時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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※警告……今話もグロテスクな描写を含みます
グロテスクな描写はこれで終わり……


第45話 囚われた時雨

とある場所

 

 

 

 そこは浦田重工業の子会社、警備会社が経営する民間刑務所である。この刑務所は主に犯罪者の再犯防止を最優先課題としてさまざまな処遇に取り組んでいる施設である。刑務所から出所した者は、社会に馴染めず再犯し刑務所暮らしをする者は少なからずいる。そのような悪循環を浦田警備会社は目をつけ、民間刑務所を立ち上げた

 

 初めての試みにも拘わらず、浦田警備会社が経営する民間刑務所は大成功を納めた。出所者は元より、加害者家族も感謝状が送られる程の人気を誇り、社会からも注目を浴びた。なぜか?それは、出所までの間、受刑者達に対して手厚い職業訓練を行ったからである。ビジネスの基礎はもとより、介護、建設、医療事務、パン職人養成などを教え受刑者達を社会復帰させていた。加害者に対して過剰な保護をしていると被害者の人達からの批判はあるものの、再犯防止の成果には評価できるところがあり、国も後押しをした

 

 しかし、それは浦田警備会社の表向きの顔。裏の顔では、非合法的な事をしていた。人体実験?それは、ばれると信頼が損なわれてしまうため余りやっていない。臓器移植?それは志願者だけだ。では何か?主な事は警備員、つまり兵士の募集。浦田重工業の私兵を育てるためである。精神面や体力面を徹底的に審査し、使えそうな人を軍事訓練に参加させる。犯罪者は様々だ。軍人や警察の他にスポーツ選手やヤクザなど、何らかの法を犯した者が結構いる。社会復帰させるには、惜しい人材だ。そんな人達は、浦田会社の犬として活躍してもらう。実際に、浦田警備会社が保有する戦力は、陸軍の部隊を追い返す程の力を持っている。残りは、設備の建設や給養など安月給で働かせる部署に流した。使えない人や精神異常者は、国の刑務所に送り返している。つまり、金になるものは何でも取り寄せて利用した

 

 浦田重工業は日本、そして人類の救世主を気取っていたが、その裏では世界を手に入れるための戦力を蓄えていた。浦田民間警備会社は、ただの言葉の綾だ。実際は、民間軍事会社である。自動小銃どころか軍用車両まで持っているのだから、事実上、浦田重工業の私兵軍団だった

 

 未来では深海棲艦が支配する海を奪回するために奮闘して来た艦娘や提督は、強大な力により敗北した。最新鋭の兵器を装備した深海棲艦や浦田重工業に雇われたゲリラによって、潰された。浦田の野望の邪魔な存在として、艦娘や彼女達を指揮する提督は、深海棲艦だけでなく人間達からも敵視された。反艦娘団体も、浦田重工業の手によって作られた。過激な市民団体を集めるのは簡単だ。偏見の強い人を集め、支援さえしてくれれば、後は団体が勝手にやってくれる。一部の政治家がよくやる手だ

 

 愛国心や平和や国防などの志は、まやかしに過ぎないかも知れない。権力者の手先として動かされているに過ぎないかも知れない

 

 浦田重工業はなぜこんな事をしているのか?答えはシンプル。全ては金のために。支配力が強いと何でも出来る。深海棲艦は浦田重工業の手先として利用され、艦娘は邪魔な存在として攻撃した。浦田重工業の手のひらで踊らされていたに過ぎない。未来の提督は、深海棲艦の変化に気付いていたが、謎が解けず時雨に託した。自爆間際にようやく謎が解けたが、まだ分からない所がある。戦艦ル改flagshipは何者なのか?

 

 

 

「これから遠征に行って資源を確保してもらいたい。今日は雨だ。視界は最悪だが、敵のレーダーは健全だ。決死隊になるが、大丈夫か?」

 

臨時基地である提督室に集められた艦娘6人は、頷いた。海図や敵勢力は頭に叩き込んだが、戦況が悪い。もう、戦える艦娘もわずかしか残っていない

 

「提督、大丈夫だよ。僕達ならできる。だから心配しないで」

 

 時雨は、提督の任務に聞いた後、答えた。敵はミサイルと呼ばれる兵器を持っている。アイオワが提供してくれたミサイル対策は、装備されているからだ以上だ

 

「僕達は、必ず遠征を成功させる」

 

 世界は崩壊した。守るものはほとんどない。だけど、このまま深海棲艦の思い通りにはさせない

 

