時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第53話 空からの追っ手

 時雨と訳あって港湾棲姫と北方棲姫まで助け出した一同は、特別区画の廊下を駆けた後、階段を上り地上へ出た

 

 時雨は外の空気を感じた。今は冬なので、肌に冷たい空気が傷口に染みた。寒さよりも傷口の痛さに時雨は、提督の腕を掴んだ。これは夢ではない。提督は現れて、助けに来てくれた

 

 先程まで戦闘が起こったとは思えないほど外は静まり返り、陸軍兵士が辺りを警戒している。真っ暗だが星は輝いており、ある程度は見える。正門を抜けると、数台の軍用車両と兵士達が待機していた

 

その集団の中に彼はいた。バケツを持った博士と整備道具を持った妖精が待機して

 

「早く時雨を!」

 

「……!なんて事だ」

 

 博士も時雨の酷さに息を呑んだ。浦田重工業の連中が拷問するとは思わないだろう。いや、監禁されたことから手荒な真似はするだろうと予測できたのだが、ここまでやるとは思わなかったらしい

 

「下ろしてくれ。高速修復材を被せる」

 

 時雨は自分の身体が地面に降ろされたのを感じた。ひんやりとした地面が背中につけられた傷口を圧迫し、時雨は呻いた。

 

「うう……」

 

「安心しろ。これで完治できる」

 

 時雨は自分が液体に被せられるのを感じると同時に身体中に蝕んでいた痛みが引くのが分かった。何も感じなかった右腕と左足の感覚が戻ってくる。時雨は自分にかけられている液体が何なのかは分かっていた。高速修復剤だ

 

「……っ」

 

 痛みが完全になくなった事を確認した時雨は起き上がって立った。戦艦ル改flagshipにあれだけ痛めつけられた身体は、何事もなかったかのように元に戻っていた。服も艤装もだ。戦艦ル改flagshipに踏みつけられ潰れた右腕も折られた左足も元に戻り動く。恐る恐る立ち上がって体重を掛けたが、左足は何事もなかったかのように支えてくれる。右腕も動かしたが、何事もなかったかのように動いている

 

「大丈夫か?」

 

「うん。博士……聞いていい?『超人計画』は本当なの?」

 

時雨の質問に提督の父親は、苦虫を噛み砕いたような顔をした

 

「すまない……。ワシは……」

 

「親父、色々と事情があるかもしれないが、後にしてくれ」

 

 時雨は色々と質問したかった。父親は悪人ではないかも知れない。事情があるかもしれないが、真実を知りたかった

 

「分かっている。知らなかったは通用しないのは分かる。後で話そう。時雨、まずはここを逃げ出さないとな」

 

「うん。そうだね」

 

 時雨は頷いた。誰を信じていいのかは分からない。ただ提督は僕を心配してくれた。それだけで十分だった。疑問は後から聞けばいい

 

「親父、頼みがあるんだが?」

 

「何だ?」

 

「信頼を得るには行動しないとな。ちょっとした問題があった」

 

 父親は頷いた。艦娘である時雨に不信感を抱かせてしまった。もう過ぎた事を問い詰めても仕方ない。彼はそれは分かっているようだ

 

「何だね?」

 

「お姫さんを頼む」

 

「姫って……な!?」

 

 提督が指を指し父親は目線を追ったが、その姿に驚愕した。負傷しているのだろう。港湾棲姫が足を引きずりながらこちらに向かっている。北方棲姫を抱えながら。予想外の事に陸軍兵士達は混乱し悲鳴を上げながら銃を構える。中にはロケット砲や重機関銃まで構える兵士までいる

 

「待て!撃つんじゃない!捕虜だ!」

 

「ほ……捕虜って」

 

「大丈夫だ!攻撃する気なら私はとっくに死んでいる!」

 

 陸軍将校の命令で兵士達は戸惑いながら武器を降ろす。命令を無視して構える兵士が数人いたが、軍曹の厳しい口調でようやく全員武器を降ろす。親父は信じられない顔で提督に聞く

 

「あれは行方不明になっていた姫級じゃないか!?何処におった!?」

 

「捕らえられていた。一緒の牢屋にいたから」

 

