時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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今回は、時雨達が助けた陸軍軍人さんの話です
いくつか分けてアップさせます


第39話 浦田重工業潜入任務 その1

陸軍軍人らしき人を救助してから数日後……

 

 

 

 先日の事件のせいで『東京湾駆除作戦』は延期となった。後始末で時間を食ったからだ。時雨が助けた男性は、完全に身元不明だった。身分を証明するようなものは無かったからだ。後始末は警察がやってくれたが、なぜこの男性が深海棲艦の縄張りである海域にいるのか分からなかった。警察には、沖合いで漂流している所を助けたと説明したが、警察は納得しなかった。当然だ。海に出る事は死にに行くようなものだ。しかし、俺からはそれしか言えなかった。大体は事実だからだ。嘘はほとんどない。せいぜい、時雨が艦娘と戦闘が起こったと言うことだけ。漂流した男性は俺が助けたことにした。時雨は身分証明書なぞ持っていない。あれこれ聞かれると厄介だ。警察も頭を抱えたが、男性の身元が分からない以上、それ以上の事は追及されなかった

 

 親父にも怒られたが、責任は全て俺にあり、時雨は従っただけだと説明した。時雨は人を助けただけだ。しかし、父親はそうとは思わなかった。もし時雨が万が一、撃沈されていたらどうするのか?いや、多数の深海棲艦相手に危険な事だとは思わなかったのか、と。父親の怒りは理解出来る。時雨を援護出来るのは、他にはいない。艦娘は時雨だけで時雨がピンチに陥った場合、救助も出来ない。あの襲撃で生き残ったのが奇跡に近かった

 

「いつも逃げていたお前が、なぜ艦娘を庇う?」

 

親父は凄い剣幕で睨んだが、俺は怯みもしなかった

 

「俺でも何が良いか悪いか区別出来る。確かに時雨を危険にさらした。まだ、ドッグも補給も不十分だ。でも、人助けは当たり前だ。今は秘密だとか言ってられない」

 

俺の説得に親父は何も言わなかった。驚いたのか、それとも反論出来なかったのか。罰は別荘の掃除だけで済んだ。時雨も手伝おうとしたが、俺は親父の手伝いをしろ、と命じた

 

「提督、僕のためにごめん」

 

「いいんだ。お前は悪くない」

 

 休憩中に時雨は謝ったが、俺は別に気にしてはいない。正しいことをしたのは確かだ。それを何かしら批判されても、反論はせずに素直に受け止める。それが第一だ

 

 しかし、漂流していたのが陸軍軍人だった事には親父も驚いた。あの男性は命よりも大事なものと言っていたが、なんだったのか?警察には、あの荷物については提出しなかった。絶命する直前に、浦田重工業の事や艦娘計画を口走った事が気になったからだ。しかも、どうも父親の事まで知ってる節がある。本当に陸軍軍人なのだろうか?親父は、リュックに入っていた荷物を調べてみると言って部屋に持ち帰った。中身はまだ何も見ていない。見る暇もなかった。気にはなっていたが、急ぐ事でもないだろう

 

 

 

その考えは甘かった。もう少し迅速に動いていれば良かったものを……

 

 

 

 あの事件から一週間後、時雨と提督は別の浜辺に向かった。と言っても、今度は状況把握だ。出撃もしない。ただ、無線通信のために時雨は艤装を装着している。先の浜辺は、人目に触れた可能性と警察の現場検証があるため、別の砂浜に行く必要がある。交通手段は勿論、バイクだ。時雨は、バイクの乗り心地に慣れたが、やはり苦手だ。そのため、スピードを落とすよう叫んだ

 

「提督、スピード落としてよ!」

 

「これでも普通のスピードだ。いい加減慣れたらどうだ!」

 

提督は相変わらずだ。本当は制限速度範囲内だが、時雨はバイクという乗り物には慣れない

 

「提督、あの時は……」

 

「気にするな。お前は悪くない」

 

 あの事件の後も時雨は、謝っているが、提督は気にしていない。ただ、決断するのは如何に重大かと言う事を理解出来たと言っていた

 

「あの時は、一瞬迷ったんだ。お前を危険に晒すか、他の命を救うか。口先なら誰でも言える。問題は実行できるかどうかだ。俺は時雨を信じている。お前は強い。ただ、この先うまく指揮出来るか分からないんだ」

