記録用の映像を見た提督と時雨は、思考停止に陥った。陸軍軍人が浦田重工業を偵察していた事には驚いたが、浦田重工業の陰謀の方が強い衝撃を受けた。特に会議室から聞こえた社長の演説に、愕然とした。世界を攻撃しようとする事には驚いたが、その方法がまさか深海棲艦を操って攻撃を行うという計画に暁天した。しかも、計画の内容が未来の記録と類似しているのだ。こんな事あり得るのか?
「嘘だろ!」
提督は大声を上げた。深海棲艦を撃破する兵器を開発した優良企業が、実は世界を攻撃する過激な企業という事にショックを受けていた
「そんな!世界を攻撃するって……!未来の提督はこんな事を言っていなかった!」
時雨も提督に負けずに喚いた。しかし、博士は首を振った
「いや、これは事実だ。世界が混乱し人々が苦しんでいる中、奴は私腹を肥やしていたのじゃ!」
「偽物ではないのか?」
提督は訝し気に聞いた。提督も予想外の出来事についていけない
「偽物にしては、出来過ぎだ!そもそもお前……会議室の計画と未来の記録と類似しておる事に気がつかなかったのか?陸軍が、こんな巧妙な偽物を造れるか?」
提督の父親の指摘に、提督は狼狽した。確かにそうだ。軍は確かに艦娘計画を知っているが、時雨が未来から来た事は知らない。知っていたら、何かしらアプローチがあるはずだ。わざわざ偽物を作って会社を陥れるなんて普通に考えてあり得ない
「クソ!まさか!」
提督は歯ぎしりし、両手は拳を作り握りしめていた。部屋は気まずい空気が漂い、沈黙がした。長く続くと思われる沈黙を破ったのは提督だった。父親から散弾銃を奪うと弾を込め始めた。父親は狼狽したが、息子を非難したりしなかった
「時雨、荷物をまとめろ!」
「提督、どうしたの?」
提督の顔色は、蒼白だった。口調も未来の提督と同様で切羽詰まった命令だった。焦りによって早口で命令する時と同じだ
「いいからまとめるんだ!聞こえなかったのか!?」
「提督、どうしたの!」
時雨も声を荒げた。足元から恐怖が沸き上がるのを感じた。もう時雨自身も分かっていた。しかし、現実から目を背けたかった。こんな事はあり得ないと否定したかった。だが、提督の言葉は非情なものだった
「観艦式に行くんじゃなかった!あの時にどうやったか知らないが、お前の正体に気付いていた。秋祭りの時の交通事故!あれは、お前が人間かどうか確かめる手段だ!何で今まで気がつかなかったんだ!」
「提督……そんな事は――」
「もうお前自身も分かっているだろ!俺達と艦娘達はエサだ!全て計画されていた!お前が体験した未来の戦争は、浦田重工業が世界を支配するための見せしめだ!俺達は全て奴らに利用されていた!」
時雨は目の前が真っ暗になった。時雨は最悪の考えにたどり着いてしまったが、それを受け入れる事が出来なかった
「多分、未来の俺は薄々と気付いていたかも知れない!だが、証拠が無かったんだろう。深海棲艦は怨念のような存在とは言え、人間のように知能を使って攻撃するなんて信じられなかったに違いない。そうだ。ミサイルと呼ばれる兵器を使える時点でおかしい事に、俺は気がつかないなんて!あれは、バックアップや科学知識がないと運用出来ないはずだ!」
アイオワが不思議がっていたのも頷ける。アイオワは深海棲艦が、どうやってミサイルやジェット戦闘機などの未来兵器を使えたのか分からなかった。『Warは奇跡など起こらない』と未来の提督に言った言葉は、当たっていた。劣化版とは言え、イージス艦を造った程の科学技術を所持している企業だ。ジェット戦闘機や現代化改修なぞ、容易い事だ
「なんて事だ。クソ、まさか……!」
博士も吐き捨てるかのように言った。時雨はどうしたらいいか分からず、オロオロとするだけだ