「分かった」

 

「僕は大丈夫。提督は優しいね」

 

時雨は提督の身を案じていた。彼はやつれており、目にクマが出来ている

 

(僕が皆を守らないと……)

 

 時雨が心からそう思った。揺るぎようのない強い意志。敵が最新鋭兵器を持とうが、僕達は負けない。そう思ったその時、別の男性の声が部屋全体に響き渡った

 

「守る?お前達は必要ない。金儲けの邪魔な存在は、排除するしかない」

 

 時雨は、辺りを見渡した。何処から声が聞こえたのか?困惑する時雨を他所に、男性の見下した言葉は再び響き渡る

 

「戦争はビジネスだ。聖なる戦いというのが何処にある?」

 

 時雨は提督に目をやったが、提督はいつの間にかいなくなっていた。他の艦娘もいない。提督室にいるのは、時雨ただ一人だけ

 

「英雄は存在しない。愛国心も国防も平和主義もまやかしだ。お前達は、真実から目を背けている。艦娘は、この世にはいらない」

 

「違う!」

 

 艦娘の存在意義を否定する言葉に、時雨はいらつき吠えた。声の正体は、なぜか自分自身でも知っている。しかし、名前が思いつかない。だが、男性の声は容赦なく時雨を罵倒する

 

「いいか、お前達は、一人の科学者が独断で作り上げた存在。そんなあやふやな存在が、社会を受け入れるとでも思っているのか?」

 

「黙れ!」

 

 時雨が怒鳴ったと同時に、大爆発が起きたのか耳が潰れたかと思う程の強い爆発音が聞こえ、その後になって台風のような爆風が襲って来た。施設や提督室は爆風で飛ばされたが、なぜか時雨は飛ばされなかった。腕を交差させ目を閉じ爆風から身を守った時雨は、恐る恐る目を開けたが、目の前には戦艦ル級改flagshipはいた。きのこ雲を背景にしているため、返って不気味に映る。周りは、街の廃墟だった。時雨は攻撃しようと偽装を展開させたが、残念ながら弾は入っていない

 

「オ前達ハ、人類ニ見捨テラレタ。タカガ1人ノ人間デアル提督ニ何がガ出来ル?守ルダト?誰ノ為ニ守ッテイル?」

 

「君も利用されているだけ!自分の身を棚に上げて僕達を非難する資格はない!」

 

時雨は反論したが、戦艦ル級改flagshipは嘲るように笑っているだけだ

 

「浦田会社ハ今後モ栄エル。世界ノ為ニ。オ前達艦娘ト提督ハ、新タナ世界ノ発展ノ犠牲トナリ埋モレ去ルノミ。歴史ガ既ニ証明シテイル」

 

 時雨は地面に埋もれていく感じがした。まるで底なし沼にはまったかのように段々と地面に引きずり込まれていく。いや、地面ではない。数えきれない骸骨が地面に埋め尽くされている。そして、自分の周りには大勢の艦娘が、マネキンのように倒れている。艤装は破壊され、服は破れボロボロの状態でたくさん横たわっていた。声を掛けても返事はしない。吹雪も朝潮も不知火も神通も阿武隈も鳥海も金剛も赤城も瑞鶴も微動だにしていない。提督や博士どころか海外の艦娘までいる。自分は、その上に立っていたのだ。そして、謎の力で自分は埋もれていく。抵抗しようにも、中々いう事を効かない

 

「違う。浦田社長は、狂っている。金のために世界を滅ぼすなんて間違っている」

 

「私ハ世界ヤ戦争ニ興味ハナイ」

 

「狂っている!」

 

「ソレデハ埋モレテシマエ。誰モ助ケハ来ナイ」

 

 時雨は力を振り絞って脱出を図ろうとしたが、既に体の大半は横たわる艦娘達に埋もれていた。そして、遂には首まで沈んでいく……

 

「待って、話を聞いて!止めて!!」

 

遂には体全てが完全に沈み、視界は骸骨と横たわる艦娘に遮られた

 

 

 

「はっ……ここは……」

 

 時雨は目を覚ました。今のは夢だったらしい。急いで辺りを見回すが、全く知らない部屋だったために少し混乱する。窓もなく、明かりは電球1つだけで、薄暗かった。壁どころか、床もコンクリート製でかび臭い

 

