時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第41話 浦田重工業潜入任務 その3

「すると、死んだふりをしてたのか?」

 

「ああ。気絶しただけだ」

 

 近くの倉庫に隠れた私達は、日高軍曹がなぜ生きていたか聞きだした。日高曰く、私と伍長が侵入している際に、監視カメラの制御室を確保し警報装置を解除していた。上手く監視カメラの係員として就いていたが、ばれたとの事。どうやら、警備主任が時間と金をかけて正体を見抜いたらしい。浦田重工業は手を招いていなかったようだ。胸に3発銃弾を受けたが、撃って来た弾が拳銃だった事。万が一のために心臓付近にこっそりと在庫から奪ったソフトアーマーという防弾チョッキを着こんだため銃弾が人体に入り込まなかったこと、そして血糊を使って死んだと思わせ、主任が消えたと同時に素早く片付けた事……

 

 

 

「お蔭で肋骨が骨折したんだろう。息する度に激痛が走る。あのソフトアーマーというやつ、衝撃まで吸収してくれなかった」

 

「証拠をつかんだが、やつらは普通じゃない。早く中佐の元に」

 

 事情がわかった私は切羽詰まったかのように、会議室での出来事を簡潔にに伝えた。日高は困惑したようだ。無理もない。一企業が、世界を破滅させるなんて誰も思わない。まるで、お子様のヒーロー番組でやってる悪役が、実際に現れたかのようだった。しかし、その議論は後だ。今は脱出に専念するのが先決だ。いつまで潜むわけにはいかない。遠くから警備員の怒号と足音が、段々と近づいていくのがわかる

 

「陸はダメだ。もう道路は封鎖されている。しかも、装甲車まで出撃している」

 

私は落胆した。とてもじゃないが、3人で突破できると思えない。

 

「しかし、海なら何とかできる。港と隣接している。警備用だろう。数隻のモーターボートがあるから、それに乗って逃げればいい」

 

「ちょっと待ってください!深海棲艦がウヨウヨしていますよ!」

 

 日高の提案に河上伍長は、呆れるように意見具申した。正気の沙汰とは思えなかった。だが、日高は伍長の服を掴むと睨んだ

 

「いいか!そのために給料貰っているんだろうが!それしかない!ここで死ぬか、バカな事をやって逃げるか!いい案があるなら聞こう。但し、降伏以外だ!」

 

鬼の形相のように睨まれた河上伍長は、狼狽した。もう策はない

 

「港に行こう。隠れている場所もバレる。案内出きるか?」

 

「庭みたいなものだ。後、その格好でうろつくのは不味い。整備服しかなかったが、これで我慢しろ」

 

 

 

 残念ながら、警備員のユニフォームは入手出来なかったらしい。整備服である以上、武器を堂々と持つ事は出来ない

 

「ところで、お前が持ってる銃は何だ?自動小銃なんてうちには無かったぞ?」

 

「M16A4というものらしい。他にももっと凄い銃や兵器がたくさんあるぞ。これでは、陸軍は浦田重工業の警備員に負けるわけだ」

 

 日高はニヤリと笑ったが、私は首を傾げた。銃の事は色々と熟知していいたつもりだが、M16A4なんて聞いたこともない。これ程凄い兵器があるなら、他国でも開発してもいいはずである。しかし、その疑問は無事にここから脱出してからの話だ。謎解きは後からやってからで十分だ

 

 

 

 私と伍長は、整備員として再び廊下に歩いた。帽子をかぶっているため直ぐにはばれないだろう。監視カメラである警備システムは、日高が壊したと言う。しかし、それも直ぐに復旧するだろう。船場まで相当距離があるため、気付かれずにつくには簡単ではない。廊下には、警備員が沢山居る。会社員や従業員は警備員の誘導によって避難しており、他の警備員は2人以上の集団で不審者を捜索している。不審者とは当然、私達だ。階段は無理だ。通路が狭い上に、鉢合わせしたら助からない

 

「不味いです。警備員のユニフォームがないと突破出来ません!」

 

「いや、警備員にはそれぞれ写真つきの身分証を携行されているから服をを奪っただけでは無理だ。着ている服も特殊で入手出来なかった」

 

 つまり銃や兵器だけでなく、兵士の服まで特殊という訳か。どうしたら、こんな異質な軍隊を作れるのか?些か謎だった

 