「早く逃げないと!もう、ここは監視されているだろう!真実を知ってしまったからには、口封じのために殺される可能性だってある!」
「しかし、建造ユニットはどうする?」
「この別荘ごと爆破するんだ!時雨の正体くらい、奴らは見破っているはずだ!奴らは、そう簡単に見逃してくれない。研究資料があればまた造れるだろ?俺は、時雨を連れて直ぐに逃げる!俺も危ない!」
博士は建造ユニットに目を向けたが、本当に爆破していいのか迷ってしまった。折角、ここまで完成した。それを破壊するのか?確かに爆薬は造れるが……
「でも何処へ逃げるの!?」
時雨が提督に質問をしたその時、風もないのに扉が僅かに開いた。次に聞こえたのは、何か金属のようなものが転がる音だった。扉から転がって来た何かを3人の眼は集まったが、それは石でもなかった。細長い金属製のもの。しかも、この形は……
「手榴弾!」
博士の警告よりも早く、スタングレネードは炸裂。眩い光と大音響の炸裂音によって3人の視力聴力を奪われた。その間に何者かによって押し倒され、押さえつけられた。視力聴力が回復した時雨は見た。浦田重工業の潜入した時に陸軍軍人達が撮影していた警備員達に押さえつけられ、銃口を向けられていた。警備員は完全武装しており、いつでも引き金を引けるように構えている。提督は、スタングレネードを食らったお陰で落としてしまった散弾銃を拾おうとしたが、警備員に殴られた
「動くな!妙な真似をしたら射殺する!」
決して脅しだけではない警告。銃を突きつけられたため、手を上げて降参する時雨達に、ある人物が入ってきた。浦田社長だ
「全て見たぞ!」
「何をかね?」
警備員に抑えられながらも提督が吠えた。しかし、浦田社長は噛みついて来た怒りを聞き流した。時雨は信じられなかった。日本のために発展させた大企業が、まさかこのような事をするとは思いもしなかった。だが、彼の反応を見る限り、陸軍軍人が撮影した映像の信ぴょう性は高い。信じられないが、浦田重工業の陰謀は恐ろしいものだった
「お前の企みも計画も!人類の敵である深海棲艦を従わせて、世界を攻撃するなんて。お前は怪物だ!」
「それは陸軍が作った偽物だ。わが社を陥れるための偽映像だ。あんな馬鹿な連中が造ったものを信じるのか?」
「どうかしてるぞ!イージス艦とやらを造ったのは、人類を救うためではなかったのか!?」
博士も叫び襲い掛かろうと怒鳴ったが、残念ながら彼は浦田重工業の警備員に取り押さえられている
「そうだ。人類を救うためだ。そのためには、犠牲も必要だ。艦娘計画というバカげたことをしなければ、雇ってあげていたものを」
博士は信じられない目で浦田社長を見た。深海棲艦を研究するために、浦田重工業は彼を支援した。しかし、途中で支援は打ち切られてしまった。まさか、艦娘計画を立案したからわざと打ち切られたのか?
浦田社長は時雨に目を向けた。時雨は、未だに現実を受け入れる事が出来なかった。テレビでも会社見学で会った際の人当たりの良さそうな表情は消え失せ、警備員共々家畜でも見る様な無感情の瞳で時雨を見下ろしている
「こいつが……そうか。装着させろ」
警備員が時雨の艤装を持って来させると、時雨に装着させ強引に立たされた。何をするか分からなかったが、次の瞬間、浦田社長は警備員から自動小銃を受け取ると時雨に向けて連射した
「うああああ!」
艤装を装備したお蔭で今の時雨は、耐久力は駆逐艦同様であり、自動小銃には効かない。しかし、痛みは当然あるため今の時雨は、腕を交差させ自動小銃から撃ち出された弾丸の暴力を耐えるしかなかった。だが、自動小銃の弾倉は多くはない。弾切れになり撃ち終えたと同時に時雨は、砲を浦田社長に向けたが、警備員に殴られ再び床に倒れ込んだ。艤装も呆気なく外された。艦娘を知らないはずなのに、なぜ外し方を熟知しているのか?
