時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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※警告……グロテスクな描写を含みます。そこを頭に入れて下さい
恐らく、次話もグロテスクになる予定……


第44話 悪魔の囁き

 時雨は、未だに信じられなかった。浦田社長から『艦だった頃の世界』で起こった太平洋戦争を映像で見る事になるとは思いもしなかった。しかも、説明つきの音声つきである。何かのドキュメンタリーの番組なのか?しかし、時雨はそのような番組は見たことがない。少なくとも、この世界では……

 

 時雨が戸惑っている間にも、映像は進んでいく。真珠湾攻撃に続き、マレー沖海戦、ドゥーリットルの空襲、そして珊瑚海海戦と流れていく。時雨はいつの間にか食い入るように見つめていた

 

 そして、ミッドウェー海戦へ移り、日本海軍が誇る空母『赤城』、『加賀』、『飛龍』、『蒼龍』が次々と沈んだ映像を見て、心が痛んだ。この場に一航戦と二航戦がいたら、涙を流していたに違いない。

 

 映像は容赦なく流してくる。ガダルカナル島では、飢えた将兵が次々と倒れていった。マリアナ沖海戦では、すでに時代遅れとなった零戦が次々と米軍機に墜されていく。時雨はマリアナ沖海戦に参戦した経験あるものの、記憶は曖昧だた。しかし、この映像は何が起こったか分かる。瑞鶴さんが、七面鳥を嫌った理由が分かったような気がした。一方的な敗戦だった

 

 レイテ沖海戦も同様で、一方的な敗北で日本海軍は事実上壊滅した。しかし、時雨は自分達が参加していた第一遊撃部隊第三部隊である『西村艦隊』が紹介された時は、懐かしい目で見ていた。しかし、一方で帝国海軍は作戦能力を無くし、大本営は次々と狂気を見せていった。海軍軍人である宇垣纏や大西滝次郎などは特攻作戦を奨励。橘花、回天、海龍、震洋……もはや正気とは思えない特攻兵器が次々と開発され、多くの若者が太平洋に消えていく

 

 マリアナ、グアムの失陥により、米軍の超重爆撃機B-29が登場し、無差別爆撃を開始したため、街が焦土と化していく。硫黄島は切り捨てられ、沖縄戦では多くの民間人の血が流れ、遂には戦艦『大和』が水上特攻して出撃して、何の成果も残す事無く、鹿児島坊ノ岬九〇海里の海域に沈んでいった

 

 最後は広島、長崎の原爆投下だった。これには時雨は衝撃を受けた。まさか、ここまでやると思いもしなかった。そして、終戦の詔勅で終わったのだ

 

「泣いているのか?」

 

 映像が終わったと同時に浦田社長は、時雨に聞いてきた。時雨は、自分が涙を流している事に気がついた。戦争の悲惨さからか。それとも、仲間である艦娘は、こんな悲しい記憶を持っているのだろうか?

 

「これを見せてどうするの?」

 

「では、聞こう。君は太平洋戦争の世界、つまり異世界から来た。その世界が、戦後どうなったか分かるか?」

 

時雨は分からなくなった。浦田社長は何が言いたのか?

 

「世界は何も変わらない。生活水準と科学技術は発展したが、戦争はまだ続いている」

 

 浦田社長はビデオデッキからテープを取り出すと、別のビデオテープを差し入れた。今度は第二次世界大戦後の歴史のようだが、時雨は愕然とした。太平洋戦争が終わっても戦争は終わっていなかった。アメリカはソ連を意識するあまりに、朝鮮戦争やベトナム戦争など他国へ干渉している。ソ連は崩壊したものの、未だに軍事大国である。しかも、広島長崎に落した原爆である核兵器は、今もあると言う。核戦争が起こった場合、人類は絶滅するかも知れないとの事だ

 

「君が記憶にあるだろう太平洋戦争が終わっても、世界は変わらないどころか酷くなっている。人類が絶滅するかも知れない事件が、一度や二度もあった」

 

 時雨がイラク戦争の映像を見ている最中、浦田社長は優しい声で囁いた。時雨は浦田社長には振り向かずに依然としてイラク戦争を食い見つめていた

 

「科学が発達したお蔭で兵器も進歩した。仮想敵国に対して宇宙から監視する機械、人工衛星まである」

 

