第72話 艦娘の存在と宴会
会議室では騒がしかった
これからどうするのか篭城する必要性もない事も全員理解している。しかし、戦力の隔絶がネックになっている事が頭の痛いところだった
「X兵器の方は大丈夫なんでしょうか?」
軍曹は陸軍将校に聞いた。確かに完成はした。しかし、効果があるかどうかは不明だ
「仕方ない。試験する時間は全くない。ぶっつけ本番だ」
「それって全て明石と大佐にかかっていますよね?」
将校の答えに軍曹は更なる疑問をぶつけた。もう後がないのだ。作戦が決行して失敗したら後はない。自分たちは賊軍扱い。浦田重工業は更なる暴走して世界を攻撃するだろう。そうなったら誰にも止められない。時間が必要だが、有限だ。食料も弾薬も不足だ。篭城は論外だ
「今、我々に出来る事は二人が天才である事とディープスロートの密告が本物である事を信じるだけだ」
策がない以上、これしかない。劣勢を覆すにはそれ以上のことをしなければならない
「作戦が失敗したとして、あいつと戦艦棲姫との密約次第だな」
将校の言葉に軍曹は顔をしかめた。大佐の息子の提案は、あまり賛成は出来ない
「確かに全国に散らばる施設と工場を何とかしないと。あれは厄介です」
軍曹は苦し紛れに言った。実は、もう1つ厄介な事があった。それは、浦田重工業が保有する工場や施設を何とかしないといけない。しかし、それを潰す余力はない。何よりもそこで働いている労働者をどうにかしないと攻撃なぞ出来ない。人質のようなものだ。そこで働いている労働者は、普通の一般市民だ。彼らはそこで働いて生活している。浦田重工業の悪行なぞ、彼らにとっては知った事ではないだろう。生活がかかっているのだから仕方ない
強攻策をとれば、国民から怒りを買うだけだろう。そうなったら、こちらは誰も信用されなくなる
「詳細は不明だが、世界各国であちこち内乱が起こっている、何者かが少数民族や先住民に対して武器を渡しているとな。アメリカでは黒人やインディアンが、ソ連では強制収容所から脱走した者達が武器を取って戦っているらしい。武器もAK-47と呼ばれる自動小銃と我々が使っているRPG-7が使われた」
将校の状況説明に軍曹はため息をついた。これをやっているのは、浦田重工業だ。浦田社長は、虐げられた者達に武器と使用方法、そして励ましともなる演説が書かれた手紙を与えているのだ。受け取った彼らはこう思ったに違いない
『これは神の贈り物だ』と
実際にアメリカでは、南北戦争に発展しかねない内戦が勃発し、ソ連も内紛で国家が分裂する危機にまで発展した。植民地だった国は次々と独立を宣言し、欧米軍と真っ向から対立した。植民地軍にとっては、陰険な戦いとなり泥沼化となった。ただでさえ、深海棲艦に対処しなければならないのに、ゲリラ化した現地民と戦わなければならなかった
こうなってしまうと人類の絆は、脆い。長い間、虐げられた者にとって深海棲艦なぞどうでもよかった。それどころか歓迎するような感情も持っているらしい。何しろ、憎むべき相手を倒してくれたのだから
実はこれは、浦田社長の作戦でもあった。平行世界の日本の歴史を参考にしたものだった
太平洋戦争時、マッサーカー大将がレイテに上陸した際に、フィリピン国民に向けて演説を行った
『私は帰ってきた。フィリピン国民よ。今こそ蜂起せよ。銃を取って日本軍を倒せ。これは祖国を解放するための聖なる戦いなのだ』
マッカーサーは秘密放送を使って、フィリピン国民にこう呼びかけた
