昨日の哨戒任務で攻撃を受けた日から艦娘に遠征も含めて出撃命令は下されなくなった。敵の目から隠れるため、資源節約のためと知らされたが、不満を持つ艦娘はいなかった。遠征可能な海域は既に失われたため、艦隊を出しても無駄だ。提督は戦力温存する方向に移ったのだ。そんな中、提督は警備に当たっている陸軍の残存部隊を地下に入れた。外は道徳と秩序が崩壊したため、暴力が支配されていた。敵は深海棲艦やスパイだけでなかった。治安維持と元横須賀鎮守府の警備には陸軍の歩兵部隊が手を貸している。理由は提督と知り合いだそうだ。提督と時雨は陸軍将校を迎えに行った
「外の様子は?」
「最悪だ。あちこちで未だに略奪や殺人が起きている。助けを求めていると思ったら、武器を隠し持っていたというのが多すぎる」
予想はしていたが、一向に改善する見込みない。艦娘達が深海棲艦と戦っている間に兵士達は元横須賀鎮守府を守るために戦っている。そもそも、大本営が崩壊したため強制する事など出来ない。そこで陸軍の将校は志願を募った所、七割近くが新型兵器開発のために艦娘と提督の護衛を引き受けてくれた
「こんなに早く世界が崩壊するとは」
「全くだ」
不満を漏らす提督と将校だったが、今の彼等には何も出来ない。深海棲艦がこの世界に現れてから数年でこのザマである。不意に将校は時雨に質問をした
「時雨と言ったな。海には魚はいるか?」
「分かりません」
海には深海棲艦以外の魚は見当たらなかった。ゴーヤである伊号潜水艦なら分かるかも知れないが、残念ながら今はいない
「そうか。私の趣味は釣りだった。君に分かるかな?ボートを漕いでキジハタが釣れる醍醐味は?」
「え~と。僕は釣りをした事はないからあまり分からない……かな?」
「機会があれば是非、釣りをやって見たまえ」
釣りを薦める陸軍将校に時雨は唖然としたが、提督はそうか、それなら釣り竿を作らないとな、と冗談交じりに返事すると話を切り返した
「大淀から連絡があった。もうすぐ完成する。明日には全員ここを出る。その前に話しておきたい事がある」
「そうだな。軍曹にはまだ詳細は……」
時雨を見た将校は口を紡ぐ。提督が進めている『新型兵器』は、信頼出来る者しか知らされていないため時雨の前では話さなかった
「移動に最低でも3日かかる。隊長である軍曹には秘密を打ち明けていいと思う」
「まだ艦娘には伝えていないのか?」
陸軍将校は呆れながら聞いた。時雨が首を横に振るのを見て将校は小さなため息をついた
「いずれは伝える。『あれ』を見せた後、詳細な説明をする。俺の部屋で会おう。1時間後だ。俺は墓地へ行ってくる。時雨は艦寮の見回りをしてくれ」
提督は将校に伝えると、時雨に艦寮に向かうよう促した。尤も、墓地へ行き艦娘のケアをしているのは気を紛らわせるための手段でしかないのだが、そうでもしないと平常心を保つ事が出来ない。しかし、何かしなければ艦娘達も危ない。既に心が折れた者が数人いる。司令官である俺がここで弱音を吐く訳にはいかない
時雨は提督室に向かった。提督に言われた通りに艦寮を見渡したが、満潮を始め数人の体調が優れていないのだ。明石に診せないといけないが、生憎明石はここにいない。『新型兵器』の開発に携わっているからだ。そのため、いつ明石達と合流出来るかを聞くためだ。だが、提督室の扉の前には『会議中』という札が貼られており、中から提督とこの鎮守府の警備に当たっている陸軍の将校と時雨が知らない誰かの声が聞こえて来た。ただ、中から聞こえて来るのは激しい言い合いだった
(提督も大変なんだ……)
艦娘も部隊も士気は、深海棲艦と民間人による暴徒による悪影響を及ぼしていた。時雨が知っている艦娘達も性格がガラリと変わった者が少なからずいる。撃沈された艦娘を目の当たりにし、艦娘達の間で徐々に絶望感が広がっていた。それでも艦娘達が逃げなかったのは、提督のお蔭と『新型兵器』のためである。提督と元陸軍将校の関係は時雨もよく分からないが、議論している事に邪魔する訳には行かない。だから時雨は静かに立ち去ろうとしたが、言い争いの中で『新型兵器』の単語が出て来た。時雨は脚を止め、扉の前へ静かに行き耳を当てた
「……そうか。『新型兵器』は完成したか。私達が艦娘とお前を護衛したらそれで良い訳だ」
