夫か?」

 

「この主砲は夕立のもの…」

 

 時雨の元気のない声。提督も父親も何も言わない。時雨の艦砲である12.7cm連装砲B型改二は元々、夕立のものだった。夕立は時雨と同時期に改装され改二となり、果敢に最新鋭兵器を装備している敵に立ち向かった。しかし、捕虜となった艦娘達を助けるための『救助作戦』に参戦した際に、敵潜の雷撃によって沈められた。遺品である艤装は、リサイクルされた。国が崩壊した世界では、補給もままにならない。使えないと判断されるまで兵装は使い続けた。明石や夕張による整備のお蔭で無駄がなかったが、限度はあった

 

「そうか。すまない、時雨。ワシは未熟だ。代わりに12.7cm連装砲をやろう。いざという時に12.7cm連装砲B型改二を使いなさい」

 

「後、何回使えるの?」

 

時雨は何気なく聞いた。もう夕立の遺品は使えなくなる。覚悟はしていたが、いざ使われないとなるとやはり心が痛い

 

「さっきの海戦なら5回出撃出来るだろう。それも長くて。手強い相手なら1回。それが過ぎれば、砲の自壊する。砲身がもたない」

 

「それじゃあ、時雨はもう…」

 

「いや、練度は高いし、肝心の艤装は当分の間、大丈夫だ。今の時雨なら、まだ戦える。だが、未来の息子は兵装のメンテナンスまでは見落としたようだな。それとも、もう資源が枯渇していたのか。真偽はともかく、ワシが何とかするだろうと思ったに違いない。だが、まだ初期段階の研究だ。どうする事も出来ん」

 

 時雨は暗い気持ちになった。確かに時雨は強い。しかし、バックアップするものは原始的であるため、満足に戦えない。入渠も未来よりも劣っていた。普段よりも時間がかかっている。高速修復材も試作段階であるため、使用は控えた。過去に来てから、まるで自分自身の性能が、落されていくような気がした

 

 未来の提督は、そこまで考えていなかったようだ。けれど、ここで落ち込んではダメだ。ここで僕が諦めたら……

 

「提督、大丈夫だよ。だって、今すぐ使えないとは言っていないし」

 

「そうか」

 

時雨は、笑顔で答えた。心配無用として笑ったが、心の中は笑っていなかった

 

「改二の兵装の使用を控えよう。現在、製造と整備が可能な兵装は12.7cm連装砲、61cm四連装魚雷だけだ。打撃力は下がってしまうが、それでいいかね?」

 

「火力不足になってしまう訳か」

 

 提督の言う通りだ。初期に装備された僕の兵装だから文句はなかった。だが、レアな兵装を頼り過ぎたというのも事実だ

 

「大丈夫、僕なら扱えるよ」

 

 使い続けて来た主砲と魚雷は一旦、お預けだ。夕立の遺品である12.7cm連装砲B型改二と改で持ってきた10cm連装高角砲と61cm四連装(酸素)魚雷は、保管する事になった。使う日が来る時は、恐らく強敵と対峙しているかも知れない。時雨はそう思わずにはいられなかった




港湾棲姫「ヤット……ヤット私達ノ出番ガ……。シカシ、写真ニ写ッテイルダケ」
北方棲姫「ゼロモ烈風モ無イ」


おまけ
武蔵「フッ、随分待たせたようだな……。大和型戦艦二番艦、武蔵。参る!」
提督「ん?おかしいなぁ?」
武蔵「どこを見ている?私はここだぞ?正月に建造出来て嬉しくないのか?武蔵持っていなかっただろ?」
提督「いや、そうじゃない。コジロウとニャースは何処へ行ったのかと?」
武蔵「いつから私はロケット団の3人組の1人になったんだ?」
時雨「ゲーム体験談もネタでやるんだ……」


 ついに港湾棲姫と北方棲姫が登場。ただし、写真だけ。彼女達は、何処かにいるでしょう
 そして、時雨は改二の兵装を満足に仕えなくなりました。これは、タイムスリップで支障が出る現象です。過去に行ったからといって、自分がいた時代と同様に補給やバックアップが受けられる訳はありません。イージス艦「みらい」も戦国自衛隊もタイムマシンに改造されたデロリアンも、自分達がいた時代でしか手に入らない貴重な兵器や物資が失われるのを見ていると本当に大丈夫なのか、と思います。代替で凌ぎますが、満足出来るものは大抵ないです

 それはそうと、正月は色々とありましたのでログインする暇がなかったです
武蔵が建造出来て喜んだり、『迎春!「空母機動部隊」全力出撃!』の任務でレ級の存在とE風による羅針盤で苦戦したりと。まあ、何だかんだでクリアしました。ザラさえ出れば大型建造卒業です

それでは、今年もよろしくお願いします
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