この演説に多くのフィリピン人がゲリラ化した。日本軍は米軍とともにゲリラとも戦わなければならなかった。その過程で市民の虐殺も起こり、陰湿な戦いとなったのである
平行世界の歴史がそれを証明している。それを参考に浦田重工業は操っている深海棲艦を通して武器や弾薬をせっせと現地に投下しているのだ。後は現地民の原住民次第だ。武器を取って憎むべき相手と戦うのも良し。武器を捨てて隠密な生活をするのも良し。しかし多くのものは、武器を取り長年虐げられた国や軍隊に向けて銃を向けた。よって多数の場所で悲劇が起こったのは言うまでもない
「浦田重工業がこの国を離れたらどうなるか。あの未来の記録がそうだ。反艦娘団体は、おそらくそれだろう」
「密かにゲリラを育てていたのか。愛国心は脆いって事か」
軍曹は悪態をついた。いや、彼も分かっていた。知れた事だ。何しろ、政権批判があるのだ。不満を持つ者だっているだろう
「陰湿な戦いにもなる。それだけは避けたい」
ゲリラや反乱の要素があるとき、戦争というものは必ず陰惨で後味の悪いものとなる。喜ぶのは第三者だ。勝手に殺し合いをやっているようなものだからだ
「本来は仲間を呼び寄せたい所だが、傍受される危険もある」
「しかし……暗号文も送れないとは」
「もうこの戦いは、常識を越えている。己の物差しで図ってはいけない」
実は通信を使って仲間の部隊と連絡を試みようとしたが、博士からそれは止めておけ、と強く言われた。電子戦が強く通信内容は全て筒抜けになっていると指摘したからだ
少しはムッとした軍曹だったが、浦田重工業の異様な力を納得せざるを得なかった。これ以上は、奴等の思い通りにしてはならない
ただ、朗報はあった。『艦娘計画』のノウハウがドイツに到着し、早速着手している事をドイツ大使館と通じて伝わった。ドイツではルール工業地帯や都市が深海棲艦によって爆撃されていたため、建造ユニット製造が危ぶまれていたが、何とか製造の目途は立ったらしい
時雨達は兵装確認のため博士と明石を一緒に研究所にいた。不知火も龍譲も大淀もである。武器弾薬が無ければ戦えない。当たり前である
「兵装は十分だ。これで戦えるじゃろう」
「ありがとう」
時雨の兵装はメンテナンスもバッチリだ。何時でも戦える。しかし、心の奥底では不安は拭い切れない。これで未来は救えるのだろうか?
「どうした?」
「博士……僕は不安なんだ。もし……浦田重工業を倒したとしても第二次、第三の浦田重工業が現れるかも知れないと思うと……」
明石は手を止め、不知火も龍譲も大淀もこちらを見た。しかし、時雨は無視した。ずっと思っていた疑問。確かに浦田重工業を倒したら救えるだろう。だが、僕達艦娘は本当に幸せな未来を掴みとれるのだろうか?
「君は、何を望みたい?」
「僕は皆と一緒に居たい。……でも、浦田重工業のような人から『兵器』だとか『標的艦』とか言われながら、弾圧されたくない」
時雨は床を見ながら言った。自分の知らない未来になるかも知れない。その時……どうなっているのか?答えを求めて博士を見たが、何と博士は笑っていた
「どうしたの?」
「いや、ワシは間違っていなかった。判断を。先祖代々からの『超人計画』を止めて『艦娘計画』を実行して良かった」
博士は立ち上がった。とても、満足しているようだ。何があったのか?
「ワシの質問だ。君は何者なんだ?」
「何なのか、分かるはずだよ!」
時雨はイラついた。真剣な質問に、なぜ博士は喜んでいられるのか?