 提督が応える前に時雨は先に答えた。時間が無いため、簡潔明瞭に陸軍将校達にも説明した

 

「つまり、深海棲艦を操るにはボスである姫級を捕らえたって事か!なんというずる賢い連中じゃ!」

 

「そうなのか……?浦田重工業の奴は姫級まで操れていないなんて……。と言うより、深海棲艦なら簡単に突破出来るはずだが?」

 

「ソレハ違ウ。私ノ部下達ハ……指揮権ハアイツニヨッテ奪ワレタ。アンナ奴等ニ操ラレルホド馬鹿デハナイ。奴ラハ私達ニ薬カ何カデ弱ラセタ」

 

 博士の驚愕に軍曹が困惑したが、港湾棲姫は否定した。恐らく、浦田重工業は指揮権強奪の為に姫級を監禁したらしい。捕まっていたにも拘わらず、弱気すら見せない港湾棲姫。北方棲姫を抱えている事から母子の関係のようにも見えてしまう

 

 しかし、ここで疑問が出て来る。浦田重工業はどうやって港湾棲姫を倒したのか?だが、この疑問も後回しだ

 

「親父、あの姫達を頼むぞ」

 

「いや、ちょ……!待ってくれ!」

 

「大丈夫だ。8代目のように優しく扱えばいいだけだ」

 

「ワシは先祖のようにはやっておらん!研究はしてたが、艦娘計画に必要な――」

 

 しかし、博士は文句を言うのを止めた。皆の目が集まっていたからだ。議論よりも早く逃げる準備しろ、という空気が漂っていた。刑務所に残っていた兵士は全員引き上げており、撤収準備をしている。グズグズしていたら浦田警備員の増援が来るかも知れない

 

「大丈夫だよ。捕まっている間、僕を気遣ってくれた」

 

「はぁ……。仕方ない。これも運命か」

 

 時雨もフォローしたため、博士は折れた。トラックや兵員輸送車などの軍用車両に乗った。時雨は提督が乗っているバイクにまたがった

 

「悲鳴あげるなよ」

 

「大丈夫……もう離れたくない」

 

 懐かしかった。バイクが発進しても、時雨は提督の身体をぴったりとくっつけて悲鳴もあげずにいた

 

 

 

 浦田重工業の本社ビルのある区画は大騒ぎだった。所謂、司令塔であり会社が保有している施設を24 時間モニターしているが、その2つの施設に異常が発生した。それは民間刑務所と変電所である。誤作動かと思ったが違う。しかも、通信が取れない。やっと、警備長が連絡がきたが、内容が信じられないものだった。何と陸軍が攻めてきたというのだ。変電所をやられたため、刑務所のある一帯は停電である。刑務所では死傷者多数、増援求むという連絡までしているという。この異常事態は直ちに浦田社長に通報した。数分後、浦田社長が不機嫌な顔をしながら司令塔へやって来た

 

「状況は!?」

 

「わが社が保有している民間刑務所と変電所に襲撃が発生!そこを守っていた看守及び警備員は壊滅しました」

 

「壊滅だと!」

 

部下の報告に浦田社長は叫んだ。あの陸軍ごときでやられたのか!?

 

「他に情報は!」

 

「報告によると、襲った陸軍は502部隊のようです。彼等は囚人には目をくれず、特別区画の牢屋から姫級二人と艦娘を強奪しました」

 

「なんだと!」

 

「それだけではありません。例の親子を監禁していた警備長からの定時連絡が一時間前から途切れました。通信不良と思ったのですが、機器に異常は発見されませんでしたので――」

 

「全部502部隊の仕業か!」

 

浦田社長は近くの椅子を蹴飛ばし、椅子は壊れはしなかったものの床に倒れた

 

 502部隊の工作員に侵入された浦田社長は、直ちに報復として基地を襲ったが、誰もいなかった。隠れているどころか、小癪な手で反撃して来た。しかも報告によると、502部隊は何と自動小銃どころかロケット砲まで持ってるという。何処で手に入れたのか?

