時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第56話 攻撃ヘリの襲来

 時雨は驚愕した。敵の兵器にまさか陸戦用のヘリを持ってるとは思わなかった。若しくは、未来で戦った場所が海上だったからなのだろうか?確か艦載機ではない航空機が現れたため基地航空隊が全滅したのは聞いた事があるが

 

 それ以前に疑問がある。浦田重工業は何処から奇想天外な兵器を出しているのだろうか?まるで魔法のように現れてくる。呆然していて思考停止に陥ったが、提督に揺すぶられ正気に戻された

 

「おい!しっかりしろ!」

 

「だ、大丈夫!」

 

ヘリの爆音が大きいため、両者は大声で話す羽目になった

 

「飛んでいる数は何機だ!?」

 

「6機!全部で6機いる!その内、3機は遠くにいる」

 

 対空電探で把握しているため、スコープにはしっかりと映っている。3機は自分達の近くにいるが、残りは警戒のためか、離れている。近づいて来ないのを見ると、何かを待っているかのようだ

 

「撃ち落とせるか!?」

 

「冗談だよね!」

 

「冗談を言ってるように見えるか!」

 

「無茶言わないで!火力が違いすぎるよ!」

 

 提督の無茶な命令に、時雨は唖然とした。まず、こんな敵と戦った事がない。既に陸軍兵士が反撃に出た。中には重機関銃とRPG-7を発射した兵士もいたが、敵機は察知されて悠々とかわされる。ヘリの機動に陸軍兵士を始め、時雨も驚愕した。速力は戦闘機より遅いが、固定翼では実現できない機動。自由自在に飛ぶため中々狙いにくい。それでも自動小銃の数発は当たったらしいが、ケロリとして効果が薄い

 

 お返しに3機の攻撃ヘリは反撃したが、その火力は熾烈だった。特にロケット攻撃は強力だ。ロケット攻撃と機銃掃射のお蔭で装甲車やトラックは、全て大破炎上した

 

「退避しろ!建物の影に隠れろ!」

 

 被害がうなぎ登りに達した事により、隊長である軍曹の命令が飛び込んだ。兵士達はまだ無事な廃墟の建物の中や物陰に隠れた。時雨も提督も博士も隠れたが、ボロボロになって倒れ込んだ港湾棲姫が残されている。北方棲姫は、体力がある程度回復したのか、黒い艦載機を数機招喚すると攻撃ヘリの襲わせた

 

「帰レ!」

 

立ち向かった黒い艦載機は、AH-1SとAH-64Dに搭載された20mmガトリング砲と30mmチェーンガンによって無残にも撃破された

 

『深海棲艦のガキが!くたばれ!』

 

 拡声器を通して警備隊長が叫ぶと共に、AH-64Dからミサイルが発射された。北方棲姫は慌てて逃げたが、ミサイルは北方棲姫に命中し、北方棲姫どころか周りを巻き込んで吹き飛ばした

 

 502部隊は必死になって飛行している攻撃ヘリを攻撃したが、中々落ちない。彼等は攻撃ヘリが普通の航空機と同じだと思っている節がある。しかし、攻撃ヘリは彼等が想像以上に恐ろしいものであるとは思わなかった

 

 502部隊は自動小銃と重機関銃で応戦したが、墜ちる気配が無い。それもそのはず。自動小銃の威力では、攻撃ヘリの装甲を貫通する事が出来ない。生き残った装甲車による重機関銃の攻撃は試みたものの、軽々とかわされ、逆にヘルファイアミサイルをお見舞いされた。中にはロケット砲であるRPG-7を発射する者もいるが、こんなものが空飛ぶ相手に当たる訳がない。空中を動く目標に当てるのは難しい。更に攻撃ヘリには暗視装置も備えているため、撃つ前にチェーンガン等による反撃によって肉片に変えられてしまった

 

「いいか、徹底抗戦だ!隠れながら攻撃しろ!」

 