 

提督は考えるかのように言った。確かに自分の命を張ってまで国や国民の命を守る価値があるかどうか分からない。軍隊とはそういう組織だ。仕事だからと言えばそれまでかも知れない

 

「未来の俺は上手く指揮していたようだが、今の俺は上手く行けるか心配になって来た」

 

「提督……」

 

 提督は不安が増すばかりだ。未来の提督が出来たからと言って、目の前にいる過去の提督が同じくらい出来るとは限らない。未来の提督から警告された。何が起こるか分からないと。時雨は励ますために声を掛けようとしたその時、提督の父親である博士から無線が入って来た

 

『時雨!聞こえるか!ワシだ!息子と共に直ぐに帰れ!』

 

「どうかしたの?」

 

『話は後だ!いいか!直ぐに帰って来い!話がある!』

 

無線は一方的に切られた。話す内容もまるで慌てているようだった。先程の無線を提督に伝えると怪訝そうな顔をした

 

「親父……全く、何を考えているんだか」

 

 バイクを反転させると、帰路につく。時雨は不安だった。また、親子関係が悪化してしまうと、それこそ終わりだ。修復は可能なのだろうか?時雨の不安を感じたのか、提督はなだめるように言った

 

「大丈夫だ。昔だったら、無視しているよ。自分の末路を知っている。逃げる事なんて出来ないさ」

 

「提督は逃げてばかりいたの?」

 

「言い方が悪かったな。昔の俺は、変な事には首を突っ込まない事にしたんだ。何も干渉せずにひっそりと生きる。それだけだった」

 

『狂人』のレッテルを張られた提督は、どうする事も出来ない。汚名返上なんて並大抵の事ではない。ならば、変な拘りをせずにひっそりと生きていくつもりだったらしい

 

「それって楽しいの?」

 

「孤独は慣れた。友人から裏切られた事も経験していたからな。だけど、人生というのは何とかなるという事さ。周りが何とかしてくれるなんて世の中を舐めている人だ。現実は非情かも知れないが、生きたいならずっと足掻いていく事だ」

 

 時雨は黙った。提督……いや、彼は軍人になれなくても生きていけるらしい。考えが違うのかそれとも、楽観主義なのか

 

「とは言え、『艦娘計画』は我が家の伝統らしい。逃げる訳にもいかんな」

 

「提督なら上手く行くよ」

 

 そうだ。僕が彼を提督にしないと……。彼の父親は言っていた。最新鋭兵器さえなければ、立派な軍人になっているはずだと

 

 そうこうしている内に別荘に着いた。バイクを降り、提督がドアをノックしたが返事はない。提督がドアの取っ手に手をかけたその時、ドアが勢いよく開いた。提督はその勢いで尻餅を付いた。時雨は驚いた。父親である博士が、何と猟銃である散弾銃を構えていたからだ

 

「おい、よせ!」

 

「博士、どうしたの!」

 

 提督は驚愕して銃口から逃げるように地面を引きずり、時雨は反射的に12.7cm連装砲を博士に向けた。気が触れたのか?

 

「お前達か……すまん、敵かと思った」

 

「何があったんだ?」

 

 博士は自分の息子と時雨を確認すると、銃を下ろした。提督は、悪態をついていたが、時雨は父親の様子がおかしい事に気付いた。顔面蒼白で手に持っている散弾銃も震えている。しかも、辺りを見渡し警戒している。何があったのだろうか?

 

「大丈夫か?猪でも出たのか?」

 

「それだったら呼び戻したりはせん!いいから中へ!」

 

 強い口調でいい終える前に提督も時雨も強引に家へ入れた。中に入ると、時雨は驚いた。窓という窓には、全てカーテンをしている。カーテンがない窓は、大きな布か布団で覆っていた

 

「親父、どうしたんだ!」

 

流石の提督も父親の異変に感じ聞いた。何があったか?