 時雨は、未だにぼんやりとする頭で何故自分がこんな所にいるのかを思い出そうと思考する。その瞬間、フラッシュバックする戦艦ル級改flagshipとの戦闘。そして踏み潰された手足の記憶を。全てを思い出した瞬間、激痛が体中襲った。自分の右腕を見ると、壊れた艤装に自分の腕は踏みつけられすぎて、どす黒く潰れていた

 

「ひっ!!?うわあああああ!?」

 

 自分の腕に嫌悪した時雨は慌てて立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。左足は不自然な方向へ曲がって、立とうにも立てない

 

「ああああああ!助けてええええ!」

 

 息が荒くなり、床に這って逃げようとする時雨。ここは、何処なんだ?鉄製の扉を見つけたが、立ち上がってドアのノブを回す事が出来ない

 

 左手で力を込めたが、開かない。ドアを強くたたいても返事はしない。叫んでも反応はない

 

(どうする、どうする、どうする、どうする?)

 

 時雨は必死でこの窮地をどう脱出するか考えた。自分は、大破に等しい怪我を追っている。入渠すれば完治出来るが、ここでは期待しても無駄だ。提督も博士も捕まった。仲間はいない。つまり、自分でこの状態を何とかしなければならない

 

(どうすれば……)

 

 未来で深海棲艦は、艦娘を捕まえては『新型兵器』であるタイムマシンを聞き出そうとした。タイムマシンは機密扱いにしたため、製造に携わった明石達以外には知らされていなかった。そこまでは良かったが、あろう事にか深海棲艦は捕まえた艦娘を徹底的に痛めつけ拷問した。どうやって拷問したか知らないが、未来の提督に脅迫するために送られて来た映像では、捕らえられた艦娘達はボロボロだった

 

(まさか……嘘だよね……)

 

 時雨は泣きそうになった。これから行われるのは、尋問だ。何が何でも吐かせるつもりだ。自分は未来から来たと言えば、相手は信じられないかも知れない。だが、本気で信じてしまったら……。未来の記録は、奪われたのだろうか?

 

 時雨は恐怖し、絶望した。建造ユニットは鹵獲されただろう。まだ未完成だが、もし完成してしまったら……。未来と同じように、深海棲艦が艦娘を標的艦と称して新型ミサイルの標的にされたら……

 

(あああ……)

 

 発狂しそうになった。建造されてから、幾つもの地獄を味わった。幸運は、生き残ることだけしか発動されないらしい。何故か壊れた艤装を装備させられたままだが、当然、弾は抜かれている。無線通信も通じない。必死になって考えている内に……微かであるが、カツカツと歩く音が聞こえて来た。その音が、段々と近づいて来た事に時雨は、血の気が引いた。こちらに来ている!

 

 時雨は部屋の奥に逃げようとしたが、身体が思うように動かない。足音はここの扉の前で止まった。扉は開き現れたのは、艤装を外した戦艦ル級改flagshipだった

 

「君は……」

 

 知っている。研究所で対峙し、時雨を徹底的に負かした深海棲艦である戦艦ル改flagshipだった。ここは、深海棲艦の住処ではないはずだ

 

「やれやれ、随分と反抗的な小娘だな」

 

 戦艦ル級改flagshipは、呆れるような声で言ったが、時雨は驚愕とした。何故なんだ?通常の深海棲艦は、怨念のような声を発する。また、姫(?)として現れた深海化した吹雪も怨念のような声を発していた。しかし、この戦艦ル改flagshipは怨念どころか、底が見えない暗闇のような、虚無のような声を発していない。普通の……女性が話している自然な声。容姿さえ気にしなければ、コミュニケーションを取っても違和感は全くない。声を変えたのか?

 

「気になるか?地上に上がる際は、人に合わせた声を発する。私はそれをマスターした。潜入する術は、ここで学んだ」

 

 不審がられたのか、戦艦ル級改flagshipは面倒くさそうに言ったが、時雨はそれどころではなかった。余りにも人間に近すぎている。こんな現象は、未来の戦争どころか未来の戦闘記録にすら無かった

 

(な……何で……)

 

 今の時雨は、全身を襲う激痛で脳は冴えていた。こんな奇妙な深海棲艦と出会ったのは、初めてだ。おまけに艤装を外しているどころか、鞄を持って来ているのだ。余りにも人間臭い。時雨が納得していないのか、戦艦ル級改flagshipはため息をついた

 

「疑うのは勝手だ。好きにしろ」

 

