後に付けます
第34話 秋祭りと事故
季節は秋になったが、この季節はあちこちで様々な行事が行われている。例えば、学校では運動会や学園祭。公園や山では紅葉狩り。田んぼでは稲刈りが行われている。まだ、深海棲艦も本格的な空路航路を封鎖していないため、配給制は行われていない。そのため、陸では平和だ。だが、この平和も時間が経てば見れなくなるだろう。父親も提督も時雨も艦娘の建造ユニットを何とか製造しているが、中々上手く行かない
しかし、時期は迫ってきている。来年の冬には浦田重工業が新兵器を披露する。それまでに艦娘を誕生させなければならない
「仮に艦娘の建造が出来たとしても、世間にはどうやって広める?」
三人がリビングでお茶に休んでいる中、提督はポツリと呟いた。建造が出来たとしても、誰も評価しなければ意味がない
「未来の提督がやったみたいに東京湾にいる深海棲艦を殲滅させる?」
「いや、その時は浦田重工業は壊滅していた。今は健全だ。もっとアピールしないと」
提督はコーヒーをすすった。ただ駆逐するだけでは効果はないかも知れない
「艦娘をアイドルにするのは後の話だ。お前達2人にはここに行ってもらわないとな」
父親はある紙を差し出したが、2人は唖然とした
「おい、これはどういうつもりだ?」
しかし親父からは何も返事は無い。それどころか今度はニヤニヤと笑いながら時雨と提督を見ている
「はぁ~。重大なお使いかと思ったら、近くの秋祭りに行けとか何考えているんだ?」
「いいじゃない?僕も興味があるし」
アパートに戻った提督と時雨は、近くに神社で開かれている秋祭りに向かった。時雨は楽しみにしていた。当然だった。自分が建造する初めは、瓦礫だったのだから。一方、提督はというと頭を掻き呆れた顔をしていた。秋祭りなんて行く必要があるのか、疑問だった。将来、己の人生が悲惨であるのになぜこんなにも悠長な事をするのか?
「何で秋祭りに行かなきゃならないんだ?」
「そりゃ、お前さんの気分転換だ」
秋祭りに行く直前、父親からの返事はそれだった。不満そうな息子の顔を見て、父親は答えた
「言い方が不味かったな。いつまでもそんなに悩んでいたら、成功するもんも成功しなくなる。世間では軍人は特別な存在だと思われているが、実際は違う。全員が銃持って戦う訳ではない。艦娘もそうじゃ」
父親はジャケットを着るとそのまま家を出た
「軍隊は特殊な仕事だが、24時間365日ずっと軍事訓練や勤務している訳ではない。運動会もあれば、宴会もやる。たまには息抜きしろ。時雨もこの世界をあまり知らない。だからせめて、思い出の一つでも作らないとな」
父親の意外な言葉に俺は少し尊敬した目で見た。まさか、そんなことまで考えているとは思わなかったのだ。しかし、それは建て前だったらしい。ここで裏切る事になった
「それにワシは行きつけの酒屋に行かないとな。最近、行ってないもんだから顔を出さないと行けない。2人は楽しんで」
「おい、酒が飲みたい理由だけだろうが」
俺が非難するより先に父親は素早く外に出た。俺は追いかけようとは思わなかった。不満はあるものの、確かに一理あるからだ。時雨も世界が崩壊する前の街なんて知らないだろうから
「凄い人の集まりだね」
「ああ、山車祭りと花火大会まであるからな。去年は行っていないから、どんな――」
「提督。聞いていい?」
俺が説明しようとしている最中、時雨が聞いてきた。真剣な表情をしている
「何だ?」
「山車祭りって何?」
人が賑わっている最中、二人の間だけは静かだった
「えっと?時雨。未来で祭りとか知らないのか?」
「ううん。こういう秋祭り、見た事ないから」
まるで常識を知らない子みたいな反応をする時雨に俺は、困惑した。しかし、それは仕方ない事だった。未来ではそれどころではなかったのだろう
「教えてやると、山車というのは――」