「明石、皆をこの部屋から出て行かせてくれ。……ああ、不知火だけは残ってくれ」
明石は困惑したが、素直に従った。何か感じたのだろう。2人で何かを話しているのを分かっているかのような。皆は出て行き、不知火だけは残った
「なぜ、不知火をここに?」
「私からの質問だ。君達は何だ?艦娘とは何なのだ?『兵器』だとか『標的艦』だとか言っておるが、ワシの考えは違う。誕生の仕方と能力は違うが、見た目は人間。喋り方も人間。そして、人間と同様な感情もある。それだけありゃ、答えは分かるじゃろう」
博士の質問に時雨は困惑した。この時代に来る直前に、未来の提督から聞かされた時、艦娘の創造主のイメージは神のような存在かと思った。実際に会ってみたら、提督の父親であり、左遷された海軍士官だった。少しは失望したが、腕の良さは本物だったので何とか受け入れたが
「僕は、戦艦ル級改flagshipや浦田重工業による暴行や殺害は避けたいんだ。戦争に負けて――」
「でも、奴らの目を出し抜いてタイムスリップしたんじゃろ?」
時雨の不安げに博士は首を振った。確かに犠牲のお蔭でこの時代に着いたが、それは提督のお蔭だ。僕達だけでは勝てない相手だ
「時雨。君が恐れているのは艦娘が、世間に受け入れて貰えるかどうかと思っているのじゃろう」
「……うん。そうなる未来になってしまうと……何のために戦っているのか?僕には分からない。僕達を差別する人達に対して命を張ってまで守る価値なのかって」
時雨は不安で一杯だった。『艦だった頃の世界』の時のレイテ沖海戦。僕以外の船は沈んだ。この世界では、未来で僕以外の艦娘は死んでしまった。折角、建造された不知火達に不幸な目に合わせてはならない
「時雨、ワシはただ兵器を造っている訳ではない。浦田重工業や他の企業が造るようなものではない。なぜ、『超人計画』を止めたのかを知りたいか?」
博士は不知火に近づくと肩に触った。すると、不知火は突然動かなくなった。分からない。声も発せずに、膝をつきこちらを見ている。目は空虚だった。まるで目がガラス玉かと思ったほどだ
「博士、一体何を!」
「心配するな。ただ艤装を介して機能を停止させた。いや、意識を失わせたと言った方がいい」
博士は制した。こんな現象は今まで見たこともない。提督はこんな不思議な力は持っていない。初めて見る
「ワシがワームホール発生時、ワームホールの正体を探るべくアメリカに一時期行った事を覚えておるか?まあ、どうでもいい。その時にあるイギリス人と出会ったのじゃ。そいつは……まあ、機械専門の科学者で変な奴じゃ。だが、ワシに興味のある研究とテストを教えてくれた。まだ、学会には発表しておらんかったがの」
博士は時雨の後ろに立つと肩に手を置き、耳にささやいた
「さあ、目の前の不知火を撃て。そうすれば答えを教えよう」
時雨は青ざめた。博士は何を考えているんだ!僕が引き金を引くとでも!
「何している?お前は兵器なんじゃろ?人の命令には従順なんじゃろ?」
「こんなの間違っている!」
時雨は抵抗しようとしたが、動けない。正確には、下半身の感覚が無くなったかのようだ。手や腕は動かせるが。こんな事は一度もなかった。博士がやったのか?下身体の自由が聞かなくなるなんて。しかも、目の前の不知火が驚くべく行動を出した。何と立ち上がり、こちらに向けて砲を向けたのだ!
「不知火はお前を殺そうとしておる。戦いの鉄則だ。撃たれる前に撃て」
「不知火、待って!」
だが、不知火は無表情で弾を装填した。恐らく実弾だ!このままだと撃たれる!でも、相手は仲間だ!僕達の……大切な仲間だ!
「どちらが重要じゃ?任務か、それとも目の前の命か?」
「ふざけないで!僕は戦争を知っている!覚悟も戦う理由も国を守る必要性も知っている!」
「そんなものはプロパガンダかスローガンに過ぎん。会社が出している求人広告と同じじゃ。ワシが聞いているのは、艦娘は人間を模した兵器か?それとも魂のある生き物か?それだけじゃ」
もう何が言いたいのか分からない。不知火はこちらを攻撃する気だ!博士は正気を失ったのか!どうすればいいのか分からない!
「ああぁぁぁ!」
絶叫して力を振り絞った。抵抗したお蔭だろう。動かない足が突然動いたのだ。時雨は不知火に駆け寄り押し倒した。不知火は倒れ込み、時雨は馬乗りの形になった。艤装を素早く奪うと弾を排出したが、出た弾を見て唖然とした
「空砲!?」
弾は空砲だった。振り向くと博士は満足そうに頷いている。時雨は立ち上がると、博士に近づいた。博士は……何が言いたかったのか?
「時雨、お前はワシを攻撃する事も可能じゃった。しかし、それをしなかった」
「当たり前だよ!」
「その当たり前が大事じゃ」
博士は床に倒れ動かない不知火を抱えると椅子に座らせた。不知火は人形のように動かなかったが
「チューリングという科学者……いや、数学者か。その者は『機械は思考できるか?』というのを考えたらしい。将来、人類は人間に似た機械を造り出せるかも知れない。しかし、その機械に生命体のような意志はあるのか、常に疑問に思っていたようじゃ」
「それで僕にあんなことを試したの!」
時雨は怒りで一杯だった。せめて別の方法があったはずだ!