 軍曹が吠え声を上げたが、兵士達はそれどころではない。車両のほとんどは大破炎上。死傷者多数。おまけに夜目がいいのか、正確に攻撃して来る。たった3機で、しかも数分で部隊が壊滅寸前になるとは予想もしなかった

 

 

 

『ハンター2よりハンター1。目標及び502部隊を沈黙しました。まだ、廃工場に隠れています』

 

 AH-1Sコブラである『ハンター2』はAH-64アパッチである『ハンター1』に報告した。警備隊長は、最新鋭戦闘ヘリであるアパッチに乗っている。

 

「よし、港湾棲姫付近にいる敵を一掃しろ。その後、ホーク全機来るよう伝えろ」

 

『しかし、この状態で回収作業は――』

 

「俺達には時間が無い。浦田社長は怒り狂ってる。計画を前倒しするらしい。いいな。悠長な事を言う暇があるなら、ホーク全機が来る前に反撃する能力を完全に奪え」

 

 AH-1Sの2機とAH-64D1機は廃工場に潜む敵兵に攻撃を仕掛けた。相手も撃ってきているが、7.62mm及び12.7mmの銃弾だ。この程度では、攻撃ヘリは撃ち落せない

 

 反撃する火点を目印に攻撃ヘリは、虱潰ししていく。攻撃していく中、警備隊長は全機に対して次のように述べた

 

「いいか。我々の翼は強い。イカロスの話を思い出せ。イカロスの父は蝋の翼を与えた。父はイカロスに太陽に近づくなと言ったが、イカロスは嬉しさのあまりに父親の忠告を無視して、空高く飛び太陽に近づき過ぎた。だからロウの翼は溶けてしまった。だが、このヘリはイカロスの翼とは違い鋼鉄製だ。しかも、異世界とは言えアメリカ製だ。自爆攻撃や精神論で突撃するしか能のない軍隊なぞ血祭りに上げろ!」

 

警備隊長の激励により、攻撃ヘリは的確に攻撃を開始した

 

 

 

「おい!何で通常兵器が深海棲艦に効いているんだ!」

 

 先程の戦闘を見た提督は叫んだ。通常兵器は深海棲艦に効果は無い。どんな原理で無効化しているか分からないが、これが常識だった。しかし、AH-64から放たれた攻撃は、効果はあった。オーバーキルと思われるほどだ。いや、北方棲姫が怪我をしているものの、地を這ってまで逃げようとしているのを見ると耐性はあるらしい

 

『流石は姫クラスを持つだけあるな。だから、貴様らは再び捕らえる!』

 

 兵士達はヘリの攻撃力に怯えながらも、首を傾げる。あのヘリはどうみても攻撃特化した機体。どうやって捕らえるのか?

 

 しかし、その疑問は直ぐに解けた。別の方向から爆音が近づいてくる。上空に旋回している3機とは明らかに形が違うヘリ。恐らく、時雨が電探で補足していた、遠くで待機していた機体だろう。その回転翼機が来たのだ

 

増援か?しかし、こちらを攻撃してこない。それどころか、倒れ込んでいる港湾棲姫付近の上空まで接近している。3機の機体が炎で照らされたのを見た提督は叫んだ

 

「あれはUH-60ブラックホークだ!」

 

「輸送バージョンの回転翼か!」

 

 博士も舌を巻いた。こちらを攻撃してきた攻撃ヘリとは違い、胴体が大きい。どうみても数人は乗れそうな機体だ。軍曹も陸軍将校も驚愕した。こんな兵器も見たことがない

 

「くそ、ここまでか?」

 

 あのヘリから警備員が吐き出されば、終わりだ。勇敢に攻撃する兵士もいたが、攻撃ヘリに察知され、機銃掃射された。攻撃ヘリに守られながら近づくUH-60。時雨はあることに気がついた

 

「待って……もしかして港湾棲姫と北方棲姫を再び捕らえに来たかも?」

 

「何だって?」

 

時雨の指摘に提督は顔をしかめた

 