「何処でこれを……」

 

「なぜこんな事を知っているかと?君に説明して私に何の得がある?これは会社でも極秘のものだ」

 

 時雨は思考停止に陥った。浦田重工業が黒幕であった事から今までの間、色んな事が起きり過ぎている。自分は混乱していたが、はっきりと分かった事は『艦だった頃の世界』では未来でも戦争は起こっている

 

「日本は確かに平和になった。確かとは日本の平和は、アメリカの庇護の元で成り立っている。しかし、どいつもこいつも海外の国に顔色を見て行動するのだから話にならない。極端な行動しかとれないのか?」

 

浦田社長はビデオテープを取り出しながら静かに言った。時雨は何も言わなかった

 

「さて、本題だ。私達が住んでいる世界でも同じことが起ころうとしている。どんなに貢献しようが、世の中は変わらん。金、権力、法律を巧みに利用する輩がマトモな事が出来ると思うか?しかも、日本だけではない。海外も同じだ」

 

浦田社長は再び椅子に座ると時雨に正対し、言い放った

 

「アメリカは日本に対して嫌悪感を抱いており、ヨーロッパは既にいがみ合いをしている。ソ連は何も動きはしていないが、羊を被った狼だ」

 

「それと深海棲艦を操って世界を攻撃するのとどう関係があるの?」

 

時雨はかすれた声で質問した。この男は。何が言いたいのか?

 

「時間が経てば各国とも深海棲艦を倒す方法を見つけるだろう。だが、倒した所で世界は平和になるか?いいや、違う。世界は、また振り出しに戻る。人類同士の戦争の再来だ。映像みたいな悲劇が確実に起こる」

 

ここまで聞いた時雨は、愕然とした。まさか、この人は……

 

「それではダメだ。なら、第二次世界大戦に参戦した全ての国を潰せば、戦争は起こらない。しかし、そんな都合の良い兵器も軍隊も存在しない。救世軍なんてフィクションだ。深海棲艦がワームホールから現れるまでは。通常兵器も毒ガスも生物兵器も効かない深海棲艦こそが、それを可能にしてくれる」

 

 浦田社長は、ニヤリと笑いながら、しかし真面目な口調で時雨に説明する。この人は、本気で世界を独断で攻撃していたのだ

 

「つまり……それらの国を無差別に攻撃する事が平和の道になるって言うの?」

 

「そうだ。だが、お前を造った『狂人』は、既に対抗策を用意した。私としては、お前のような存在は邪魔だ。目先の行動のために深海棲艦を攻撃してもらっては困る」

 

 時雨は怒りが沸き上がった。艦娘は邪魔な存在?そして、深海棲艦を攻撃する事が目先の行動?

 

「『博士』は……狂人じゃない!人類を救おうとして僕達を造った!僕達は、人類と国を守るために存在するんだ!」

 

「違うな。世界を元に戻そうとするバカしかない。奴は、周りが見えていない。世間がどんな状態になっているか、そこまでの考えは無かったようだ。邪魔する者は徹底的に沈める。反対であるなら、艦娘はミサイルの標的艦になっていればいい」

 

しかし、時雨は浦田社長の言葉をマトモに聞かなかった

 

 こいつが……こいつが全ての元凶。こんな下らない考えで……僕達艦娘が海に沈んだ……。こいつの考えなんて何の価値にもならない

 

「僕達、艦娘の事も無視して攻撃しようとするなんて許せない!」

 

「帝国海軍の亡霊である兵器の存在には元々、興味はない。人間のような存在になったからと言って、私の計画の邪魔でしかない!」

 

 時雨も浦田社長も互いに睨み合った。浦田社長は、時雨をこちら側に引き込もうとしているのは明白だ。しかし、浦田社長は1つだけ誤解していた。時雨は、初めて建造した初期艦だと思っていた。まさか未来から来て、しかも戦争を経験したとは思いもしないだろう

 

「お前は時雨と言ったな。深海棲艦が現れていなければ、駆逐艦である時雨は建造されていたかもしれない。しかし、ここでは『もしも』だ。歴史を変える唯一のチャンスだ。世界の問題を解決するには、強力な軍隊が必要だ」

 

浦田社長は優しげに言ってきた。恐らく、別の方法で説得しようとしているらしい

 