戦艦ル級改flagshipは部屋に入ると、扉を閉めた

 

「ここは……どこ……?」

 

「ここは、浦田重工業が経営している、民間刑務所だ。刑務所が民間の手で運営しているようなものだ」

 

 時雨は質問すると同時に必死になって考えた。戦艦ル級改flagshipの答えは素っ気ないものだったが、場所までは教えてくれないだろう

 

「僕を……どうする気……?」

 

 身構える時雨だが、意外にも戦艦ル級改flagshipは鼻で笑った。鞄から水筒を取り出すと、時雨の口に持って来させた

 

「飲め。話はそれからだ」

 

 時雨は、水筒から流れる水を貪るように飲んだ。喉が干上がるように乾いていた。水筒にあった水を全て飲み切ると、戦艦ル改flagshipは水筒をしまった

 

「私は『主』である浦田社長の野望には、興味はない。ただ、支配力を強くするために力を行使する事だけは、意見が一致した。利害の一致だよ」

 

「え?」

 

時雨は耳を疑った。支配力を得るために、浦田重工業を手を組んだ?

 

「お前が『軍艦だった頃の世界』の戦争を体験したはずだ。戦争なんてそんなものだったはずだ。兵器は、支配するためにある。強力な兵器を持った者は、力を行使し弱い者を従わせ、王として君臨する。歴史を振り返って見れば、当たり前の事だ。この世界だけではないだろう?」

 

「僕は……僕達は君とは違う!」

 

 時雨は食い掛かった。時雨を始め他の艦娘達は、浦田重工業や目の前にいる戦艦ル級改flagshipのように世界を支配しようと考えた者はいなかった

 

「そうか?銃が発明された時、ヨーロッパの国々は何をしたと思う?他の国を支配するために使われた。スペインが南米のアステカ帝国・インカ帝国を征服出来たのはどうやったかと思う?兵器の力だ」

 

「何が言いたいんだ!?」

 

 時雨は、苛立った。浦田社長といい、戦艦ル級改flagshipといい、ここの人達はとんでもない連中だ。聞いているだけで、怒りが沸き上がってくる

 

「はあ……。要は、目障りな国や組織をぶっ潰してこの世の全てを私の物にすると言う事。バカでも分かりやすく言ったから、これで理解出来ないとは言わないだろうねぇ?」

 

 怨念のような声でもない拘わらず、時雨はゾッとした。世界を攻撃する事に手を貸している深海棲艦は、こんな単純な理由なのか?

 

「不思議がる事は無い。戦争なんてそんなもの。愛国心?誰かのため守る?そんなのは、ドブに捨ててしまいなさい。力もない綺麗事の言い訳は、反吐が出る」

 

「君には……分からないよ……。僕が……僕達が守りたいのは……理由がある」

 

「ほぅ~。そうか?さぞかし立派で感動的なものだったんだろうね」

 

 戦艦ル級改flagshipは嘲り笑ったが、時雨は怒りで一杯だった。自分達は、大切な仲間を守るために戦って来た。ある者は、この世界が好きだった。ある者は、大切な人のために。別の者は、その理由を見つけるために戦っていると言う。だが、目の前にいる戦艦ル級改flagshipは、支配するためという下らない理由で攻撃するのだと

 

「下らない!」

 

「お前から見たらそうだ。しかし、その信念もいつまで続くのか楽しみね」

 

戦艦ル級改flagshipは顔を近づくと、時雨の耳元で囁いた

 

「正義は時が経てば、歪むものよ。力を持つ者は、必ず暴走する。それは武力だけではない。権力も金も法律も全て当てはまる。虐げられた者だって力を与えれば、復讐として相手を必ず襲う。決まりきった事よ」

 

 時雨は戦艦ル級改flagshipから離れた。余りにも気持ち悪かったためだ。もう聞きたくもなかった。自分が信じて来たものが歪められそうだ

 

「何を言っても無駄ね……。残念だわ。『狂人』の親子に深く肩入れするなんて」

 

「君は分かってはいない!僕達が、どんな酷い目にあったかを!」

 

 荒い息を立て、戦艦ル級改flagshipに睨む時雨。しかし、戦艦ル級改flagshipは時雨の怒りに全く気にすることなく、鞄からあるものを取り出した。それは……

 

「……!!」

 

 時雨は声にならない悲鳴を上げた。鎖と拘束用の鉄の輪っか、そしてずっしりとした鉄製の重り。他にも転がって来たが、それが何に使うのか理解すると時雨は震え始めた

 

「大丈夫。正直に話してくれたら、これらは使わないで上げる」

 

時雨の恐怖した顔を見てニヤリと笑った。この女はまさか……

 

「但し喋らなかったり、嘘をついたりしたらどうなるか分かるわね?」

 

 優しい言葉で言って来た戦艦ル級改flagshipに対して時雨は、怒りが引いていくのと同時に、恐怖が沸き上がって来た。この戦艦ル級改flagship……拷問する気なのか?

