時雨の特殊任務   作:雷電Ⅱ

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ミニイベ任務である『日の丸弁当、量産!』が大変でした
主にお茶を集めるのに苦労しました。米ばかり出ないで欲しいです


第66話 奇策

 岐阜基地のある部屋では、必死に議論が行われた。502部隊の中佐と軍曹は勿論、提督も博士も忙しかった。机の上には論文や地図、そして浦田重工業の資料などが散乱し、壁に掛けていた黒板はよく分からない専門用語が書き込みが多かった

 

浦田重工業が目論んでいる野望を打ち砕くため、反攻作戦をしなければならない。そのため、計画を立てていたが、厄介な事が起こった

 

『浦田重工業 イージス艦を海外に輸出する時期を早める』

 

新聞の一面はそれだ。テレビも毎日のように報道している。内容によると、先日に起きたクーデターの残存部隊か引き起こしたテロのお陰で浦田重工業は、輸出する時期を早めたということだ

 

『二週間前に起こった事件は衝撃的でした。わが社は深海棲艦を殲滅するためにイージス艦を造りました。しかし、事もあろうに陸軍の過激な一団が我が社に対してテロを引き起こし拘束した深海棲艦を逃す事をした。わが社はいかなる理由があろうがテロを許さない。侵略者がいるにも拘わらず、反逆している行為は愚かだ』

 

テレビには記者会見をしている浦田社長が映し出されていた。フラッシュが光っても、浦田社長は何事も無いかのように話す

 

『これより1ヶ月後。つまり、年が開けた1月の上旬にはイージス艦12隻と輸送艦数隻をアメリカに向けて出港させる。これには私も同行する。私は失望しました。深海棲艦に対抗する兵器を開発する者達を攻撃する事に。実に情けない。私はこの国に失望した。もう少し賢いものだと思った。私からは以上だ』

 

席を立ち、記者からの質問攻めを無視して部屋から去ろうとする浦田社長。このニュースを見た時雨は勿論、提督と博士も驚いた

 

「提督、計画が早まっている」

 

「多分、あの艦隊はアメリカには行かない。トラック島に移住するためだ」

 

提督は呻いた。未来の自分と工作艦である明石のビデオでは深海棲艦に占拠されたトラック島かハワイに移住するためだろう

 

「時間がない。しかし、建造ユニットを奪還する時間もない」

 

建造ユニットの居場所は分かった。潜入した工作員が知らせてくれた。場所は本社ビルの研究施設。今のところ、改装しているという。完成までは程遠いが、それも時間の問題だ

 

「……」

 

「提督?」

 

提督の顔は険しかった。これまで以上に。僕達はこの敵に勝てないのか?

 

「親父、浦田重工業は日本から本当に脱出するのか?」

 

「中佐から聞いたから間違いない」

 

 博士も険しかった。今のところ、行動に映していない。502部隊も準備は進めているものの、反攻作戦をどう立ち向かえばいいのか分からない。取りあえず、襲撃に備えて岐阜基地周辺を警戒していたが、なぜか浦田重工業はこちらを襲ってこない

 

「ここを襲ってこないのは、舐められているからかな?」

 

時雨は何気ない言った。迎え撃つために待ち伏せていると思ったが、脱出するのを見ると相手するまでもないのか?

 

「それか別の理由があるかもな」

 

提督は別のニュースをやっているのを未だに見ている

 

 

 

「何か策は無いか?時間が無い」

 

 会議を何回も開いたが、軍曹からは決まってこれだ。焦りは禁物だが、そうも言ってられない。提督も顎を当てて考える仕草をし、博士は額に浮き出て来る汗を拭いていた

 

「奴等はトラック島へ行く気だ。野良の深海棲艦はイージス艦が対処してくれる。粗悪品だが、性能は十分じゃ。それを防ぐには最新鋭兵器を打ち砕く兵器が居る」

 

 博士の推測では、浦田重工業はアメリカへ行くと装って新たに造り上げたトラック島へ船へ向かわせる。恐らく、計画を前倒しでやるのだろう。必要な人員と物資と共に日本を脱出する気だ

 

「その後、己の工場を戦艦ル級改flagshipの指揮下である深海棲艦の艦隊が破壊される。世間では、ただの襲撃にしか見えん。後は好き放題にやるじゃろう。……歴史は繰り返される」

 

「つまり、ここで逃がしたらお終いなんだね」

 