「それについては謝ろう。ワシはあのような行動に評価しておる。もし、不知火を撃つような行為をしていたら、ワシはお前達に失望しておるがね」
「どういう?」
「もう気付いておるはずじゃ。ワシは人殺しのような兵器を造らなかった。造ったのは人間に近い存在を」
博士は満足しているようだが、なぜ満足しているのか分からなかった。色々と考えたが、まさかと思い、思い切って聞いて見た
「先祖と関係があるの?」
「……ああ。『超人計画』というのは深海棲艦の力を人間に取り込み同等かそれ以上の力を出すもの。確かに兵器としては優秀かも知れん。だが、人間性を失う。
博士には、浦田重工業が所属している戦艦ル級改flagshipの正体が人間である事を知っている。北方棲姫と戦艦棲姫が言ったのだ
「戦争は人を狂わす。どんな歴戦の兵士でも後遺症に苦しむ者もおる。じゃが、お前は違う。ただの殺人道具ではない。笑ったり、泣いたり、怒ったり出来る。安心したぞ。未来の息子もお前を見捨てなかった理由が分かった」
博士は時雨の頭を撫でた。不思議と不愉快ではなかった。暁だったら嫌がるだろう
「博士、僕はお礼を言いたいんだ。博士は、変な人だけど……出会って良かったと思うよ」
博士は苦笑した。どう反応したら分からないだろう。ただ、黙って頷いた
「ワシからの最後の言葉じゃ。過去は変えられるのは、これで最後じゃ。タイムマシンが浦田重工業に悪用される懸念もあるが、それだけではない。この世界を破壊しかねん。何が起こるか分からん。タイムトラベル関連の論文や試作設計図は燃やしたぞ。ああ……心配するな。浦田重工業が手にしたワシの論文では、造れん」
博士は時雨の驚愕した顔に慌てて制した。あれは興味本位で作っただけだと説明された
「歴史改変という事はタイムパラドックスも懸念しなければならん。これも考慮しなくては」
時雨は困惑した。聞き慣れない言葉だ。確かタイムスリップする直前に、提督もそんな事を言っていたような……
「タイムパラドックスって何?」
時雨の質問に博士は丁寧に答えた。時雨は、ただその言葉を素直に受け入れた。何の恐怖も感じなかった。ただ頷き、不知火を起こすよう頼んだ
目が覚めた不知火は、何があったのか聞かれたが、はぐらかした。貧血だったと伝えると、本人は納得したようだが
作戦決行の3日前
ある会議室では多くの隊員が集まっていた。時雨達は勿論である。時雨も龍讓も不知火も戸惑っていた。自分達はここにいていいのかと思ったほどだ
「落ち着け。別に気にしなくていい」
「だって……作戦前なのにこれって」
時雨が戸惑っている理由は、目の前には多くのご馳走が並んでいたからである。会議室は最早、宴会の会場と化していた。勿論、書類などの重要なものは別室に保管してある。しかし、お酒も食事も何処から持ってきたのか?隊員達も同様でこんな事になっているとは思わなかった
固まっている最中、陸軍将校と基地司令が会議室に入ってきた。全員が将校認識に目が集まり、静まり返った
基地司令の声は会議室に響き渡る
「今日は皆の労をねぎらい宴の席を用意させてもらった」
その場にいた者達は顔を見合わせた。戸惑っているのだろう。こんなことをしている場合なのか?
「皆の不安は分かる。『X兵器』は完成に伴い、作戦の日時が決定した。聞いての通り、3日後だ」
作戦の日時は数日前に決定した。浦田社長がテレビで言っていた艦隊を出港を定めた日よりも2日前だ。X兵器と……提督の予備作戦だ。これは、作戦と言えるものかどうかは不明だ。戦艦棲姫も北方棲姫も既に岐阜基地を去って海に戻った。とても不安だが、仕方ない。不満はあるものの、結局は一同は同意した。但し、それを知る者はごく一部だ
時雨が戦艦棲姫を掘り起こした件から今日までの間に起こった事を思い出している間も岐阜基地の基地司令は喋っている
「この基地だけかも知れないが、反逆にも等しい行為にも拘わらず、陸海軍の軍人が纏まっている事に私は嬉しく思う。そして、艦娘の諸君。改めて、ようこそ我が国。我が部隊へ」
話が振られた時にその場にいた隊員達は一斉にこちらを見た。龍譲と大淀は落ち着きがなく、不知火は目線が集まっている事に戸惑いを感じた
時雨はこの場にいる兵士達を見た。『平行世界の過去の日本』と違って兵士の募集要項が違っていた。歴史が異なっているせいか、志願制であり女性兵士も数人いる。浦田重工業が係わったせいなのだろうか?