 

……まさか、兵器をコピーされた?確かに銃のコピーは難しくないが、それなりの知識や技術は必要だ

 

「戦艦ル改flagshipはどうした?刑務所にいたはずだ!」

 

「入れ違いです。現在、現場に急行してますが、時間がかかります!」

 

これも計算したのか!戦艦ル改flagshipの正体に気付いたのか?

 

 実は刑務所で戦艦ル改flagshipと遭遇しなかったのは、偶然である。流石の502部隊も戦艦ル改flagshipを把握していなかった。あくまで偶然。陸軍や提督にとっては幸運。浦田重工業は不運だった

 

冷静を取り戻した浦田社長は、指示を出した

 

「過ぎた事は仕方ない!だが、この代償は払ってもらう!……格納庫Aにある奴を発進させろ!」

 

 浦田社長の命令に副社長どころか部下も一人残らず顔を見合わせた。あの格納庫の中にある兵器を使うのか?

 

「……よろしいのですか?」

 

「構わん!私が許可する!さっさとパイロットを叩き起こして来い!」

 

 部下の1人は恐れながら聞いて来たが、帰って来た返事は実施せよとの事だ。部下の一人は急いで部屋を出たのを合図に辺りは騒々しくなった。追撃するための準備にかかったのだ

 

「警備隊長!部隊を編成して出撃しろ!奴等を全滅させるのだ!姫級と時雨と狂人の息子は必ず捕らえろ!他の者は死んでも構わん!」

 

命令を受けた警備隊長は、他の者と違いニヤリと笑い敬礼した

 

「分かりました。ですが、報告によると502部隊が持つ武器は、普段の陸軍とは違うようです。格納庫Dの兵器類を使ってよろしいのですか?」

 

「構わん!許可する!武器弾薬をありったけかき集めて攻撃しろ!」

 

「分かりました」

 

警備隊長は意気揚々としながら部隊を編成するため外へ行き、他の者は502追跡の為に動いていた

 

 

 

 本社ビルから離れた場所に秘密の飛行場があった。そこは新型の航空機をテストする場所である。しかし、格納庫のいくつかは人の目に触れないようにいつも閉じていた。警備も厳重で資格を持った人でないと入れない。その格納庫が深夜にも拘わらず音を立てて開いた。格納庫に入っていたのは、ある航空機だった。しかし、この航空機はこの時代には存在してはいないものだった。エンジンがかかり、プロペラが回り出すと滑走路に進み出た。偶然通りかかった一般の人達は、爆音を聞いて夜空を見上げた。ある2機の飛行機が滑走路から飛び上がった。夜中に上がるのは珍しい。しかも……

 

「なあ、あの飛行機。形がおかしくなかった?しかも、プロペラが後ろに付いてたぜ?」

 

「飲み過ぎて目がおかしくなったのか?どうせ、浦田重工業の新型のテストだろうよ」

 

 生憎、その人達は酒に酔っ払った者だったので気にはしなかった。その後も別の格納庫から異形の形をした兵器が現れたが、これは誰も目撃者はいなかった

 

 

 

 502部隊の数台の車両はある地点に向かっていた。人目から離れた場所としか言われていない。現在は国道を走っている。提督と時雨が乗っているバイクは、車列に付き添うように走っている

 

「あいつの話と博士が伝わった話とは違うんだね」

 

「ああ、お前を人間不信にするのが目的だったが……くそ、嫌な情報だ」

 

 バイクに乗っている間、二人は互いに情報を出しあって整理していた。感動の再会やメンタルケアは、後回しだ

 

「未完成の建造ユニットは奪われてしまった。完成してしまったら、浦田社長は直ぐに使用するだろう。建造された艦娘が犠牲になってしまう」

 

「今すぐ奪回か破壊しないと」

 

「いや、今はそれを実施できる力は無い。出来る事は安全な所へ行く事だけだ」

 

 未来のノートや記録は無事だったが、建造ユニットは奪われてしまった。未完成であるため、建造は出来ないだろう。しかし、浦田重工業の力があれば完成させるはずだ。それだけは阻止したかったが、それを実行出来る力は無かった

 

「時雨……俺を恨んでいないか?」

 

「……聞かされた時は……でも、その前に真実が知りたかった」

 