 

「覚えておるか!助けた陸軍軍人の事を!」

 

「ああ。あれは仕方がなかった」

 

「お前を責めているのではない!……時雨、未来の息子は、 歴史改変以外に何か言っていかったか!」

 

父親は、時雨の肩を掴むと激しく揺すって来た

 

「ど、どうしたの!」

 

「何でもいい!未来の提督は、何かメッセージか何か言っていたか?特に浦田重工業について!」

 

 親父はまるで取り憑かれたかのように迫ってきた。余りの気迫に時雨は、手を振り払い、後退りした。いつもの提督の父親ではない

 

「親父、落ち着け。何があったんだ?時雨が怖がるだろ!」

 

 提督は落ち着かせようと父親に声をかけた。父親は心が落ち着いたが、今も警戒している

 

「そう言えば……未来の提督はこんなの事を言っていた。浦田重工業については『艦娘計画』が実現可能と知ったら、全力で妨害してくるだろう』って。会社の金儲けを妨害されるから、報復されるだろうって」

 

 時雨は父親に首を傾げつつも思い出したかのように言った。そうだ。僕達が誕生するであろう艦娘計画が実現可能になれば、会社は妨害してくるだろうと言われたのだ。それを聞いた博士は、真っ青になった

 

「おい、何があったんだ?説明しないと分からんだろ?」

 

「男性が持っていた荷物の中に小型のビデオカメラを見つけた。記録用だろう。それを見たが……状況は最悪だ。見るんだ!早く!これが真実だ!」

 

 博士は、不審そうに見ている息子と時雨をテレビの前に連れて行き、ビデオを再生した。映し出された映像を見て、時雨は驚いた。モーターボートに乗っていた男性2人だった。しかしモニターに映っている2人は軍服を着ており、何かを準備していた。小さな部屋の周りには銃や小型無線機などが散乱し、1人がビデオカメラに向かって説明してた

 

『私は西村軍曹だ。今回の任務は私と部下である河上伍長と一緒にある施設に潜入する。任務の内容は浦田重工業を探る事。既に1人は潜り込んでいる。我々の任務は、浦田重工業の企みを暴く事だ』

 

 

 

 我々は陸軍のある特殊部隊だ。部隊名、機動第2連隊。通称『502部隊』。本来は、対ソ連用に作られた特殊部隊だが、深海棲艦が現れた事によって我々の活動も大いに変わった。破壊や通信、情報収集、暗殺、爆破などの極秘作戦だ。うちのボス、中佐は何を考えているか検討もつかない。だが、我々がやっている事は日本のためだ。詳しくは知らないが、上層部の人間によって組織したらしい。最新の武器も道具も優先的に送られた。隊員も厳しい査定の結果で成り立っている。誤解しないでおきたいが、決して危険な思想のために結成したのではない。特高も警察も手が出せない企業の潜入。そうだ、あの企業はうちのボスである中佐が目を付けていた。部隊長も軍曹も気を付けろと言われた。あの企業、何かやろうとしているのか?

 

「西村軍曹、浦田重工業の従業員の制服を入手しました。IDカードも装備も万全です」

 

伍長の報告に西村軍曹は、頷いた。既に準備は整っている

 

「河上伍長、おさらいだ。任務の内容は?」

 

「はっ!今回は潜入任務です。浦田重工業の本社ビルに潜入し、計画を暴くことです」

 

私は頷いた。これが陸軍の中佐からの命令。疑問は数多くあるが、軍隊は命令に忠実だ

 

「浦田重工業の潜入において、厄介なのは警備員だ。あれは最早、軍隊だ」

 

「はい。ドイツ軍のようなヘルメットに見たことがない銃。拳銃の弾を防ぐ防弾装備などです」

 

「演習どころかクーデターの陸軍部隊でさえ負けた強者だ。暗殺も憲兵隊による不当逮捕もはね除けるほどの軍事力を持っている。今の陸軍は、浦田重工業の息にかかっている。非公式の任務だ。失敗は許されない」

 

 そうだ。初めは、浦田重工業の画期的なやり方に不満を持っていたものは多かった。しかし彼等は高度な技術を持ち、強大な軍事組織まで持っている。浦田重工業に歯向かう者は取り込まれるか、潰されるかのどちらかだ。陸軍の内、過激な一個師団が浦田重工業に対し売国奴と称して武力制圧に乗り込んだが、ことごとく敗れた。見た事もない自動小銃、遠くからでも正確に届く強力なロケット砲や迫撃砲、見たこともない軍用車両。夜襲も効果なし。現場の人間の証言によると同じく日本人なのに、まるでエイリアン相手に戦っているかのような錯覚に陥ったとの事だ。軍の暴走を跳ね除けた浦田重工業は、軍や政治家の賄賂や横領などの不正証拠をマスコミを通じて国民に暴いた。国民は政府や大本営に失望し、天皇ですら呆れられた。これによって政府は威厳を無くしたかに思えたが、面子を持たせたのは意外にも浦田社長だった