「おい!『新型兵器』だって!中佐、全員を騙していたのか!」
「騙してなんかいない、軍曹。私は忠告したぞ?この兵器は一発勝負のものだと。期待していいが、決して夢を見るなと。だから、私は志願を募った」
「いえ、自分はただ……なんてことだ!!」
提督でも将校でもない誰かの怒りの声が聞こえた。恐らく、部隊の隊長である軍曹だろう。その軍曹と将校との間で口論をしていたのだ
「俺は現状を全て明らかにした。だが、この『新型兵器』は製作段階で悪用される危険がある。帝国軍や政府どころか民間人さえも信用出来ない今では俺達で何とかするしかない。……艦娘と人の命を引き換えるしかなんだよ」
「冗談も休み休み言え!こんなのは作戦とは言えない!」
提督の淡々とした口調に軍曹は怒りの声を上げた
「まだ大型建造の案があるだろう!2隻しか建造されていないらしいじゃないか!そっちに力を入れた方が…」
「聞いていなかったのか、軍曹。俺はまだ見たことはないが、確かに大和型戦艦は強力だ。だが、ミサイルと呼ばれる兵器の前では無力だ。もう深海棲艦と戦える艦娘は皆無に等しい。建造したとしても海に出た瞬間に、撃沈されるだけだ」
「じゃあ、今までの戦いは何だったんだ……。自分の部下は消耗品か!お前の艦娘も!いくら方法がないからと言って……」
軍曹と呼ばれた人物は落胆したのか、提督に激しく非難した
「いいか、軍曹。俺達が直面している敵は、恐ろしいスピードで増殖している。しかも奴らが持つ軍事技術、兵站、戦術においても完全に負けている。浦田重工業の『最新鋭兵器』のデータは失われた。『新型兵器』が唯一の希望だ」
「希望だと!もう博打みたいなものだ!提督、これは戦争犯罪に近いぞ!」
時雨は扉から耳を離さずしっかりと聞いていた
(提督……僕達を騙したの?でも希望って……)
軍曹が拳を机で叩く音がした後、沈黙が訪れた。長く続くと思われた静寂だが、提督が沈黙を破った
「卑劣かも知れない。確かに作戦でもない。不確定要素が多すぎる。艦娘が真相を知ったら、俺は真っ先に非難されるだろう。だが他に道はあるか?既にいくつかの国が深海棲艦の餌食になっている。世界最強の国も3日前に崩壊した。サラトガが知らせてくれた……もう誰も食い止める事も出来ない」
「……!」
誰も答えない。無理もない。もう打つ手がないのは将校も軍曹も分かっていたらしい
「こんな計画、認められるか!」
急に足音が聞こえたため、時雨は物陰に急いで隠れた。直後ドアが勢いよく開き、軍曹は怒りを任せて廊下を歩いていた。時雨は軍曹の背中が見えなくなるまで見送ったが、扉が開いているためか提督と将校の話し声が聞こえた
「俺達と深海棲艦の違いって何だろう?神通や時雨などからよく聞かれるんだ。『新型兵器』の進捗状況を。彼女達から感じるんだ。復讐を。いや、復讐ならまだいい。姉妹艦を失い墓石の前に一日中座り込む人もいる。鎮守府の外では、道徳や社会が崩壊して人同士の醜い争いが続いている。深海棲艦は仲間が失っても奴らは学習して強くなっているが……人間と艦娘はどうだろうなって」
「人はそんなもんだ。色んな意見があり、皆それぞれの考えや思考がある。聖人もいれば、悪党もいる。世の中は残酷だ。軍曹には私が言っておく。艦娘はお前から言うんだぞ」
将校も提督を置いて部屋を出て行くと、軍曹の後を追った。時雨は提督が出て来るを待っていたが、提督は部屋の扉を閉めようとせず椅子に座ったまま、時々ため息をついていた。時雨は満潮の件を胸の中でしまい、気付かれないように立ち去った
この時、時雨は初めて提督に不信感を抱いた。どんなことがあっても提督だけ艦娘を味方してくれると思っていたが……。提督は何を行っているのだろうか?明石や夕張に極秘に造っているものとは何なのだろうか?
軍曹が怒っているのを見ると、『新型兵器』は兵器ではないかも知れない
しかし、周りの艦娘に伝えても暴動が起こるだけだ。『新型兵器』が本当に奇跡をもたらすものだったら、深海棲艦に反撃するチャンスは永遠に失われてしまう。そのため、時雨は今の出来事は心の中に閉まっておいた
艦これの秋イベ準備しないと…
因みにアズールレーンもやりましたが、うん、これもこれで。ただ、なぜあの娘はああなった?というのはありました