 時雨は歯を食い縛った。身体は治ったものの、精神は完全には立ち直っていない。また、拷問された事への恐怖と怒りが納まらない。あの時は、本気で死を覚悟した。しかし、提督の殺害を聞かされた時は、目の前が真っ暗になった

 

「提督を殺すと知らされた時は……僕は生きる事を諦めた。任務も世界もどうでもいいと」

 

「……」

 

「僕は気づいたんだ。完全な人間なんていないって。完璧な艦娘はいないのも。新型兵器がタイムマシンと聞かされた時だって……僕は……何のために戦っているのか分からない。だって……僕は皆と一緒に楽しく暮らしたい。ただ、それだけなのに。……皆は僕達艦娘を毛嫌っている」

 

 枯れた涙だと思っていたが、涙腺から涙が出た。未来で多くの艦娘が犠牲となった。もう記憶が薄れている。名前は思い出すものの、顔はベールでもかかったかのように思い出せない。タイムスリップする際、最低限の荷物しか持っていっていないため写真も持っていない

 

「もう……戦いたくない。失うのは嫌だ」

 

「……」

 

 提督は何も言わない。どう判断していいのか分からないのだろう。暫く、両者の間で沈黙が続いたが、提督が言葉を切った

 

「時雨……俺は親父の艦娘計画を聞いて馬鹿げたアイデアかと思った。何故か分かるか?」

 

「分からない」

 

「それは女の子が深海棲艦を倒すという計画なんて信じられなかったからだ。冗談かと思ったが」

 

提督アクセルをふかしながら話す

 

「お前の力にも驚いたが……お前の思考能力にも驚いたんだ。見た目が本当に女の子だったから」

 

時雨は何も言わない。そうだ。僕は軍艦ではない。無機物のような兵器ではない

 

「親父は正しかったというより、お前の身体に気をかけた。試験の際、駆逐イ級をたくさん倒しても何とも思わないお前に驚いた。なぜなら、俺は軍人になる事を目指すために軍事関連をたくさん勉強はしたから。……戦場ではパニックになる人もいる」

 

 所謂、シェルショックである。命のやり取りが強い戦場においてパニックを起こす兵士は必ずと言っていいほど出る。勿論、その前に兵士に何かしらメンタルケアをしなければならない。酷いときには退役するのだが、日常生活に戻った兵士の中には、未だに立ち直れない人もいるという。麻薬などに手を染める者や犯罪を侵す者もいる

 

「しかし、お前は違う。見た目は幼い少女なのに、戦ったあとも普通に振る舞う。だから、見守りたかった。お前が壊れないかを気にしていた。……君の仲間の事は気の毒だった」

 

「……」

 

「恐らく、未来の俺もそうだっただろう。駒としてでなく、家族として、そして一緒に戦う仲間として見守っていた。『超人計画』の事を知ったとしても、未来の俺はどうでもいいと思っていただろう」

 

 提督の話によると未来のノートでは、『艦娘計画』が成功しても、大本営に艦娘を引き渡さなかった。米国の対国家戦を想定とした新たな艦娘研究も亡命も断ったとの事だ。

 

「時雨……俺も隠して居たことがある。未来において深海棲艦が使っていた最新鋭兵器の正体。あれはお前が『艦だった頃の世界』の未来に開発された兵器だ」

 

「え?」

 

 時雨は間抜けた声を出した。浦田社長に見せられた映像や棚にあった模型の兵器に見覚えがある兵器が度々登場していたが……

 

「アイオワが教えてくれた。但し、未来の俺は仲間割れを防ぐため、あえて教えてくれなかった。ノートにアイオワの手紙が挟まっていた。コッソリとな」

 

「……!」

 

「どうした?許さないのか?」

 

 時雨は僅かながら怒りが沸いた。未来の提督は、既に敵の兵器の正体も分かっていたのに教えてくれなかった!しかし……

 

「大丈夫だよ。指揮官である提督の判断なんだよね、それ。アイオワの技術が無ければ僕達全員、沈んでいた」

 

「ありがとう。……話を戻そう。観艦式でイージス艦を見たのを覚えているか?あのイージス艦も立派な未来兵器だ。しかし、アイオワの話では歪な形をしているという。しかも、コピーした可能性が高いとの事だ。浦田社長は、何かしらの手段で未来兵器を持ってきた可能性が高い」