 

「待って……僕は……」

 

「答えが違う」

 

 戦艦ル級改flagshipの目は笑っていない。抵抗する時雨を捕まえると、あっという間に作業を始めた。時雨は泣きながら懇願したが、相手は全く許してくれなかった

 

「ここは、死刑囚を収監するための特別区画だ。取り調べ室のな。防音仕様で周りが無いと言えば、想像出来るでしょう?」

 

「……」

 

 時雨は苦痛と恐怖で悲鳴を上げそうになった。鎖は部屋の天井から伸び、時雨の両腕を固定し釣り上げ、時雨を立たせ続けている。潰れた右腕を無理矢理拘束し、吊るしたため時雨は痛みで悲鳴を上げた。 しかも両足は、バタつくことができないように鉄の重りが取り付けられていた。もう逃げる事が出来ない

 

「では、早速質問よ。貴方は何者?」

 

 核心的でしかも、痛い所から突いた質問。 時雨は焦った。だが、相手は考えてさせてくれる時間を、与えてくれないようだ

 

「があ……!」

 

 激痛が走り、何が起こったか分からない時雨。戦艦ル改flagshipが時雨にパンチをしたためだ。戦艦の事もあってか、打撃力が違う。しかも、手加減などしていない。人が食らったら、内蔵破裂で即死だろう。まさか……

 

「艤装をそのまま付けた理由は、それだ。艤装は深海棲艦と同様の生命線。これがあれば、人が木端微塵の爆発でも耐えられる。但し、痛みは別だ」

 

 時雨は青ざめた。艦娘であるために、最悪の状況に置かれている事に理解した。なぜ、未来において深海棲艦は拷問をしたのか?その理由が、分かったような気がした。手加減なしで痛めつける事が出来る。例え正しい事で言っても、手を緩めるような事はしない。未来において、捕まった艦娘達に壊れた艤装が付けられたままである理由が分かったような気がした

 

「次は何処を殴って欲しい?」

 

既に殴られた箇所には、既に紫の痣ができ、流血していた。これが幾度も続くのか?

 

「僕は……あの建造ユニットから生まれ――」

 

 次の瞬間、時雨は意識が飛んだ。戦艦ル級改flagshipの拳が、時雨の腹部にめり込む。内臓がひしゃげるような痛みが身体に走ったため、時雨は意識を保つ事が出来なかった。しかし彼女は、倒れこむこともできない。 そして、水を被せられ強制的に意識を回復させる。意識が失っている間に、水がたっぷり入ったバケツを持って来たらしい

 

「建造ユニットは未完成だ。なのに、どうやって生まれた?まさか、胎児から生まれたとか言わないでしょうね?」

 

「う……うう……」

 

 時雨は泣きそうになるが、答える訳にも行かなかった。話せば、将来が見えて来る。自分はどうなってもいい。ただ自分達が、浦田重工業に利用された兵器になるのだけは勘弁だ。だが、助けが来ない事も事実だ。この世界で、艦娘は時雨が1人だけだ

 

「僕は……嘘なんて……」

 

「ふん。なら、艦娘の限界を確かめされてもらう。深海棲艦は、地球上に無い元素を力にして生きている。海上、海中、海辺しか効力を発揮できない。人間とは違う生き方や考え方もあり、身体能力も人間より上だ。お前を造った『狂人』が書いた論文だ。『狂人』は愚かではない。深海棲艦をよく調べ尽くしている」

 

 時雨は、戦艦ル級改flagshipをまともに見る事が出来なかった。自分のことは、よく知っている。確かに艦娘は、確かに人外である力を持っている。しかし、それはあくまで限定的だ。深海棲艦と比較すれば容姿以外は劣るだろう

 

「お前はどうだ?艦娘は、艤装が無いと海を渡れない事は分かっている。いや、それをつけなければ効力を発揮できない。そして、それをつけ続けている限り、死なない事も。中途半端な身体がアダとなったわね!」