提督から説明を聞いた時雨は驚きと戸惑いを感じた。だが、それは始めだった。今では目をキラキラさせて屋台や祭りを見ている。時雨は制服のような黒い服を着ているため、周りは女子学生と勘違いしているようだ。お蔭で一部からは羨ましいそうな目をする人がいたが、時雨はともかく、提督は何とも言えない気持ちになるのであった
こうして、時雨は過去の提督と秋祭りを回ることになった。
父親の命とは言え仕方なく簪と学園祭に参加することになった提督。今の時雨は制服とカラーを揃えたキュロットの私服姿である。それに加えて、小さなリュックを背負っている。何でも提督の父親から渡されたものだとか。しかし、時雨は提督と秋祭りを一緒に回れることに心の底から喜び、内心舞い上がっていた。
(やった! ……提督と遊べる!……)
そんな時雨と比べて、提督自身も内心どうしてよいか悩んでいた。
というのも、暫くの間は行っていない。小さい頃、近場で何回も行った事もあるし、イベントもしれていた。父親の事で友人は居なくなってから、誰かと一緒に回る事はないと思っていたが、まさかこんな事になるとは予想もしなかった
「提督、ど、どこ行こうか……」
どうしようかと悩んでいる彼を他所に早速時雨は聞いてきた。
その顔は赤くなりつつも嬉しそうに微笑み、可愛い表情をしていた
普通の男性なら惚れるところだが、生憎、今の彼にはこういう対応はどうすればいいのか、分からない。こういうのは経験が全く無いからだ
「……好きな所へ行っていいぞ。俺はこういうのは苦手だ」
彼の答えは行きたい所を譲っているように見えるが、別の方向から見れば明らかに投げやりな返し方である
通常、こういう時は男性がエスコートするものであり、彼の反応はあまりよろしくない答えだった
しかし、相手は建造されてから幾多の戦場を駆けずり回り、艦娘の中で唯一の生き残りである。それに加えて、常識というものを知らない。異性の付き合い方どころか人の接し方もよく知らない女子である。よって時雨にはこういう解釈になっていた
『俺は、どこにでも付いていくから安心して楽しんでくれ』
どうやら、双方とも普通の生き方で無かったのが救いだったらしい。時雨は大いに喜び提督の手を掴むと、提督を半ば強引に連れて屋台の方へ行った
「おい、そんなに急がなくても逃げないから」
提督の呆れた声は時雨の耳に届かず、興味にある店を手当たり次第に行ったのであった
「お前……そんなに珍しいか……」
「だって初めてここに来たんだよ!」
一時間くらい経つだろうか?満喫している時雨を他所に提督は半ば疲れていた。色々なものを買って食べたり、遊んだりしているのだから。はしゃぐ時雨を提督は、見守る事しか出来なかった
「娯楽は無かったんだな」
「そんなことないよ。でも、やる事は限られていたから」
実際は、娯楽といえるものではなかった。未来では、文明が崩壊したためやる事は限られていた。瓦礫から戦争で使えそうなガラクタを集める副産物として色々なものが手に入った。シャンプーやせっけん、香水などが紛れていると艦娘達は喜んだ。チェスや将棋、トランプなど室内の娯楽用品も手に入れる事もあった。陸軍の兵士の1人はキリスト教徒がいたらしく、アイオワやサラトガなど海外の艦娘や少数の艦娘達は祈りをささげていたのが現状だった
「ここが灰になるのか……」
提督の呟きに時雨は黙っていたが、気を取り直して別の店に目を付けた
「提督、ここに行ってもいい?」
「ほどほどにしておけよ」
提督は苦笑いしたが、内心では焦っていた。食事も買い物も全て自腹。流石に彼もこればかりは認識していた。大盤振る舞いしていたつもりだが、今では財布の中身は中破だ。これ以上行くと大破してしまう
買い物も食べ物も満喫している2人は、山車を見ていた。種々の飾り物をつけた屋台の列を見た時雨は、こう興奮状態だった
「うわぁー!凄い!」
時雨は提督と一緒にいられることに喜び、彼自身もそこまで悪くない気分で満たされた。いつもテレビで流れているものだったが、今は違う