「あんなのを捕まえても奴等に何の得が――」

 

「分からない。でも、気になったことがあるんだ!」

 

 時雨は深海棲艦の牢屋で起こったの出来事を簡潔に伝えた。応急処置をしてくれたこと。何故か艦娘を攻撃して来なかったこと、そして気になったこと。それは……

 

「戦艦ル改flagshipは港湾棲姫や北方棲姫を見下していた。暴力を振るっていたけど、必要ないならとっくに殺しているんじゃないかな?」

 

時雨の疑問に博士は反応した

 

「まさか……そうか!あいつら……」

 

「どうした、親父?」

 

提督どころか、近くにいた陸軍将校までも耳を傾けていた

 

「恐らく……奴浦田重工業はまだ全ての深海棲艦を掌握していない」

 

「どういうこと?」

 

「以前に話したと思うが、深海棲艦は上下関係はしっかりしておる。駆逐イ級や空母ヲ級などの個体は、ボスの命令に絶対服従じゃ。逆らうという思考能力はない。深海棲艦の場合は姫と鬼クラスだ。本来なら」

 

 ここまで聞いて時雨は嫌な予感がした。港湾棲姫を生かしたまま閉じ込めたのは、戦艦ル改flagshipのはけ口のためだけではないような気がした

 

「この時代の戦艦ル改flagshipは……まだ指揮権は無いじゃろう。少なくとも野良の深海棲艦に対しては。しかし、戦艦ル改flagshipが姫や鬼クラスの能力を持てば――」

 

「浦田重工業はこの世界の海に生息する深海棲艦の全てを掌握。同時に制海権と制空権を握ったのも同然。しかも、何処からでも攻撃出来る。何て奴だ!」

 

 提督は嫌悪感を露わにした。これでは事態は悪化する一方だ。皮肉な事に人類の敵であるボスを守らないと行けないという事案が出来てしまった

 

「中佐、あのヘリを深海棲艦の姫に近づけさせないよう攻撃出来ますか!?」

 

「内容はよく分からんが、無茶だ!こっちは被害甚大だ!死傷者だってたくさんいる!」

 

 提督の提案に中佐は怒鳴り返した。反撃したい気持ちはある。だが、火力が違い過ぎる。浦田重工業を追い越そうと自分の部隊を強化したが、相手も進歩していた。いや、隠し玉だったかも知れない

 

 しかし、泣き言は言ってられない。3機の内、1機のUH-60は倒れ込んでいる港湾棲姫の上空でホバリングすると、ロープを降ろした。すると、中に警備員がいたのだろう。ロープを伝って降りて来たのだ。着地した警備員は、倒れ込んでいる港湾棲姫を鎖で縛り上げて拘束している。本人は気を失っているのか、微動だにしない。北方棲姫は傷だらけで反撃する力は無かった

 

「不味い!撃ち落せ!」

 

「僕は深海棲艦を守るために戦っているんじゃないよ!」

 

「大丈夫だ。俺も戦う!よく聞け!」

 

 不満を言う時雨だったが、浦田重工業の狙いの1つは港湾棲姫。浦田社長が喜ぶのも見たくはない。提督は何か策でもあるのだろうか?だが、提督の作戦を聞いた時雨は、不満だった。しかし、そうも言ってられない。幸い、あのヘリはホバリングしている。対空射撃に向かない主砲でもこの距離では当てられる

 

 時雨はUH-60を撃ち落すために隠れていた物陰から出て狙いを定めたが、撃つよりも早く、銃撃を食らった。UH-60のヘリには重機関銃が取り付けられており、時雨はその兵器に蜂の巣にされた。威力も高く、艤装の装甲は簡単に貫通した

 

「う、うう……」

 

 人が食らったら死んでいただろう。艦娘だから耐えれたものの、この威力は不味い。小破まで持っていかれた。WW2の駆逐艦には、戦艦や巡洋艦のような防弾鋼板(普通の鋼板より耐弾性が高い特殊鋼)で出来た装甲は持っていない