「……恐らく、これが最後の戦いになるだろう。もう後は無い。これが最後の晩餐になる事にならない事を祈る」
基地司令はざっと見渡した。世界がどうこうの話はしない。恐らく、それがいいのだろう。時雨が体験した破滅した未来は、一部の人でいい。ここにいる兵士達は混乱するだけだ
「私は君達が戦いに勝利し、再び顔を合わせ共に祝杯をあげると信じている」
将校と基地司令がグラスを持ち、その場にいた者達もグラスを持った。時雨も同様である。勿論、普通の飲み物だ
「勝利に――乾杯!」
はじめは暗い空気が満たされていた。話も少なく、食事を取る音も少なかった。無理もないだろう。その場にいた人は浮かない顔をしていた。そんな中、大淀は歩き回って話し掛けてきた。挨拶しに回っていたのだ。明石も負けずに登戸研究所の人達と話し掛けた。やはり、技術者同士で息があったのだろう。
やがて、周りの人も徐々に変化していった
艦娘は一体なんだろう、と
初めは女性兵士だけだったが、興味を持ったが一人、また一人と時雨達の元へ話し掛けてきた
それに当てられてか、広場にいた人達にも徐々に笑顔と気力が戻っていった。静けさに満ちた宴会には、いつしか笑い声と歓声が響くようになっていた
作戦が失敗したらもう後がない。籠城する物資なんてない。つまり、ラストチャンスだ。タイムマシンはもう既に存在しない。タイムマシン関連の資料を燃やしたのだ。博士自身も悪い事はしない。それならば、最後の時をめいっぱい楽しんでやろう
龍讓は陸海軍のパイロットの人達と意気投合し、不知火は自分達が何者で『艦だった頃の世界』での出来事を話していた。大淀は陸軍将校と博士と話していたが、楽しそうだった
国を守る同士は仲良くなれそうだ。と時雨は安堵した。この時代で艦娘をどう思われるか心配だったが、特に問題は無さそうだ
時間が経った頃合い
時雨は提督と話すために探したが、博士が外にいると言っているため会場を抜け出した。兵士達と話すのは楽しかったが、五月蠅いのは苦手だ
不知火も龍譲も楽しんでいるから大丈夫だろう。龍譲を見たのは、火力発電所防衛戦が最後だった。龍譲は一航戦である赤城や加賀などの空母組にカウンセリングしていたのを覚えている。未来の深海棲艦の最新鋭兵器……ミサイルやジェット戦闘機に対してプライドがズタズタに引き裂かれ落ち込んでいる所を見事立ち直したと言われている。日本海軍である空母の古参は伊達ではなかった
月明りの庭で建物の壁にもたれ掛かりながらお酒を飲んでいる提督を見つけた。二十歳だから問題はないものの、神妙な顔つきになっていた
「提督……どうしたの?」
「ああ、時雨か。ちょっと外の空気を吸いたくなったのさ」
提督は時雨に気づいたか、ちょっと笑顔を見せた
「本当はどうなの?」
「……全く、人の心を読むなよ」
提督の表情が、未来の時と同じだった。常に何か策を考えている仕草と表情が一緒だったからだ。仕方ないかも知れない。一番、よく知っている人だから
「まあ、いい。何だ?」
時雨は迷っていた。もう、後がないというのを知っている。そのため、不安がのしかかってくる
「未来は……変わるよね?」
「分からない。本当に変わるかどうかは。ただ、未来の記録とは、異なるから変わっているのだろう」
提督は時雨を見据えた。提督も同じだ。彼も不安である。新兵器と予備作戦で戦力差を覆せるかどうか分からない
「ただ……親父が言っていた。『歴史が暴走しているのではないか?』と。もし、浦田社長にワームホール……いや、誰でもいい。変な知識を持って来なければ、俺達はどうなっていたのかな、と」
「分からない。でも……僕はこの世界が好きだ。人になった事には驚いたけど、色々な事が出来て楽しい」
『艦だった頃の世界』の時は、自分自身は軍艦だったため仕方ない。いや、意識や自我はないのだから、自覚しているかどうか怪しい。時雨自身も『太平洋戦争』というものについては、記憶があやふやである
