時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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第6話 代償と警戒

休憩地点

 

「提督、気にするな。これが俺達の任務だ」

 

「しかし……弔う事も出来なかった」

 

休憩地点では、暗い空気に包まれた。なぜなら、軍曹を率いる軍団が自分達のために犠牲になったのだ。提督と陸軍将校は安全なルートを探るべく議論するつもりだったが、今ではそれどころでなかった

 

「みんな、あんたの案に同意した。僅かな希望のために私達はここにいる。私達危険な愛国心でも復讐者でもない。れっきとした考えがあるからだ」

 

「……」

 

提督は黙っていた。将校が気を遣っているだろう。提督はそれが理解出来なかった

 

「海も空も敵に握られた。陸も安全じゃない。俺はある理由で海軍に入った。あいつのせいで人生に振り回されるのは御免だ、深海棲艦を倒し英雄になって見返してやるんだって」

 

提督は珍しく弱音を吐いた。もう精神も体力も限界だった。艦娘の前では決して見せる事もない態度であった

 

「今ではこれだ。屍を築いているだけだ。部下である艦娘も将校の部下の兵士まで死んだ!軍曹も!クソ、何てザマだ!!」

 

提督は立ち上がると自分が座っていた椅子を蹴り出した

 

「沈んだ艦娘は大切な仲間だった!それを俺は!いつからだ!いつから俺はこんな冷酷な人間になった!!」

 

「ああ、お前の艦娘達は献身的だった」

 

自暴自棄になる提督に将校は肩を掴み睨んだ。提督は将校を睨み返したが、将校の顔を見て気付いた

 

「中佐はこんな経験を?」

 

「嫌ほど経験したよ。仲が良かった部下が死ぬ。それはよく分かる。しかし嘆く時間はない。感傷は捨ててくれ。それが指揮官の宿命だ。頼む。最後までやり遂げてくれ。出発は1300だ。それまで準備するんだ」

 

将校はそう言い残すと兵士達の様子を見に立ち去ったが、提督は動かなかった。分かっている。仕方がないとは言え、戦うな!と艦娘に命じた自分が情けなかった

 

 

 

3日後

 

軍曹が率いる部隊と別れてから将校と提督が率いる車両は、最短ルートで目的地を目指していた。休憩や補給で立ち止まる事もあるが、兵と車両が減ったため人目がない所に隠れているようになった。あの忌まわしき飛行物体から逃れるために

 

 

 

「敵編隊が来ます!」

 

鳥海の報告により、車両は急停止し兵士も艦娘も息を潜めた。しかし、銃や兵装は空を向けておりいつでも臨戦態勢をしている。良い目をしている。提督は息を潜めながら鳥海が所有している熟練見張員に関心していた。人の視力よりも遥かに良く、早期発見に役に立っている。しかし皆がいくら見渡しても空はどんよりとした鉛色であり、鳥すら飛んでいなかったが、その鉛色の空に何かがきらりと光った。矢尻のような機体が多数、こちらに向かって来る

 

「またあいつらや!」

 

兵員輸送車に乗っていた龍譲はうめき声を上げたが、空母娘は迎撃のために艦載機を上げない。上げても無駄であるのは嫌ほど身に染みている

 

 空は、もう人類のものでも艦娘のものでもなくなった。飛び交っているのは、艦娘の空母が持つ艦載機とは形状が全く異なり、矢じりのような形でプロペラがない機体。空母娘が持っているようなレシプロ機ではなく、恐ろしい爆音とスピードを出す機体である。音速を超えているのだろう、上空を擦過する度に凄まじいソニックウェーブ(衝撃破)が襲って来る。この機体は零式52型どころか烈風とは全く次元の違う航空機だ。こっちの艦載機が練習機のように見えてしまう

 

「我が物顔のように飛びやがって!」

 