 

攻撃にたまらず逃げたが、弾は雨のように降ってくる

 

 

 

「狙え!あいつを蜂の巣にしてやれ!」

 

 UH-60のパイロットは重機関銃の射手に怒鳴った。射手だけではなく、待機している隊員も自動小銃を構えて攻撃している。出来れば艦娘も捕らえたいが、上からは深海棲艦の姫を最優先で回収することだと強く言われている。今のところは順調だ。下ろした隊員も港湾棲姫を拘束している

 

 反撃はない。港湾棲姫は気を失っている。502部隊も攻撃ヘリが対応している。遠くで機銃掃射の射撃音やロケット弾の爆発がしている。もう反撃はなんてものはだろう

 

 ニンマリとしてふと目を向けると艦娘が逃げ回っているとは反対方向に人が立っていた。しかも、武器をこちらに構えている。しかもあの武器は……

 

「RPGだ!回避しろ!」

 

 

 

 俺は建物の物陰や瓦礫に身を潜めて移動した。散々な目にあったが、脳は冴えている

 

「時雨、もう少しの辛抱だ」

 

 ヘリは躍起になって時雨を攻撃している。出来れば、時雨がヘリを落としてくれれば良かったのだが、残念ながらそう上手くいかない。結果的に、時雨を囮にしてしまったが、仕方ない

 

 配置につくと俺は武器を構える。後方爆風を遮るものはない。ヘリは気づいたのか、慌てて回避行動をとろうとしている

 

「遅い!」

 

 RPG-7の引き金を引くと同時に、反動を感じた。ロケット弾は、轟音を撒き散らしながらヘリに向かった。ヘリはようやく動きだしたが、それよりも早くロケット弾はヘリに命中。UH-60は爆発を起こし、きみもみ状態になって落下し、地面に激突した

 

 

 

「やった!」

 

 時雨は感嘆の声をあげた。囮になる事は不満だったが、あのヘリを撃ち落とす事が出来たのは嬉しかった。未来ではSH-60と呼ばれる対潜・哨戒ヘリのお陰で散々、酷い目にあった。撃ち落した事はあるが、こちらの被害が甚大だったことには変わりはない

 

 地上に降りた隊員達はヘリが落された事に呆然したが、直ぐに気を取り直してこちらに武器を構える。しかし、警備員が引き金を引く直前、彼らは銃撃を受けて倒れた

 

「全く、無茶をしやがって!」

 

 武器を構えた陸軍将校がこちらを援護してくれたのだ。時雨は再び提督と合流し、建物の影に隠れた。残りは5機

 

 

 

『こちらホーク1!ホーク2がやられた!繰り返す、例の息子と艦娘によってホーク2がやられた!』

 

 ホーク2とは、ブラックホークのコードネームである。パイロットは航空無線で警備隊長に怒鳴り込むように報告した。しかし、警備隊長は損害報告を聞いても鼻を鳴らした

 

「RPGくらい回避しろ!訓練通りにやれ!何をやっている!?ハンター3!奴等を攻撃しろ!」

 

『了解!攻撃します!』

 

 ハンター3は502部隊の攻撃を止め、現場に急行した。流石の艦娘も攻撃ヘリには敵わないだろう。しかし、この502部隊は本当にしつこい。ロケット砲であるRPG-7を花火のように打ち上げていく。攻撃しても中々、白旗を上げない。しかし、警備隊長はニヤリと笑った

 

「そうでなくてな!ここでくたばっても面白味がない!」

 

クーデターの時の陸軍は、30分足らずで尻尾を巻いて逃げた。それだけ実力差があったのだ。相手が銃剣と小銃で突撃したのだから当然と言えば当然だ

 

しかし、502部隊は違う。あらゆる手を使って攻撃している。恐らく、部隊を率いる隊長辺りが優秀なのだろう。それか、前回戦った事があるのか?