「なるほど、これが艦娘か。本当に実在するとは。兵器に命を吹き込んだか。流石だ」
時雨は浦田社長から逃げようとしたが、警備員に押さえられて逃げれない。人に対してここまで怖い思いはしなかった。未来のゲリラに比べ物にならない
「お前の狙いは何だ?」
「観艦式で言った通りだ。『これからは団結して立ち向かわなければならない。そのためには人種、宗教、思想などと言った壁を乗り越える必要がある』。それを実行するだけの事。自己満足のために世界大戦を引き起こす国を叩くだけだ」
提督は浦田社長の言っている事が分からなかった。この人は、何を言っているのだろう。何を目指しているのか、提督には全く理解出来なかった。そして、内心ではある事に気付いた
(こいつが……未来の俺と艦娘を攻撃した。では、ゲリラなどの反艦娘団体は……)
まさかとは思った。信じたくはないが、浦田社長なら実行しているだろう。いや、未来ではしていたに違いない
反艦娘団体と名乗るゲリラは、実は浦田重工業の手下だと。深海棲艦に通じて指示を出せば、可能だと。地対艦ミサイルがいい証拠だ。あんな軍事兵器を一般人が作り出せる訳がない。ゲリラの本人達は、深海棲艦と組んでいると思っているかも知れないが、実は浦田重工業の操り人形であるに気付いていない。汚い手段で、未来の自分と艦娘を地獄に突き落とした張本人である浦田社長に、提督は彼を怒りを向けた。浦田社長は、彼がなぜ怒っているか分からないが、どうでもいいような感じで受け流していた
「やれやれ、その顔だとお互い理解するのは不可能だ。結構な事だ」
浦田社長は、提督を一瞥すると時雨に目を向け近づいた。時雨は浦田社長から逃げようとしたが、警備員に拘束されているため逃げる事が出来ない
浦田社長は時雨の前に立ち止まり、しばらくの間、時雨を観察していたが、次のように警備員に命令した
「その女を連れてこい。確かめたい事がある。『狂人』よりも良い返事が出来るかもな」
「よせ!何処へ連れて行く!?」
提督は止めようと立ち上がろうとしたが、警備員に押さえつけられて身動きが出来ない。その間に時雨は、両手に手錠を掛けられた。抵抗しようとしたが、相手が悪すぎた。艤装は装着されていないため、今の彼女は人間の少女と同じだ
「提督!博士!」
拘束され警備員に引きずられながらも提督と博士の名を何度も呼んだ。もう、会えないかも知れない。ふりきろうとしても警備員の力は強すぎた。それでも時雨は抵抗する。振りほどこうともがいているとき、後頭部に強い衝撃を受け床に倒れ伏す。混濁する意識の中、首筋にかけ血の生暖かい感触が伝わっていくのを感じた
時雨の抵抗に手を焼いた警備員は、警棒を取り出し思いっきり時雨の頭を殴ったのだ。その間に地面に倒れた時雨を物か何かを引きずるように連れ回すと、ある場所に強制的に座らされた
「う、うう……」
痛みで呻く時雨。幸い骨折までには至っていないが、体中が痛い。眼を開けると自分は、車に乗せられている事が分かった。博士の別荘には、見たこともない軍用車両が4台止まっており、周りは警備員が警戒をしていた。提督の言った通り、既に監視されていた
「やり方が手荒いぞ。丁重に扱え。研究室に向かう」
浦田社長は時雨を再び観察したが、直ぐに別の車に乗るために移動した。時雨は抗議の声をあげようとしたが、近くにいた警備員に注射器を撃たれた。時雨が覚えている事は、そこまでだった。睡眠薬か何かだろう。意識が段々と遠のいていく。目を開けようと抵抗しようとしたが、残念ながら薬の方が強力だった
「提……と……く……」
時雨は呟いた後に意識を失った
艦娘「大本営もブラック提督も酷い!こき使いされまくっている!人間は敵だ!」
普通(?)のオリ主「それは可愛そうだ!俺が助けてやる!」
艦娘「ありがとう! 何て優しいんだ! オリ主についていくよ!」
艦娘「敵が強いし、人間も酷い仕打ちをして来る! 誰か助けて!」
浦田社長「知らん。さっさとくたばれ。従える事が出来た深海棲艦で十分だ」
時雨&提督「「コイツ最悪だ!?」」
陰謀を知った者は、消される運命。まあ、よくありますね。アメリカはエリア51で墜落した宇宙船と宇宙人を調べているという陰謀を知った者は、消されるというらしいですし(スットボケ)
実は初めは政府のある組織の陰謀という設定を考えていましたが、それはほら、他のSSのオリ主に対峙する敵や史実以上の悪に染まった大本営達が散々やっている事ですし……。深海棲艦を従うオリ主さんも、本当に人類の敵なのか?と思うほど、何故か艦娘には優しく設定していますし……
国も悪事を働く世の中です。民間企業だってよくやっています
あれこれと試行錯誤した結果、浦田重工業という表向きは善良な民間企業。裏では悪徳企業という別の敵が出来上がりました
それはそうと、冬イベがいよいよ開始されました。前にも書きましたが、投稿が遅れる可能性があります。何しろ、レイテ沖海戦ですからね。気が抜けません