 

「確かに軍や政治家は間違いを犯した。しかし、私は問いたい。間違いは誰にだってある。私の最先端の技術ややり方に不満を持つものもいるだろう。だが、考えてくれ。彼等を止めた人はいるか?言う事を聞かない子供ば罰するだろう。社会でも犯罪を犯せば警察が捕まえ、法の裁きが行われる。私はそれをやっただけに過ぎない。これからは、より良い社会を築かなければならない。国民の皆さん、私は非国民でも売国奴でも愛国心でもない。当然の事をしただけ。そこで、私は日本のために働く人達を送ります。彼等は、今度の選挙に立候補します。あなた方が選挙に行くだけです。どちらが正しいのか?答えは出て来るはずです」

 

 この演説に誰もが拍手喝采だった。浦田社長は政界進出しなかったものの、彼を支援している政党の支持率は、格段に跳ね上がり実質政治を握っているようなものだ。お蔭で腐敗の原因となりうる汚職を行っていた政治家達は一掃された

 

 確かに浦田重工業のやり方は素晴らしいものだが、どうも好きになれない。とは言え、陸軍や海軍などの士官達の大半は、浦田重工業にべったりだった

 

 西村軍曹は浦田重工業について思い出していたが、河上伍長の声を掛けられて現実に引き戻された

 

「西村軍曹は浦田重工業をどうお思いで?」

 

「ん?やり方は問題ない。ただ完璧過ぎる。何か裏があるに違いない」

 

浦田重工業は完璧だった。いや、完璧過ぎた。政界進出しない割には、政治力が強い。風の噂では、国会議事堂に送り出した政治家達は、浦田重工業の指示で動いていると聞く。これが本当なら浦田社長は政治も長けていると言う事になる

 

「清掃道具に小型カメラを取り付ける。これで記録出来るだろう。中佐は確実な証拠が欲しいとの事だ。既に我々の仲間である日高軍曹が潜入している。監視カメラなどの警備システムは、何とか出来るらしい」

 

「好都合です。しかし、小型カメラも浦田製になるとは皮肉ですね」

 

 そうだ。民生品の大半は、浦田重工業が作り出した技術だった。小型カメラなんてどうやって作ったのか、私の理解を超えていた

 

 

 

「清掃業者の方ですね。浦田重工業へようこそ。今日の清掃場所の場所を教えます」

 

 浦田重工業の本社ビルに着き、いつものように正面玄関に入り、受付で警備員の説明に頷く私達。私達は清掃業者として浦田重工業に働いている。身元も名前も偽装だ。勿論、軍が用意したもので住民票も登録している。直ぐにはばれないだろう。金属探知機を潜り抜けると早速、仕事にかかる2人。いつも面倒くさい身体検査だったが、今回は違う。内心では、ビクビクしていた

 

(上手く行きましたね)

 

 河上伍長は目で合図したが、私は頷いた。正面玄関に立っている警備員が目を光らせている中で生きた心地がしなかった。何故なら警備員が持っている武器は、見た事がない銃だった。連射でき、かつ威力は高く命中率はいい。情報によると、突撃銃(アサルトライフル)という事らしい。つまり自動小銃という事だが、どうやってこんな銃が開発出来るのかが謎だった。軍でもようやく短機関銃である一〇〇式機関短銃を改良した短機関銃を開発出来たほどだ。浦田重工業の最新鋭の兵器ですら魔法のように出て来る。装備もまるで違う。ドイツ兵よりも立派な武装をしている。軍の支給品とは雲泥の差だ

 

「早く行きましょう」

 

 河上伍長もここは嫌な場所らしい。兎に角、仕事をするフリをしながら、任務を達成させなくては。とある倉庫に入ると掃除用具を取り出したが、その途中で分解していたものを組み立てる。小型カメラと記録するビデオ。そして護衛用の拳銃であるブローニングM1910にサプレッサーを組み立てると服に隠し持った。残念ながら、護身用の拳銃は自費だ。あの金属探知機を誤魔化すために清掃用具と一緒に紛れ込ませた

 