 

「まあ、どっちでもいいがな」

 

警備隊長はトリガーを引いた

 

 

 

 時雨はボロボロになり気絶している北方棲姫を安全な所まで運ぶと再び物陰に隠れた。RPG-7を再装填している提督と無線で指示を出している陸軍将校と出会った

 

「後は港湾棲姫だけ。手伝って」

 

 流石に港湾棲姫は時雨の力では持ち運べない。そのため、助けを呼んだのだ。しかし、提督は別の方角を向いたままだ

 

「提督!どうし――」

 

「逃げろ!早く!」

 

 時雨は提督が目線に向いていた方角の方に顔を向けると、驚愕した。別の機体が接近している。AH-1Sコブラが接近している!

 

一同は一目散に逃げたが、敵は機銃掃射を開始した

 

速度はあっちの方が上だ!しかも、機銃掃射がこちらに向かっている!

 

「銃撃だけなら耐えられる!」

 

 時雨は立ち止まると、主砲を攻撃ヘリの方へ向けた。物凄い衝撃が身体を襲ったが、今度は踏みとどまり確実に狙って引き金を引いた

 

10cm高角砲の砲声が何発か鳴り響いたが、ヘリには一発も命中しなかった。こちらが引き金を引く直前に、攻撃ヘリが躱したのだ!

 

「どうやったら、あんな動きが出来るの!?」

 

 固定翼とは違う動きに時雨は驚く。未来では、回転翼である哨戒ヘリは速度はそこまでなかった。よって運が良ければ空母組の艦載機で撃ち落す事が出来た。但し、ジェット機に見つかりさえしなければ

 

目の前の攻撃ヘリは、造りが違うのか?

 

 実はヘリコプターというのは、固定翼機とは違いホバリングや超低空飛行などが出来る。即ち、ホバリングから機首を正面に捉えながら、真横へ並行移動したり、或いは急減速して後退する事など造作もないのである。一部のヘリは、固定翼機と同じように宙返りを行えたり、高度はある程度必要では有るものの、機体を真横へ宙返りさせるバレルロールという空戦機動(マニューバ)も行える。いまこの場にいるAH-1S、AH-64Dは、そのヘリ特有の特徴を最大限に活かせられるように造られている。この航空機に時雨は勿論、502部隊の兵士達は困惑した。高射砲(高角砲)で撃つには低すぎるし、対空機銃で撃つには敏捷過ぎる。小銃なんて豆鉄砲と思われるくらい効果が全くない。CIWSはもうない。無人航空機との戦いの際に大破してスクラップになっている

 

「時雨、来い!」

 

 別の廃工場から提督達が呼んでいる。25mm三連装機銃で攻撃ヘリを牽制しながら、駆け足で移動する

 

「ダメ!撃ち落せない!」

 

「あの攻撃ヘリ厄介だ。しかも、その隙に港湾棲姫を捕らえるつもりだ」

 

 提督の言う通り、別のUH-60が飛来し隊員を降ろすと、港湾棲姫の拘束の作業を再開した。港湾棲姫は未だに伸びている。502部隊は阻止しようとしたが、攻撃ヘリのお蔭で足止めを食らっている

 

「何という火力だ。これが奴らの力か?」

 

 博士は重傷を負った北方棲姫を抱え、物置で隠れながら観察したが、どれも驚愕するものばかりだった。生まれて初めてヘリコプターという物を見たため戸惑っている。攻撃能力も強力だ。ヘリを狙おうと武器を構えても、察知されロケット攻撃によって木端微塵になるか機銃掃射で蜂の巣にされるかのどちらかだ

 

「クソ!このままだと全滅だ。撤退するぞ。港湾棲姫は見捨てろ!」

 

陸軍将校は制止したが、提督は違った

 

「ダメです!港湾棲姫を奴らに渡せません!」

 

「無理だ!奴らの力は私が良く知っている!クーデターの二の舞いにはさせん!」

 

 陸軍将校は、クーデターの際に浦田重工業の警備隊の力を目の当たりにした。自分達は何も出来ずに敗北した。それが身に染みているらしい

 

「撤退しても、奴らは追って来るでしょう!せめて、攻撃ヘリは撃墜します!」

 

「正気か!?」

 

 64式小銃とロケット弾の残弾数を数える提督に、陸軍将校は唖然とした。正気の沙汰とは思えなかった

 

「提督、ダメだよ!」

 

 時雨は制した。提督の動きや柔軟性には驚かされたが、流石に無謀である。提督に何かあったら僕達はどうするんだ?