提督は悪態をついたが、これらを撃ち落す武器も戦力もこちらにはない。情報によると、F/A-18E『スーパーホーネット』と呼ばれるジェット戦闘機というものであるが、知ったところで何一つ出来ない。なぜならあの航空機は、こちらの攻撃が全く通用しないからだ。零戦や烈風などの艦載機は、百発百中するロケットと熾烈な弾幕を張る機銃によって艦載機は片っ端から撃墜され、目にも追いつけない程の速度を出しているお蔭で重巡や駆逐艦などの主砲、高角砲、機銃とありとあらゆる対空火器も叩き落とせなかった。いくら見越して撃っても、ジェット機ははるかその先を通過していく。防空巡洋艦である摩耶も防空駆逐艦である秋月もこのような航空機相手には全く通用しなかった。撃墜出来る唯一の兵器と言えば、アイオワが提供してくれた兵器くらいだ。しかし、こちらにはあのジェット機のような航空機は保有していない。制空権は事実上、深海棲艦が握っているようなものだ。アイオワが提供してくれたCIWSは射程が短く、また他の対空機銃と違い、数十秒で弾丸を撃ちつくしてしまうため乱用は出来ない。それでも数機は撃墜出来たのだが、焼け石に水だった

 

 敵機はこちらの存在に気がついていないのか、それとも叩く必要がないのか。ジェット機は車両を素通りし東の空へと消えた。ジェット機が消えるとほとんどの者は安堵したが、何人かの兵士と艦娘はうんざりした表情を浮かべていた。逃げ隠れするばかりでなく、軍人らしく艦娘らしく反撃したいと考えているようだ

 

「深海棲艦の艦載機は完全に空の旅を楽しんでいる。こっちは軍が崩壊しているから、戦車を見ても攻撃する必要なしと判断しているかも知れない」

 

将校の言葉を聞いて、提督は頷いた

 

「だとしても、敵機がこちらを全く攻撃しないとは限らない。最悪、歩いていく羽目になる。慎重に進む事になるな。しかし時間が惜しい」

 

提督は焦っていた。状況は相変わらず悪い方向に行ってしまう。一瞬の判断と選択が、部隊を全滅させる事になりかねない。慎重に進んでも、燃料も食料も弾薬も限度がある。そうなると、計画が全て水の泡だ

 

「提督、僕の対空電探を起動させるのはどうかな?空の状況は分かると思う」

 

「しかし相手は電探を逆探知出来る能力を持っているんだぞ?しかも電探に映らない航空機だっている。あの時の哨戒任務とは状況が違う。危険は冒せない」

 

時雨の提案に提督は首を横に振った。確かに対空電探は、鳥海が持つ熟練見張員よりも長距離に探知できる。しかしその電探も敵が一枚上手である。特に無線も電探も妨害して無力化する手段に対して、こちらは全く手も足も出なかった。しかも、敵は電波の発信源を正確に捉える事が出来る。そんな状況で電探を起動させたら、自分達の居場所を知らせるようなものだ。先の哨戒任務もただの監視である

 

「何もしないよりかはマシだよ。見つかったら僕が囮になる。CIWSもあるしさ。明石さんと合流できなければ意味がないよ」

 

時雨の提案に迷ったが、指示を出した

 

「分かった。13号対空電探改の使用を許可する。他の者は注意しろ!」

 

時雨は電探を起動させた。スコープに影は見当たらない。いや、かなり離れた所に一機反応したが、その機体はスコープから消えた。少なくともこの空域に敵機はいない。先程の航空機も既にこの空域からいなくなったらしい

 

「よし、クリアだ!進むぞ!時雨、電探をそのまま稼働させろ!なにかあればすぐに知らせるんだ!」

 

得策ではないが、これしか方法がない。車両は目的地に突き進み、鎮守府から出発して5日後の昼に無事に明石達と合流出来た。幸いな事に軍曹達から別れた時から敵から攻撃を受けず、1人欠ける事も無かった。迎えに来てくれた大淀は大喜びし、一同は安堵した。

 

「提督、長旅お疲れ様です」

 

「お前達も無事で良かった。厳しい任務を与えてしまって。まずは皆を休息させよう。話はそれからだ」

 

 

 

 

 

ただ、提督は1つ誤解していた。深海棲艦はワザと攻撃しなかっただけで泳がしていたのである。車両もしっかりと追跡していた。遠くから監視していたため、鳥海の熟練見張員の目から見つかる事はなかった。しかし途中からレーダー波を検知したため、無人偵察機を引き上げたのである。代わりにレーダーに映りにくい機体を送り再び追跡を開始したのである

 

偵察機を使って監視している空母ヲ級の報告を受けた戦艦ル級改flagshipは、口元を吊り上げ『主』へ情報を送った

 

 

 

サア、狩リノ始マリダ

 

 

 

艦娘やそれを指揮する提督が何を企んでいるか知らないが、これらを叩き潰す必要がある

 

 

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