 時雨は無表情で言った。浦田重工業はトラック島やハワイに移住すると計画を再稼働するだろう。世界を手中に収めるため。そして、深海棲艦を操り世界を攻撃するために。最悪な結果になる事を知らずに

 

「追跡は無理だ。艦娘は時雨1人だけだし、例の戦艦ル級の指揮に入っていない深海棲艦だっている」

 

 提督は呻いた。無差別に攻撃し通常兵器が効かない(但し、浦田重工業が造ったイージス艦は除く)深海棲艦が邪魔して来る

 

「止められるのは私達だけだ。しかし、策が無い」

 

 中佐は指摘した。内心では直ぐにでも止めたいのだろう。しかし、どうすることも出来ない。街に向かったとしても逮捕されるだろう

 

 

 

 会議が終わると皆は会議室から出て行かない。皆は各人、調べていた。時雨も提督の手伝いをしたが、提督はというとノートパソコンと格闘していた。何か対処するための兵器があるはずだと調べて見たが、データが膨大だった

 

「何か分かった?」

 

この言葉を何回言ったのだろう。期待を込めて聞いたが、提督は首を振った

 

「ダメだ。今はゲリラ戦を見たが、これは当てにならない。ただ苦しめるだけの方法だ」

 

 ゲリラ戦というのは進撃してくる敵軍に対し、小規模な待ち伏せを頻繁に行う戦術である。特に長期の消耗戦では一方的に敵戦力を減耗させる事ができるが、これだけで戦いに勝った事にはならない

 

 提督は知らないが、現実世界でもゲリラ戦はそこまで有効ではない。武器弾薬、資金などの供給がなければそうそう長く抵抗を続けられるものではないためだ。いや、ベトナム戦争ではベトナムはアメリカを退けられたが、ソ連の援助と本土で頻繁に起こった反戦運動のお蔭である。米兵達は苦しめられただけである。後のイラク戦争やアフガン戦争ではゲリラ戦やテロは起こったものの、アメリカが勝った事実は揺るがない

 

「ゲリラ戦は自国を主な戦場になる。戦えば戦うほど国土が荒廃する。しかも攻撃の矛先が敵に協力した自国民にも向くから、分裂も招きかねない」

 

「それに浦田重工業はここから離れるから無意味だね」

 

浦田重工業の本丸を攻め落とさなければならない事だ。しかも、期限付き

 

「こちらを炙り出すために声明を発表した。……何故なんだ?」

 

 提督は自問自答している。時雨は机の上に散らばった紙を見ていた。様々な案があるが、どれも最良ではない。相手は攻めず迎え撃とうとしている。返り討ちにならないようにしなければならない

 

「何か兵器があれば」

 

 

 

 俺はノートパソコンを弄っていた。何か情報があれば何とかなるかもしれない。しかし、情報だけでは戦いに勝てない。気合いと気持ちだけで勝てたら誰も苦労しない。未来の俺もそれに気づいていた

 

(最新鋭兵器……)

 

 浦田社長は平行世界の未来から科学技術と兵器を持ち込み侵略を開始した。初めは志はあったかも知れないが、今は怪物だ

 

(平行世界……)

 

 隕石が落ちなければどうなっていたか。深海棲艦の侵略の原因となったワームホールは開かず、第二次世界大戦は起こっていたかも知れない。別世界とは言え、歴史の成り立ちはアイオワや時雨などの『艦だった頃の世界』、つまり平行世界と同じなのだ。世界大戦は起こらなかったが、深海棲艦との戦いは起こっている。いや、泥沼になっているだろう

 

(深海棲艦……)

 

 深海棲艦の詳細な正体は不明だ。しかし、姫級と例の戦艦ル級改flagshipは違っていた。行動も逸脱している。浦田重工業との関係は分からない

 

 北方棲姫に聞いたが、彼女からの答えは「帰レ」としか言わなかった。捕まえた深海棲艦とは言え、負傷しているため丁重に扱っている。時雨の件もあるため閉じ込めたりしない。しかし、北方棲姫は浦田重工業によって痛めつけられたせいで怒りが収まっていない。こちらを攻撃はしないが、話し合う気はないようだ。それに加えて、海が近くに無い。内陸には馴染めないらしく、毎日不機嫌だった。時雨と一緒に説得したが、当の本人はタコ焼きに似た艦載機を周囲に展開して威嚇していた。攻撃する意志はないものの、相当警戒している。しかし、港湾棲姫だったら迫力はあったかもしれないが、北方棲姫は見た目は子ども。猫が怒っているようにも見えて可愛らしいのも確かだ