 

 提督が言うには、未来の戦争において最新鋭兵器は、ほぼ未来の米海軍をモデルにしいるという。アイオワが確認したとの事だ。しかし、反艦娘団体が使われていた武器は何とロシア製の武器が使われていたという。AK47やRPG-7などと呼ばれる武器を使っていた事によるとロシア製の兵器を渡していたらしい

 

「502部隊はRPG-7と呼ばれる兵器をコピーして使っていた。陸軍将校は浦田製だと思っているが、違う。アイオワが残してくれた手紙に書かれてあった」

 

「そんな……僕達は未来の兵器と戦ったって事!?」

 

 時雨は驚いた。確かに『艦だった頃の世界』では、米海軍は兵器開発は凄まじいものだった。レーダーは備えるし、こっちは未だに零戦だったが、相手は既に新型艦載機を登場させていた

 

 しかし、この世界の未来の戦争は、時雨が経験した戦争は次元が違っていた。そもそも、生き物のように狙う兵器なんて『艦だった頃の世界』でも聞いたことがない

 

「浦田社長の野望はともかく、何か聞かかなったか?どうやって、手に入れたのかは話さなかったか?やつらは、何か不自然な発言をしていなかったか?」

 

 この命令は酷であった。何しろ浦田重工業によって酷い目に合わされたことを思い出さなければならなかった。だが、時雨は拒否しなかった

 

(僕が何とかしないと……)

 

 散って行った仲間も同じ目にあった。自分達の姉妹艦である五月雨も同じく捕らえられミサイルの標的艦にされた。だが、敵に撮られた時の最期は笑って別れを告げた。現在、戦える艦娘は僕だけだ。提督は無事だ。僕は高速修復剤で回復した。ここでくじけば誰がやる!

 

 時雨は必死に思い出した。浦田社長が自分に罵られた言葉、仲間の仇すら取れず戦艦ル改flagshipに力負けした屈辱、牢屋に閉じ込められ補給どころか食事すら与えられなかった日、戦艦ル改flagshipによって暴力が振るわれ身も心もボロボロにされる毎日……

 

張り裂けそうな言葉を必死に思い出す中、ある言葉だけ引っかかった。あの時の……

 

「……!そう言えば……」

 

 提督に伝えようとしたその時、前方に走っていた車両が大爆発を起こした。突然の爆風で提督は、バイクを横滑りしながら停止させた。急ブレーキすれば、バランスが崩れるためだ。後続の車両も突然の出来事に急停止したが、数台は玉突き事故を起こした

 

「攻撃だ!」

 

「何処からだ!?」

 

 隊長は辺りを見渡すが、敵はいない。今は月も星も出ているため、ある程度は見える。しかし、敵が見当たらない

 

 そんな中に、港湾棲姫は車両から急いで出てくると車両の後ろに向かって全速力で走る。そして、何処から持ってきたのか、歯をむき出しにした大きな口がついた白っぽい球形を召喚したのだ。その白い物体は、上空に浮上した

 

 何をしているのか分からなかったが、その時、白い物体は大爆発を起こした。爆風で全員が怯んだ。何が起こっているのか、分からない

 

しかし、爆発音とは別に、航空機であろう爆音が上空を通りすぎるのが聞こえた

 

「あれは!」

 

時雨は見た。上空に奇妙な航空機が通りすぎるのを

 

一瞬とはいえ、炎にの光に照らされた航空機を見て、全員気づいた

 

浦田重工業の刺客だ!

 

「負傷者を収容しろ!早く!」

 

「夜中に飛ぶのか?あり得ない!」

 

「あそこだ!見えるか!」

 

 夜目がいい兵士が居たのだろう。提督は暗視ゴーグルを再びかけると、夜空を見上げた。確かに上空に見慣れない航空機が2機飛んでいる。旋回してこちらに向かってきている

 

「攻撃してくる!早く移動しないと!」

 

「そんな……僕には見えない」

 

 時雨は艤装を構えたが、敵が何処にいるか見えない。そもそも、真夜中に空襲があるなんて思っても見なかった。未来でも夜の空襲はあったが、それはアイオワのF100が対応してくれたからだ。夜戦の空襲は自分達に不利だ。夜戦好きな川内さんでも無理だろう

 

そんな中、港湾棲姫が博士と押し問答していた。何をしているのか?