「無い物をねだっても仕方ない。と言っても、ここに隠れてもいずれは見つかる。何とか1階まで行き、隣接する港まで行かなきゃならない。ここは、負傷したふりをしよう。幸い、怪我人がいるから」

 

 皮肉った案で日高も伍長も頷いた。怪我の功名というのか?伍長はうたれた右足に包帯を自分の血で赤く染めると、再び巻いた。酷い怪我を見せるためにはそれしかない

 

 

 

 

 

「おい!助けてくれ!従業員が不審者に撃たれた!」

 

日高の怒鳴り声で武装した警備員は、駆けつけた

 

「俺は敵じゃない!整備員が危ない!早く治療を!」

 

「何処へ逃げた?」

 

警備員達を率いる隊長が、声を荒げる。血眼で探しているのだろう

 

「階段を上って上へ逃げた!それよりも早く整備員の治療しなきゃならんだろう。診療所は何処だ?」

 

「エレベーターに乗って1階まで行け!……聞いたな!進め!」

 

 警備員は吐き捨てるかのように言った後、一同は階段へ向かう。どうやら、侵入者の顔までは全員に行き渡っていないようだ

 

「こっちの顔を確認せずに行きましたね」

 

「ああ。憲兵だったら、確認していたぞ」

 

 皮肉っぽく言うと、私達は直ぐにエレベーターに乗る。下へ行くボタンを押し、扉が閉じると同時に安堵の声をあげる

 

「何とかやり過ごしまたな」

 

「いや、下の警備は厳重だ。着いたと同時に、裏口へ行くぞ」

 

 私は耳を疑った。敵もそれを予想して配置しているのではないかと。日高は、私の顔色を伺ったのだろう。

 

「心配するな。いざとなったら……」

 

 潜入任務に当たる隊員は、自決用に青酸カリを持っている。しかし、中佐は非常時のみ使え!と厳命された

 

「1階だ。再び負傷者のように振る舞え」

 

日高の忠告に河上伍長は再び負傷したふりをし、私は伍長の腕を肩に回した

 

 エレベーターの扉が空くと同時に助けを求めた。あくまで、我々は不審者によって負傷した整備員と警備員だった

 

「助けてくれ!不審者に相棒が撃たれた!」

 

「痛い!誰か」

 

「診療所は何処だ!?まだ従業員がいた」

 

1階で待ち受けていたのは、銃を構えた警備員達だった。私達の悲痛な声で警備員達は、銃口を下ろした

 

「全員、撃つな!……大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ!それよりも診療所は?」

 

「外です。お前、案内させろ!」

 

 我々を不審者とも思わず警備員に案内された。その間に警備員の装備を見たが、どれも舌を巻くものばかりだ。見たこともない自動小銃、演習で陸軍の戦車をスクラップにさせた対戦車ロケット砲、見たこともない装甲兵員輸送車……。どうやってこんな兵器を造ったのだろうか?しかし、そんな謎解きは必要ない。上手い具合にビルの外側に出ることが出来た私達。適当に車を奪ったらどんなに良かっただろう。車に向かう際にある人物がいた。あり得ない。そんな!エレベーター付近で伍長に撃たれた警備主任が、警備員を指揮しているのだ。つまり、あれは倒れただけで死んではいない。くそ、防弾チョッキで生き残ったのか!

 

 だが、幸いにも警備主任は部下に向かって指示を出していたため、こちらに気づいていない

 

「不味い。早く港に」

 

私は警告する間もなく、警備主任がこちらを向いた。私の顔を確認するとニヤリとした

 

「バレた!逃げるぞ!」

 

 私の警告より早く、日高は警備員に向けて銃弾を浴びせた。M16A4から発射された弾丸を食らった警備員の数人は身を捩らせて絶命する。しかし、他の警備員は警備主任の指示の指揮下の元、即応体制を取って反撃した。私は警備員達の動きに舌を巻いた。素早い動きで物陰に隠れると自動小銃を構えて撃って来た。私は肩にタマを浴び倒れてしまった

 

「逃げろ!港に逃げろ!」

 

 スタングレネードを投げながら、港に向かう一行。私は急いで立ち上がると2人の後を追った。肩に激痛が走るが、そんな事で一々立ち止まっている訳に行かない。追跡して来た警備員は日高軍曹によってスタングレネードに阻まれたお蔭で振り切る事が出来た