 

「だが、不思議じゃ。北方棲姫の傷は誰がつけたのか?通常兵器に効かない相手をどうやって……」

 

 親父は不思議がっていた。浦田重工業はどうやって艦娘使わず深海棲艦を攻撃したかは分からない。例の戦艦ル級改flagshipがやったにしてはおかしい。複数いるというのも考えたが、それはあり得ない。あの異様な戦艦ル級flagshipは、単体であるのは未来の記録で明らかになっている。

 

(何か良い手はないのか)

 

 俺はデータを探すのを諦めた時、『近代兵器の弱点』と書かれたファイルを見つけた。何だろう?ファイルを開くと、そこはある兵器の簡易的な論文と設計図があった

 

「在日米軍……防衛省……極秘?」

 

 俺は困惑した。どうも、このデータを編集した者は、どんな人物だろう?詳細な情報を隠したり、密会を録音したり……

 

そして、この兵器。まだ試作段階ではあるが……

 

「これは出来るのだろうか?」

 

 提督はこれに掛けた。この兵器を信用できるかどうか分からない。このパソコンにデータを隠した者は、浦田社長をあまり快く思っていないのは確かだ

 

 俺は早速、この兵器の論文と設計図を紙に書き写す作業にかかった。時雨は、俺の行動に不信がっていたが、いつもの事だと思ったらしく立ち去った

 

 

 

「これって!」

 

「ああ、これなら勝てるじゃろう」

 

 翌日、会議が再び開いたが、提督はまた発表を行った。『新型兵器』といい説明したが、その場にいる全員が唖然とした。僕も驚いた。こんな兵器があるのか

 

「このデータを作った人は、こういうのを予想していたのでしょう。試作段階の兵器を張り付けたと思います。但し、これは平行世界の未来で実用化したのは米軍だけです。理由は、これを起動する電力が余りにも膨大だからです」

 

提督は口を開いた。しかも自信を持った言い方だ。こんなに力強い言ったのは初めてかも知れない

 

「しかし、この兵器は試作段階だ。未来兵器がこの時代に再現出来るかどうか……」

 

 軍曹はやや暗い口調で言った。複雑な理論と設計図、そして専門用語や物理化学の知識は、この会議に居る者では到底わかる代物ではない

 

「いや……出来なくはない。確かに難しい。だが、この者は設計図どころか科学知識まで書いてやがる」

 

「本当!?」

 

 博士は頷くと時雨は喜んだ。これなら、未来兵器を持つ浦田重工業の連中に勝てるかもしれない

 

「しかし、ここでは無理じゃ。人員と試験材料があればいいのじゃが。それを実現させるには、あの艦娘なら出来る。しかし、ここにはいない。参ったな。工廠妖精だけでやるしか。しかも、時間が足りん」

 

「登戸研究所に知り合いがいます。手助けになるでしょう」

 

 中佐は即座に提案した。登戸研究所は大日本帝国陸軍が保有している研究所だ。秘密戦の研究部門である。これで役立つはずである

 

「論文によると、これは航空機に搭載し爆撃するためのものでしょう。効果は半径200メートルらしいですが」

 

「この世界だと恐らく、大型するのは必須じゃな」

 

 博士は複雑な表情を浮かべた。対抗する兵器のノウハウがあるのは嬉しいが、成功するかどうか分からない

 

「仮に成功したとしてどこで使います?」

 

「あー……あの、作戦は考えたのですが、私は学生なので」

 

 軍曹は質問したが、提督は恐る恐る言った。何しろ、軍人ですらない相手が作戦を考えたのだから

 

「構わない。ここは総司令部ではない」

 

 中佐は促すと提督は黒板に大きな紙を張り付けた。恐らく、徹夜で作ったのだろう。全部、提督の文だ。所々、写真もあるが

 

「浦田重工業はこの日本を脱出しようとしています。準備は既に始まっているでしょう。未来の私の記録によると、浦田重工業は深海棲艦に攻撃され壊滅しました。勿論、自作自演ですが」

 

提督は指揮棒を取り出し、指しながら説明した

 

「重要なのはこちらを攻撃していないことです。恐らく、攻撃する必要性はないと考えています」

 

「どうして?」

 

 時雨は質問した。相手は強力な兵器を持っている。それなのに、なぜ攻撃をしないのか?