「深海棲艦の鬼や姫級は、私の考えを拒否した。まあ、あいつらはこの世界情勢なぞ興味なかろう。お陰で、予定より時間がかかる恐れがある。お前……いや、お前達の力も必要だ」

 

「どんな事を言われても、君には従わない!」

 

「まあ、聞け。帝国海軍は、当時では世界の指折りの海軍力を持つ。特に、海軍航空隊は強かったらしい。大和型戦艦も魅力的だ。そんな強力な軍隊を、この国の指揮下に置くのは惜しい。何、報酬は出す」

 

 今度は浦田社長は妥協し始めた。対立していていては話がまとまらないと踏んだのだろう

 

「私の指揮下に入るのであれば、問題なかろう。必要な物資や身の安全は保障する。悪くない話だろ?」

 

 浦田社長は、時雨の顔色を伺った。しかし、全く反応が無いため浦田社長はため息をつくと再び言った

 

「仏像みたいに黙られても困るな。何か言ったらどうなんだ?」

 

「浦田社長は……浦田社長は、この世界で何がしたいの?」

 

「この世界の問題を解決する事だ。先の戦争で死んだ兵士の中に私の父親がいた。似たような者はいるだろう。だから、それを防ぐ。そのためには、必要な犠牲だ」

 

 時雨は理解出来なかった。こんな事を平然とする気持ちが理解出来なかった。多少の復讐心や野望ならそれでいいかも知れない。しかし、これは一線を越えている

 

「無駄に話し合ってやるより効果的な計画だ。バカは死んでも治らないと言うが、まさにその通りだ。お前なら分かるだろう。無能な輩に任せて世界大戦の巻き添えを食らうか、それとも防ぐために計画を実行するか。お前はどっちだ?」

 

 しかし、時雨はもう初めから答えは決めていた。自分が過去に送られた理由は、破滅した未来を防ぐため、仲間である艦娘と会うため、そして提督と他の艦娘達に二度と悲劇を味わせないためだ。『艦だった頃の世界』で負けたのは仕方ない。あれは国力の差があったからだ。しかし、目の前にいる男は、違う。艦娘を踏み台にしたのだ。艦娘の仲間がミサイルで沈む姿を何度見た事か!

 

「どんなに言われようが、僕は……僕は君についていかない!僕は提督と他の仲間しか信じない!」

 

 あの日……未来で転送される直前、提督と艦娘達は時雨とタイムマシンを守るために命を落とした。その犠牲を無駄にはしない!どんなに要求されようが、そんな甘い言葉は信じない!

 

(これだけは絶対に守ってくれ。過去の俺と『創造主』以外は誰一人信用するな。何が起こるか分からん。確実に信用出来ると分かるまでは気を許すな。警戒しろ)

 

 恥ずかしながら、たった今、時雨は未来の提督の忠告を思い出した。安易に知らない人を信じていいはずがない!例え酷い目に会おうが、僕は提督と仲間と一緒にいる!時雨は、キッと浦田社長を睨んだ

 

浦田社長は時雨の顔を見て失望と怒気を融合させた嘆息をついた

 

「もう何も言っても無駄か。お前には失望した。狂人も息子も頑固だ。全てを手にできたというのに」

 

 浦田社長は、再び時雨を家畜のように見下す目をした。もう話しても無駄だと言う風に呆れたように言った

 

「僕だって善悪の区別はつく。君がやっている事は悪だ!」

 

「悪?それは違うな。悪とは敗者の事。正義とは勝者の事。過程は問題ではない」

 

 しかし、時雨は耳を傾けなかった。外れた艤装は、警備員が金属製の鞄に入れて携行していた。研究のためだろう。愚かにも時雨と一緒に同行していた。時雨は隙をみてその警備員に向かって走り出すと体当たりで押し倒した。警備員が気付き、こちらに銃を向けて発砲したが、時雨は金属製の鞄を盾にした。数発の銃弾が飛んで来たが、一発が偶然にも鍵の所に命中。鍵が壊れ、中から時雨の艤装が零れ落ちた。間一髪、時雨は艤装を直ぐに拾い上げると、僅か短時間で装着した。艤装を装備した艦娘は強い。駆逐艦と言えど、小銃程度の銃弾を防ぐ装甲はある。時雨が武装した事に気づくと、警備員は自動小銃を一斉掃射を始めた。普通の人間なら、既に死んでいるが、時雨はまるでシャワーを浴びているかのごとく、平然とその場に立っていた。装甲には傷一つ無い。時雨は主砲を浦田社長にしっかりと向けた