「そうか」
提督は黙り込んだ。この世界が気に入っている事に納得したようだ
「世界がどうのと言われた時は実感出来なかったが、自分が住んでいる街も滅茶苦茶になるんだからやらざるを得ないな」
「それでいいよ。僕も建造された時は、ショックを受けたから」
あの日……大阪の秘密基地で建造され、外に出た時の光景は忘れられなかった。街が攻撃され、仲間が撃沈される事にショックを受けた。あの時、ミサイルが不発していなければ、撃沈されていた。時雨は存在していなかっただろう
「そう言えば、博士と明石さんがこれをくれたんだ」
時雨は艤装を展開すると提督に見せた。それは未来から持って来た兵装。12.7cm連装砲B型改二と10cm連装高角砲と61cm四連装の酸素魚雷を見せた。明石は改修も施したことから火力が上がったかも知れない
ただ劣化は避けられず、今回の作戦で使えば破棄せざるを得ないらしい。しかし、今回が決戦のようなものであるため使用する事に成った
「酸素魚雷を食らわせてやれば勝機はある」
「時雨。戦いと言うのは、お前1人で戦うものではない。俺達は殺し屋ではない。建造ユニットを取り返し、稼働させ仲間を増やす」
「建造された艦娘をその場で戦わせるんだね。僕の時と同じように」
あの時と同じ状況だが、違う点は負け戦ではないと言う事。まだ、最新鋭兵器はないはずだ
「心配するな。浦田重工業と浦田社長は502部隊と兵士達の仕事だ。俺達は戦艦ル級改flagshipと浦田が操る深海棲艦を倒さなきゃならない」
提督は持っていたグラスに入っていたお酒を飲むとからかうように言った
「という訳で体調管理は気を付けろよ。子供は寝る時間だ」
「僕は子どもじゃない」
時雨はふてくされたが、提督は笑っていた。子ども扱いはちょっとムッとしたが、それでもうれしい事には変わらない
もう時雨が知る歴史ではないだろう。歴史は大幅に変わっている。しかし、提督と時雨達の艦娘の関係は変わらない。いや、絆は確固たるものだ
2人は宴会場に戻った。自分達が進む道は間違っていないと
もし、何らかの方法で一度やり直せるとしたら……
誰しもが抱く過去の改変が現実になった時、人は何を思い、何をするのか
何ができるかが問題ではない。愛する人を守るため、死を迎えようとするものを救うため
浦田社長は間違った選択をした。歴史を変える余り、禁忌の行動を起こした。偽りの正義に身を隠す悪人と化になった。皮肉にも独裁者や禁断の兵器を造った者と同じ道を歩んだ。そして、誰も止める者はいない。守るための行動とは言い難い
未来の提督は、この暴走に止められない事を悟ると最後の賭けに出た。偶然とはいえ父が残した研究資料を元にタイムマシンを完成させた。しかし、その代償は大きかった。製造までに時間稼ぎとして艦娘を出撃させたこと。時雨を過去へ送り込んだ後に、タイムマシンを破壊。時雨を除く全ての艦娘と提督、そして護衛を引き受けた502部隊は全滅した
残された時雨は、元凶や真実を目の当たりにしても諦めず戦う覚悟はしている。どれほどの危険があろうとも、例え未来を変える事が限りなく低い可能性があったとしても、全力を尽くすべく立ち向かう
これから起こる戦いに
艦これSSの中には艦娘が主人公に対して兵器か人間かと問いただす場面があります。私の場合はこのような展開と考えにしました
艦娘は既に人間性を持っていますから、ただの兵器ではないのは確かです。押し問答よりも体験した方がいいと思い、あのようにしました。兵器には感情はありません。感情があるから博士の命令を無視したのです。時雨のやり方を見たら、よくあるオリ主は戦闘経験の差とか覚悟とか言うかも知れません。でも、私はそうではないと思います。軍人も人間ですから、喜怒哀楽はあります
要は艦娘は感情のないロボットではない、と言う事です。戦う以外も色んな事が出来ると思ったりします
後に今話から第8章にする予定です