 

「理由は2つある。1つは戦略上の判断です。わざわざ岐阜基地を攻撃するよりも、こちらを迎え撃てばいいと判断したのでしょう。ゲリラをシラミ潰しするのは骨が折れると考えたと思います」

 

 攻撃三倍の法則というのがある。戦闘において有効な攻撃を行うためには相手の三倍の兵力が必要となるというものだ。尤も、これが全て通用するとは限らない。空爆されれば終わりだ

 

「もう1つは戦力温存です。私達は浦田重工業が保有する3機の航空機を撃墜しました。データによると平行世界の未来の航空機は高額です。1機あたりが目玉が飛び出るほどの高さですから」

 

 先日に交戦したアパッチは、約67億円である。こんな高価な兵器を一企業が沢山、持っている訳がない。補給であるワームホールも限度があるはずだ

 

「成る程。つまり、兵器の数は少ないということか」

 

 中佐は考えながら言った。しかし数が少なくても、こちらの軍勢を簡単に料理出来ると言う事になる

 

「と言っても敵は強大です。まずは囮か何かを使って浦田重工業の警備兵の大半を引き連れます。その隙に別働隊がこの兵器を運びながら本社ビルを目指します」

 

勿論、先程上げた兵器である

 

「これは非殺傷の兵器です。有効範囲に到着したと同時に起爆させます。これで彼等が保有する兵器の大半は無力化出来るでしょう。浦田重工業が混乱している隙に総攻撃をします」

 

提督は説明を終えたが、未だに口を開かずこちらを見ている事に慌てて付け加えた

 

「勿論、私の考えですから無視してもいいですが」

 

「いや、いい。これなら勝てるかも知れない。後は作戦を立てなきゃならない。何しろ、横須賀にある本社ビルを攻撃するのだからな」

 

 何しろ、浦田重工業の本社ビルの回りには住宅街や商店街が沢山並んでいる。これを攻め落とすのはこちらも覚悟がいる

 

「次に浦田社長が保有するワームホールを破壊する事です。これがある限り、私達は勝てません。『平行世界』の住人が浦田社長の悪巧みを止めてくれればいいのですが、全く干渉して来ない事は未来の私の記録でも証明済みです」

 

「破壊……出来る?」

 

時雨は提督に聞いたが、答えたのは博士だ

 

「出来るはずじゃ。ワシが異世界……『平行世界』の軍艦の魂をこちらに呼び寄せた方法と同じじゃろう」

 

「建造ユニット」

 

 時雨は呟いた。艦娘は『艦だった頃の世界』、つまり『平行世界』の軍艦の魂を肉体に宿した生命体。肉体は無機物が必要。建造ユニットは一方通行のワームホールに近いと言う

 

「奴が建造ユニットを奪った理由はそこじゃろう。双方の世界の通路を確実なものとするために」

 

 あの装置が解析されたら今度は、『最新鋭兵器』を沢山持ってくるだろう。何かしら制限はあるはずだ。でなきゃ、大軍を送り込んで来るはずだ

 

「平行世界の日本の動きが気になるが、今後干渉してこないとは限らない。世界が滅ぶまで開いるか分からんが、碌な使い方はせんじゃろう」

 

「ちょっと待って。そのワームホールは破壊可能なの?深海棲艦が出現したワームホールは破壊できなかったって」

 

時雨は質問した。この時代に到着し、博士は始めにそう言ったのだ

 

「それはワームホールが巨大だった場合だ。この会議の前に親父から聞いたが、ワームホールが小さい場合は可能だ。恐らく、移動式のように機械仕掛けでパワーを補い通路を確保したのだろう」

 

博士の代わりに提督は質問に答えたが、これは推測しかない。不安定要素だ

 

 後に博士が説明してくれたが、ワームホールは手を加える事が可能という。それを応用しタイムスリップや平行世界の往き来可能ということ。しかし、深海棲艦と同じく未知の物質で出来た現象なので安定しないという。安定するにはワームホールが巨大でなければならない

 

「小形の場合は不安定じゃ。約1週間から1ヶ月くらいなら開くじゃろう。しかし、それ以上は無理じゃ。エネルギーを絶えず供給しなけれは崩壊する」

 

「浦田社長はワームホールの存在や知識を知っていたのか?」

 

今度は中佐が質問したが、博士は肩をすかした

 

「さあ?ただ、平行世界で過激な宗教団体と接触したと録音にあった。高学歴を持つ人もおったと。そこから得た知識じゃろう。しかし、運のいい事にタイムスリップまでは行き着かなかったようじゃ」

 