 

「浦田社長!提督と博士を解放して!」

 

 時雨が社長に武器を向けた事を確認した警備員は、銃撃を止めた。しかし、警備員に戸惑いは感じず、弾倉を交換していつでもこちらに射撃出来るように銃を構えている。浦田社長は……何と何事もなかったかのように椅子に座っている。それどころか、手を組んでバカにするかのような目で時雨を見ている

 

「私を脅すのか?」

 

「提督と博士を解放しないと、撃つよ!これは駆逐艦の主砲!人間が食らったらただじゃ済まない!」

 

 艦娘の艤装は、軍艦と同等の力を持つ。見た目が小さくても、威力は名前通りである。ここでぶっ放したら社長どころか近くにいる警備員も無事では済まない。いや、ここの部屋は崩壊するだろう。にも拘わらず、浦田社長も警備員もバカにしたかのように笑っている

 

「ははは……。小娘が脅しか。兵器が感情を持って人間のような体を手に入れても所詮は、兵器か」

 

「何が可笑しいの?」

 

余りの気迫に時雨はたじろいだ。こっちが有利のはずなのに、まるで形成が逆転されたかのような錯覚に陥った

 

「兵器はどこまで行っても兵器だって事だ。お前……そんなに人を殺したり、物を破壊したりするのが好きなのか?」

 

「違う、僕は――」

 

「違わない。艦娘である君は、軍艦だった頃は、何をしていたか覚えているのか?兵器は何をするのが仕事だ?」

 

時雨は戸惑い、唾を呑みこんだ。考えたくは無かった。艦娘になって考えたくなかった事……

 

「答えられないなら私が答えよう。艦娘は殺りくを楽しんでいるんだよ!」

 

「何を――」

 

「違うとでもいうのか?陸軍軍人を助けた時、深海棲艦の駆逐イ級軽巡ホ級を大勢殺したじゃないか?」

 

「それは――」

 

 時雨は心が揺らいだ。何処で知ったのかという疑問よりも、浦田社長の言葉がまるでドリルのように抉るかのようだった。自分は兵器ではない。人間だ。未来で避難民から非難された言葉は、誰も動じなかった。しかし、ある言葉だけは流石の艦娘達には動揺した。そう、人殺し集団と言われた時には誰もが反論さえ出来なかった

 

「軽巡ホ級に止めを刺すお前の顔、実に生気に満ちていたと深海棲艦は言っていたぞ」

 

「違う!」

 

 時雨は大声を上げた。あの時、既に監視されていたのか?あの深海棲艦は、既に浦田重工業に操られた軍団だったのか?

 

「自分の内の殺人衝動。それを否定する必要はない。兵器は本来、そのように造られているのだからな。わが社が保有している兵器工場も同じだ。国や国民を守るために他国の人間を殺す兵器を製造している。その兵器を帝国軍に提供している」

 

ダメだ。時雨は聞くに堪えなかった。頭が狂いそうだった

 

「お前も例外ではない。兵器はどんなに言い変えようが、兵器だ。否定して何になる?」

 

 時雨は歯を食いしばった。もう議論しても無駄だ。反論しようとしたが、中々思い付かない、下手すれば、向こうのペースに飲まれてしまう

 

「僕は君とは違う!」

 

 時雨は叫ぶと同時に主砲を発砲した。ここが滅茶苦茶になるが、今はどうでもいい。それに……それに先ほどの浦田社長の言葉は、自分以外の艦娘にも侮辱されたような気がした。一時的な感情が、引き金を引くことになった。爆発の衝撃に備えるため時雨は、引き金を引くと同時に眼を閉じた。確かに砲声は部屋に鳴り響いた。しかし、いくら待てど爆発音はしない。不発だったのか?時雨は薄目を開けて、どうなったか様子見たが、次の瞬間、信じられない光景を見て目を皿のように見開いた

 

「な……!」

 

 主砲は確かに発射された。しかし、何者かがその主砲の砲弾を手で掴んでいた。あの速い砲弾を。そして掴んでいたのは、何と戦艦ル改flagshipだった

 