「こんな楽しみ……ずっと続くといいな……」
ふと時雨が口をした。自分はタイムスリップして歴史を変える任務。そんな重大な任務に、自分はこんな事をしていいのだろうか?扶桑山城や白露姉妹が見たら、怒られそう……
「焦らなくていい。歴史は変わるんだろ?」
提督はカメラを構えると通り過ぎる山車の写真を撮った。時雨は、そんな彼を見ていた。まさか、カメラを持っているとは思わなかった
「似合わないか?」
「ううん。青葉みたい」
尤も、提督が持っているカメラは、青葉が持っているのとは違う。二眼レフカメラであり、見た目がレトロなものである。提督は考え込んでいたが、カメラを時雨に渡した
「い、いいの?」
「これはもう中古品だ。生産中止されたから、今では珍しいものだ。これで思い出を撮れ。そして建造されるであろう本来の仲間に伝えるんだ。この国を守って良かったと」
今の段階で建造されても、その艦娘に未来の記憶はない。当然、認識はしないだろう。だが、思い出は残る。世の中、デメリットだらけではない
「本当にいいの?」
時雨は念を押して聞いた。これは大事な物だったはず……
「ああ……俺には似合わない。もう写真撮る趣味はもう冷めたからな」
この後、時雨は何度もお礼をしたのは言うまでもない。時雨は写真を撮りまくった。花火が上がった様子やお祭りの写真、そして提督とツーショット。流石に通りかかった人に頼んだが……
「フィルムは明日、カメラ屋さんに持っていけばいいだろう」
祭りが終わり、2人は住宅街の通りを歩いていた。帰路につく中、提督は言ったが、時雨はそんな話を聞いていない。時雨は提督と一緒に秋祭りを過ごした。デートだったかどうか微妙だが、この日、簪にとって忘れない一日となったのは言うまでもないだろう
「提督、ありがとう」
「ん?まあ、俺も頑張らないとな」
肩をすくめる提督。艦娘の司令官になるからには、責任は重大である。責任に押しつぶされて自殺するような未来は御免だ
「提督、僕は必ず――」
時雨は言うつもりだった。悲惨な未来を食い止めるためだけでなく、笑顔で笑っていられる未来。白露達や西村艦隊の皆にも楽しませてやろうと。特に扶桑山城には味わって欲しかった。幸福を
そんな中、トラックが1台、2人に向かって猛スピードで突っ込んできている。いや、車のヘッドライトの光に気づいたが、このトラックは何と真正面から、2人を避けようともせず、しかも全く減速せずに走っている。このままだと激突する!
「危ない!」
時雨はとっさに、身動き取れない提督の襟首を掴んで、渾身の力で後ろに引っ張り、提督から貰ったカメラと共にトラックの進路の外へと転がした
時雨に警告と共に投げ飛ばされた彼は分からなかった。ただ、トラックが2人がいたであろう所に突進していたからだ。いや、時雨だけ残っている!このままだと轢かれてしまう!
「おい!逃げ――」
声を掛ける間もなく、トラックは時雨と激突。時雨はトラックに跳ね飛ばされ、家のコンクリートの外壁に体を打ち付けられた
彼は急いで立ち上がった。そんな……!時雨を助けるため前半分がペシャンコになったトラックに駆け寄ったが、数歩歩いた所でトラックが盛大に爆発を起こした
爆発物でも搭載していたのか?
爆風と炎で彼は、再び離れる羽目になった。近寄ろうとするが、炎の熱さで近寄れない。周りの家は何事かと騒いでいた。普通なら救急車や警察などを呼ぶべきだが、彼にそんな頭は無かった
余りにも突拍子もない出来事に現実を呑みこめず呆然としていた
「時雨……」
まさか、彼女は死んだのか?
「時雨、嘘だろ!おい、返事してくれ!!」
悲痛な声を叫ぶが、当然、返事は帰って来ない。提督はトラックから燃え盛る炎を凝視したままだ。虚脱感が襲ったのか、膝をついた
もう助からない……。恐らく、死体も原型を留めていないだろう。やっと、お互いを解かり合えたのに……こんなのあんまりだ!