 浦田社長がタイムスリップ理論まで行っていたらどうなっていたのだろう。だが、幸いなことに浦田社長はタイムスリップは興味ないらしい。実際に監禁され尋問されたのは艦娘の事だけ。タイムスリップ事は聞かされていない。時間旅行なんてしなくてもいいと判断したのだろう。時雨の正体が分かってもタイムマシンを造ろうとはしない

 

「浦田社長が日本を脱出するまで1ヶ月。奴はわざと猶予を与えた。だから、今度はこっちの番だ。敢えてそれ乗り、一気に倒す」

 

 提督の締めくくりの言葉に皆は頷いた。データを与えた者が何者かは知らない。しかし、ここで倒さなければ同じ道をいくだけ

 

「これなら未来は――」

 

「いや、完璧じゃない」

 

時雨は言いかけた時、提督はかぶりを降った

 

「この作戦には決定的な致命傷がある。戦艦ル級改flagshipの倒し方だ。未来の記録によると、奴は近代兵器に頼っているだけではない。こいつを何とかしないと、勝った事にはならない」

 

 提督の指摘に時雨は項垂れた。こいつをどうにかしないと。しかし、手持ちの装備では火力不足だ

 

「建造ユニットはあいつらが持っていった。恐らく、完成させるためだろう。親父、あいつ等は確かに大型建造用の改修設計まで持っていったんだな?」

 

「間違いない」

 

博士は否定しなかった。それは博士自身が確認している

 

「建造ユニットの完成する日はわかる?」

 

「見たわけでは無いが、502部隊の潜入工作員からの情報を察するに1ヶ月くらいは」

 

博士は唸っていたが、時雨は分からなかった。提督は何をする気だろう

 

「親父……申し訳ないけど浦田重工業は建造ユニットを完成させようとしている。完成したと同時に浦田重工業を襲って奪う。それでいいか?」

 

「「ええ!!」」

 

時雨と博士は驚き、中佐と軍曹は顔を見合わせた

 

「なぜ!?」

 

「そうだよ!もし、あいつらが新しい艦を建造したら……洗脳とか脅迫でこちらを攻撃されたらどうするの!」

 

 時雨は大声を上げた。確かに建造ユニットが完成したら嬉しい。しかし、浦田重工業の手先として攻撃されたら終わりだ。最悪の場合、仲間同士で戦う事に成るかも知れない

 

「いや、時雨。奴等に限ってそれはない」

 

「どうしてそう言い切れるの!」

 

「勘だ」

 

提督の予想外の答えに唖然としてしまった。提督は楽観主義ではないはず!

 

「どうしてそう思うの?僕に対して酷いことをした奴等だよ!」

 

「それだ。奴等は艦娘を見下しているから部下として扱わないだろう。戦場にも出さない」

 

時雨は混乱した。軽蔑しているから戦わせない?

 

「言い方が悪かったな。未来の記録では捕虜になった艦娘は沢山いたらしいな。拷問してタイムマシンを聞き出そうとしたらしいが、奴等は洗脳し未来の俺にスパイとして送らなかった」

 

提督は、未来の記録を見せた

 

「つまり、奴等にとって艦娘は全く信用出来ない存在なのだろう。それか、それが面倒くさかっただけなのか。例の戦艦ル級改flagshipの指揮下の深海棲艦と違って、艦娘は人間性はある。俺が戦艦ル級改flagshipだったら敵である艦娘を使わない」

 

「どうして?」

 

 時雨は分からなかった。姉妹艦や仲間を人質にすれば、それなりに従うのだろうと思っているが、提督は否定している。提督は時雨の不満を感じ取ったのか、説明を付け加えた

 

「時雨、それは考え過ぎだ。浦田社長だったら、こう思っているだろう。どんなに脅迫しても浦田重工業を裏切るかも知れない。逃げるかも知れない。暗殺されるかも知れない。もしくは目を盗んで破壊工作を行い自分達の拠点が吹き飛ばされるかも知れない。監視を付けるより自軍の手駒を強くした方が安上がりだ。思想改造も施していない捕虜である艦娘が、こちらの命令を素直に従うと思うか?俺は思わない」

 

「それは……そうだけど」

 

 時雨は混乱した。確かに僕達艦娘は脅されたからと言って素直に聞くものではない。気づかれないように脱走し応援を呼ぶだろう。従順するフリをしながら敵を倒す方法を考えるだろう。しかし、それはあくまで可能性だ。歴史は変わっているのだから、浦田社長が建造された艦娘を脅迫する手段を使うかも知れない。しかし、提督の言っているように浦田重工業や深海棲艦は、艦娘を手駒として使わなかった。提督の考えている事は、ほとんどあっているのだろう