「ああ、言ってなかったな。深海棲艦を操る方法を。アリの群れと同じで、強い者には絶対服従なのだ。深海棲艦の場合だと、姫や鬼。そのボスを倒したのは、この深海棲艦の戦艦ル改flagship。わが社は戦艦ル改flagshipに対して改装を施し、今では最強の戦艦だ。ここにいる戦艦ル改flagshipは、我々の考えに同意した者であり、現在の深海棲艦の総司令官の立場だ。深海棲艦をコントロールしているのだから助かるよ」

 

「そ……そんな……」

 

 時雨は驚愕し、思考停止に陥った。いつからいたのか、という疑問もあるが、この戦艦ル改flagshipは見覚えがある

 

「マタ、会ッタナ」

 

 怨念のような声を聞いて、時雨は恐怖した。この威圧感、この殺気。覚えている。先の陸軍軍人を助けた時に現れた者。観艦式でその気配を感じた時、そして未来で最新鋭兵器を装備した深海棲艦を指揮した者……

 

 時雨がもう一発、主砲を発射するよりも早く、まるで金属製バットに殴られたような強力な衝撃を受け、そのまま飛ばされた。戦艦ル改flagshipが、時雨を殴り飛ばしたのだ。殴り飛ばされた時雨は、壁を貫通し別の部屋にまで飛ばされた。そこの部屋は、数十人の者が軍事訓練を行っていた。射撃訓練か何かだろう。突然の出来事に全員が、退避した

 

「う……うう……」

 

 時雨は立ち上がるが、既に中破してグロッキー状態だ。たった一撃で、しかも殴られただけで中破になるとは流石の時雨も経験は無かった。長門さんでもこれは無理だろう

 

「ホウ……立チ上ガルカ」

 

「うあああ」

 

 冷たい声に時雨は無意識に口から恐怖に慄く声が出てしまう。先ほどの浦田社長に対する怒りはみるみる内に萎えていき、恐れに染まっていく

 

「来るなあぁぁぁ!」

 

 それでも時雨は絶叫しながら、主砲を連射した。が、相手は戦艦。砲弾は全て装甲に阻まれ、かすり傷すらつかなかった。駆逐艦相手には、分が悪すぎた

 

 戦艦ル改flagshipは何も無かったかのように更に歩を進め、時雨はがむしゃらに主砲を戦艦ル改flagshipへと撃ち続けるが、その全ては装甲に阻まれ、戦艦ル改flagshipには傷一つ着かない

 

 尚も平然と歩いて行く戦艦ル改flagshipが時雨の目には明らかに不気味に映った。まるで不死身のゾンビを相手にしているような、そんな恐怖を時雨に感じさせる。

 

段々と近づいて行く戦艦ル改flagshipに、時雨は後ろへと下がっていく。そして気がつけば時雨の艤装は部屋の壁に当たっていた

 

 それに気づいた時雨は、辺りを素早く見渡した。床には、銃が2、3丁転がっていた。恐らく、軍事訓練を受けていた警備員が置いて行ったものだろう。銃を拾い上げると、戦艦ル改flagshipに向かって引き金を引いた。自動小銃らしく、引き金を引いただけで連射したが、相手は戦艦だ。銃弾は、戦艦の装甲に跳弾するだけで終わった。今度は弾切れした小銃を戦艦ル改flagshipに殴りかかった。銃は鈍器にもなり得るため、人がマトモに食らったら只では済まない。力を込めて殴った銃は、戦艦ル改flagshipの頭部に当たったが、カンと金属音がしただけで何事もなかったかのように立っている。再び殴ろうとしたが、戦艦ル改flagshipは副砲を時雨に撃ち込んだ。流石にバカデカイ主砲は地下室では撃たなかった。しかし、副砲でも艦娘の駆逐艦相手には十分であった。時雨は副砲の砲弾に直撃し、爆発を諸に受け床に倒れた。威力が高く、時雨は痛みで呻いていた。艤装は破壊され、己自身の身体も負傷している

 

「弱イナ。戦意ハモウ失セタノカ?人ハ恐怖ヲ感ジルト、大抵ノ者ハ戦意喪失スル。勝テナイ相手ニ挑ムハ、愚カダ」

 