 

「僕が撃墜する!機銃掃射を食らっても死なないから!」

 

「よし、では二人で倒すぞ!」

 

時雨は艤装を、提督は武器を手に取ると廃工場から外へ駆けだした

 

 

 

「おい、待て!……何て奴だ」

 

 陸軍将校は制止したが、2人は無視した。引き留めようにも既に視界から消えている。将校はため息をついた。救助作戦の命令が下されてから、奇妙な事が起こっている。幼い女子が戦うわ、学生風情の人間が武器持って戦うわ、『艦娘計画』を立案した大佐は北方棲艦の看病をしているわ

 

しかし、何もしない訳にはいかない。無線で軍曹を呼び出す

 

「軍曹、聞こえるか!応答しろ!」

 

 無線から出たのは部下だった。部下は軍曹は生きている事を伝えると、彼を無線に出すよう指示を出した。部隊は向こうで戦っている。被害は甚大であるが、まだ全滅はしていない

 

『こちら軍曹です。命令をどうぞ』

 

「撤退だ!これ以上、ここに留まっていても全滅するだけだ!」

 

 軍曹が無事であるのを確認すると、直ちに撤退指示を下した。もうあの攻撃ヘリとやらには敵わない。しかし……

 

『中佐、そんな事は言わないで下さい。敵が撤退するまで抵抗します』

 

 何と軍曹は抵抗するという。しかも、部下まで同意を得ているのだ。強制ではない。自分達の意志で

 

「おい、もう被害が甚大だ!こっちに戻って来い」

 

『すみません。雑音が酷くて聞こえないです』

 

 ワザとらしい言い分で一方的に無線を切られた。全く何て人達だ!だが、僅かながら嬉しかった。強敵にも拘わらず戦ってくれることを

 

 

 

 物陰に隠れながら移動する時雨と提督。AH-1SはUH-60を守るように辺りを警戒している。これでは迂闊に近づけない

 

「あの攻撃ヘリをやるぞ」

 

「でも、あの機動性では撃ち落せない」

 

 対空機銃では効果がない。高角砲も運頼みのようなもので、攻撃ヘリ近くに都合よく当たるとは限らない。UAVの時は、天文学的な確率で当てたに過ぎないだろう

 

「大丈夫だ。いいか、よく聞け」

 

時雨は提督の案を聞いたが、出た言葉は拒否だった。こんなのイカレテいる!

 

「提督、ダメだ!」

 

「いいか!このままだと奴らが喜ぶだけだ!俺達の未来を回避するためには傍観するか、それとも俺の案を聞いてバカな事をするかだ!」

 

 時雨は提督を見た。ススと泥で顔が汚れている。この時代の提督は、まだ学生だ。しかも軍人ですらない。にも拘らず、武器を持って戦っているのだ

 

「……分かったよ」

 

確かに提督の案は有効だ。尤も、正気の沙汰ではないが

 

 

 

 ハンター3であるAH-1Sコブラは上空を旋回している。パイロットは、回収作業に当たっているUH-60を護衛している。本当は遠くからTOWミサイルを全弾発射して木端微塵にしてやりたいところだが、任務優先だ。そんな事をすれば、回収部隊を下す事が出来ない。弾薬もタダではない。しかも、502部隊とやらもRPG-7を花火のように打ち上げている。対空機関砲が効かないと分かるとロケット砲で撃ち落そうと考えているようだ。だが、こんなのは愚策だ。戦意が喪失していないのは誉めてやろう。しかし、その勇気もそれまでだ

 

 不意に機体に何かがぶつかる音がした。それが銃弾であることは数秒で理解した。パイロットは銃弾が飛んで来た所に顔を向けると一人の男が銃を手にとってこちらを撃っている。しかも、こいつは……

 

「『狂人の息子』か?いよいよ頭が可笑しくなったのか?」

 

よりによってアサルトライフル一丁でこの攻撃ヘリに立ち向かうとは!