 金属探知機でも清掃用具まではかけない。だが、中身をチェックされるため第三者が見ても分からないように分解させた

 

「ここまでは順調だ。まずは社長室だ」

 

「しかし、監視カメラは大丈夫ですかね?」

 

「連絡は出来ないから、祈るしかないな」

 

 もしバレたら永遠に謎が解けない。しかし、時間も惜しいため実行した。あそこに行けば何か分かるかも知れない。トイレから出ると、清掃をするフリをしながら行く。何処にあるかは、分かる。見取り図も頭に入れている

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れ」

 

 廊下を歩く際に挨拶する2人。人はそれぞれだった。研究員や作業員などの会社員と幾度とすれ違った。時には、警備員の集団とすれ違った。ここはかなり広い。歩くだけでも大変だった

 

「1ついいですか。ここって凄くいい所ですね。富豪の人は、こんなに立派なのですか?」

 

「ここの建物は、我々の常識を超えている。富豪と言うより、まるで近未来の建物だ」

 

 河上伍長が疑問に思うのも無理はない。確かに浦田重工業は大企業だ。大富豪なら見栄えの為に、何かしら高価な代物を飾っている。しかし、浦田重工業は見栄えよりも効率を重視しているのか作業場が立派だ。専門分野ではないが、工業機械も見たことがない。情報によると、コンピュータと呼ばれるものらしいが、どうやってこんな代物を作れるのかが謎だ。ドイツどころかアメリカですらこんなものは作れないだろう。この建物だってそうだ。高層ビルなんてどうやったら建造出来るのだろう?浦田重工業は魔法でも使えるのか?

 

「おい、そこのお前」

 

 急に後ろから声を掛けられた。私はどうしたのか?と言う風に振り返った。黒いヘルメットに自動小銃を抱えた人が、2人を従えてこちらに向かっている

 

「清掃時間になっているのに、サボっているのか?さっさとやれ。でないと首だぞ」

 

「すみません。実は社長室の清掃するよう言われたのですが、場所はどちらですか?」

 

「清掃場所が変わったか?エレベーターで24階まで行け」

 

 警備員は素っ気なく言うと、再び歩き始めた。廊下に消えるのを待って、私と伍長はエレベーターに乗ると24階のボタンを押した。幸い他の者が乗って居なかったものの、途中で止まるか分からない。また、バレる可能性もある。社長室が清掃場所の対象になっていない。あれは嘘だ。パトロールしている警備員は知らないらしいが、気付かれたら厄介だ

 

 

 

「バレる前に片付けるぞ」

 

 私は伍長に囁くように命じた。ここの警備員は、まるで陸軍並みに強い。常にパトロールしてるため難攻不落だ。しかし、情報は違う。どんなに秘密にしてもいすれはバレる。部下達が非正規社員として働いたお蔭で情報をある程度入手した。見取り図、工場の場所と生産内容、警備情報などは大まかに把握した。大まかとは、重要な部署や機密情報は流石に入手出来なかった。しかし、浦田重工業は何か企んでいる。そうでなければ、我々が潜入することはない

 

 エレベーターを降りたが、今度の廊下は誰も居なかった。いや、廊下の途中で扉があり、扉の前には警備員が二人いた。ある一角だけが厳重に警護されて、普通の人は入れない。どんな構造になっているかも知らない

 

 私は何もなかったかのように扉に向かって歩き出した。当然、警備員によって止められる

 

「待て、清掃業者が何のようだ?」

 

「社長室の清掃に参りました。確か社長は会議に出られる間に清掃するよう依頼されました」

 

 実は浦田社長が会議で一定時間は居ないことは確認している。ここまで厳重だと何かあるのか?警備員は不審そうに睨んだ

 

「確かに社長は会議室だ。しかし、清掃を依頼した事なんて聞かされていない」

 

「連絡されてない?おかしいなぁ。確か書類は――」

 

 私は何事もないような表情を作り、自然な動作で懐に手を入れた瞬間、直ぐに拳銃を抜き、ヘルメットを避けて警備員の頭を撃ち抜いた

 

「なっ!」

 

 もう一人が慌てて武器を構えたが、それよりも早く拳銃を向けて撃ち殺した。警備員二人は絶命し、糸が切れた操り人形のように倒れこんだ。勿論、サプレッサー付きだ。銃声はそこまで響いていない

 

「うっ……ううっ……」

 

「ここで吐くな!」

 

 伍長は口を押さえ目をそらせる。気を緩めれば吐いてしまいそうになるのを懸命に耐えている。人が撃ち殺されたのを間近見るのは初めてらしい

 

「しっかりしろ!数分で探すんだ!」

 

「は、はい……」

 

 警備員から扉の鍵を奪うと中に入った。警備員の死体は倉庫の片隅に置いておいた。もう後日の潜入任務は無理だろう。警備が厳重になっているはずだ。武器を手に取りたかったが、残念ながら荷物になるため置いておいた。バレる前に任務を必ずやりとげなくては!