「あああー!」

 

 時雨は、絶叫すると戦艦ル改flagshipに殴りかかった。既に主砲は副砲を食らったお陰で使い物にならない。ここは海上ではないため、魚雷は使えない。もう、自らの拳で挑むしかない。地上での格闘戦は、未来の陸軍から教わっていたため、戦える。だが、相手も格闘戦にも長けているのか。こちらの拳を片手で難なく受け止めた

 

「無駄ダ。駆逐艦ガ戦艦ニ勝テルカ!」

 

 戦艦ル改flagshipは時雨を軽々持ち上げると、時雨をドッジボールのように投げ飛ばした。時雨は再び宙を舞い、再び壁に激突した。壁は轟音を立てて壊れ、向こうの部屋の様子も見えた。向こうの部屋も同じく軍事訓練が行われており、従業員達は何が起こっているのか動揺していた。既に警備員が駆けつけ避難指示をしており、辺りは騒然としていた。しかし、そんな現場を浦田社長は、ニヤリと見ているだけだ。戦艦ル改flagshipに攻撃を止めるよう指示も出さない

 

「はぁ……はぁ……」

 

 時雨は既に戦える状態ではなかった。頭から血を流し、体中は傷とススだらけだ。ドックに入らなければならないが、現段階ではそれが出来ない

 

「戦争ニハ、ルールガアル。強イ者ダケガ生キ残ル。弱者ハ食ワレルノミ」

 

 戦艦ル改flagshipの非情な言葉に、時雨は再び攻撃を仕掛けたが、戦艦ル改flagshipは察知して副砲を放った。この副砲を躱す余力は無かった。強力な爆発と衝撃を受けた時雨は、鈍い音を立てて再び床に倒れこんだ。しかし、それでも時雨は死なない。人間なら、とっくに死んでいただろう。だが、ダメージはかなり受けたため、今の時雨は改二になっているとは言え、満身創痍だった。立ち上がろうとしたが、パンチドランカーのようによろめいている

 

「中々、シブトイナ。名誉ノ死ヲ遂ゲルノカ?」

 

 戦艦ル改flagshipは嘲笑って挑発したが、今の時雨はそれどころではなかった

 

(勝てない……)

 

 如何に改ニだろうと、あの戦艦ル改flagshipには絶対に勝てない。未来ですら長門やミサイル装備したアイオワを倒した程の力を持っている。ヨーロッパの戦艦の艦娘をいくつも海に沈めたと聞いた事がある。亡命したプリンツオイゲンでは、ビスマルクは戦艦ル改flagshipによってやられたと証言している。恐らく、浦田重工業の技術を使って最強の戦艦にしたんだろう

 

「イイ加減クダハレ」

 

 冷たい声がしたと同時に、腹部に激痛が走る。戦艦ル改flagshipは、ふらつく時雨に近づくと再度腹を殴った。戦艦ル改flagshipは、相手が少女だろうが容赦しなかった。時雨は口から血を吐き、冷たい床に倒れこんだ。もう、立ち上がる力はない

 

「助け……て……」

 

 弱々しい声を出しても、誰も助けない。仲間も姉妹艦もいない。提督も博士も捕まっている。敵はやりたい放題だ。床をはって逃げようとするが、戦艦ル改flagshipに捕まり無理矢理仰向けにされた。視界はボヤけていたが、浦田社長がこちらに顔を覗かせていた

 

「最後のチャンスだ。お前は仲間にならないのか?」

 

「どんなに……痛めつけようが……君の計画には……賛同しない!」

 

 浦田社長によって仲間が沈められた事実は変わらない。戦艦ル改flagshipの恐怖は痛みで薄れ怒りを感じたが、もう反撃する力はほとんどない。それでも右腕に装着している主砲を浦田社長に向けようとするが、右腕が鉛のように重く思うように動かない

 

「やれやれ、艦娘は利口かと思ったが、見てみればただの反抗期の少女だ。私が正しかった。私の計画の邪魔でしかない。こんな奴は、新型ミサイルの標的艦で十分だ」

 

 時雨は浦田社長に飛びかかりたい思いで体を起こすが、身体中痛みが走り僅かに動かすだけで終わった。悔しかった。こんな利己的な行動で、艦娘が犠牲になった事を悔やんだ

 