 

 

 

 機首を走りながら逃げている例の息子に向けると、三砲身ガトリング砲の準備をするよう射撃手に命じる。こんな敵にミサイルと勿論、ロケット弾でやる必要はない。後は射程圏内まで接近するだけ。この機体を落とすには地対空ミサイルでないと無理だ。相手はそれがない。あったとしても、エンジン排気口上部にはIRジャマーが積んでいる。これで終わりだ!

 

 

 

 時雨は不満だらけだった。確かに自分達は艦娘だ。『艦だった頃の世界』の時の軍艦ではない。博士の言う有機物であり生命体だ。だからと言って

 

(待ち伏せっておかしいよね?)

 

 瓦礫の山に自分は隠れている。攻撃ヘリは警戒しているだけで発見はされなかったものの、やっている事はあまり褒められるものではない

 

(僕は軍艦だよ?海軍所属だよ?いつから陸戦隊になったんだよ!)

 

 これも立派な戦術と言いたい所だが、時雨は何一つ納得しなかった。かと言って、他の案がある訳でもない

 

 ブツブツ文句を呟きなら、待つこと数分。提督が64式小銃と呼ばれる自動小銃を乱射している射撃音が聞こえる。RPG-7は使わなかった。ロケット弾が勿体無いからだ。例えぶっ放したとしても命中はしないだろう。64式小銃にしてもそうだ。あの攻撃ヘリを撃墜出来る程の威力は無い

 

 提督が通り過ぎる足音を確認した直後、断続的に続く銃声音にヘリのローター音が近づいて来る。時雨は対空電探を確認した。機影はこちらに向かっている。いや、このヘリは提督に向かうだろう

 

 作戦はこうだ。提督が囮になる事。攻撃ヘリは提督を追いかけるだろう。その間に時雨は待ち伏せをし、ヘリが接近するのを確認したら至近距離で攻撃ヘリを攻撃し撃墜する。勿論、提督が撃たれる前に。提督が誘導してくれるとは言え、手持ちの兵装では、かなり接近しないと命中しない。しかも、相手が機銃を使う事が絶対条件だ。ヘリは高度を必然的に下げるはずだ。もし、相手がミサイルを使ったらどうするか?

 

しかし、提督はそれを否定した。お互い指名手配している。となると提督の死体が必要であるはずだ。死んだという確実な証拠が。そのために、ロケット弾すら使わないだろう

 

 時雨は提督の命令に心の底から罵った。冗談じゃない!あんな飛行物体をどうやって落せって言うんだ!しかもあんな方法でやるよう言われるなんて!敵がロケット弾を使ったらどうするんだ!確かに一人くらいでロケット弾は使わないという提督の考えは同意するが。しかし、他に策は無い。渋々、従うしかなかった

 

 時雨は提督に言われたことを思い出しながら、電探を見た。電探で自分が隠れているヘリの距離が近づいて来る。後もう少し……まだ……まだだ……

 

 ローター音が大きくなり、時雨は耳を片手で抑えた。とてもうるさいが、まだだ……

 

 電探が自分の隠れている所の真上を飛んでいる事を示すのを確認した時雨は、瓦礫の山に隠れている所から飛び出した。頭上に攻撃ヘリが飛んでいる。既にヘリは攻撃体制を整えている!

 

 時雨は躊躇せずに隠れる直前に兵装を換装した12.7cm連装砲を自分の頭上に低空飛行している攻撃ヘリに向けた。いくら対空射撃に不向きでも、この近距離なら当たる!しかも、敵は気付いていない!