 

 時雨は、再び悲鳴を上げ泣き叫んだ。だが、いくら泣き喚こうが、誰も助けなぞ来ない。仲間である艦娘は、この時代にはおらず、提督も未来の提督のような軍人ではない。言うまいと固く決めて出鱈目な事を言ったが、戦艦ル級改flagshipは全く信じなかった。返答する度に、殴られた。意識を失っても、無理矢理起こされ、またいたぶられてる。いつまで続いたのか分からない。それが何時間続いたのか。時雨が気がついた時には戦艦ル改flagshipは居なくなった

 

「…やっと……いなくなった……」

 

 弱弱しい声で時雨は呟いた。相手は疲れたのか、それとも何か用事で出て行ったのか?しかし、相手は諦めたとは思えない。また来る可能性がある。そして、自分の身体と服と偽装は、ボロボロだ。血と汗の匂いが匂う。それが自分から出たものだと知っていても、気持ちが悪かった

 

「……本当の事を言わないと……これが毎日……。ダメ……さすがに死んでしまう……」

 

 しかし、艤装が取り付けられている以上、艦娘は簡単には死なない。ここから脱出する事を考えないと行けないが、どうすることも出来ない。仮に拘束から解放されても右腕も左足も動けない状態で逃げる事は不可能だ

 

「この鎖を引きちぎる方法を考えないと……」

 

「無駄だ。だから、お前の右腕を潰した。希望でも抱いていたのか?」

 

 いつの間にいたのか、戦艦ル級改flagshipが部屋に入って来た。頭が正常に働かなかったのだろう。ドアが開く音が聞こえなかった。今度は、多くの道具を持って来て。鞄から鞭や艤装用の対空機銃などが覗かせていた

 

「……!」

 

「泣きそうな顔しないの。夜でも仕事はあるのは当たり前」

 

夜!まさか、この戦艦ル改flagshipは休みすら与えてくれないのか?

 

「戦争は、夜でもある。さあ、本当の事を話して貰うよ!」

 

 時雨は再び悲鳴を上げる羽目になった。だが、どんなに喚いても誰も助けに来ない。戦艦ル級改flagshipは時雨が苦しみ泣き続ける姿を楽しんでいた

 

 何時間も拷問は続いた。朝から晩まで、深夜でも。手加減は一切なし。食事どころか睡眠すら取らせない。抵抗しようと暴れるが、重りのつけられた両足に、拘束された両腕では満足に動くことすらできない。そんな状態である時雨を戦艦ル級改flagshipは、休みすら与えず、いたぶり続けた

 

打たれ、撃たれ、殴られ、蹴られ、踏まれ、斬られ、刺され、なじられ

 

 涙は枯れ、体はボロボロになり、心は完全に壊れた。だが、そんな状態でも時雨は、自分の正体を明かさない。自分達の艦娘のために守らないといけない。ただ、それだけだった

 

 

 

「強情な奴ね。感服するわ。普通ならとっくに喋ると思うのに、よくこんな痛みに耐えるわね」

 

 どれくらい時間が経ったか分からない。もしくは数日か?時計もなく、戦艦ル級改flagshipもあまり席を外さないため時間の感覚が分からない。感じるのは痛みだけ

 

「何か言わないと困る。私も暇じゃない。それにムチじゃ泣かないか。もっと違うやり方で聞くかしら?」

 

「い……言うよ……」

 

戦艦ル級改flagshipは時雨の反応に喰いついた。やっと心が折れた!そう確信した

 

「では、言え。全て話して貰う」

 

「僕は……」

 

時雨は息を吸い込むと、罵声を浴びせた

 

「僕は君を必ず沈める!本当は、君は僕達が怖いんだろ!艦娘によって沈められるなんて思いもしなかっただろ!人間の兵器には効かないのに、僕達の攻撃は効果あるんだから恐れたんだ!だから、最新鋭兵器という卑怯な手段を使って僕達を攻撃した!だから、僕達をここまで痛めつけた!だけど僕達は屈しない!そんな事をしても、僕達は変わらない!それが僕達、艦娘だ!僕は君を絶対に許さない!」

 

 普段の時雨とは、思えない荒げた声。他の仲間や提督が聞いたら、身が引いていたに違いない。確かに時雨は負けを認めそうになったが、ある言葉だけは自分に言い聞かせていた

 

(負けちゃだめだ……言ってしまったら……全て終わる)

 

 未来や艦娘などの情報を話せば、全てが終わる。犠牲は自分一人でいい。例え、助けが来なくても……。例え、この身体がダメになろうが……。僕は、味方を絶対に売らない!