「さて、この反抗期のガキは躾をしないとな。その右腕をへし折ったら、言うことを聞くだろう。何、『狂人』の論文だと風呂に入るだけで治るそうだ」

 

 浦田社長は愉快そうに笑ったが、時雨は血の気が引いた。狂気を感じさせる。少しでも逃げようと体を捩り、はって逃げる。だが、僅かに動いただけで右腕に強力な激痛が走った

 

「ぎゃああああああーー!」

 

 時雨の右腕は戦艦ル改flagshipの足に思いっきり踏みつけられた。嫌な音が鳴り、腕が不自然な方向へ向き、血も滲み出た

 

「離してー!痛い、痛い!」

 

 時雨は涙を泣き喚いたが、戦艦ル改flagshipはいたぶりに楽しんでいるようだ。左手で足を退かそうと掴むが、動く気配もない。それどころか、踏みつける力が強くなっていく。腕が引きちぎられるかと思ったほどだ。どんなに悲鳴を叫ぼうが、返ってくる返事は笑いだけだった

 

「ハハハ。コレガ艦娘。タダノカヨワイ女ダ。私ノ敵デハ無イ」

 

 戦艦ル改flagshipは踏みつけた足を退かしたが、今度は時雨の左足も思いっきり踏み潰された。時雨の左足は、木の枝が折れるかのように曲がり、踏まれたところの皮膚がどす黒くなっていく

 

「やめてえぇぇぇ!ああああああああ!?」

 

 意識が飛ぶかと思った。体を蝕む激痛とノイズに喉が割れた。戦艦ル改flagshipは、何度も時雨の脚を踏み潰した。もう時雨は、歩くことも出来ない。このままなぶり殺されるかと思いきや、突然、いたぶりは止んだ。意識が朦朧とする中、浦田社長の声が遠くから聞こえた

 

「所詮、狂人が造り出したものなぞ、評価に値しない。例の監獄へ連れていけ。こいつは必要ないが、不可解な事がある。死なない程度で閉じ込めておけ」

 

 どうやら、まだ処刑するつもりは無いらしい。しかし、自分の体はボロボロだ。入渠なぞ、絶対にさせてくれないだろう。未来で深海棲艦に捕まった艦娘は、こんな酷い仕打ちをしたのか?そんな事を考えていたが、残念ながら考える時間を与えてくれない

 

戦艦ル改flagshipが近づき、腹を思いっきり蹴られるのを最後に時雨は気絶した

 

気絶する直前、時雨は心の中で謝罪した

 

(提督……ごめん……)

 

 その後、時雨は別の場所に移動させられた。浦田重工業の警備会社が経営する民間刑務所に……

 

 




大丈夫……。救いの話は用意してあるから……

 それはそうと、艦これSSのブラック鎮守府を読んで思った事は、本当に戦争に勝つためにやってるのか?という疑問があります
 というのも大抵のブラック鎮守府の前任(?)提督が兵器だからと言って、食事制限どころか整備も怠り艦娘を虐げられながらも出撃させている訳ですが、それで戦争に勝てる気でいるの?という単純な疑問です。それで戦いに勝てるなら誰も苦労しないです。また、敵も何もせずに手を招いていないはずです。史実ですら米軍は新型機を沢山開発し、ゼロ戦を圧倒しました。精神論者の集まりなのかな?
 太平洋戦争では無茶な作戦はあったらしいですが、まあ、そこは旧日本軍だけの話でもないのです。米軍もやっていますから。しかし、何故か艦これSSのブラ鎮の酷さはゲームネタがやたらと多いです
 ブラ鎮の提督が発する艦娘に対する罵倒も「どれも同じ事言っているなぁ」と思ったりします

 試行錯誤した上で浦田社長は、艦娘である時雨の罵倒は本作品のようになりました
まあ、兵器も兵士も戦争に勝つためにありますから。そこを怠っても、自分の首を絞めるだけです。しかし、何故か弱体化している鎮守府に都合よく深海棲艦が攻めてこない謎もありますが

 ブラック鎮守府を立て直すためには、ソ連の艦娘であるガングートとタシュケントとヴェールヌイを派遣しましょう。鎮守府に革命が起き赤く染まれば、流石の大本営も焦るはずです
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