 

「資源寄越せって何を言っている!」

 

「浮遊要塞ヲマタ造リ出ス!死ニタイノカ?」

 

 時雨と提督は、バイクを降りると駆け寄った。敵が迫って来るなか、この喧嘩は自殺行為だ

 

「親父、何があった!」

 

「資源を渡せって言ってきおった。何の為にするか知らんが」

 

「違う!あれは浦田重工業の戦闘機だ!早くしないとミサイル攻撃を食らうぞ!」

 

 時雨は提督が空に指差した方向へ向けると2機の機影が確認出来る。しかも、何かを発射し、こちらに向けて突進してくる。

 

時雨は恐怖した。あの攻撃は知っている!

 

「ミサイル!提督、危ない!」

 

散々見馴れた事もあって提督を守るように躍り出る

 

「クッ!貰ウゾ!」

 

 港湾棲姫は鋼材が入った箱を奪って口にすると、今度は3つの浮遊要塞を召喚した。浮遊要塞は港湾棲姫を守るように戦闘機から発射されたミサイルに躍り出た。ミサイルは浮遊要塞に命中し、空に巨大な火の玉が出現した。提督は暗視ゴーグルを外していたが、目はしっかりと上空を見上げていた。時雨も見た。ミサイル攻撃してきた機体の姿を。炎の光で機体の姿を目撃した陸軍兵士の反応は様々だった

 

「何だ、あの飛行機は――飛行機か、あれは?」

 

「知らねぇよ!新型の飛行機だろうよ!」

 

「プロペラが機体の後ろに付いていたぞ!」

 

「画期的な飛行機だろうよ!」

 

「飛行機なのに人が乗っていなかったぞ!どうやって、飛んでいるんだ?」

 

「知らねぇよ!というか俺に聞くな!俺だってあんなの見るのは初めてなんだ!」

 

 予想外の航空機の姿に襲われ兵士達も軽くパニックになっているのか言い争いをしている者たちもいる。

 

「何をしている?さっさと撃て!」

 

 中佐が叫ぶ。それよりも早く車両に搭載された重機関銃であるM2が火を吹いたが、未知の航空機を捕らえられない

 

「親父、時雨の対空兵器は?」

 

「あるにはあるが……しかし……」

 

 別荘から試作段階も含め、艦娘の兵装は全て持って来ているという。だが、提督はとんでもない事を告げた

 

「あの航空機を俺と時雨で引き付ける。親父は港湾棲姫を使って撃墜させるんだ」

 

「ちよ……ちょっと待て!」

 

「狙いは俺と時雨だ。若しくはそこの深海棲艦だろう。固まっていては狙い撃ちにされるだけだ」

 

 提督の提案は、二手に分かれてあの航空機を落とそうという事だ。博士と駆けつけた中佐は顔を見合わせたが、提督は無視して時雨と向き合った

 

「時雨。辛いだろうが、撃ち落とせるか?」

 

「……やらなきゃいけないんだね」

 

 時雨は思った。高速修復剤で自分は回復したものの、相当精神が参っていた。メンタルケアをしなければならないだろう

 

(やらないと僕どころか提督も死ぬ)

 

 しかし、敵は容赦なく襲ってくる。もう浦田社長と戦艦ル改flagshipは、時雨の正体を知っている。敵は休む暇も与えてくれない。幸い、あの航空機はジェット機ではない。こちらの弾が当たれば、撃墜出来るだろう。しかし、夜間で航空機を撃ち落とすなんてやった事がない

 

「出来る……出来るよ、提督!」

 

 強い意気込みを込めて答える時雨。そうだ、僕は観光のためにこの時代に来たのではない!