 

「当たれー!」

 

 時雨は叫ぶと同時に攻撃ヘリの腹部に向けて主砲を発射した。主砲の砲弾は攻撃ヘリの腹部に命中。AH-1Sコブラは秋祭りの時に上がった花火よりも盛大に爆発した

 

 攻撃ヘリは火の玉となり、金属片と燃える破片があらゆる方向に飛び散った。巨大な機体はきりもみ状態となって地上に墜ち始めた

 

落下地点が時雨の近くだと分かると、時雨は逃げるように走った。火葬はまだ早い!攻撃ヘリが地面に衝突すると同時に大爆発を起こし、時雨は爆風で飛ばされ、建物の壁に叩きつけられた

 

「痛たた……」

 

 しかし、時雨は攻撃ヘリの残骸と燃え盛る炎を見てニヤリとした。これで二回目だ。未来の兵器をまた倒した。時雨だけの力ではないが、それでも嬉しかった

 

「おい、大丈夫か?」

 

肩を叩かれて時雨はハッとした。提督が駆けつけてくれた

 

「うん。まさか本当に上手く行くとは!」

 

「ああ。港湾棲姫の回収部隊の邪魔をするぞ」

 

提督と時雨は、撃墜現場を他所に、港湾棲姫が倒れ込んでいる場所へ移動した

 

 

 

『ハンター3が撃墜されました!信じられません!』

 

 警備隊長は指揮を取りながら機体を操縦していたが、まさかの報告に愕然とした。AH-1Sコブラを撃墜した!?バカな!あれは攻撃ヘリだぞ!

 

 しかし、気を取り直すと、残存機に命令を下す。このまま被害が大きいと、あの社長が黙ってはいない。手ぶらで帰るのは御免だ

 

「誰に落された?」

 

『例の息子と艦娘です!』

 

 これは予想通りだった。そうでなくてはならない。自分の追っている獲物は羊ではない。闘牛か?それとも狼か?しかし、それでこそやりがいを感じる

 

 もっとだ!もっと楽しませろ!浦田社長が言う危険人物は、相当いい腕をしている!強力な兵器を相手に怯まずに戦うとは!

 

「全機に告ぐ!ハンター2!ホーク3!港湾棲姫を回収しているホーク1を援護しろ!502部隊との交戦を極力控えろ!追い払うだけでいい!」

 

『了解!しかし、ボスは?』

 

もう1機飛んでいるハンター2であるコブラから質問が飛んだが、彼の答えは既に決まっている

 

「俺は奴らを殺る!このAH-64アパッチが相手してくれる!」

 

警備隊長は操縦桿を握ると現場に急行する

 

(もう手加減する必要性はないな)

 

警備隊長はぞっとするような笑みを浮かべながら、心の中で呟いた




攻撃ヘリは相当、脅威です。装甲もあるゆえに、強力な攻撃を仕掛けて来るため被害甚大です
と言いましても、流石に戦車ほど頑丈ではないため、砲弾並の火力が当たれば撃墜出来ます
……当たれば

『ブラックホークダウン』のモデルとなったモガディシュの戦闘ではRPG-7を花火のように打ち上げてようやく撃墜したようなものです
よって映画やゲームのようにロケランで簡単に撃墜する事は無いです。映画やゲーム等の影響を真に受けた、一部のゲリラ達は真似をした所、悲惨な事態に(バックブラストで自爆したり、察知されて攻撃うけたり……)
提督がロケランでヘリを撃ち落しましたが、これは相手のヘリがホバリングしているためです。ヘリの弱点ですね
時雨が攻撃ヘリを撃ち落したのは、奇策もありますが、一番の理由は艦娘ですから
人が木端微塵になるような武器を小型化して艤装に取り込み、軍艦と比べて柔軟性がある。奇襲なら何とかいけそう(但し、時雨もタダでは済まない)
しかも、次話でアパッチの襲撃が来ます
大丈夫か?
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