 

「でも……もし……」

 

「言いたい事は分かる。ただ、浦田重工業は艦娘を信用していない。『標的艦』と称してミサイル攻撃する奴等だからな。どちらにしても酷い奴だが」

 

 時雨は手を握り閉めた。捕虜になった艦娘は二度と戻って来なかった。送られて来た映像を見た事はあるが、映し出されていた捕虜の艦娘達の姿は見るに絶えなかった。全員、ボロ人形のようだった。そして、奴等は何の躊躇いもなく艦娘を沈めた。標的艦と称して、捕らえた艦娘をワザと解放し逃げ回る艦娘を撃沈するまでミサイル攻撃した。アイオワと違ってミサイルを防御システムが全く無い艦娘は、なす術もなく海の底に沈められたという

 

「あいつのせいで……僕達の仲間が……五月雨が……」

 

「分かっている。しかし、奴等は艦娘を洗脳し攻撃してくるなんてないだろ。それは今もだ。戦艦ル級改flagshipから暴力しか受けなかったのが証拠だ。『浦田重工業のためにこちらの兵隊として戦え』なんて言ってなかっただろ?」

 

「あいつらの考えは分かったけど……あまり嬉しくないね」

 

 もし、建造ユニットを奪還出来なければ、生まれてくる艦娘は標的艦として殺されるだろう。戦力として考えていないと言う事は、お荷物だということになる

 

「可能性があるなら、建造した艦娘を盾にするというやり方だろう。それだけは避けなきゃならない」

 

「浦田重工業や深海棲艦がそれを実行したらどうするの?攻撃する?」

 

時雨の質問に提督は一瞬考えたが、次のように答えた

 

「その場合は、救助を優先してくれ。攻撃は最後の手段だ」

 

時雨はホッとした。提督が冷酷な人間でなくて良かったと思った

 

「建造ユニットの完成を浦田重工業に任せるとか飛んだバカじゃな」

 

「悪かったな。でも、仮に建造ユニットを持ち出せたとしても完成できるのか?」

 

「いや……せいぜい使い捨ての建造ユニットになる。数人の艦娘を建造すると建造ユニットはオーバーヒートを起こしてスクラップになるじゃろう」

 

これには提督どころか陸軍将校と軍曹も呆れた。時雨もである

 

「どうして!?」

 

「仕方ないじゃろう。コントロールが……」

 

 博士がそこまで言った時、突然口を開けたまま動かなくなった。まるで時が止まったかのように動かない。時雨が声を掛けようとした次の瞬間、椅子から立ち上がると荒々しく会議室から出て行った

 

「な……何があった?」

 

「いつもの事です。何か閃いたのではないですか?」

 

軍曹は驚いたが、提督はため息をついた。どうやら、こういうのは見慣れているらしい

 

「話を戻します。浦田重工業はこちらを舐めている。だから、その裏をかく。傲慢な奴等をぶちのめす」

 

提督の最後の言葉に皆は頷いた。これで勝てるはずだ。そう願いたい

 




提督は何か兵器を見つけましたが……

余談ですが、感想の中に『艦娘同士の殺し合いは勘弁でお願いします』とありましたが、これについては『この作品において艦娘同士の殺し合いはありません』とお答えします
と言うのも、敵である浦田重工業が艦娘を戦力に加えるメリットが何もないからです。理由は提督が言っているように「浦田重工業は人間不信ならぬ艦娘不信だから」です。戦艦ル級改flaighipのお蔭で深海棲艦が操れますから、裏切るかも知れない艦娘を戦わせるわけには行かないと思っている訳です
と言うのも脅されたからと言って艦娘が忠犬のように従うのは虫が良すぎるような気がします。相手が約束を守るとは限りませんし。それなら従うよりも浦田社長を暗殺するなり裏切るなりした方が得策でしょう
洗脳という手段も考えましたが、これはカルト教や特定の思想団体がやる手段です。確かに思想が強い国ならやっていますが(例:朝鮮戦争中に中国人が捕虜にした米兵を洗脳した)、浦田重工業はカルト教でも特定思想が強い集団でもありませんので

まあ、仲間や友軍とは何だったのかと思っちゃうくらい手加減無しに艦娘同士が殺し合うのはあり得ないんじゃないかなと思ったりします。旧日本海軍ですら、そんな間抜けた事はやりませんでしたし
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