 

 社長室は綺麗に片付けられており、誰もいない。会議に出ているのは情報通りだ。机の中や本棚を片っ端から調べたが、ほとんどどうでもいいものばかりだ

 

「軍曹、金庫があります」

 

 引き出しから書類に目を通した私は、伍長の報告に目を向けた。見ると、描けてある絵の裏にダイヤル式の金庫が埋め込まれていた。金目には興味ないが、念には念をだ

 

「開けられるか?」

 

「舐めないでください。これでも親は鍵屋ですから」

 

 河上伍長の両親は鍵屋である。勿論、ダイヤル式の金庫の番号忘れて開けてくれる依頼もあり、彼自身も入隊前にアルバイトとして仕事をしていたらしい。掃除道具から金庫開けに使う道具を取り出すと、金庫破りに入った

 

「時間は?」

 

「この金庫は市販です。すぐに開きます」

 

「急げ。余り時間はない」

 

 金庫は伍長に任せ、私は残りの書類に目を通したがどれも関係ないものばかりだ。設計図と帳簿ばかりだ。裏金や癒着の書類もあったが、どれもとうでもいいものばかりだ。我々は警察ではない

 

「軍曹、ちょっと来て下さい」

 

 部下の報告に私は目をやると驚いた。もう金庫は空いていた。伍長の腕に舌を巻いたが、今はいい。

 

金庫の中身は金も金塊もなかった。あったのは……何だ、これ?

 

「小型テレビですか?」

 

「その割にはタイプライターみたいなキーがある。説明書か、これは?表紙に何か書いてある。ラ……ラップトップ?……こんな英語の単語は知らんぞ。でも、調べてみる価値はある。これをもって帰ろう」

 

 よく分からない機械だが、何かヒントになるものがあるだろう。説明書と共に未知の機械を荷物に入れると、直ぐに金庫を閉めた

 

(まだバレていない。警備システムは、無力化したみたいだな)

 

 今のところ、潜入は上手く行っている。あの機械が手掛かりになるかどうか微妙だが、それは解析班の仕事だろう

 

「どうします?」

 

「まだ何かある。もう少し探るんだ」

 

 私は決断した。より多くの証拠を手に入れる必要がある。しかし、私はここで引き返ししておくべきだった

 

 

 

聞いてはいけないものを聞いてしまったのだから

 




おまけ
西村軍曹「準備は出来たな。何か忘れ物、もしくは持っていきたいものはないか?」
河上伍長「はい、段ボールとサプレッサー付きの麻酔銃は持って行かないのですか?」
西村軍曹「何に使うんだ?」
河上伍長「勿論、潜入任務です」
西村軍曹「いらん。麻酔銃に撃たれたら後遺症なしで眠るなんて空想だ。他には?」
河上伍長「特殊装備されている車や面白いスパイ道具は?」
西村軍曹「そんな物、ある訳ないだろ?他には?」
河上伍長「英国紳士のスーツは無いんですか?防弾性能がある傘とか」
西村軍曹「……お前がこの任務に志願した理由が分かったよ」


大日本帝国陸軍には、特殊部隊というものがいくつかありました。本作品ではその内の1つである『機動第2連隊』。通称『502部隊』
 史実では対ソ連のために結成された特殊部隊です。主に破壊や通信、情報収集、暗殺、爆破などのあらゆる技術に精通した精鋭部隊です。と言っても、本来の任務である対ソ連は行いませんでした
本作品ではその部隊の2人が命令によって潜入任務に当たります。浦田重工業へ……

残念ながら、スネーク(メタルギアシリーズ)やジェームズボンド(007シリーズ)、キングズマンのような戦い方は出来ません。そこはご了承下さい
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