 

「邪魔だ!」

 

 港に向かう途中、前方から躍り出た2人の警備員が銃を構えるよりも早く拳銃を撃つ私と伍長。数発受け、2人の警備員は倒れ込んだ。しかし、防弾チョッキを着ているせいでそう簡単には絶命してくれない。日高軍曹は殴って気絶させると、警備員が持っていた武器と弾倉を私と伍長に渡した

 

「これを使え!」

 

「どうやって使うんです!?」

 

「走りながら教える!急ぐんだ!」

 

 怒鳴り声と銃声が響き渡る中、私達は港の倉庫に走りながら向かった。前方にくる敵は確実に倒しておいた。射撃の腕はこちらの方が上だ。しかし、数が多い上に自動小銃を持った敵を強行突破するのは難しい

 

「クソ!敵が多すぎる!」

 

倉庫の前に止まっていたトラックに身を潜める私達。後少しという所で、着くと言うのに!

 

「伍長、敵の数は!?」

 

「十人以上います!」

 

 もう手榴弾もない。潜めながら銃撃戦を行うしかない。しかし、こちらが一発撃つたびに雨のように反撃してくる。何とか警備員を排除しなければならない。そう思い、トラックの影から様子を伺っていたが、3人の警備員が新たに加わって来た。増援らしいが、3人とも何か長い筒のようなものを携えている

 

「あの3人を狙え!」

 

 日高軍曹が必死の形相で長い筒のようなものを狙っている所を見ると、相当ヤバイものなのだろう。M16A4という自動小銃で狙ったが、この銃は素晴らし過ぎた。距離が離れているにも拘わらず、面白いように当たる。しかも、強力だ。1人が大きな筒を肩に担いだままうつ伏せに倒れたが、その直後、うつ伏せに倒れた隊員から大爆発が起こった。周りにいた警備員は、その爆発に巻き込まれ、運よく逃れた者は2人しかいない

 

「何なんだ!今の!」

 

「無反動砲という奴だ!あの野郎、トラックと共に吹き飛ばす気か!」

 

 日高軍曹はあの兵器を何なのか知っているらしい。生き残った2人を倒すと、武器の鹵獲に当たった。日高軍曹が言っていた無反動砲も手に入れた

 

「こいつは何なんだ?」

 

「カールグスタフというロケット砲だ。俺も詳しくは知らんが、対戦車用の兵器だ。こんな兵器が沢山ある」

 

「何処が開発したものだ?アメリカか?」

 

 名前からして米国製かと思ったが、日高軍曹はかぶりを振った。アメリカどころか世界中でこんな兵器を開発、採用している国も軍隊もいないのだと

 

「では、何なんですか?これらの兵器は?」

 

「それが分かれば苦労しないわ!それより、追っ手が来る!時間稼ぎはする!早く逃げろ!」

 

 私は河上伍長と顔を見合わせた。まさか、囮になる気か?

 

「ダメだ!中佐が言ってただろ!生きて帰れと!」

 

「俺はダメだ。さっきの銃撃戦で腹にタマを食らった」

 

 私は日高の腹に眼を向いたが、唖然とした。着ている黒い服はみるみる赤く染め上げている。止血は無理だろう

 

「お前たち、早く港へ行ってボートを奪うんだ。モーターボートが数隻ある。出来るだけ深海棲艦がいる海を高速で横切れ!そうすれば、追いつけないはずだ!」

 

「それは自殺行為だ!」

 

「変えなければ、死ぬのは一人じゃ済まなくなる。早く行け!ここは食い止める!ロケット砲は持っていけ!」

 

日高は残骸のトラックの影に隠れて座ると、弾倉を取り出し残弾数を数えている

 

「分かった。また、会おう」

 

 私は伍長と共に港へ向かった。モーターボートは難なく手に入った。従業員がいたが、威嚇射撃すると逃げ出した。私は腰を抜かしている従業員に銃を向けると脅した

 

「おい、お前!使えるモーターボートは!」

 

「あ、あれです。ですから、命だけは!」

 

 早速、モーターボートを乗り込むと全速力で沖合いに向かった。捕虜は逃がした。邪魔になるだけだ。港から追いかけて来た警備員がこちらに銃を向けて発砲したが、私が乗り込んだモーターボートは、既に射程外にいた

 

 