 

「艦娘を舐めないで!」

 

 時雨の思わぬ言葉に、戦艦ル級改flagshipは唖然とした。全く、心は折れていなかった。それどころか、『提督』と呼んている『狂人』親子を庇っている節がある。なぜ、ここまで庇うのか戦艦ル級改flagshipは理解出来なかった。思い通りにならなかったことで戦艦ル級改flagshipは怒りに任せて、時雨を思いっきり殴った。時雨が気絶しても戦艦ル級改flagshipは肩で息していた

 

(何なんだ、こいつ……)

 

 戦艦ル級改flagshipは諦めかけていた。初めは痛い目に会えば、たちまち自白すると思っていたが、まさかここまで強情とは思わなかった

 

「気が変わった。別のやり方で調べる。閉じ込めたあいつらと一緒に過ごせばいい。せいぜい、負け犬同士仲良くしな」

 

 拘束した時雨を解放すると時雨を連れてある場所へ向かう。勿論、気絶した時雨を床に引きずり回しながら

 

 戦艦ル改flagshipはある場所とは、窓もなく鉄の扉以外、四方がコンクリートで囲まれた狭い牢屋の区画である。ある部屋を開けると中に入る

 

 その牢屋には先客が2名いた。戦艦ル級改flagshipの姿を見た先客達は、少しでも離れるように壁の方へ逃げる。だが、戦艦ル級改flagshipは、先客2名を気にしない。ボロボロになった時雨をゴミを投げるかのように牢屋に入れると、そのまま扉を閉めて行ってしまった

 

 

 

 先客2名の内、1人は時雨に近づかなかった。少女の酷さに驚いた事もあるが、それと同時にこの少女はただの人間出ない事に気付いたからだ。しかし、もう1人は違った。外見は時雨よりも幼いかも知れない。それも少女だった。警戒しながら近づいたが、少女が動かない事が分かると一気に近づいた。怪我の酷さを確認した後に、その者はもう1人の者に訴えた

 

「酷イ怪我ヲシテル。助ケナイト」

 

 だが、もう1人は違った。なぜ助けなければならないのか?自身の本能で訴える。倒れている少女は将来、我々にとって脅威にも成りえる

 

 しかし、彼女には分からない事が1つあった。なぜ、この者を痛めつけたのか?それが理解出来なかった。暫く考えた後に、その者は口を開いた

 

「アイツメ……。毎回……来ルナ…ト……言ッテイル…ノニ……」

 

 




大丈夫……救いは……
牢屋に居た2人は一体……

 それはそうと、現実では日本の民間刑務所は4つしかありません。名前も『社会復帰促進センター』というもの。また、完全に民間委託というものでもなく、PFI(官民協働)刑務所との事

民間軍事会社もピンからキリまであります
戦闘機、攻撃ヘリコプターなどの航空兵器や、戦車、歩兵戦闘車などの軍用車両、輸送用のボーイング707なども運用する程の民間軍事会社もいれば(流石にやり過ぎとの事で政府に潰された)、軍事訓練はおろか防弾チョッキもヘルメットも支給されず、そのまま現地に派遣すると言ったブラック(?)会社まである
ある番組でアメリカ人PMC派遣社員によれば
「イラクにはありとあらゆる国籍の労働者が集まっていました。フィリピン、中国、インド、ネパール、バングラディッシュ、シエラレオネ……最貧国から少しでも高い賃金を求めてきた人々がね」
との事
PMCの派遣社員なのに米兵と武装勢力との間で銃撃戦が始まると、色んな他国語で喚いたり脅えてたりしたらしい
傭兵専門のPMCでないところは人材などは、出稼ぎ派遣社員に近いため完全に赤軍状態で使い捨て。武装勢力に誘拐されて処刑された奴も居るとの事

 それを考えるとメタルギアシリーズに登場する傭兵組織『ダイアモンド・ドッグズ』や傭兵国家である『アウターヘブン』。ある意味、凄いと思います。組織的ですから。カズヒラミラーやビッグボス達の苦労がよく分かります
現地の兵士を誘拐して(フルトン回収)、相手を説得し、自分達のために働かせる。『愛国者達』に立ち向かうためには必要な事だから仕方ないですね
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