ただ、彼は1つ誤解していた。相手が普通の人間だったらそうだろう。彼は忘れていた。彼女は軍艦である事に
燃え盛る炎のトラックから物凄い金属音が聞こえた。初めは炎によって崩れる音かと思った。しかし、金属の破片が焼け落ちる音ではなく、投げ飛ばす音がするのはなぜだろう?次に炎から人と思われる輪郭が浮かび上がっていた。そして、炎の灯りで姿がはっきりと見えた時、彼は驚愕した
服が破れおり、そこから肌が出ているが、なぜか怪我はしていなかった。いつから装着していたのだろうか?破壊されいたが、間違いなく艤装である。怪我もなく、五体満足で近づく時雨を見て、始めはゾンビか何かだと思った。しかし、彼女から発せられた言葉は単純明快だった
「提督、大丈夫?」
「いや、それはこっちのセリフだ!」
彼から見たら、驚愕な場面だ。トラックに引かれて、大爆発をモロに食らったにも拘わらず、なぜ服しか破れていないんだろう?尚、彼女の服から見えそうな部分があるのだが、今の彼にはそんな余裕はない
「リュックに艤装を入れていたのを展開させただけ」
実は提督の父親は、万が一のために艤装を持っていくよう言ったのだ。と言っても、人通りに武器を晒す訳には行かない。艤装をコンパクトにした結果、リュックに入れれるくらいの大きさになった。紐を引けば自動的に展開出来るため、即応できる。それに加えて、彼女は戦場にいた身だ。素早い行動のお蔭で被害を抑える事に成功した。尤も、今の彼女は中破だが。しかし、トラック程度の体当たり程度では艦娘を倒す事は不可能だ。駆逐艦がトラックに負けるわけにはいかない!
「提督、悲しんだ?」
「当たり前だ……」
時雨が無事なのを素直に喜んでいいのか分からない彼だったが、とりあえず、警察や野次馬が来るまで何とかしないと……
この後、2人は事情聴取に相当苦労していたのは、言うまでもない
事情聴取をした2人を帰した刑事は、首をひねった。この交通事故は、謎だらけだ。被害者2人の内、1人の少女が服しか破れていないのには不審だったが(艤装は時雨が上手い具合に隠した)、それよりも事故を起こしたトラックに疑問があった
何が不自然だったか……それは、運転手がいないのだ。消火活動を終え、早速調査したが、死体はゼロ。死人がいないのは有り難いかも知れないが、こんな事はあり得るのか?衝突直前に運転手が飛び降りたにしては、おかし過ぎる。被害者2人は否定している。しかも、このトラックは何と盗難車という事だ。ガソリン満載したドラム缶を沢山詰め込んで
盗まれたトラックがガソリンを沢山積んで、無人で走り事故を起こした、なんて報告書に書けるか!
捜査員が必死になって3日かけて調べたが、結局は愉快犯による仕業として幕を閉じた。本来はこんなずさんな捜査の結果を出すべきではない。しかし、今回は原因が全く分からない。確かなのは、犯人が何を考えて事故を起こしたのかが分からなかった。通常、犯罪というのは何かしら目的があってやるものだ。今回はそれが全く無い。男女殺害を目的にしては、余りにもおかし過ぎる。警察が首を捻るのも無理は無かった
しかし、提督も時雨も気付いていなかった。事故現場から数キロ先にある人影が監視している事に。その者は、事故が起こる初めから最後までずっと観察していた。暗殺するつもりが、予想以上の結果を見つけられたのだ。やはり、あの彼女は……
直ぐに現場から立ち去り、誰もいない路地に入ると無線を繋ぎ、相手に報告した
「こちらホテルワン。兵器は完成していた。繰り返す。兵器は完成していた」
『ご苦労。退却しろ』
その者はその命令に不服だったが、イラついた声を出さずに淡々と返信した
「了解、『主』」
簡単な返事をすると、その者は闇に消えた。トラックによる事故は、ただの事故でないことを気付く者は誰もいなかった
おまけ
提督「いや、本当にありがとう。トラックに轢かれなくて良かった」
時雨「轢かれたら死んでいたね。危なかった」
提督「ああ、危うく別世界に連れて行かれる所だった。主にファンタジー世界にな。犯人は分かってる。自称神様に違いない」
時雨「……それ、ネタにしていいの?」
提督「神様から変な力貰って犯罪紛いの事なんてしたくないわ!それに元の世界に戻れない謎の法則だってあるんだからな!」
時雨「とりあえず止めよう。色々と不味いから(多分……)」
???「チッ!折角、魂を誘拐し別の世界に転生させて放り込めたものを!大抵、チート能力を与えたら、こちらの殺害を感謝されるはずが!あの艦娘、よくやる!」
ある雑誌や漫画で二眼レフカメラを携えた時雨を見て書いてみました。あの二眼レフカメラ、何処から手に入れたのか謎ですね。あれは年代物ですから。提督が与えたのでしょうか?
そして、最後で謎のトラック事故。ネット小説でトラックで事故と言ったらトラック(神様)転生
別方向から見ると『トラック転生未遂事件』です。時雨も提督も危なかったですね