 

「追撃を振り切るため深海棲艦がいる海域を突破します」

 

「……」

 

「軍曹!どうかしましたか!」

 

私は思っていた事を口にした。浦田重工業を脱出した時から違和感があった

 

「陸軍をも退ける力を持っている割には、呆気なく脱出出来たな」

 

「予想外だったんでしょう!駆逐イ級の軍団がこちらに来ます!捕まってください!」

 

 まるでわざと逃がしたような感じがあったが、今はそれどころではない。いや、気のせいであって欲しい

 

 

 

 その後、モーターボートに乗った西村軍曹と河上伍長が深海棲艦の追撃から逃げ周る事になった。逃げ回った挙句、危うく命を落とす手前で救難無線を発信させた。海に逃げたのはいいものの、場所が分からなかったからだ。もう手遅れであり諦めた所、まさか本当に救助が来てくれるとは思いもしなかった。おかしな武器を身に纏い、海を駆け、深海棲艦を倒す少女が来てくれるとは夢にも思わなかった

 

その少女こそ、救難無線を偶然拾い、助けに来た時雨だった

 

 

 

 一方、本社ビルの港付近では銃撃戦が未だに行われていた。日高軍曹は予想以上に抵抗していた。単発射撃で応戦していたが、何しろ警備員の数が多すぎる

 

「くそ!掛かってこい!」

 

 私はロケット砲を構えて狙ったが、木枯らしの音がすると同時に自分の体は宙を舞った。変な音が聞こえなかったかかと思うと激痛が身体中に走った。大砲か何かをこちらに向けて撃ったのだろう。しかし……さっきのは迫撃砲を使ったのか?

 

 目が霞んで景色がぼやけたが、やがて視界が回復した。警備員達が銃をこちらに向けて構え囲んでいる。持っている武器は、奪われてしまった。立とうにも、力が入らない。右足が変な方向に向いている事から、抵抗は無駄だろう。そんな中、警備員達を掻き分けるかのようにある人物がやって来た。浦田社長だ

 

「最近の帝国陸軍は、泥棒もやっているのか?」

 

「お前達の悪事を暴くためだ」

 

 日高軍曹は吐き捨てるに言った。どうせ自分は助からない。だが、西村軍曹達が無事に逃げるよう心から祈っていた。それを見透かされたのだろう。浦田社長は眉をつり上げた

 

「逃げた2人を心配してるのかね?おかしいと思わなかったか?なぜ、容易に脱出できたのかを考えた事はなかったかね?」

 

 日高軍曹は、狼狽した。まさか、わざと見逃した?しかし、あり得ない。深海棲艦がウヨウヨしている海域の中を追跡するなど不可能だ。焦る日高軍曹に浦田社長は言葉を続ける

 

「陸は封鎖されている。なら、深海棲艦がいる海域なら追跡出来ない。戦わずスピードを出しながら逃げれば、突破出来るかも知れない。僅かな可能性を掛けたか。大した冒険心だ。だが、甘い。私は予想外の出来事をうまく対処出来るのだよ。我々は、深海棲艦がいる海域の中を航行できる力を持っていると言ったらどう思う?」

 

 日高軍曹は愕然とした。深海棲艦がいる海域に入れば追跡出来ないと思われていたが、逆に裏目に出た事を。そして、もう1つの人物を見て日高軍曹は発狂しそうになった。あり得ない、あり得ない!人類と敵対してるはずの『あれ』が、なぜ浦田社長の隣にいるんだ!

 

「酷い顔だな。だが、この謎はお前には永遠に解けない。お前は、うちの警備会社の社員になって潜入したとは言え、非正規社員で入った。しっかりと調べるべきだったな……射殺しろ」

 

 日高軍曹は、銃声が聞こえたと同時に頭をバットで殴られたような痛みに襲われた。しかし、その痛みは一瞬で、彼の意識は闇の中へ消えていった。彼が見た事は残念ながら西村軍曹達に伝える事が出来なかった

 

 

 

 勿論、記録用の映像を見ていた時雨も提督も知らない。なぜなら、記録用のビデオカメラは西村軍曹がずっと持っていたのだから

 




おまけ
日高軍曹「くそ、コマンドーのようには上手く行かないか」

もうすぐ冬イベがやって来る。次話の投稿が遅れるかも知れません。その場合は、ご了承下さい
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