 

陸軍将校は二人の決意に負けたのか、地図を取り出し、ある場所へ指を指した

 

「ここから離れた所に街がある。そこの廃墟になった港へ合流しよう。奴等も街の中までは攻撃しまい」

 

「だと良いのですが」

 

 提督はあまり賛同しなかった。時雨も同様である。戦争において軍は基本、民間人を攻撃してはいけない。これが鉄則だが、これを頑なに守る軍隊は存在しない。しかも、浦田重工業は世界を攻撃しようと企んでいる。陸軍将校には、まだ知らされていないため、仕方のない事だった

 

(街の中でもミサイルを平気で攻撃するような気がする)

 

 提督は知らないが、『艦だった頃の世界』で戦争を経験した時雨は、この点には諦めがついていた

 

 近代戦は総力戦である。国土全てをかけて戦う。非戦闘員を逃してから戦うといった悠長な事はしていられない。サイパン戦もしかり、沖縄戦もそうである。ドイツもソ連も敵に踏みにじられ、多くの民間人が命を落とした。この世界でも同じだ

 

 それは兎も角、二手に分かれて航空機を撃ち落とす事に専念した。時雨と提督2人で。残りは陸軍将校組。港湾棲姫は普通の人と比べて大きいのと監視役も兼ねているので、時雨と提督まで人員が回せない。一緒に行動しろ、と軍曹が主張したが……

 

「お気遣い感謝します。しかし、この敵は厄介です。深海棲艦を利用して撃墜させるには、時間がかかります。空からの攻撃です。固まっていては危険です」

 

「しかし……」

 

 軍曹が何か言いかけた。命令とは言え、危険を犯して時雨達を救助した。死傷者も出ている。死んでいった仲間が浮かばれない。中佐は軍曹の考えに気付いたのか、説得した

 

「軍曹、ここは別れよう。我々は奴らを怒らせた。敵はあの兵器を使っている。固まっていては、狙い撃ちされる。不本意だが、ここは艦娘と捕まえた深海棲艦の力が必要だ。それに彼は馬力のあるバイクを持っているしな」

 

 港湾棲姫が言うには、薬か何かで弱体化しているらしい。しかし、海に出れば回復するという。艦娘とは天と地の差であるが、仕方ない。一同は頷き、素早く行動する。そんなに猶予は与えてくれない。負傷者を収容し出発するまで、博士から武器を貰った

 

「これが高射装置を内蔵した10cm高角砲。改造しておいた。そして13号対空電探と25mm三連装機銃。後は……ちょっと我慢してくれ」

 

 渡される兵装に時雨は舌を巻いた。高射装置を内蔵した10cm連装高角砲は秋月達が保有する兵器だ。まさか造ったのだろうか?それに、残りの二つは開発したのだろうか?質問しようとした時に、自分の艤装から音が聞こえる。溶接するような……

 

「え?」

 

時雨は驚いた。妖精が時雨の艤装に何かを付け加えていた。それも……

 

「これって?」

 

「補強増設だ。お前がいた未来でも可能だったが、資源不足で皆に行き渡っていなかったらしい。何、これくらいならワシでも造れる。最後にこれだ。基礎部品はあのギリーケースに巧妙に隠されていた。ビデオテープと共に。残された手紙には、これは未来では修理仕立てだったらしく、火力発電所の防衛戦に間に合わなかったものらしい。組み立てたが、ワシにはこれは造れん。本当にこれが最後だ」

 

 時雨は博士から渡された武器をまじまじと見た。これがギリーケースに隠されていた?しかも、これは……。未来の提督は、本当に僕たちを……

 

「お前達を作った理由は、何もワシの欲望のために創ったわけではない。確かに鼻を明かしたかったのもある」

 

 時雨は再度博士を見た。てっきり、弾除けのための囮か無茶な命令をされるかと思った。しかし、違う。そんな非情な事をする者ではないと

 

「深海棲艦が現れたその日。ワシはトラック島で親友を失い、多くの人の死を目の当たりした。悲劇を防ぐために研究を始めたのがきっかけだ。先祖がどう思ったか知らないが、ワシは一族の秘密や掟を全て背いた。『超人計画』というバカげた実験ではダメだ。だから――」

 

「僕達を作った」

 

 牢屋で戦艦ル改flagshipから聞かされた事実。初めは怒りと失望で自暴自棄になりかけていた。しかし、いざ対面すると暴言を吐く気は既に失せていた。提督達が助けてくれたこと。そして、この人のお蔭で僕達が生まれた事。腹黒いなら自分は見破っているはずだ。裏切っているならこんなものを隠しておかないはずだ

 

「すまない。『創造主』なのに未来で地獄を味わせて。頼みがある」

 

「何?」

 

時雨は分かっていた。博士が何を頼むかを

 

「……提督(息子)を頼む」

 

「分かっています。僕達の戦友で上官です。僕が守り抜きます」

 

 スリガオ海峡海戦で自分だけ生き残った艦。そして、この世界でタイムスリップするために犠牲になった者達。今度の戦いは本気で不味い。もう後がない

 

皆が忘れても、僕だけはずっと覚えていたつもり……その記憶も薄れてきている

 

だから……

 

「今度こそ、やり遂げて見せる!」

 

 25mm三連装機銃と例の物を取り付けながら自分に言い聞かせた。準備が出来る提督のバイクの後ろに乗り込んだ

 

「捕まっていろ!」

 

 バイクは急発進した。後ろで爆発音と銃の発砲音が聞こえるが、今はこっちの安全が優先だ

 

「提督……来た!」

 

 対空電探で接近しているのは分かるが、何しろ視界が不良だ。振り向いても辺りは、満点の星空と月しか見えない。視界さえクリアしていれば……

 

「これを付けろ!敵から奪った暗視ゴーグルだ。良く見える。但し、光増幅装置だ。強い光に注意しろ!」

 

 渡された暗視ゴーグルを付けたが、これには時雨は驚いた。昼間ほどではないが、暗闇でも良く見える。視野が狭いのが難点だが。緑かかった空から例の機体がこちらに向かって来る。時雨は捕まりながら、艤装に取り付けている25mm三連装機銃を操作した。25mm三連装機銃から火が吹いたが、例の機体は対空砲火に気がつくと高度を上げ旋回した。まるで、こちらを観察するかのように

 

 

 

(厄介な兵器を送り込んできたな)

 

 時雨がバイクの後ろで対空射撃している中、提督はアクセス一杯に吹かして全速力で目的地に向かっていた。速度も制限速度以上、出している。警察に捕まるよりあの兵器の攻撃を食らった方がヤバイ。攻撃を受けた際に暗視ゴーグル越しで例の航空機の姿形を見た提督は歯ぎしりした。深海棲艦を操るのも脅威だが、浦田重工業が送り込んだ兵器も厄介だ

 

(無人航空機(UAV)を送り込むなんて!しかも、米軍の未来兵器を使いやがって!MQ-1『プレデター』って奴か!)

 

 提督はアイオワの手紙によって、あの航空機を見破ったのだ。しかし、提督は誤解していた。上空に飛んでいる兵器は、MQ-1よりも高性能である事を

 

 

 

 時雨と提督を追って来ているUAVは、MQ-9 『リーパー』。MQ-1よりも長い航続距離と高い監視能力および攻撃能力を持つハンターキラー無人機である。しかも、実績は高く『艦だった頃の世界』である未来で活躍している兵器でもある

 

 UAVは高速で移動するバイクを監視していた。UAVに取り付けられているカメラが、提督と時雨を睨むように向けている。両翼には対戦車ミサイルをたくさん吊り下げて……

 




時雨と訳あって助けた深海棲艦である姫2人
しかし、浦田重工業は座視しているつもりはありません。刺客を送り込みます

バイクに乗り制限速度以上出して目的地まで逃げる時雨と提督
それを追って来ているのは、米空軍が使っている最先端の軍事兵器、MQ-9リーパー
対戦車ミサイル『ヘルファイア』、レーザー誘導爆弾『ペイブウェイII』、空対空ミサイル『スティンガー』等の兵装を搭載可能。イラクやアフガンなど活躍し実績のあるUAV
シンゴジラではハエのようにバタバタと叩き落とされましたが(相手がゴジラだから仕方ない)、実際には要人暗殺などの数多くの任務をしています

結構厄介です。時雨と提督は、地対空ミサイルなんて持っていません。何とかなるでしょう(多分)
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